プロローグ
突然ではあるが、夏といえばそうめん。そうめんといえば、やはり流しそうめんが一番だと、俺は思っている。さらさらと流れる水にのる白いめんを箸でとり、つるりとすする。もちろん、そうめんを流すものは、竹でなくてはいけない。プラスチックなんて味気なさすぎる。
さて、今年も夏だ! そうめんだ!
引っ越してきたばかりのタブロス市。俺はやはり、そうめんが食べたくなる。田舎のように庭で流すのは無理だろうが、どこか食べられる店があるだろう。
そう、俺は気楽に考えていたのだが。
「流しそうめんがない、だと……」
広い市内、すべてを巡ったわけじゃない。市内のどこかにはあるかもしれない。しかし俺の行動範囲内にはなかった。流しそうめんどころか、そうめんがなかった。
いや、あるさ。ぶっかけめんの上に、えびだわかめだトマトだ、いろいろのせてあるやつならば。たしかにその方が華やかだ。色合いもいい。でも俺は、めんつゆにつけるタイプの、シンプルなのが食いたいんだ!
「……仕方ない、作ろう」
まずは鍋を買って、器を買って、箸を買って。
そうめんを買ってめんつゆを買って、ねぎを買って。
「ゆでよう」
そんなこんなで高まった俺のそうめん愛。俺はやはりどうしても流しそうめんが食べたくなってしまった。
「……仕方ない、作ろう」
俺の家に庭はないから、通りの端を借りよう。
どうせなら、一等長いコースを作ろう。
そして完成したのが、引っ越ししてから一週間後。
せっかくだから、町の皆さんにも声をかけた。
すると流しそうめんに感動したそうめん仲間その1が、水ようかんを用意してくれた。
いいねえ、水ようかん! すっきり甘くてうまいねえ!
おまけに流しそうめんに感動したそうめん仲間その2が、ビールを用意してくれた。
いいねえ、ビール! のどごしすっきり!
そして流しそうめんに(以下略)その3は、線香花火を用意してくれた。あの、全部が紙製のやつだ。
いいねえ、線香花火! 風流だ!
「よし、流しそうめん会の開催だ!」
人はそこそこ集まって、そうめん会はにぎやかに開催されたのだが。
「ちがーう!」
俺は叫んだ。
「どうして! フォークをつかうんだ! そうめんには箸だろう! ……わかった。まずは箸の持ち方を指導する! ちょっと待っててくれ!」
俺は人数分の箸と大量の豆を買い、会場の通りに戻った。
「箸づかいをマスターした奴から、そうめんを食べられることにしよう。早くマスターしないとなくなるからな。まずはこの豆をこっちの皿に移しかえだ! 最後まで持てない奴は、そうめんをゆでる係にするからな!」
解説
そうめんを愛する男、ミカサが流しそうめんをしています。
しかしタブロスには、箸を使うのが苦手な方もいるようです。
ということで、まずは箸の持ち方指導が始まりました。
箸を持てる神人さん、精霊さんは、持てない神人さん、精霊さんに教えてあげてください。
箸を持てない神人さん、精霊さんは、持てる神人さん、精霊さんに習ってください。
(要は参加ウィンクルム内で教えあってください。各自ペアでも、別ペア同士でも構いません。どちらかに偏った場合は、流しそうめんに感動した仲間たちが、教える側か教えられる側に回ります)
それからたのしく、流しそうめんを食べましょう。
水ようかんとビールもあります。
未成年の方にはウーロン茶をご用意します。
最後は線香花火で締めましょう。
流しそうめん会。参加費は一人300ジュールです。
ちなみに箸の扱いは、ミカサも教えてくれます。
まずは持ち方の指導。それから皿から皿へ、箸を使って豆を移動します。
そうめん、そばつゆ、ねぎ。その他箸やお皿はミカサが用意しています。
ミカサは「持てない奴はそうめんをゆでる係」とか言っていますが、まじめに習ってくれる人には、そんなことはしません。
でもフォークを使ったりしちゃうと……ゆでる係にされるかもしれませんね。
大汗をかきながら、相棒とめんをゆでたいのなら止めませんが。
習って、食べて、飲んで、遊んで。楽しい時間を過ごしてください。
ゲームマスターより
タブロスで開かれる、流しそうめん会。
そうめんが食べられて、箸の持ち方まで学べます。
(スキル等とくに何かに反映することはありません)
またもやギャグです。
でも線香花火の場面は、しっとりできる……かも?
