プロローグ
●時刻みの町
首都タブロスからほど近い場所に、ケーネという小さな町がありました。
ケーネは周辺の町との交易の盛んな町ですが、ケーネがケーネという名前の町だということを知っている人は、あまり多くありません。
ケーネは、時計職人の町です。
ケーネの職人が作る時計はどれもため息が零れるほどの美しさで、繊細な造りなのにとても長持ちするので有名なのでした。
それに、町の広場には、小さな町にはちょっと似つかわしくないほどの立派な時計塔があって、だからケーネは、『時計塔の町』とか『時刻みの町』の名で知られているのです。
●時計塔の伝説
「えー、『時計の町の伝説に、興味はございませんか?』」
ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、手元のメモに視線を落としたまま、そう切り出した。そしてふっとメモから視線を外し、くりんと丸い人懐っこそうな瞳を輝かせながら一同の顔を見回すと、歌うような声で、自分の言葉で話し始める。
「ケーネって小さな町なんだけど、『時計塔の町』なんて呼ばれてるくらい、時計に縁のある町でさ。時計塔がある広場で、長針と短針が重なる時に時を告げる鐘の音を聞いた二人は、片割れの時が止まる時――つまり、死が二人を分かつまで、ずっと共に時を刻んでいくだろう、って言い伝えがあるんだ」
だから、ケーネはこれから幸せになろうという女性たちにも密かに人気なのだという。婚前旅行や新婚旅行で訪れるカップルや夫婦も多いのだとか。
「それから、忘れちゃいけないのが時計塔をかたどったチョコレート! 町で唯一のお菓子屋さんで売ってるんだけど、齧ると、中に入ってるオレンジ風味の柔らかいキャラメルがとろっととろけて……とにかく、めちゃくちゃ美味いの! ケーネの時計はちょっと手が出せないような値段なんだけど、時計塔広場のベンチで美味しいチョコレートを齧りながら鐘の音を聞くのも、なかなか素敵な時間になると思わない?」
なっ? と同意を求めるように、青年は一同に微笑みかけた。
「ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。興味のあるお客さまは、ぜひこの機会に」
――時計塔の町、大切なパートナーと一緒に訪れてみませんか?
解説
●今回のツアーについて
時計の町ケーネを満喫していただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(時計塔チョコレートをお買い求めの場合は、そちらは別料金となります)
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に町へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。
●時計塔チョコレートについて
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターがご紹介している『時計塔チョコレート』があります。
広場近くの小さくて可愛いお菓子屋さん『アンジュ』で購入できます。
1箱2つ入り50ジェールです。
●時計塔について
プロローグで語られたような言い伝えがある、町のシンボル。
『長針と短針が重なる時』で鐘が鳴るのは昼と夜の12時になります。
今回のツアーでは昼の12時の鐘を聞くことができます。
時計塔広場には時計塔を囲うようにしてベンチが幾らもありますので、座って鐘が鳴るのを待つこともできます。
●その他できること
ケーネの時計は質がいい分とても高価なので購入はできませんが、時計屋へ行けば様々の素晴らしい時計を眺めて楽しむことはできます。
また、『アンジュ』にはオープンカフェスペースがあってチョコレートに合う美味しい紅茶を出していますので、そこでゆっくりとカフェデートを楽しむのも一興です。紅茶は一杯20ジェールです。
お好きな場所で、パートナーと思い思いの時間を過ごしていただければ幸いです。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなるのでご注意ください。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
時計の町で、永遠を誓う鐘の音をパートナーと一緒に聞きませんか?
