【夏の思い出】彼方への灯り(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 特別に目立つところもないありふれた田舎町。特徴と言えば町の中心に横たわるパシオン・シーへと続く川ぐらい。
 けれど、一年に一度だけ注目を集める。
 夏の入り口に行われる町をあげての『燈籠祭』。
 それゆえにその町は、燈籠の町と呼ばれる。

「今年はですねぇ、実行委員の若い人達が頑張ったみたいで、ほら、貸衣装も用意してるらしいですよ」
 A.R.O.A.の職員が資料を配りながら説明をする。
 貸し出される衣装は各地の民族衣装。サービスでヘアメイクもしてくれるようだ。
「燈籠祭の事はご存知ですか? って、すみません、ご存知でも説明しなきゃいけないんでした」
 あはは、と笑う職員はほのかに興奮しているようで、頬を紅潮させ目を輝かせていた。
「町中が色々な燈籠と提灯で飾られてムードは抜群! 色々な飲食店がテラスを作ったり開放するから、何処かでお茶を飲みながら綺麗な風景を見るのもいいですよ! でもやっぱり燈籠祭に行ったからには……!」
 職員がバッとポスターを広げる。
「メインイベント! 燈籠流しと天燈送り!!」
 そこには幻想的な光景が広がっていた。
 川の水面を流れる、花の形をした暖かな橙の光の燈籠。
 そして、星空へと上がっていく、小さな熱気球の橙の光の天燈。
 どちらも川を、空を埋め尽くさんばかりに沢山だ。
「綺麗ですよねぇ」
 言って、ほぅ、と息をつく職員。どうやら自分が行きたいようだ。
「燈籠流しの方は死者の魂を弔うっていうのが元々だったんですけど、今ではそれに加えて、遠くにいて逢えない人への想いを乗せて、っていうのもあるみたいですよ。天燈送りは願い事を天燈に書いて、もしくは未来の自分への言伝を書いて飛ばすみたいです」
 大まかな説明が終わると、職員はポスターを告知版に貼り、説明を聞いていたウィンクルム達ににこりと微笑む。
「どうでしょう? 燈籠の町の年に一度の行事、ウィンクルムの仲を深めながら堪能してきては?」

解説

貸衣装は着たい方だけどうぞ
プランとしては
・カフェでお茶
・燈籠流し
・天燈送り
この三つの組み合わせになります
一つだけでも二つ選んでも三つ全部でも構いません

●貸衣装
日本、台湾、中国、タイ、ポーランドの民族衣装に酷似したものが男女とも用意されてます。
プランに日・台・中・タ・ポのどれか一文字を記入してください。
衣装の色や模様、ヘアメイクの詳細、ご希望があれば記入をお願いします。
特に無い場合はこちらで似合いそうなものを決めさせていただきます。
ヘアメイク込みで一律 200Jr

●カフェでお茶
カフェのメニュー
・水饅頭三個 30Jr
・雪花氷マンゴー乗せ 40Jr
・桃饅頭二個 30Jr
・クルアイブアッチー(バナナのココナッツミルク煮) 40Jr
・セルニック(チーズケーキパイ) 45Jr
・抹茶 20Jr
・烏龍茶 20Jr
・紅茶 20Jr
・珈琲 20Jr
・タピオカミルク 25Jr

●燈籠流し
燈籠 一つ30Jr
死者の魂を弔いながら、もしくは遠く離れて会えない方への想いを乗せながら流して下さい

●天燈送り
天燈 一つ30Jr
願い事を書いて、もしくは未来の自分への言伝を書いてから飛ばしてください


ゲームマスターより

観光客が沢山いるみたいなので、逸れないように。
誰を、何を思うのかは自由。
けれど、隣の人を忘れず、幻想的な光景を楽しんで下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  とっても綺麗なお祭りなんですって
一緒に行きましょう?

行かない?ではなく行こうと誘う

日 髪お任せ
浅葱色に燕や朝顔の柄
彼の装いに目を丸くし とっても素敵と笑顔

灯篭流し
真剣な顔で祈りを
父親に?の問いに小さく頭を振って

父さんと、貴方の大事な人へ、よ

青と碧の瞳を 真っ直ぐに彼に向ける

シリウスのプライベートだもの、聞かせてなんて言わない
でも、一緒に祈るくらい良いでしょう?

