チェリーパイの憂鬱(如月修羅 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●もぐもぐタイム
「……」
 凄く幸せそうに赤い実を、もぐもぐとほおばっている女がいた。
 否、鳥の足を持つハーピーが居た。
 そこはさくらんぼを作る果樹園だった。
 今収穫の時期を迎え、通常ならばさくらんぼ狩りも楽しめる、そんな時期である。
「……」
 もぐもぐと嬉しそうなハーピーの周りには、すでに近隣から奪い取ったのだろうか? きらきら光るアクセサリーが散らばっていた。
 そして、そんなアクセサリーを満足そうに見つめる角の映えたハーピーの姿。
 デミ・オーガ化したハーピーである。
 まだ足りないとばかりに、さくらんぼを食べていた2人のハーピーをけしかけ、空に舞い上がる。
 被害はそれだけではなかった。
「今年は無理かしらねぇ……」
「他の所 からさくらんぼを仕入れるのはどうだ?」
「でも……」
 村の有名なケーキ屋さんでは頭を抱えていた。
 この時期に売り出すチェリーパイが、ハーピーの被害にあってまだ作れていないのだ。
「せっかくですし、あの果樹園ので作りたかったんですけれど……」
 憂鬱な溜息は、まだまだ続くようだった。


●さくらんぼを守れ!
「ちょっといいですかー!」
 ウィンクルム達を見つけ、職員が声をかけた。
 それにやってきたウィンクルム達に、ずばーんと差し出されたのはパンフレットだ。
「ハーピー狩り、もといさくらんぼ狩り行きません?」
 全然意味が分からないんですが? という表情をしたのに、詳しい説明がなされる。
「ここからちょっと行った先に、さくらんぼの果樹園があるんですがハーピーの被害にあってるんですよ。
どうもさくらんぼ狩りに訪れていた女性たちのアクセサリーがお気に召した様子で……待ってても来ますし、居ついてしまったということらしいです」
 そして、それだけでは飽き足らず、丹精込めて作ったさくらんぼをもぐもぐしているのだという。
「さくらんぼをもぐもぐしているのは、普通のハーピー2体です、その2体を指示してアクセサリーを奪っているのが、デミ・オーガ化したハーピー1体になっています。
2体はリーダー格のハーピーに従うものの、攻撃や略奪よりは今はさくらんぼが気になっている様子です、またリーダーはアクセサリーをみると、そちらに集中してしまうようでして」
 うまくそこをつけば、此方側が有利に動けるだろうという。
「というわけで、皆様にはハーピーを倒していただき、さくらんぼ狩りをしていただこうかなって」
 だがしかし、どうも職員の笑顔がぎこちない。
 他に何を隠してるんだといえば、とうとう口を割ったのだった。
「えぇっと、実はですね……果樹園ではお店にもさくらんぼを販売してまして。今回、収穫が遅れてることから、可能ならウィンクルムの皆様にも手伝ってほしいという希望があったんですよ」
 とはいえ、それはウィンクルム達に関係のないことから、ただ純粋にさくらんぼ狩りをしていても構わないということである。
「あ、勿論収穫のお手伝いした際も、さくらんぼは食べれますよ! ほんの一時間程度お手伝いして、そしたらあとは食べたりしていただいて大丈夫だそうです。
お手伝いするにせよ、しないでさくらんぼ狩りをするにせよ、お土産に村で有名なチェリーパイを頂けるそうですよ!」
 近隣からも食べにくる人がいるというそのチェリーパイ、一度私も味わってみたいなぁ……とうっとりと瞳を細めた。

解説

●敵情報
ハーピー2体とリーダー格の1体。
ハーピーはさくらんぼの方に興味を示し、リーダー各はアクセサリーに興味を示します。

●場所
果樹園。
広い範囲に木があり、戦闘をする際は気を付けないといけません。
ただ、倉庫がある一角は空き地のようになっており、そこに誘導する際は特に気を付けることもなく出来ます。

●さくらんぼ狩り
さくらんぼ狩りorさくらんぼの収穫のお手伝いは、報酬の一部になっており、ジェールは掛かりません。
終わった後は、甘くて粒も大きいさくらんぼをお腹いっぱい食べられます。

●チェリーパイ
ケーキ店「カシュカシュ」の名物、季節のパイシリーズの中の「チェリーパイ」がお土産に一組に一つ。
大きいそれは、うっとりするような甘さと、さくっとしたパイ生地のコントラストが素晴らしく、近隣の人たちが、並んででも買おうとする程です。

ゲームマスターより

此方では初めまして、如月修羅と申します。
さくらんぼも美味しい季節ですね。
楽しんでいただけたら幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  果樹園を大切に育ててきた村の人達、困っているケーキ屋さんの為にも任務頑張らなきゃ

