古城カフェの優雅な時間(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●古城カフェ『スヴニール』
「今日は、ちょっとしたいい話があってな」
A.R.O.A.職員の男が、顔に喜色を浮かべて言う。会議用のテーブルの上には、1冊の雑誌。タブロスに住む者なら本屋やコンビニで嫌でも見かけたことがあるような、有名な情報誌だ。その号の特集は、『バスで○○時間のおすすめプチ旅』。付箋の貼られたページが開かれれば、立派な佇まいの古城や飴細工のクラウンを飾った繊細なチョコレートケーキ、それからパティシエ姿の青年の笑顔が写った写真が目に入った。
「古城カフェ『スヴニール』。お前たちウィンクルムが救った古城が、依頼主だったパティシエの青年の意向通りに、カフェになって生まれ変わったんだよ。立地が良くないからな、開店からしばらくは随分と苦戦していたそうなんだが……」
それが、この雑誌に掲載されたことで風向きが変わったのだという。今や『スヴニール』は、タブロスからバスツアーが出るほどの話題の店なのだとか。ここで出てくるのが、冒頭の『ちょっとしたいい話』である。
「先日、『スヴニール』のパティシエから丁寧な手紙が届いてな。店が軌道に乗り落ち着いた今、遅くなってしまったがウィンクルムの皆様にぜひカフェに遊びに来ていただきたい、と」
ウィンクルムたちがゆったりと時間を過ごせるよう休日にカフェをOPENし、また、タブロスからのバス代は、『スヴニール』が全面的に負担するという。出かける者の負担はカフェでの飲食代だけだ。
「と、いうわけで。古城カフェで過ごす優雅な時間に興味のある者は、ぜひ」
と、男は柔らかく笑み零した。

解説

●古城カフェ『スヴニール』について
エピソード『古城カフェの開店準備』の依頼主・リチェット青年の夢が詰まったカフェです。
小さな村の外れにある豪奢な造りの古城の中で、価値のあるアンティークのテーブルや椅子、とっておきのスイーツ、それからパートナーと過ごすゆったりと流れる優雅な時間がお客様をお待ちしております。
該当エピソードをご参照いただかなくとも古城カフェを楽しんでいただくのに支障はございません。

●メニュー
スヴニールセット(以下からお好きなスイーツ1種+季節のフルーツ+ドリンク)・150ジェール(パートナーと2人で300ジェール)
英雄の王冠
(村名産の薔薇のジャムを用いたオペラ風のチョコレートケーキに金色飴細工のクラウンを飾った一番人気のスイーツ。『英雄』の名には古城を救ってくれたウィンクルムたちへの感謝と敬意の気持ちが込められています)
特製クレームブリュレ
(表面のカラメルをこんがりパリリとさせた、とろりと甘いパティシエ自慢の一品)
ローズティーゼリー
(ローズティーがふわりと香る、甘さ控えめで爽やかな夏季限定スイーツ)
ドリンクはローズティー・ティーソーダ・パインのフレッシュジュースからお選びいただけます。
セットは、大きめスイーツにたっぷりフレッシュフルーツが添えられた豪華なセットになります。

●リチェットについて
一族(ダン家)に伝わる古城をカフェとして蘇らせたパティシエの青年です。
ウィンクルムの皆様の貴重な休息の時間を邪魔しないようにと思っていますので特にご指定なければリザルトにはほとんど(若しくは全く)登場しませんが、挨拶したい・お話したいというような方がいらっしゃいましたらプランにて話を振っていただけますと喜んで応じます。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、気をつけていただければと思います。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

開店した古城カフェをやっとお目にかけることができました!
古城カフェが出来るまでの経緯をご存知の方もご存知でない方も、ゆったりとした時間が流れるカフェデートを、パートナーさんと楽しんでいただけますと幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  リチェットさん、元気そうでよかった
俺たちからはトルコキキョウを
深い語らいが出来る魅力的なカフェにと花言葉を添え

悩んだ末にセットで英雄の王冠とローズティーを注文
幾分落ち着かない相手へ食事後に城内を見せてもらおうと提案
ふふ、アンティークが気になるんでしょう?流石に分かるよ

