スタッフSOS!(らんちゃむ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


 バタバタと騒がしい夏の終わり。
段々と気温が下がっていく頃合いになるこの季節、A.R.O.A.本部は大慌てしていた。
…業務についてスタッフに問い合わせをすべく顔を出した貴方とパートナーは、呆然とする。
「うあああどうしましょー!」
「ちょっとなんでこんなのが此処にあるのよ!」
「この在庫どーすりゃいいんですかー?」
…まるで、戦場のようだった。
来るタイミングを間違えたようだと確認した貴方達は、背を向け本部から立ち去ろうとした…その時だ。
足元に襲う ひんやりとした感覚に視線を注げば…ぐったりとしたスタッフが、貴方達の足をしっかりと掴んでいる。

「ま、まってくださ…」

地を這うようなそのかすれた声に、血の気が一瞬引いたのは…言うまでもない。


「はー…もうバッタバッタですよー…」
 なんとか戦場…もといスタッフルームを抜け出せた一人と話をする事ができた。
缶コーヒーを握ったスタッフは、壁にもたれかかるようにしながら貴方達に話始める…どうして、ああなったのかを。
「もう夏も終わり気味でしょう?だから本部内も衣替えだのなんだのしなきゃいけないらしいんですよ」
衣替えだけなら支給された制服を着替えるだけじゃ…と言った貴方達に、スタッフは首を左右に振った。
それだけじゃ終われなかった、そう言ったスタッフは、急に顔色を悪くする。
「冬用の家電とか上司用のあったかチェアとか…いろいろ出そうとしたら…スタッフ用倉庫がシッチャカメッチャカで…!」
両手で顔を覆ったスタッフに、悲惨な光景が広がった事を察した貴方達は、黙って彼女の背中を撫でた。
雪崩が、雪崩がと繰り返す彼女はもう精神が半壊している。

「…おちゃめな上司が余計な物入れてたみたいで…家電出す前に大掃除が大変です」
「なんですかあの隠し物達は…ふざけてるんですかっ…!」

 そうぶつぶつと言った彼女の後ろから、叫ぶような声がする。
視線を向ければ他のスタッフが、鬼のような剣幕で彼女の首元を掴んで…。
「何のんびり休憩してんのよ!」
「ほら行くぞ!」
「うああぁああああっ!助けてくださーい!」
…助ける間もなく、スタッフの彼女は連れて行かれてしまった。
取り残されてしまった貴方達は…今回は何も見なかった事にしようと言い聞かせ、一度本部を後にした。
いろいろ気になる事はあるが…気にしないでおいた方がいいだろう。


 …数日後、日を改めて依頼の確認に来た貴方達が目にしたのは赤文字で書かれた【緊急依頼】の文字。
依頼主はA.R.O.A.本部のスタッフ…内容は。
「…お願いできますか…?」
背後から聞こえる静かな声に驚けば、数日前に大騒動を語ってくれた彼女がいた。
…だがかなり変わっている、というか…目元がとても印象的に変化しているようだった。
依頼書を見る貴方達に向かって、苦笑いを浮かべるスタッフ。
「実は倉庫はなんとかなったんですけど…スタッフ用の倉庫ってもうひとつあったんですよね…はは…はは…」
生きたお化けのようになってしまった彼女がなんだか可哀想に思えてしまった貴方達は、依頼書を手にとって彼女に差し出す事にした。

…だがここでは気づいていないのだ。
第二倉庫が【どういう状態】になっているかを…聞いておくべきだったと。

解説

■目的
スタッフ専用倉庫のお掃除のお手伝いをしましょう!
第一倉庫はどうやらスタッフのみで仕上げる事が出来たようですが…第二は更に悲惨なようです。
皆さんも協力して、これから来る季節に備えておきましょう!
分類や処分はスタッフがしますので、皆さんは中に入っていろいろ出してあげる事から初めて下さい。

■第二倉庫
スタッフ曰く「おちゃめな上司の荷物」が大量に詰まっているようです。
イベントに使う大きなきぐるみや、何処で使うのか用途不明な小物達まで…様々です。
…誰ですか?職務を全うするスタッフ用の倉庫にお菓子隠した「おちゃめな上司」は?
広さはかなりの広さですが、倉庫内にはいくつかの扉があります。
中にいろいろ詰めてあるので…埋もれないでくださいね?
扉は全部で4つ、「衣類」「雑貨」「その他1」「その他2」と割り振られています。

