【ジューンブライド】水も滴る?(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「決めた! 今年はドレスに水鉄砲だ」
 オーウェン・メイスフィールドの言葉に、彼お付きの年若き執事は片眉を上げます。
「ご主人様、何のお話ですか?」
「今年のジューンブライドの催し物だよ、ビヴァリー」
 晴れ晴れとした表情で、オーウェンはニッコリ微笑みました。
「ジューンブライド……で水鉄砲、とは?」
 どう考えても結び付かなくて、ビヴァリーが首を傾けると、オーウェンの口の端が上がります。
 あ、これはロクデモナイ事を考えている顔だ。
 ビヴァリーは嫌な予感に、主人を半眼で見つめました。
「今年はとても暑いからね。参加する側も、見ている側も涼しくならなくては」
 オーウェンはそう言うと、早速企画書を書き始めたのです。

 オーウェン・メイスフィールドは、タブロス市近郊に住む年若い貴族です。
 その屋敷には広大な庭園があり、その生け垣を迷路に改造したテーマパークを運営しています。
 迷路では、季節ごとのイベントが開かれ、特にカップルに人気を集めていました。

 今日もまた、オーウェンによって考えられた新たなイベントが告知されました。


 ★メイスフィールド家主催★

 ジューンブライド限定迷路登場!
 カップルや友人同士で、ドレスアップして迷路を楽しもう!

 ルールその1.
 迷路へは、必ず二人一組で入ってください。

 ルールその2.
 迷路へ入る人は、必ずドレスアップをしてください。
 テーマは『ジューンブライド』。
 ドレス、もしくはタキシード限定です。

 ルールその3.
 衣装は貸し出される物以外、着用は不可です。
 衣装の下に、持ち込んだ水着や下着の着用は可とします。
 その他のものは持ち込めません。

 ルールその4.
 衣装は特殊な素材で出来ており、ある程度の水を浴びると溶けます。
 迷路の中では、水鉄砲などを使ってスタッフが皆さんを襲いますので、
 衣装をなるべく溶かさずにゴールを目指してください。

 ルールその5.
 二人共に衣装をすべて溶かされると、失格となります。
 どちから片方の衣装が一部分でも残っていれば、セーフです。

 ルールその6.
 生け垣の壁を飛び越えるような行為は、反則とみなし、退場とします。

 ゴールすると、記念撮影、ならびに豪華なバーベキューパーティが楽しめます。
 皆様、奮ってご参加ください!

 参加費 300Jr

 以上。

解説

巨大迷路をいかに裸にされずにクリアするか、なエピソードです。

迷路の中には、屋敷の執事や使用人達(全員男)が水鉄砲を手に隠れており、通り掛かった皆さんを無差別に攻撃してきます。
また、生け垣の隙間から定期的に水が噴射されており、皆様の服を溶かす気満々です。
ルートによっては、膝丈までの水に満たされた場所などもあります。

衣装は、男性でもドレス着用可能です。(サイズも各種オーウェンが用意しています)
どのような衣装にするか、プランに明記してください。
オーウェンのお勧めは、ミニ丈のウェデイングドレスです。守る箇所が少ないので有利だとか。

【特殊ルール】
完全に服が溶けてしまった場合も、救済処置として、
『葉っぱ一枚』だけ身に付ければ、先に進む事を許されます。(葉っぱの下に下着や水着は着用OKです)
この『葉っぱ』は溶ける素材ではありません。
しかしながら、ゴール後は、そのままの姿で記念撮影となります。
寧ろ「葉っぱ一枚になりたい!」という方は、プランにその旨を明記してください。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく『ポロリはないよ!(たぶん)』雪花菜 凛(きらず りん)です。

バレンタインでも登場した巨大迷路の再登場です。
今年は暑いので、ドレスアップしても涼しく楽しく過ごせていただけたらなと思います。
パートナーの姿にドキドキしたり、笑ったりしつつ、迷路をクリアしてください♪
参加費は、一律300Jrとなります。

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  ■二人ともタキシード+下にサーフパンツ(溶けたら+葉っぱ)