貴方の大事な人なら 私にも大事な人だもの
だからどうしても来たかったのと真剣な顔

面食らったような 翠の眼を見つめる
返事には 光が零れるような笑顔

川と空の輝きを 寄り添って見る

彼に会わせてくれてありがとう
光と共に これからも見守っていて



シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  『燈籠祭』のポスターを見せてもらったのですがとっても素敵ですね!
なんだかノグリエさんには素敵なところに連れて行ってもらってばっかりですね…でもそのうちオーガと戦ったり誰かの役に立つお仕事もしなきゃですね!

衣装も素敵で。ノグリエさんとっても似合ってます。なんだか普段と雰囲気が違うからドキドキしちゃいます。

雪花氷マンゴー乗せ!美味しそうです。ノグリエさん半分こしましょう?ふふ、一緒のものを食べるのはちょっと照れちゃいますね。そう思ってるのは私だけでしょうか?

燈籠流しは死者を弔いもの・・・すべての亡くなった方への祈りをのせて流しましょう。よかったら私の両親のところにもこの灯りが届くといいな。


アマリリス(ヴェルナー)
  素敵なお祭りですのね
まるで別の世界に迷い込んでしまったみたい…

人が多いのではぐれないように気をつけて行きましょう
ここで手を繋ぐではない発想がでるあたりがヴェルナーらしいですわ
まあもとより期待はしておりませんでしたからいいのですけど…

わたくし達は燈籠流しにしましょう
亡くなった方が安らかな眠りに付く事ができるよう祈ります

綺麗…
この全てに皆様の想いが篭っているのですよね
たとえ遠く離れてしまっても消えない絆、わたくし達も育めればいいのですけれど
とは言いましたが今更離れるなんて許しませんわ

…そんな事を言うから不安になるのですわ
もっと自分の事を大事にしてくださいませ
信じていますからね、必ずですよ


エメリ(イヴァン)
  わあ、素敵な町!
今日は目一杯楽しもうね

まずはカフェだね
お腹がすいたのは間違ってないけど腹が減っては戦はできぬっていうでしょ?

よし、それじゃあ桃饅頭と抹茶にしよう
イヴァンくんはそれだけでいいの?
遠慮しなくてもいいのに
あ、じゃあお饅頭1個あげる
美味しいよ

食べ終わったら天燈送りにしよう
自分へのメッセージは「イヴァンくんと仲良くね」
縁あってウィンクルムになったんだし、やっぱり仲良くしたいな

イヴァンくんとはまだ会ったばっかりだから知らない事のが多いよね
厳しいけどちゃんと優しい所もあるのは知ってる
未来の私はもっとイヴァンくんと仲良くなれて他の一面も見れてるといいな
うん、そうなってるように今から頑張ろうっと


■消えない灯り
 太陽が大地へと飲み込まれれば、その町には人の手で光が燈される。
 燈籠の町、年に一度の燈籠祭り。
 町中を飾る燈籠に提灯。昼間の明るさとは違う、夜を忘れさせない柔らかな明るさ。そこはまるで。
「素敵なお祭りですのね。まるで別の世界に迷い込んでしまったみたい……」
 ほぅ、と『アマリリス』が息を漏らす。橙を基調とした灯りは、様々な形の提灯と燈籠で少しずつその明るさと色を変えて町を彩っている。この風景を見ただけでも来たかいがあるだろう。
「そうですね、素敵な祭り、かと」
 アマリリスに付き添っている『ヴェルナー』が答える。アマリリスはその返答を聞き、それから? その次は? と続きを期待してヴェルナーを見るが、ヴェルナーは困った顔になるだけだった。
「……気の利いた事を言えなくて申し訳ありません」
 期待に応えられなかった事はわかったヴェルナーが言うと、アマリリスが苦笑して「謝る事じゃありませんわ」と言った。
 そこでいったん冷静になり、改めて周囲を見て観光客の多さに驚く。
「人が多いのではぐれないように気をつけて行きましょう」
「確かに土地勘のない場所ではぐれるのは危険ですね。はぐれそうになったら私の服を掴んで構いませんので。例えはぐれてしまっても必ず見つけ出しますのでご安心ください」
 キリッとした顔でヴェルナーは言う。少しでもアマリリスの不安と緊張を消す為に。
 それに対してアマリリスは笑顔で沈黙してわざとらしく首を捻った。
 しかし、ヴェルナーにはそれが何を意味しているのか伝わらない。
 よって、アマリリスは溜息を一つついて歩き出すのだ。
「……ここで手を繋ぐではない発想がでるあたりがヴェルナーらしいですわ。まあもとより期待はしておりませんでしたからいいのですけど……」
 小さな声で、ヴェルナーには聞こえないように、聞こえても構わない気分で呟きながら。

