【夏の思い出】子どもたちと夏休み(タカトー マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「――こうして、世界は平和になったのでした。おしまい」
 扇風機に吹かれながら、女性が静かに紙芝居を閉じた。
 その途端、体育座りをして話に聞き入っていた子どもたちが一斉に歓声をあげる。
「わーうぃんくるむ、すげー」
「かっこいー!」
 子どもたちが目を輝かせていることに安堵し、その女性――保育所の先生は、次の行動に移ろうと立ち上がった。
「はい、では『ウィンクルムの活躍』の紙芝居は片付けます。もうすぐ3時なので、おやつの準備を」
 しかし、先生の考えに反し、子どもたちはまだ興奮している。
「うぃんくるむ、オレも会いたいなー」
「ねー会いたーい」
 想像以上に、子どもたちにウィンクルムの印象が強く残ったらしい。
 先生は微笑みながら声をかけた。
「そうね。みんなのこともきっと守ってくれているから、ウィンクルムのお兄ちゃん、お姉ちゃんに会ったらお礼をいいましょうね。
 はい、だから今からは手を洗って――」
 しかし、子どもたちの好奇心はまだ止まらない。
「わたし、会いたい!」
「あたしも!」
「おれも! だってうぃんくるむは、この近くにいるんだろー?」
 子どもたちは、どうしても立ち上がってくれない。
 先生は頭を抱えながら、必死で言葉を選ぶ。
「で、でもね。ウィンクルムの人たちはみなさん、とっても忙しいからね」
 これで、あきらめてはくれないだろうか。
 いや、甘かった。
 今度は子どもたちが眉尻を下げて、不安そうに話し始める。
「うぃんくるむって、そんなに大変なの?」
「ずっと、働いているのかな……」
「おれ、知ってる! そういうの、ブラックき」「待って! 待って!」
 このままでは、自分のせいで子どもたちのウィンクルムに対する意識が変わってしまう。
 それに、この子たちは今は普通の人間でも、いつ神人として顕現するかわからないのだ。
 それなのに、ウィンクルムに対してマイナスな感情を抱かせてしまったら……。
 夏の暑さがそうしてしまうのか、やたら悩みだす先生。
 首筋に汗が伝ったところで、ようやく声を絞り出した。
「わかりました。先生が、ちょっと聞いてきます。ウィンクルムの皆さんに会えるかどうか」
 さっそく仕事終わりに、A.R.O.A.職員の元へ問い合わせねば。
 先生がふう、とため息をついていると、子どもたちは再び目を輝かせていた。
「やったー! うぃんくるむに会える!」
「わたし初めて見る!」
「あたしだって! わーい。じゃあ海に連れて行ってもらおー」
「いえいえいえいえいえいえ! まだ、本当に会えるかはわかりませんからねー!?」
 最後の先生の声を、聞いている子はいなかった。

解説

●今回の目的
 ウィンクルムに強いあこがれを抱いた、4~5歳の子どもたちと遊んでやってください。
 場所はゴールドビーチ。
 昼から夕方にかけて、ウィンクルム一組で子どもたち2人を相手にしてもらいます。
 先生が常に目を光らせてはいますが、子どもたちが危ないことをしないように気をつけてやってください。

●遊びの種類
・砂遊び
 真っ白な砂浜で、お城を作ったり身体を砂にうずめたり。
 子どもたちの好きな遊びです。

・ビーチボール
 ふわふわのビーチボールを、投げたり転がしたり。
 砂浜や浅瀬で遊べます。

・泳ぎ指導
 子どもたちの中には、泳げない子もいます。
 尊敬するウィンクルムから教えてもらえるとなると、上達も早いことでしょう。

●服装
 海に入らない方は、洋服でも結構です。
 泳ぎ指導などをする方は、ご自分で水着を用意してきてください。

●職員からウィンクルムへお願い
 紙芝居『ウィンクルムの活躍』では、ウィンクルムが少年少女にブレスレットを渡す描写がありました。
 この話と同じように、一日の最後には一緒に遊ぶ子どもたちへブレスレットをプレゼントしていただきたい……と
 A.R.O.A.職員が皆さんに依頼しています。
 ブレスレットは、作中と同じデザインを職員のツテで用意することができました。
 青と白のビーズがついたもので、ひとつあたり150ジェールとなっています。
 ウィンクルム一組につき、それぞれ2人の子どもたちにプレゼントをお願いいたします。