まだ気持ちを打ち明けられていなくても、小旅行という名目でパートナーを連れ出してみたりとか。
また、「そんな先のことまだ考えられない!」というウィンクルム様たちにも、名物のチョコレートを味わったり精巧な時計を眺めたりと楽しんでいただけたら幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せ始めました。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
日向 悠夜(降矢 弓弦)
●ミッドランド知識使用 降矢さんは甘いもの好きだったよね? この町の時計塔チョコレートは絶品なんだよ 是非食べて欲しいなぁ チョコを1箱買ったら時計塔広場のベンチに座って 時計塔の鐘が鳴る12時までゆっくりしよう? 時間になるまでは…そうだなぁ 私は絵を描こうかな ミニサイズのスケッチブックに色鉛筆で時計塔の絵を軽くね 時間が近くなったらチョコを食べようか うん、キャラメルが口の中で蕩けて…うふふ、美味しいね 逸話?そうだなぁ… この鐘の音を聴くと、そんなお話ができちゃうのは分かる、かなぁ… とっても、素敵な音色だからさ …やっぱり、良い音色 降矢さんは、友人でありパートナーだけれど… その先の未来も、あるのかもしれないね |
ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
とっても綺麗な時計を売ってるのよね? 買うのはさすがに無理だけど、見てみたいわっ。 店先で見るだけならいいわよね? デザインの勉強になるかもだし! チョコレートも勿論買うわっ。 チョコにオレンジってとっても合うもの、 きっととっても美味しいと思うのっ! 楽しみー! お店も可愛いのよね? どんなお店かしら、他にも美味しいお菓子あるかもっ。 せっかくだもの、お勧めされた時計塔広場のベンチで ヴァルと一緒にチョコレート食べるわっ。 ……鐘の音も、聞けるかしら? |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
■動機 時計を見たいってアルヴィンが言ってたわ 最近、何かを分解して復元するが楽しいって(遠い目 やっぱりカップルばっかりね… (羨ましいような、居心地が悪いような …アイツ、鐘の事知ってるのかしら きっと知らないだろうけど!(ぷいっ ■観光 精霊についてまわる ■広場のベンチ あー疲れた、ほんと楽しそうね …怖いわ あの時、オーガに襲われて …死ぬかと…思った うん、ウィンクルムが助けに来てくれの 使命とかそういうのは実感ないけど 力があるのに何もしないで居るのは、後悔するから 怯えて暮らすのも嫌だし…ね 貴方が護ってくれるのでしょう? …勿論、護られてばかりでいるつもりは無いけど 戦い方、教えてって約束したし (ぷいっと横を向く |
香我美(聖)
鐘の音の言い伝えの所為かやっぱりカップルが多いんですね。 言い伝えになるほどの時計等は少し気になりますけど、12時以外もカップルが多そうで居辛そうですよね。 とりあえず、私も聖さんも甘いもの好きだし時計塔チョコレートは絶対です。『アンジュ』でしたっけ。 |
ライラ・フレニア(クラエス・エストリッジ)
素敵な言い伝えだよね え、えっと、私達は別に恋人とかじゃないけど ウィンクルムにもなったし仕事も辞めるつもりはないから どちらにせよずっと一緒にいると思うの だから、ね? あんまりその辺りは気にせずにのんびりしていかない? 私はアンジュに行きたいな チョコレートに合う美味しい紅茶が気になってるの 食べるのが勿体ないくらい可愛いチョコレートだね でも味も気になるし、いただきます わ、美味しい…! 紅茶とも合うしこれだけで来てよかったって思っちゃうかも …死が2人を分かつまで、か なんだか私達ってずっと一緒にいたから全然実感わかないな 今更離れたりする事ってあるのかな? うーん、想像付かない… ま、いっか これからもよろしくね |
●しあわせ色の時間
「降矢さんは甘い物好きだったよね?」
町を歩きながら、日向 悠夜はゆったりとした足取りで隣を行く降矢 弓弦へと声をかけた。
「この町の時計塔チョコレートは絶品なんだよ。是非食べて欲しいなぁ」
様々な地域を旅していた悠夜は、以前ケーネにも立ち寄ったことがあって。その時食べたチョコレートの味が思い出されて、自然口元が緩む悠夜である。そんな悠夜を見て、情緒ある町の風景に目を細めていた弓弦は、ますます目元を柔らかくした。
「いいね、チョコレート。洋菓子も、和菓子と違った美味しさがあって好きなんだ」
「そしたら、一緒に食べよう。あ、ほら、あの店だよ」