戦闘前にエミリオさんとトランス

リーダー格のハーピーを空き地に誘い出す為に沢山アクセサリーを用意したよ
エミリオさんにいくつか身につけてもらって、残ったやつは予備としてポケットにしまっておくね

戦闘中は邪魔にならないよう後方で待機
もしリーダーが逃走を図ったり、手下の方に合流しようとしたら予備のアクセサリーを使ってエミリオさんと協力しながらリーダーを引き留めるよ

戦闘終了後収穫のお手伝い
それが終わったらエミリオさんと一緒にさくらんぼ狩り楽しみたいな
お土産も楽しみ♪

☆持ち物
アクセサリー(ネックレス、ブレスレット、ピアス、指輪)


淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  私達は手下のハーピーの担当です。
そちらが倒せ次第リーダーハーピーの撃隊に参加します。
手下のハーピーはさくらんぼに興味があるようなのでヴェルナーさんがそれを持って引き寄せてもらいます。
そうすると的が絞りやすくなるのでブレストガンナーのイヴェさんの攻撃が有効になると思います。

私はどうしましょう…一緒に戦うといっても私にいったい何ができるんでしょう…。
イヴェさんはさくらんぼやチェリーパイを楽しみにしていればいいって言ってくれますけど。

うん、私は私の出来ることをしよう。
戦えないならせめてさくらんぼの収穫を手伝わせてもらいますね!

さくらんぼやチェリーパイはご褒美に楽しみに取っておきましょう!



リゼット(アンリ)
  果樹園の人にさくらんぼが必要であることを説明し
分けてもらえないか交渉をしてみる

トランスして手下とリーダーを
お互いを分断するようにしつつ空き地へ誘導
さくらんぼを持った囮役よりも先を走って
興味をできるだけ早く果樹園から逸らせるようにするわ

私達は手下の相手
基本的には囮役に敵を集中
他の人の攻撃をの狙いをつけやすくするけど
負担が大きくなり過ぎないようにするため
敵が分散しない程度の囮役のそばで攻撃をしかける

アンリ、さっさと片付けてちょうだい
そう長くは加勢できないんだから

収穫のお手伝いはしっかりと
きっとアンリはひたすら食べてばかりするでしょうから二人分やらなきゃ
チェリーパイ、帰って食べるのが今から楽しみね



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  《心情》
名物のさくらんぼにチェリーパイか・・・(キラキラ)
あ・・・コホンっ、これはあくまで任務だからな。
みんな、気を抜くんじゃないぞ。

《戦闘》
・ミサ組と共にリーダー格を相手する。
リ「エミリオ、引き付け役は頼んだ」
・空き地に敵を誘導後、トランス。
・木に被害が届かない様にフォロー。

《他行動》
・さくらんぼ収穫は作業に内心興味津々ながらもキビキビ動く。
リ「なるほど、こういう風に収穫するのか」
・美味しいさくらんぼにお土産のチェリーパイで幸せモード全開。
・アモンにさくらんぼを「はい、あーん」してあげるほどに。
・が、ふと我に返り、今物凄く恥ずかしい事をしたんじゃないかと一気に赤面。
リ「いっ、今のは忘れろ!」



アマリリス(ヴェルナー)
  はた迷惑なハーピーもいるものですのね
討伐も収穫もお手伝いさせて頂きますわ、ヴェルナーが

ハーピーの誘導用のさくらんぼを果樹園の人に交渉してみますわ
討伐のためにご協力ください

戦いやすいよう空き地に誘導です
何にも遠慮する事はありません、思いっきりやってくださいませ
トランスが終わったらわたくしは下がり戦闘の邪魔にならないようにいたします
ハーピーがこちらに来てしまった場合注意をそらせるようさくらんぼを隠し持っておきますわ

討伐が終わったら収穫のお手伝いをいたします
このさくらんぼで作ったチェリーパイはどんな味なのでしょうか
頑張ったヴェルナーにといいたい所ですがわたくしも気になりますの
半分こにいたしませんか?