■迷路
ドレス?イルドが着たら?うそうそ、じょーだんよ!
タキシード似合ってるわよ~♪
へ~、この服溶けちゃうのねぇ。もったいない
おっさんが溶けてもしょうがないし
それはイケメン君に任せるわ!
頑張ってゴール目指すわよ!
(水鉄砲で攻撃されたらなるべく手でガードし
おかしそうに笑ってふざけながら、でも本気で逃げる)
きゃ~エッチ~☆

イルド…(庇ってもらったらじ~んと感動するが
二人とも半裸のためきまらない)

■撮影
どうせなら溶ける前の写真もほしかったわねぇ
(ふざけてイルドと腕を組んでくっつき)はい、チーズ☆

■バーベキュー
高くて美味しい物を的確に選んで食べる


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  水濡れスケスケ迷路とか聞いてないしっ(汗
ちょ、待…
着替えって…ギャー

◆迷路
2人共タキシード
済し崩しに迷路
着替える時に色々見られたが、無理矢理気にしない><
「こうなったらクリアするしかない」ふんす

膝下水ゾーンは一気に走ろうと提案
噴水ゾーンは水幕の死角を潜ろう
撃たれる水は片手を盾専用にして最初から1本犠牲にする覚悟でブロック

ランスに遅れないように根性で走る
息が上がってどうしようもなくなっても…

ランスが守ってくれたら素直に礼を言うよ
逆に俺も守るしっ

下が水着とは言え心許無い

そうだ!
こうして腕を組めば間の腕は守られるぞ
最後の区画はこれで行こう!

◆ゴールできたら
周りの奴等にも水シャワーのおすそ分けだ(嬉々



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  貴族様の迷路ふたたーび
せっかくなのでオススメのミニ丈ウェディングドレスを着るよ
見えてもいい下着穿いてきたので万事オッケーです

ゼクと二人で迷路へ!――そうだこれ迷路だった。
水鉄砲からどう逃れるかを考えてたけど迷路だった。
……なんとか、なるよね!

ドレスなので胸元は死守してなんとかゴールしたい
前方後方左方右方とゼクを盾にして耐え凌ごう
撃たれたら涙目で攻撃してきたお兄さんの方見つめちゃうぞ
ひどいや、お兄さん。僕の裸が見たいの?

ルートが決まれば駆け抜けるよ
ほら花嫁が逃げちゃうよ、ゼク早く早く

ゴールしたらどんな格好でもポーズ決めて記念撮影
豪華なってことは高級なお肉いっぱいかな
悪魔の食材は排除して、頂くよー


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  おい初任務どこ行った…ま、張り切ってるみたいだししょうがねえか
俺は絶対タキシードだ。中はグレーのサーフパンツ装備

基本は縦フォーメーションで、スタッフやトラップの水鉄砲を探しながら進む
これなら俺の前面とネカの背面はある程度攻撃を防げるはず
ネカ、お前素早いから先行してくれ…は?『当てる』って何…バカ!当てるもんついてねーよ!
攻撃しようとすんな!殲滅戦じゃねえ!
えっ姫抱っこ…すげー恥ずかしいんだけど!お前よく平気だな!?

失格になったら潔く写真は諦める…つーか別にいらねえ
生き残れてたら写真は俺が前に並んでネカの濡れてるかもれしれない前面を隠す…いや、お前も当てるもの持ってないから!



ラヤ(ウルリヒ=フリーゼ)
  ねーねーウル!すっごく楽しそうだね!(目キラキラ

ミニ丈の白ウェディングドレスを着用
似合う?似合う?と近くの人に聞いたり
くるっと回ってポーズしてみたりする
あ、そーだ。ラヤ水着もってきてないからウル頑張ってね☆

迷路ではウルの後ろに隠れてひたすらウルを盾にする
対使用人:おにーちゃん…ラヤのこと撃つの…?(うるうる
びんぼ○ちゃまスタイルになったウルの後姿に爆笑しながら着いてく

記念撮影、ウルと腕を組むようにして逆の手でピース
ラヤの服はウルの犠牲のおかげでほぼ無傷
ウル後ろ向かないの?つまんなーいー(背中ぺちぺち

バーベキュー
ウルっ今日はありがとー♪はい、あーん
うぃんくるむって楽しいねー
また遊ぼうねウルっ



●1.

