人魚姫の願い星(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ルプトー村の人魚姫
「『ルプトー村の人魚姫に会いにいきませんか?』」
ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターが、にこりと笑み零す。
人魚姫の伝説は、地域にもよるがそれなりにポピュラーなものだ。人間の王子に恋をした人魚のお姫さまが、その想い叶わず、最後には泡となって消えるという悲しい物語。
人魚は実在していると言われているけれど、人魚姫に会いにいけるなんて話は聞いたことがない。
首を傾げるウィンクルムたちに気づいて、男は件の『人魚姫』について静かに話し始める。
「タブロス市からそう遠くない場所にルプトーという小さな村があってさ。紙作りに長けた村で。人魚姫は、そのルプトーで作られる珍しい紙のうちの一つの、愛称みたいなものなんだ」
本当の名前は、『人魚姫の願い星』。光に透かすとキラキラと仄か輝きを放つ薄青の紙を、星の形に加工したものだ。『人魚姫の願い星』は、水に触れると煌めく泡となって溶け消えてしまうのだという。その美しさと儚さが、名の由来の一つ。
けれどルプトー村の人魚姫は、世に伝えられる人魚の姫君のように悲しく消えてしまうのではない。
その紙にそっと願いを込めて水に溶かせば、その願いは叶うのだと言われているのだとか。
「今年も例年通り、ルプトーに『人魚姫の願い星』の屋台が出る季節で。巡る星広場が丁度いいかな。綺麗な人魚の像のある噴水があって、願いをかけるのにうってつけだと思うんだ。それに、あそこなら特別なジェラートも食べられるし」
広場で売られているそのジェラートの名は、『人魚姫のお気に入り』というのだとか。『人魚姫の願い星』と同じ淡い青色で、口の中でしゅわりと溶けるソーダ味。ジェラートの中にちらちら光るは、ぱちぱちと弾ける細かなキャンディーの煌めき。夏の暑さを一時忘れさせてくれるようなその味は、ルプトーでしか食べられないものだという。
「と、いうわけで。ルプトー村の人魚姫に願いをかけにいきませんか? ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェールとなっております」
それではどうかいい旅をと、青年ツアーコンダクターはぺこりと頭を下げた。

解説

●今回のツアーについて
ルプトー村の人魚姫に願いをかけにいきませんか?
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(『人魚姫の願い星』やジェラートは別料金となります)
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に町へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。

●『人魚姫の願い星』について
お求めは、ルプトー村の巡る星広場に屋台が出ておりますのでそちらにて。
願いをプランにご記入いただけますと、可能な限りリザルトにて採用させていただきます。
溶かしても水を汚さない特殊な紙なので、願いをかける時はどうぞご心配なく。
その他詳細はプロローグにある通りです。
お値段は1枚20ジェールとなっております。

●『人魚姫のお気に入り』について
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターがご紹介している『人魚姫のお気に入り』があります。
こちらもお求めは巡る星広場にて。
詳細はプロローグにある通りで、1つ30ジェールとなっております。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなるのでご注意ください。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

どうやら私は、星というモチーフが好きなようです。
パートナーと一緒に願いをかけたりジェラートに舌鼓を打ったり、小旅行を楽しんでいただけましたら幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  人魚姫とはまた洒落た名をつけたもんだ
さて、何の願いをかけたものか……
イグニス、アイス気になるならさっさと買ってこい
(小遣い握らせて)
一個でいいからな!

やれやれ……
(紙を日に透かし)
あいつらが。幸福であるように。
……何て言ったらイグニスはどんな顔するのやら
裏切ってまで選んだ道、最後まで貫いてもらわなきゃならん
俺の知らん所で仲良くやってればいい
俺は俺の幸せって奴を探してみせる
(ひらりと噴水に落とし)

おうお帰り、溶ける前に食っちまえ……
(無言でスプーン奪い一口)
ん、割にさっぱりしてるな
なんだよ、ニヤニヤして?
ま、お前が楽しいならいいけどな



シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
  水にまつわる話が多くて涼しそう
とマギを誘う

星巡る広場についたら、まず『人魚姫のお気に入り』を探して二人分購入
マギと一緒に食べながら、広場近くの店を少し見て回るぞ

さすにが紙作りの村だけあって、土産物を扱うような店を初めとして
珍しい紙製品が並んでいれば楽しく見て回る。
お手頃な所でレターセット、少し珍しい所で燃えない紙で作られたランプシェードや
綺麗に染めた紙を何枚も重ねて作った、素朴で可愛らしい人形などがあるかも。

