【ジューンブライド】相合傘と永遠のリボン(タカトー マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 咲き誇る紫陽花の中を、寄り添うように歩く老夫婦。
「ここにしましょうか」
「そうだね」
 彼女たちはとある紫陽花の前に屈みこんで、その枝にゆっくりとリボンを結びつけた。
「懐かしいですね」
「……ああ」
 二人は互いに顔を見合わせ、穏やかに笑う。
 そんなとき、空から雫が落ちてきた。
「あらまあ」
 妻は立ち上がると持っていた傘を広げ、自分の夫にそれを傾ける。
「それでは君が濡れる」
 自分のことより人を優先してしまう妻を見て、困ったように笑う夫。
「さあ、行こう」
 今度は夫が、妻から受け取った傘を彼女の体が濡れないようにと傾けた。
「まあ、それだとあなたが……」
 再び互いの顔を窺う老夫婦。
「………………」
 これではきりがない、とまた困ったように笑いながら、二人は静かに歩み始めた。
 そんな二人に、優しく雨が降り注ぐ。 

 これは、六月の初めのことである。
 タブロス市内に設置された、この紫陽花園ではよく見られる光景だ。
 紫陽花園のちょっとしたイベントのひとつ。
 金婚式を迎えた夫婦が、その年にリボンを結びにやってくるというものだ。
 このリボンには、それぞれの夫婦が考えた言葉が刻まれている。
 こうして広い紫陽花園の中に、いくつかリボンの結ばれた紫陽花が出現することとなる。
 
 六月中旬から下旬にかけて、今度はそのリボンを見つけようと若いカップルが多数訪れる。
 そのリボンを見つけられたカップルは、皆幸せになるという噂があるからだ。
 前述した老夫婦も、結婚前に訪れたというこの紫陽花園。
 
 今年も、開園である。

解説

 紫陽花園で、リボンを探すイベントです。
 
●入園料について
 一組当たり100ジェール。
 また、雨天時は傘のレンタルも含めて一組150ジェールとなります。
 
 紫陽花園の道は狭いので、園内は相傘でお願いいたします。
 上記の150ジェールは、一組に傘を一本レンタルした際の値段となっています。

 人気のスポットですので、一回の入園につき一時間までのご利用とさせていただきます。
 一時間を超える場合は、再度ジェールを支払っての入場をお願いしております。
 開園時間は午前11時から午後6時まで。
 一度ではリボンを見つけられなかったカップルが、何度も挑戦する姿をよく見かけます……。

●リボンについて
 ひとつひとつ違う言葉が刻まれているリボン。
 カップルの中には、その言葉が不思議としっくりきたりもするようです。
 先輩カップルからのアドバイスや、ストレートな愛の告白などが刻まれています。

●当日の天気について
 降水確率100%のようです!
 一日中雨が降っているかと思います……が、晴れ女さんや晴れ男さんがあらわれた際には
 何か変わるかもしれません。

ゲームマスターより

 プロローグをお読みいただき、ありがとうございます。
 ゲームマスターのタカトーです。 

 基本は、雨が降り続ける中でのリボン探しとなります。
 ですがそれにこだわらず、自由にプランをご記入いただければと思います。

 リボンの言葉も、プランにご記入いただいた分は反映します。
 書かれていない分については、「タカトーに任せた!」というメッセージと受け取りますね!
 リボンを見つけられるのか、見つけられないのか。
 はたまた、一組で複数のリボンを見つけるのか。
 さまざまなカップルがいるようです。

 ではでは、皆様に紫陽花園をお楽しみいただければ幸いです。 

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  リボンを見つけると幸せに…ですか…。
わたくしとカガヤがそうなるのかは全く分かりませんが、

雨に降られてしまいますと
散策するのも一苦労になってしまいますし、
傘もお借りしていきましょう。
わたくしが差してもいっぱいいっぱいになるだけですので、
カガヤが傘を持っていてくださいね。
1本の傘に2人入るしかないので、
濡らさないようにちゃんとバランス取ってくださいね?

カガヤ?
傘が狭いからって…それはちょっと…。
わたくしが傘を持って肩車とか
言い出さなかった辺り一応成長してるのでしょうか…?