ご自由にそうめんタイムを楽しんでくださいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
流しそうめんか 映像で見た事はあるんだけれど 実際やった事って無いんだよね 箸は使えるよ。日常で使うの箸だし そう言えばアクアはあんまり使わないよね じゃあ一度手習いしてみる? ん。そうそう、鉛筆持つイメージで 下の箸は動かさないから……うん、その調子 俺は教えながら一足お先にそうめん食べてるよ 美味しいよね、そうめん 当たり前だけれど、本当に流れて来るんだね んー……どうだろう このそうめんがウォータースライダーのように高速で流れて来たらびっくりしない? ……いや、冗談だけれどね ウーロン茶と水ようかんでさっぱりしたら 最後はしゃがんで線香花火 線香花火って何だかエンドロール見てる気分になるんだよね |
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
流しそうめんに水羊羹、楽しみだな ああ、フォークとナイフは預かっておくね 時間はあるし焦らずいこう?勿論付きっきりで教えるから う…その呼び方は恥ずかしいからやめて 横から軽く指先を添えて、拗ねられないように褒めながら教えていく 竹の流し台なんだね、本格的だなぁ 上手く掴めそう?ふふ、お手並み拝見といきましょうか ラセルタさんの呑み込みが早いから教え甲斐があったよ ええ、と、その時はお手柔らかにお願いしたいな 線香花火も初めて?折角だからやってみようよ 風があると火種が落ちやすいから、もう少し側に寄っていい? ちょっ、と近寄り過ぎた気もするけれど良い風除けかな ……うん、こんなに長く続いたのは俺も初めてだよ。綺麗だね |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
ランスが意気込んで勧めるので引きずられるように来訪 まあ、そうめんは美味いしこういうのもいいかもな …って、ランス?そっちは茹でる方だぞ? 分かった分かった手伝えばいいんだろ(腕まくり 一頻り茹でる手伝い 暑さでヘバりそうになった頃やっと食べる方に回れそうだ ランスが箸をグーで握る 「ちょい待ち」 「箸の使い方はそうじゃない」 丁寧に手を添えて教える 食べるにつれ少しずつ使えるようになる、かな うちでも箸を使うようにしようか?(笑 後は2人で美味しく(少しワイワイと)食べる 同じ塊を同時に取ろうとしたり、水が跳ねたり; 取りそびれた塊をランスに「あーん」とされたら、一寸…周囲がキニナル ◆花火 後片付けも手伝う その後、花火だ |
遥 宏樹(月都)
【心情】 素麺なんて久々だぜ! あの家で子供の頃やったからなー! いろいろ知った後だとなんか複雑だな……いや! 暗くなってても仕方ない、流し素麺存分に楽しまなきゃだな! 【行動】 へ?箸って奴で食うのか!?今までフォークで食ってたぜ……。 ぐぅ……豆掴むの滅茶苦茶難しいぞ!でも絶対マスターして素麺食べような! 俺、頑張るぜ! 水ようかんかー。 半分月都にあげよう、月都は甘いものが好きだっただろ? 俺は嫌いじゃないけど、好きな奴が食う方が良いと思ったんだ。 ……酒飲めない?しかも同僚達が怯えるくらいって?? 月都はたまに謎だなー。 線香花火だぜー!って、はいはい静かにするってば! テンション高くたって良いだろ楽しいんだから! |
城 紅月(レオン・ラーセレナ)
俺、顕現して一か月も経ってないし。 レオンと親しくなった方がいいよ、ね? イベント参加。箸の持ち方を教えるよ。 ついでに、胡麻を持って行って、ゴマダレの美味しさを皆に伝授♪ すり鉢も持ち込んで擂ってあげるね。 擂りながら、ふと思う。 本当はレオンが…怖い。理由はわからない。 嫌いじゃない。綺麗だし。声も良い。 でも、スキンシップ過多だから色々と…恥ずかしい。 レオンに慣れなきゃ…いつか誰かを困らせるかも 「…っ、ひっ!」 体が密着っ?!悲鳴上げちゃダメだ。 呑み込んで、我慢我慢…(ブチッ 「スキンシップが激しいんだよ!」<(顔面パンチ 花火の時に二胡を弾きながら謝りたい。 この曲はレオンの為だよ。ごめんね 注:トランス経験無 |