ゲームマスターより

こんにちは、ゲームマスターのタカトーです。

子どもが好きって言ったら、意外だと言われたことがあります。えっ。

無邪気な子どもたちとのんびり過ごしてみるのはいかかでしょうか。
いえ、無邪気でない子もいるかもしれませんが……。

子ども好きなウィンクルムさんも、子ども嫌いなウィンクルムさんも大歓迎。
子どもたちと力いっぱい遊ぶもよし。
子どもたちと遊ぶのをきっかけに、自身の子ども時代について振り返るもよし。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  子供たちと一緒に遊べるなんて嬉しいです。
憧れのウィンクルムのイメージを壊さないようにしないとですね!
昔は私も妹もウィンクルムの話を聞いて憧れたことがあったので子供たちの気持ちはよくわかるんです。
あの日憧れたようなウィンクルムに私はちゃんとなれてるかな?
海辺で遊ぶということでやっぱり水着の方がいいですよねー…砂遊びをしたりビーチボールをしたり子供達のどんな要望にはできるだけ応えてあげたいなぁ…。

子供たちは本当に可愛いですね…そういえばイヴェさんってどんな子供だったんでしょうか?イヴェさんもきっと可愛らしいお子さんだったんでしょうね。

このビーズのブレスレットも素敵です。喜んでもらえるといいなぁ。


信楽・隆良(トウカ・クローネ)
  水着で完璧!

膝曲げて
あたしは隆良だ、よろしくな!

子供の名前は呼び捨て
いっぱい名前を呼ぶよ
仲良くなる第一歩だ

何しようか!
やりたいことを一緒にしたい
戸惑ってるトウカに笑って手招き
ほら、一緒に遊ぼうぜ

泳げないと聞いたら早速泳ぐ練習だ!
水に顔つけるの怖いか?
でもな、水の中ってすげー綺麗なんだぜ
泳いでる魚も見つかるかも
ゴーグルつけてりゃ大丈夫だって
泳げるようになって先生もびっくりさせてやろうぜ

そろそろ時間か
あたしも、えー!だよ
でもな、もう帰らないとお父さんお母さんが心配するぞ

へへ、その代わり、だ
ブレスレットを嵌めてあげて
プレゼントだ
大事にしてくれよ

もう友達だもんな
また遊ぼうぜ!

トウカにポツリ
…ありがとな



月野 輝(アルベルト)
  子供って可愛いわよね
理想を破っちゃわないように頑張るわね
一緒に遊んでると、将来こんな子が欲しいなって思ったり

泳げない子がいるならアルと一緒に泳ぎを教えようかな?
ふふ、思い出すわね
昔、私もこうやって手を取って泳ぎを教えて貰ったわ

アルって割と子供に優しいのね
ちょっと意外だったわ
案外いいパパになりそ…って、ち、違うわよ!?
別にアルがパパならいいなとかそんなんじゃ
…何言ってるの、私…
もう、そんなに笑わないで!

私への扱いが子供達への扱いと一緒のような気がするの
私を子供扱いする人って今まであまりいなかったから
ちょっとだけ新鮮かもしれない…絶対に言わないけどっ

ブレスレットは子供達の腕に付けてあげようと思うの



リゼット(アンリ)
  アンリと一緒に水着で参加
ウィンクルムだとわかってもらいやすいようお揃いの意匠のもので
ペ、ペアルックじゃないわよ!

アンリは子供が好きなのかしら
なんだかいいお兄さんというように見えるんだけど…
いつもは自分が子供みたいな振る舞いばかりなのに
子供たちがうらやまし…くなんて、ないわ!

ビーチバレーは子供たちに打ちやすいようにふんわりと返すように
ちょっと!どうしてそんなに強く打ってくるのよバカ!
返せるわよ、返して見せるわよ!
な!何が愛情表現よ!あんたのはいつも直球すぎるのよ!