ぐるっと見て回って『人魚姫の願い星』の屋台を見つけたら、これも二人分購入
屋台の主に話を聞いてから噴水へ向かう

しゅわりと泡立ち、噴水の水に溶け消える願い星には
『マギの願い事が叶いますように』


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  一寸した避暑って奴だな
日帰りの旅行もいいかもな

ランスがあんなに楽しそうだから、俺も和む

◆概要
短冊の願い⇒美味しい味は

◆詳細
俺は短冊を三枚買う

一枚はランスに渡す
一枚には「オーガの脅威が減りますように」と書いた
もう一枚は内緒で「もっとランスに素直になりたい」と書く
最初のをを見せ合って水に溶かそう
ランスの願いは何だろう…?

最後の一枚はランスがジェラートを買ってる隙に溶かす
次第にアイツに惹かれてる
同性愛なんて認めたくなくて、だがアイツはなんだか特別で

溶かす前の「願い星」を見られてしまうかもしれない
素直になるんだろ?と言われたら、「好きだ」と言えるだろうか
目を見ろと顎を持ち上げられたら…

ああ、もうダメだ



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  よし観光だ!
願い星を買って願い事しようぜ。
オレの願い事はこれだ。
『ラキアともっと仲良くなれますように』
言いながら書くからラキアに即バレしたー!?
(決して聞こえるように言った訳では。モゴモゴ)
「毎日少しずつ、お互いの理解を更に深めてくのもいいじゃん?」
書いた紙は巡る星広場の噴水へ投入だ。
あと人魚像と一緒に記念撮影しようぜ。
一人ずつの写真と、2人一緒の写真を撮る。
一緒の写真の撮影はその辺の人に頼もう。
お礼にその人達の写真とってあげるよ。
お互いいい思い出持って帰ろうぜ。

そしてここに来てジェラートを食べない訳にはいかないな!
2個買いひとつラキアに手渡す。美味しいじゃん。
嬉しそうに食べるラキアが可愛い。



アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
  広場を楽しそうに駆け
屋台でアイスを二つ買って精霊の側へ駆け戻る

このアイスさっぱりしてるし
中でぱちぱちするの面白いな

(発言に思わずむせ返る)
クレミーも意外と直球で爆弾投げてくるなあ……
確かに俺普段から好きとか言うし
気になるか

真面目な話、普通の恋はしないって決めてんだ
相手は俺の無事を祈るしかできないし
相棒は超美形で魂繋がってるって、複雑すぎるだろ
だから、その……(照れつつ)
クレミーが相手なのは、ありかなあって思ってる
(手の紋章を見せて)
「死が二人を分かつまで」って誓いなら済ませてるし?


クレミー、アイス溶けてる
そんなに一度に食べたらやばいだろ
(笑いながら自分も大きく一口、弾けるキャンディにはしゃぐ)



