プロローグ
6月のある日、あなたとパートナーの元に結婚式の招待状が届きました。
先輩ウィンクルムが2人の愛を深め、遂に結ばれるというのです。
パートナーの精霊と結婚するって、どんな感じなのかな……と思わず想像してしまうあなた。
ところが同じころ、挙式会場である聖キュピタル教会には、予告状が届いていました。
『怪盗ウェディングハンター!新郎新婦の幸せ盗みに参上します!』
予告の日時は、先輩ウィンクルムの挙式の日時。
狙われているのは先輩の幸せ?
それを知ったあなたは、仲間と共に、式に参列しつつ怪盗ウェディングハンターの犯行を阻止しようと決心したのでした。
●怪盗ウェディングハンターとは?
1年ほど前から、たびたび聖キュピタル教会に現れる2人組の女性。
目元を覆う翼のような形のマスクで顔を隠し、ストレッチ性が高く動きやすい素材でできたミニスカスーツとロングブーツに身を包む。
変装の名人で、スタッフや参列者に変装して会場に潜む。
新郎新婦が指輪を交換する際に正体を明かし、不思議な光を放つ香り粉でその場の全員をぼんやりさせると、その隙に指輪を盗み身軽に逃走するという。
しかし、盗んだ指輪は後日新郎新婦に返されるというから、ウェディングハンターの狙いは挙式そのものを台無しにすることなのではないだろうか。
なんのためにそんなことをするのか、そして彼女たちは何者なのかは謎に包まれている。
●挙式の進行
先輩の挙式は、以下の流れで執り行われます。
①女性ハープ奏者、女性フルート奏者、3人の女性聖歌隊、男性司会者、立会人がスタンバイ。
②式開始。司会者の挨拶の後、新郎の入場。
新郎の衣装は、黒のタキシードで上衣の裾に花の刺繍が施され、いくつかの宝石が散りばめられている。
③指輪を運ぶリングボーイと2人のフラワーガールが入場。さらに、2人のブライズメイドに先導され新婦が入場。父親はすでに他界しているため、祖父とバージンロードを歩く。
新婦は新品のオフショルダーのドレス、祖母から譲り受けた銀のピアス、青い花をメインにしたブーケ、聖キュピタル教会から借りた「幸せのダイヤ」のティアラを身に着けている。幸せのダイヤは、中心部が薄紫色に色づく不思議なダイヤで、幸せを呼び寄せると言われている。
④讃美歌斉唱。
⑤牧師の聖書朗読と、新郎新婦の誓いの言葉。この後、立会人の下で永遠の愛を誓う誓約書への署名。
⑥いよいよ指輪の交換。無事に終われば誓いのキス。
⑦新郎新婦の退場。参列者は外に並び、新郎新婦へフラワーシャワー。外でブーケトスを行ったのち、新郎新婦は車に乗り込み退場する。
●教会の構造
式が執り行われる聖堂は、梁がめぐらされた高い天井にところどころ天窓があり、太陽の光が燦々と入り込む。
手前が参列者席、左奥に楽器奏者や聖歌隊が立ち、右奥には司会台。その左隣には、誓約書にサインをするための脚の高い文机があり、立会人はそこに立つ。
中央部は一段高くなって牧師が建つ檀があり、新郎新婦もこの場所で愛を誓う。
いたるところに花が飾られ、壁面には凝った装飾の燭台が並ぶ。
中央奥、神父の立つ檀の後ろにはひときわ大きな花台とハート型に並ぶキャンドル。
聖堂の扉は3つ。
正面の大扉は、参列者や新郎新婦の入退場に使用する。
右側の壁に、普通の大きさのやや簡素な扉が2つ。
手前の扉の向こうは新郎新婦、および親族の控室。
奥の扉は、牧師やスタッフの控室兼事務室に繋がっている。スタッフが準備をしたりする部屋でもあるため、相応の広さがある。照明、音響設備、空調、天窓及び天窓カーテンの開閉のスイッチもこの部屋にある。
新郎新婦の控室、スタッフの控室ともに、外に通じる扉も設置されている。
解説
新郎はテイルスの青年、立会人は同じくテイルスで新郎の友人です。
リングボーイとフラワーガールは新婦の親せきの子供たち、ブライズメイドは新婦の学生時代からの友人です。
果たしてあなたは、怪盗ウェディングハンターの犯行を止めることができるのでしょうか?