今日は楽しんでもらえたかしら
私達、そんなに特別じゃなかったでしょ?
このブレスレットは友達の証よ
って誰があんたのサインなんて欲しいのよ!


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

持ち物…パレオの水着
※子供が大好きだけど彼女も子供。ドジっ子お姉さん。

【泳ぎ指導】
私はカナヅチなので、ロジェ様の隣でお子様達の応援をしますね(スキル『メンタルヘルスLv2』使用)
(応援に必死になりすぎて足を滑らせ、溺れかける。
 ロジェに助けられる様を見ていた子供達に冷やかされる)
けほっ、ご、ごめんなさい、ロジェ様…。
あ、あの、ロジェ様…?
あうぅ、こ、恋人同士じゃないですようっ!
どうしよう、胸のドキドキが治まらないの…。

【ブレスレットを渡す】
『もし神人となる日がきても、怖れないで。あなたには、共に在る愛しい人がいる』その想いを歌に込めて
ブレスレットを渡しますね(スキル『歌唱』使用)



●揺れる波と心

 パレオの水着を風になびかせながら、『リヴィエラ』は二人の少女、あかねとうりに微笑む。
「今日は一日、よろしくお願いしますね」
「はーい」「はい!」
「……泳げないと聞いている。だから俺が、泳ぎを教えよう」
 リヴィエラに引き続き『ロジェ』がそう告げるが、少女たちは一瞬びくり、と身を縮こまらせる。
 どうやら怖がっているらしい。
「そ、それじゃあさっそく海に入りましょう!」
 大丈夫だろうかと心配しながら、リヴィエラは少女たちを導いた。

「俺が手を持っているから、そう。顔を水に浸けてバタ足をしてみよう」
 あかねとリヴィエラが見守る中、うりの手をとってロジェが指示を出す。
 だが、まだ人見知りをしているのかうりの動作はぎこちない。
 それを見て、リヴィエラはそっとうりの背中に手を伸ばした。
「大丈夫ですよ。さっ、力を抜いてください」
 ぽん、とあたたかみのある彼女の手が触れると、うりのこわばっていた力も解けた。
「そうだ。その調子だ」
 ロジェが表情をやわらげる。
 それを見た途端、あかねも身を乗り出す。
「あ、あたしもあたしも!」
「ああ。順番に教えよう」
 少女たちのロジェを見る目が、変わったのは気のせいだろうか。

 ロジェの指導のたまものだろう、すいすいと泳げるようになってきた少女たち。
「すっすばらしいです!」
「でも、まだあんまり速くすすまないよー」
 あかねが少し不満げにそう漏らすと、リヴィエラは明るく励ます。
「そんなことないです! さっきよりずっと速いですよ」
 彼女の言葉に、あかねが顔をゆるめる。
 うりも負けじと、懸命に泳いでいる。
「わあ、お二人とも素敵です! かっこいいです!」
 少女たちの可愛さにめろめろになりながら、リヴィエラは二人に夢中で手を振った。
 だが、その瞬間。
「きゃっ……!?」
「お姉ちゃん!」「どうしたのっ!?」
 リヴィエラは、足をすべらせてしまった。
 彼女の青髪が水中にすいこまれていく。

「……おい!」
 思わず目をつぶっていたリヴィエラ。
 水中からの脱出に、ようやく瞳を開く。
「よ、良かった……無事か?」
 目の前には、ひどくうろたえているロジェの姿が。
 そして、自分の体には彼の腕の感触が――。
「……怖……た……」
 濡れた髪から、ロジェの双眸が揺れているのが見えた。
「けほっ……ご、ごめんなさい……あ、あの、ロジェ、さま……?」
 何を言ったのだろう、聞こえない。
 だが、胸が締め付けられるような声色だった。 
「きゃーっ!!」
「らぶらぶだー! こいびとさんだー!」
「なっ……!」
 少女たちの黄色い歓声に、ロジェが慌てて身体を離す。
「あうぅ、こ、恋人同士じゃないですようっ!」
 顔を真っ赤にしながら、ようやく自分の足で立ち上がったリヴィエラはぶんぶんと首をふる。
「らぶらぶだー」「らぶらぶー」
 ロジェのあの眸と、一瞬密着した体。そして、聞こえなかったあの言葉。
 もうロジェは離れているというのに、胸の高鳴りが止まらなかった。