●死が2人を分かつまで
「クレミー、俺、アイス買ってくるな!」
相棒にひとつ笑みかけて、アレクサンドル・リシャールは巡る星広場を駆けていく。その後姿を眺めながら、クレメンス・ヴァイスは思った。
(人混みは、得意やないんやけどね)
けれど、アレクサンドルの楽しそうな姿を見ていると偶にはこういうのもいいかと思えてしまうクレメンスだ。それに、この村の雰囲気は悪くない。
「お待たせ、クレミー!」
僅か息を切らせて、アレクサンドルが戻ってきた。その両手には、薄青のジェラートが2つ。ジェラートの中のキャンディーが、日の光にちろりと光る。
「おおきに、アレクス」
差し出されたジェラートをクレメンスが受け取れば、2人は木陰のベンチへと並んで腰を下ろした。
「……ん! このアイスさっぱりしてるし、中でパチパチするの面白いな」
ジェラートを口にしたアレクサンドルが笑み零す。夏らしい味にすっかり夢中のパートナーを見やりながら、クレメンスが思うことは。
(……アレクスは、神人としてあたしのことどんなふうに思ってるんやろか)
世の中には、色んな考え方の神人がいる。そんな中、アレクサンドルはどんな思いを抱いて神人としての日々を過ごしているのだろう。
さてどう切り出せばよいのやらとクレメンスは暫し考え、迷った挙句にその口からとび出した言葉は。
「アレクスは、あたしのことどう思ってはるん?」
タイミングも内容もあまりに唐突な問いを浴びて、アレクサンドルが咽せ返る。盛大に咳き込んで、やっと落ち着いたアレクサンドルが涙目で言うことには。
「クレミーも、意外と直球で爆弾投げてくるなあ……」
この台詞に、クレメンスはようやく自分の問い方があまりに不用意であったことに思い当たった。耳まで赤くなって慌てるも、アレクサンドルはごくごく真面目に言葉を続ける。
「確かに、俺普段から好きとか言うし、気になるか」
相棒の真剣な声音を耳に聞きながら、クレメンスは真っ赤になったままで俯いた。そりゃあもう恥ずかしいのだけれど、アレクサンドルが問いに真摯に答えようとしてくれているのを、今更邪魔することもできない。訂正の機を、完全に逸してしまった。
「真面目な話、普通の恋はしないって決めてんだ。相手は俺の無事を祈るしかできないし、相棒は超美形で魂繋がってるって、複雑すぎるだろ」
だから、その……と、珍しく言い淀むアレクサンドルの頬にも、僅か差す朱。
「クレミーが相手なのは、ありかなあって思ってる」
話の間中照れ臭くて俯きっぱなしだったクレメンスも、この告白めいた言葉に思わず顔を上げる。目が合えば、アレクサンドルはいつものように快活に笑み零して。かざすのは、左手の甲に浮かぶ神人の証。文様の鮮やかな赤は、精霊との誓いの色。
「『死が二人を分かつまで』って誓いなら済ませてるし?」
その言葉に、クレメンスは自分の手の甲を見やった。
「……ああ、そうやね」
自然口から漏れ出でる、言葉。胸にすとんと落ちるものがあった。対するアレクサンドルは、真面目な顔で同意する相棒の反応に、逆に照れさせられてしまったのだけれど。
「って、クレミー! アイス溶けてる!」
「え? わ、ほんまや……!」
今にも地面に溶け落ちそうなジェラートを、クレメンスは慌てて口に運ぶ。大きく一口口にすれば、口の中でキャンディの欠片が盛大に弾けて。思わず目を丸くし、口元を抑えるクレメンス。アレクサンドルがころころと笑った。
「はは、そんなに一度に食べたらやばいだろ」
言いつつ、アレクサンドルも大きく一口。パチパチと弾けるキャンディーにアレクサンドルも口を抑え、子どものように足をじたばたとする。そのはしゃぎ様に、クレメンスは思わず笑みを漏らした。目元を柔らかくして思うことは。
(悪くはないのかもしれへんね)
今はまだ、ぼんやりと思うだけだけれども。いつかどこかの未来では、もしかすると。