**以下PL情報
散乱する各カテゴリ倉庫内には片付け困難なものがあります。
・巨大なきぐるみが数体待ち構えています
・隠されていたお菓子や高級ワイン・シャンパンなど(ワイン棚ごと出てきます)
・本の間に挟まった貴方(またはパートナー)の写真
・名前の書いていないビデオテープが数本
・【要処分】と書かれた密封ダンボール
・上司の文句が書かれたマル秘ノート

お菓子は食べれるか分かりませんが、ワインやシャンパンは美味しくいただけそうですね!
【交際費】として帳簿に記入すれば問題ないし…飲んじゃいましょうか。
手伝ってもらうのに申し訳ないですが交際費:500Jrをお持ちいただければ幸いです!
未成年の方にはスタッフがジュースを用意しますね?
おいしいぶどうジュースなんてどうでしょう!

片付けて欲しいとは言われましたが、「見るな」「食うな」とは言われてませんよ…?
上司の悪どい貯蓄もろともお掃除してやりましょう!



いろいろ入ってはいますが、ちゃんとお仕事はしてるので許して下さいね。


ゲームマスターより

らんちゃむです。

今回は倉庫内のお掃除のお手伝いをお願いしますね!
倉庫をあけたら待ち構えるように佇む謎の気迫があるぬいぐるみや
何故か本に挟まるパートナーや貴方の写真…ツッコミ要素は満載かと。
大きな荷物があったりしますので、何名かで協力してお掃除を遂行してください!
交際費は出てしまいますが…結構上等のワインやシャンパンが隠されているらしいです
美味しいご褒美の為に、頑張りましょう!

それじゃあ、スタッフと一緒に第二倉庫前でお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  主に「衣類」の扉内担当

雪崩。埋もれる
「わあ!?…ぷ…。え…倉、庫…?」
純然たるツッコミという感想

「男物、女物、シャツ、…!?な、何でもない!ヒューリ来ちゃダメ、だ!」
分類手伝いつつ出し
男物下着には男所帯な為驚かず
が、まさかの女性の…が出た瞬間バッと隠し
こっそり女性スタッフ呼び託す

「わ、わっ!て、天藍さ、ん、助け、て…!」
着ぐるみの重さに今にも押し倒される寸前思わず近くに居た天藍さんに
「リヴィーさん、本あったんだ…けど、ココでいい?」
「出石さん、雑巾足りて、る?」
「あっ桜倉さ、ん、僕も手伝う、よっ」
皆の間駆け回る

「ヒュ、ヒューリ…僕で遊んで、ない、よね…?;」
ワイン美味しく頂くも酔ってよろけたり



かのん(天藍)
  交際費500Jr

主に雑貨扉内の整理
2人で間に合わない大物が出てきた時は近くのウィンクルムに手伝いを頼む
場合により其方にかのんが移動し、其方の精霊に此方に来て貰う
手伝いに行くも有り
手袋とマスク人数分用意
目薬持参

中見て
(溜息)頑張りましょうね
雑貨の扉開け
絶妙に重なってた雑貨雪崩に巻き込まれ天藍に助けられる
あ、天藍、ありがとうございます
気を付けるように言われ素直にうなずく
埃のせいか目がごろごろします

庫内でワイン等が発見され次第、グラス等雑貨の中から発掘し打上用に別枠で保管
片付けですから、業務に不要な物は処分して良いんですよねw
天藍も好きなので余った酒類は持ち帰るつもり
マル秘ノートは秘密裏に本人へ返還



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:
(※掃除は下手・エピ『本木に勝る絆なし』の出来事で終始ギクシャク)

『その他1』の扉の部屋のお掃除をしますね。

この部屋は本だらけなのですね…あら?
(本のページの間から、ロジェの写真がはらりと落ちる)
あの、ロジェ様、これは…?
え…契約前の…私と出会う前のロジェ様…? 何だか悲しい瞳…
あの、ロジェ様は…私と契約して、幸せ…ですか…?
適合する神人が私で…良かったです、か…?

