【ジューンブライド】青の世界(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ミス・ブルー
 ライン村は古くから染物が盛んで、村全体で染物に取り組んでいました。
たくさん作ることは出来ませんがとても綺麗な色なので多くの人々に愛されています。
 かつてそのライン村にはミス・ブルーと呼ばれる染物の達人がいました。
ミス・ブルーことジェーンは若いながらもその呼び名の通り、青い染物に関しては誰にも負けない技術を持っていました。
いくつも新しい技法を生み出し、それらは今なお村に残っているというのですから素晴らしいですね。

 さて、そんなジェーンも結婚が決まりました。
プロポーズの言葉は「君が染める青のような美しい暮らしを、僕と育んでいきませんか?」だったそうです。
ミス・ブルーにとってこれほど嬉しいプロポーズはなかったでしょうね。
 ジェーンは張り切って自分のウェディングドレスの準備に入りました。
ウェディングドレスといえばやはり白ですが、自分の技術と誇りにかけて、何よりも彼が美しいと評してくれた青を身につけたかったのです。
シュッとした膝から下だけが広がるマーメイドラインのドレスを飾るのは、先の方へと徐々に白から青へと色濃くなるリボン。
これが彼女の思い描いたウェディングドレスです。
風が吹けば、ひらひら花びらのようにリボンが揺らめくことでしょう。
 6月の結婚式に備えてジェーンはいつも村に来る布地商人に買い求めるのではなく、お気に入りのピンクのワンピースを着てタブロス市へ出かけました。
いくつもの店を回って吟味し、なかなか手に入らないような良い絹が買えました。
ちょうど欲しかった長さで売り切れるところで、しかも自分のウェディングドレスに使うのだと話したら、店主が値引きまでしてくれたのですからご機嫌です。

 けれどとても運悪く、村に入って家へあと少しの曲がり角で青い色水に襲われてしまいました。
子供たちが大人の目をすり抜け、くすねた染料で作った色水をかけあって遊び、帰ってから親に怒られる……ライン村では昔から度々あるのです。
それに巻き込まれてしまったのです。
 ジェーンは逃げる子供たちを追いかけるよりも怒るよりも前に、すぐに袋の中を確かめました。
白かった絹のリボンは、斑に青く染まっていました。
お気に入りのワンピースに至っては悲惨としか言いようがありません。
ジェーンは堪え切れず泣き出してしまいました。
 そこへ偶然通りがかったのは事情を知らない一組のウィンクルム。
青い水溜りの中、びしょ濡れで泣くジェーンの姿を見て、驚きながらも彼女たちは目を合わせこくりと頷きあい――
なんと二人して色水へ飛び込んでしまったのです。
神人が付けていた真っ白の手袋だけでなく、二人の服には青い大きな染みが出来てしまいました。
 びっくりするジェーンに、神人が輝くような笑顔で話しかけました。
「私たち、結婚するのよ。『何か青いもの』が欲しかったから丁度よかった」
「そういう訳なんだ」
青く染まった手袋を「ほら、綺麗」とジェーンに見せて笑う神人に、「いーや、俺のタイの方が綺麗だね」と精霊がネクタイを掲げて見せます。
とうとうジェーンは笑い出しました。
自分を包んだ優しさの青を感じながら、とても楽しい気分で笑いました。

 その後、ジェーンは神人の青くなった手袋を貰い受け、その代わりに、斑に青くなっていたリボンを染め直して神人へ贈りました。
青い手袋を身に着けたミス・ブルー、いいえ、ミセス・ブルーの結婚式にはそのウィンクルムも出席し、祝福したそうです。
 そしてジェーンは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。


●青への誘い
 A.R.O.A.に届いた手紙、その裏面に書いてある送り主はライン村村長。
それを見て職員は「ああ、そんな時期になったのか」と季節の移り変わりを実感する。
 ミス・ブルーもといミセス・ブルーの結婚以来、ライン村ではこの時期に結婚式で使う『青いもの』を染めるようになった。
自身の結婚式の日程に関わらず結婚が決まった村の娘達と、そして招待したウィンクルム達と一緒に、大きなテントの下で。
 そして染め上がったものは、村の小さな女の子達へのプレゼントになる。
ミセス・ブルーのようにウィンクルムの祝福を、ということだ。

