とりかへばやパニック!(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 その特殊な睡眠カプセルは、こんな効能を持っていました。

『特殊な装置で、お互いの脳波を同調させ、一緒にカプセルに入った者で同じ夢を見ることができる。』

 ある程度好きな夢を見る調整も可能です。
 夢の中でデート出来ると、忙しいカップルに好評を得ています。
 ミラクル・トラベル・カンパニーの経営する店舗には、今日も人が溢れていました。

(あれ? おかしいな)
 貴方もその中の一人。
 睡眠カプセルで楽しい夢を見ようとしていたのですが、妙な機械音に睡眠から目覚めてしまいました。
 あまつさえ、カプセルの蓋まで開いてしまいます。
「申し訳ございません、お客様!」
 直ぐ様、スタッフが飛んで来ました。
「機械の点検を致しますので、少々お待ちください!」
 まぁ、仕方ないか。
 隣で寝ているパートナーに声を掛けようとして、貴方は言葉を失いました。
「え……!!?」
 そこには、紛れも無く『貴方』が寝ています。
 そう言えば、今出た声も普段と違うような……。
 恐る恐る、睡眠カプセルのガラス部分に目を向けます。
 ガラスに映るのは……隣で寝ている筈のパートナーの姿だったのです。

「大変申し訳ございません!」
 店長が、地面に頭を擦り付ける勢いで頭を下げました。
「睡眠カプセルのトラブルで、どういう訳か、お客様方の身体が入れ替わっているようなのです」
 詳しい理屈は分かりませんが、脳波を同調させる装置にトラブルがあったようです。
 貴方は、未だに眠っている自分の身体を見遣ります。
 貴方は目が覚めましたが、貴方の身体に入っているパートナーは未だ夢の世界に居るようでした。
「今、開発者が機械の修理を行っております。修理が完了し、もう一度睡眠カプセルで眠って頂ければ、元に戻れる筈でございます。
 誠にご不便をお掛け致しますが、今しばらくお待ちください!」
 何にせよ、機械の修理が終わるまでは、どうしようもありません。
 さて、どうしようか。
 貴方は自分のものではない手を、じっと見つめたのでした。

解説

睡眠カプセルのトラブルで、パートナーと身体が入れ替わってしまいました。
元に戻るまでの間、パートナーの身体で何かしてみよう!な、エピソードです。
機械の修理が終わるまでの間(約半日・時間帯は自由)、自由に行動いただけます。

なお、眠っているパートナーは、実は本人の身体の中に意識があります。
入れ替わった側の意識が強いため、奥に追いやられている状態です。
このため、行動はパートナーに筒抜けです。
パートナーは心で、声にならない(誰にも聞こえない)ツッコミを入れる事となります。

以下のような行動が可能です。

1.神人が精霊の身体で。

神人のプランに、どのような行動をするかご記載ください。

精霊のプランを使って、神人の行動にツッコミを入れるであろう内容を記載してください。(神人には伝わりません)
精霊の部屋や職場を覗きたいという場合は、精霊のプランに、部屋や職場について記載をお願いします。
また、無事に元に戻った時、どのような反応を希望するかについても、記載をお願いします。(気付かないフリも可能)

2.精霊が神人の身体で。

精霊のプランに、どのような行動をするか希望をご記載ください。

神人のプランを使って、精霊の行動にツッコミを入れてください。(精霊には伝わりません)
神人の部屋や職場を覗きたいという場合は、神人のプランに、部屋や職場について記載をお願いします。
また、無事に元に戻った時、どのような反応をするかについても、記載をお願いします。(気付かないフリも可能)

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『入れ替わりは浪漫!』雪花菜 凛(きらず りん)です。

今回は、入れ替わっちゃった!なエピソードです。
普段知らないパートナーの秘密を覗けるチャンスかも?しれません。
秘密がなくても、普段は見えない景色が見える筈です。
是非、お気軽にご参加ください!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

※ゲームマスター情報の個人ページに、雪花菜の傾向と対策を記載しております。
 ご参考までにご一読いただけますと幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  一旦家まで帰って落ち着きましょう。
皺になりますし上着は畳んでおかないと。
そういえば危ない物とか持ち歩いたりしてませんよね…?
バレない今の内に抜き打ち持ち物検査です!
危険物はあとで厳重注意です!