食べるのが勿体無いなと思いつつスイーツを堪能
何気なく周囲を見回し他の客に目を止める

俺たちが取り戻した場所に、たくさんの人が訪れて
変わらない日常が流れている事が嬉しいんだ
こうやって素直に言葉に出来るのは
きっとラセルタさんに影響されているからかなって
っ!?…とんでもない事をさらっと言わないで(赤面

また食べに来よう、勿論お客さんとしてね


シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
  花束にかすみ草をプラス。ふんわり華やかに

少しお洒落をしてきたけど、お気に入りのパーカーは
綺麗なお城にはちょっと子供っぽかったかな?脱いでも大丈夫にしてきたけどさ

「リチェットさん、開店&繁盛おめでとう!」
挨拶してから、すっかり綺麗になった古城カフェの内装に興味深々の顔
もし良かったら……とカフェの見所を案内して貰う。一番眺めが良い席とかも!
そういえば、あの王冠はどうなったのか聞いてみたい
飾られたりするかな?

オススメの席で英雄の王冠&ジュースのセットを注文
マギのも美味しそうだから、後で分けて貰おう。

それにしても、マギはこういう場所が似合うのは、仕草が落ち着いてるからか?
こっそりその様子を観察してる。



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  アレクサンドルさんの花束にはガーベラを入れさせてもらうぜ。
花色豊富で迷うけど、ラキアと相談して、赤とオレンジ、黄色に決めたぜ。
明るくでいいじゃん。前途洋洋な感じ?
前回の事件の時には参加できなかったけど、無事カフェがオープンできて良かったな!

アンティーク家具や調度品のお店か。
それならスーツ着て行くぜ。
実家の兄が当主で、こういう事には口煩くてさ。
礼儀作法とか人通りは身につけたけど
普段の生活は堅苦しくしなくてもいいじゃん?
気楽な生活の方が性に合うし。
腹の探り合いってメンドクセーよ。

英雄の王冠とローズティを選ぶぜ。
スイーツはラキアと少し交換する。味見させてくれよ。
ラキアは甘いお菓子好きだもんな。



アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
  出発前に花屋に集まり皆で一つの開店祝いの花束を作る
夏らしくて綺麗なグラジオラスを選択
リチェットに見つからないよう気をつける
贈呈はラセルタに任せ皆と一緒に挨拶
開店おめでとう!今日は招待ありがとう


外観も内装もガラっと変わったお洒落なお城にびっくり
嬉しそうにキョロキョロ見学

なあ、クレミー
俺達ここ護ったんだな
夢、叶えて貰えて嬉しいな
やばい。ちょっと泣きそう

チョコケーキとゼリー、どっちにしよう
半分こ?
前は呆れてたのに、いいの? ありがと(照れつつ)
飲み物はパインジュース
冠綺麗だな、食べるの勿体無い
本当に全部美味しいな


帰り際に
リチェットさん、凄く美味しかった!夢叶えてくれてありがとう!
言って即バスへ逃げる



市原 明良(シンディ・フィラメント)
  ・・・みんなで花束。
僕からはシンビジュームの花を送らせてもらうよ。
僕は特に淡い白のシンビジュームは好きだ…。
いや、今日は花じゃなくて喫茶店を楽しまなくちゃな。
開店のお祝いとして僕からの気持ちだ。
スイーツも楽しみにしてるぜ。

・・・あぁ、そうか自分で頼まなくちゃいけないんだったな。
僕はスヴニールセットで英雄の王冠。飲み物はローズティーで。

美味しそうだな…うん、美味しい。
いつも食べてたのよりずっと美味しく感じるぜ。
やっぱ環境ってのも大事だな。
堅苦しい人間とばっか食ってたら味も違って感じる。
・・・一人の時はもっと味気ない。
でも・・こうやってシンディと食べるのは悪くはないな。