ただし、式の進行を変えることは極力避けてください。
たとえウェディングハンターを捕えても、式自体がめちゃくちゃになってしまえば、大成功とは言えません。
できるだけ会場にいて欲しいのですが、目的遂行のためには、式場をこっそり抜け出すことも必要になるかもしれません。しかし、あまり遠くに行かないようにお願いします。
必要な物がある場合、自宅で準備するか、購入してください。一般的に売っていないもの(特注品など)は購入できません。
しかし、式に参列するのであれば、あまり大きな道具や武器は持っていけないでしょう。
また、結婚式ですので、300ジェールから500ジェールの範囲でご祝儀を用意していただけると良いなと思います。
ゲームマスターより
はてさて、ウェディングハンターは誰に変装して潜んでいるのでしょうか?
そして、どうやって逃走しようとしているのでしょうか?
犯行阻止には、これらの点を踏まえるのが良さそうですよ……。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
田口 伊津美(ナハト)
(結寿音を名乗って参加) 【心情】 バカロボがオーガの仕業かもしれないとかほざき始めて巻き込まれた最悪 何が悲しくてくっだらない事件に逆に金払ってんだ? 【行動】 事前に発生例を調べてなんかもっとヒントになりそうなことがないか調べておく 祝儀は他人だし300ジェールで勘弁してくれ… 本当は一銭も出したくねぇ インカムをいつもどおり人数分配るよ あと昔買ってたPM対策用(スーパーで割りと安め)マスクを仲間に配っておく。できればゴーグルも 香り袋対策ね 式中は簡易扉の近くに張っておく。なるべくスタッフっぽい格好して目立たないように… 目星がつき次第ちょっと手荒に抑えこむかね 無事終わったら祝福に歌でもサービスしますよっと |
シリア・フローラ(ディロ・サーガ)
事前に準備できるなら、スタッフの確認をしておきます。 また、トイレなど設備も確認。 運転手とか車のトランクが怪しいかも?サーガに確認してもらうようにお願いします。 進行を妨げない程度に人の配置を変えてもらうことは可能ですかね。 最低限の人以外、新郎新婦の近くに人を近づけないかんじに。 式中は、参列しつつ怪しい行動している人が居ないか確認。 2人とも変装の名人だから、指輪を奪った後、そのまま参列者に紛れ込みそう 盗まれた場合は、他の人を落ち着かせる振りして怪しい人が居ないか確認 ハンターがいたら捕まえる どうしてこんなことをしたのか聞く インカム可能ならつけてお互いに連絡を取り合う |
Elly Schwarz(Curt)
【心情】 先輩ウィンクルム方の結婚式ですか。素敵ですね。 僕、結婚式自体初めてなんです。 台無しを避けるべく頑張りましょう! 【行動】 まずは先輩に届いた予告状について話しを聞きます。 親族の方以外にはウィンクルムと言う事は隠しておいた方が良さそうです。 式中使用しない扉の鍵はかけ閉鎖して貰う。と言っても油断は禁物。 事前に参列者リストがあれば確認させてもらいます。 インカムで連絡を取り合いながらハンターに警戒。 僕はクルトさんと奥の扉と手前の扉を巡回。 その際「メンタルヘルス」で怪しい人が居ないか見極められれば。 相手は変装に自信があるようですが、どこかで「抜け」があるかもしれませんし! 【使用スキル】 メンタルヘルス |
☆結婚式前日
「先輩ウィンクルムの結婚式なんて、素敵ですね。僕、結婚式自体初めてなんです」
瞳をきらきらさせて、EllySchwarzは結婚式へ着ていく服や小物を選んでいる。対して、気の無い様子のCurt。
「結婚式なんて、親父の代わりで何度も行った事があるが。あまり良い思い出はないな、挨拶周りで終わった気がする。そういえば今回の結婚式は、おかしな予告状が届いているんだったな?」
結婚指輪を奪い結婚式を台無しにすると悪名高い「怪盗ウェディングハンター」。彼女たちが、先輩の結婚式を狙っているのだ。
「そうなんです。せっかくの結婚式です、台無しを避けるべく頑張りましょう!」