家の鍵とお財布…。
意外にもお札はしっかり折ってあります。
そういえばグレンって普段どうやってお金を…

綺麗なロケット…!
古いせい?鎖切れちゃってます。
中のはもしかして家族写真?

契約してから暫く経ちますけど
相変わらずグレンのこと全然分からないままですね…
もっとお話して、色々知りたいです…

さて、そろそろ戻りましょう。
鏡で見ると、やっぱりグレン格好いいんですよね…
意地悪ですけど。

あ、お隣さんだ、挨拶しないとです。



油屋。(サマエル)
  家にお邪魔、客間しか行った事無いんだよね
好奇心から色々な部屋を覗く

ふと寝室を発見

ベッドに置いてあるヤツ、アタシが誕生日にあげた猫の抱き枕だ!
使ってくれてるんだ~嬉しい

鏡で姿を確認
わ~髪サラサラ!何か髪のお手入れの道具一杯ある
女子か!

角小さいな~ 尻尾も触って……ひゃ!?
な、何コレ 力が抜けた
コイツまさか弱点尻尾!?
ふふふ、良い事を知ってしまった

ん?この手帳何だろ 

食べ物の感想かこりゃ?味、食感、食材? 
んん……何か気持ち悪いくらい細かく書いてある
しかもどれも平均点以下だよ
意外に美食家だったりして?

コレ、アタシが作ってあげたミルクレープだ
何だよ ちょ、ちょっと嬉しいじゃねーかこの野郎




ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ディエゴさんになっちゃった
あっ、AROAのみんなに自慢しに行こう

みてみてー、これ!脚立使わなくても棚のものが取れるよ(ドヤァ)

そんな事を話ししてたら、職員の人に
「前回の依頼の報告書を早めに提出してもらえますか?」って言われちゃった…どうしよう
入っちゃダメって言われてるけど、ディエゴさんの部屋に行って探さなきゃ…。

【部屋内】
…これこれ
…報告書か、やっぱり私も…って、あれ?
女の人の…これって遺影だよね?どこかで…

【その後】
ごめんなさい、部屋入っちゃった
それで…あの、もし辛いこととかあったら話してほしいな
私が…この世で知ってると言えるのはディエゴさんしかいない
でも、それも一部分の事だけなのは悲しい




七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
  【心情】
これは……男の人の体……!?
それに背も高すぎますし、声も思うように出せない。
……まさか私、翡翠さんになってしまったんですか!?
いくらパートナーであってもこんな体でお嫁に行けませんよ!?
ああ!もうどうしたら……!

【行動】
とりあえず、夜になったら家に帰りましょう
シャワーを浴びようと思いましたが、
この場合、翡翠さんのお部屋に入らなければなりませんね
怖くありません!入ります!
でも下着の中から本が……どうやら日記ですね……読みましょう

はっ!忘れてました!
折角ですから元に戻るまで翡翠さんの体で着せ替えしたり、
体を触ったり、ジョブスキルの真似したりして堪能しましょう

翡翠さん、許して下さるでしょうか。



楓乃(ウォルフ)
  ■行動
・ウォルフの体で街を散策
・街でよく人に話しかけられウォルフの顔が広い事を知る
・以前楓乃が助けた人に遭遇。怯える反応から、自分が
騙されていたこと、ウォルフがこっそり助けていてくれたことを知る。
・元の体に戻ってウォルフにお礼。ブローチを受け取る。

■心情
ウォルフって顔が広いのね。色んな人がウォルフの事知ってるみたい。

あら、あの人は以前、病で苦しんでいる妹のためにお金が必要だっていっていた人だわ。あまり手持ちがなかったからブローチをあげたのよね。
こんにちわ。妹さんはどう?
え?もう騙したりしない?何の事…??
ウォルフが…。

私の知らないところでいつも助けてくれてたのね。
ありがとうウォルフ。大好きよ。


●1.