ごちそうさま、美味しかったぜ





●貴方の夢に花束を
古城カフェ『スヴニール』にて一行の到着を待っていたリチェットに手渡されたのは、皆の想いを1つに纏めた花束だった。
「ウィンクルム一同からの開店祝いだ、受け取って欲しい」
一行を代表したラセルタ=ブラドッツが礼法に則って花束を贈れば、古城の主は感極まったようで、目の端に涙を溜めて笑み零す。
「ありがとうございます! こんな……こんな嬉しいことはありません!」
久々に会う彼の元気な姿に、羽瀬川 千代は目元を柔らかくした。
「俺たちからはトルコキキョウを」
深い語らいができる魅力的なカフェにと花言葉を添えれば、リチェットは照れたように笑みを深くする。
「無事カフェがオープンできて良かったな!」
スーツをぴしりと着こなしたセイリュー・グラシアは明るい調子で白い歯を零した。溢れる無数の色に迷った彼が相棒のラキア・ジェイドバインと相談しつつ選び出したのは、赤・オレンジ・黄色のガーベラだ。
「花言葉は、赤は『神秘・チャレンジ』、オレンジは『冒険心』、黄色は『究極美』」
お店に合う言葉だと思うとラキアはふわりと笑んで。
「そんな思いを込めて、花を選びました」
「明るくていいだろ? 前途洋洋! って感じでさ」
2人の言葉に、リチェットは幸せ笑顔で頷きを返す。
「僕からはシンビジュームの花を贈らせてもらうよ」
次いで言葉を零すのは市原 明良だ。自分は特に淡い白のシンビジュームが好きだと続けかけて、今日は花ではなくて喫茶店を楽しまなくてはと思い直し、
「開店のお祝いとして僕からの気持ちだ。スイーツも楽しみにしてるぜ」
と改めて祝いの言葉を口にした。そんな明良を、シンディ・フィラメントは優しく見守る。
(うんうん、いい傾向。アキはもっといろんなやつと話さないとな!)
等と、まるで年長の兄弟のように面倒見の良いことを思っているシンディ。
「開店おめでとう! それから、今日は招待ありがとう!」
「あたしからも、本当におめでとう。素敵な店やね」
元気よく祝いと感謝の言葉を告げるのはアレクサンドル・リシャール。低く優しい声で、クレメンス・ヴァイスもたおやかに続ける。このサプライズプレゼントの発起人であるアレクサンドルが花束にと選んだのはグラジオラスだ。夏らしくて綺麗だから、というのがその理由。
そして、花束にふわりとかすみ草を加え、華やかに纏め上げたのはシルヴァ・アルネヴとマギウス・マグスだ。
「リチェットさん、開店&繁盛おめでとう!」
挨拶は済ませながらも、どこかそわそわと落ち着きのないシルヴァ。どうやら、生まれ変わった古城の内装が気になって仕方がないようで。
「今日はお招きありがとうございます」
そんな相棒のことを気にかけつつも、マギウスは礼儀正しく頭を下げる。と。
「あのさ!」
マギウスの挨拶が終わるや否や、シルヴァが再び声を上げた。
「もし良かったら、カフェの見所を案内してもらえないかな? 1番眺めが良い席とかも!」
目を輝かせるシルヴァに、リチェットは笑みを向ける。
「勿論です、是非ご案内させてください! 申し訳ないのですが、1番良い席というのはないのですけれど」
どの席も一等特別なんですと、リチェットは悪戯っぽい表情を浮かべてみせた。