●さくらんぼの憂鬱
 ぽかぽかと暖かな日差しの下、さくらんぼ庭園に向かうのは10人のウィンクルム達。
 こんな暖かな日差しの下ならば、さくらんぼ狩りをおもいっきり楽しんだらとても素敵だろう……。
 とはいえ、その前に一仕事……いや、二仕事程しないといけないのだが。
「はた迷惑なハーピーもいるものですのね」
 眉をほんのちょっぴり寄せつつそう言うのはアマリリス。
 そう、まずは第一の仕事はハーピーの討伐と、そして……。
「討伐も収穫もお手伝いさせて頂きますわ、ヴェルナーが」
 にこりと微笑んで視線をやるのは自分の精霊であるヴェルナーだ。
 その視線を受けて、頼りにされていると決意を新たにする。
「お任せくださ い、 必ずやご期待にそってみせます」
 きりっというヴェルナーにおっとりと微笑みながら頷くアマリリス。
 だがしかし気がついているだろうか、多分体よく押しつけられている。
「名物のさくらんぼにチェリーパイか……」
 お土産に貰えるというチェリーパイにも思いを馳せて、リオ・クラインが瞳を輝かせる。
 そんな彼女を微笑ましく見つめるアモン・イシュタール。
(フリーダムウォーズに目ぇ輝かせやがって、このお嬢様は……)
 視線に気がついたのか、それとも周りの皆の前で恥ずかしかったのか。
「あ……」
 コホンと咳を一つ。
 次に口を開いたリオはきりっとしていた。
「これはあくまで任務だからな。みんな、気を抜くんじゃないぞ」
「まったく、もうちょっと素直になりゃ可愛いのによぉ」
 キッと睨み付けられて、アモンが肩を竦めた。
 そんな2人を見つつ……ふふっと微笑むのはミサ・フルールだ。
「果樹園を大切に育ててきた村の人達、困っているケーキ屋さんの為にも任務頑張らなきゃね」
 そんなミサを見つめ……そして視線を周りにやった後に頷くエミリオ・シュトルツ。
 村人のためにも、ここにいる皆と力を合わせていきたい、そう思う。
「さくっと終わらせて俺らもさくらんぼ食おうぜ」
 アンリがそう言って、紫の瞳を細めた。
「お預け食らって大人しくしてられるほどいい子じゃないんでな」
 黙って立って居れば王子様なのに、と思ったかは定かではないが、リゼットがそんなアンリを見詰めて小さく息を吐く。
 そろそろつく頃だろうか。
(私はどうしましょう……一緒に戦うといっても私にいったい何ができるんでしょう……)
 そんな中、そのように1人思いながら足を進めるのは淡島 咲だ。
 隣を歩くイヴェリア・ルーツは、咲にさくらんぼやチェリーパイを楽しみにしていればいいと伝えてある。 
(神人もそれぞれ覚悟があるのはわかるが……)
 ゆるりと視線をやった後、小さく息を吐いた。
 無理をして欲しくない、それが本音である。
(せめて、ご褒美を楽しみにするくらいの気持ちで居て欲しい物だ……)
 その思いを感じ取ったのか、咲の視線がイヴェリアと絡みあう。
 そんな中、声が上がった。
「ほら、見えてきましたわよ」
 リゼットがそう言った視線の先には今ならば列が出来ていても可笑しくない果樹園。
 やはり、誰もおらずとても閑散としている。
「やっぱり誰もいないねー」
 ミサが淡い茶色の瞳を伏せてそう言えば、エミリオが元気づけるように声を掛ける。
「大丈夫、だから俺達が来たんだしね」
「……そうだね!」
 そうして、入口へと向かえば、待機していた果樹園の主と無事出会うことが出来たのだった。
 やってきた果樹園からは、さわさわと木々が揺らす音や遠くからでもほんのり赤く染まるさくらんぼを見ることができた。
「ようこそいらっしゃいました!」
 出迎えてくれた果樹園の主は、皆を見渡し大きく一度お辞儀をする。
 もう一度果樹園の主から説明があった。
「相談なんですけれど、さくらんぼを分けていただけないかしら?」
 リゼットの言葉に、首を傾げた果樹園の主にさらに詳しく説明をする。
「手下達をさくらんぼで誘きだしたいのよ」
 それだけでは足りないかと、アマリリスが口を開いた。
「手下はリーダー格と違ってさくらんぼの方に興味を示しているようですから、是非使わせていただきたいのですわ」
「あぁ、確かにそうですね。お使いください。ただ……私共の所には、さくらんぼが一個もないのです」
 あるにはあるが、加工した、砂糖漬けのさくらんぼだったりするのだという。
 襲われる心配から、まだ収穫出来ていないのだ。
「私たちが採るから大丈夫だ」
 リオの言葉に、果樹園の主が瞳を伏せる。
「採っている間に襲われるかもしれません、十分にお気を付け下さいませ」 
「えぇ、十分に気を付けますわ」
 アマリリスが頷くが、やはり心配なのだろう。
 お願いするしか出来ないから、きっと、余計。
 その思いを受けて、ミサが仲間たちを見た後、果樹園の主を安心させるようににこっと微笑んだ。
「大丈夫だよ、私たちには仲間が居るもの」
 皆が安心させるように頷けば、果樹園の主は漸く安心したのだろう、再び頭を下げて去って行った。
「んじゃ、そろそろやるか?」
 アモンがそう言い、ちらりとリオを見る。
「あぁ、準備を始めようじゃないか」
 リオの言葉に、皆が頷き動き始めた。