少し歩きにくいですが、
このままで行くしか無いのでしょうか…。

紫陽花の影などにリボンが見えないか覗いてみながら
歩いていきます。


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  珍しく降矢さんからお誘いを受けたんだ
タブロス市内の事は降矢さんの方が詳しいからね…あの人は、どんな場所を選んだんだろう

傘は一つなんだね
少しだけ、小さいみたいだけれど…私は濡れてない。
…降矢さん、濡れちゃうよ?

わあ、紫陽花が綺麗!
雨の匂いもぴったりで…素敵な場所だね
ふふ、教えてくれてありがとう

●…なんだか、カップルが多いね。なんでだろう
へえ、リボンにメッセージかぁ…素敵なイベントだね
じゃあよりじっくり紫陽花を観察しないとね
私たちも一つ位見つけれたらいいんだけれど…
見つけた言葉は…きっと、心に沁みこむと思うんだ

園の外に出たら、お昼だね
美味しいお店?行こう行こう!
そして、園の感想を話し合おう?


テレーズ(山吹)
  金婚式…そんなに長い間連れ添っただなんて素敵ですね
憧れちゃいます

リボンも気になりますがまずは楽しみましょうか
探すのに夢中になって早足で過ぎるのは勿体ないくらい素敵な場所ですもの
見て下さい、雨に濡れた紫陽花ってこんなに綺麗なんですね!
あら、これって…リボンですね
これが棚ぼたというやつですね!
なになに…

私達は常に危険と隣り合わせでいつまで生きていられるかもわからないですよね
だからこそ一日一日を大事に過ごしていきたいんです
えへ、単に遊びたいだけじゃなくて私だってちゃんと考えてるんですよ
今のうちに思い出一杯作っておきましょうね!

あ、とはいえ私は長生きする気満々ですよ!
山吹さんも一緒に長生きしましょうね



Elly Schwarz(Curt)
  【心情】
僕としては主に紫陽花を見に来た感じなんですけど
リボンに書かれている言葉……ウィンクルムとして1つは見つけてみたいですね。

【行動】
この前のあの……肩を抱かれるのは恥ずかしいと言いますか……。
せめて手を繋ぐくらいで許してもらえませんか?
って、なんで絡めて!?いや、大丈夫です。
(これもウィンクルムとして、ウィンクルムとして……)心の中で暗示。

紫陽花が綺麗ですね。ずっと見ていたいです。
僕等が見つけるリボンには何が書かれているのでしょう。
アドバイスはともかく、人の告白を見てしまうのは些か罪悪感がありますね。

一時間なんて短いですよね、クルトさん……え?
いきなり何をするんですか!突然は吃驚しますよ。


●二人の道
 
 紫陽花園の入り口で、『手屋笹』は傘に目をやる。
「雨に降られてしまいますと、散策するのも一苦労ですわね……。 傘をお借りしていきましょう」
 今は一時的に雨が止んでいるが、この曇天ではいつ降り出すかもわからない。
 笹の提案に、『カガヤ・アクショア』もうなずく。
「では、さっそく入りましょうか」
 笹は受付で傘を受け取り、カガヤと一緒に園内へと踏み込んだ。

「これはっ……!」
 笹は、園内の景色に思わず感嘆の声をあげる。
 そこには、淡く色づいた紫陽花が一面に咲き誇っていた。
 そんな笹を見て、カガヤが微笑む。
 笹は、慌てて平静を取り戻した。
 カガヤを先へと促す。