 とはいえ今ではちょっとしたお祭りのようなものになっているので、堅苦しく考える必要は無い。
 参加料はちょっとしたご祝儀だ。
染める物はハンカチと小さな布の花の二種類がある。
丸々染めてしまってもいいし、専用の筆を使って模様を描くようにするのもいい。
 ハンカチと花、どちらを選ぶかで費用は変わるが、それでも染物体験教室に行くよりかは遥かに安い。
代金は翌年の染料代の足しになるのだという。

 折角の招待だ、ウィンクルムたちには楽しんできてもらおう。
青天の下で鮮やかな青が広がる光景を思い浮かべながら、目の前を通りがかったウィンクルムに職員は声をかけた。

解説

このエピソードは染物体験ではありますが、『青いもの』限定となっております。
染める物は一人1つずつ必要、つまりペアで2つ必要ですのでご了承下さい。

●参加費用
下記のどちらかをお選び下さい。
前述のように、ペアで2つ必要なのでご注意を。

ハンカチ 30jr
布の花  20jr

神人は花、精霊はハンカチという風に別々のものを選んでも問題ありません。

●染め方
3種類ありますので、お好きなものをお選び下さい。

「一枚染め」
まるまる全部染めます。一番簡単です。

「模様染め」
専用の筆を使って模様を描きます。
思い描いた模様を書くには、直感でコツをつかむ必要があるでしょう。
こちらの染めはハンカチのみになります。

「両染め」
一枚染めの後、模様染めを行います。直感だけでなく、段取りのよさも必要です。
こちらの染めはハンカチのみになります。

なお、模様染めと両染めに関しましては模様が複雑になればなるほど難しくなります。

ゲームマスターより

ジューンブライドということで、サムシング・フォーより「何か青いもの」でお届けです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  私は『ハンカチ』で『両染め』に挑戦するよ
染め物って初めてやるし、上手くできるかちょっと自信ないけど何事もチャレンジ!

エミリオさんと相談して私は模様を『四つ葉のクローバー』にしようと思うの
ハートを4つ描いてクローバーを表現するよ
村の人達にアドバイスをもらいたいな
結婚の話とか聞きたいかも!

このハンカチって村の女の子にプレゼントするんだよね
なら『このハンカチを受け取った子とその子にいつかできる大切な人がずっと幸せでありますように』って願いを込めながら模様を描くよ
喜んでくれるといいな

ギルティが復活して世界に不安が広がっても、幸せや希望は消えずにここにある
私この小さな幸せを守っていきたい

エミリオさん、



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  「ハンカチ・模様染め」

???
これってどうやるの?
ディエゴさんのやり方を真似しながらやってみようっと。

模様を決めるのも悩んだけど、これもディエゴさんに助け舟を出してもらっちゃった。
曰く、俺はハーリキン・チェックで、お前はギンガムチェックはどうだ?と
同じチェックだしギンガムチェックならわかりやすいだろうって。

折角教えてもらったんだから、張り切って素敵なハンカチ作っちゃおう!

ギンガムチェックは服にも使われてる可愛い感じのチェックだね
ハーリキンチェックは……ダイヤ柄とも呼べるかな?
………この柄、何か引っ掛かるものがある。
こういうのをなんて呼ぶんだっけ、デジャヴュ?
……あ



テレーズ(山吹)
  素敵なお話ですね
何だか憧れちゃいます

私はお花の一枚染めに挑戦します
一番簡単との事ですが油断せずいきます!

綺麗に染まるといいのですけど
ウィンクルムの祝福ですもの
どうせなら喜んで貰える素敵なものを渡してあげたいです
しっかりやり方を教わって頑張ってみます!

山吹さんもお花なんですね
一緒にやればきっとうまくいきますよね
とっても心強い…あっ
…ええと、失敗は成功の元だとどこかで!

でもこんな綺麗な色に染まるんですね…
これは俄然やる気になってきました!

皆さんもジェーンさん達のように素敵な花嫁さんになって下さいね
ふふ、私が花嫁さんになった時は青いものよろしくお願いします
まだまだ先のことになりそうですけど、ね


Elly Schwarz(Curt)
  【心情】
染め物って初めてなんです。ちゃんと上手く出来るでしょうか。
素敵な話もありますし、村の女の子達の為に精一杯作りましょう!