(寂しげなロジェの頬に背伸びして触れ、柔らかく微笑む)
ロジェ様…いいえ、私は貴方のお傍にいられて幸せです。
はい、お掃除を終わらせて、ぶどうジュースをご馳走になりましょう。



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  倉庫整理ならバイトで何度かしたことあるわ
中を覗いてみて…きぐるみと目があった
これはなかなか強敵そうね

その他2
まずは全体を見渡して物の位置を大体でいいので把握
邪魔になりそうな大きい物は一旦隅にどけて
ついでにはたきをかけて埃を取っちゃいましょう
床が見えてきたわ!ここも掃いて綺麗にするわよ
その後物を整頓して片づけね
手慣れてるのね、頼もしいわ
あら?これ何かしら…?こ、これは…!

『掃除中片付けようとしていたアルバムをつい見てしまう』
の法則が発動しかけたけど、なんとか終わったわね
ワインが出てきたの?もちろんいただくわ
はい、交際費の500Jrね

…レム!?まさか匂いだけで潰れちゃったの?
本当にお酒に弱いのね…



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ※弄りアレンジ歓迎

初任務!…ちょっと違う?
スタッフさん達に為に頑張ろうね、羽純くんっ

とはいえ、掃除は少し苦手なのです…
先輩の皆さんの開けた扉を確認して、一番物が多そう・大きな物がある所で、物を運ぼう
力仕事なら、いつもお祖父ちゃんのお弁当屋さんで配達もしてるし、自信あります!

…って、どうして、私が通るだけで物が雪崩れてくるんですかーッ?
下敷きになる…!と思ったら、羽純くんが助けてくれました
羽純くんてば、本当に王子様だっ

迷惑掛けてごめんね
有難う

羽純くんの助言通り、彼の指示に従って動いたら、スムーズ!
凄いなぁ、羽純くん…!

無事終わったら、お礼を言います
羽純くん、有難う!
お礼にコレ(肩たたき券)あげる



 某日、スタッフの救援に参加したウィンクルム一同は第二倉庫前に集合していた。
倉庫の鍵を持って駆け寄ってきたスタッフに視線を向けると、一同は小さく頭を下げる。
参加したウィンクルムの他に、スタッフ数名を揃えて第二倉庫の整理は開始される事となった…だが。

「あの、本当に大丈夫ですか?」
「えぇ?らいじょーぶですうふうふ」
「…気にしないで下さい、この子第三倉庫徹夜明けなんで」

スタッフの一部は、白目を向きながら不気味に微笑んでいたのだ。
心配そうに声をかけた桜倉歌菜は、スタッフに苦笑いを浮かべる…あの状態でも仕事をしなきゃいけないなんて可哀想だとも思った。
「さっさと終わらせれば休ませてあげられるだろう」
「そっか!…よーし頑張るよー!」

苦笑いを浮かべた桜倉に、パートナーの月成羽純が告げると、桜倉は納得するように頷いた。
彼女の頑張るという声につられて、何人かが拳を上に上げ、第二倉庫に入っていった。



 衣類の倉庫に入った篠宮潤とヒュリアスは当たりを見渡した。
細い一本道だけは確保されているものの、他は全て大小様々なダンボールと衣装ケース。
乱雑に積み上げられたそれらで作られた壁は…とても危険そうだった。
「結構多いな」
「そう、だね…ど、どうし、ようか」
二人では対処しきれないと判断し、篠宮は待機してたスタッフ数名を衣類倉庫に招いた。
どのダンボールから運び出そうかと全員で動かせそうなダンボールから外へ運び込んで行く。
「…これ、動き、そ…う…あれ」
篠宮が掴んだダンボールは少し飛び出していた小さめのダンボール。
掴んで引っ張ったもののうまく出てこないので、ぐっと力を込めて引っ張ると…思ったより細長い。
小さいダンボールだと勘違いして引っ張ってしまった篠宮の上に、ダンボールがゆっくり落ちてくる。

「んぐ…わあ!?」
「篠宮さん!?…篠宮さーん!」

慌てて呼びかけられるスタッフの声にヒュリアスが振り返ると、奥のダンボールが崩れている。
そのダンボールの間からは、見覚えのある手が隙間から飛び出していた。
「まるで地上に這い上がろうとしたゾンビではないか…いきなりお決まりなことをせんでくれんかね」
手を掴んで引き上げれば、ダンボールの山から這い上がる事が出来た篠宮はほっと息を吐いた。
スタッフ達の協力もあって、大半のダンボールは処分品として片付ける事に成功する。
篠宮はダンボールを開けては分かりやすい所に中身を記していく作業を手際よくこなしていく。
男物、女物、宴会用衣装にイベント用衣装…一番奥にあったダンボールに手を伸ばして勢い良く開ける。