「ディエゴさんになっちゃった」
 ハロルドは、視界の高さに感激していた。
 鏡に映る自分を見遣る。
 自分のものではない、けれど見慣れた黒い髪。
 眼鏡の奥に光る金色の瞳は、パートナーであるディエゴ・ルナ・クィンテロのものだ。
 鏡の前でクルリと一回転して、ハロルドは閃いた。
「A.R.O.A.のみんなに自慢しに行こう!」
 そうと決まれば、スキップ混じりに店舗を飛び出す。

『待て、こいつ今、A.R.O.A.に行く……とか言ったか?』
 ディエゴは誰にも聞こえない声を上げ、目を瞠った。
 気付いたら、自分の身体がハロルドに乗っ取られていた。
 ハロルドは全く自分に気付かず自由に動いており、ディエゴの意志では指一本も動かせない。
 しかし、ハロルドを通じて視界は問題なく見えており、ハロルドの発する自分の声も聞こえている。
 どうやら睡眠カプセルのトラブルでこうなったと分かり、暫く待てば元には戻れそうなので安堵していたのだが。
『やめろッ! 迂闊に出歩くなッ!』
 ディエゴの叫びは届かず、ハロルドは軽やかに楽しそうにA.R.O.A.を目指す。
 スキップを踏むような歩みに、道行く人々の視線がハロルドinディエゴに突き刺さった。
『ほら見ろ。案の定、変な目で見られているじゃあないか!』
 こちらを見てクスクス笑う人々に、ディエゴはどんよりと頭を抱える。
「~♪」
 ハロルドといえばご機嫌で、表情こそ無表情だが、鼻歌まで歌っている始末だ。
『せめて、真っ直ぐA.R.O.A.へ向かってくれ』
 少しでも被害は少なく。ディエゴは天を仰いだのだが。
「良い匂い」
 ハロルドは、通りがかった商店街から漂う食べ物の匂いに足を止めた。
「お腹が空いたかも……」
「お兄さん! 試食していかないかい?」
 そこへ、惣菜屋の店先にいた女性から声が掛かる。
「試食……タダなら、食べない理由はないよね」
 ハロルドは頷くと、店舗へ小走りに突撃した。
『……頼むから、せめて女の子走りはやめてくれ』
 ディエゴの海よりも深い溜息が漏れる。

「みんな、みてみてー」
 ちょっとした寄り道をしてから、A.R.O.A.に辿り着いたハロルドは手を振って周囲にアピールした。
「これ! 脚立使わなくても棚のものが取れるよ」
 長身のディエゴの身体なら、いつもなら決して届かない高い位置の物だって、軽々と取れる。
 胸を張ってドヤ顔をするハロルドに、ディエゴは何度目か分からない溜息を吐いた。
 事情を知らない人達には後で説明をしないと、自分が変人扱いされてしまう。
「あ、ディエゴさん。前回の依頼の報告書を早めに提出してもらえますか?」
「ほえ?」
 不意に通りがかった職員にそう言われ、ハロルドは大きく瞬きした。
「……どうしよう」
 普段ディエゴからは、自室へは入らないように言われている。
「でも、今は私がディエゴさんだし」
 ハロルドは決意すると、ディエゴと同居している自宅を目指して踵を返した。

 何となく軽くノックをしてから、ドアノブを回す。
 扉が開いて、初めて見る彼の部屋がハロルドの視界に広がった。
 ベッドと大きい書架と机だけがある部屋は、何所か寂しい雰囲気がする。
 微かに彼の匂いを感じて、急かされるような想いに駆られた。
 報告書があるなら、きっと机。
 机の引き出しを開けて、目的の書類を探す。
 きちんと整理されているお陰で、報告書は直ぐに見つかった。
 書類を胸に抱いて一安心する。
「報告書か、やっぱり私も……って、あれ?」
 ふと机の上に置かれている写真と目が合い、ハロルドは目を見開いた。
「……これって遺影だよね? どこかで……」
 写真の中で穏やかに微笑む女性には、見覚えがある。
 ディエゴの夢の中で見た女性だ。
「……」
 書類を抱く手に無意識に力が入り、くしゃりと紙が音を立てた。


