プロローグ
夏ですねぇ。
こう暑いと、ぐいっと一杯いきたくなりませんか?
そこで!
我がミラクル・トラベル・カンパニーは会社のビル屋上をビアガーデンとして開放することにいたしました。
開放時間は午前11時から午後11時まで。
午後8時からは45分間の打ち上げ花火も鑑賞できます。
昼間は日除けのパラソルをお席にご用意しております。夜は屋上で栽培されている観葉植物が、色とりどりのイルミネーションでライトアップされます。
料金は、3時間の飲み食べ放題でお一人様200ジェール。
オプションで、浴衣の貸し出しもいたします。もちろん着付けもいたします。
こちらはお一人様80ジェールとなります。
メニューは以下のとおり。
生ビール中ジョッキ、各種サワー、各種カクテル。
そしておすすめのオリジナルビア。
こちらは色付きのビールで、下から上にかけてピンクから青のグラデーションになっております。見た目もロマンチックで、味も通常のビールより甘めなので、女性に人気です。
お酒が苦手なかた、未成年のかたのために、ソフトドリンクも各種取り揃えております。
食べ物は、焼きそば、おにぎり、焼き鳥、枝豆、チーズ盛り合わせをご用意しております。
昼間から太陽の下で賑やかに楽しむのも良いですし、夜に花火を見ながらしっとりと楽しむのも良いでしょう。
皆様のご来場をお待ちしております。
解説
ビアガーデン料金は1人200ジェールですので、精霊との参加で400ジェールになります。
浴衣についても、1人80ジェール、2人で160ジェールです。
ただし、浴衣の着用については自由です。
神人のみ着用、精霊のみ着用、2人とも着用しないなど、自由に選択してください。
なお、ビアガーデンへの飲食物の持ち込み、また、ビアガーデンでの飲食物を持ち出すことはしないでください。
ゲームマスターより
屋外での飲食は開放的な気分になりますね。
浴衣でいつもと違う雰囲気になってみても楽しいのではないでしょうか。
素敵な夏の思い出、作ってくださいね。
どんな柄の浴衣を着たい(着せたい)か、お互いの浴衣姿を見た時の反応、精霊とどんな風に過ごすか、どんな会話をしたいか、その時のあなたの気持ちなどをプランに書いていただけると嬉しいです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リゼット(アンリ)
夜の花火が見られる時間帯に出かけましょう 私は紺地に百合柄の入った浴衣でアンリは…なんなのその格好 完全に呑んだくれてるおじさんじゃない! というか実際呑んだくれてるし… いくら飲み放題だからって、倒れたら放って帰るわよ 私は飲まないわよ。というか飲んじゃいけないでしょ 成人したら一緒に飲んであげてもいいけど わかったわ、約束。その時はおすすめのお酒を用意して頂戴 花火が始まったみたいね アンリの席からの方が見やすそうだからイスを動かして隣に座って見ましょう 結構たくさん上がるのね、すごく綺麗! やっ!ちょっと!肩に頭載せないで…って、寝てる…ですって…! 全く…あんなに飲むから (少し頬を寄せて)約束、覚えててよね? |
ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
ビアガーデン、楽しそうっ♪ 私はお酒飲めないけど、ヴァルは飲めるし 雰囲気楽しむだけでも素敵よねっ。 花火見たいし、夜に行くわねっ。虫よけもこっそり用意してみたわっ。 浴衣ももちろん借りるわよっ。 私は花の模様のがいいなあ。あ、ちょっと大人っぽい感じので。 髪も大人っぽく結い上げてみるわ。 大人っぽく綺麗な感じに変身してヴァルを驚かせてやるんだからっ。 どう、似合うでしょっ? ヴァルは、やっぱり大人っぽくて似合うわよね。 えっと、うん、かっこいいと思うわっ。 炭酸飲料、あるかしら? それと焼きそばと焼き鳥食べたいっ♪ お料理美味しいし、花火凄く綺麗ー! ヴァルと一緒に見れて良かったっ♪ |