「あとは、これ…っ!」
「?…どうかし」
「な、何でもない!ヒューリ来ちゃダメ、だ!」

両手を必死に振るパートナーに、ヒュリアスは少し首を傾けたあと「了解」と答えた。
背を向けるヒュリアスに安堵した篠宮は、ダンボールに慌てて名前を書いて、スタッフにこっそり渡した。

「あ、あの…これっ…!」
「はい、どーも…あらま、まだこんなの残ってたんだね…篠宮さん大丈夫ですか?」
「っ…びっ、くり、した」

ダンボールの端から出ている薄いレースを押し込む篠宮に、スタッフはすみませんでしたと苦笑いした。
以前のイベントで使われたとだけ説明されたが、運び終えた篠宮は箱の中身を見た時のショックが大きすぎて気が動揺する。
「…あんな、薄い、下着…何のイベント、だったんだろう」
「潤、何が薄いのかね?」
「っ!だから、なんでも!ないっ…!」



「これ運べそうですかね…」
「中身が空洞な分軽くはなってるはずだ…っ…俺一人で十分だな」
「それじゃあ外へ…お願いします」
 雑貨部屋に入ったかのんと天藍は順調に中の整理を続けていた。
扉を開けてまず視界に入ったのは…自分達よりも二回り程大きなきぐるみの集団。
ぐったりと座り込んで、焦点が定まっていない瞳でこちらを見つめているようだった。
…思わず息を呑むものの、視線を合わせないように一体一体外へ運び出す事に…。
天藍に最後のきぐるみを運び出してもらうと、雑貨倉庫内は思ったより広くなった…これで動きやすくなるだろう。
ほっとしたかのんが運び出す天藍に視線を向けた その時だった。

「っ!」
「…どうかしたか?」
「っ……い、いえ?」

……天藍の抱えるうさぎのきぐるみと、パチリと目があったような気がした。
作業に戻ろうと視線を逸らすかのんに天藍は首を傾げるものの…気に留めず外へ運び出した。

「天藍さんどーもです…うわなんすかそのきぐるみセンス無っ!」
「…スタッフの倉庫から出て来たんだからそっちの所有物だろ」
「あ、そっか…でもこんな狂気じみた顔どこで使ったんだろ…」

「小物が多そうなのでお手伝いに来まし…うわっ、こわっ!」
「雑貨は処分の仕分けが大変だって聞いたんだが…こわっ」

並べられたきぐるみに、一旦外へ出てくる者達を驚かせる程
…狂気じみたきぐるみを、A.R.O.A.本部は何に使ってたんだと天藍は眉間にシワを寄せた。
 
 小物整理の助太刀にやって来た桜倉と月成は天藍と共に倉庫内へ。
テキパキと進めるかのんの少し離れた場所で、二人も作業を始める…細々した者が結構多いようだ。
かのんが目の前にあった箱を開けて中身を調べている時だった…上から、コトリと音がした。
その音に気づいて上を見上げれば、箱を手にとった小さな衝撃で上のダンボールが落ちてきていた。
思わず頭をガードするかのん…刹那、中から飛び出す機械ネジの金属音が倉庫内に響いた。

「…あ、天藍」
「大丈夫か?かのん」
「えぇ…ありがとうございます」

 間一髪、落ちてきたネジは一つもかのんに当たらずに済んだ。
かのんの腕を掴んで抱き寄せる天藍に、感謝を述べると立ち上がる。
桜倉の声に視線を向けると、大丈夫だと手を振った。

「はーよかったぁー…にしても危ないなー!こんな高い所にネジまとめて置くなんて殺す気かって…うわああ!」
何かに驚き尻もちをついた桜倉に、計画性も無く積み上がったダンボールは容赦なく落ちてくる。
逃げようとしても驚かされた何かから視線を外せず、桜倉はぐっと目を閉じ、衝撃を待った。

「っ…、怪我は無いか」
「は、羽純くん!」

 衝撃が訪れる前に、ふわりと自分の前に立ってダンボールから庇った月成。
そんな彼の姿に、窓からうっすら差す陽の光が重なって…桜倉には、正義のヒーローに見えた。
手と掴み立たせた月成に、桜倉は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ありがとう羽純くん…羽純くんてば、本当に王子様だっ」
「…はあ、お前は自分で考えて動くな」
「いたっ!…で、デコピンしなくてもっ…!」
額の痛みに涙を浮かべる桜倉に、月成はため息混じりに行動に気をつけるよう注意する。
分かっているのに…と呟く桜倉に、指をさして提案した。