「ねーねーウル! すっごく楽しそうだね!」
 ラヤは好奇心いっぱいに青みがかった銀の瞳をキラキラさせ、パートナーを振り返った。
「あー楽しそう、すっごく楽しそうー」
 ラヤと対照的に、ウルリヒ=フリーゼは壁に貼られた迷路の説明文を読み、抑揚のない棒読み声で答える。
「好きなのが選べるんだ~♪ どれにしようかな~っ」
 ずらっと並んだドレスを眺め、ラヤはぴょんぴょんと跳ねた。
「……ウィンクルムになって一発目がこれって」
 どうしてこうなった?
 ウルリヒは天を仰ぐ。
「ラヤはこれにする~♪ ウルはどーするの?」
 ミニ丈の純白のウェディングドレスを手に、ニコニコとラヤが首を傾けた。
 え? ドレス着るの? しかもミニ?
 ……でも、ラヤならアリか。
 そんな言葉を飲み込んで、ウルリヒは白のタキシードを手に取る。
「じゃあ、俺はこれで」
「早速着替えに行こう~♪」
 ウキウキと、ラヤはウルリヒの手を引いて更衣室へと向かった。


「セイジ、こっちこっち!」
 ヴェルトール・ランスは、輝くような笑顔でぐいぐいとパートナーの手を引いた。
「ランス、ちょっと待て!」
 アキ・セイジは引き摺られるように歩きつつ、彼へ必死に訴える。
「俺、聞いてないぞ。水濡れスケスケ迷路とか……」
 動揺の余り、とんでも無い単語を口走った気もするが、それは大体合っていた。
「涼しそうで楽しそうだろ?」
 何か問題でも?
 キラッと歯を輝かせてから、ランスは沢山並ぶタキシードとセイジを真剣に見比べる。
「問題というか、何というか……」
 恥ずかしいじゃないか!
 とストレートに言うのも可笑しい気がして、セイジが言葉に詰まっている間に、ランスは二着のタキシードを選んで手に持った。
「これで完璧♪ セイジ、着替えに行こう。俺が着替えさせてやるよ」
「え? 着替えさせてやるって……」
「いーからいーから♪」
 ランスは赤くなったセイジの手を引いて、更衣室へと入る。


「巨大迷路に水鉄砲攻撃……なかなか攻略し甲斐がありそうですね♪」
 迷路の説明文を見つめ、ネカット・グラキエスは深緑色の瞳を煌めかせた。
「おい初任務どこ行った……」
 その後ろで、彼のパートナーである俊・ブルックスは、少し呆れ顔でネカットを眺める。
(ま、張り切ってるみたいだししょうがねえか)
 頬を掻きそう心で呟くと、ネカットがクルリと俊を振り返った。
「シュンはミニドレス着ちゃダメです、人に見せるのが勿体ないです」
 ビシッと指差されて言われた台詞に、俊はカクリと軽く脱力する。
「着るわけねえだろ。俺は絶対タキシードだ」
「そうですか。なら、問題ないですね」
 ネカットは頷くと、ずらりと並ぶドレスを見遣った。
「私は着てもいいですよ? たぶん似合うし」
 得意気に言う彼に、俊は素直に『似合うだろうな』とは言えなかったのだった。


「へ~、この服溶けちゃうのねぇ。勿体無い」
 スウィンは、ずらっと並ぶタキシードとドレスを見つめ溜息を吐き出す。
「……金持ちの趣味って、よく分からねーな」
 イルドは少しムスッとした表情で言い、軽くドレスに触れた。
 手触りは普通の服と変わりがない。
 しかし、だ。
 スウィンがこの服を着て、自分以外の誰かに水鉄砲で攻撃されて、服を溶かされる。
 それを想像したら、ムカムカと正体不明の怒りのような感情が湧き上がる。
「お勧めは、ミニ丈のウェデイングドレスですよ」
 スタッフの声が聞こえ、スウィンは悪戯っぽく微笑んでイルドを覗き込んだ。
「ドレス? イルドが着たら?」
「誰が着るか!」
 思考を中断して、イルドは冗談じゃないと彼を軽く睨む。
「うそうそ、じょーだんよ!」
 スウィンはポンポンとイルドの背中を叩いて笑った。
「タキシード選んで、着替えちゃいましょ」