 自分の思う通りに身体が動くとは、何と幸福な事か。
 ディエゴは珈琲を飲んで、やっと人心地付いた溜息を吐いた。
 元に戻れて、今は自宅のソファーで寛いでいる。
「ディエゴさん」
 名前を呼ばれ視線を向けると、隣に座るハロルドが神妙な面持ちでこちらを見ていた。
「ごめんなさい、部屋入っちゃった」
「……理由があったのだろう? ならば、問題はない」
 知っていると言いそうになった言葉を飲み込み、ディエゴはカップをテーブルに置く。
 ハロルドは僅かに安堵したような笑みを見せると、迷うように視線を彷徨わせて言葉を続けた。
「それで……あの、もし辛い事とかあったら話してほしいな」
 ディエゴの肩が僅かに震える。
 その瞬間、ハロルドは考えるよりも前に、隣に座る彼に腕を伸ばしてぎゅっと抱き付いた。
「私が……この世で知ってると言えるのはディエゴさんしかいない。でも、それも一部分の事だけなのは……悲しい」
「……ハリー」
 ディエゴの手が、恐る恐るといった仕草でハロルドの髪を撫でる。
「……いつか」
 長い沈黙の後、ぽつりとディエゴが呟いた。
「いつか、必ず……お前にだけは、話す。待っていて欲しい……」
「……うん」
 お互いの鼓動を感じながら、ハロルドは彼の震えが止まった事が何より嬉しかった。


●2.

「一旦家に帰って落ち着きましょう」
 ニーナ・ルアルディは、自分に言い聞かせるように言い、ぐっと拳を握った。
 自分とは違う、男性の力強い手。
 パートナーのグレン・カーヴェルの物だ。
 あわわと握った拳を開くと、ニーナは店舗を後にする。
『こっちに筒抜けって気付いてねーな』
 緊張しながら歩くニーナと視界を共有しつつ、グレンは口の端を上げた。
 最初は驚いたが、元に戻れるならば問題はない。
 全く自分の存在に気付いていないニーナを観察するのは、面白かった。
『俺の身体で変な事は、コイツならしなさそーだし』
 ニーナの人の良さは、近くに居て良く知っている。
『変な事をしたら、元に戻った時にトコトン追求してやるだけだ』
 慌てふためく彼女を見るのは、とても楽しそうだった。