 今は、まだその姿は見えない。
 けれど、きっと獲物を探しているのだろう……。
 少々、さくらんぼに目が移っているかもしれないけれど。
 戦闘の始まりは時間の問題であろうか。

●さくらんぼの誘惑
 敵は分断し、空き地へ誘導しよう。
 それが皆が決めた作戦だった。
 いつ襲われるか分からない、と手早くトランスを完了して、さくらんぼ摘みをするのはアンリ達だ。
「お預け状態だよな……」
 黙っていれば王子様な、端整な顔をちょっと顰めながらさくらんぼを採るのはアンリ。
「そのぐらいでいいんじゃないか?」
 イヴェリアが言えば、もうちょい必要じゃないか? などと言葉が交わされる。
「いえ、盾に設置できるぐらいで……」
 ヴェルナーがそう言って、盾を見せればアンリとイヴェリアがそれもそうかと頷く。
 手が塞がってしまってはダメだよな、と予備を少々貰う程度で止める。 
「わたくしにも頂いていいかしら?」
 もしもこちらに来てしまった場合の、囮用のさくらんぼが欲しいと言えば、ヴェルナーが大きく頷き、そっとアマリリスにと手渡す。
「囮をしっかりやって下さいませね」
「はい!」
 なんだかとてもキラキラと輝いて見えた。
 そんな輝きに負けないのは、ミサが持ってきたアクセサリーだ。
「リーダー格のハーピーを空き地に誘い出す為に沢山アクセサリーを用意したよ」
 そう言って、ミサに渡されたアクセサリーを身に着けるエミリオ。
 きらきらと輝くネックレスやブレスレット、そして耳を飾るピアス……。
「なんだか派手だな」
「囮だからね」
 アモンの言葉にエミリオが指輪を着けながら答えを返す。
「エミリオ、引き付け役は頼んだ」
「うん、任せて」
 リオのその言葉に、エミリオが頷く。
「お嬢様、俺には?」
「あぁ、アモンもがんばれ」
 お前ならやってくれる、そんな視線を受けてアモンが少し口元を緩め微笑む。
 ふとした疑問を口に出したのは咲だ。
「そういえば、さくらんぼって沢山ありますよね……」
 辺りを見つめた後首を傾げた。
「こっちだけに目が向くようにってできるかな」
 その疑問に、ミサが首を傾げつつも口を開く。
「目立つようにすればいいんじゃない?」
「……美味しそうに食べてるふりをするとか?」
 リオがちらりとヴェルナーを見た。
「リーダーがこの獲物を襲えといえば、おのずと分かってくるんじゃないかしら?」
 リゼットがそう言えば、それもそうかもしれないと頷いた。
 そんな話をしている中ばさばさと羽音が聞こえた。
 きらり、と光ったのはエミリオのつけた耳飾りだった。
 今回つけた物だけでなく、ミサからもらった左耳のピアス。
 きらりと輝く。
 角の生えたハーピーが、値踏みするかのように皆を順繰りに見つめていく。
「リーダー格はあいつだな」
「じゃぁ此方が……」
 リオの言葉を受け、ミサが視線を向ける。
「普通のハーピーのようですわね」
 アマリリスがそう言って、囮を務めるヴェルナーに視線をやる。
 すでにその身は彼から離れ、安全な場所へ。
 身を守ることこそが、彼らを守ることに他ならない。
「さくらんぼが食べたいみたいね」
 リゼットの言葉通り、一応視線をちらちらウィンクルム達に投げてはくるものの、さくらんぼが食べたくて仕方ないようだ。
「ほら、お前が気になるのはこちらだろう?」
 エミリオがそう言ってこれ見よがしに腕輪を見せつけた後、走り出す。
 その腕輪に釘付けになったリーダーは、走り出したエミリオを追いかけて飛んでいく……。
 が、ハーピー達はヴェルナーの持つさくらんぼに気が付いたようだ。
 隣の芝生は青いとよく言うもので、他人の持つさくらんぼの方がおいしそうに見えるのか、2体は留まったまま。
「空き地で、会いましょう!」
 リゼットもそう言って、囮よりも先に駆け出し始める。
 リーダー班とは違う方向へ、分断出来るように。
 その動きにハーピー達が注意をひきつけられ、さくらんぼのついた盾をこれみよがしに見せつけられれば堪らない。
 すでに追うことしか考えられなくなったハーピーの誘導を始めるのだった。