●子どもなのは誰

 園児のかずきとこころが、元気よく声をあげる。
「おねがいしまーす!」「よろしくー!」
「ええ、よろしくね」
「はい、よろしくおねがいします」
 子どもたちを、素直に可愛いと思って笑顔を見せる『月野 輝』。
 腹の内では何を考えているかわからないが、完璧な微笑みをつくってみせる『アルベルト』。
 彼の相変わらずの外面にため息をついた後、輝は子どもたちに問いかけた。
「それじゃあ、今からどんなことをして遊びたいかな?」
「おれ、泳げるようになりたい!」
「あ、わたしもー」
 子どもたちにうなずいて、輝とアルベルトは海へ入っていった。
 ……ちらりと輝の水着に目を向けたアルベルトが、ほっと息をついたのは何なのだろうか。
 輝は自分のワンピースタイプの水着を見下ろしてみるが、よくわからなかった。

 輝はこころ、アルベルトはかずきの手をとって泳ぎを教え始める。
「そう、上手よ」
「本当ー?」
 こころを見て、輝は自分の過去に思いを馳せる。
 昔、自分もこうやって手を取って泳ぎを教えて貰った。懐かしい。
 ふと隣にいるアルベルトたちの様子をうかがってみると、意外なことに彼らはとても盛り上がっていた。
「はい、そうです。では、次は手を離してみますね」
「え、ちょ、兄ちゃん! それは」
「……できないのですか?」
「で、できるよ!……わ、泳げる!」
「ええ、そうでしょう」
 こころもかずきに続く。
「わたしもできたよー!」
「おー!」
 楽しそうに泳ぎだした子どもたちを見守りながら、輝はアルベルトに話しかける。
「アルって割と子供に優しいのね。ちょっと意外だったわ」
 ちらりとアルベルトへ視線をむけた。
「子どもの扱いは割と得意なんですよ。子どもを診る時もありますし、普段から子どもの相手をしてますしね」
 アルベルトは、子どもたちの前とではちがう種類の笑みを見せる。
 からかわれている……。輝は、あわてて目線を子どもたちへと戻した。
 かずきとこころが手を振っている。
「子どもたち、本当アルになついてるわね。案外いいパパになりそ……って、ち、違うわよ!? 別にアルがパパならいいなとかそんなんじゃ」
「……くっ……ははっ」
「なっ!? も、もう、そんなに笑わないで!」
 珍しく、アルベルトが心の底から笑っている。それはまるで、子どものようでいて。
「あっ……!」
 ひどく動揺して、波に足をとられてしまった。
「輝っ……!」
 アルベルトが咄嗟に手を伸ばすが、結局二人そろって沈んでしまう。
「ぷはっ……!」
 二人がなんとか顔をあげたところで、子どもたちがすいすいとこちらに泳いできていた。
「どうだ!」
「こほっ……ああ、はい。すばらしい泳ぎぶりですね」
 アルベルトが子どもたちの頭をなでる。 
 それをじっと輝が見ていると、アルベルトがこちらにも手を伸ばしてきた。
「輝、何ともありませんね? よかった」
 ぽんぽん。
「なっ……!?」
「え……?」
 ふと頭に触れたあたたかさに、思わず過剰反応してしまった。
 だが、アルベルトは涼しい顔をしている。
「いえ、何でも……」
 子どもたちへの扱いと、まったく一緒のような気がする。
 それが、自分には新鮮なのかもしれない。
 だからきっと、戸惑ってしまったのだ。
 ――たぶん。 
 