「……ふぅ」
 グレンと二人で住む小さな借家に帰宅し、ニーナは深呼吸する。
 自室の空気は緊張を解してくれた。
 のだが。
 鏡に映る自分と目が合って、再び落ち着かない気持ちになる。
 自分の部屋にグレンが居る。中身は自分だけれども、落ち着いていられる筈がなかった。
「取り敢えず、皺になりますし上着は畳んでおかないと」
 ニーナは上着を脱いで、丁寧に畳む。
『皺くらいいいだろ、畳むの面倒くせぇし』
 律儀過ぎ、とグレンは自分の手が普段有り得ない行動をするのに、背中が痒くなる想いだ。
 そんな事を思っていると、ニーナが急に動作を停止した。
「危ない物とか持ち歩いたりしてませんよね……?」
『……ハァ?』
 ニーナはじっとグエンの上着を見つめる。
「バレない今の内に……抜き打ち持ち物検査です!」
 そう言うや否や、上着のポケットに手を突っ込んで中の物を取り出し始めた。
「危険物は後で厳重注意です!」
『厳重注意はいいけどよ、盗み見しましたって、自らバラしてるようなもんだよな』
 グレンは呆れつつ、ニーナがポケットから出した物を眺める。
「家の鍵とお財布……」
 少し拍子抜けしたように呟き、ニーナは財布を開いた。
「意外にもお札はしっかり折ってあります」
『意外にも、は余計だ』
「そういえば、グレンって普段どうやってお金を……」
『賭け事だな』
 しれっと返事をして、グレンは小さく笑った。
『こいつすぐ顔に出るしボロ負けしそうだ……いや、前にポーカー教えたら早々と役揃えてたし、意外に才能あんのか?』
 グレンが考えを巡らせている間に、ニーナは財布を閉じ、次は上着の内ポケットに手を入れる。
『内ポケットまで探るかこいつ、想定外だぜ……』
 グレンが唸っていると、ニーナは掌にロケットペンダントを乗せていた。
「綺麗なロケット……!」
 角度を変えて眺め、溜息を吐く。
「古いせい? 鎖切れちゃってます」
 切れている鎖を残念そうに撫でながら、そっとチャームのロケットを開いた。
「もしかして……家族写真?」
 ロケットに収まる小さな写真を、目を凝らして眺める。
『まあ確かに家族写真……だったもんだな』
 ニーナの視界を借りて写真を見つめ、グレンは過去の記憶に瞳を細めた。
『そういえば、こいつももう家族はいないとか言ってたっけか?』
 暫く写真とロケットを眺めて、ニーナはほうっと息を吐き出す。
「契約してから暫く経ちますけど、相変わらずグレンのこと全然分からないままですね……」
 大事そうにロケットを閉じて、ニーナは呟いた。
「もっとお話して、色々知りたいです……」
『……』
「さて、そろそろ戻りましょう」
 時計に目を遣って、上着に元通りに取り出した品を収めると、ニーナは立ち上がる。
 上着を着ながら、もう一度、鏡に映るグレンの姿を見つめた。
「鏡で見ると、やっぱりグレン格好いいんですよね……意地悪ですけど」
 クスリと笑って、部屋を出る。
『余計な一言付け加えるのどうにかならねぇか、こいつ』
 背中辺りが再び痒くなるような感覚を覚えながら、グレンはぼやいた。
「あ、お隣さんだ、挨拶しないとです」
 自宅を出て、隣の住民と鉢合わせたニーナがぺこりと礼儀正しくお辞儀する。
「こんにちは」
『俺の体でにこやかに挨拶してんじゃねえ』
 ぞわぞわしつつ、グレンは叫んだ。

「お前、俺の姿で随分楽しそうだったよなあ?」
「え? グレン、どうして知って……」
 元に戻った後、ニーナがグレンに弄り倒されたのは言うまでも無かったのだった。


●3.

「……まさか私、翡翠さんになってしまったんですか!?」
 七草・シエテ・イルゴは、鏡の前で頭を抱えた。
 背も高過ぎるし、声も思うように出せない。
 シエテの意識は今、パートナーの翡翠・フェイツィの中にある。
『どういう事だ? 俺の体なのに、俺じゃない』
 一方、翡翠も軽いパニックの中に居た。
 自分の意志では指先すら動かず、おまけに自分の身体を動かしているのはシエテのようだ。
「いくらパートナーであっても、こんな体でお嫁に行けませんよ!?」
『シエ! 俺、男だぞ!? ウェディングドレスなんざ、こっちから願い下げだ!』
 思わずシエテの言葉にツッコミを入れるのだが、その声は彼女には届かない。
『嫁に行けないからって、性転換なんかしたら許さねえからな!?』
「ああ! もうどうしたら……!」
 混乱している彼女へ、店長がやって来て事情を説明した。
 どうやら、カプセルを修理すれば元に戻れるらしい。
 安堵したシエテは、取り敢えず、修理が終わるまで店舗を離れる事にした。

 視界が随分と高い。
 シエテは自然とキョロキョロと辺りを見渡しながら、見慣れた、けど見慣れない道を歩き、自宅を目指す。
「よう、フェイツィ」
 不意に声を掛けられ、驚いて足を止めると、見知らぬ男性がにこやかに手を上げていた。
「今日は中古品回収やってないのかよ?」
 どうやら翡翠の知り合いのようだ。
「ごめんなさい。今日はお休みなんですよ」
 やんわりと微笑んで会釈すると、男性の顔がぎこちなく歪んだ。
「フェイツィ?」
「はい?」
 小首を傾げると、男性はシエテを指差す。
「何か悪いもんでも食った?」
「私が、ですか?」
 胸元に手を当て瞬きすると、男性はじりっと一歩下がった。
「お前にそんな趣味があったとは……」
「趣味?」
「だ、大丈夫だ。お前が例えオカマだろうと、俺達の友情は変わらない、たぶん」
『ご、誤解だーッ』
 翡翠が全力で叫ぶが、誰にも聞こえてはいなかった。
「オカマ……って、私は……」
「キモイ・フェイツィ! 近付かないでくれっ。俺には大事な恋人が居て、そういう趣味はないッ」
『俺だって、ない!!』
 脱兎の如く逃げ出していった男性の後ろ姿を眺め、シエルは首を傾ける。
「あの方、何を誤解されたのでしょうか?」
『ああ……』
 翡翠はがっくりと肩を落とした。