ミカサは、数十センチの間隔で、並べたカセットコンロの間を行き来していた。どこかの店のキッチンが借りられれば良かったが、さすがにそれは無理だった。通りの端では危ないので、ちょっと入った広場である。並んだ鍋の中身は、もちろんそうめんだ。
ゆであがっためんから水でしめ、また水をはってゆでる。そうめんをタブロスの皆さんが愛してくれることは至上の喜びだと、口に出しては言わないが、機敏な動きがそれを示している。
「ランス? そっちはゆでるほうだぞ?」
「いいんだよ。食べさせてもらうんだから手伝わないと! ひとりでこんだけしてくれたんだからさ」
ヴェルトール・ランスは、アキ・セイジの腕を引いて、そうめん会会場となっている通りから、広場への道を歩いていた。
「わかったわかった。手伝えばいいんだろ」
ついていくから手を離せ。セイジは腕まくりをし、ランスと一緒に鍋の並ぶ場所へと進む。
家でも料理はやっているし、麺をゆでることなど難しくはない。そう思ったのだが――。
甘かった。たしかにゆでることは簡単だ。だがしかし。
「暑っ!」
セイジは顔に流れ落ちる汗を、手の甲で乱暴にぬぐった。
「セイジ、髪長いから余計じゃないか?」
ランスはセイジの後ろ頭に手を入れ、ぐしゃりと髪を持ち上げた。すっと汗が引くような開放感。
「セイジ、きれいな顔してるからアップ似合うな~。これ、ピンでとめればいいよ。セイジは涼しいし俺の目も幸せだし、一石二鳥! よし、俺誰かにピン借りてくる!」
走り出そうとするランスに、セイジは腕を伸ばす。
「お前の目が幸せってなんだよ。おい待て、やめ……ランス、鍋見てろよ! 吹きこぼれてるぞ!」
「流れてるそうめん、ですか? お皿にのっているのではなく?」
アクア・グレイはきらきらと瞳を輝かせて、木之下若葉を見上げた。
「ワカバさん、僕食べてみたいですっ」
「流しそうめんね……。映像で見たことはあるんだけれど、実際やった事ってないんだよね」
どんなものかと二人して通りの竹筒に寄って観察し、とたんアクアが不安そうな顔をする。
「箸……ワカバさんちの台所、菜箸がありますから少しは使えるんですけど」
「そういえばアクアは箸、あんまり使わないよね。俺も教えたことなかったし……じゃあ一度、手習いしてみる?」
興味津々の顔が暗くなるのがかわいそうで、若葉は軽い気持ちで言ったのだが、アクアはそれが、たいそう嬉しかったらしい。
「僕、頑張りますね! 箸、貰ってきます!」
ふわふわの髪を揺らし、通りを走っていく。
「そうめんなんて久々だぜ。あの家で子供の頃やったからなー……いろいろ知った後だとなんだか複雑だな……いや!」
遥 宏樹は勢いよく顔を上げた。
「暗くなってても仕方ない。流しそうめん、存分に楽しまなきゃだな!」
そう言って、うきうきと器と箸をとりに向かう。
「……ヒロ、そうめん食べたことあるなんて本当かな? めちゃくちゃ食べる気満々だけど……」
宏樹が振り返り、大きな声で、月都を呼ぶ。
「月都! 薬味どうする~?」
満面の笑みは、月都の不安を払しょくするに十分だ。
「まあ良いか。いざというときは、僕がフォローすれば良いしね。お任せするよ、好きに選んで!」
※
「流しそうめんに水ようかん、楽しみだな。ああ、フォークとナイフは預かっておくね」
羽瀬川 千代は、ラセルタ=ブラドッツから持参のカトラリー(ナイフとフォークのセット)を受け取るべく手を差し出した。しかしラセルタは、不満あらわに箸を睨んでいる。
「こんな細い二本の棒きれ、食事には心もとないではないか」
「でも、箸で食べるのが決まりらしいから……時間はあるし、焦らずいこう?」
千代がほほ笑む。しばしの熟考ののち、ラセルタは渋々愛用の品を千代に渡す。
「……仕方があるまい。熱い鍋をひたすら掻き回すよりはましだからな」