「はぁ~あ、結婚式ねぇ。それから、何?怪盗ウェディングハンター?なんだそれ。売れない三流映画のタイトルかっつぅの」
浮かない顔で溜息をつく田口伊津美こと結寿音。結寿音は乗り気ではなくても、隣には、事件を解決する気満々のナハトがいる。
「これはオーガの仕業に違いない!結婚式で指輪を取り上げることで子供を減らして間接的に人類撲滅なんて、なんて卑劣な作戦なんだ……!」
「はー、そうだねーすごいねーってちげぇよばか!」
結寿音はナハトの耳をぐいっと引っ張って大声で叫ぶ。
「色々間違ってるよ!結婚式指輪関係なくても子供はできるからね!?」
ナハトは意外なことを聞いた、とでもいうふうに目を丸くしている。
「ま、出席してあげるよ。それであんたの気が済むならね。ったく、バカロボのわがままに付き合ってあげてるんだから……今度は私のわがままに付き合うようにね」
「ありがとうイズ。ところで、結婚指輪じゃなければどうやって子供ができるの?」
「………」
ナハトは至って真剣に訊いているようだ。
「んなもん自分で調べやがれーーーーっ。お前の脳みそは鉄くずかぁぁ~~~っ」
結寿音はナハトを家の外に蹴り飛ばした。
「明日は気を抜けないわね、サーガ」
シリア・フローラは難しい顔で結婚式の招待状を眺めながらディロ・サーガに言う。
「結婚式が無事に終わるかどうか、私たちにかかっているのよ」
「良い結婚式にしてあげたいね。契約した神人との結婚なんて、素敵だなぁ」
サーガは夢見るふうに微笑む。そんなサーガに若干頼りなさを感じたのか、フローラは
「もう、ぼんやりしてちゃダメだからね」
と叱るのだった。
☆ウェディングハンターは誰だ?
教会に到着したフローラとサーガは、教会内外の設備に怪しいところがないか点検する。
「特に細工されたりとかはしていないみたいだけど」
「うん。後は、スタッフを確認できると良いわね」
2人とも、目立った異常は見つけられなかった様子だ。
エリーとクルトは、新郎新婦控室を訪ね、予告状について話を聞いている。
「予告状は封書で教会に届いたのだけど、消印も無く指紋も検出されなかったのよ」
と、新婦。
「本当なら俺がウェディングハンターを掴まえたいんだけど、今日は身動きがとれなさそうだからね、君たちに頼んだよ」
新郎に言われ、エリーは
「任せてください」
と頷く。
「ただ、騒動にはなるだろうから、予め親族やスタッフには話を通しておきたいな」
クルトが言うと、新郎新婦は控室にスタッフと親族が集めてくれた。
フローラとサーガも控室に足を運ぶ。
そこへ、結寿音とナハトも到着した。
「ふー、怪盗ウェディングハンターとやらについて調べていたら時間くっちゃったよ」
結寿音は自分なりにウェディングハンターを調査していたらしい。そして、今日は式場スタッフを装うつもりで、黒のスーツにぴちっとしたまとめ髪という地味な服装だ。
「今日、お手伝いしてくれる方々が揃ったわ」
と、新婦が、親族とスタッフにエリーたちを紹介する。
「さて、ウェディングハンターとやらは変装の名人らしいが……この中で怪しいと思う者はいないか?」
クルトが単刀直入に訊く。
親族、スタッフたちは顔を見合わせる。
「さすがに親戚は、変装していても間違えないよ」
と、親族の誰かが笑った。
「私たちスタッフも毎日顔を合わせていますし……ねぇ」
式場スタッフも困惑気味だ。
クルトは小声でエリーに尋ねる。
「どうだ、何か変化はあったか?」
クルトが全員に単刀直入すぎるともとれる質問をしたのは、それにより多少の動揺が見られるものを、エリーの「メンタルヘルス」のスキルで見破れないかと思ったからだ。
「う~ん。みんな、結婚式だからちょっと気分が高揚しているみたいで……動揺しているのか高揚しているだけなのか、判別が難しいですね」
「ふむ。けど、服装から少しは絞り込めるだろう」
クルトがスキル「フェイク」の知識を使い分析する。
「何かを隠そうとするには、隠したい物より大きいものに隠すしかない。不自然に大き目だったりだぶついたように見える服を着てる者が、怪しいだろう」
ローブ姿の神父、聖歌隊、そしてゆったりとした服装のハープ奏者とフルート奏者。