 駆ける駆ける。
 さくらんぼの木の間を潜り抜け、空き地の方へと。
(うん、私は私の出来ることをしよう)
 咲はそう決意を固めた。
 イヴェリアの望む通り、そして、自分が納得した形で出来ること。
(戦えないならせめてさくらんぼの収穫を手伝わせてもらいますね!)
 だから、今は戦闘の邪魔にならないように。
 けれど、見守れるように……。
 力いっぱい、それぞれが自分の出来ることをこなしていく……。

●さくらんぼの反逆
 空き地部分に踏み込んだのは、リーダー班が最初だった。
「ほら、これが欲しいんだろう?」
 きらきら光る宝石をこれ見よがしにひらひらさせれば、リーダーがそれめがけて飛び掛かってくる。
 降下してきたのに、羽を狙い突きを繰り出す! その早さを見きれなかったため隙が出来たのを見逃さす、アモンのトルネードクラッシュが衝撃を与え、ぐらりと体が揺れさらなる隙を作る。
「さあ、遊ぼうぜ鳥姉ちゃん?」 
 威力を増したそれは、そうそうその身をまっすぐ立たせることなど出来ないだろう。
「ここで、暫し俺達と戯れようか」
 エミリオのその言葉とにやりと笑うアモンに、リーダーが不快そうに眉をしかめた。
「鳥姉ちゃん、もうちょい嬉しそうにしてくれると嬉しいんだがね!」
 アモンのバトルアックスがそんなリーダーの爪を受け、音をたてた。
(そういやリオに、木を傷つけるなといわれてたっけね……)
 リオも、木を傷つけないようフォローすると言っていた。
「あちらも来たようだ」
 エミリオの言葉と共に、駆けこんできたのは手下班だ。
 
 合流することがないように。
 ある程度広い空地へ誘導してきた手下班は、息を合わせて二体を速やかに倒すことに尽力する。
「あら。このさくらんぼいらないのかしら?」
 リゼットがちらりとさくらんぼに視線をやれば、あ、食べたい! というように注意を向けることに成功する。
「アンリ、さっさと片付けてちょうだい。そう長くは加勢できないんだから」
「分かってる、任せな!」
 全身がコマのようにぐるりと回り、二体躊躇なく斬りつけていく。
 イヴェリアが羽部分に当てるように銃撃を重ねていけば、羽が舞い散った。
 弾を外すつもりは勿論ないが、こうやって空き地に誘いこめた今、遠慮することなどない。
(サクは俺が守る)
 その決意が、ヴェルナーに向けられた鋭いその爪に弾を当てることによって、確実になっていく。
 ヴェルナーは攻撃を主に受けていないハーピーの爪をその盾で受ける。
 鈍い音を立てて食い込むその爪は、青白い光を纏い防御力を高めるその盾に阻まれ致命傷を与えるまでには行かない。
 力と力の均衡ではあったがまだ余裕のあるのか、こんな痛い目見るなら他の場所に移動して、さくらんぼ食べたい……。
 ちらりと視線を動かしたハーピーに気が付いたアマリリスがこれ見よがしにさくらんぼを示した。
「そっちのよりも此方が美味しそうでしてよ?」
 それに釘付けになったのを見逃さす、ヴェルナーが思いっきり押し返せば悲痛な声が漏れた。
 リーダー格がその悲痛な声に、自分の手下達が不利になっているのに気が付いたのだろう。
 流石にやばいかも、と其方に行こうとしたのにミサが気が付いた。
「あらあら、これいらないのですか?」
 予備に持っていた腕輪を取り出し、日の光が当たるようにわざと掲げる。
 きらきらと光るそれは、やはり本能なのだろう、目を奪われてしまうようで。
 意識が腕輪に集中した所で、集中攻撃を受けていた一体が地面に沈んだ。
 一体倒されてしまい、さらに自分の体力も危うい……。
 ハーピーはリーダーの元へ逃れようとする。
「お前の相手は俺様だってんだ!」
 ぐいっと割って入ったのはアンリだ。
 それに慌てたように羽ばたくが、背中からのイヴェリアの攻撃があたれば、それ以上飛び上がることも出来ず。
 悲痛な声をあげて地面にと転がったのだった。

 アモンとエミリオの連携により、すでにぼろぼろなリーダー。
 すでにその羽根は高く飛ぶことを忘れ、地面すれすれを彷徨う。
「またせたな!」
 その言葉と共に攻撃が一斉に当たれば、もう逃げ惑うことも攻撃することもできず。
「終わりにしようか」
「じゃぁな、鳥姉ちゃん」
 アモンのアックスソードとエミリオの双剣をその身に受け、動きを止めたのだった。 
 動かなくなったのを確認した後、見守っていた咲がイヴェリアに駆け寄る。
「お疲れ様です!」
「あぁ、皆もお疲れ様だな」
 その言葉に、皆笑顔を浮かべて頷いた。