ライラ・フレニア(クラエス・エストリッジ)
お金かかるのなら浴衣どうしようかなと思ったけど この格好じゃ浮くよって言われたしレンタルしてみようかな 柄は可愛いし牡丹のにしてみよう …クラエスは何着ても似合うなぁ、羨ましい 行く時間は夜 花火が見たいな 私達はお酒を飲める年齢じゃないし気分だけ味わおう ソフトドリンクにしようね 花火が始まるまではイルミネーションを見つつお話してようか 滅多に来ない場所だし周囲を見てるだけでも楽しそう 始まったら静かに見入っちゃうだろうな 夏って感じだね、とっても綺麗… また来年も一緒に見にこれるといいね 来年だと私はもうお酒飲める年だね クラエスはその翌年 1年や2年なんてあっという間だよ 一緒にお酒を飲める日、私も楽しみにしておくから |
華(柘榴)
▽心情 会場には来たのはいいですけど、すごい人だかりですね こういう場所は、いつ来ても慣れません なぜでしょう? それに柘榴ともはぐれないよう待ち合わせ場所を決めないと ▽昼間 柘榴、昼間の主導権をお前に譲ります でも夜のビールと打ち上げ花火とライトアップは私に譲って下さい 楽しみで来たんですから 浴衣?着てもいいですよ。折角ですし。 わたくし、似合いますか? ▽夜 主導権は、わたくしが握りますよ きらめく花火、植物のライトアップ、オリジナルビア……。 全部綺麗です……! 柘榴が綺麗だとは言ってません ▽持ち物 ミント柄の巾着 ▽浴衣 白地に大きい露草の模様、濃紺の帯と下駄 ▽メニュー オリジナルビア、枝豆、チーズ盛り合わせ、ラムネ瓶 |
♪ビアガーデンが呼んでいる♪
エストリッジ家のメイド、ライラ・フレニアは洗いたてのシーツを綺麗に畳む。
そんな時、エストリッジ家の三男、クラエス・エストリッジがひょっこり現れる。
「ライラ、今、時間ある?」
「シーツを片づけたら今度はお掃除があります」
働く手を休めずにライラが答える。
「いつも家のために頑張ってくれてありがとう。ねぇ、明日、ビアガーデンに行かないかい」
「ビアガーデン?」
ライラは顔を上げた。
「そう。夜には花火もあるんだよ」
「夜は夕食の準備と片づけが……」
「たまには休憩。メイド長には僕から言っておくよ。ライラは僕がこうやって誘わないと、ずっと働き詰めなんだから。ね」
ライラも花火には興味を引かれたし、良い返事を期待しているクラエスを見ると、承諾するほかなさそうだった。
「ビアガーデンがあるんですって!花火もあるし浴衣も着られるそうよ、楽しそう!」
ビアガーデン開催の情報を得たファリエリータ・ディアルが瞳を輝かせ、ヴァルフレード・ソルジェに報告する。
「でもファリエは飲めないだろう」
「雰囲気を楽しむだけでもいいもの。それに、ヴァルはお酒、飲めるんでしょう」
「まあね」
「じゃあ、決まりっ。どんな浴衣を着ようかしら」
ヴァルフレードは、はしゃぐファリエリータを見て目を細める。そして、彼女にはどんな浴衣が似合うだろうな、と想像を巡らせた。
「ふぅ、暑い……」
連日の猛暑に、うんざりという様子のアンリ。心なしか、彼の耳も元気なく寝ている。
そんな彼を気の毒に思ったのか、
「そういえば、ビアガーデンがあるそうね」
とリゼット。
アンリの耳が、ピンと立ち元気を取り戻す。
「それは、飲み放題なのか」
「ええ、そうみたいよ」