親族の中にもゆったりとしたドレスの婦人が何人かいる。これらの人々が、要注意人物というわけだ。
「参列者の方も注意してみておいた方がいいですね」
エリーの言葉に、クルトが頷いた。
「あ、そうだ。ここにはインカムみたいのはないですか?」
結寿音がスタッフに訊く。
「あれば貸して欲しいんですが」
「スタッフの連絡用の小型マイクとイヤホンがありますよ」
と、全員分の小型マイクとイヤホンを貸してくれた。
「あとこれも必要だよね」
結寿音が鞄から人数分のマスクを取り出し配る。
「指輪交換の前に、香り粉対策に使って」
「イズ、マスク買ってきてたんだ」
「違う違う。家で余ってたPM対策用のやつだよ。ひと箱なんぼのやっすいやつ。わざわざ買うかこんなもん。後はゴーグルもあれば良かったんだけどさ、これは、すまんが自分の分しかなかった。冬にスノボで使ってたやつ」
マスクもゴーグルも、どこまで効くかはわからないが、無いよりはましだろう。
「サーガ、マスクはね、口だけ覆ってもダメなんだよ。ちゃんと鼻までね。わかった?」
「わかった」
フローラとサーガが姉と弟、というか教師と生徒のような会話をしている。
「そろそろ参列者をお招きする時間になります」
と、スタッフ。
「では、参列者のチェックも兼ねて、私たちも他の参列者に混じりましょう。その前に、お願いしたいことがあるんですが」
フローラがスタッフに話しかける。
「少しだけ、人の配置を変えてもらうことは可能でしょうか。最低限の人以外、新郎新婦の近くに近づけないようにしたいのです」
「そうですね、では、参列者席を全体的に少しだけ後方にずらすことにします」
「ありがとうございます」
「あ、もう1つお願いが」
今度はエリーが口を開く。
「式中使用しない扉の鍵をかけて閉鎖することはできますか」
「そうですね……」
スタッフは考え込む。
「新郎新婦控室は可能です。スタッフ控室は、外に出る方の扉なら閉鎖しても大丈夫でしょう。聖堂に入る方の扉は、スタッフが必要に応じて出入りするので、ちょっと難しいです。いかがですか?」
「それでお願いします」
「外が騒がしくなって来た。そろそろ行こう」
結寿音が言い、全員外に出ることにした。
「そうだ、バカロボット。これ持って行きな」
結寿音はナハトに短剣を持たせる。
「いつ使うの?」
「ウェディングハンターとやらをこれで脅して、指輪取り返して犯行動機を吐かせるんだよ」
『脅して』という言葉を口にする時、結寿音が悪人顔でにやりとしたのは気のせいだろうか。
新郎新婦控室の扉から外に出た皆は、教会の正面に回る。
「参列者は30人程度か」
と、クルト。
「不自然に大き目の服の人……」
エリーは、怪しい人物に該当しそうな服装の者を探す。
「やっぱり女の人が多くなりますね。後で参列者のリストも確認しておきましょう」
結寿音は眼鏡の端を指で押し上げながら、事前調査でわかったことを口にする。
「調べたらさ、怪盗ウェディングハンターは、いつも指輪を盗んだ後、いろんな逃走経路で教会の外に出てんだよ。で、問題は、外に出た後、だ」
「家に帰るんでしょ?」
「お前バカロボットだな本当に心の底から。奴らはヘンな覆面にミニスカスーツ、ロングブーツだぞ。そんな目立つ奴らがすんなりこの辺りを歩いて家に帰れるか」
「他に仲間がいる可能性も考えた方が良いですね」
フローラが言う。
「そう、それ!」
結寿音がフローラをびしっと指さす。
「どうしてこういう発想がないかなバカロボットは」
「ごめんね」
「そしてウェディングハンターが出る時、必ず新婦は教会から『幸せのダイヤ』のティアラを借りているそうだ」
「幸せのダイヤ……」
フローラとエリーはその名を反芻した。
そうこうしているうちに、参列者はほとんど教会の中へ入っていった。
「僕たちも受付を済ませて中に入りましょう」
エリーに促され、全員受付に並ぶ。
ご祝儀を出す段階で、結寿音は他2人のご祝儀袋を素早くチェックする。
(あの膨らみ方……おそらく入っているのは500ジェールか。よくそんなに払えるな~。こちとら他人だし300ジェールで勘弁してくれ……本当は一銭も出したくねぇ)
心の中ではそう思いつつ、