●収穫をしよう!
 終わったことを告げれば、農園のオーナーが小走りに駆け寄ってきた。
 皆に怪我がないかを一番に心配し、なにもないことを伝えるとほっと微笑んだ。
 さぁ、収穫のお手伝いもしよう! とレクチャーを受けた後それぞれが動きだす……。

 お預け状態から漸く解放されたアンリは、ほどほどに収穫をしていた。
 具体的に言うと、一個収穫用に摘んだら、五個ぐらいは食べる方に回してる。
 そんなアンリのことをよく知っているリゼットは、彼の分まで働こうとてきぱきと働き、その籠にどんどん詰めていく。
「知ってるか、リズ」
「何かしら」
 アンリの方も見ずに言うリゼットの隣に立ち、二個、さくらんぼを採る。
「口の中で茎を結べたらキスがうまいって話」
 一個をリゼットの前に翳して、覗きこんだ。
「ちょっとやってみねぇ?」
 きらきらとした王子様のようなその笑顔に、リゼットは言葉もなく収穫を強行するのだった。
 その表情は、アンリだけが知るだろう。

 正直さくらんぼの収穫はめんどくさい……と思うアモンだったが、リオはキビキビ動く。
 内心といえば、さくらんぼの収穫の作業に興味津々である。
「なるほど、こういう風に収穫するのか」
 一個一個傷つけないように収穫しながら呟けば、そろそろ痺れを切らしたのはアモンだ。
「休憩していいか?」
 休憩という言葉に込められた、サボリという意味に敏感に反応し、リオがキッと睨む。
「真面目にやれ!」
 はいはいと溜息ついて、再び頑張るのだった。
 
 咲とイヴェリアは仲良く収穫していた。
 一個一個、丁寧に……。
「美味しそうですね」
「そうだな」
 笑顔がとても幸せそうで、自然と眼差しが優しくなるイヴェリア。
「あ、上の方って脚立が必要なのかな」
「あそこのものなら、ちょっと抱きあげれば採れるだろう?」
 さらっと言われたその言葉に、咲が真っ赤になってイヴェリアを見れば、彼は冗談とも本気とも取れない表情をしていて。
「脚立持ってきますね……!」
 慌てて行く咲の後ろを、追いかけるのだった。

 ミサとエミリオも収穫自体を楽しんでいた。
 2人でどのさくらんぼを収穫するか話合う。
 白っぽい物より赤い物、でも赤過ぎてもダメ……。
「頃合いが難しいね」
「だからこそ、美味しい状態で届けられるんだろうけど」
 エミリオがそう言い、これはどうだろう? と見せればミサが頷いて籠を差し出したその腕を彩るブレスレット。
 日の光を浴びてきらきらと輝き、さくらんぼに負けないとでも言っているようだった。

 主にヴェルナーが収穫しつつ、アマリリスも一個一個丁寧に収穫していく。
「このさくらんぼで作ったチェリーパイはどんな味なのでしょうか」
 甘い香りがすでに漂ってくるさくらんぼを見つめ、そう言えばヴェルナーも頷く。
 誘導に使うのみで味わう暇もなかったさくらんぼ。
「一体どんな味がするのでしょうか……」
 2人の視線が絡み合い、アマリリスが小さく微笑んだ。
「食べてみましょうか」
 すでに許可は得てある。
 2人仲良く収穫の合間に口に運べば、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
 