「お前は俺が指示する通りに動け、いいな?」
「羽純くんの指示?」

 そう言われてたと思えば、少し軽めのダンボールから桜倉に運ばせる月成。
…先程までのごたごたがまるで夢だったように、崩れてきたダンボールの周辺は綺麗になっていった。
どれを運べばいいかと聞く度、桜倉は楽しくなって笑みが溢れる。
一緒に大きなダンボールを運び終えると、入り口付近は綺麗になった。

「わぁー…!あ、そうだ羽純くん、さっき羽純くんの写真みつけたけどもらって」
「は?俺の写真?処分だ処分…要処分だ」

桜倉から写真を奪い取ってビリビリに破った月成は何処にあったと問いかける。
少しだけ口ごもった桜倉は、月成に正直に答える事にした。

「…月刊【眩しすぎて目が潰れるイケメン特集7月号に載せる写真とプロフィールまとめ】ってノートに…」
「なんだそれ…」
何処で撮られたかも思い出せない写真に、破り捨てて正解だったと月成は思った。


「入り口は終わったみたいだな…かのん、奥は…」
 奥の整理を進めていた天藍とかのん。
振り返りパートナーに声をかけた天藍は、俯いて目元をこするかのんに気づく。
こする手を掴めば、かのんの目の周りが少しだけ、赤くなっていた。
「こら、手で擦るな
「目が…ごろごろしちゃって…さっきより酷いんです」

奥に進めば進む程。埃の量が多くなっているのだろう。
いくらマスクと手袋を使用していたとしても、目元までは守りきれなかった。
辛そうに瞬きをするかのんに、天藍は小さくため息を吐いた。
「目薬持ってただろ?貸せ」
「右のポケットに…」

「じっとしてろよ」

こするのを我慢しているかのんのポケットから、彼女が愛用している目薬を取り出す。
上を向かせ頬に手を添え動かないようにして…天藍はかのんに目薬をさしてあげた。
瞳に入った目薬は、ひんやりと目元を冷やし埃と共に外へ流れ落ちる。

「かのん、さん!お手、伝いに…」
「入り口終わりましたよー!あと実はそこにもう一つ何……か…」

「…何、してるんだと聞いていいか?」

薄暗い倉庫の奥にやって来た篠宮と共に桜倉、月成が合流する。
奥にいた二人に声をかけようとしたが、それは途中で言葉が切れてしまった。
…かのんの頬から流れる涙に、三人は硬直する。
動揺する桜倉と篠宮に、月成は天藍の手元にあった目薬に気づき納得した。
頬を赤らめあたふたする二人に説明しようとしても、聞いてはくれないだろうと自己解決した。

「…ご、誤解させちゃいましたね」
「いいんじゃないか?」
赤くなる頬を手で隠すかのんの肩を抱いて、天藍は余裕の笑みを浮かべた。



「…たしかさっき歌菜さんがもう一つ何かって」
「あ!そそそそうなんですよ!さっきそれにビックリしちゃって…」
 数分後、奥の整理を終えた二人が入り口にやって来た所で整理出来たか再確認をした。
桜倉の言った言葉を思い出すようにかのんが問いかければ、桜倉は思い出したのか月成の後ろに隠れる。
ダンボールとダンボールの隙間に、確かに見たのだと言った。
「…キラって、目が光ったんです」
「だから尻もちついたのか…よし」
「手伝う」
 天藍と月成で桜倉が見たという目の正体を探るべく、ダンボールを一つ一つどかしていく。
開けた先は壁が見えて、部屋の隅だと言う事は分かった…が。
目を見開き、こちらを見て微笑むそれを見て、一同は思い出す小さく悲鳴をあげた。

「…ここにもきぐるみが」
「っ?…危ない!」

月成の言葉に咄嗟に反応した天藍が、頭上から降ってきた何かを条件反射で蹴飛ばす。
パリンと音を立てて割れたそこからは ほんのり甘い香りが漂った。

「…ワイン、かな」
篠宮が見たのはワインボトルの破片、天藍の頭上に降ってきたのはワインボトルだったのだ。
奥にはワインボトルの入ったケースがあり、どうやらまだ中に数本あるようだ。
ワインとグラスを手に入れた一同は、終わったら皆で…と話していた。