「おめでとうございまぁす」
と笑顔でご祝儀袋を受付に渡す結寿音なのだった。
式が始まる直前に、エリーは参列者リストを確認する。
「新婦のお友達のネネさんとアイラさん、このお二人がちょっと怪しいです」
「じゃあ、式中注意すべき人物に追加しておこう」
「はい!」
クルトに言われ、エリーは頷く。
リストをスタッフに返し、ネネとアイラの2列後ろの席に座る。
スタッフを装った結寿音とナハトは一番後ろの両端に立つ。
そして、フローラとサーガは正面扉に一番近い席へ。
「新郎新婦が最後に使う車やその運転手とかも怪しいわ。折を見て確認して」
フローラに耳打ちされてサーガは頷く。
いよいよ式が始まった。
女性ハープ奏者、女性フルート奏者、3人の女性聖歌隊、男性司会者、立会人が指定の場所につく。
楽器奏者の演奏の中、新郎が入場し、聖堂は拍手で包まれる。
新郎の姿をキラキラした眼差しで見つめるサーガ。ウィンクルム同士で結婚できるなんて良いなぁ羨ましいなぁ、などと考えていそうだ。
続いて新婦の入場。
可愛らしいリングボーイとフラワーガールの登場で、参列者たちに笑みがこぼれる。
が、フローラたちは和んでもいられない。
この指輪が、狙われているのだ。
エリーとクルトは、目を付けていた要注意人物たちに怪しい動きがないか確認した。
新婦友人のアイラがくしゃみをする。その瞬間に、エリーは立ち上がりそうになってクルトに手首を抑えられる。
クルトは静かに首を横に振る。あせるな、と。
エリーも頷き、座りなおした。
サーガは、新婦が入場した段階で、正面の扉が閉まる前にそっと外へ出る。
新婦が祭壇の前に着き、一緒にバージンロードを歩いてきた祖父から、繋いでいた手をそっと離す。そしてその手を今度は、新郎へ。
再度、拍手が起こる。
「今ここから、お2人は新しい幸せを築くのです。新婦の頭上に煌めくのは幸せのダイヤ、これは幸せを呼び寄せるダイヤと呼ばれております。この輝きが、お2人と、そして参列してくださった皆様の幸せを呼び寄せてくれることと信じています」
司会者が滑らかに語る。
(あれが、幸せのダイヤ、か)
結寿音はティアラに付いた中心部が薄紫色に色づく不思議なダイヤを見つめる。
(売ったら何円になるのかな。しかし、幸せを呼ぶなんて馬鹿らしいね。幸せなんて、誰かに呼んでもらうようなもんじゃないだろうが)
「皆様、讃美歌の斉唱をお願いいたします」
司会者が言うと、ハープ奏者が音楽を奏でる。
歌唱のスキルを持つエリーは、さすがの美声である。
結寿音も歌唱のスキルを持っているのだが、こちらは、わざと小声で歌う。
歌声で、結寿音の正体……アイドルIZUIZUだとばれては困るのだ。今日は、アイドルとして来ているのではないし、人目をひいてはいけない任務もあるのだから。
讃美歌が終わると、誓いの言葉。
フローラたちはこっそりとマスクを取り出し装着する。結寿音は、ゴーグルを着けようかどうか迷ったが、今着けると悪目出ちしそうなのでやめておいた。
「では、続きまして、指輪の交換です」
リングボーイが指輪の載ったリングピローを神父に差し出す。
その瞬間だ。
祭壇に薄桃色の煙が立ち上がったように見えた。
「っ!?」
結寿音は急いでゴーグルを装着する。
それは、薄桃色の光と甘い香りを発する、不思議な粉だった。
空調が強くなったのか、あっという間に薄桃色の香り粉は聖堂内に広まった。
「どこから?」
エリーはきょろきょろする。ネネとアイラに動きはなかった。
「あいつだ!」
クルトが立ち上がり指さす。それは、楽器奏者の2人。
聖堂内の人々は、次々とぐったり力を無くす。新郎新婦もその場に座り込む。
「怪盗ウェディングハンター参上!」
楽器奏者はゆったりとしたワンピースをばさっと脱ぎ捨て、特殊メイクの技法で作られた人面マスクを剥がす。
そこには、話に聞いたのと同じ格好のウェディングハンターが。
「あなたの幸せ、いただきま……きゃっ!?」
飛ぶように祭壇に駆け付けたクルト。
「なんで眠り粉が効かないのよぅ!」
「マスクなんか着けてずるぅい!」
そう言うウェディングハンターは、よく見るとシンクロナイズドスイミングの選手が使うような、肌色の鼻栓をしている。