 燈籠祭りのメインイベントの一つ、燈籠流し。
 お互い一つずつ流してみようと、二人は川辺へと向かった。
 アマリリスが一つ、桃色の薄紙で作られた燈籠を浮かべる。
 ヴェルナ―が一つ、水色の薄紙で作られた燈籠を浮かべる。
 そして二人は祈る。亡くなった方が安らかな眠りに付く事が出来るよう。
「綺麗……」
「……綺麗ですね」
 祈りが終わり目を開けば、水面に揺れ流れていく数え切れないほどの灯り。水面にうつるものも合わせれば、光で埋め尽くされていると言ってもいい。
「この全てに皆様の想いが篭っているのですよね」
「亡くなった方もどこかからこの光景を見ているのでしょうか」
 想われた者は幸せだ。ヴェルナーはそう思う。少し、羨ましいと。
 自分も死後にこうして想いを届けてもらえるのか、この素晴らしい人に。
「たとえ遠く離れてしまっても消えない絆、わたくし達も育めればいいのですけれど……」
 育みたい。きっと育める。ヴェルナーはそう思う。アマリリスと一緒なら、きっと。
「とは言いましたが今更離れるなんて許しませんわ」
 唐突に、アマリリスがヴェルナーを振り返って明るく笑った。
「? 勿論です。この命ある限りお仕えさせて頂く所存です」
 常日頃思っている事を言えば、呆れたような溜息。
「……そんな事を言うから不安になるのですわ」
 離れないで。
 側にいて。死なないで。ずっと、ずっと一緒に。
「もっと自分の事を大事にしてくださいませ。信じていますからね、必ずですよ」
 少し怒り気味に言うアマリリスを不思議に思いながら、ヴェルナーは素直に言う。
「確約はできませんが……努力はします」
 まだこの灯りに加わるわけにはいかない。
 やはり呆れたように微笑むアマリリスに、ヴェルナーは改めて守っていこうと強く心に刻んだ。


■希望の灯り
「わあ、素敵な町! 今日は目一杯楽しもうね」
「あまり人の多いところは好きではないんですが、今更言っても仕方ありません。はぐれないようにして下さいね」
 夕闇の燈籠と提灯の灯りで飾られた町で『エメリ』と『イヴァン』は会話を交わす。
「まずはカフェだね。お腹がすいたのは間違ってないけど腹が減っては戦はできぬっていうでしょ?」
「本当に食べる事が好きですね。その体のどこにいつもあの大量の食べ物が入るのか不思議でなりません」
 何で太らないんだろう。疑問と溜息を混ぜてイヴァンが言うが、エメリはまるで聞いていない。既にカフェへと真っ直ぐに進んでいた。
 振り返って「早く!」と笑顔で呼ぶエメリに、イヴァンはもう一度溜息をついてから歩き出した。

 暫くメニューとにらめっこしていたエメリは、ようやく決めた! と顔を上げた。
「よし、それじゃあ桃饅頭と抹茶にしよう」
「僕は珈琲でお願いします」
 近くにいた店員を捕まえて手早く注文すると、エメリは少しだけ不満そうな、それでいて心配そうに顔を曇らせた。
「イヴァンくんはそれだけでいいの?」
 美味しそうなものは沢山あるのに、と自分ならば考えられないエメリは訊ねるが、イヴァンは特に気にした様子もない。
「特に空腹でもないので」
「遠慮しなくてもいいのに」
「遠慮している訳ではないんですが……」
「あ、じゃあお饅頭1個あげる。美味しいよ」
 何だろう、この絶妙な噛み合わなさは。会話は成立しているのに、肝心なところで意思の疎通が取れていない気がする。
 イヴァンは色々と諦めて会話を終わらせた。
 それでもエメリは運ばれてきた桃饅頭の一つを笑顔で差し出す。
 受け取るつもりは無かった。本当に空腹ではないし食べたいとも思っていなかったのだ。
 それなのに。
「はい、どうぞ!」
 イヴァンは気が付けば「ありがとうございます」と言いながら受け取っていた。
(あの笑顔には何か魔法でも掛かってるんでしょうか。つい頷いてしまう有無を言わせない力がある気がします)
 それがどういう力なのかは検討もつかない。
 笑顔の持ち主は幸せそうに桃饅頭を食べながら、外の燈籠飾りを眺めている。
「……美味しいです」
 気付かれないように小さく呟いたつもりだったが、エメリは振り向いて「そうでしょう」と言いにっこりと笑った。