アンリの勢いに気圧されながらリゼットは答える。
「よしっ行こう!そして鋭気を取り戻すんだ!」
飲み放題と聞いただけで充分鋭気を取り戻したように思えるが……。
「……いいけど、飲みすぎないでよね……」
リゼットは釘を刺すが果たして聞こえているかどうか。
「鳳はん、夏といえばこれでっしゃろ」
柘榴が2枚のチケットを華に見せる。
「なんですか、それは」
「ビアガーデンでっせ。ミラクル・トラベル・カンパニーも乙な企画立てますなぁ」
「……人が多そうですね」
華は微かに眉根を寄せる。
「いやいや鳳はん、人が多いのくらい気になりませんて。いいですか、屋外ビアガーデンでっせ。開放的な風!あっつい太陽の下で飲むビールは格別でっせ。夜は夜で煌びやかなイルミネーション!花火もあるし、また違った魅力がありまっせ」
柘榴は懸命にビアガーデンの魅力をアピールする。
一生懸命な彼を見ていると、無碍に断るのも申し訳ない。
「そこまで言うなら、行ってもいいわ」
♪彼女が浴衣に着替えたら♪
空は快晴。
「ええ天気ですな、これならビールも豪快に飲めやしまへんか?」
ビルの入口で待ち合わせをした華と柘榴。
柘榴は空を見上げて上機嫌だが。
「ものすごい混んでいそうですね」
次々とビルに飲み込まれていく人の波を見つめ、華は眩暈を覚える。人込みは苦手なのだ。
「まあまあ鳳はん、楽しいことだけ考えましょ」
柘榴は華にチケットを渡す。華はチケットに視線を落とし、あることに気付く。
「あら、会場には3時間しかいられないみたいですね」
「あれ、そうでしたか」
「今から行くと、夜の花火が見られないですね。わたくし、夜のライトアップと花火を楽しみにしていたんですが」
「ふむ、どうしましょか」
「そうだわ。柘榴、昼間の主導権はお前に譲ります。だから、夜の行動の決定権はわたくしに譲ってください」
「なるほど、わかりました」
柘榴はにっこり笑う。
「ビルの中にはお店もいろいろあるみたいです。ウィンドウショッピングでもいかがでっか」
華と柘榴は、ときどき休憩所で休みながら、ゆっくりと雑貨や洋服、アクセサリーの店舗を見て歩いた。
「おや、これは夏らしいですな」
催事場で大規模な水着ショップが開設されている。
「良いですなぁ。鳳はん、今度パシオン・シーで水着着てくれまへん?」
柘榴は目を細める。華の水着姿を思い浮かべているのだろうか。
「嫌です」
素っ気なく答える華。
「つれまへんな~」
しかし柘榴はめげない。
「ほな、浴衣はどうでっしゃろ?ビアガーデンで貸し出ししてますさかい」
「浴衣、ですか」
「着てくれはるようでしたら、あっしが話つけてきますわ。鳳はん、えらいべっぴんさんになりまっせ」
「そうですね、折角ですし、着てみてもいいですね……」
「そうと決まればさっそく申込みしてきましょ」
柘榴はうきうきとした足取りで屋上へ向かう。
「思ったとおり、よく似合ってますなぁ」
白地に大きい露草の模様の浴衣、濃紺の帯と下駄。それにミント柄の巾着を合わせた華の姿を見て、柘榴がうんうんと頷く。
柘榴も、薄い茶色地の浴衣に黒の帯と下駄、ワインレッドの生地に夕顔模様の巾着という格好に着替えている。
ビアガーデンのスタッフに浴衣の貸し出しを申し込んだところ、入場前でも着付けをしてくれるとのことだったので、さっそく着替えたのだ。さらに、浴衣の返却は翌日で良いそうで、今日はこの姿のまま帰宅することもできる。
「ほな、この姿でもう少し歩きまへんか。浴衣姿の鳳はんをみんなに自慢したくて仕方ありまへんですわ」
街が薄暮に包まれるころ。
リゼットはビアガーデンの浴衣貸し出し場所で浴衣を選んでいた。