●待ち人

『信楽・隆良』は、二人の子どもたちの前で膝を曲げた。
「あたしは隆良だ、よろしくな!」
 それと同時に、『トウカ・クローネ』も屈んで子どもたちと目線を合わせる。
 ――その動作は、随分しっくりとくるようになっていた。
「俺はトウカ、です」
「おれはしんじ!」「ぼくはさとる……」
 元気な男の子と、大人しげな男の子がこちらをじっと見つめてくる。
 隆良は、明るく話し始めた。
「何しようか!」
「えと、その……」
「お、何かしたいことがあるのか? さとる」
 隆良が先を促すと、さとるはゆっくりと声を発した。
「ぼく……泳ぎを教えてほしい、です」
「あ、おれもー! 泳げないんだ!」
「そうか! じゃあ早速泳ぐ練習だ!」
 すぐさま入水しようとした隆良だったが、ふとトウカの方を見る。
 彼は子どもたちを気にしているにもかかわらず、動き出すことに戸惑っていた。
「ほら、一緒に遊ぼうぜ」
 そんなトウカを、隆良は笑って手招きした。

「指導の経験はありませんが……」
 海中に入ったところで、トウカが自信無げにそうつぶやく。
 隆良はその様子にまた笑って、大丈夫だとトウカを励ました。
「あたしらが引くから、思いっきりばしゃばしゃするんだぞ! といっても、突然だとよくわからないよな」
 隆良がトウカの手をつかむ。
「まずはお手本見せるからな!」
 隆良は、トウカに手をあずけて滑らかに泳ぎだす。
 体のどこにも力が入ってない。綺麗な泳ぎ方だ。
「わーお姉ちゃんかっけー!」
「よし! じゃあこんな感じで練習してみるぞ!」
 二人は、子どもたちの元へ駆け寄る。
 そのとき、ぽつりとトウカが言葉を発した。
「タカラの手、やっぱり小さい……」
「そ、そうか……?」
 あれ、やっぱりってなんだ。隆良はその疑問から、以前、手を繋いだことを思い出した。
 顔が火照る。これは、夏の暑さのせいだろうか。

 びくびくと身体を強張らせるさとるに、隆良は声をかける。
「さとる。水に顔つけるの、怖いか? でもな、水の中ってすげー綺麗なんだぜ。泳いでる魚も見つかるかも。
 ゴーグルつけてりゃ大丈夫だって。泳げるようになって、先生もびっくりさせてやろうぜ」
 隆良の言葉で、さとるの表情が少しだけ明るくなった。
 表情の機微がわかりにくい眼の前の少年に、トウカの姿が重なった。
 さとるを気にかけながらも、隣を見る。
「トウカ! ちゃんと名前を呼んでやるんだぞ!」
「……しんじ、くん」 
「しんじでいい!」
「し、しんじ……つかまっててください」
「おうっ!」
 ぎこちないながらも、名前を呼んで泳ぎ指導をするトウカ。
 しんじの体には力が入りすぎていて、沈みそうになる。
 すぐさまトウカがその体を抱き上げる。
「わー高ーい!」
 はしゃぎだすしんじ。
 トウカも、そんな少年を見てわずかながら口元を緩めていた。


●砂の戯れ

 近づいてくる子どもたちに、満面の笑みを見せる『淡島 咲』。
 憧れであるウィンクルムのイメージを壊さないように、とさっそく意気込んでいる。
「サクは子どもが好きだったな」
「あ、はい! 昔は私も妹もウィンクルムの話を聞いて憧れたことがあったので、子どもたちの気持ちはよくわかるんです」
「そうか」
 咲に反し、『イヴェリア・ルーツ』は物憂げだ。
「はじめまして! たつやです!」「ちえですー」
「はい、はじめまして。私は咲って言います。こちらはイヴェさん」
「……サク。俺の名前」 「いべさーん」「いべさーん」
「…………!?」
 イヴェリアが何か言いかけるも、「いべさん」というあだ名が定着してしまった。
「あ……す、すみません、イヴェさん」
 咲が先ほどの自分の言い方に気づくが、訂正する彼女の声はもう届いていない。
「いい。サク」
「で、でも……」
「さっそく遊ぼー! 咲ちゃーん、いべさーん!」
 子どもたちは、先生が貸してくれたビーチボールを高々と上げた。