【行動】
なんとか綺麗に染められましたかね。って
クルトさん、失敗ですか?ふふ。ああ、すみません、失礼でしたね。
もう、いつも意地悪されてるんですから、このくらい許して下さいよ。
あ、でも僕は好きですよ。

失敗したものはどうしたら良いのでしょう?
作り直しなら、処分するのは勿体ないと思うので
貰えると嬉しいですね。

女の子達喜んで頂けますかね?
結婚なんて僕はまだ考えられませんが、憧れはありますよ。
オーガを討伐したその先……にでもなるのでしょうかね。

【染め物】
布の花:20jr「一枚染め」


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  花嫁さんと青い染物の話を聞きました。
すごく素敵ですね。
私もお話に出てくるウィンクルムのように誰かを幸せにできるでしょうか?
今はまだ小さくて弱いけどいつかは誰かを助けることができるでしょうか?
私もそんな素敵なウィンクルムになれたらいいな…。

二人ともお花を染めることにしました。
ふふ、お揃いですよ。
私がノグリエさんのをノグリエさんが私のを染めてくれます。
綺麗に染められたらいいな。
ノグリエさんと一緒に着けることができるくらい綺麗なのができるといいな。
ノグリエさんに似合う素敵なお花になればいいな。

ノグリエさんは私を沢山助けてくれるからいつもの感謝も込めて。感謝が伝わるようなものにしたい。




●白から青へ
 ライン村にウィンクルム達が到着すると、あれよあれよという間にその周りを小さな女の子達が取り囲む。
待ちきれなくて出迎えにきたようだ。
 女の子達はウィンクルム達の周りを駆け回り、その手を取ってはしゃぐ。
中でもテレーズと並んで歩く山吹は人気者だ。
 そうこうしながらも一向は大きな白いテントへ到着した。
 テントの下では若い娘達とその母親であろう女達がお出迎え。
「さぁさ、いらっしゃい。わざわざありがとうね」
 それぞれの希望に合わせて純白の花やハンカチを渡し、ジェールと引き換えてからウィンクルム達を別々のテーブルへと案内する。
テーブルは青い色水を湛えた大きな桶をぐるりと囲んで配置されていた。
テーブルの上には筆に染料、手袋とエプロンが用意されてある。
 全員が席に着いたのを確認してから桶の隣へ恰幅のいい女が進み出る。
パンパンと手を叩き、ウィンクルム達の注目させてからにっこり笑う。
「あんまり難しく考えなくて大丈夫よ。皆さんのすぐ近くには娘達もいるし、私達もいますからね。
ちゃんと教えますから、ゆっくり焦らずにやっていきましょ。それじゃあ、説明しますね」


 ハロルドの頭上には沢山の疑問符。
真っ白のハンカチを前にしながらも、未だ手を付けていない。
ざっくりとした口頭での説明だった為、戸惑っているようだ。
 隣に座るディエゴ・ルナ・クィンテロの手元を見ると、筆先は迷いなくさらさらハンカチの上を泳ぐ。
それを見ていた母親の一人が「精霊さん、初めてなのに上手だねぇ!」と感嘆の声を上げた。
なるほど、ああいう風に動かせばいいのかとハロルドは納得するも今度は別の問題。
「模様、どうしよう?」
 そんな小さな呟きが聞こえたらしい。
ディエゴがハロルドを見る。
ハロルドはいつもと変わらぬ感情の読めない表情で、ディエゴの手元をまだ見つめていた。
再びディエゴを参考にしようと思ったものの、彼も始めたばかりなので完成形には程遠い。
どんな模様なのか知るにはもう少し待つ必要がある。
 迷っているのだと察し、ディエゴは一旦筆を置く。
指先が染料を掠めない様に注意しながら、その柄を指でなぞる。
「俺はハーリキン・チェックだ」
 今はまだ塗りつぶされていない為分かりにくいが、柄を知った上で見ると確かに菱形を描いているのだと分かる。
「お前はギンガム・チェックでどうだ?」
 ディエゴは腕を伸ばし、ハロルドのハンカチに指先で縦線と横線を交互に描いていく。
ハンカチの上を走る指をしっかり目で追っていくうちに見えてきた完成図。
「同じチェックだし、ギンガム・チェックなら分かりやすいだろう」
「……うん、大丈夫そう。ありがとう」
 筆を取り、染料に浸す。
ディエゴの指が描いた模様を思い起こせば、迷いなどなく。
―折角教えてもらったんだから、張り切って素敵なハンカチ作っちゃおう!
胸のうちで決意を一つ。
 ハロルドは純白の上に青を乗せ始めた。