「せっかくなのでオススメのミニ丈ウェディングドレスを着るよ」
 柊崎 直香は、迷いなくミニ丈のウェディングドレスを選んだ。
「ゼクはタキシード着てね」
 パートナーのゼク=ファルへは、タキシードを選ぶよう促す。
「…………」
 ゼクは難しい顔で並ぶタキシードを眺め、適当なものを手に取った。
「その服が溶けたら、葉っぱ一枚だって。だから、慎重に選んだ方がいいよ~」
「は?」
 直香の言葉にゼクの眉が上がる。
「仕方ないよ、下着も水着も着用不可だし」
 嘘だけど。
「……何てルールだ」
 すっかり信じたゼクは低く唸ると、慎重にタキシードを選び始める。
 ゼクに迷路のルールを読ませず、ここまで連れてきた効果はバッチリだ。
 直香は楽しそうに瞳を細めたのだった。


●2.

 抜けるような青空が広がっていた。
「似合う? 似合う?」
 ウェディングドレスの裾を翻し、ラヤはくるっと一回転する。
「おぉ……」
 ウルリヒは思わず感嘆の声を上げていた。
 色白の肌に純白のドレスが映え、胸元や短いスカートから覗く生足が何とも艶かしい。
 中性的なラヤの容姿が、ドレスにより更に性別を迷子にさせていた。
「とてもお似合いですよ」
 迷路のスタッフに褒められ、ラヤはえへへーと頬を染める。
「似合う似合う」
 そのかっこで喋らなきゃ完璧なのになぁ。
 ウルリヒが全力で頷くと、ラヤは嬉しそうに破顔した。
 しかし、その次の言葉で、ウルリヒの思考は停止する。
「あ、そーだ。ラヤ水着もってきてないから……ウル頑張ってね☆」
「……はい?」
「さぁ、迷路だーっ♪」
 スカートをヒラヒラさせながら走るラヤを追い掛けつつ、ウルリヒは混乱していた。
 ドレスの下は、下着だけ?
 という事は……ドレスが溶かされてしまったら、ラヤは下着一枚。
 あまつさえ、下着が濡れたりしたら……。
「た、大変だ……!」
 仮にも男の子だし、問題ない?
 いやいや、だがしかし……。
「しゅっぱーつ☆」
 混乱しているウルリヒを置いてきぼりに、ラヤの元気な声と共に二人は迷路へ足を踏み入れた。


「きゃー♪」
 前方から撃たれた水に、ラヤはさっとウルリヒの後ろへ隠れる。
「冷たッ!」
 ウルリヒは咄嗟に背中を向け、水を浴びた。
 じんわりと背中の服が溶ける感触がする。
「ねぇちょっとラヤくん」
 ウルリヒは無傷のラヤを見つめた。
「俺を盾にするのやめてくれないかな?」
「だって、ラヤ、水着着てないし~ドレス、溶けたら勿体無いし~」
 ラヤはにっこりと悪気ゼロの笑顔を見せる。
 確かに、こんなに似合っているドレスが溶けるのは勿体無い。
 しかし、自分だけ水を浴びまくっているには、何だか不公平な気がした。
「あ、また来たよ~」
 前方から水鉄砲を持った執事達が現れるのを指差し、ラヤは再びウルの後ろへ隠れる。
「ちょ、俺だって服は溶かしたくない……!」
 迷路をクリアしたら、記念撮影があるのだ。
 せめて前だけでも守りたい。
 ウルリヒは再び背中で水を受ける。
 ドロドロと服が溶ける感触に身震いしてしまった。
「お客様、ナイスファイトです!」
 グッと親指を立て、攻撃を終えた執事達が蜘蛛の子を散らすように去っていく。
「わぁ~ウル、背中とお尻が丸見え~☆」
 ラヤがウルリヒの背面を見て、クスクスと笑い出した。
「だーっ! 笑うな! 誰のせいだと思ってるんだ誰の!」
 ラヤの頭わしわしと撫で、ウルリヒは抗議する。
「前は溶けてないから、前から見たら分からないよ☆」
「うう……それだけがせめてもの救いか」
「がんばってゴールしようね♪」
 ラヤがウルリヒの手を引き、二人はゴールを目指して迷路を進んでいった。


●3.