「あ」
「天藍?どうかしまし…」
ワインを見つけてラッキーだった雑貨倉庫の整理。
だが天藍が咄嗟に蹴った先にあったのは…先程見つけた、目を見開いたきぐるみで。
白い記事に、赤ワインがだらりと染みている。

とても 怖い状態に仕上がっていた。


「っうあああああー!!」



「雑貨部屋が随分騒がしいねえ」
「…遊んで無いだろうな」
 出石香奈とレムレース・エーヴィヒカイトはその他2と書かれた倉庫にいた。
開け放たれた扉の向こうから聞こえる悲鳴に、二人共作業の手を止め首を傾げる。
…気にはなった、だが後で確認すれば大丈夫だとうと、二人はその悲鳴を聞きながら作業を進めた。
「…他の部屋からもきぐるみが出たのに、なんでここにもあるんだ」
「これは…強敵そうね」
「…コイツ目の焦点が合っていないぞ」
「口の端だけ上がってるとは…ニヒルだねえ…」

 ホラーハウスでもやるつもりだったのかしらと、きぐるみを担いで外へ運び出す出石。
途中何度かスタッフが協力に入ったとはいうものの、二人の整理のペースはかなり早かった。
様々なものが置いてあるが、二人はまず大まかな地図を自分達で作成し、何処に何があったかをメモする。
そして不必要な物をスタッフに聞きながら作業すれば、地図に記した荷物の三割は無くなってしまった。
圧迫感のある倉庫内が、広く感じる。

「さーて、あとはこの未分類の仕分けをし…あら?これ何かしら…?」
「ん?香奈、何か見つけたのか?」
手前に置いてあったダンボールに書かれた【要処分】の文字に二人は顔を見合わせる。
乱暴に赤いペンで書かれたそのダンボールは、要処分と書かれたわりに今にも開きそうになっていた。
…手が止まった出石だが。

「そのまま処分でいいんじゃ…あ!」
「中身なくちゃ仕分けできないわ」

レムレースの制止を無視しあっさり開けてしまった出石は中身を取り出した。
黒いファイルは数冊あり、どれもぎっしりとまとめられている。
…見た目は重要そうなファイルだが、これを処分していいのだろうかと疑問に思えた。
二人は恐る恐る、手にとったファイルを…開く。

「こ、これは…!」

重なる二人の声は、驚きと動揺と……困惑を示していた。
「…【ウィンクルムの精霊で作る!ドキドキ☆イケメンパラダイス計画書】…その1」

出石の言葉に体中に走る寒気を、レムレースは抑えるので必死だった。
処分しようと隣にあったもう一冊を掴むと、ふっと寒気が消える。
「…【ウィンクルムの神人で作るワクワク☆お色気ユートピア計画書】…その3」
走り抜ける寒気に振り返った出石に、レムレースは表紙絵を見せる。
…可愛らしい服を恥ずかしそうに着ている女の子が書かれていた。
「…見てから処分ね」
「そっちも後で見せてくれ…計画主を知りたい」


 他の倉庫はとても騒がしく、楽しそうな笑い声や突如聞こえる叫び声。
そんな声がその他倉庫1に入ったリヴィエラとロジェに聞こえても、二人は反応を示さなかった。
…いや、示すことが出来なかったのが正しいだろう。

「…そっちは終わったか」
「も、もう少しです…」

 本棚にしまいきれなくなって積み上げられる本の整理をしている二人は、必要以上の会話をしなかった。
いつもなら話せるはずが、二人には見えない溝が出来てしまっていて…近寄りたいけど、近寄れない状態が続いていた。
…どうにかしたい、そう思う度に思い出される。
強く掴まれた腕 人に気づかれない木陰 …息が出来なくなったあの一瞬と。
射抜くように真っ直ぐ…だけどいつもとは少しだけ違う…パートナーであるロジェの瞳。

「っ…はあー…」

リヴィエラは思い出すだけでも胸が傷んで、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
離れた場所で作業するロジェの姿を見て、テキパキと進める彼をじっと見つめてしまった。
本当は一緒に、本当は傍で。