 リボンを探して、どれくらいになるだろうか。
「あ」
 笹の歩調に合わせて幾何か園内を突き進んでいだカガヤが、ふと立ち止まって声をあげた。
「雨が降ってきましたわね。……カガヤ、傘をお願い致します」
 笹は、手に持っていた傘を差しだす。
「傘は俺が持つの? あ、そうか!」
 カガヤはさっと傘を開いて、満面の笑みで言葉を続ける。
「笹ちゃんの身長だと、俺が入らないもんね! ……うぐっ!」
 すぐさま笹はド突きを繰り出した。
 しかし、カガヤは相変わらずの笑顔で傘をこちらに差し向けてくる。
「カガヤ……」
「ふっ……ごめんごめん。はい」
 雨が本格的に降り始めた。
 笹は身長の話題に関して恨みをもったまま、しずしずと傘へ入る。
「…………!」
 そこで笹は気づく。
 近い。思った以上に近い。
 借りた傘はそんなに大きくもなく、正直心もとない。
 しかし、だからといってこれ以上近づくのは……。
「あ、そうだ」
「え?」
 カガヤが、なぜか一瞬しゃがみこもうとした。
 だが、傘の存在に気づいてすぐにその動作を止める。
「ちがうな。あ」
「はい?」
 わけがわからず、カガヤを見つめる笹。
 だが、カガヤはそんなことなど気にも留めずに
「えっ……!?」
 笹の肩を、抱き寄せるのだった。
「カ、カガヤ?」
 肩から、彼の手のぬくもりが伝わってくる。
 思わず見上げると、カガヤは自分の身長に言及した時と同じような笑顔。
 その近さに思わずぱっと視線をそらしてしまったが、どうやらカガヤには他意がないようだ。
「これなら大丈夫かな! あれ、笹ちゃん、何でそんな赤くなってんの?」
「べっ別に何でもありま……いえ! 気のせいですわ!」
「え、そっかな」
 不思議そうな声が頭上から聞こえる。
 意識しているのは、やっぱり自分だけのようだ。
 笹は顔をそむけて、リボンを見つけることに専念しだした。
 そうでもしないと、心臓がもたない。 
「…………」
 カガヤも探しものに集中し始めたらしく、無言になるふたり。
「あ、ありませんわね……」
 未だ顔のほてりが戻らない笹だったが、沈黙にたえかねてようやくカガヤを見上げる。
 それに気づいたカガヤは、なんだか真剣な表情でこちらをみつめていた。
「……笹ちゃん」
「え、え」
 なんだかアンニュイな彼に、笹は狼狽し始める。
 だが。
「あったよー! リボン!」
「え」
 その一瞬の空気はなんだったのだろう。
 いつも通りの表情になったカガヤが、足元の紫陽花を指さす。
 小さくて、とてもかわいらしい紫陽花だ。
「あ、ありましたわ、ね……」
 二人は座り込んで、リボンの言葉を確認した。

『始まりは違う道でもそれはきっとひとつに繋がる道』

「へーいい感じの言葉だね」
 意味が本当にわかっているのだろうか、カガヤがさらっとそんなことを口にする。
 尻尾はこの雨で重くなっているのか、微動だにしないので感情が読み取れない。
「違う道でも……ですか」
 一方、笹はリボンの言葉に思考を巡らせていた。
 ちらりと、すぐ隣にいるカガヤに目を向ける。
 自分は、護身の為に――自分の為に、彼と契約しているだけだ。
 彼も、きっと契約は軽い気持ちで。
 だけど、もしもこの言葉のようなことが、自分たちに起こるのなら。
 そうしたらこの、ウィンクルムの関係というものも――。
「どうしたの笹ちゃん」
「……いえ、そろそろ帰りましょう」
 自分一人の、ただの憶測でしかない。
 それなのに、未来を想像してさらに顔が赤くなってしまったのは……一体なぜなのだろうか。


●無自覚はいつまで
 
 一時的に雨が止み、空のグレーがうすくなる。
「これなら一時間くらいはもつ、かな」
『Elly Schwarz』は天気をうかがい、傘のレンタルは断った。
 紫陽花を見るのにも、そして一応……ウィンクルムとしてリボンを探すのにも、傘はない方が楽だ。
「ふーん」
『Curt』が、やる気のない声を漏らした。
「…………」
 自分もそこまで気合が入っているわけではないが、それ以上に彼には今日のことがどうでもいいらしい。
 この間染物をしたときは紫陽花を描いていたので、てっきり彼の好きな花だと思っていたのだが。
「……とにかく、入ろう」
 紫陽花を見て楽しむのも、リボンを探すのも。
 なんだか個人的なものになりそうだと、エリーは胸中で考えた。