桃色の牡丹柄の浴衣や青地の金魚柄の浴衣。見ているだけでも楽しくなってくる。
(これにしよう)
選んだのは、紺地に百合柄の入った浴衣。子供っぽくなりすぎず、かといって、地味にもならず丁度いいバランスの浴衣。
スタッフに着付けをしてもらい、更衣室の外に出る。
(アンリはそろそろ来ているかしら)
リゼットが視線を泳がせると。
「ちょ……なんなの、その格好はっ」
アロハにハーフパンツ、頭にサングラスをのっけたアンリの姿。
「……呑んだくれのおじさんみたい……」
「おっさんだ?どう見ても最高にリゾートを楽しんでるイケてる若者だろ!」
アンリは自分のファッションセンスに自信を持っているらしい。
「つかリゼットのその浴衣、結構いいじゃねぇか。見違えたぞ」
浴衣姿のリゼットにアンリは顔をほころばせる。しかしリゼットは無表情。
「いいから、早く行くわよ」
「なんだよ、なんか冷たくないか?」
リゼットは足早にビアガーデン受付へと向かった。
紺地に絣模様の浴衣に着替えたヴァルフレードは、ビアガーデン入口付近で、ファリエリータの姿を探していた。
(もう着替え終わっていても良い時間なんだけどな)
一向に、ファリエリータを見つけることができない。
と、突然。
「ヴァル、なにきょろきょろしてるの」
目の前に見慣れぬ女性が立ち、声をかける。
「うわ、びっくりした。なんだ、ファリエか。誰かと思った」
見慣れぬ女性と思っていたのは、ファリエリータだった。
藍色に、薄青の花柄の浴衣。月の光のような色合いの帯。結い上げた髪。
いつもの彼女とはうって変わった、大人びた雰囲気。
「どう?似合うかしら」
ヴァルフレードを見上げるファリエリータ。
「ま……」
「馬子にも衣装という言葉は禁止よ」
「先手を打ってきたか……。でも、そうだな……綺麗だぞ」
「えっ……」
意外にもストレートに「綺麗」と褒められ、ファリエリータは思わず赤面する。
「あ、ありがとっ。ヴァルもかっこいいと思うわ!」
放っておくといつまでも仕事をしていそうなライラを引きずるようにして会場に着いたクラエス。
「ライラ、ずっとその格好のつもり?」
メイド服のままのライラに訊く。
「え……でも浴衣は……別料金のようだし」
クラエスは軽く溜息をついた。
「お金の事なら気にしなくてもいいのに。ライラの浴衣姿が見れるなら安いものだと思うよ」
「でも」
「それにね、ビアガーデンにその服はちょっと浮くんじゃないかな」
言われてみれば、その通りだ。
「じゃあ、浴衣着てみようかな」
「そうしよう!僕も着替えるよ」
ライラは可愛らしい牡丹柄の浴衣を選んで着替える。
鏡に映った自分に違和感を感じる。メイド服の自分ばかり見てきていたから。
(ヘンじゃないかしら……。でも、他にどんな浴衣を選べばいいかもわからないし)
おどおどしながら更衣室を出るライラ。
クラエスはすでに着替えを終えていたようだ。深緑色で落ち着いた印象の浴衣を着ている。
「……クラエスは何を着ても似合うなぁ、羨ましい」
「ありがと。ライラも、よく似合っているよ」
クラエスが微笑む。しかしライラは自信なさげに肩をすくめる。
「もう、ライラ、もっと堂々としようよ。せっかく可愛いんだから」
ライラはかろうじて背筋を伸ばすが、あまり「似合う」「可愛い」と褒められると居心地が悪い。
(もったいないなぁ、ライラはもっと自信を持っていいのに)
遠くにいる女性の集団が、ライラの方を見て「あの子かわいい~」などと言っているのが聞こえる。
クラエスは、女性からも可愛いと言われるライラが誇らしかった。しかし、それと同時に。
(ライラがもっと綺麗になってたくさんの人から注目されるようになったらどうしよう?)