●ずっと一緒の2人だから
「少しお洒落をしてきたけど……綺麗なお城にはちょっと子どもっぽかったかな?」
「心配しなくても、行儀よくさえしていれば大丈夫ですよ」
古城を回り終わり案内された席に着いて。脱いでも大丈夫な服装の上にお気に入りのパーカーを羽織ってきたシルヴァがそのフードを弄りながら問いかければ、マギウスは淡々と応じた。それを受けて、マギがそう言うなら安心だとシルヴァはにっと笑み漏らす。
「リチェットさん、オレたちが取り戻した冠、店に飾ってくれてるんだな」
「ええ、それもとっておきの場所に」
古城を案内してもらっている最中にシルヴァが冠はどうなったのかと問えば、リチェットは笑って、エントランスホールに飾ってあるんですよと答えた。城の中に興味津々だったシルヴァはその存在を見落としてしまったのだが、マギウスは誇らしげに輝く冠に気づいていたらしい。
「マギもさ、気づいてたんなら教えてくれたらいいのに」
シルヴァが口を尖らせたその時、テーブルに注文した品が運ばれてきた。シルヴァの前には『英雄の王冠』とパインジュース、マギウスの前にはローズティーゼリーとティーソーダが並べられる。
「おおっ! 美味しそう!」
一転ぱああと顔を明るくするシルヴァの様子に、マギウスは密か目を細めた。そんな相棒の視線には気づかずに、チョコレートケーキの艶やかな表面にシルヴァはフォークをそっと入れる。一口大になったケーキを口に運べば。
「……ん~~~!!」
上品な甘さに、思わず表情を蕩けさせるシルヴァ。頬を抑え心底から幸せだというふうに笑みを零せば――ふと、自分をじっと見つめているマギウスと視線が合った。
「? 何だよマギ。ケーキに嫉妬してるのか?」
「妙なことを言わないでください」
真顔で切り捨てられ、「冗談なのに……」と零しつつケーキに視線を戻すシルヴァ。ため息ひとつ、マギウスはゼリーを掬い口に運ぶが……その胸中は、何故だか複雑で。マギウスの感情の揺れを感じ取ってか、再び顔を上げたシルヴァは不思議そうな顔。
「……マギも食べたかったのか? ほら、この薔薇ジャムすごく美味しいぞ」
フォークに刺されたケーキを「あーん」と勧められて、マギウスはそれをぱくりとする。「な、美味いだろ」とシルヴァが快活に笑った。
「そうだ、マギのも一口食べさせて! さっきから美味しそうでさ」
「……別に、構いませんよ」
互いのスイーツを交換し合って、2人はゆったりとした時間を過ごす。
(それにしても……マギはこういう場所が似合うのは、仕草が落ち着いてるからか?)
ふと気になり、シルヴァは密か相棒の観察を始めた。ティーソーダで口を休めたマギウスが、何とはなしに口元に手を遣る。
「あ、それ!」
「? 何ですか?」
突然声を上げられて、僅か目を見開くマギウス。
「いや、たまーにやってるよなぁそれって思って。考えごとする時とかに、口元抑えるの」
「そう……ですか?」
どうやら、本人に自覚はないらしい。けれど、マギウスだけが知っていることもある。
「そういえば、シルヴァはよく前髪をかき上げていますよね」
「え? ほんとに?」
言いながら、シルヴァは今まさに自分の手が前髪をくしゃりとしていることに気づき、苦笑した。
「よく知ってるな、マギ」
「長い付き合いですからね」
そう答えたマギウスの声は柔らかかった。

●心に残る想い出を
城の見学を終え、テーブルを挟み向かい合って席に着いたアレクサンドルとクレメンス。アレクサンドルは、未だ興奮冷めやらぬ様子で。
「お城、中も外もすごく綺麗でお洒落になってるな! あんまりガラッと変わってるから、びっくりした!」
「それにしたってきょろきょろしすぎやろ、アレクス。ちぃさい子みたいやったよ」
まあ、嬉しそうで何よりやったけど、とクレメンスは胸の内に付け足した。今はフードを脱いでいるので、その表情の柔らかいのがよくわかる。アレクサンドルは密か口元を緩めた。
「なあ、クレミー。俺たち、ここ護ったんだな」
「うん、せやね」
「……夢、叶えて貰えて嬉しいな」
「そうやね。ほんまに、素敵な店や」
「あー……やばい。ちょっと泣きそう」
そう言って、本当に今にも泣き出しそうな顔で笑うアレクサンドルの真っ直ぐさを、クレメンスは眩しく思う。契約当初こそ神人の言動に呆れ過剰な接触を恥ずかしく思っていたが、そんな自分の心境の変化をクレメンスは感じていた。泣きそうな顔を見せてしまったのが照れくさいのか、アレクサンドルは顔を隠すようにしてメニューに見入っている。
「うー、チョコケーキとゼリー、どっちにしよう……」
「2つで迷うてるなら、半分こにしたらええ」
「え?」
思わずといった感じでアレクサンドルがメニューから顔を上げた。
「半分こ? 前は呆れてたのに、いいの?」
問いに、クレメンスはふわりとほんの小さく笑んで。
「分け合うのも、ええもんやと思うたんよ」
答えれば、アレクサンドルの顔には照れたような笑み。
「……ありがと」
アレクサンドルのこういうところを、『かいらしい』と思うクレメンスである。注文を済ませれば、アレクサンドルはいそいそとクレメンスの隣の席に移動してきて。
「え、席隣きはるん?」
「こっちの方がお皿の交換がしやすいだろ?」
近すぎる距離に、今度はクレメンスが赤面する番だった。やがて運ばれてくるのは『英雄の王冠』とローズティーゼリー。それに、アレクサンドルのパインジュースとクレメンスのローズティー。
「冠綺麗だな……食べるの勿体無い」
「ほな、あたしが先にいただこか」
「あ! クレミーずるいぞ!」
なんて戯れていたら、意図せず互いの指先が触れた。幾らかの照れ臭さは感じたけれど、クレメンスはその指を無理に離したりはしない。その温もりが、心地良いような気がして。ゆるり流れていく、楽しい時間。
「本当に全部美味しいな」
アレクサンドルの言葉と笑顔が、2人で過ごした一時の格別さを物語っていた。