「…………!」
 園内には、想像以上の紫陽花が咲き乱れていた。
 数もさることながら、その一輪一輪からも可憐さが感じ取れる。
 その美しさに、エリーはつい足をとめてしまった。
「……おい」
 クルトの声で、やっと我に返る。
 後ろからカップルが来ていた。
 エリーは慌てて道を譲る。
「すいませんー」
「いえ、こちらこそ」
 優しげなカップルが通り過ぎると、クルトがこちらを見下ろしていた。
「ったく、この道は狭いんだから……」
 そんなことをぶつぶつとつぶやきながら腕を伸ばしてきたので、エリーは反射的にそれをよける。
「おい、エリー!」
「いえ、あの。な、なんと言いますか……。今、クルトさん、あの……」
 言いよどむエリーの代わりに、クルトは言い切る。
「肩を抱こうとした」
「やっやっぱり……あの。以前思ったのですが、肩を抱かれるのは、恥ずかしい、のですが……」
「――ほう? だが、このままじゃまた、邪魔になるだろうな」
 クルトが先を促す。
 エリーは、なんとか言葉を紡いだ。
「せめて、手を繋ぐくらいで……許してもらえませんか?」
「手を繋ぐのは良いのか?」
「え、は、はい!」
 意外とあっさり譲歩してくれたので、エリーはほっとする。
 肩を抱かれるのに比べれば、手をつなぐことなんてたやすい――。
「なら、お言葉に甘えて」
 ぎゅっ。
 いや、これはきゅっといった感じが適当だろうか。
 いや、そんなことはどうでもよく。
「なっなんで絡め、てっ!?」
「はあ? 言われたとおり繋いだだけだろ? それとも何か。やっぱり肩を」「いや、大丈夫です」
 確かに、繋がれている。
 自分の指と、彼の指が、密接に。
 しかし、これはなんなのだろう。
 クルトに提案する前に、エリーが思い浮かべていたのはこんなものではなかった。
「………………」
 指と指の間ががんじがらめにされて、とにかく落ち着かない。
 その上、彼は比較的動きやすい親指で、こちらの手をさすってくる。
「ク、クルトさん……」
「どうした? 手を繋いでいるだけだろ?」
 くくっと笑いをおさえているクルトに、エリーも我を取り戻そうと意識する。
 これもウィンクルムとして、ウィンクルムとして……と、心の中で暗示をかけた。
「さ、探しましょう! リボンを!」
 エリーは自分の手ではなく、周囲に気を配ろうと努めた。

「お、あれじゃないか」
「見つけましたね! あ、でも……」
 淡いピンクの紫陽花に結ばれたリボン。
 クルトはすぐさま手を伸ばすが、エリーは躊躇していた。
「アドバイスはともかく、人の告白を見てしまうのは……些か罪悪感がありますね」
 このリボンに書かれている言葉が、そのどちらかなのは見てみるまでわからない。
「罪悪感があるなら、エリーは見なくても良いぞ。何々……なるほど」
 さっさと先にリボンの言葉を見たクルトが、にたりと笑う。
 その顔を見たエリーは、夏場だというのに悪寒がした。
「これはアドバイス、だな」
「じゃ、じゃあ僕も見ます」
 クルトの表情からは嫌な予感しかしなかった。
 エリーは、急いでリボンの言葉に視線をむけた。

『素直にアタックあるのみ』

「え……」
 かわいらしい恋のアドバイスではないか。
 エリーはほっとして、改めて紫陽花園を見まわした。
「紫陽花、本当きれいですね。ずっと見ていたいです。一時間なんて短……クックルトさんっ!?」
 気を抜いた途端、クルトが繋いだ手を彼の口元へと近づけていた。
 エリーはすかさずその動きに抵抗して、腕をひっぱる。
 クルトが、探るような目つきでこちらを見つめてくる。
「……動かすなよ」 
「動かさないと、くっついていました! いきなり何をするんですか! 突然は吃驚しますよ」
 本当に吃驚した。
 エリーは自身の声の大きさにも驚きながら、クルトから離れようとする。
 だが、クルトは手を離さない。
「何って。いや、だからそのアドバイス通りに……」
「え……?」
 そこで、彼女たちの頬に冷たい雫が落ちてきた。
「あ、雨です! 帰りましょう!」
「は、あ、おい!」
「帰りましょう!」
 エリーはそう言って、走り出した。
 突然の彼女の行動で、二人の手は離れてしまった。
 しかし、エリーの指には、手のひらには……まだクルトの感触が残っている。
 クルトの行為に、なぜここまで動揺させられたのか。
 まだ、エリーは気づかない。
 そして、この雨が降り始めたと共に始まったものにも――やはり、彼女は気づけなかった。