 そろそろ収穫も、さくらんぼを楽しむのもお終い……。
 そんな中、ガヤガヤと誰かがやってきた。

●ささやかなるチェリーパイ
「ありがとうございました」
 そう言って、ウィンクルム達の元にやってきたのはカシュカシュのオーナーと店員達だった。
 全員嬉しそうににこにこ笑っている。
「こちら、どうぞお受け取りください」
 白い箱に、ピンク色のリボン。
 そのリボンにはさくらんぼの飾りがついている。
「頑張ったご褒美にって言いたいのですけれど……」
 ちらりと見れば、ヴェルナーが微笑んだ。
「わたくしも気になりますの。半分こにいたしませんか?」
「勿論ですよ!」
 楽しみも美味しさも、2人で分け合えばさらに倍になるだろう。
 嬉しそうに微笑むヴェルナーに、アマリリスも口元を緩めて微笑んだ。
 同じように微笑むのはリオだ。
 さくらんぼにチェリーパイ、どちらも嬉しくてほわほわとハートマークでも飛びそうな勢いである。
「ほら、あーん?」
 自然とさくらんぼをアモンにと差し出せば、アモンがさっとそれを食べ……そして、リオがはっと我に返った。
「いっ、今のは忘れろ!!」
 さくらんぼよりも真っ赤になってそういえば、にやにやと笑いつつ肩を抱き寄せる。
「楽しそうでよかったなぁ、お嬢様」
(めっちゃ可愛ぇ)
 その後照れ隠しに必死なリオと、それを宥めるアモンを見ることが出来たのだった。
 リゼットも箱を受け取り、嬉しそうに瞳を細める。
 頑張ったご褒美だ。
 アンリがそんなリゼットに良かったな、と声をかける傍ら、嬉しそうにイヴェリアを見上げる咲。
「あとでゆっくりと食べましょう」
「あぁ、楽しみだ」
 その言葉に、咲が幸せそうに微笑んだ。
「私たちもあとでゆっくりと食べようね」
 ミサがエミリオに言えば、そうだな、と頷きが帰ってくる。
 お茶と一緒に楽しむのもいいかもしれない。
 大きなチェリーパイを胸に抱えれば、どこか暖かな温もりを感じて。
 今日はありがとうございました。
 そんな思いが、きっと沢山込められているのだろう。
「また、来てくださいね。今度はさくらんぼ狩りに」
「このチェリーパイ以外にも、沢山ありますから来てくださいね!」
 そんな言葉を背に、帰路につくのだった……。          



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 少し
リリース日 06月27日
出発日 07月05日 00:00
予定納品日 07月15日

参加者

会議室

  • [18]リオ・クライン

    2014/07/03-23:54 

    ああ、こちらこそよろしく頼む。

    私達の相手はデミオーガだからな、気を引き締めておこう。
    前衛はアモンに任せおく。

  • [17]リゼット

    2014/07/03-23:11 

    じゃあアマリリスさん、というかヴェルナーさんにさくらんぼをお願いしましょうか。
    戦闘に関しては私は無理ない程度に精霊の支援をするつもり。
    敵をまとめるように動けたら少しは助けになるかしらと。

    さくらんぼについては作戦に必要だから
    戦闘前にいくらか分けてもらえないか果樹園の人と交渉しないとね。

  • [16]ミサ・フルール

    2014/07/03-22:04 

    リオちゃん、アモン君、また一緒に組めて嬉しいな。
    リーダーの相手 頑張ろう!
    どうぞよろしくね(微笑み)

    それじゃあ『アクセサリー』はエミリオさんに身につけてもらうことにするよ。

  • [15]淡島 咲

    2014/07/03-19:36 

    サクのパートナーのイヴェリア・ルーツだ。
    俺はブレストガンナーあので遠距離からの攻撃を予定している。
    できるだけ的を絞りやすくするために特定の人物が持ってくれると助かる。

    神人は…まぁ、安全であるならそれに越したことはないし。
    今回はさくらんぼやチェリーパイを楽しみにしてもいいんじゃないか?

  • [14]アマリリス

    2014/07/03-00:57 

    わたくし達は手下側ですね、編成了解です。
    皆様現地ではよろしくお願いいたします。

    ではこちらは前衛として動きさくらんぼで注意を引いてみます。
    持つ人は絞った方が効率はよさそうですね。
    以前アプローチを使うといいましたが物で充分つれそうなので、変更してプロテクションにして防御を高めてみる事にしますわ。
    群がってきたとしても多少は耐えられるかと思います。
    それにしても、今回は神人はやる事がなさそうですわね…。

  • [13]リゼット

    2014/07/02-21:20 

    組み分けについては申し訳ないけどよろしくお願いするわね。

    次はアクセサリーとさくらんぼをどう扱うか考えないと。
    全員で少しずつ持って狙いを絞らせないようにするか
    一人か二人にたくさん持たせて狙われたところをまとめて叩くか。
    負担はかかるけどまとめたほうが戦闘は進めやすいでしょうね。
    せっかくの遠距離攻撃を殺してしまうのは惜しいから
    やるとしたら近距離で戦闘する人がいいかしら。

  • [12]リオ・クライン

    2014/07/02-07:04 

    了解した。
    では、私達がミサ達と一緒に行こう。
    アモン(ハードブレイカー)となら戦力的にバランスがとれるだろう。

  • [11]ミサ・フルール

    2014/07/02-05:09 

    分かったよ、リーダー2、手下3だね。
    じゃ私とエミリオさんはリーダーを相手するね。
    あともう1組 誰かきてくれると助かります(ぺこり)

  • [10]淡島 咲

    2014/07/02-03:54 

    空き地に誘導して分散、倒し次第合流。了解しました。
    私達の最初の標的は手下のハーピーですね。
    イヴェさんがブレストガンナーですので空の敵にも問題ないと思います。
    リーダーの方はミサさん達ともう一組の方にお願いしますね。

    えーっと手下ハーピー達はさくらんぼに興味を示してるのでそっちで誘導すればいいかな?
    こっちの方は任せてね!