●2人の願いを星に乗せ
「よし観光だ!」
巡る星広場の入り口に立って、セイリュー・グラシアは元気よく宣言する。
「ラキア、願い星を買って願いごとしようぜ」
振り返り相棒のラキア・ジェイドバインに笑みかけて、セイリューは『人魚姫の願い星』の屋台に向かって軽快に走り出す。今日も元気だなぁと苦笑を漏らしつつも、セイリューのそんなところを悪くは思わないラキアである。落ち着いた足取りで、ラキアは先を行く相棒の背中を追った。
願い星の屋台には、無料で使える筆ペンが設置してある。本来は紙に願いを込めて沈めるだけでも効果があるとされているのだが、願いを目に見える形にしたいと思う者も多いらしく、筆ペンはそのためのものだ。セイリューたちも、願いを紙にしたためることにした。
「『ラキアともっと仲良くなれますように』っと」
「……セイリュー、言いながら書いたらこっちに筒抜けなんだけど」
聞こえるように言ってたりして、と続けるラキアに、セイリューは苦笑を返す。
「何て言うかさ、毎日少しずつ、お互いの理解を更に深めてくのもいいじゃん?」
「……そうだね。否定はしないよ」
応えながら、ラキアがさらさらと書き上げた願いごとは。
「俺の願いは『皆が笑顔で過ごせる平和な時が続きますように』だよ」
1人では達成が難しい内容が良いかなって、とラキアは真面目に言う。
「叶うといいな、ラキア」
「うん、これで悲しい出来事が少しでも減るといいな」
顔を見合わせて、どちらからともなく2人は笑み零した。そして2人は、広場の噴水に願い星をはらりと落とす。2人分の願いが、煌めく泡となって水中に消えた。
「セイリューは人魚姫のお話、読んだことあるかい?」
噴水の人魚像を見上げて、ラキアが問う。
「いや……読んだことないな、そういえば」
「人魚には魂が無いそうだよ。でも人間が人魚を心から愛し慈しんでくれるなら、その人と魂を分け合い、人魚も魂を得るんだって」
「へえ……」
「人魚姫は王子に恋しただけじゃなく、同様に魂を持つ存在になりたいとも切望したんだそうだよ」
そこまで言って、ラキアは視線をセイリューへと遣った。柔らかく微笑んで言うことには。
「今度、一緒に図書館で読もうか?」
自然に零されたのは、セイリューからしてみれば唐突な、嬉しいお誘いだ。早速願いごとが叶ったみたいだと、セイリューは知らず笑顔になる。
「? どうしたのさ、にやにやして」
「いや、何でも。……あ、そうだ。ラキア、人魚像と一緒に記念撮影しようぜ」
「写真? 別にいいけど……準備いいね、セイリュー」
「だって、折角のラキアとの小旅行だしさ」
1人ずつの写真を交互に撮った後、通りがかった老夫婦に頼んで2人一緒の写真も撮ってもらった。お礼にと、セイリューはご夫婦の写真を撮ることを申し出る。お互いいい思い出を持って帰れるようにと願いを込めて、シャッターを切った。さて、次は。
「ここに来てジェラートを食べない訳にはいかないな!」
というわけで、セイリューは2人分のジェラートを屋台で買い求め、1つをラキアへと手渡す。
「わぁ、ありがとう」
心底から嬉しそうに笑んで、ラキアがジェラートを受け取る。2人は同時に、ジェラートを口に運んだ。
「ん! 美味しいじゃん」
「ほんと、冷たくてすごく美味しい。中のキャンディーが刺激的だね」
舌がくすぐったいよと笑うラキアに、セイリューはしばし見惚れる。可愛いだなんて言ったら、ラキアは気を悪くしてしまうかもしれないけれど。
「村の絵葉書とかも欲しいな。星夜の人魚像とか綺麗だと思うから」
そんなセイリューの思いには気づかずに、ラキアが言った。その言葉に、セイリューは笑みを漏らす。帰りのバスが出るのはまだしばらく先だ。ラキアと2人過ごせる宝物のような時間がまだまだ続くことが、嬉しかった。
「よっし! これ食べ終わったらさ、探しにいこうぜ」
「ほんとに? やった、ありがとう、セイリュー」
ふわりと微笑み零すラキアに、セイリューも笑顔を返した。