●ずっと、ずっと
 
 リボンを結びにくる夫婦はともかく、噂を聞きつけてやってくる若者カップルは結構温度差がある。
 片方が乗り気でなかったり、片方が気合が入りすぎていたり。
 だが、ここにとても自然な一組の男女がいた。
「金婚式……そんなに長い間連れ添っただなんて、素敵ですね。憧れちゃいます」
「そうですね……」
 ウィンクルムである、『テレーズ』と『山吹』。
 若い二人の雰囲気が穏やかであるのは、幼いころからの仲であるためだろうか。
 二人は傘をレンタルして、ゆっくりと園内へ入っていった。

「わあ……」
 二人を待っていたのは、一面の紫陽花。
 テレーズはきらきらと目を輝かせる。
 そんな彼女の表情を窺い、山吹も静かに微笑んだ。
「見事な紫陽花ですね。人気がでるのも頷けます」
 山吹も自分と同じ気持ちになったことを知り、テレーズも微笑む。
「リボンも気になりますが、まずは楽しみましょうか。
 探すのに夢中になって、早足で過ぎるのは勿体ないくらい……素敵な場所ですもの」
「はい」
 足元の紫陽花、奥に咲く紫陽花へと丹念に目を配りながら、テレーズたちは紫陽花鑑賞をする。
 紫陽花園の中ごろに来たところだろうか、勢いよく雨が降り始めた。
「テレーズさん。どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
 山吹がすぐさま開いた傘の中に、二人で入る。
「……濡れてしまいますので、もう少し近くに寄って頂けますか?」
「あ、はい」
「ありがとうございます。では、進みましょうか」
 近づいたせいか、山吹の声がいつもより深く響く。不思議だ。
 心地よい、だけどなんだか落ち着かないような……そこまで感じ取ったテレーズだったが、彼女の関心はすぐさまうつった。
「山吹さん、見て下さい。雨に濡れた紫陽花ってこんなに綺麗なんですね!」
 勢いよく降ったあと、小雨になって見えてきた景色。
 そこには、雨の雫を受けて光り輝く紫陽花があった。
 鮮やかな色の花びら、そして穏やかな緑色の葉の上を、雫が伝っていく。
 本来の美しさ以上のものを手に入れた紫陽花は、さらに壮観だった。
 そして、その中にも一際輝きを放つブルーの紫陽花へとテレーズは目を向ける。
「特にこれには、目を奪われてしまいます……あら、これって……リボン、ですね」
 それを聞いた山吹と一緒に、テレーズはしゃがみこんだ。
「これが棚ぼたというやつですね!」
 テレーズの言葉を、山吹がロマンチックな表現に変えた。
「結んだ方も同じように、目を惹かれた紫陽花に結んだのかもしれませんね……」
「そうですね! あ、リボンの言葉。なになに……」
 山吹が慎重に傘を差してくれる中、テレーズはリボンの言葉を確認した。