以前訪れた時と変わらない愛らしい店構えを目に留めて、悠夜は声を弾ませる。小さなお菓子屋さんで、2人はチョコレートを1箱買い求めた。
「鐘が鳴るまでは……まだ時間があるね」
街並みの中に見つけた時計で時間を確認して、悠夜は呟く。
「時計塔広場のベンチに座って、鐘が鳴る12時までゆっくりしようか?」
「そうだね。そうしよう」
小首を傾げて笑いかければ、弓弦もにっこりと笑んだ。
時計塔広場にて。悠夜と弓弦は手頃なベンチに腰を下ろした。
「時間になるまでは……そうだなぁ、私は絵を描こうかな」
「それじゃあ、僕は本を」
言って、悠夜はミニサイズのスケッチブックと色鉛筆を、弓弦は持参した本を、それぞれに取り出して。そうして2人は、隣合わせに座ったまま、各々の時間を刻み出す。
(悠夜さんと一緒にいると、会話がなくても不思議と居心地がいいんだよね)
耳に届くのは、広場を行き交う人の声と、自分の指が本の頁を捲る音。それから、悠夜がスケッチブックにさらさらと色鉛筆を走らせる音だけだ。たったそれだけの時間。でもそんな穏やかさが、弓弦には心地よくて。
(彼女もそう考えてくれていたら……なんて、ね)
ひっそりと笑み零しながら、弓弦はまた頁をひとつ捲った。
「鐘の音の言い伝えの所為かやっぱりカップルが多いんですね」
ケーネの町の通りには、鐘の音を目当てにやってきたのだろう恋人たちがたくさん行き交っていて。香我美はその形の良い唇から僅かため息を零した。
「言い伝えになるほどの時計塔は少し気になりますけど、広場は12時以外もカップルが多そうで居辛そうですよね」
時計塔やそれにまつわる言い伝えに全く興味がないわけではない。けれど、人混み――しかも広場は恋仲の男女だらけだろう――のことを考えると、そこへ向かうのは躊躇してしまう香我美である。そんな香我美に、聖はにっこりと笑いかけた。
「香我美さん。それなら、時計屋を覗くのはどうかな? ケーネの時計は手の出しにくいお値段だってツアーコンダクターさんも言っていたし、そんなに人はいないんじゃないかと思うんだ。周りの人のことを気にせずに、時計の町を楽しめるかも」
どうかな? と柔らかく尋ねられて、香我美は口元に指を当ててしばし考え込み――やがてそっと顔を上げ、見惚れるような笑みをその顔に浮かべてみせた。
「いいですね、なかなかに楽しそうです。……でもそうしたら、どの時計屋を覗くのがいいでしょうか」
何しろ、聖が言うようにケーネは時計の町である。香我美たちが今いる通りを軽く見回してみただけでも、他の町では考えられないくらいの時計屋がひしめき合っているのだった。戸惑いを顔に乗せる香我美に、それでも聖は大丈夫だと笑みを向けて。
「ウィンドウショッピングをしながら通りを巡って、香我美さんが気になった店があれば入ってみよう。何しろ、時間はたくさんあるんだからね」
「そう、ですね。ああ、だけど……!」
「時計塔チョコレートは絶対、だよね。大丈夫、わかってるよ。香我美さんも僕も、甘い物が好きだものね。記念に食べておかないと。時計屋を見て回ったら、一緒に買いにいこう」
「ええ。それじゃあ行きましょう、聖さん」
微笑みひとつ歩き出した香我美の後に、聖も続く。2人はショーウィンドウに飾られた色も形も作りも様々な時計の数々を目で楽しみながら、通りを回った。気になった店があれば中に入って、精巧な作りのからくり時計に目を輝かせたりして。
「うわー、すごいな、この精巧な作りの腕時計! 手巻き式とか、そそるよなぁ……」
時計屋のショーウィンドウに張り付いて子どものように顔を輝かせているのは、アルヴィン・ブラッドロー。現在進行形で整ったかんばせが台無しな行動に走っている彼の最近の趣味は、何かを分解して復元すること。森から首都へと出てきて、機械やカラクリに興味を持ったらしい。
「この前時計を解体したんだけど、上手く復元できなくてさ。……あ! このからくり時計もすごい! なぁ、ミオン。ちょっとこの店入ろうぜ? なっ?」
きらきらした顔でそう問われて、ミオン・キャロルは大きなため息を零した。
「お好きにどーぞ」
と投げやりに応じれば、アルヴィンはやった! とばかりに意気揚々と店へと入っていく。
(時計が見たいとは言ってたけど、時計しか見えてないじゃないの……)
遠い目をするミオンの後ろを、恋仲と思しき男女が楽しそうに喋りながら歩いていった。カップルに遭遇するのは、ケーネに来て何度目だろうか。
(時計塔の言い伝えは聞いてたけど、やっぱりカップルばっかりなのね……)
羨ましいような、居心地が悪いような。そんなミオンの気持ちに、きっとアルヴィンは全然気づいていないだろう。
(……そもそもアイツ、鐘のこと知ってるのかしら?)