●遠くへ願うことと近くにあるもの
「人魚姫とはまた洒落た名をつけたもんだ」
巡る星広場にて。買い求めたばかりの『人魚姫の願い星』を手に、初瀬=秀はぽつり呟いた。
「さて、何の願いをかけたものか……」
「秀様! 綺麗な紙ですね! きらきらします! きらきら!」
思考を遮るは、底抜けに明るい声。煌めきを帯びた薄青の紙に、イグニス=アルデバランは瞳を願い星に負けぬほど輝かせている。秀はため息を零した。
「イグニス、ちょっと静かにして願いごとでも考えてろ」
言われて、イグニスは口元を抑える。そして言いつけ通り、星にかける願いごとを考え始めた。
(うーん、何をお願いしましょう。恋愛成就、とか?)
あ、そうだ。
(秀様ともっとお近づきになれますように? よし、それでいきましょう!)
我ながら冴えた思いつきだと、自然笑顔になるイグニス。噴水へと紙を落とせば、光纏う星は輝きを零しながら水中に溶け消えていく。
(お姫様にそれは自分で頑張れとか言われるでしょうか……)
煌めきの泡の最後の瞬間を見届けながらぐぬぬと難しい顔などしてみせるも、それはあまり長くは保たなかった。秀がまだ願いをかけていないことにはたと気づいて振り返り、
「そうだ! 秀様は何をお願いされるんでしょうか?」
「……イグニス、アイスが気になるって言ってたよな」
「! はい! アイス食べたいです!」
思いっ切り食いついたイグニスに、秀は幾らかの小遣いを握らせる。
「ほら、さっさと買ってこい」
「ありがとうございます! 買ってきますね!!」
満面の笑みで屋台へと駆けていく相棒の背中に、秀がかける言葉は。
「イグニス! 1個でいいからな!」
はぁい、とのお利口さんな返事を聞き届けて、秀はまたもため息を漏らす。
「やれやれ……」
紙を日に透かして、願うことは。
(……あいつらが。幸福であるように)
口にすれば、イグニスはどんな顔をするだろうとは思うけれど、それでも。
(裏切ってまで選んだ道、最後まで貫いてもらわなきゃならん)
ひらり、落とした願い星が水面に触れる。
(俺の知らん所で仲良くやってればいい。俺は俺の幸せってやつを探してみせる)
煌めきの星は、端から溶けて見る間に形を失った。
「秀様ー! 戻りましたー!」
聞き慣れた声が、秀を『今ここ』へと呼び戻す。振り返れば、ぶんぶん手を振りながら駆けてくる、わんこのような相棒の姿が目に入った。
「おうお帰り。溶ける前に食っちまえ……」
「このアイス、しゅわしゅわぱちぱちで面白いです!」
「って、もう食ってんのかよ……」
「はい、美味しいですよ。秀様もいかがですか?」
プラスチックのスプーンでジェラートを掬い、「はい、あーん」と日の光に煌めく薄青を秀の口へと運ぼうとするイグニス。秀は無言でそのスプーンを奪い、ジェラートを一口口にした。涼やかな味の中に、細かなキャンディーが弾ける。
「ん、割にさっぱりしてるな」
思いの外ジェラートの味がお気に召した様子の秀を尻目に、
(うう、あーん作戦失敗……)
とイグニスはがくりと肩を落とす。が、彼ははたと気づいた。気づいてしまった。
(……はっ! これは間接キス成功!?)
2口目を味わう秀を見やって、イグニスは自然とゆるり笑顔になる。視線に気づいた秀が、怪訝な顔を作ってみせた。
「ん? 何だよ、ニヤニヤして?」
「いえ! 何でもないですよ!? まずは1歩……とか全然思ってないです!」
イグニスの慌て様と不可解な言葉に、秀は不思議そうに首を傾げて。そして彼は、ふっと笑みを零した。優しく、柔らかく。
「そうか? ま、お前が楽しいならいいけどな」
彼の方こそどこか楽しげにさえ見えるその表情に、イグニスは青い目を瞠って見惚れた。そして、自分もそっと口元を緩める。秀の言葉が、笑顔が、イグニスにはどうしようもなく嬉しかった。