そんな不安も湧き上がってきた。
クラエスは、ライラに見惚れている男性を見つけると、何気なく、その男性の視界からライラを遮るような位置に立ってみたりするのであった。
♪未来に想いを馳せて
ビアガーデン会場は賑やかだった。
もうかなり暗くなってきており、観葉植物に巻き付く色とりどりのイルミネーションが会場を、そして人々を照らしていた。
ヴァルフレードが、炭酸のオレンジジュース、中ジョッキ、焼きそば、焼き鳥を乗せたトレイを持ってくれている。ファリエリータは空いている席を見つけて「こっちこっち」とヴァルフレードの袖を引っ張る。
「こういう空気、楽しいよね」
ファリエリータがにこにこする。
「ちゃんと虫除けも持ってきたから、安心してゆっくり食べよう」
「用意がいいな」
「でしょ。それでは、かんぱ~い」
2人はグラスを打ち合わせる。冷えた液体が喉を潤した。
飲み物を飲みながら何気ない世間話をしたのち、
「いただきま~す」
と、ファリエリータは焼きそばを、ヴァルフレードは焼き鳥を食べる。
「こういうとこで食べる食事って、いつもより美味しく感じるわよねっ」
ファリエリータは満面の笑み。
「そうだな。こっちも食べるか?」
ヴァルフレードはファリエリータに焼き鳥をひと串差し出す。
「うんっ」
ファリエリータは半ば立ち上がって首を伸ばし、ヴァルフレードが持つ焼き鳥にかじりつく。
「おいし~いっ」
焼き鳥をほおばるファリエリータを見て、ヴァルフレードがくすくす笑う。
「なんだ。中身はいつものファリエだな」
「!」
せっかく大人っぽくきめていたのに、つい、いつもどおりにはしゃいでしまったことに気付くファリエリータ。
「これだから、ファリエといると楽しいんだよ」
ヴァルフレードはそう言ってまた笑った。
「さっそく生中で乾杯だ!」
飲む前から陽気なアンリが、自分の分のほかにももう1つ、中ジョッキをリゼットの前に置く。
「私は飲まないわよ。というか飲んじゃいけないでしょ」
リゼットは呆れた口調。
「ちょっと舐めるくらいだったらいいんじゃね?」
「遠慮するわ。はい乾杯」
リゼットは自分で注文したトロピカルドリンクを持ち上げ、アンリの中ジョッキに軽く当てた。
「ったくリズは真面目ちゃんだなぁ」
子供のように拗ねた表情を作るアンリに、リゼットは
「成人したら一緒に飲んであげてもいいけど」
と言った。
するとアンリはぱあっと明るい顔になる。
「そんじゃ、飲んでいい歳になったら俺がおごってやるよ」
「わかったわ、約束。その時はおすすめのお酒を用意して頂戴」
「ああ、とっておきのを飲ませてやる。今日のところは俺がお前の分まで飲んどいてやるからな!」
アンリは驚くべき速さで中ジョッキを2杯とも空けてしまう。
「ちょっと……服装だけじゃなく中身も呑んだくれのおっさんなわけ?」
そんなリゼットをよそに、上機嫌のアンリは近くを通ったスタッフに「中ジョッキもう1杯!」と注文している。
「いくら飲み放題だからって、倒れたら放って帰るわよ」
リゼットは冷ややかに言った。
「大丈夫だって」
ぐいぐい生ビールを飲むアンリを見ながら、リゼットは先ほど言った自分の言葉を思い返した。
(成人したら……って何年も先の話なのよね……)
やっぱり、夜に来て良かった。
華は心からそう思った。
目の前のテーブルには、オリジナルビア、枝豆、チーズ盛り合わせ。向かいに座った柘榴のメニューは、生ビール中ジョッキに焼き鳥。
「はー、やっぱり外で飲むビールは最高でっせ~」
柘榴はあっという間に中ジョッキを空ける。
「次はカシスオレンジに行ってみよか」
柘榴が席を立つ。
「鳳はんも、追加で何か頼んまっか?」
華は首を横に振る。華のグラスの中には、まだオリジナルビアが8割ほど残っている。
柘榴が行ってしまうと、華はオリジナルビアのグラスをそっと掲げた。
ピンクから青のグラデーションの中、ぷくぷくと泡が上っていく。液体の向こうに、色とりどりのイルミネーションの光が見える。
「綺麗……」
思わず呟いた。
「え?あっしが綺麗ですって?」
戻って来た柘榴が聞き返す。
「柘榴が綺麗だとは言ってません」