『幸せな事ばかりではなかったけど、この人に巡り合えてよかった。一緒にいられる今を大切にね』

「………………」
 しばし二人は黙り込み、その言葉の余韻にひたった。
 テレーズが、愛しそうにリボンをなぞる。
 どれくらい時間が経っただろうか。
 言うならここでしょうか、と思ってからテレーズは口を開いた。
 ずっと、自分たちウィンクルムについて考えてきたことがあるのだ。
「山吹さん。私達は、ウィンクルムです。それは常に危険と隣り合わせで、いつまで生きていられるかもわからないということですよね」
 隣にいる山吹は、テレーズの言葉に一瞬目を見開いた。
 だが、すぐに穏やかな笑みを携える。
 テレーズもそんな山吹を見て、安心して言葉を続けた。
「だからこそ、私は一日一日を大事に過ごしていきたいんです。……今のうちに、思い出一杯作っておきましょうね!」
 これは、すべて自分の正直な気持ち。
 それを真摯に伝えてみたのだが、なぜか山吹は苦笑していた。
「テレーズさん。それはまるで」
 ああ、自分がこのようなことを言うとは、彼も予想していなかったからそのような反応なのだと、テレーズは自己完結する。
「えへ、単に遊びたいだけじゃなくて、私だってちゃんと考えてるんですよ!」
「ちゃんと……そうです、か」
 ますます山吹が困っているような表情に見えるのは、気のせいだろうか。
 そこで、さらにテレーズの思考が働く。
「あ、とはいえ私は長生きする気満々ですよ! 山吹さんも一緒に長生きしましょうね」
 これだ、きっと、彼はこれを気がかりにしたのではないか。
 しかしそんなテレーズの考えがあたっているのか外れているのかわからない、いつもの微笑で山吹は応えた。
「勿論私も長生きする予定ですよ。 テレーズさんは目を離すと、何をするか予測できませんから。
 私が先に逝くようなことになったら、不安で不安で……」
「そうですか! よかったです!」
 考えているようで肝心なことはわかっていない彼女と、そんな彼女の言動に振り回される彼を――美しい紫陽花が見守っていた。 
 

●恋愛のかたち
 
 雨が降ったり止んだりを繰り返す朝。
 『日向悠夜』と『降矢弓弦』は、二人並んで歩いていた。
「ふふ。楽しみだな」
「気に入ってもらえると、うれしいな」
 いつもは降矢を誘う側の悠夜だが、今回は彼からのお誘い。
 タブロス市内に関しては、自分よりも彼の方が詳しい。
 全く予想できない今日の目的地に心躍らせながら、悠夜は降矢に道案内をお願いしていた。

 降矢が歩みを止めたのは、とある紫陽花園の前だった。
「ちょうど11時だね、中に入ろうか」
 悠夜は初めて訪れた場所だったので、入場の受付も降矢に任せた。
「あ……」
 傘のレンタルをどうしようか悩んでいたところで、雨が降り始める。
「傘を、お借りします」
 降矢が柔らかい声で、受付の方にそう告げていたのが聞こえた。
 せっかくの外出なのに、雨。
 落ち込んではいないだろうかと、悠夜は降矢の横に並んで彼の顔を見る。
 なぜか彼は――雨に、うきうきしているように見えた。

 園内は道が狭く、降矢が傘を持ってくれたがなかなか動きにくい。
 傘はあまり大きくないようだが、降りしきる雨にもかかわらず、悠夜の身体は全く濡れていない。
 なぜだろうかと隣をみると、傘は明らかにこちらに傾いていた。
「……降矢さん、濡れちゃうよ?」
「うん? ああ、悠夜さんは濡れていないね。よかった」
 そうだった。いつだって、彼は優しい。
「…………」
 彼の好意に甘えていいのだろうか、と逡巡していると、つい無口になってしまった。
 そんな悠夜に、降矢が声をかける。
「悠夜さん。見て」
「わあ、……綺麗!」
 見渡すと、そこには紫陽花の絨毯が広がっていた。
 雨の雫が反射して、花々はまるで語り合うように揺れる。
「うん、雨に濡れた紫陽花はやっぱり美しいね」
 降矢も想像以上だったのかもしれない、嬉しそうだ。
 悠夜がゆっくりと息を吸うと、五感が研ぎ澄まされた。
「雨の匂いもぴったりで……素敵な場所だね」
「連れてこられてよかったな」
「ふふ、教えてくれてありがとう」
 傘のことも含めて、悠夜は丁寧に御礼を言った。
 そこで、後ろから他の二人組がやってきたので道をあける。
「おっと」
「ごめんなさい、通ります」
 今日はあいにくの雨だが、なぜか人が多い。
 それも、カップルが。
「降矢さん、なぜこの紫陽花園には人が多いのかな」
 悠夜の疑問に、笑顔で降矢が答える。
「ああ、この時期はちょっとしたイベントがあるんだよ」
「イベント?」
「園内にある紫陽花のどれかに、リボンが結ばれるんだ。
 愛を誓い合った先輩方から、初々しい後輩達への助言などが書かれたリボンだそうだよ」
「なるほど。それで……」
 よく見てみると、彼らは皆紫陽花を凝視しているのがわかった。
「……探すかい?」
「……うん、見つけたいな。見つけられた言葉は……きっと、心に沁みこむと思うんだ」
 その言葉を聞いて、降矢はまた嬉しそうに笑っていた。