ラセルタは千代の目をまっすぐに見、わずかに口の箸を上げた。
「では千代センセイ、よろしくご教授願いましょうか?」
「う……その呼び方は恥ずかしいからやめて」
千代はラセルタの横に並んで、彼の手に自分の指先を添えた。先ほど箸使いの手本は見せた。あとは練習あるのみだ。
「そう、うん、上手に持ててるよ。ああでも、力を入れすぎないで。先っぽだけを合わせるんだ」
「うむ、なかなか難しいな」
「大丈夫、ちゃんとできるよ。ほら、こうして……クロスさせないように……」
かちかちと箸の先で音を出すことができれば、ものを持つのに支障はないだろう。千代の手はラセルタの手ごと、箸をゆっくりと動かしている。
町の人が食べるために使っている道具を見て、宏樹は目を丸くした。
「へ? 箸ってやつで食うのか! 俺、今までフォークで食ってたぜ……」
「え、フォークで?」
まったくあの人さらいは、と、かつて宏樹を育てていた人物を、月都は思い出す。しかし不器用に箸を握る宏樹を見れば、そんな過去より今が大事だと思う。
「箸の使い方、僕が教えてあげるよ」
月都が言うと、宏樹の顔がぱっと輝いた。
しかし数分後、その眉間にはしわが寄っていた。箸使いの練習のため、豆の移動を始めたからだ。
「ぐぅ……豆つかむのめちゃくちゃ難しいぞ! でも絶対マスターして……うおっ」
宏樹の箸先を逃れた豆が、ころころとテーブルの上を転がっていく。
「えっと、どこにいったのかな……はい、あったよ」
箸ではさんだ豆を、月都が宏樹の皿に入れる。宏樹は感嘆の声を上げた。
「すげえな……月都、箸で豆持てるんだな……。俺も頑張るぜ!」
「うん、一緒に頑張ろう」
それで楽しくそうめんが食べられれば、なによりだ。
「俺、顕現して一か月もたってないし、レオンと親しくなった方がいいよね?」
城 紅月はいつも愛用の二胡を持つ手に、箸を握った。相棒は箸を扱えるだろうか。尋ねれば、いいえと首を横に振られる。
「でも紅月の世界の食べ物みたいですし、食べてみたいです」
レオン・ラーセレナは真剣な顔で、自分の手にある箸を見つめた。
「まずは先をそろえて」
紅月の指導通りに、練習用の皿の上を、軽く先端でつく。
「紅月と同じものがいつでも食べられるように、まじめに練習しますね」
「ん、そうそう。鉛筆持つイメージで……下の箸は動かさないから」
「むむむ……こんな感じ、でしょうか」
「うんその調子」
アクアがぎこちなく箸を動かす横で、若葉はそうめんをすすっている。
「美味しいよね、そうめんって」
「僕も早く食べたいです……」
そんなことを言われても、アクアがそうめんをすくうのはまだ無理だろう。でも食べさせてあげたい。しばらく考え、若葉はひとつの案を思いつく。
「……じゃあ俺が器に入れてあげるから、アクア食べなよ。食べてればきっとすぐ箸を使えるようになるよ」
「え? いいんですか? うわあ、いただきます!」
アクアはつるつるすべるそうめんに苦戦しながらも、なんとか口に入れていく。若葉は次なるめんをすくおうと、竹筒の中に目をやった。
「ねえ、アクア。このそうめんが、ウォータースライダーのように高速で流れてきたらびっくりしない?」
あまりに突然突飛な、若葉の言葉。アクアは食べる手を止めた。
「ワカバさん、真顔ですけれど冗談ですよね?」
「……いや、そんな顔しなくても……冗談だって」
「ちょい待ち、ランス」
セイジがランスの行動をとめたのは、もちろんそれなりの理由がある。ランスがいきなり、箸をグーで握ったからだ。
「箸の持ち方はそうじゃない。ほら、こうして鉛筆を持つ形で……」
隣に並んで方法を示すが、慣れない人間にとって、箸の扱いは複雑である。ランスはセイジの手の動きを真似しようとしているが、やはりうまくはいかないようで。
「仕方ないな」
セイジはランスの背後に回り、不器用に箸を握る手に、自分の手を添えた。
ランスの手の甲を包むように、箸を扱う手をサポートする。
「こうやって……そう、上だけ動かすんだ」
「……こうか?」
「そうだ、なかなかやるじゃないか」