 白い花を前にしてシャルル・アンデルセンはふわり、優しい笑顔を浮かべる。
「花嫁さんと青い染物の話、とても素敵ですね」
「そうですね」
 正直なところ、ノグリエ・オルトにとってミス・ブルーの話はどうでもよかった。
シャルルが気に入った、その一点のみが大事なのである。
「私もノグリエさんと一緒に、話に出てくるウィンクルムのように誰かを幸せ出来るようになりたいです」
 シャルルのその言葉だけでも参加した価値があったというものだ。
 では染めにいきましょうと、シャルルを促して立ち上がる。
 選んだのは二人とも花。
先の説明では、小さなものであればやり方さえ間違えない限りムラは出ないらしい。
「ふふ、お揃いですよ」
 シャルルは愛しげに花を撫でる。
本物の花と違い、そうそう崩れることはないが、その手つきはとても優しい。
 桶の前まで来て、ふいにシャルルはしゃがもうとしていたノグリエを呼び止めた。
「どうかしましたか?」
「私がノグリエさんの花を染めますから、ノグリエさんは私の花を染めて下さいませんか?」
 染めた花は女の子達に贈ることになる。
二人の手元には残らない。
 それでもノグリエはその提案を気に入った。
ええ、構いませんよと受け入れる。
常と変わらぬ笑みからでは分からないが、シャルルが自然に決めてくれたのが嬉しかったのだ。
 パートナーが花を差し出したとき、自然と絵になるような花にしなくては。
シャルルとノグリエは別々に、けれど同じようにそう決意した。


 シャルルとノグリエの桶をはさんで向かい側、同じようにテレーズと山吹も手に花を持っている。
一番簡単だからといって油断せずにやろうと、テレーズは意気込んでいる。
「ウィンクルムの祝福ですもの。どうせなら喜んで貰える素敵なものを渡してあげたいです」
 テレーズの言葉が気に入った母親は、彼女の望むように細かな説明をしてやる。
テレーズはふんふんと熱心に聞いている。
「ありがとうございます、やってみます!」
「気負わず楽しむといいよ。……ちょっと、アンタ、ちゃんと手元見なさい!それは違うのでしょ!」
 母親が隣でリボンを浸けていた自分の娘を叱り付けに離れた。
母親は大変だと、山吹は苦笑いを零す。
「山吹さんもお花なんですよね。一緒にやればきっとうまくいきますよね」
「そうですね、きっと大丈夫ですよ」
「とっても心強い……あっ」
「テレーズさんは白い服ですから、エプロンをつけていても特に気をつけてくださ……」
 ぱしゃん。
同時に二人が言葉を紡ぐも、どちらも水が跳ねる音で途切れた。
 水が跳ねたであろう場所を見てみると、ワンピースの裾に咲いた見間違いようのない青。
エプロンでカバーできなかった場所だ。
「……言うのが遅かったですね、すみません」
「ええと、失敗は成功の元だとどこかで!」
 謝る山吹にテレーズは慌てて言葉を返す。
彼が悪い訳ではないし、それにテレーズは落ち込んではいなかった。
なぜなら―
「こんな綺麗な色に染まるんですね……これは俄然やる気になってきました!」
 テレーズはむんっと気合を入れた。
 山吹がくすり笑うと同時に聞こえてきたのは豪快な笑い声。
振り返れば先ほどの母親が笑っていた。
「神人さんはいい子だねぇ」
「はい、テレーズさんが前向きな方でよかったです」
「小さな幸せを見つけるのは大事な才能だよ」
 でもうちの村の青は落ち着かせるともっといい青になるよ。
そう付け加えて母親はテレーズの隣にしゃがみこんだ。
「ちゃんと染めた訳じゃないから落とさないとね。変に染みが広がってしまうのさ。
でも安心していいよ、これくらいならすぐ落ちる。」
 濡れた手巾と乾いた手巾を使って、母親はワンピースについた青を手早く落としてやる。
青が消えていくのに僅かな寂しさを覚えたが、テレーズは先の母親の言葉で俄然やる気を出したようだ。
「では気を取り直して始めましょうか。大丈夫、きっと綺麗に染められますよ」
 失敗は成功の元なんでしょう?
山吹が微笑みかけたのを合図に二人は作業を再開した。


 ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツはハンカチの模様をどうするか相談をしていた。
いくつかの候補の中から、いつか花嫁になる小さな女の子へ贈ることを考慮して決める。
 様子を窺っていた母親の一人が、相談が終わったのを察して近寄ってくる。
「何にするか決まった?」
「四つ葉のクローバーにしようと思うの」
「俺はハートで」
 女の子には丁度いい柄ねと、母親は穏やかに微笑む。
二人の思い遣りが村の人間にはとても嬉しいのだ。
「何か気をつけたほうがいいことってあるの?」
「そうねぇ。あまり大きく描きすぎないことかしら。
バランスが取りづらいし、同じ濃さで仕上げたい所でもそれが難しくなったりするのよ。
あとはね、一度筆を乗せたら迷っちゃ駄目よ。迷えばそれが模様に出てしまうから」
 成る程、相槌を打ってエミリオは筆を取る。
今まで剣しか握ったことがないこの手が、染物をする日が来る―
こんなこと、昔の自分には想像もつかなかっただろう。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
 その答えに納得はしていないが、エミリオがそう言うのであればと深くは聞かない。
ミサも筆を取り、その先に染料を付ける。
「このハンカチを受け取った子とその子にいつかできる大切な人が、ずっと幸せでありますように」
 そう小さく呟いて筆先をハンカチへ。
ミサに合わせるように、エミリオも小さく呟いた。
「このハンカチを受け取った子とその子の大切な人の心が、ずっと繋がっていますように」
 二人が乗せるのは青だけでなく、受け取る小さな女の子達への祝福。
呟く声は小さくとも、その願いは決して小さなものではない。
 母親に貰ったアドバイス通り、迷わずに筆を走らせる。
大きすぎない、程よいサイズのワンポイントをイメージして。



 染物初体験のウィンクルム達の中、Elly SchwarzとCurtも例外ではなかった。
「素敵な話もありますし、村の女の子達の為に精一杯作りましょう!」
 表情にこそ出てはいないが、エリーのその気持ちは他のウィンクルムたちに劣らぬほど暖かだ。
クルトは土産に出来ないことを少し残念がって入るが、そこは割り切っている。
 エリーは花を、クルトはハンカチに模様。
別々のものを選んだ為、二人の工程は重ならない。
 エリーはなんとか綺麗に染めることが出来、陰干しまで終わらせたのでテーブルへ戻った。
するとハンカチの前で四苦八苦しているクルトの姿が。
「っ、滲んだ!?」
 紫陽花を描いたけれど、もはや花弁の形を判別することは出来ない。
クルトの声を聞きつけた母親がその手元を覗き込む。
「あらあら、小さくしすぎたのね。あと一回りくらいは大きく描かないと駄目よ」
 どうも小さく描きすぎたようだ。
ぐっと歯噛みするクルトの耳に飛び込んだのは、どこか楽しげなエリーの声。
「クルトさん、失敗ですか?ふふ」
 つい笑ってしまったが、すぐにすみません、失礼でしたねと謝る。
「う、煩い、あまり調子に乗るな」
「もう、いつも意地悪されてるんですから、このくらい許して下さいよ」
「チッ……エリーの前で失敗するとかあり得ねぇ!……リベンジしてやる!」
 男のプライドが失敗を許さないのか、クルトは再びハンカチを求めて席を立つ。
その背を見送り、再びエリーがくすり笑みを零したのも束の間、急いだ様子でクルトが戻ってきた。
 椅子に座ってすぐに筆を取り、新しいハンカチの上へ走らせる。
先ほどよりも一回り大きく、はっきりと。