  • [9]アマリリス

    2014/07/01-23:52 

    空き地に誘導してから分散、倒し次第合流ですね。了解いたしました。
    わたくしも分担するのならリーダー組に2人、手下組に3人がいいと思いますわ。
    人数面で勝れていれば動きやすくなりますし大分有利に立ち回れそうです。
    あとは確かにミサさん達が相当お強いのでリーダー対応にまわって貰えたら安心できそうというのはありますわ。

    あとはハーピーですし空を飛ばれると面倒かと思いましたが
    プレストガンナーの方もいますしどちらも物でつれるのならそこは問題なさそうですわね。
    プロローグ通りなら目の前でひけらかしてもつられてくれそうな知能のようですし。

  • [8]リゼット

    2014/07/01-13:57 

    分担については人数を逆にして
    1組ずば抜けて力のあるミサさんとエミリオさん+1組でリーダーの抑えをやってもらう方が
    バランスがとれるんじゃないかと思ったわ。
    ザコの方が倒しやすいでしょうけど、人数が少ないとじり貧になる可能性があるかなと。
    少し余裕を持たせた戦力で弱い方を倒してからボスに一斉攻撃の方が効率的かもしれないわ。

  • [7]ミサ・フルール

    2014/07/01-13:08 

    リゼットちゃん了解ですー。
    なら空き地に敵を誘導後、リーダーに3、手下に2の割合で分かれるのはどうかな?
    先に敵を倒したチームは、まだ戦っているチームに合流する感じで。

    とりあえずぱぱっとチームを振り分けました。
    何か別の意見があれば遠慮せず言ってくださいな。
    (敬称略)

    『リーダー組(ハーピー×1※デミ・オーガ化)』
    リゼット ウィンクルム(ハードブレイカー)
    咲 ウィンクルム(プレストガンナー)
    アマリリス ウィンクルム(ロイヤルナイト)

    『手下組(ハーピー×2)』
    リオ ウィンクルム(ハードブレイカー)
    ミサ ウィンクルム(テンペストダンサー)

  • [6]リゼット

    2014/07/01-00:26 

    果樹園で戦うわけじゃなくて、それぞれ空き地に誘導した上で
    アクセサリーでリーダーとそれ以外を引き離すことができたら
    相手の連携を崩せるかと思ったの。
    相手からこちらの誰か一人に集中攻撃をかけられにくくなるし。
    とはいえこちらの戦力も分散されてしまうからいいことばかりではないけど。

  • [5]アマリリス

    2014/06/30-23:06 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    精霊はロイヤルナイトのヴェルナーですわ。
    よろしくお願いいたします。

    バランスの取れた職構成ですので分散でもまとめてでも対応できそうですね。
    わたくしはさくらんぼや光り物の他にスキルのアプローチで誘導してみようかと思っていますわ。

  • [4]ミサ・フルール

    2014/06/30-14:51 

    ミサ・フルールと相方のエミリオさんは『テンペストダンサー』です。
    リゼットちゃんとリオちゃんは久しぶり!
    咲ちゃんとアマリリスちゃんは初めましてだね。
    皆さんどうぞよろしくお願いします(お辞儀)

    私とエミリオさんは、
    果樹園に被害をだしたくないし、ボスも手下も空き地に一カ所に集めて戦いたいなと思ってるよ。
    分散の意見が多ければそっちに協力するね。

  • [3]淡島 咲

    2014/06/30-12:27 

    こんにちは、淡島咲です。
    パートナーはブレストガンナーのイヴェリアさんです。
    よろしくお願いします(ぺこり)

    さくらんぼにチェリーパイ…楽しみですね。
    そのためにもハーピーを撃隊しちゃいましょう!
    そろそろ分散できる人数かなとも思うんですけどどうでしょうか?

  • [2]リオ・クライン

    2014/06/30-09:43 

    大きいさくらんぼに人気のチェリーパイかあ・・・(キラキラ)

    はっ、コホン・・・リオ・クラインという。
    パートナーはハードブレイカーのアモンだ。

    誘き寄せて分散させる場合は、やはり人数が必要だな。

  • [1]リゼット

    2014/06/30-09:23 

    リゼットよ。
    連れはハードブレイカーのアンリ。よろしくお願いね。

    興味の違うものがあるなら分散させて戦うか
    いっそまとめて戦うか選べそう。
    どうするかは人数次第ね。
    パイの味を想像しながら誰か来るのを待たせてもらおうかしら。


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