 二人の今日のメインイベントは天燈送りだった。
 やる気に溢れているエメリとは対照的にイヴァンは冷めていて、天燈送り会場に着いて早々参加を辞退した。
「見ているだけでいいです。未来の自分に伝えたい事もありませんから」
 辞退理由も冷めていて、流石のエメリも苦笑した。
「……生きているかも分かりませんし」
 エメリが天燈にメッセージを書いている間、イヴァンはもう一つ辞退理由を呟いた。反応の無いエメリに、聞かれていなかったのだと判断する。
 けれど、エメリはちゃんと聞いていた。
 エメリが書いたのは自分へのメッセージ。
『イヴァンくんと仲良くね』
 縁あってウィンクルムになったのだ、やっぱり仲良くなりたい。それがエメリの隠す事無い本音だった。
(イヴァンくんとはまだ会ったばっかりだから知らない事のが多いよね。厳しいけどちゃんと優しい所もあるのは知ってる)
 そして今、イヴァンと一緒にいる時間を重ねる度に増えていくのは、明確な願望。
 もっと知りたい。
 彼を、もっともっと知りたい。
「未来の私はもっとイヴァンくんと仲良くなれて他の一面も見れてるといいな。うん、そうなってるように今から頑張ろうっと」
「……別に頑張る事でもないですし、既に裏目に出ている事が多々ありますが。でも長い付き合いにはなるでしょうしね」
 そこまで言って、イヴァンは両親の事が頭に浮かぶ。
 ウィンクルムだった両親。長い付き合いになる筈だった二人。母の死により別たれた二人。
 例えばこの目の前の神人と深い仲になったとしても。
 いつか失うのなら。
 ふふ、とくすぐったそうな笑い声が聞こえて、思考が途切れる。
「うん、長い付き合いにしようね」
 空へ昇る沢山の希望の灯りを背に、目の前でエメリが笑う。
 長い付き合いにしよう。未来もきっと、二人生きて笑っていよう。
「……僕も善処は、します」
 イヴァンには今はまだ、長い付き合いにしたいとも仲良くしたいとも強く望めない。
「あくまで善処ですが」
 ただ、少しでも長くその笑顔が続けばいいとは思った。


■秘匿の灯り
 燈籠の町まであと少し。『シャルル・アンデルセン』は待ちきれないというように『ノグリエ・オルト』に話しかけていた。
「『燈籠祭』のポスターを見せてもらったのですがとっても素敵ですね! なんだかノグリエさんには素敵なところに連れて行ってもらってばっかりですね……」
「シャルルと一緒に出掛けるのはボクの楽しみでもあるんですよ。だからボクのわがままにこれからも付き合ってください」
 二人で行きたい所も二人でやりたい事も沢山ある。ノグリエが次の約束も今のうちにしてしまおうかと考えた時。
「でもそのうちオーガと戦ったり、誰かの役に立つお仕事もしなきゃですね!」
 と、シャルルの元気にやる気の溢れる声が響いた。
 ノグリエが思わず苦笑した時には、光溢れる町は目の前だった。

「ボクの趣味でこの衣装を選んでみましたが。うんやっぱりよく似合ってる。ボクの思った通りです」
 ノグリエは満足気に着飾ったシャルルを見ている。
 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにくるりと回ったシャルルは白いシルクに青い小花の刺繍をあしらったチャイナドレスを身に纏っていた。
 裾の縁取りは藤色。丈は膝上までの短いもので、スリットもさほど深くない。可愛らしさを前面に押し出したもので、シャルルにとても似合っていた。
 ただ、いつもしている羽飾りのすぐ下にしゃらりと揺れる青いビーズ飾り、青紫のラメのアイメイク、それが可愛らしさに加え仄かな色っぽさを醸しだしていた。
 少女から女性へと変わる時期特有の、可愛らしさと美しさの危ういバランス。
 ノグリエは見立てた自分を褒めたくなるのと同時に、誰にも見せたくない独占欲が湧き出てくるのを自覚した。
「ノグリエさんとっても似合ってます」
 そんな事を思われているとは知らないシャルルが笑顔でノグリエを褒める。
 ノグリエもまたチャイナ服を着ていた。
 深緑地に鈍色の縁取りと装飾釦。深褐色のズボン。白を基調としたシャルルとは対照的に、暗く落ち着いた色で統一されていた。
「ボクも似合ってますか? でもシャルルの方が素敵だよ」
 褒められた事は嬉しいが、心の底からの本音を伝えれば、シャルルは「じゃあ二人とも素敵ってことで!」と楽しそうに笑って、近くのカフェへ走り出す。
(なんだか普段と雰囲気が違うからドキドキしちゃいます)
 普段と似ているようでまるで違う衣装。知ってる筈のノグリエが知らない男の人のようで、少し緊張したのは秘密だ。