「あきた―」
「咲ちゃん、いべさん。次は砂遊びがいいー」
 ビーチボールでしばらく遊んでいた咲たちだったが、何の前触れもなく今度は砂浜へと駆け出す子どもたち。
「ま、待ってくださーい」
 良い様に振り回されている咲だが、それでもやはり笑顔は絶えない。
「サク、大丈夫か?」
 すでに好き勝手に砂の城を作り出した子どもたちを眺める咲に、イヴェリアが問う。
「え? 何がですか?」
 咲が心底楽しそうな顔でそう尋ね返すと、イヴェリアはなんだか安心したようだった。
「……いや、なんでもない」
「そうですか?……ふふ」
 咲は、夢中で砂をつかむ子どもたちを優しく見つめる。
「子どもたちは本当に可愛いですね……」
 そこでふと、とある疑問が咲の中に浮かんだ。
「あの、イヴェさんって、どんなお子さんだったんですか?……きっと、可愛らしいお子さんだったんだと思うのですが」
 そんなことを聞かれるとは意外だったようで、イヴェリアは少しだけ目を見開いた。
「俺は、あまり可愛げのない子どもだったんじゃないだろうか?……はしゃいだりした記憶があまりない」
 常に落ち着いているイヴェリア。少年のころから、そうだったのだろうか。
「はしゃいだりしなかったのは、親が厳しい人だった、というのもあるが」
 そう告げる横顔がなんだかさみしそうに見えて、咲は何か言葉をかけようとする。
 だがそれより早く、微笑しながらイヴェリアが言葉を続けた。
「サクの子ども時代は……可愛かったんだろうな……」
「ええっ!?」
 不意打ちに顔を赤らめる咲。
「咲ちゃーん、いべさーん。こっちきてよー!」
「……やはり子どもは元気なのがいいな。サク、残り時間もいっぱい遊んでやろう。俺もできる限り頑張る」
「は、はい……!」
 イヴェリアの表情はすっかりいつも通りだ。
 だが、咲の赤面はなかなか戻らなかった。


●王子様の隣

『リゼット』と『アンリ』の水着姿を見て、二人の少女――まどかとみきがきらきらと目を輝かせている。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんのみずぎってーぺある」「ペ、ペアルックじゃないわよ!」
 ませた少女に思わず突っ込みを入れるリゼット。
 だが、少女たちは聞いていない。
 傍では、やたらと気合の入ったアンリがちょうど準備運動を終えたところだった。
「何怒ってんだリゼット。力抜けよ、普段の仕事よりずっといいじゃねぇか。
 それにウィンクルム、いや、王子たる俺様に憧れるとは、なかなか見どころがある!」
「わーおうじさまー」「きゃー」
 少女二人の声に、アンリが最高潮の盛り上がりを見せる。
「好きなだけ遊んでやるから、どんどんこい!」
 アンリは、ビーチボールを持って砂浜を駆け出した。

「いくわよー」
 リゼットは子どもたちが打ちやすいように、ふんわりと返すよう心がけた。
 だが、一方でアンリは結構高めにボールをあげている。
「ちょっとアンリ……」
 諭そうとしたが、そこで子どもたちの様子に気づく。
「あーもうちょっと。王子さま。もーいっかい!」
「よーし。いくぜーっ!」
 決して楽ではないはずなのに、まどかもみきも懸命に手を伸ばす。
 そして見事、二人ともアンリのボールを打ち返してみせた。
「すっげーな! よくやった。まどか! みき!」
「きゃー」「わー」
 少女たちの頭を、かいぐりかいぐりなでてやるアンリ。
 いつもは自分が子どもっぽいのに、その表情はまるで素敵なお兄さんのようだ。
 リゼットは、それを見てうらやまし「……くなんてないわ!」と自分の感情を打ち消した。
「な、なんだよリズ」
「な、なんでもないわ! さ、続けるわよ!」
 その瞬間、アンリは意味ありげに笑った。
 腰をひねり、リゼットのもとに勢いよくスパイクを打ち出してきた。
「よけんなよー」
「ちょっと! どうしてそんなに強く打ってくるのよバカ!」
 アンリはすぐさまボールを拾って、にやにやと笑っている。
「ウィンクルムだったら、これくらい返せないとな?」
 わかりやすい挑発に、リゼットはむきになって乗る。
「返せるわよ、返して見せるわよ!」
「あー言っておくが、意地悪じゃないぞ? 愛情表現だ」
 それを聞き、怒りで顔を赤くしていたリゼットは、今度は別の意味で頬を赤くする。
「な! 何が愛情表現よ! あんたのはいつも直球すぎるのよ!」
 アンリは、再びビーチボールを構えた――。