 セイジは早くもぐったりとしていた。
 更衣室で無理矢理ランスに着替えさせられ、純白のタキシードに身を包んで迷路を歩いている。
(ランスに色々見られてしまった……)
 チラリと、隣で同じくタキシード姿で歩くランスを見上げる。
 赤くなっているセイジと対照的に、ランスは涼しい顔でとても楽しそうだ。
(こうなったら、何としてもクリアするしかない)
 ぐっと拳を握り、決意する。
 恥ずかしい思いだけしてクリア出来ない事だけは、絶対に御免だった。
「セイジ、ストップ」
 ランスがセイジの手を引き、止まるよう促す。
 目の前を水が飛んだ。
 生け垣の間から、水が撃ち出されている。
「水幕の死角を潜ろう」
 飛んで来る水の角度を確認して、慎重にその死角を進んでいった。
「よし、抜けた!」
「やったな、セイジ!」
 パシッとハイタッチして二人は無傷を喜んだ。
「よし、次の道はこっちな」
 ランスの指示に従いながら、セイジは彼が右手法で進んでいる事に気付く。
「右手法か」
「うん、迷路の基本だからね」
 ウインクするランスに、セイジは感心するのだった。


「うわ……何だ、これ!」
 セイジは目の前に広がる光景に目を見開いた。
 その迷路の一角は、一面膝ぐらいまである水に満たされていて、まるでプールだ。
「戻るのも手だが……ここは一気に走ろう」
 そう決意してランスを見遣ったセイジの視界が、突然揺れた。
「え?」
 自分の身に何が起こったか理解出来ず、セイジは何度も瞬きする。
 とても近い位置にランスの顔があった。
 ランスに両手で身体を抱え上げられ……所謂お姫様抱っこされていると気付いたのは、ランスが水の中へ入った時だった。
「ランス……下ろせよっ」
 セイジは慌てて彼の腕の中でじたじたと身動ぎして抗議する。
「ランスが濡れてしまう!」
「セイジ。暴れちゃ駄目だって」
 ランスはその耳元に唇を寄せて囁いた。
「落ちると水の泡だぞ」
「うッ……」
 そう言われたら、暴れる訳にもいかない。
 クスクスとランスが笑う声が、密着した身体越しに響いた。


 下に水着を着用しているとはいえ、何とも心許無い。
 膝から下の服がすっかり溶けてしまったランスを申し訳無さそうに見ながら、セイジは先を急いでいた。
 生け垣の向こうに見える屋敷が近付いている。もう直ぐゴールに違いなかった。
「最後の難関ですよ!」
 その言葉と共に、水鉄砲を手にした執事達がわらわらと現れる。
「セイジ、走るぞ!」
「あぁ!」
 二人は全速力で駆け出した。
 水鉄砲の攻撃は、全て右手を盾にして受ける。
 右手一本は犠牲にする覚悟だ。
 怒涛の水鉄砲攻撃からお互いを庇い合いながら、ひたすらにゴールを目指す。
「ッ……ランス……!」
 上がる息で懸命に彼の名を呼んで、セイジはランスの腕に手を伸ばした。
「こうして腕を組めば、間の腕は守られる……!」
 腕を組むと、ランスは輝く笑顔で微笑んだ。
「一緒にゴールしような、セイジ!」


●4.