●人魚姫は星に誓う
「何かさ、やっぱりタブロスよりも涼しいような気がするな」
「ええ。風が気持ちいいですね」
水に纏わる話が多くて涼しげだと相棒をこのツアーに誘ったシルヴァ・アルネヴと、シルヴァからの誘いに彼と同じく涼やかな印象を受け諾の返事をしたマギウス・マグス。2人の勘は外れることなく、村には心地よい風が吹いていた。
「よし! まずは、ジェラート買うか! もっと涼しくなりそうだ」
シルヴァの提案に、マギウスにも否と言う理由はなく。巡る星広場の屋台で、2人は早速『人魚姫のお気に入り』を買い求めた。
「ん……美味しいですね」
日の光に瞬くキャンディーの欠片は口に入れると小気味よく弾け、薄青のジェラートはひんやりと舌に心地よく後味も爽やかだ。
「うん、美味いな。マギと一緒だからなおさら美味い」
軽口を叩いて笑うシルヴァもこの名物が気に入ったようで、機嫌よくジェラートを食べ進めている。
「あんまり急いで食べない方がいいですよ。頭が痛くなりますから」
「そんなこと言ってて溶けちゃっても知らないぞ」
等と言い合いつつ、2人はジェラートを口に楽しみながら、広場近くの店を見て回ることにする。広場の周辺には土産物屋が多く、ルプトー村自慢の質のいい紙製品が、どの店先にも誇らしげに並んでいた。落ち着いた風合いのレターセットや、珍しい燃えない紙で作られた優美な趣のランプシェードにシルヴァの心はわくわくと弾む。
「流石紙作りで有名な村って感じだなぁ」
美しい色合いをした紙のドレスを纏うドールを眺めながら、シルヴァが感心したように呟けば。
「シルヴァ。ジェラートが垂れかかっていますよ」
「へ? うわっ、ほんとだ! ……っと、危なかったぁ」
先ほどからシルヴァが粗相をしないか気にかけていたマギウスがすかさず注意し、シルヴァは慌てて溶けかかったジェラートを舐め、「サンキューな、マギ」と相棒に笑いかける。
「夢中になりすぎです。商品を汚さないよう気をつけてくださいね」
「ん、了解。折角の綺麗な紙、駄目にしたら可哀想だもんな」
素直に応じて、シルヴァはジェラートをぱくりとした。そうしてジェラートを食べ終わる頃には2人は広場へと戻ってきていて。
「あ、あの店!」
シルヴァが目に留めたのは、『人魚姫の願い星』の屋台だ。
「折角だからさ、願いごともかけてみないか?」
明るいお誘いに、マギウスも「いいですね」と応じる。2人は屋台で、2枚の願い星を買い求めた。
「そういえば……」
ふと頭を過ぎるものがあって、マギウスは薄青の星を手に店主へと視線を遣る。
「水に溶け消える際の美しさと儚さがこの紙の名前の由来の1つと聞きましたが、他にも由来が?」
ツアーコンダクターの言葉を思い出し問いを放てば、店主の男は笑み一つ噴水の人魚像を指差した。曰く、願い星の製法を村に伝えたのは、魔法で人に化けて村を訪れた人魚だったという伝承があるのだという。気まぐれに村に留まるうちにいつしか村を愛するようになったその美しい人魚は、「この紙に願いを込めればきっと私がそれを叶えましょう」と言ったのだとか。
「成る程……ありがとうございます。それからこの村には、『星』という名も多いですね」
よく気が付く兄ちゃんだなと店主の男が笑う。人魚が村を訪れたのも忽然と消えたのも星が美しい夜のことだったと、それも村の言い伝えであるらしい。2人の視線は、自然噴水の人魚像へ。店主に礼を言って、2人は星に願いを書くや、噴水へと向かった。
「オレたちの願いもさ、人魚が叶えてくれるのかな?」
煌めきの泡を零し水面に消えていく願い星を見つめながら、シルヴァが問う。そんなシルヴァの願いごとは『マギの願いごとが叶いますように』だ。
「さあ、どうでしょうか」
と淡々と応じるマギウスのかけた願いも、『シルヴァの願いごとが叶いますように』。ふと顔を上げればシルヴァと目が合って。屈託のない笑みが、マギウスへと向けられた。
(さて、シルヴァは何を願ったのでしょう?)
願いごとの優しいすれ違いを、2人は知る由もなく。古の人魚はきっと、2人の願いごとを微笑ましく思うだろう。