●貴方と一緒に過ごす時間
「アキって花に詳しいんだなぁ」
「別に……」
「かなりぎりぎりまで悩んだけど皆で花束贈れてよかったぜ!」
明良の反応は薄いが、シンディはさして気にすることもなく朗らかに笑みを零す。そして、シンディはメニューからクレームブリュレとパインジュースのセットを選び出すが……明良はメニューを開くこともせずただただ椅子に腰かけたまま。
「……おーい、アキ?」
「何だ?」
「注文忘れてる……」
言われて、明良は僅か目を見開いた。
「……あぁ、そうか自分で頼まなくちゃいけないんだったな」
ようやっとメニューを開く明良の顔を眺めつつ、シンディは思う。
(注文とかしたことないとか、いい家ってのはなんていうか思ったより自由じゃないんだな)
暫く考えた後、明良はメニューから『英雄の王冠』とローズティーを選び出した。注文を終えれば、やがて明良たちの元に運ばれてくるきらきらしいほどのスイーツたち。
「美味しそうだな……」
思わずといったふうの明良の呟きに、シンディの顔が緩む。
「……何が可笑しいんだ」
「いや、可笑しくて笑ってるんじゃないって」
嬉しくってさと付け足せば、明良は何だか腑に落ちないような表情になるも、返す言葉が思いつかなかったようでむっつりと口を噤んだ。そして明良は金の飴細工を崩し、チョコレートケーキを口へと運ぶ。シンディも、ブリュレのカラメルをパリリと割ってそれに続いて。
「……うん、美味しい」
「うわぁ、めっちゃうめぇ……!」
声が重なり、2人は顔を見合わせた。
「……しかしあれだな、いつも食べてたのよりずっと美味しく感じるぜ。やっぱ環境ってのも大事だな」
気恥ずかしいのを誤魔化すように、ふいと視線を逸らした明良が口を滑らかにする。2口目のブリュレを口の中に蕩けさせつつ、シンディは首を傾げた。
「そういうもん?」
「ああ、堅苦しい人間とばっか食ってたら味も違って感じる」
「そっか……」
応えて、シンディは3口目に手を伸ばそうとし――ふと、自分の手元に明良の視線が向けられているのに気づく。
「何だアキ? もしかしてこっちも食べたいのか?」
「……」
無言は、肯定のサインだった。シンディは笑顔でブリュレを自分のスプーンに掬い、明良へと差し出す。
「なんだ、早く言えよな! ほらあーん……」
――バシッ!
「痛ってぇ……! アキ、何で叩くんだよ?!」
結局、ブリュレは明良の皿に取りわけられた。ブリュレを口に運ぶ明良の表情を見やって、今度は明良に見咎められないようシンディは密か笑む。
(アキは気づいてないけど、甘いもん食ってる時スゲー幸せそうな顔してるんだ)
明良のそんな様子を見ているのが、シンディは嬉しくて仕方がない。
「今日、一緒に来れてよかった」
零せば、明良はケーキに視線を遣ったまま、口を開いた。
「さっきの続き。……ひとりの時の食事はもっと味気ないんだ。でも……こうやってシンディと食べるのは悪くはないな」
不器用な、けれどとても嬉しい言葉。
「またここに来て食べればいいって。それに、ここ以外にもいっぱい行こうな、アキ!」
シンディの明るい言葉に、明良はこくりと頷いて、言った。
「……パティシエに、伝えないといけないな」
ごちそうさま、美味しかったぜ、と。帰り際にリチェットへとかけられるその言葉は、柔らかな響きを帯びていた。