ふとそんなことを思ったミオンに、店から顔を覗かせたアルヴィンが声をかける。
「ミオン、早く来いって! 中にもすごい時計が……」
「あーもう! 行く!すぐ行くから!」
応えて、やっぱり知らないに違いないと口を尖らせるミオンだった。
「見て見て、ヴァル。とっても綺麗な時計がたっくさんっ! 見てるだけでわくわくしちゃう!」
ケーネの町には、時計屋が溢れている。それぞれの店のショーウィンドウにはその店自慢の品が誇らしげに並んでいて、通りを歩くだけで目移りしてしまうほど。花に止まる蝶のように次々にショーウィンドウを覗いては顔を輝かせるファリエリータ・ディアルの後を追いながら、ヴァルフレード・ソルジェも密やかに笑みを零した。あの可憐で元気な蝶々は見ていて飽きることがないな、と。
「おい、あんまりはしゃいでると転ぶぞ?」
「こ、転ばないもの! ほら、ヴァルも一緒に回りましょ? デザインの勉強にもなりそうなのっ」
「……見てるだけ、なんてやってたら店の人に怒られたりしてな」
「うっ……だ、だって、買うのは流石に無理……。それに、ほら、『ごゆっくりご覧ください』って書いてあるから大丈夫なのっ! ヴァルの意地悪っ!」
子どものように口を尖らせるファリエリータを見て、ヴァルフレードはくつくつと笑みを漏らす。
「もうっ、何で笑うのよ?」
「いや……あ。おい、あの店の時計、すごいぞ」
「え? わぁ、ほんと! 素敵っ!」
指を差せば、ファリエリータはころりと笑顔になってまた蝶となり店先に止まる。そんな彼女のことを追いながらも、ヴァルフレードも宝石をあしらった時計があればふと足を止めて見入ったりして……そうやって先に進むうちに、辺りに甘い香りが満ち始めた。
「そうだ! チョコレートっ!」
気づけば通りの終わりは近く、2人の目は砂糖菓子のような店構えのお菓子屋を見留める。その愛らしさに、ぱああと目を輝かせるファリエリータ。
「可愛いお店……! チョコレートは勿論買わなくっちゃ。チョコにオレンジってとっても合うもの、きっととっても美味しいと思うのっ! 楽しみー!」
うきうきしながら店のドアを潜れば、そこには目当てのチョコレートの他にも、可愛い上にとびきり美味しそうなお菓子が幾らともなく並んでいて。ファリエリータ、とりあえず時計塔チョコレートの小箱を手に取って、ぽつり。
「他のお菓子も気になるっ……!」
「あんまり食べると太るぞー」
「ふ、太ったりしないものっ、甘い物は別腹だものっ」
と、言い返しつつヴァルフレードを見上げれば、店の時計がファリエリータの視界に入った。
「あっ!」
と思わず声を上げるファリエリータ。慌ててチョコレートのみの会計を済ませ、店の外へととび出す。ヴァルフレードが、怪訝な顔でその後を追った。
「立派な時計塔だね。タブロスの近くにこんな町があったのは知らなかったな」
ケーネの通りにて、遠く広場にそびえる時計塔を眩しそうに見やってクラエス・エストリッジは言葉を零した。そんな彼の隣に立って、ライラ・フレニアも柔らかく目を細める。
「雰囲気のいい町だよね。それに、言い伝えも素敵」
「じゃあ、一緒に鐘の音聞いていこうか?」
「恋人同士じゃないけど、ね」
言って、ライラは苦笑した。何せ、町は言い伝えのせいだろう、カップルと思しき観光客がとても多くて。何だか肩身が狭いね、なんておどけてみせようとしたところに、クラエスの声が降った。
「僕は別に恋人として鐘の音を聞いてもいいよ? ライラさえよかったら、だけど」
「えっ?!」
軽い調子で零された衝撃的な台詞に、ライラは頬が火照るのを感じる。そんなライラを見て、クラエスはくすくすと笑みを漏らした。
「ライラ、顔真っ赤」
「だ、だって……クラエスが変な冗談言うから……」
「冗談、かぁ。うん、まぁそういうことにしといてあげる」