「雪花氷マンゴー乗せ!美味しそうです」
「氷菓ですか……暑いですからね……うん、涼しくなるし、いいかもしれませんね」
 辿り着いたカフェのメニューにシャルルは釘付けになる。けれど、そこに載っている写真は一人で食べるには大分大きいようだった。
「ノグリエさん半分こしましょう?」
 覗き込むような申し出に、ノグリエは笑みを深くして「いいですよ」と答える。
「ふふ、一緒のものを食べるのはちょっと照れちゃいますね」
 運ばれてきたのはやはり一人では残してしまいそうなほど大きくて。スプーンでとろりとしたマンゴーを一掬いしながら言うと、ノグリエは悪戯っぽく笑ってシャルルの物言いを真似る。
「ふふ、一つのモノを食べるなんて嬉しいですね」
 そう言って、雪花氷にサクリ、スプーンを差し込む。
 シャルルは掬ったマンゴーを口に入れてその冷たさと溶ける甘さを味わう。
 嬉しい、よりも、やっぱり照れてしまう。
(そう思ってるのは私だけでしょうか?)
 いつもと違う装いで、一つのものを分け合う行為、それによる緊張と照れ。今のシャルルにはそれを楽しむだけの余裕がまだ無く、頬を熱くさせるだけだった。

 燈籠流しは死者を弔うもの。
 川を流れるこの沢山の橙の灯りは、すべて人の祈りの形だ。
「……すべての亡くなった方への祈りをのせて流しましょう。よかったら私の両親のところにも、この灯りが届くといいな」
 シャルルは鳥の模様が描かれた紙燈籠を川面に浮かべ、目を瞑り静かに祈った。
 祈る少女の傍らで、ノグリエは逆に鋭い目を開いてその光景を見つめる。
 光を流し死者へ祈りを捧げる、それがシャルルに似合っていると思う反面、自分以外へ思いを向けているというのが少し妬ける。大人気ないと言われようとも、そう思ってしまうものは仕方がない。その思いの先にいるのが両親であっても、この感情は出てきてしまう。
 此処にいない、シャルルの両親。
 その両親へ祈りを捧げるシャルル。
 髪に飾られた羽根飾りが、遠くへ流れている鳥の紙燈籠が、まるで何かを暗示しているようで、ノグリエは少し怖くなった。
 シャルル、祈りをやめてボクを見てくれ。キミも遠くに行ってしまいそうで怖いんだ。
 流れ行く幾つもの温かな光はノグリエを慰めない。
 慰めるのはきっと、今はまだ閉じられている、蜂蜜のように甘く光る金の瞳。


■添い輝く灯り
「とっても綺麗なお祭りなんですって。一緒に行きましょう?」
 それは『リチェルカーレ』の普段の誘い方とは違っていた。
 屈託の無い少女だが、いつもはもっと相手の都合を考え、予定を聞いて選択の余地を大分残す誘い方をする。
 そんな常とは違う少女の誘いに『シリウス』は、珍しいな、と首を傾げるが、それでも特に用事はなかったので「構わない」と答えた。
「よかった」
 安心したように笑顔を弾けさせるリチェルカーレに、シリウスは気付かれぬよう目を和ませた。