どうやら薄桃色の香り粉の正体は、鼻腔から吸収することにより効果を発揮する催眠剤のようだ。
そして素早く指輪を奪うウェディングハンター。
「掴まるなんて絶対いやよ」
言うが早いか、ウェディングハンターはそれぞれロープを取り出し天井の梁に向かって投げる。いつの間にか、天窓が開けられている。そこから逃走するつもりなのだろう。
「じゃあねっ」
ウェディングハンターはロープを掴み、跳躍する。
クルトの頭上を飛び越え、梁の上に着地……するはずだった。彼女たちの予定では。
どこからか飛んできたナイフが器用に2本のロープを切り、ウェディングハンターは床の上に落ちた。
ナイフを投げたのはナハトだった。
「いったぁ~い!」
身体をさすりながら立ち上がるウェディングハンターだったが、前方からクルト、後方からナハトに挟まれ、逃げ道を失う。
聖堂内がざわつく。
「な……なんだ、あれ」
「ウェディング……ハンター?」
ウェディングハンターの撒いた香り粉は効果が薄く短いようだ。
意識を取り戻しつつある参列者の間に動揺が広がる。
「皆さん、落ち着いてください」
「座ったままでいてください」
エリーとフローラが周囲に呼びかける。
「……仕方ないなぁ。お祝い代わりだ」
結寿音がゴーグルを外し、髪をほどく。
聖堂内に歌声が響いた。
「こ……この声は?」
恋人たちを祝福する内容の歌。
「い……IZUIZU?」
結寿音は捕えられたウェディングハンターの手から指輪を取り返すと、祭壇の前まで歩き、リングピローに指輪を戻す。
まだ朦朧としている参列者には、微かに残る薄桃色の粉の中、歌い微笑む結寿音がまるで天使のように見えた。
はっとしてエリーが拍手をする。続いてフローラも。
「素敵!素敵な演出ですね!」
「本当に!」
他の参列者たちも、
「そうか、演出か……」
と、拍手をしだす。彼らの意識が朦朧としているのが幸いだった。
参列者たちが結寿音に注目している間、クルトとナハトはロープで縛ったウェディングハンターを外に引きずり出す。
正面の扉を開けると、目の前の道路で、サーガが車の運転手である男性と窓越しになにやら揉めている。車は、新郎新婦が乗る専用の車とは別のものだ。
「ここに停めてちゃダメなのかよ!」
「ここに停めなきゃならない理由はあるんですか?それに、車内の荷物は何です?」
サーガも語気強く問い詰める。
「通信機器とか女性ものの服とか、何に使うんですか?それに通信機器から、指輪がどうとかって聞こえましたが?」
「おい、どうしたんだ」
クルトが車に近づく。
すると、彼に捕えられたウェディングハンターの姿を見て、運転手が真青になる。
「お前たち、掴まって……」
その一言でサーガは全てを察した。
「ウェディングハンターの仲間ですね!」
サーガは車のドアを乱暴に開き、運転手を引きずり降ろした。
聖堂内では、香り粉の影響はすぐに消え、結婚式の続きが執り行われていた。
結寿音の機転のおかげで、騒動は式を盛り上げる演出へと変わった。
「全く……こんなところでバレる羽目になるとは、冗談じゃねぇ」
結寿音は結婚式が終わる前に、こっそり会場を出た。
☆式を終えて
「ちょっとハプニングはありましたけど、結婚式を無事に終えることができました。ありがとうございます」
控室で、新郎新婦が笑顔で頭を下げる。
「いいえ、僕たちも、素敵な式を見ることができましたから」
エリーは恐縮する。
「それにしても、ウェディングハンターに仲間がいたなんて、驚きました」
スタッフが、控室の隅で捕えられているウェディングハンター一味を見る。
「いえ、この3人だけではないと思いますよ」
きっぱりと言うフローラ。
「香り粉が撒かれた時、空調がいじられていました。その後、タイミングよく天窓も開けられていた。スタッフの中に、仲間がいたとしか思えません」
ざわつくスタッフたち。
「そ、そういえば、あの時空調と天窓のスイッチを操作していたのって……」
スタッフたちの目が、1人の女性スタッフに集まる。
「あ、わ、わたしは……」
注目されたスタッフはじりじりと後ずさり……ぱっと逃げようとするもクルトに掴まえられる。