にこやかに笑うクラエスはどこまでも楽しそうだ。クラエスが楽しそうだと、ライラまで嬉しくなってしまう。
「えっとね、ウィンクルムにもなったし仕事も辞めるつもりはないから、私とクラエスはどちらにせよずっと一緒にいると思うの。だから、ね? あんまりその辺りは気にせずにのんびりしていこ?」
「ん、了解。それじゃあ行こうか。ライラはどこに行きたい?」
「『アンジュ』に行きたい、かな。チョコレートに合う美味しい紅茶が気になってるの」
ライラの返事に、「だと思った」とクラエスはにこりとして。2人は時計屋がひしめく通りをゆったりと歩く。ショーウィンドウに飾られた店の自慢の時計に時折足を止められたりしながら、辿り着いたのは女の子の心を蕩かせるような可愛らしいお菓子屋さん。お目当ての紅茶とチョコレートを注文して、2人でオープンカフェスペースに腰を下ろす。
「わぁ、食べるのが勿体ないくらい可愛いチョコレートだね」
店員の女性が運んできてくれた時計塔チョコレートに、ライラは目を輝かせる。でも、食べないと味はわからないから。
「いただきます!」
口に運べば、オレンジの風味がふわりと広がり、ちょっぴりビターなチョコレートと合わさって。
「わ、美味しい……! 紅茶とも合うしこれだけで来てよかったって思っちゃうかも」
素敵なハーモニーに幸せ顔になるライラを、クラエスは目元を柔らかくして見守っていた。
「美味しそうに食べるねぇ。2つ入りだしもう1つ食べちゃえば?」
「え? でも……」
「僕の分とかは気にしなくていいよ。ほら、どうぞ遠慮せずに」
申し訳ないなと思いつつも、チョコレートはライラを誘惑して止まず。お言葉に甘えて、ライラは「ありがとう」をひとつチョコレートをぱくりとした。クラエスがふふと笑み零す。
「複雑な顔だね。美味しいって顔と俺に悪いなって顔が一緒くたになってる」
「だって……」
「申し訳ないと思うのなら、また今度ここに来ようか。またチョコレートを買って、今度はゆっくりと時計を眺めにいこう」
「うん、わかった。約束、ね」
「はい、約束」
顔を見合わせて、2人は笑った。
●それぞれの12時
「――もうすぐだね」
時計塔の絵を描き終えた悠夜が、しばらくぶりに言葉を零す。いつの間にか本の世界に没頭していた弓弦は、その声にはっと我に返った。
「あ、そろそろ時間か……」
「チョコ、食べようか」
微笑んで、悠夜は小箱の蓋を開ける。そして、取り出したチョコレートを一つ、弓弦の手のひらへと優しく落として。弓弦はそれを宝物のようにそっと口へと運び、悠夜もそれに倣う。
「……うん、絶品だ! いやあ、頬も緩んでしまうね」
「うん、キャラメルが口の中で蕩けて……うふふ、美味しいね」
口の中の幸せを味わいながら、2人は顔を見合わせてどちらからともなく笑み零した。
「それにしても……やっぱりこの時計塔の逸話は、女性に人気なんだろうか」
幸福な甘さの余韻を楽しみつつも、弓弦は顎に手をやって首を傾げる。ふと気づけば、広場にはカップルらしき男女がいっぱいで。特に女性たちは、鐘の音が響くのを心待ちにしているように弓弦の目には映る。
「悠夜さんも、信じているかい?」
「うん? そうだなぁ……」
傍らのパートナーへと問えば、悠夜はゆったりと時計塔を見上げた。
「この鐘の音を聴くと、そんなお話ができちゃうのは分かる、かなぁ。とっても、素敵な音色だからさ」
「そっか。ますます楽しみになってきたよ」
悠夜の横顔を見やりながら弓弦が笑みを漏らした、その時。広場に、ケーネの町中に、12時を告げる鐘の音が響き渡った。深い重みのある音が、しっとりと胸に染み渡る。
「……やっぱり、良い音色」
「……心に響く音だね。『死が2人を分かつまで、ずっと共に時を刻んでいくだろう』か」
うっとりとして悠夜が呟き、弓弦もまた、鐘の音に心を震わせる。と。
(そういえば、周囲から見れば僕たちも恋人同士に見えるの、かな……?)