「シャワーを浴びましょうか」
 すっかり日が暮れてから家に戻ったシエテは、そう呟いた。
「でも着替えを取りに、翡翠さんの部屋に入らないといけませんね」
『俺の部屋!?』
 翡翠は、ギャンブルやアダルトの雑誌で散らかっている自室を思い浮かべ、冷や汗が出るのを感じる。
「怖くありません! 入ります!」
『シエ、待て!!』
 決意の表情で、シエテはバーンと翡翠の部屋の扉を開いた。
「まずは下着……」
『待ってくれッ』
「これですね」
 翡翠の魂の叫びは届く筈もなく、シエテは積み上げられいたトランクスの山に手を伸ばす。
「……日記?」
 シエテは山の中に隠れていた本に気付くと、手に取って開いた。
『これには、仕事以外に、今までシエと一緒に行った依頼の事、CLUB『A.R.O.A.』での出来事とか、セクハラ疑惑とか、俺の魂の叫びが書かれてるんだ!!』
 翡翠は目を覆いたい気持ちになるが、シエテの視界を借りて、彼女がしっかりと日記を読んでいるのが分かる。
 居たたまれない気持ちで、翡翠は肩を落としたのだった。

「忘れてました!」
 翡翠の日記を堪能したシエテがそう言うのに、げっそりした翡翠は目を丸くした。
「折角ですから……元に戻るまで翡翠さんの体で着せ替えしたり」
『え?』
「体を触ったり、技の真似をしたりして堪能しましょう」
『堪能って何? シエ、待って、ちょっと……』

 それから数時間後、カプセルの修理が終わり、二人は元の姿に戻ったが、翡翠は暫くシエテの顔を直視出来なかったのだった。


●4.

 楓乃は軽快な足取りで、街を散策していた。
 自分のものよりも長く元気に動く足。
 頭に巻いているターバンが風になびく。
「よう、ウォルフ!」
 声を掛けられ、自分の事だと気付くと、ワンテンポ遅れて振り返った。
 今、楓乃はウォルフの身体の中に居るのだ。
「この間の差し入れ、すっげぇ美味かったぜ! また作ってくれよ」
「それはよかったですわ。また作りますね」
 にっこり笑顔で返すと、何故か相手の男性の顔が引き攣った。
『だー…! お前、俺の体でそんな喋り方するんじゃねー!』
 ウォルフは誰にも聞こえていないと分かっていながら、叫ばずには居られない。
 彼の身体は今、楓乃の意識が支配していて、自分は見ている事しか出来ないのだ。
「そ、そっか。また頼むわ」
「はい!」
 男性は引き攣った笑顔のまま、手を振って去っていく。
『アレ、絶対誤解してる……!』
「お兄ちゃーん!」
 続いて、小さな子供が駆け寄ってきた。
「この間のお礼! プレゼント!」
「まぁ、可愛い鶴ですね」
 子供が差し出す折り鶴を、笑顔で受け取る。
「大事にしますわ。ありがとう」
 子供の頭を撫でると、嬉しそうにしながらも不思議そうな顔をしていた。