 まるで別世界のような光溢れる町。二人も異国の民族衣装に身を包み、別世界の住人になったようだった。
 二人が着ているのは浴衣だった。
 リチェルカーレは浅葱色の生地に白抜きの朝顔と燕が幾つも踊る柄。それぞれの朝顔の中心だけ、紫と桃色でほんのり染められている。
 帯は黄色味の強い象牙色。紅の帯締めにリチェルカーレの目のような、青にも碧にも見える濃いガラスの帯止めが飾られていた。
 緩く波打つ銀青色の長い髪は、右耳のすぐ後ろ辺りに一つの団子で纏められ、赤いガラス細工の簪がさしてある。ほろりと一房零れる左横の髪が風に揺れる。
 化粧は軽く白粉を叩いて、あとは少しだけ赤いグロス。
 いつもよりも大人っぽい装いだった。
 シリウスは対照的に模様も一切無い、黒一色の浴衣だ。帯だけはリチェルカーレと似ていて、白味の強い象牙。
 飾り気の無い装いは普段に近いのに、見慣れない浴衣というだけで凛とした印象を強く与えた。
 お互い、出来上がった相手を見てしばし驚き、けれどリチェルカーレがすぐに笑顔になって言った。
「とっても素敵」
 さぁ行きましょう、と燈籠流しの川辺へ歩き出すリチェルカーレ。
 似合っている、という言葉を言う前に動き出されてしまい、シリウスは揺れる後れ毛と袖を目で追いながら「迷子になるなよ」とだけ告げた。

 手漉きの紙で作られた燈籠の優しい灯りを、リチェルカーレはそっと暗く光る水面へ浮かべて流す。
 そして、祈る。真剣な顔で祈りを捧げる。
「親父さんにか?」
 自分は参加せずに見ていたシリウスが、そのあまりの真剣さに問うと、小さく頭を振って否定した。
 そして答える。
「父さんと、貴方の大事な人へ、よ」
 青と碧の瞳が、真っ直ぐにシリウスを捉える。
 捉えられたシリウスは、思ってもみなかった答えに返す言葉を失う。
「シリウスのプライベートだもの、聞かせてなんて言わない。でも、一緒に祈るくらい良いでしょう? ……貴方の大事な人なら、私にも大事な人だもの。だからどうしても、来たかったの」
 普段のふわりとした笑顔と雰囲気とは違う真剣な顔に、シリウスは戸惑うばかりだった。
 故郷に起こった事、家族の事。喪失と絶望の過去など、話した事は無い筈なのに。
 リチェルカーレは、面食らったように見開かれた翠の眼をしばし見つめ、そして労わるように静かに微笑んでからそっと視線を外して水面の灯りを見つめ始めた。
 シリウスにとって、未だ他人に話すには生々すぎる記憶。触れたくも触れられたくもない過去。
 それを、探ろうともせず、ただ祈りたいと言ったリチェルカーレ。
 自分のパートナーである少女のその気持ちが嬉しくて。
 手を握ろうと伸ばしかけ、寸前で止める。妹のように思っている少女にする行為じゃないだろうと思い。そう意識する時点で妹のようには思えていないという事なのだけれど、今はまだそのままにしておく。
 ただ、どうしても伝えたくて、その隣に立ち「リチェ」と呼ぶ。
「ありがとう」
 ポツリと落とされたシリウスの言葉に、リチェルカーレは花がほころぶ様に微笑んだ。その笑顔に、シリウスも小さく微笑む。
 灯りに包まれ、二人、笑顔で見詰め合う。
(……彼に会わせてくれてありがとう。光と共に、これからも見守っていて)
 リチェルカーレは幾つもの光に感謝と祈りを込める。
 二人はその後、川に流れる輝きと空に昇る輝きをずっと見ていた。
 同じものを見ていた。
 寄り添う二人の手の距離は、ほんの僅か。
 幾つもの灯りに照らされた二人の影は、柔らかく重なっている。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 07月10日
出発日 07月16日 00:00
予定納品日 07月26日

参加者

会議室

  • [3]エメリ

    2014/07/14-01:31 

    初めまして、エメリです。よろしくね。
    パートナーはポブルスのイヴァンくんです。
    美味しそうなものが一杯で素敵…。
    …はっ、メインは燈籠流しと天燈送りでしたね。
    食べるのに夢中になって忘れないようにしなくちゃ。

  • [2]アマリリス

    2014/07/13-21:24 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    パートナーはポブルスのヴェルナーですわ。
    よろしくお願いいたします。

    燈籠祭ですか、素敵な催しですわね。
    やれる事もたくさんあるようですし何をしようか迷ってしまいます。
    ふふ、当日が今から楽しみですわ。

  • [1]リチェルカーレ

    2014/07/13-20:38 

    折角ですので、ご挨拶させていただきますね。
    リチェルカーレと言います。パートナーはマキナのシリウスです。
    とっても綺麗なお祭りときいたので楽しみ!
    ご一緒する皆様はよろしくお願いします。
    すてきな夜になりますように。


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