ほめてやれば、ランスは嬉しそうに微笑む。
「うちでも箸を使うようにしようか? 大抵のものはこれだけで食べられるぞ」
「え~、うまくなったらセイジに手伝ってもらえないじゃんっ」
「お前は、何のために箸を練習しようとしているんだ」
「……セイジと同じもの使って、同じもの食べるため?」
自分と同じ年の男子である。かわいいと感じる相手ではないが、そう言われれば、当然嫌な気はしない。むしろ嬉しいというか、いや……。
「……セイジ、顔赤い」
「うるさいな! 箸に集中しろよ!」
※
「やっと上手に使えるようになりました」
右手に箸。左手にめんつゆの入った器を持って、アクアはご機嫌だ。
「進歩早いね」
そばをすする間に若葉が言えば、
「だって、若葉さんと一緒に食べたかったんです」
と、愛らしい笑み。若葉はそんなアクアの全身に目をやった。実はさっきから気になっていることがある。
なにせ相手は箸の素人だ。言ってあげたほうがいいよねと、若葉は重々しく口を開いた。
「ねえアクア。アクアって白いから……、めんつゆ、飛ばさないようにね」
「竹の流し台なんだね。本格的だなあ。つくるの大変だっただろうな」
千代は感心して、長い竹筒を、上から下まで目で追った。隣ではラセルタが、めんの流れる水面を、狙いを定めて見つめている。
「うまくとれそう?」
めんつゆの中にねぎを入れてやりながら、千代が問う。ラセルタはにやりと笑うと、得意げに、箸でそうめんを掬い取った。
「無論だ。箸の使い方はすでにマスターした。今ならお前の頬も的確につまんでやれるぞ」
「頬はちょっと……。でも、ラセルタさんの呑み込みが早いから、教えがいがあったよ」
「機会があれば、次は俺様がテーブルマナーを手とり足とり教えてやろう」
「ええ、と、その時はお手柔らかにお願いしたいな」
ラセルタが、めんにつゆをつけて、口に入れる。
「うむ、なかなか美味いではないか。清涼感があって、夏にはぴったりだな」
「ほら、ランス!」
「うわ、待って、なんだこれ案外早い……っ」
流れる水にのったそうめんが、ランスの箸の間をするりと抜ける。ランスはそれが、気に入らない。
「リベンジだ! うりゃっ」
「ばか! そんな派手にすくうと……」
セイジの静止は間に合わなかった。案の定、派手に水がはねる。それがセイジの目に入るだから、セイジにとってはとんだ災難だ。
「つっめた! 水かかった、水! でもとれたぞセイジ!」
「俺は……目に入ったっ」
セイジは目をこすり、大丈夫かと覗いてくる相棒を睨み付ける。
「……お前のせいで、そうめんとり逃したし」
拗ねるように言ってやると、ランスは箸の先のそうめんを見。
「じゃあ責任もってこれ! はい、あーん」
「いや、それはいいっ!」
セイジは慌てて周囲を見回した。あーんなんて、こんな道端で、恥ずかしすぎるだろ。しかしランスは全く気にしない。
「いいからいいから、はいあーん」
ランスが強引にめんを押し付けてくる。相手に引く気はないのだから、放置すればずっとこのままの体勢だ。それはどんな羞恥プレイだと、セイジは渋々口を開いた。
もぐもぐと、咀嚼しながら思うのは、人目のないところでしてくれということだ。
「水ようかんとビールか……。申し訳ないけど、僕ウーロン茶がいいな」
宏樹が渡してくれたビールを返し、ごめんね、と月都は頭を下げる。
「……酒飲めない?」
ビールをウーロン茶に変更して渡しながら、宏樹は聞いた。
「うん、恥ずかしながら苦手でね。僕、教職の同僚が怯えるくらい人が代わるらしくて」
「……怯えるくらいって?」
聞かれても、月都には実際それがどんな状態なのかわからない。『らしい』と伝聞の言葉を使った通り、そのときは記憶がないのだから。
答えないままあいまいに微笑む月都に、宏樹は不思議そうな顔をした。酒など飲んだことがないだろう年齢だから、意味がわからないということなのだろう。
「月都はたまに謎だなー」
少しだけ考えるそぶりをして、
「そうだ、俺の水ようかん半分やるよ。月都、甘いもの好きだろ?」