●子どもたちとの別れ

「かんせーい!」
 残り時間が迫る中、なんとか砂の城を築き上げた面々。
 子どもたちが上機嫌で咲たちを見上げる。
「咲ちゃん、いべさん。こことね、ここがつながってるの」「手をいれてみてよ!」
 子どもたちに急かされて、咲とイヴェリアはそれぞれ向かい合う穴の中へ腕を伸ばす。
 咲が伸ばした指先と、イヴェリアの指先が砂の城内でぶつかる。
 当然である。だが、咲はその感触に驚いてしまった。
「わっ……!」
 反射的に手を動かしそうになった咲を、すぐさまイヴェリアが止める。
「サク。砂が崩れる」
 ぎゅっと手をにぎられ、再び顔を赤らめる咲。
「イ、イヴェさん……」
「サク……?」
 イヴェリアといえば、いつもと同じ表情。
 咲は、一人指から伝わってくる熱に翻弄されていた。

 気をとりなおして、咲とイヴェリアは屈んで子どもたちにブレスレットを差し出す。
「ありがと!」「わーお話といっしょだ!」
 無事今回の役目を果たせたことに、ほっとする咲。
 しかし、最後に爆弾が落とされる。
「じゃあまたね。せんせー咲ちゃんといべさんがねー!」「わたしたちのつくった砂のなかでーいちゃいちゃしてたー」
「え、ええーっっ!?」
 結局終日子どもたちに振り回された咲。
 だが、やっぱり子どもたちは可愛いと思った。


 輝とアルベルトがブレスレットをつけてあげると、子どもたちは嬉しそうに腕をふった。
「わーい!」「ありがとー!」
「ふふ、喜んでもらえてうれしいわ」
 アルベルトはブレスレットから目線を輝へとうつし、目を細めて語りかけてきた。
「輝も昔、こういう物が好きでしたよね」
「え……? どうして、知ってるの?」
 記憶力にはわりと自信がある。
 それなのに、まったく思い出せない。
「さて、どうしてでしょうね」
 こちらを試すような、鋭い金色の瞳。
「……腹黒眼鏡」
「おや、またもやそんなほめ言葉を」
「…………」
 今日は色々なアルベルトを見た気がする。
 子どもと戯れる姿。無邪気に笑う姿。そして、いつもと同じように自分をからかってくる姿。
 もっと、彼のことが知りたくなった。


「そろそろ時間か」
 隆良がそう告げると、子どもたちの不満げな声があがる。
「あたしも、えー! だよ。でもな、もう帰らないとお父さんお母さんが心配するぞ」
 子どもたちは、その言葉で大人しくなった。
 そしてなぜか、トウカもその言葉に少しだけ瞳に不安げな影を落とす。
 その様子が気になったが、隆良は子どもたちとすぐ向き合った。
「っと。へへ、その代わり、だ。プレゼントだ、大事にしてくれよ」
 ブレスレットを嵌めてあげると、二人の少年は笑顔を見せてくれた。
 そこで先生の声がかかる。
 さとるが、遠慮がちに隆良たちを見上げた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん。あの……もう、会えないの?」
「そんなことないぞ! もうあたしたちは友達だ。だからまた、遊ぼうぜ!」
「うんっ!」「おおっ!」
 隆良の言葉に安心して、少年たちは歩き出す。――彼らを待っている、あたたかい家族のもとへ。
「……待っている人がいるなら、ちゃんと帰らなきゃな」
 夕暮れが、隆良の心にほんの少しだけ寂しさを運んでくる。
「……タカラ」
 トウカの声に顔をあげると、彼は青の瞳を揺らしながらゆっくりと言葉を紡いだ。
「タカラの帰りが遅ければ、俺が心配します。俺が、待ってます」
「……ありがと、な」
 お礼の言葉は、震えていた。