「それじゃ二面作戦で行きましょうか」
 迷路の入り口に立って、腰に手を当てた格好でネカットはそう宣言した。
 彼の身体は、美しいミニ丈のウェデイングドレスに包まれている。
 違和感、何所行った。
 俊はタキシード姿で軽い目眩を感じつつ、ネカットを見遣る。
「二面作戦?」
「私が囮と誘導、シュンが索敵です」
 ネカットはピッと人差し指を立てた。
「シュンは私の後ろに隠れてください。何なら『当てて』もいいんですよ?」
「は? 『当てる』って何……」
 俊が首を傾けると、ネカットはにっこり笑って彼の下半身を指差す。
「バカ! 当てるもんついてねーよ!」
 ガァッと俊が赤くなって怒鳴ると、ネカットは楽しそうに笑ったのだった。


 ネカットが前で俊が後ろ。
 二人は縦に並んだ状態で迷路を移動する。
「ネカ、水が飛んで来てるぞ、気を付けろ」
「了解です、シュン。上手く隙間を通って行きましょう」
 ネカットが先行し、俊がその後に続いて、二人は上手に生け垣からの水攻撃を避けていく。
「スタッフが来たぞ!」
「シュン、しっかり付いて来てくださいね」
 前方から現れた執事達に、ネカットはヒラリとスカートをはためかせ微笑んだ。
「右だ!」
「ちょろいもんです」
「下!」
「ひょいっと」
 俊の指示で、ネカットはくるくると踊るように器用に水鉄砲の攻撃を回避する。
 短いスカートが扇情的に揺れた。
「下着の色はヒ・ミ・ツ(はーと)です」
 口元に人差し指を立てて、ネカットは華麗に回転する余裕まで見せる。
「こちらから攻撃できたら楽なんですけどねえ……」
「攻撃しようとすんな! 殲滅戦じゃねえ!」
 物騒な事まで言い出す彼に、俊は後ろからツッコミを入れた。
「お客様、グッジョブでした!」
 暫しの攻撃の後、執事達が水鉄砲を下ろし、敬礼をしてから去っていく。
「あれ? もう終わりなんです?」
「助かった……残念そうにしてるんじゃねえよ。服、ちょっと溶けてるじゃねえか」
 俊は半眼で、溶けたドレスの胸元を指差した。
「心配してくれるんですか?」
「バカ。さっさと先行くぞ」
 笑うネカットを急かし、俊は先へ進むのだった。


 が。
「これ、嫌がらせの域だよな?」
 膝ぐらいまである水に満たされている通路を見つめ、歩みを止めた俊は引き攣った笑みを浮かべた。
「主催者は、何としても服を溶かしたいみたいですねえ」
 おやおやとネカットは笑う。
「仕方ありませんね」
 そう言うなり、ネカットは軽々と俊をお姫様抱っこした。
「えっ……」
 予想外の展開に、俊は何度も瞬きする。
 ネカットは俊を両手で抱えたまま、躊躇せず水の中へ入って行き、先へ進んでいた。
「ちょ……すげー恥ずかしいんだけど! お前よく平気だな!?」
「人一人くらい大丈夫、私これでも精霊ですから……」
 答えになってない。
 赤くなってしまった顔でネカットを見上げると、彼はニッコリと微笑んだ。
「暴れたら落っことしちゃいますよ?」


●5.

「似合ってねー……」
 迷路のスタート地点に立ち、イルドは自分のタキシード姿を見下ろしてぼやいた。
 どうにもこういう正装は苦手だ。
「そう? 似合ってるわよ~♪」
 一方、スウィンはニコニコとイルドのタキシード姿を見つめている。
 こういった機会でもないとなかなか見れない彼の正装姿は、とても新鮮だった。
「おっさんも、似合ってる……」
 イルドはチラリと同じくタキシード姿のスウィンを見てから、照れ臭そうに視線を逸らす。
 イルドの胸中にある決意が芽生えていた。
 兎に角、スウィンの服は守り抜く。自分の身に代えても。
 他の誰かに、スウィンの服を溶かされるのは、断固阻止だ。
「ありがと♪」
 スウィンはウインクすると、目の前に広がる迷路を見遣った。
「おっさんが溶けてもしょうがないし、それはイケメン君に任せるわ! 頑張ってゴール目指すわよ!」