「…いけませんいけません…!作業に集中しなくては…っ、あら?」

首を思いっきり左右に振ったリヴィエラは目の前にあった本を勢い良く掴む。
すると本の隙間から はらりと一枚の写真が落ちた。
拾い上げた拍子に写真を見てしまったリヴィエラは、動きを止めてしまった。
そこに写っていたのは先程まで見つめていた人…どうにか、このトゲトゲした関係を治したいと願った人。

「…あの、ロジェ様」

 一歩踏み出すキッカケになった写真を胸に抱き、リヴィエラは作業を進めるロジェに声をかける。
挟まっていた本と写真を渡すと、ロジェは写真に視線を落とした後、持ってきたリヴィエラに視線を向けた。
「あの、ロジェ様、これは…?」
「ああ、これは…君と出会う前の俺だ…この本は、精霊の名簿だな」
自分と契約する前の彼の写真に、リヴィエラは驚いてしまった。
写真に写るロジェは普段自分が知っているロジェでは無く…同じ姿をした別人とさえ思えてしまう。

「何だか悲しい瞳…」

ぽつりと口から出て行った心からの言葉に口を抑えると、ロジェは眉を下げ笑った。
「あの時の俺は、オーガに両親を殺され、本部に引き取られ…自分の無力さに打ちひしがれていたんだ」
「無力だなんて…そんな」

いつか仇に復讐をする為だけに生きてきたと語るロジェにリヴィエラの胸が痛む。
さっきまでの痛みとは違う、重くのしかかるような…痛み。
写真を見てあの頃の話をしてくれるロジェの言葉を、リヴィエラは聞き逃すまいとしっかり聞いた。
復讐するには強さを求め、その強さを発揮できるその日を待ったと彼は語る。
「そして俺は…君の両親も救えなかった」
「…あの、ロジェ様は…私と契約して、幸せ…ですか…?」
震える声に、ロジェはリヴィエラを見れば…彼女は苦しそうに胸を抑えていた。
絞り出されるその言葉に、彼は驚きを隠せない。

「…何、言って」
「適合する神人が私で…良かったです、か…?」

いっぱい足手まといになった、いっぱい好きだと思った…それと同じだけ、いやソレ以上に。
嫉妬してヤキモチを焼いて…彼を傷つけてしまった。
後悔していないわけがない、どこかでそう思ってしまったリヴィエラはやっと口から出て行った質問に震えた。
聞いてはいけないかもしれないのに…聞かずには、いられなかった。

「っ…私…」
「…復讐しか考えず、闇雲に剣を振った俺を…君は好きだと言ってくれた」

震える肩に暖かな手が重なる。
顔を上げれば、自分に真っ直ぐ向き合ったパートナーがいて。

「そんな俺を、君は好きだと言ってくれた…適合するのが君で良かったに決まっている…!!」
「ロジェ様…っ」
「…だが、この質問は俺が君に問いたい…俺は、君を沢山傷つけてしまっただろうから」

目を伏せるロジェは、リヴィエラからすっと手を離す。
写真のロジェとは違う悲しい瞳を見たリヴィエラは、背伸びをして両手を伸ばす。
「っ…リヴィー…?」
頬に触れられた柔らかな手に驚いたロジェ。
傷つけてしまった、そう言ったロジェをリヴィエラは全否定した。
「ロジェ様…いいえ、私は貴方のお傍にいられて幸せです…貴方だから、幸せなんです」

穏やかに微笑んだその顔を、ロジェは久しぶりに見た気がした。
…ふと自分の心に温かい気持ちが溢れるのを感じ、目を閉じる。

「…そうか、ありがとう」
いつもなら当たり前のように出てくる感謝の言葉も、今日は出て行くのに時間がかかった。
にっこりと笑うリヴィエラにつられ、微笑むロジェは写真を本に挟んで棚にしまった。
「さあ、早く掃除を終わらせよう」
「はい、お掃除を終わらせてぶどうジュースをご馳走になりましょう」




「おわったー…でか!…強敵がこんなにいたとはね」
「…随分と出てきたものだな」

処分品を外に出して、第二倉庫の整理は無事終了した。
かのん達が見つけたワインケースは、スタッフが別室でお茶菓子とぶどうジュースと合わせて用意していると言う。
処分品を眺める一同は、これをほぼ自分達でやったのかと感動していた。