●いつもと違う君の姿
「今更だけれど、それにしても」
案内された席に向かい合わせで座ったセイリューとラキア。メニューを真剣に見つめるセイリューのことをじぃっと見つめて、ラキアが口を開いた。
「セイリューのスーツ姿って見たこと無かったから驚いたよ。しかもちゃんと着こなしてるなんて」
緑の目をぱちぱちと瞬かせるラキアに、メニューから顔を上げたセイリューは「そんなに見つめられたら照れるだろー?」とからり笑み零す。
「実家がさ、兄が当主なんだけどこういうことには口うるさくて」
「へええ、実は良家の子息ってことかい?」
「んん? まあそうなる……のかな。一応、礼儀作法とか一通りは教え込まれたって感じ?」
「全く気がつかなかったよ……庶民に馴染みすぎてて」
「ラキア、そんな褒めるなって」
あれ、今のは褒め言葉だったのか? と首を傾げるラキアを余所に、セイリューは窮屈だと言わんばかりにシャツの襟元を弄る。
「なんていうかさ、普段の生活は堅苦しくしなくてもいいじゃん? 気楽な生活の方が性に合うし」
腹の探り合いってメンドクセーよ、と零すセイリューは、らしくなくうんざりしたような顔。そんなセイリューを見て、ラキアは思う。
「……スーツ姿も様になってるけど、やっぱりいつも通りのセイリューが一番だと思うよ」
「え?」
目を丸くするセイリューを見て、ラキアは慌てて両手で口元を抑えた。思ったことが、ふと口からとび出してしまった。耳まで赤くなるラキアに、セイリューはにっと笑いかける。
「ラキアにそう言われると嬉しいな」
「あ、いや、今のは……へ、変な意味じゃないからね?!」
「変な意味ってどんな?」
「う……。あーもう、この話終わりっ!」
からかわれて、ラキアは口を尖らせた。つんとするラキアを何とか宥めて、注文するのはスヴニールセット。やがて『英雄の王冠』とクレームブリュレがテーブルに並ぶ。順にセイリューとラキアの分だ。添えられるのは2人分のローズティー。
「わぁ、美味しそう。それにとっても綺麗だね」
すっかり機嫌を直したラキアが瞳を輝かせる。いかにも美味しそうなチョコレートケーキを前にして、セイリューも相好を崩した。
「それじゃあ」
いただきます、と2人声を揃えれば、楽しいお茶の時間の始まりだ。ラキアが、ティーカップにそっと口をつける。
「……うん、美味しい。お茶はゼリーの物と薔薇の種類を変えてあるとか、工夫していそうな気がするよ」
「そっかぁ。そしたら、ゼリーも食べてみたかったな」
「そうだね。でも、お茶だけでもとても美味しいよ。こっちは少し爽やかな後味にしてあるのかも」
言って、ラキアがブリュレの表面をパリリと割れば、その香ばしい音と中から蕩け出すクリームにセイリューは釘付けになった。
「な、少し交換しようぜ。味見させてくれよ」
「うん、いいよ。俺もセイリューのケーキ、気になってたし」
「ラキアは甘いお菓子好きだもんな」
明るく笑って、セイリューはケーキの上に飾られた金色飴細工の冠をフォークで崩す。お互いのスイーツを分け合って、幸せな時間も分け合って。2人はゆったりと、とびきりの一時を過ごしたのだった。