好きな奴が食べた方がいいし、酒が飲めない代わり! そんなことを言う相棒が、なかなかにかわいらしい。
持ち込んだすり鉢でごりごりと、紅月はゴマをすっていた。そうめんは普通のめんつゆでも十分美味しいけれど、ゴマダレが一番だと思っている。この美味しさを、ぜひみんなにも知ってもらいたい。だからごりごりとすっている。
手を動かしながら思うのは、相棒レオンのことだ。
本当はレオンが……怖い。理由はわからない。
嫌いじゃないんだ。綺麗だし、声も良いし。
でも、スキンシップ過多だからいろいろと……恥ずかしい。
レオンに慣れなきゃ……って思うけど。俺とレオンの距離が遠いことで、いつか誰かを困らせるかもしれないし。
ごりごり、ごりごり、ゴマをする。みんなに配りたいから、ごりごり、ごりごり、たくさんする。
「ほう、ゴマをすっているのですか。美味しそうですね」
レオンが声をかけてきた。
「でも一人では大変でしょう……手伝いますよ」
レオンは紅月に寄って来る。その距離がだんだん近くなってきて……。
「……っ、ひっ!」
周囲には、わからない程度に抱きしめられる。
体が密着っ?! 悲鳴あげちゃダメだ。
飲み込んで、我慢我慢……。
「少し震えてますね。耐えて我慢してるのが伝わってきますよ」
耳元で、レオンが囁いた。かわいいと思っていることまでは口にしない。紅月の震えが一層大きなものになり、レオンが嫌な予感を感じたのは一瞬。
「スキンシップが激しいんだよ!」
遠慮のないパンチが顔面に飛んできた。
「痛ッ!」
おさえる手の下で、頬は鈍い痛みと熱を持っている。
※
そうめんのあと、ウーロン茶と水ようかんでさっぱりしたら、最後は線香花火の時間だ。
若葉とアクアは、二人並んでしゃがみこんでいる。
「線香花火って、なんだかエンドロール見ている気分になるんだよね」
ちりちり燃える小さな炎は、どんなふうに見ても物悲しいと若葉は思う。しかしアクアは隣でいつも通りの笑顔である。
「線香花火、ここに火をつけるんですか」
そんな姿を見ていたら、ふといつもと違ったことをしてみたくなった。
「……花火、くっつけてみようか」
ふたつの花火を、そっとそっと合わせてみる。
「……わあ! ワカバさんの花火と合体しました……! 大きいですっ」
「本当だ、エンドロールじゃなくなった。火の玉みたい」
鮮やかなオレンジ色と音もなく燃える、大きくなった炎から連想したのだが、アクアは顔をひきつらせた。
「火の玉って……」
「あれ? アクア、ひょっとして怖い話嫌い? それともちょっと風情がなかったかな」
しぼんでいくアクアの笑顔。これはしまったと、若葉はあいている手を、アクアの頭の上に置いた。
「ごめんね、元気出して、アクア」
配られた紙の花火を二人分、千代は手に持っている。
「線香花火も初めて?」
「花火は遠くから眺めるものしか知らん」
ラセルタは言い切って、しかし千代の手の中を気にしている。やってみたいけれど、やりたいと言い出せないような、そんな雰囲気だ。
ラセルタの性格を、千代はもう十分に承知している。
「せっかくだからやってみようよ」
こうして千代が誘ってやれば、彼は渋々と言った感じにのってくるのだ。ほら、今も。
「其処まで言うならば付き合ってやる」
「風があると火種が落ちやすいから、もう少し傍に寄っていい?」
なにせ紙の線香花火である。少しの風、少しの揺れでも火種は落ちる。そう思ったから言ったのだが、ラセルタは何を勘違いしたのか、千代の肩を抱いてくる。
「遠慮するな、もっと此方に寄れ」
「ちょっ、と近寄りすぎた気もするけれど、良い風よけかな」
ぱちぱちと爆ぜる炎は小さな橙。
種は途中で一度黙り、散らす火の形を変えていく。
「勢いが物足りないが、美しいな。爆ぜ方が変わるところが良い」
「……うん、こんなに長く続いたのは、俺も初めてだよ。綺麗だね」
「線香花火だぜー!」
うわおっ! と上がったテンションに、叫べば月都がこちらを向いている。まるで「廊下は走らない」と注意する先生のような表情だ。
「はいはい、静かにするってば!」