 感覚を研ぎ澄まし、周囲を観察する。
「おっさん、ちょっと待て」
 違和感を感じスウィンを制止すると、生け垣から水が噴射された。
「イルド、凄いわね~!」
「べ、別にこれくらいどうって事無い」
 褒められて少し目元を赤くしつつ、続いて聞こえてきた音にイルドは顔を引き締める。
「おっさん、来るぞ!」
 スウィンの前へ躍り出ると同時、水鉄砲を持った執事達が姿を現した。
 一斉に二人に向けて、水が噴射される。
「逃げるぞ、おっさん!」
 水を避け、イルドが先導し、執事達から逃れようと走り出した。
 執事達は水鉄砲を撃ちながらその後を追う。
「きゃ~エッチ~☆」
 手でガードし水から逃げつつ、スウィンが黄色い声を上げた。
「へ、変な声出すな!」
 思わずガクッと一瞬脱力しながらも、イルドはスウィンを庇って水を受ける。
「オラッ、こっちへ来い!」
 執事達を挑発し、前へ出た。
 結果、向けられたほとんどの攻撃をイルドが受け、その上半身の衣服がドロドロと溶け出す。
「ナイスガッツです、お客様!」
 やがて空になった水鉄砲を下げ、執事達は一礼すると走り去った。
「イルド……ありがと」
 その後ろ姿が消えるのを確認してから、自分を庇ってくれたイルドの手を取り、スウィンは微笑む。
「折角のタキシードが台無しになっちゃったわね」
 そっと溶けている服に触れた。
「お、俺は別にいいんだよ」
 あんたさえ、無事なら。
 そんな言葉を飲み込んで、イルドは笑みを返したのだった。


●6.

「全力で僕をエスコートしたまえ旦那様?」
 ひらりとレースの付いた丈の短いスカートを揺らし、直香はゼクを見上げた。
「…………」
「こんな完璧なドレス姿を前にして、その不満顔はなんだー」
「全力で呆れているだけだ」
 ハァとタキシード姿のゼクは息を吐き出す。
 あぁ、完璧だ。
 違和感無さ過ぎ。
 似合い過ぎ。
 そんな言葉は飲み込んでおく。
 まぁいいやと直香は手をひらっと振ってから、迷路を指差した。
「結構真面目に頼むけど、迷路の道順選択ヨロシク」
「俺がか?」
「方向感覚がある分、僕よりはマシだと思うよ」
「……まぁ、そうだろうな」
「じゃあ、そういう事で。ゴー!」
 直香とゼクは迷路へと入っていく。


「わっ、来た!」
 前方から水鉄砲を手に走ってくる執事達が視界に入ると、直香は直ぐにゼクの後ろへ隠れた。
「おい、直香?」
「ゼク、がんばってー」
「ちょ、待て……」
 ゼクの言葉を待たずに、執事達から次々に水が放たれる。
「冗談じゃない……!」
 服の下は、何も身に着けていないのだ。
 そして、それは直香も一緒の筈で……。
 ゼクは飛んで来る水を腕でガードしつつその場に留まった。
 逃げれば、水が直香に当ってしまう。
 たちまち、ゼクの服が溶け出していく。
「……」
 ゼクの後ろに隠れていた直香が、不意にひょこっと飛び出した。
「おい!?」
 驚くゼクを置いて、胸元をガードしながら素早く駆け出すと、攻撃が直香に向けられる。
「ひどいや、お兄さん。僕の裸が見たいの?」
 直香はうるっと涙目になると、執事達を見つめた。
「うッ……」
 その眼差しに執事達が思わず手を止める。
「直香!」
 その隙を付いて、ゼクは直香の手を取ると全速力でその場を逃げ出した。


「……無茶するな」
 執事達から無事に逃げ遂せて、ゼクは渋い表情で直香を見る。
「だってーあのままじゃ、ゼクが全裸にされちゃってたかもしれないし」
 あちこち溶けたゼクの服を眺め、直香は瞳を細めた。
「葉っぱ一枚になるゼクを想像したら……か、かわいそうで……あっ、笑ってないよ」
「思いっ切り吹き出してるじゃねーか」
 肩を震わせる直香を半眼で見つめてから、ゼクはその頭をわしわしと撫でたのだった。


●7.