ふとそんな想いが頭を過ぎってしまい、弓弦は火照る頬を隠すように口元を手で覆った。そんな弓弦をちらと見て、悠夜はこっそりと笑み零す。
(降矢さんは、友人でありパートナーだけれど……その先の未来も、あるのかもしれないね)
そんな『その先』も幸せかもしれないと、悠夜はふわりと笑みを深くした。
時計屋を回った後、香我美と聖の2人が向かったのは勿論町で唯一のお菓子屋さん『アンジュ』である。いかにも甘いお菓子が似合いそうな、女の子の好きな『可愛い』をぎゅっ! と詰め込んだみたいな可愛らしい店構えに、クールな香我美もついつい顔を綻ばせて。
「ねぇ、香我美さん。折角だからお茶していこうよ」
カフェスペースを指し示して聖が言った。たっぷりと歩き回った後でもあるし、香我美の方にも断る理由はない。2人はお目当てのチョコレートと、紅茶を2人分頼んで席に着いた。12時が近いので、観光客は広場に集まっているのだろう。さほど待たずに、注文した品が運ばれてくる。念願のチョコレートをそっと口にすれば――とろりと蕩けるオレンジ風味のキャラメルとチョコレートが合わさって、2人の胸を甘い幸せで満たした。
「美味しい……紅茶とも、よく合いますね」
「そうだね。香我美さんとこんなふうに幸せな味を分かち合えて……何だか嬉しいな」
温かい言葉と優しい笑みを零されて、香我美の表情も自然柔らかくなる。と、その時。
広場から、時計塔の鐘の音が聞こえてきた。町中を包み込むような音色が、香我美たちの耳にも確かに届いて。
「……すごい。素敵な音」
「うん、びっくりした……。ちょっと、感動してしまったよ」
言って、聖はふんわかとした微笑みを香我美へと向けた。
「こんなに素晴らしい音色なら、広場にいなくても幸せをお裾分けしてもらえそうだね」
「ええ、本当に……」
鐘の音の余韻が、まだ辺りに満ち満ちている。心がぽかぽかとするのを感じながら、香我美は紅茶をそっと口に運んだ。
「あー、疲れた。アルヴィンったらほんと楽しそうね……」
時計塔広場のベンチに腰を下ろして、ミオンはひとりごちた。先に広場に行って待っているからと告げてきたけれど、アルヴィンはきっとまだ時計に夢中だろう。と、俯いたミオンの頭に温もりが触れる。頭をぽんぽんとするのはアルヴィンの癖だ。
「お待たせ」
「アルヴィン……? 時計、見てたんじゃ……」
驚くミオンに、アルヴィンはにこっと笑いかけて。
「ずっとミオンを待たせとくわけにはいかないだろ。その……悪かったな、付き合わせて」
言って、アルヴィンが差し出したるは愛らしいパッケージの小箱。そっと開けてみれば、時計塔を模したチョコレートが2つ並んでいて。
「名物だってさ。近くで売ってたから、買ってきた」
1つを摘まんで、アルヴィンはミオンの隣へと腰掛ける。チョコレートを一口齧って「美味いな」と呟き――ふと真面目な顔になって尋ねることには。
「ミオンはさ、本当は戦うの嫌なんじゃないか?」
問いに、僅か目を伏せてミオンは答えを紡いでいく。
「嫌というか……怖くはあるわ。あの時、オーガに襲われて……死ぬかと、思った」
「……ウィンクルムに、助けられたんだっけか」
「うん、そう。ウィンクルムが助けにきてくれたの」
「俺はさ、ミオンの他にもウィンクルムは居るし、ミオンが無理する必要はないと、思う」
紡がれるのは、ミオンのことを案じ、思いやる言葉だ。その思いは確かに届いたけれど、ミオンはその言葉によりかかることはしない。
「……使命とかそういうのは実感ないけど、力があるのに何もしないで居るのは、きっと後悔すると思うの。怯えて暮らすのも嫌だし、ね」
それに、とミオンは言った。
「貴方が護ってくれるのでしょう?……勿論、護られてばかりでいるつもりは無いけど」
戦い方を教えてもらう約束もしたし、と小さく付け足してぷいとそっぽを向けば、ミオンの耳にアルヴィンの明るい笑い声が届いて。
「そうか、ミオンがそう決めたなら俺は俺の役割をこなすよ。ゆっくりやっていこうぜ。改めて宜しくな、ミオン」
ミオンがその言葉に応じようとした瞬間、時計塔の鐘が鳴った。深く低く優しい音色が、町に、広場に、ミオンの胸に満ちる。口に運んだチョコレートは、素敵に甘くて、でもほんの少しほろ苦かった。
「どうしたんだよ、急に走りだしたりして」
時計塔広場にて。やっと急ぐ足を止めたファリエリータに、首を傾げながらヴァルフレードが問うた。とりどりのお菓子に目移りしていたファリエリータが突然店をとび出したのが、どうにも腑に落ちないらしい。