●それは消えない魔法
「一寸した避暑ってやつだな」
涼やかな風に僅か目を細めて、アキ・セイジは傍らのヴェルトール・ランスに買い求めたばかりの『人魚姫の願い星』を手渡した。屋台に用意された筆ペンで、セイジは星に『オーガの脅威が減りますように』と願いを込める。そして、隣で機嫌よくペンを走らせているランスへと密か視線を遣り、2枚目に綴る想いは。
(もっとランスに素直になりたい……)
セクシャリティの壁を中々越えられずにいる自分を、ランスはずっと待ってくれている。自分が次第にランスに惹かれていることを、セイジは自覚していた。同性愛なんて認めたくなくて、けれどアイツはなんだか特別で……。
「セイジ! 願いごと、何書いたんだ?」
「うわっ?!」
ひょいと手元を覗き込まれて、セイジは慌てて願い星を隠す。ついつい思考の世界に迷い込んでしまい、注意が疎かになっていた。
(み、見られたか……?)
焦るも、ランスは特にその件については何も言わない。見せ合いっこしないか? と自分の願い星をひらりとさせ笑うだけだ。セイジは黙って、1枚目の願い星をランスに見せる。
「ランスの願いは……」
「『セイジともっと近づけますように』、だ」
にっと笑み零されて、頬を赤らめるセイジである。2人で願い星を噴水に溶かした後は。
「セイジ、俺ジェラート買ってくるな」
「ああ、わかった」
楽しそうに駆けていくランスの後姿を見やって、セイジは目元を柔らかくする。
「日帰りの旅行もいいな」
呟いて、セイジは「さて」と噴水へと向き直った。もう1枚の願い星が、まだ手元に残っている。揺れる水面に星を零せば、揺らめき溶け消えていく煌めきの泡。と。
「願いごと、叶いそうか?」
声に振り向けば、ジェラートを2つ器用に片手で持ったランスが、悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。
「な……!」
「俺的にも、叶ってくれると嬉しいんだけどな。素直になるんだろ?」
やはり見られていたのかと真っ赤になってフリーズするセイジに、ランスはふと真剣な表情を向けてみせる。
「俺はセイジが好きだ。怖がらなくていい、今までと変わらないさ」
零される言の葉と混じり合うように、溶かした星の瞬きが目の奥にちらつく。あの星に託したのは、自分の心底からの願いだ。自分の気持ちを認め形にするのは、とても勇気のいることだけれど。でも。
「……好き、だ……」
俯き小さな声で零したのは、今自分に言える精一杯の言葉。ランスが笑った。
「目、見てくれよ」
くい、と持ち上げられる顎。近すぎる距離に、頭がくらりとなる。
「ちゃんと言わないと聞こえないぞ?」
言って、ランスはセイジの目を覗き込んだ。自分だけを見つめる真っ直ぐな瞳に、セイジの頭の奥はじりと痺れる。
「……ばか、やろう」
毒づく言葉が口をついたけれども、ランスの瞳から逃れられない。
(ああ、もうダメだ……)
麻痺したままの思考回路で、セイジはぼんやりと思う。そんなセイジに、ランスはそっと口づけを零した。そう、その――頬に。
「……頬?」
「ん? 何だ、唇がよかったか」
「なっ?! そ、そういうわけじゃ……」
視線を泳がせごにょごにょと言い淀むセイジに、ランスはくすりと笑いかける。
「やっと捕まえたんだから、逃がさないように大切にしないと、な」
冗談めかして笑み零すランスを、セイジはまともに見ることができない。口づけを落とされた頬が、燃えるように熱かった。耳まで朱に染めて視線を落とすセイジを、ランスはやっと解放する。
「なあ、セイジ。さっきの、もう一度言ってくれよ」
「何で……ちゃんと、聞こえてたくせに」
でももう一度聞きたいんだと我儘を言う相棒に、セイジはため息一つ、再び魔法の言葉を口にする。それは2人の間の壁を壊す、消えない魔法。
「……好きだ、ランス」
言ってますます赤くなるセイジを見やって、「願い星さまさまだな」とランスは嬉しそうに笑んだ。ずっとその言葉が聞きたかったんだ、と。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月04日
出発日 07月11日 00:00
予定納品日 07月21日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアだ。
    プランは提出した。
    観光するけど、人魚像の傍でラキアと記念撮影もいいなと。
    通りかかった人は御希望なら写真撮るから遠慮なく言ってくれ。

  • [2]アキ・セイジ

    2014/07/10-10:21 

    アキ・セイジだ。よろしく。

    のんびりと観光をする予定だ。伝承についても興味深いから調べたいし。

    願い事を書いて流す…なんてそんな少女趣味なことを大の大人の男がするわけないだろ
    (後ろ手に薄青の紙を隠す

  • アレックスだ、よろしくな。

    アイス食べながらのんびり散歩する予定だ。
    とりあえずは、広場にいる予定だ。
    人魚姫っていうからには、海に近い村なのかな。
    砂浜をキャッキャしながら走るのも楽しそうだよな。


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