華はそう言うと、オリジナルビアを口に含んだ。ほろ苦く微かに甘い液体が、しゅわしゅわと喉を通っていった。
ライラとクラエスは、2人ともまだアルコールが飲めない年齢だ。
好みのソフトドリンクで乾杯する。
焼きそばや焼き鳥、枝豆などクラエスの口に合わないのではないかと思ったが、意外とこのような屋台食も楽しんで食べている。
「綺麗ね、イルミネーション。まるで、植物そのものが輝いているみたい」
ライラは会場を見回して感嘆の声をあげる。
「ライラが気に入ってくれて良かった」
クラエスも微笑む。ライラが喜んでくれることが、クラエスの喜びなのである。
「お屋敷の皆様は、そろそろお食事が済んだ頃かしら」
「もう、こんな時くらい仕事のことは忘れようよ」
クラエスが苦笑いする。真面目で仕事熱心なところもまた、ライラの良いところなのだから仕方ない。
2人がとりとめのない話をしている時、ひゅ~っと音がして、夜空に大輪の花が咲いた。遅れて、身体に響くどぉんという音。
2人は同時に顔をあげる。
「花火、始まったね」
「夏って感じだね、とっても綺麗……。」
大きく丸く広がる花火やススキのようにしゅっと伸びる花火。赤いものや青いもの。たくさんの種類の打ち上げ花火が、会場の人々の目を楽しませた。
「また来年も一緒に見にこれるといいね。来年だと私はもうお酒飲める年だね」
「僕はまだだよ」
「クラエスはその翌年。1年や2年なんてあっという間だよ。一緒にお酒を飲める日、私も楽しみにしておくから」
ライラは笑う。
「そういう問題じゃないんだけどな……」
ライラに気付かれないように呟く。たかが1歳、されど1歳。1年、2年……いつまでたってもその差は埋まらないのに。
クラエスは花火に魅入るライラの横顔を見つめる。そっと、ライラの手に自分の手を伸ばし……そして、思いとどまった。
(来年か……)
来年以降はまた何か変わってるんだろうか。この手が臆することなくライラに触れられるようになっているのだろうか……。
華と柘榴は並んで立って花火を見上げていた。
アルコールは一旦休憩にして、華はラムネ瓶、柘榴はコーラを手にしている。
「おお~、お見事!たまや~、かぎや~、ですなぁ」
大玉花火に感嘆の声をあげる柘榴。
華としてはもう少し静かに花火を鑑賞したかったが、柘榴の気持ちもわからないでもない。
「きれーな花火見て、隣にはきれーな鳳はんがいて、あっしは幸せですわ~」
大声で言う柘榴に、華は慌てる。
「ちょっと、恥ずかしいこと言うんじゃないわ」
「ええじゃないですか、花火の音で誰にも聞こえませんて」
と柘榴は笑う。
「酔ってるの?」
「ええ、酔ってますねぇ。いいじゃないですか、酔ってるときくらい言いたいこと言わせてぇな。鳳はん、べっぴんは~~~ん!」
花火の音に紛れてまたもや柘榴が叫ぶ。華はいたたまれなくなって俯いた。
「見て見て~!今度はハート型の花火が上がったわ!」
ファリエリータが夜空を指さす。その瞳は花火に負けず劣らずきらきら輝いている。
「最近の花火はいろんな形のがあるよなぁ。でも俺は、やっぱり丸いやつのほうが好きだな」
「うん、丸いのも綺麗よね。本当に、大きな花が咲くみたいで。あ、こういうのもいいわよね」
丁度、次の花火が連続で打ちあがっているところだった。大輪の花を咲かせては、流れ星のようにキラキラ瞬きながら落ちていく花火だった。
「来て良かったな」
楽しそうなファリエリータに、ヴァルフレードが言う。
「うん、綺麗な花火をヴァルと一緒に見られて嬉しい!来年も来たいね」
ファリエリータは笑顔でヴァルフレードを見上げる。
(一緒に見られて嬉しい、か……)
花火を見られるから嬉しいのではなく、あなたと一緒だから嬉しい。そう言われたような気がして、ヴァルフレードは唇を綻ばせる。
「そうだな。来年も、来ようか……」
テーブルを挟んで向かい合って座っていたリゼットとアンリだが、花火が始まると、リゼットの席からだと、後ろを向かなければ花火が見えないことに気が付いた。
「アンリの席だと見えやすそうね」
リゼットはアンリの隣に移動しようと立ち上がる。
「どーぞどーぞいらっしゃい」
すっかり出来上がってしまっているアンリがリゼットの椅子を自分の隣に動かしてくれる。