●素直な気持ちを言葉に乗せて
「俺様は夏季限定のゼリーとローズティーだな」
「えっ、ラセルタさんもう決まったの? 俺は……ええと、どうしようかな。あれもこれも捨て難くって……」
「優柔不断だな。日が暮れてしまうぞ、千代」
メニューを手に大いに悩む千代をからかいながらも、ラセルタの視線と関心はつい店内のアンティークへ。
(このテーブルは中々の物だな。状態もいい。椅子のこの装飾は……)
等と目移りさせているうちに、「よし、決めた!」と千代がメニューを置いた。
「俺は『英雄の王冠』とローズティーで。それから、食べ終わったら城内を見学させてもらおうよ」
提案に、ラセルタは僅か目を瞠る。ふんわりと笑む千代。
「ふふ、アンティークが気になるんでしょう?」
この言葉に、ラセルタは機嫌良く口の端を上げた。千代が自分のことをよく見て理解しているという事実は、満更ではない。千代がくすりとした。
「ラセルタさんったら、さっきからずっとそわそわしてるんだもの。流石にわかるよ」
「俺様はそわそわなどしていないぞ。調子に乗るな、千代」
ついと指先を伸ばし千代の額をぴんと弾けば、額を抑えて千代が笑った。じゃれ合いもそこそこに注文を済ませたら、運ばれてくるのは宝物のようなスイーツだ。
「わあ、食べるのが勿体無いな……」
言いつつも、千代は金色飴細工の冠を崩しチョコレートケーキにフォークを入れる。ラセルタも、質の良いアンティークの食器も楽しみつつ、ローズティーゼリーをそっと掬った。
「わ、美味しい」
「ふむ、中々だな」
2人の口元に笑みが浮かぶ。と、どこからか響いた明るい声に惹かれるようにして、千代は何気なく視線をぐるり巡らせた。目に留まるのは、めいめいに古城カフェでの一時を楽しむ同行者たち。休日開店の今日のような日でなければ、もっと沢山の人々がここで何でもないけれど幸せな時間を過ごすのだろう。じわりと胸に染みる、温かい想い。
「どうした、千代?」
食事の手を止めた千代に、ラセルタが声をかける。そんな相棒へと視線を遣って、千代はにっこりと笑んだ。
「その……俺たちが取り戻した場所に沢山の人が訪れて、変わらない日常が流れていることが嬉しいんだ」
「成る程。愚直な言葉だが、恥ずかしげもなく言うその姿勢は好ましいな」
「ありがとう、でいいのかな。こうやって素直に言葉に出来るのは、きっとラセルタさんに影響されているからかなって」
千代がふんわりとそう想いを零せば、ラセルタは満足げに目を細めて。
「ならば今後とも影響されるがいい。全て俺様好みに変えていってやろう」
「っ!? ……と、とんでもないことをさらっと言わないで」
真っ赤になる千代を見て、ますます上機嫌にラセルタはくつくつと笑み零した。自分を落ち着かせるように、千代はふうと息をつく。そして、再び口を開いた。
「ラセルタさん。また、ここに食べにこようね」
勿論お客さんとしてと付け足した千代に、ラセルタは口の端を上げてみせる。
「ああ、付き合ってやってもいい。秋季、冬季限定スイーツも楽しみだ」
季節が巡っても、また共に。約束を交わし、2人は視線を交わして表情を柔らかくした。

●『想い出』のカフェ
古城カフェでの時間をそれぞれに楽しんで、もうじきバスの出る時間だ。一行の見送りに出てきていたリチェットに、アレクサンドルは声をかける。
「リチェットさん、凄く美味しかった! 夢叶えてくれてありがとう!」
早口でそれだけ言って、リチェットが応じる間もなくアレクサンドルはバスへと走っていってしまう。
「自分たちが誰かの役に立てたって実感できて、泣きたい程嬉しいんやて」
取り残されたリチェットに、クレメンスが説明する。
「そういえば店の名前、どういう意味でつけたんやろか?」
ふと問えば、リチェットはにっこりとしてこう答えた。
「想い出、という意味なんです。ここを訪れてくださったお客様に沢山の幸せな想い出を作ってもらいたくて。今日は本当に、ありがとうございました」
温かな答えに、知らずクレメンスの口元に緩く笑みが浮かぶ。
「あたしからも、おおきに。ほんま、色んな意味で『心に残る想い出』や」



依頼結果:大成功
MVP
名前:アレクサンドル・リシャール
呼び名:アレクス
  名前:クレメンス・ヴァイス
呼び名:クレミー

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月15日
出発日 07月26日 00:00
予定納品日 08月05日

参加者

会議室

  • >市原・セイリュー

    花束参加、ありがとう。
    勿論、ぜひ一緒していってくれ。

    流石に俺の方でプランに書く隙間はないから、
    花束に加える花は、それぞれでプランに書いてくれるとありがたい。

    楽しいひと時になるといいな。

  • セイリュー・グラシアだ。今回もヨロシク。
    遅ればせながら花束に参加させてもらえると嬉しいぜ。
    ガーベラの赤とオレンジ・黄色を加えてもいいかな?

    楽しいひと時が過ごせるといいな!