「あいつ、どうしたんだ?」
「おねぇ系デビュー?」
 影でひそひそと噂する声が聞こえ、ウォルフは泣きたい気持ちになる。

「あら、あの人は確か……」
 子供に手を振ってお別れしてから、再び歩き出していた楓乃は、知っている顔を見つけて歩みを止めた。
『ん?アイツ……』
 ウォルフも見覚えのある顔に眉を寄せる。
「病で苦しんでいる妹さんのためにお金が必要だって言っていた人だわ」
 思い出して、ポンと手を打った。
 その時余り手持ちがなかった為、楓乃は彼に身に付けていたブローチを渡したのだ。
「こんにちわ」
『あ! バカ楓乃。話しかけるな……!』
 ウォルフの制止の言葉は聞こえる筈もなく、楓乃は笑顔で男性の声を掛ける。男性の表情が強張った。
「アンタは……」
「妹さんはどう?」
「も、もう騙したりしねぇよ!」
 男性は怯えた表情で首を振る。
「え? 何の事……??」
「アンタに言われて、心を入れ替えたんだ。病気の妹とか嘘を言って、人の良さそうな人から金を巻き上げるような事はしてない、誓って!」
「え……?」
「ブローチもアンタに返したし、もうやってないって!」
「そう、だったんですか……」
 楓乃は騙されていて、ウォルフが助けてくれていた。
 それを悟り、胸に温かい物が込み上げる。
『あーあーあー……ばれちまったか。傷つけたくなくて黙ってたんだけどな』
 余計な事言いやがって。
 目の前で必死に謝る男を眺め、ウォルフは舌打ちをしたのだった。


「ほら。これ、ブローチ」
 元に戻ってから、ウォルフは大事に預かっていたブローチを楓乃に差し出した。
「私の知らない所で、いつも助けてくれてたのね」
 ブローチを受け取り、楓乃は大切にそれを胸に抱く。
「私、もっとちゃんとしないと、駄目ね」
「無理に変わろうとしなくていい。お前はいつものお前でいいんだよ」
 ポンポンと、ウォルフは照れ臭そうに楓乃の頭を撫でた。
「ありがとうウォルフ。大好きよ」


●5.

「相変わらず、豪邸だな」
 油屋。は、サマエルの自宅の玄関で小さく唸った。
 サマエルの鞄から鍵を取り出すと、開けて中へと入る。
 サマエルとの付き合いは結構長くなってきたけれど、実は客間にしか入った事がない。
「サマエルの身体に入ったこの機会に、色々覗かせて貰うぜ!」
 悪人笑顔で長い髪を掻き上げ、油屋。は意気揚々、【突撃!サマエルの自宅】を開始する。
『おいこら、乳女! 荒らしたらコロスぞ!』
 サマエルは大いに不満だった。
 気付けば、自分の中に油屋。が居て、しかも主導権はあちらにあり、自分では全く身体を動かせない。
 自分の言葉は一切、油屋。には届かないため、彼女を止める事も出来ないのだ。
『近付くな、バカ! って、ああー……!』
「ここは、寝室だな」
 広々した部屋だった。
 大きなベッドがあり、部屋中にゲームやマンガ等の趣味の物が散らばっている。
「ゲームかぁ、面白そうだな」
 大きなテレビにスイッチを入れ、ゲーム機もオンにすると、迫力のあるレースゲームが開始された。
「走るぞー!」
 コントローラーを操作し、豪快に車を走らせる。
『ふざけるな、何勝手にゲームやってんだ!』
「うりゃー!」
『ハンドリングがヘタクソ過ぎるだろ、早瀬! もっとコーナーを抉るように……!』
「スリップした!」
『俺にやらせろ、見てられんッ』