「もう、何杯飲んだのよ」
リゼットは椅子に腰を下ろした。
「何杯?男ならそんなもの気にせず飲む!」
「……」
「花火を見ながらの一杯も格別!」
いつの間にやら、また新しいジョッキを注文している。
しかしまぁ、これでアンリの日頃の疲れやストレス(あるのだろうか?)が和らぐのなら、今日は大目に見てやろう。
「結構たくさん上がるのね、すごく綺麗!」
連続でいくつもの花火があがる。爆発音が空気を震わせ身体に響く。その振動が心地いい。
リゼットが花火に魅入っていると、温かく重いものが肩にのしかかってきた。
アンリの頭だった。たまにぴくぴく動く耳がリゼットの頬をくすぐる。
「やっ!ちょっと!肩に頭載せないで……って、寝てる……ですって……!」
無礼な頭を叩き落としてやろうかと思ったが、穏やかな寝息に気付き愕然とする。
「全く……あんなに飲むから」
悪態をついてはみるものの、気持ちよさそうに眠るアンリを無理に起こようなことはできなかった。
しかし、こんなに酔っていては、今日の出来事など覚えていないのではないだろうか。
リゼットは少し心配になった。
眠っているアンリにそっと頬を寄せ、耳元に呟いてみる。
「約束……ちゃんと覚えててよね?」
乾杯の時に交わした約束は、果たして覚えているだろうか?
「お前こそ、忘れんなよな?」
「きゃあああ!お、起きてたのね?」
ふいにアンリの片目がばちっと開いたので、リゼットは驚いてアンリの頭を振り落とす。しかしその着地先はリゼットの膝の上。
「お、膝枕」
アンリはそのままそこで眠ろうと目を瞑る。
「ちょ……っ肩は許しても膝は許さないわよっ」
「やったぁ、肩枕の許可が下りたぁ」
「そういうつもりじゃ……」
アンリは嬉々としてリゼットの肩に頭を乗せなおした。
「……今日だけだからね」
低い声でリゼットが言う。
「はいはい」
そんな2人を花火の音と光が包む。
「あの約束ってさ、つまり、酒を酌み交わせるようになるまで一緒にいろってことか?」
「え?なぁに?花火の音でよく聞こえなかったわ」
「なんでもないよ、独り言」
そう言って、アンリは笑った。
未来は見えない。良い方向にも悪い方向にも。
だから期待をする反面怖くもある。
けれどきっと、大切な人はあなたの隣にいてくれる。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:リゼット 呼び名:リズ |
名前:アンリ 呼び名:アンリ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月09日 |
出発日 | 07月15日 00:00 |
予定納品日 | 07月25日 |
参加者
- リゼット(アンリ)
- ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
- ライラ・フレニア(クラエス・エストリッジ)
- 華(柘榴)
会議室
-
2014/07/14-00:14
リゼットよ。
私もお酒は飲めないけど、連れが飲みたがっているから見張り役。
花火も楽しみよね。浴衣はー…どうしようかしら。
ともあれよろしくお願いね。 -
2014/07/13-14:38
こんにちは、私はライラ・フレニアです。
パートナーはポブルスのクラエス様です。
よろしくお願いします。
私達はお酒は飲めないので雰囲気だけ味わってこようかと思います。
花火もあるとのことで、楽しみですね。 -
2014/07/13-03:04
はじめまして、わたくしは華と申します。
ファータの柘榴と参加したいと思っています。
皆様、どうぞよろしく。
わたくしもビアガーデン、特にオリジナルビアが楽しみです。
当日は花火も一緒に楽しんで、素敵な思い出にしましょう。 -
2014/07/12-20:23
私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。
パートナーはディアボロのヴァルフレードよ。
ビアガーデン、楽しそうっ♪
と言っても私はお酒飲めないんだけど、ヴァルは飲めるし
雰囲気楽しむだけでも素敵よねっ。