「危なかったねー…ネジが降ってくるわワインが降ってくるわ」
「た、大変…だった、んだ…怖かっ、たし…」
桜倉と篠宮の状況説明に驚いたリヴィエラは処分品の間から顔を出すきぐるみを見て固まった。
あわててロジェの傍に行くものの、ワインのかかったきぐるみは顔を出したままだ。
「…迫力があるな」
「これ、隙間に挟まってたんですよ」
「なるほど、これに隙間から覗かれてたのか…」
ため息を吐く月成に互いに労いの言葉をかける一同。

「潤さんさっき足ぶつけちゃってたけど大丈夫?」
「まあ…痣になってたら大変ですよ!」
「だ、大丈夫!…こ、これ…くらい、平気、だよ」

神人に心配される篠宮は恥じらいながらもありがとうと言った。
そんな彼女を遠くから見ていたヒュリアスは、顎に手を添える。
「…なる程、必要に迫られればコミュニケーションを取れんわけではないらしい」

スタッフが戻ってくるまで皆の話題は整理してた時に見つけたもの。
出石とレムレースの見つけたファイルに、一同は二人が味わった悪寒を感じる事となったのは…言わずもがな。
要処分と書かれていたので、採用される事は無いだろうと言ってたが…彼等の顔から不安は拭えない。

「皆さーん!打ち上げ準備出来ましたよー!」

目にクマを作っていたスタッフも、最後は嬉しそうにウィンクルム達に駆け寄っていった。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター らんちゃむ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月03日
出発日 09月10日 00:00
予定納品日 09月20日

参加者

会議室

  • [6]桜倉 歌菜

    2014/09/07-01:25 

    初めまして、こんにちは!
    ご挨拶が遅くなっちゃいましたっ
    桜倉 歌菜と申します。
    パートナーは、月成 羽純くんです。

    初の任務(?)が倉庫のお掃除のお手伝い…!
    張り切ってがんばりますよー!
    取り敢えず、一番物が多そうな扉を確認して、お手伝いしたいなと思います。

    …べ、別に掃除っていっても物を運ぶくらいなら、私にだって…(ブツブツ)

    皆さん、宜しくお願い致しますっ
    頑張りましょうねっ♪

  • [4]篠宮潤

    2014/09/06-18:28 

    潤:
    こんにち、は。篠宮潤(しのみや うる)という、よ。
    片付けとお掃除、頑張るよ、よろしく、ねっ。
    僕たちも手が足りないところ、走り回る予定、だけど、
    とりあえず…じゃぁ、「衣類」中心でいこう、かな…

    ヒュリアス:
    精霊のヒュリアスという。よろしく頼む。
    ……倉庫に「衣類」専用の扉がある時点で、どういうことか、と思うがね…
    職員たちの制服以外が出てきたら、容赦なく捨てるとしよう。
    (物によってはきっと神人が必死に止めてるたぶん)

  • [3]かのん

    2014/09/06-11:43 

    こんにちは、かのんと申します
    日頃お世話になっているスタッフの皆さんのお手伝い出来ればと参加しました
    皆様よろしくお願いします
    何だかカオスな収納物があるようですよね、何が出てくるのか少し楽しみです

    天藍:
    何だかロクデモナイ物とか出てきそうだよな、誰だよ仕舞い込んだ奴・・・
    とりあえず雑貨のあたり中心に手を出そうかと思っているが、扉は4つなので1組ずつでって事もなさそうだな、周りの様子見て動くつもりだ
    場所に関わらず男手が必要な物があれば声をかけて欲しい、手を貸す

  • [2]出石 香奈

    2014/09/06-11:41 

    こんにちは、出石香奈とパートナーのレムよ。よろしくね。
    倉庫掃除は昔少しやったことがあるの。
    あたしたちは『その他2』の扉に行こうかしら。
    その他って言うからには、きっと色々入ってるんでしょうね…

  • [1]リヴィエラ

    2014/09/06-11:00 

    リヴィエラ:
    こんにちは、私はリヴィエラと申します。
    皆さま、宜しくお願い致します(お辞儀)
    お、お掃除…は、苦手なのですが、少しでもお力になれればと…

    ロジェ:
    俺はこいつのパートナーのロジェと言う。今回はどうか宜しく。
    俺は掃除が好きだ。散らかっているだけで片付けたくなるよな…(ブツブツ)
    今の所『その他1』の扉の部屋に行こうかと思う。
    出来れば本の整理を手伝いたいと思っているよ。


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