 ゴール地点では、次々に記念撮影が行われていた。

「ウル後ろ向かないの? つまんなーいー」
 ラヤがウルリヒの剥き出しの背中をぺちぺちと叩く。
「向かないよ! あー、疲れた……」
 ほとんど無傷でドレスを守り抜いた(ウルリヒの犠牲のお陰で)ラヤと、後ろ側の服がほとんど溶けたウルリヒは腕を組む。
 ラヤがピースサインをし、二人笑顔で写真に写った。


 腕の部分以外、ほとんど服が溶けたセイジは、同じくタキシードが原型を留めていないランスの髪に手を伸ばす。
「いい男が台無しだぞ」
 乱れている髪を手櫛で整えた。ランスが金色の瞳を細める。
「水も滴るイイ男達だな」
「そうだな。凄く楽しかったぞ」
 二人顔を見合わせて微笑み合った。
 寄り添うようにして写真に収まる。


 カメラを前に、俊はネカットの前に並んだ。
 常に前面に立っていたネカットのドレスの前は、少なからず被害を受けていたからだ。
「今度はシュンが前ですか。『当てて』もいいです?」
「いや、お前も当てるもの持ってないから!」
 即座に言い返すと、ネカットは面白そうに笑った。
 前後に並ぶ姿でカメラのシャッターは切られる。


「どうせなら溶ける前の写真も欲しかったわねぇ」
 上半身の服がほとんど溶けたイルドを見て、スウィンは心底残念そうに眉を下げた。
「ご褒美っつーか、罰ゲームだよな、これ」
 自分よりは遥かに被害の少なったスウィンを見つめ、イルドは満足そうにしている。
「ふふ、でも楽しかったわー♪」
 スウィンはそう言うと、イルドと腕を組んで身体を密着させた。
「お、おいッ?!」
「はい、チーズ☆」
 イルドが少し頬を染め狼狽えている間に、カメラのレンズは二人を捉えていたのだった。


「葉っぱ一枚にならなくてよかったねー」
 何とか守り抜いたドレスのスカートを揺らし、直香は上機嫌にゼクを見上げる。
「……直香、皆、水着や下着を着てる気がするんだが?」
 あちこち溶けていたが、大事な部分の服は守り通したゼクは、周囲を見渡し眉間に皺を刻んでいた。
「あれっ? そうなの? 僕、てっきり駄目なルールだと思ってた!」
「…………」
 ゼクの痛い程の視線を受けつつも、直香は彼を引き寄せてVサインと共に写真を撮って貰った。


 記念撮影後、着替えた参加者達は、豪華なバーベキューパーティを楽しんだのだった。


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:スウィン
呼び名:スウィン、おっさん
  名前:イルド
呼び名:イルド、若者

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 楠なわて  )


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月11日
出発日 06月17日 00:00
予定納品日 06月27日

参加者

会議室

  • [5]アキ・セイジ

    2014/06/16-21:57 

    ハッパでは困るな。色々と出てしまうじゃないか。
    というわけで、水着で頑張るアキ・セイジだ。

    服?
    男だぞ、タキシードにきまってる(笑
    あ、ドレスを着たい人は止めない。他人が着る分には構わないから。(ぐっ

  • [4]柊崎 直香

    2014/06/15-23:06 

    葉っぱ一枚あれば(略)
    クキザキ・タダカと申しますよ。よろしくどうぞ。

    至極真っ当に自然な流れでプランを考えると、
    僕がミニ丈ウェディングドレス姿で精霊で遊ぶ図だろーか。
    たぶんそんな感じで適当にはしゃいでるよー。

  • [3]ラヤ

    2014/06/15-22:23 

    ラヤだよー!
    …じゃなくて、はじめまして、よろしくおねがいしますっ(ぺこっ
    これでいーい?(ウルリヒをチラッ

    すっごい楽しそうだよねっ!ウルいやな顔してたけど引っ張ってきちゃった~えへへ
    ラヤはドレス着るよー♪(ぴょんぴょん

  • [2]スウィン

    2014/06/15-19:24 

    ラヤと俊はお初ね。スウィンよ、よろしくぅ。
    ちょっと変わってるけど面白そうなイベントよね♪頑張るわよ~!

    ドレス?可愛い子に任せるわ~

  • [1]俊・ブルックス

    2014/06/14-22:33 

    はじめまして、俊・ブルックスだ。
    俺はともかく、相方のネカはやたらと張り切ってるみたいだから、まあやれるとこまでやってみるかな。

    言っとくがドレスは着ないぞ。


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