「な、何でもないの、何でも! ほ、ほら折角だもの、お勧めされた広場のベンチで一緒にチョコレート食べましょ♪」
何でもないと言いながらも、ベンチに腰を下ろしチョコレートの小箱を開けるファリエリータは明らかに挙動不審で。いぶかしみながら隣へ座るヴァルフレードへと、ファリエリータは小さく言葉を零す。
「え、えっと、鐘の音も聞けるといいわよねっ」
「鐘?」
「あ、伝説とかそういうのじゃなくて、ほら、名物ならやっぱり聞いておきたいし!」
真っ赤になって力説するファリエリータを見て、ヴァルフレードはようやく合点がいったと笑みを漏らした。あまりにもわかりやすすぎる。
「な、何で笑うのっ?!」
「いや……時計を見て血相変えたのはそのせいかって思ってさ」
「そんな、血相変えてなんて……」
ファリエリータがそこまで言った時、時計塔の鐘が鳴った。町中に響き渡る鐘の音は荘厳で、でもとても温かくて。本当に不思議な力がありそうだと、信じられるような。
「良かったな、無事間に合って」
うっとりするファリエリータに、ヴァルフレードがからかうような、けれどどこか優しい声でそう囁いた。
時計塔の鐘が鳴り響く頃、ライラとクラエスもまた時計塔広場へと足を運んでいた。
「……死が2人を分かつまで、か。何だか私たちってずっと一緒にいたから全然実感わかないな」
鐘の音の余韻をその身と心に感じながら、ライラは呟く。
「今更離れたりすることってあるのかな?」
なんて零してはみるものの、全然想像がつかないライラである。でも。
「ま、いっか。これからもよろしくね、クラエス」
パートナーへと笑いかければ、クラエスもにこりとして。
「こちらこそよろしく、ライラ。深く考えなくても大丈夫。離れるつもりもないし、それに……」
もう鐘の音も聞いたことだしね、とクラエスは悪戯っぽく微笑んだ。
依頼結果:成功
MVP:
名前:日向 悠夜 呼び名:悠夜さん |
名前:降矢 弓弦 呼び名:弓弦さん |
名前:ミオン・キャロル 呼び名:ミオン |
名前:アルヴィン・ブラッドロー 呼び名:アルヴィン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月13日 |
出発日 | 06月20日 00:00 |
予定納品日 | 06月30日 |
参加者
- 日向 悠夜(降矢 弓弦)
- ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
- ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
- 香我美(聖)
- ライラ・フレニア(クラエス・エストリッジ)
会議室
-
2014/06/18-23:53
挨拶が遅れちゃってごめんね。
ファリエリータさん以外は初めまして…かな。
こんばんは、日向 悠夜って言います。パートナーはポプルスの降矢 弓弦さん。
よろしくお願いするね?
私たちはベンチに座って時計塔の鐘が鳴るのを待とうと思っているよ。
…でも、チョコレートも気になるんだよねぇ。
ふふ、皆にとって素敵な一日になることを願っているね。 -
2014/06/18-00:42
皆さん初めまして、ライラと申します。
パートナーはポブルスのクラエス様です。
今回はよろしくお願いしますね。
ロマンチックで素敵な言い伝えですね。
時計もチョコレートも気になりますし、目一杯楽しんでこようと思います。
-
2014/06/17-21:50
初めまして、香我美と申します。こっちはファータの聖さんです。
宜しくお願いしますね。
時計も素敵ですけれど、手を出しにくいお値段のようですし、私はチョコレートの方が気になるかしら。
-
2014/06/16-21:01
私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。
パートナーはディアボロのヴァルフレードよ。
綺麗な時計見てみたいし、チョコレートも美味しそうだし、
時計塔も楽しみだわっ。
……鐘の音も聞きたいなー、なんて。 -
2014/06/16-08:43
皆さん初めまして
私はミオン、パートナーはポブルスのアルヴィンよ。
アイツ、時計が見たいって言ってたわ。
カラクリ時計とす…すぷりんぐどら…なんとか式のに興味あるって。
…鐘の事知ってるのかしら
きっと知らないと思うけど(ぷいっ)