 子どもたちが帰る前に、リゼットとアンリは用意していたブレスレットを差し出す。
「今日は楽しんでもらえたかしら。私達、そんなに特別じゃなかったでしょ?……このブレスレットは、友達の証よ」
 少女たちは、ブレスレットを大事そうににぎりしめてくれた。
「おい、ブレスレットだけでいいのか? なんなら俺様のサインもつけてやってもいいぞ」
「誰があんたのサインなんて欲しいのよ!」
「わーほんとー?」「ほしいー」
「…………」
 二人の少女は、すっかり王子様のファンとなっているらしい。
 なんだか今日はすべてアンリにもっていかれたと思っていると、少女たちがリゼットにこそこそと話し始める。
「ねえ、お姉ちゃんはさっき、とくべつじゃないっていったけど」
「うん、ちがうよね」
「え……?」
 少女たちの言っていることがさっぱりわからない。
「だってね、王子さまの隣にいるのは、お姫さまでしょう?」
 これも、アンリの洗脳のせいか。
「あのね、二人ともそれは」
 否定しようとリゼットが話始めるのを遮り、二人は言った。
「だって王子さま、頷いてくれたよ」
「うん。それでね、教えてくれたの。『そうだ。俺の、お姫さまだぜ』って」
「え、えええっ!? ちょっと待って二人ともそれって」「あー先生が呼んでるー」「またねーお姫さまー」
「ちょっ……!」
 少女たちはリゼットの制止も聞かず、スキップしながら去っていった。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん! どうもありがとう!」
「今度、またらぶらぶなの見せてね!」
「い、いえ……あれはですね……」
 もごもごとリヴィエラは反論しようとするが、うまく言葉が紡げない。
 ともかく、別れの時だ。
 気を取り直して、リヴィエラは少女たちをまっすぐに見据えながら歌いだす。
 彼女たちは、もしかしたらこの先神人になるかもしれない。
 だが、どうか怖れないでほしい。
 神人になったあなたには、共に在る愛しい人がいる――。
 
 リヴィエラが歌い終わると、ロジェが少女たちに語りかける。
「もし神人となる日がきても、俺達精霊が守るから大丈夫だ」
 それはまるで、リヴィエラが歌にこめた想いに呼応するかのようだった。
「うん……!」「ありがとう……!」
 少女たちは渡されたブレスレットに目を輝かせながら、今日一番の笑顔を見せてくれた。 



依頼結果:大成功
MVP
名前:リヴィエラ
呼び名:リヴィエラ、リヴィー
  名前:ロジェ
呼び名:ロジェ、ロジェ様

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター タカトー
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月08日
出発日 07月14日 00:00
予定納品日 07月24日

参加者

会議室

  • [5]リゼット

    2014/07/11-09:58 

    リゼットよ。連れはアンリ。
    なんだか妙にはりきっていたわ。
    ちゃんと見はっておかなくちゃ…
    よろしくお願いね。

  • [4]淡島 咲

    2014/07/11-02:45 

    こんばんは、淡島咲です。
    パートナーはイヴェさんですよろしくお願いします(ぺこり)

    私も子供が好きなので子供たちと一緒に遊べると聞いて楽しみにしてます。
    子供たちも喜んでくれるといいなぁ…。

  • [3]月野 輝

    2014/07/11-00:23 

    こんばんは。
    私は月野輝、パートナーはアルベルトです。
    初めましての方もお会いした事ある方も、どうぞよろしくね。

    私、子供好きなので今回の参加を楽しみにしてたの。
    担当する子は決まってるみたいだけど、
    できるだけ多くの子に楽しんで貰えるといいわね。

  • [2]リヴィエラ

    2014/07/11-00:22 

    こんばんは、私はリヴィエラと申します。
    こちらのパートナーはロジェ様です。宜しくお願い致します(お辞儀)

    可愛いお子様の為に、泳ぎを教えるつもりでいます。
    わ、私はカナヅチなので、応援を頑張ります!

  • [1]信楽・隆良

    2014/07/11-00:17 

    やっほー!あたしは隆良。こっちはトウカだ、よろしくな!
    へへ、今回は遊ぶのが仕事って聞いてわくわくしてんだー!

    めいっぱい楽しめるといいよな、よろしくな!


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