「もーうっ、だから嫌だったのよぉ、こんなドロボウみたいな真似!」
捕えられた女性スタッフが怒鳴った。
「じゃあ、どうしてこんな真似したのさ」
結寿音が腕を組んで問い詰める。
「あの『幸せのダイヤ』と何か関係あるんだろ」
「あれは、幸せのダイヤなんかじゃないわ……!」
片方のウェディングハンターが低い声で言う。
「私たちは、宝石にまつわる伝承を研究していたの。あのダイヤは、幸せを呼び寄せる。けれど、許容量いっぱいまで幸せを呼び寄せたら今度は……幸せを呼び寄せる力が不幸をまき散らす力に変わる、呪われたダイヤと言われているのよ」
「呪われたダイヤ?」
主任スタッフが驚愕の声をあげる。
「そうよ。あのダイヤを身に着けた花嫁が幸せな結婚式を挙げるたび、ダイヤに幸せが貯められていく。許容量の限界が近づいてくる。そうしたら、今度は、不幸が……。それを防ぎたかったの、私たちは」
「なるほど、指輪が奪われれば、幸せな気分で結婚式なんて挙げられないですね。そして、結婚式が不幸せに終われば、あとは指輪には用がなくなるから、持ち主に返していたというわけですね」
と、エリー。
「そんな、オーガ絡みの事件じゃなかったのか……」
「最初からわかるよな普通」
茫然とするナハトに冷たく言い放つ結寿音。
「だけど、その伝承は本当なんですか?」
エリーが聴く。
「試してみる?何が起こるかは保障しないわよ」
ウェディングハンター2人はにやりと笑う。
「い、いえ、いいです」
「どっちにしろ、そんなもんに左右されるような幸せたいしたもんじゃないだろ」
結寿音が言い捨てる。
「そうだよ、ダイヤの呪いなんかに負けないくらい幸せな結婚をすればいいんだよ。ね、フローラ」
サーガが笑顔で言うので、フローラも
「そういう相手と出会えるといいね」
と笑顔を返す。
「……そうだね」
微妙に肩を落とすサーガであった。
こうして、聖キュピタル教会におけるウェディングハンターの犯行は終わりを告げた。
ウェディングハンター一味は街の保安官に引き渡された。しかるべき懲役を受けることになるだろう。
そして幸せのダイヤが付いたティアラだが……。
今も聖キュピタル教会に保管されているそうだ。なんでも、「呪いに負けない真実の愛」を試すアイテムとして、勇気あるカップルたちから密かな需要があるのだとか。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:田口 伊津美 呼び名:イヅorユズ |
名前:ナハト 呼び名:馬鹿ロボット |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月13日 |
出発日 | 06月21日 00:00 |
予定納品日 | 07月01日 |
参加者
- 田口 伊津美(ナハト)
- シリア・フローラ(ディロ・サーガ)
- Elly Schwarz(Curt)
会議室
-
2014/06/20-22:57
発言した後に気付きました!結寿音さん、お久しぶりです!
行動把握しました!
マスクの件はアイテム規制に引っかからないか不安ですが
携帯をインカムにして連絡し合った方が良さそうですね。記入しておきます。 -
2014/06/20-22:54
いえいえ!すべてLv1なので自信はないのですが
お役に立てるよう尽力させて頂きます!
シリアさんの行動把握しました。となりますと
「指輪や新郎新婦に近づかないようにする」
「式中使用しない扉の鍵はかけ閉鎖して貰う」事はこちらで記入した方が良いですかね。
元々記入していたので字数にはまだ余裕があります。
あと……時間がないですが
ハンターを捕まえる方法はどう致しましょう。
見つけた際に連絡し合うように携帯が必要でしょうか?
どちらかが見つけた際、迅速に回り込んで挟み撃ちと言う作戦は安易ですかね?
騒ぎを起こさないようにすると言う点に触れてしまうでしょうか……。 -
2014/06/20-22:49
はーい、復帰しようとめっちゃぎりぎりぎりぎりに滑り込んだ結寿音です!(偽名を名乗ってます)
スキルは歌唱とダンスとバイクしかないので当てにしない!