声は抑えたものの、うきうきは止まらない。箸は持てるようになったし、そうめんはうまかった。昔の記憶が、今の記憶に塗り替えられるのは楽しい。月都がいれば、直のこと。
月都は線香花火の、小さな明かりを見つめている。
「線香花火は綺麗だね。心が癒される」
誰相手でもなく呟いて、今日一日を回想する。
「今日はヒロが楽しそうでよかった」
年若い相棒を見れば、彼はどうも静かにしていることが苦手なようで、揺らしてしまった花火から、ぽとりと火種が落ちるところだ。
「僕の、一緒に持つ?」
誘うといそいそと近づいてきた。今年初めての、線香花火の思い出だ。
紅月は拗ねている姿もかわいいが、そのまま放置しておくわけにはいかない。
ちょっとからかいすぎました。花火を見ながら、水ようかんでご機嫌でもとりましょうかね。
相棒の分と自分の分。二つの水ようかんを手に持って、レオンはどこかに行ってしまった紅月を探す。
人が多くて姿は見えないが、二胡の調べがレオンを引き寄せている。
紅月の音だ。
たどるとそこには、うつむき加減の紅月がいた。
「この曲はレオンのためだよ。ごめんね」
「……いえ、私もいけませんでしたから。素晴らしい音ですね、紅月。もう少し、聞かせてもらってもいいですか?」
水ようかんはあったまってしまうけれど、今この曲を止めてしまうのは惜しい。
紅月はいつもよりずっと大人っぽく微笑んで、曲を奏で続けた。
せっせと後片付けをしたあとに、セイジはランスと花火を楽しんでいる。
一緒にめんをゆでた仲と、誘ってくるミカサは申し訳ないが断った。
だって花火だぞ、花火! なんかいい感じじゃないか。
「この花火きれいだな~。セイジ、これ今度買って、家でやろうぜ」
「……のわりには、緊張した顔をしているな。ランス」
「だってこれ、真剣に持ってないと、火が落ちるんだろ?」
作って、食べて、寄り添う夜。
たくさんの思い出を重ねることで、人は親しくなっていく。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月24日 |
出発日 | 07月01日 00:00 |
予定納品日 | 07月11日 |
参加者
会議室
-
2014/06/30-09:03
飛び入りで参加させてもらったぜ!
セイジと若葉は久しぶりだな!またあえて嬉しいぜ!!初めましての奴は初めましてだ!
改めて俺は遥 宏樹!精霊はマキナの月都だ!
流しそうめんなんて子供の頃やった以来だから超楽しみだ!
皆で楽しもうな!よろしく! -
2014/06/30-00:09
セイジだ。ごく普通に会食を楽しむつもりでいる。
相棒はなにやら悩んでいるようだが…。
では、よろしく。 -
2014/06/29-22:19
こんばんは、城紅月だよ。パートナーはレオンね。
羽瀬川さん、木之下さんはじめまして。
俺は箸も使えるし。流しそうめんも大丈夫だよ。
レオンはどっちもダメだから、俺が教えるつもり。
むしろ、俺が初参加でちょっと不安かな(苦笑
みんなと楽しめるといいな。 -
2014/06/29-22:01
こんばんは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
城さんは初めまして。木之下さんは豚さん事変…以来だね(遠い目)
俺は何度か流しそうめんの経験があるけれど、ラセルタさんは
箸を使うのも恐らく慣れていないだろうから最初は教えていると思います。
流しそうめんは勿論、水ようかんと線香花火も楽しみです。 -
2014/06/29-20:44
今晩はと羽瀬川さんはお久しぶりです、城さんは初めまして。
木之下若葉だよ。隣はパートナーのアクア。
揃って宜しくお願い致します、だね。
流しそうめん、実は初めてなんだよね。
流れて無いそうめんなら家で良く乾麺買ってきて茹でてるんだけれど……。
ああ、俺は普通に箸使えるよ。何時も箸だし。
アクアは……うん。
「頑張りますっ!」って言ってるからしばらく教える事になりそうだね。