 リボンを探し始めて、どれくらい時間が経過したのかがわからない。
 それほどまでに、悠夜はイベントを楽しんでいた。
 隣にいる降矢も、ずっと同じ調子でリボンを探しているので、おそらく同じ気持ちなのだと思う。
 こんな宝さがしのようなことなんて、子どものとき以来ではないだろうか。
 楽しい。とても、楽しかった。
「……あ」
 そんな無邪気さが功を奏したのか。
 よく似た紫色の紫陽花2輪の茎を、ゆるく結んでいるリボンがあった。
 二人は、静かにリボンの言葉をみつめる。

『大切な友人が、大事な伴侶になりました』

「これは……」
 予期せぬ言葉に、悠夜がどう反応していいか迷っていると
「友人から始まる恋、を経験した先輩みたいだね」
 と降矢がいつも通り穏やかに声を発した。
「そう、か。そういうことだよね」
「うん。見つかって、よかった。あ、悠夜さん。この紫陽花園は、一回の入場だと一時間までしかいられないんだ」
 悠夜が慌てて時間を確認する。
「そ、そっか。じゃあ、出ないとね」 
 二人は、すぐさまその場をあとにした。

 紫陽花園を出るころには、雨もほぼ止んでいた。
「丁度お昼の時間だね」
 降矢のその言葉に、悠夜は空腹感に気が付く。
 そんな彼女のことを見通しているのか、降矢がすぐさま誘ってくれた。
「……ねえ、悠夜さん。近くに美味しいお店を知っているんだけれど……どうかな?」
 リボンの言葉に気をとられていた悠夜だが、その誘いにはすぐさま飛びついた。
「美味しいお店? 行こう行こう!」
 おいしい食事、それはとても魅力的だ。
 そして、こんなにも嬉しいのは、もっと他にも要因がある気がする。
 リボンの言葉を、降矢とじっくり話し合ってみたい思いが湧き上がる。
 でも、自分はそのことについてまだはっきりと話せない気も同時にする。
 
 ひとまず食事をとろう、今日の感想を話しながら。



依頼結果:成功
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メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター タカトー
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 06月18日
出発日 06月24日 00:00
予定納品日 07月04日

参加者

会議室

  • [4]手屋 笹

    2014/06/23-15:50 

    こんにちは、手屋 笹と申します。

    悠夜さんとエリーさんはお久しぶりです。
    テレーズさんは初めましてでしょうか、
    よろしくお願いしますね。

    カガヤと一緒にリボン探しに挑戦しますわ。
    うまく見つかりますでしょうか…?

  • [3]日向 悠夜

    2014/06/22-22:42 

    こんばんは。
    どうやら一度はご一緒した事がある人ばかりみたいだね。今回もよろしくね。

    紫陽花にリボン…素敵な物がいっぱいだね。
    とりあえず、時間いっぱいゆっくりと散歩しようかなと思っているよ。

    ふふ、素敵な一日になる様に願っているね。

  • [2]テレーズ

    2014/06/22-20:00 

    こんにちは、テレーズと申します。

    リボンも気になりますが、雨に濡れた紫陽花も美しいとよく聞きますし楽しみですね。
    1つくらいは見つかればいいなーと思いつつ目一杯楽しんでこようと思います。
    今回はよろしくお願いしますね。

  • 何やら壮絶な旗取りだったようで……。

    皆さんお久しぶりな方ばかりですね。今回もよろしくお願いします。
    僕は主に紫陽花を見に来た感じなんですけど
    リボンに書かれている言葉……噂とは関係なく1つは見つけてみたいですね。


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