 暫くゲームに興じ、油屋。は満足してコントローラーを置いた。
「結構楽しかったな」
『滅茶苦茶楽しんでただろ』
「あれは……」
 ふとベッドの上に視線を向けると、油屋。は歩み寄って、
「アタシが誕生日にあげた猫の抱き枕だ!」
 灰色で青のリボンの付いた猫の抱き枕を抱え上げる。
『ダイアナ!』
「使ってくれてるんだ~嬉しい」
 ぎゅっと抱き締めて頬擦りした。
『ええい離せ乳女! 貴様の馬鹿力でダイアナが壊れたらどうしてくれる!?』
「それにしても……髪、サラサラ!」
 ダイアナを元に戻してから、次に油屋。はドレッサーに気付いて近寄った。
 鏡に映るサマエルの髪に、触れて手触りを楽しむ。
『あああ二時間かけてセットしたのに崩れるだろうが!』
「髪のお手入れの道具一杯ある……女子か!」
『ほっとけ!』
「角小さいな~尻尾も触って……ひゃ!?」
『ば、馬鹿! ひッ!?』
 頭部の角を確かめ、尻尾を触った瞬間、電撃が走るような衝撃と共に、へなへなと力が抜ける。
「な、何コレ。力が抜けた……コイツまさか弱点尻尾!?」
『えっち! スケベゴリラ!!』
「ふふふ、良い事を知ってしまった」
『セクハラ反対!』
 油屋。はニヤニヤしつつドレッサーの上を眺め、そこに手帳が置いてあるのに気付いた。
「ん? この手帳何だろ」
『バカッ 見るな!』
「食べ物の感想かこりゃ? 味、食感、食材?」
 手帳には、食べ物について点数と感想が書かれている。
「んん……何か気持ち悪いくらい細かく書いてある。しかもどれも平均点以下だよ。意外に美食家だったりして?」
『意外には余計だ』
「あれ?」
 ページを進んで、油屋。の視線が一点に集中した。

【点数46 初心者丸出し、出直して来い。しかし、努力は認める。それなりに美味かった】

「コレ、アタシが作ってあげたミルクレープだ」
『!!!!』
「何だよ ちょ、ちょっと嬉しいじゃねーかこの野郎」
 油屋。はニヤける顔を止められず、何度も何度もその文章を読んだのだった。


 睡眠カプセルの蓋が開かれて、油屋。は自分の身体で大きく伸びをした。
 隣で身を起こすサマエルを見遣る。
「いい夢、見れたか?」
 彼の青い瞳と目が合った瞬間。
 ボッと、彼の顔が真っ赤に染まった。
「スケベゴリラ!!」
 サマエルは一言そう言うと、油屋。の顔へ枕を押し付けたのだった。


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月27日
出発日 07月03日 00:00
予定納品日 07月13日

参加者

会議室

  • 遅ればせながら……え、えーっと、ごめんなさい。
    見た目は精霊ですが、意識は神人!の七草シエテです。

    私も突然の事で頭が混乱しています。
    一度、家に帰ってシャワーを浴びてきます……。

    それにしても、慣れない体のせいか
    柱に頭をぶつけたり、電車の乗り口に頭をぶつけたりして、少々不便ですね……。

  • [4]ニーナ・ルアルディ

    2014/07/01-02:05 

    ニーナ・ルアルディで…
    …あ、えっと、この場合どうなんでしょう?
    ここはグレンとして自己紹介した方が後々問題が…(真剣に悩み)

    余計なことをして怒られたくないので、
    修理が終わるのを家で静かに待とうと思います。

    …はっ!
    グレンのことですし、危ないものポケットに入れてたりなんてしませんよね!?
    何かあって捕まったりなんてしたくありませんし、
    ここはそーっと、そーっと持ち物検査を…っ

    本人にバレたら何されるか分かったものじゃありませんね、
    本当によかったです、寝ててくれて!!!

  • [3]楓乃

    2014/06/30-23:07 

    みなさんはじめまして
    楓乃と申します~

    ふふふ。何だか不思議なことになっちゃいましたね~
    折角の機会なので、街中をぶらぶらしてみちゃおうかしら。
    新しい発見がありそうで、わくわくしちゃうわ!

    さ~て♪れっつごー!

    ウォルフ(わー!頼むからじっとしててくれーっ!!)

  • [2]油屋。

    2014/06/30-18:34 

    小悪魔系政治家、サマエルちゃんでぇーっす★
    皆様、どうぞ宜しくお願い致しますね!
    って違-----う!!
    お、思い出せ!アタシはそんなキャラじゃなかったハズだ!!
    とりあえずコイツの家に行って大人しくゲームでもしてるよ
    はぁ……、どうしてこんな事に……。

  • [1]ハロルド

    2014/06/30-12:53 

    はじめましての方ははじめまして
    そうでない方は今回もお世話になります、ハロルドと申します

    みてー視点がすごく高いよ!
    脚立いらずだね。

    (アイコンは間違ってません)


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