実働班でがんばるぞ。
香り粉対策にPM対策マスクでも持って配ろうと思うぜ。通販で2000円から20000円までピンきりだったけど用意できないか手配してみるよ
あとインカムも配るのぜ
あとはやっぱりこの馬鹿ロボットの早さだよりだね、式中は小さめの扉に一人ずつ張ってる予定だからよろしくっとね。 -
2014/06/20-22:14
遅くなりました。
Ellyさん、スキルすごいですね。
私は接待しかないので、どこまでできるかわからないですが、頑張ります。
私の行動ですが
・式前にスタッフの確認(念のためトイレとかも確認しておこうかな
・式中、参列しつつ怪しい行動していないか確認
・盗まれた場合は、他の人を落ち着かせる振りして怪しい人が居ないか確認
という感じになるかと思います -
2014/06/20-18:58
今更ですが連投失礼します。
僕が書き込んだ役割について、箇条書きで纏めて置きます。
・届いた予告状について話しを聞く
・参列者リストの確認
・奥の扉と手前の扉を巡回
・その際「メンタルヘルス」で怪しい人の見極め
あとウィンクルムと言う事は隠しておこうと思っています。その際
参列者しか知り得ない話題を事前に収集し「会話術」、「礼法」、「フェイク」で参列者になりきります。
「指輪や新郎新婦に近づかないようにする」と言う件も、一応書いています。
あとクルトさんの方(ウィッシュプラン)はまだ字数が空いているので
何か字数制限で書けない事があれば記入します。
何かあればまた発言しますね。 -
2014/06/20-14:36
すみません。
式中にて使用しない扉の鍵をかける件に関して見落としていました!
僕も逃走経路、減らしたいと思っていますので賛成です! -
2014/06/20-13:39
そうですね……。
では最低限の人(友人、子供、神父)以外は
指輪や新郎新婦に近づかないようにする、という感じで対策して貰いましょう。
これは式に大きく影響させる事ではないので、説得しなくても応じてもらえるでしょうか。
一応クルトさん、一般スキル「会話術」、「礼法」、「フェイク」などを取得しているので
説得が必要そうな場面があれば対応してもらえるよう、お願いしてみます。
参列者ですか……これは招待式であったらリストがあるような気がするので
その辺りも聞いてみましょうか。自由参加だと辛いところではありますが……。
入退場扉ですね、よろしくお願いします!
クルトさんには、奥の扉と手前の扉を巡回して貰うようお願いします。
その際僕も一緒に廻って、一般スキル「メンタルヘルス」でハンターを見破れないかと思うんですけど
レベルは高くないので、保険としてみて頂ければ……。(苦笑)
何か見逃しのある発言をしていたらすみません。 -
2014/06/20-11:03
あと、Ellyさんの言うとおり、スタッフも普通に怪しいですよね。
少し早めに行って、式前にスタッフ全員?に会っておきましょうか。 -
2014/06/20-10:57
せっかくの結婚式を壊すようなハンターは許せませんね
私も(6)の時にハンター出てくると思います。
どのように出てくるかはわからないですが、最低限の人(友人、子供、神父)以外は、指輪や新郎新婦に近づかないようにする、という感じで対策とってもらいましょうか。
うーん、あと式中は使用しない扉は鍵をかけておいてもらうのが、いいかもですね。
少しでも逃走経路は減らしておきたいですし。
ハンターは変装の名人ということですので、参列者に紛れて逃げそうな気もします。
(7)は外で行うので、逃げようと思えば逃げれますしね。
あとは、車や運転手とかも怪しいかも。事前にそのチェックは、精霊に任せちゃおうかな。
一応、私の精霊は、入退場扉あたりに参列させておきますね。 -
2014/06/20-07:26
シリアさん、初めまして。
僕はElly Schwarz、エリーと言います。
こちらこそ、よろしくお願いします!
そうですね!
僕は今日、いつの時間帯でも対応出来るので発言頑張ります。
式自体がめちゃくちゃになってはいけないと言う事で難しいですね。
僕としては話しを聞く限り、進行⑥の時にハンターさんが現れるように思えます。
逃げ道としては手前の扉と奥の扉が怪しいところ。
リングボーイとフラワーガールは新婦の親せきの子供たち、ブライズメイドは新婦の学生時代からの友人と言う事で
この辺りの人物は怪しい訳ではないのでしょうか。
結婚式にも名簿があると思いますが、ハンターさんが律儀に名簿にサインなんてしませんよね。
警備員や式場スタッフに紛れ込んでいたら尚更です。
結婚式当日に誰がスタッフ、警備員なのかが解ればあるいは?
どうも僕(PL)は作戦力がない者で
こう言った発言しか出来ない事、申し訳ないです。
また気付いた事がありましたら、発言して行きますね。 -
2014/06/20-01:00
初めまして、フローラです。
よろしくお願いします。
あんまり作戦を立てる時間がないですが、がんばりましょう!