  • [8]市原 明良

    2014/07/24-19:15 

    はじめまして、市原明良だ。
    遅くなったが…花束の方参加させてくれないだろうか?
    開店祝いとして行くからには礼儀として送りたいなと…おもったんだが。

    夏の花か…今出てる花に足すならシンビジュームなんかがいいかもしれないな。
    僕からのささやかな気持ちだけど…その花も加えてくれると嬉しい。

  • 羽瀬川は久しぶり!
    2人ともありがとう、おかげで花束がぐっと素敵な感じだ。

    ドレスコードも大丈夫そうだから、俺も普通に出かけよう。
    お城!っていうだけで、かなりドキドキしてるけどな。

    花束贈呈係、ありがたくラセルタに任せるよ。
    花束が似合う男って感じだよなー。おしゃれだ。

    いやまあ、発案者は目立つものじゃないって事でご容赦を、ってな。

  • [6]羽瀬川 千代

    2014/07/24-02:08 

    こんばんは、ご挨拶が遅くなってしまいました。
    羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです、宜しくお願いします。

    特に指定は無いから、ドレスコードは自由なんじゃないかな?
    俺たちは普段通りの格好での参加になると思います。

    開店祝いの花束、素敵ですね。俺たちからも一緒に贈らせて下さい。
    あまりお花は詳しくないのだけれど…トルコキキョウ、を。
    ちなみに花束を渡す立候補が居なければ引き受けてもいいが、とラセルタさんが言っています。
    俺は発案者のアレクサンドルさんが渡すのが一番良いんじゃないかなぁと思っている、よ(ちら)

  • [5]シルヴァ・アルネヴ

    2014/07/22-23:30 

    なるほどなー。

    じゃあ、オレはカスミソウとか入れようか?
    花束がふわっと華やかになるしな。
    他にどんな花がいいかなー。

  • >シルヴァ

    レスありがとう。またよろしくな。
    判りにくくてごめん、それぞれが選んだ花を纏めて、一つの花束にしたいと思ってるんだ。
    俺のお小遣いじゃ、グラジオラス数本とか、寂しい事になりそうなんだよ。
    渡すのは却下ー。
    面白がられても困っちゃうんだけどー。
    あ、ポテチありがとう(袋からひょい)

  • [3]シルヴァ・アルネヴ

    2014/07/22-21:05 

    そういえば、あのお城がある辺りの村って
    薔薇が名産品だったんだな。
    ローズティーに薔薇ジャムかー……どんな味がするんだろ?

    チョコレートケーキは絶対食べるとして、期間限定のジュレも
    美味そうなんだよなぁ。リチェットさんのクレームブリュレも最高だったし
    な や む な これは!

  • [2]シルヴァ・アルネヴ

    2014/07/22-20:58 

    出発まで時間あるなってぼやーっとしてたら
    メンバー揃ったみたいだな!(本部のソファでポテチをパリパリ)

    シルヴァ・アルネヴと精霊のマギだ。
    初めましての人も、久しぶりの人もよろしくなー。

    ドレスコードか……本物のお城でやってるカフェだもんなー
    でも、わざわざ貸切にしてくれて、ゆったりカフェデートって事は
    あんまり堅苦しく考えなくてもいいのかな?

    >アレックス
    夏の花って言ったら、ヒマワリかタチアオイしか思いつかなかった……。
    花を持って行くかはちょっと迷い中だけど、リチェットさんには挨拶したいから
    オレも一緒に行って良いか?
    あのお城がどんな改装されたか、見学もしたいんだよなー。

    花束を渡すのはアレックスでも良いと思うんだけど(発案者だし)
    さらっと渡されるより、照れてるのをみるのも、面白いと思うしさ。
    まだ時間あるし、ポテチでも食べながら相談しよう。(袋さし出し)

  • アレックスだ、よろしくな。
    どれも美味しそうで、迷うな。
    ドレスコードはない事を期待!

    所で、開店祝いとお招きのお礼を兼ねて、花束を持って行こうと思ってるんだ。
    付き合ってもいいよって人は、プランに何の花をどういう意味で渡すのかとか、
    リチェットにかける言葉を書いてくれるとありがたいな。
    ちなみに俺は、グラジオラスにしようと思ってる。夏の花!って感じで派手で綺麗だろう?

    文字数とらせても申し訳ないから、
    『出発前に花屋に集まって購入』
    『リチェットがバスの運転手かもしれないから、見つからないように気を付ける』
    『花束を渡すのは俺以外』
    以上は、こっちのプランに書かせてもらうな。
    最後のはまあ、俺こういうの照れくさくてあまり得意じゃないんだよな。
    さらっとスマートに渡せる奴に頼むよ。

    勿論強制じゃないし、独自に花束や、他の物をプレゼントしても全然問題ないから気にしないでくれ。


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