 流れるようにすっとハンカチから筆を離し、エミリオは仕上がりを確認した。
コツを掴むのに時間はかかったが、なかなかいい出来だと思う。
 ふぅと息を吐いてミサを見れば、ミサも丁度描き終えたらしい、
「出来たっ!」
 勢いよく上げたその顔はとても満足気。
改心の出来だったらしい。
 が、ハンカチではないところにも青を乗せてしまったようだ。
エミリオが噴出した。
「ぷっ、ミサ、顔に染料がついてるよ」
「え、ええっ!?」
 どこ、どこにと慌てるミサの様子は可愛らしい。
「夢中になりすぎ。でもそこがお前のいいところだよね」
 ほら、拭いてあげると、エミリオはタオルでミサの頬を包み込む。
優しく拭えばすぐに染料は落ちたけれど、その頬は青とは違う色で染まってしまって。
「……ちょっと、赤くならないでくれる?こっちまで恥ずかしくなるでしょ、バカ」
 抗議するエミリオの顔も、気恥ずかしさから赤く染まる。
 余裕がない二人は気付いてなかった。
近くにいる母親達が、若いっていいわねぇとニヤニヤ眺めていることに。


「よし、今度はマシに出来たぞ」
 クルトが広げたハンカチは、やはり僅かに滲んでいた。
けれど今度の滲み方は味わいだと思えるものになっていた。
 どうだと言わんばかりにこちらを見てくるクルトに、よかったですねとエリーは返す。
側で見守っていた母親も、いい出来じゃないかと褒めた。
「失敗したものはどうしたら良いのでしょう?」
「そうだね、滲んだ所にぽんぽんって筆を置いて大きい花びらみたいにしてやるといいよ。
そしたらうまく誤魔化せるだろう」
「……こんな感じか?」
「そうそう。ほら、濃淡がついたように見えて綺麗だろう?」
 成る程と熟練の発想に二人は感心する。
これなら女の子に送っても問題なさそうだ。
 あ、そうだと、何か思い出したようにエリーはクルトを見た。
「さっきのも、僕は好きですよ」
「ふ、ふん。別に気を使わなくてもいい」
 飾らない『好き』の言葉に、クルトは不覚にも反応してしまう。
無自覚の一撃はいつだって最強なのだ。


 浸け終わり、模様を描き終えた布や花は陰干しへ。
乾くまでの時間はちょっとしたティータイム。
 各家からお茶やちょっとしたお菓子を持ち寄り、お喋りに興じる。
勿論、話題は近く結婚する娘達の話で、ウィンクルム達、特に神人達は興味津々。
お喋りが盛り上がれば、時間が過ぎるのもあっという間。
 はてさて、青の出来上がりは如何でしょうか。



●祝福の青
「ギンガム・チェックは服にもよく使われてる可愛い感じのチェック。
ハーリキン・チェックは……ダイヤ柄とも呼べるかな?」
 出来上がった互いのハンカチを見比べているうちにハロルドは既視感を抱いた。
すると、パッと脳裏に浮かぶ映像。
白昼夢、その一言で片付けるにはあまりにも鮮明で。
 確かにハンカチを見ているけれど、まるで違うところを見ているようなハロルドの様子にディエゴが気付いた。
明らかに平常ではない。
刺激しすぎないようにディエゴは小さく声をかける。
「ハリー、どうした?」
 ハロルドはゆっくり顔をあげ、深呼吸をする。
気付かぬうちに呼吸を止めてしまっていたのかもしれない。
「昔のこと……なのかな。そういうのが、見えたの」
「ゆっくりでいい、話してみろ」
 ぽつぽつと、先ほどのビジョンをハロルドは説明しだした。
自分と同じ色の髪と目。
胴体はディエゴが作ったハンカチと同じ模様のついた白い服に白いズボンという妙な格好。
「………私の昔の姿かもって思ったけど、そんなはずない」
 腰まである髪も違ったけど、でも、なによりも。
「目つきが……人を見下している冷たい目だった」
 私はあんな目をしていない。
ハロルドの声の調子は常と変わらない。
けれど間違いなく、その声音には過去への恐れが滲んでいた。


 女の子達に喜んでもらえるか、エリーは不安だった。
けれどすぐさまその不安は否定される。
 期待に満ちた女の子達の眼差しは、ハンカチを受け取ってからも色褪せることなく。
それどころか少しおしゃまなその子はすぐに花を髪へと差し込む。
「おねえちゃん、どう?花嫁さんみたいでしょ?」
 くるり、スカートを翻してエリーの前で回って見せたその子の笑顔は花のよう。
ああ、よかった、喜んでもらえたとエリーは安堵する。
結婚なんてまだ考えられないけれど、エリーにも憧れはある。
「オーガを討伐したその先……にでもなるのでしょうかね」
 ふいにクルトの方はどうなったのかと振り向けば、嬉しそうにはしゃぐ女の子が二人。
どうやら姉妹らしい。
妹は再来年受け取る予定だったのだが、お姉ちゃんと一緒がいいと愚図っていたのだとクルトが説明した。
それで作り直した一枚は姉に、最初の一枚は妹に贈ったのだという。
 小さな女の子に泣かれ、クルトは心底参ったようだ。
けれど、これで私も花嫁さんになれるとはしゃぐ女の子達を見てクルトは思った。
エリーに会うまで、結婚なんて頭になかったが……悪くないかもな、と。


 先の提案どおり、シャルルとノグリエは完成した花を交換した。
シャルルが染めた花はノグリエが女の子に贈り、ノグリエが染めた花はシャルルが贈る。
 受け取った女の子達はキラキラ輝く笑顔を浮かべ、ありがとうとお礼を言って踊るように駆け出す。
母親に見せに行ったのだろう。
 それを見送りながら、シャルルは口にする。
「ノグリエさんは私を沢山助けてくれるから、今度はノグリエさんに何かを贈りたいです」
 いつか、感謝をこめて。
そう言ってシャルルははにかむように笑う。
「ありがとうございます。楽しみにしていますよ」
 答えながらも、ノグリエは思う。
確かに君を愛しているのだと。
それが伝わればいい。
……今じゃなくとも、いつか。


 女の子達が広げたハンカチには、四つ葉のクローバー、ハートが描かれていた。
しかもミサが贈ったクローバー模様のハンカチは、薄い青で染まっている。
可愛らしいその模様に二人は歓声を上げる。
「嬉しい!ありがとう、ウィンクルムさん!」
「大事にするね!」
 嬉しそうに騒ぐ二人を前に、ミサはエミリオに囁きかけた。
「私この小さな幸せを守っていきたい」
「そうだな。守ろう、必ず」
 それは大きな決意にして願い。
ギルティが復活し、世界には不安が広がっている。
それでも幸せや希望は消えない。
今日のような暖かな一日が存在している限りは、決して。


 この花を受け取った方が幸せな人生を歩めますように。
山吹のささやかながらも優しい願いをこめられた青い花は、とても喜ばれた。
「皆さんもジェーンさん達のように素敵な花嫁さんになって下さいね」
「うん!」
「ありがとう、神人さん!」
 ニコニコ笑う二人に、テレーズはこそり、内緒話を促すジェスチャー。
なぁに?と女の子達はすぐに応じる。
「私が花嫁さんになった時は青いものよろしくお願いします。まだまだ先のことになりそうですけど、ね」
 テレーズからのお願いに、二人はキャーと嬉しそうに声を上げる。
勿論、答えはイエスだ。
「何を話しているんでしょうか……?」
 一人、置いてけぼりの山吹だったが、すぐに思い直す。
テレーズが楽しそうなら何よりだと。


 ウィンクルム達から青を受け取った女の子達は、桶の周りに集まってくるくる踊りだした。
お礼の踊りらしい。
不揃いながらも一生懸命で、そして嬉しそうな様子がウィンクルム達の胸を温かくする。
 ハロルドはそんな女の子達を見ながら、彼女達の邪魔にならないように呟いた。
「私が記憶を取り戻して変わってしまったとしても、こうやって隣で何かを一緒にしたり、お揃いのものを使うくらい仲良く出来たらいいなって思ってる。
ディエゴさんは……?」
「前に言っただろう」
 あれは今日とはあまりにも違う、いや違いすぎる日ではあったけれど。
ディエゴはあの時の言葉を覆す気はなかった。
今更ハロルドを見捨てる気はない、つまり関係を悪化させる気などさらさらないということだ。
 ディエゴはテントの外を見遣る。
そこには、テントの下と変わらぬ青の世界が広がっていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 九廸じゃく  )


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月12日
出発日 06月18日 00:00
予定納品日 06月28日

参加者

会議室

  • [6]テレーズ

    2014/06/15-23:20 

    初めましてとお久しぶりです。
    テレーズと申します。パートナーは山吹さんです。
    今回はよろしくお願いしますね。

    お花でもハンカチでもどう仕上がるのかわくわくしますね。
    頑張って染めてみようと思います!

  • はじめましてシャルル・アンデルセンです。
    よろしくお願いします(ぺこり)
    染物とっても楽しみです。

  • [4]ハロルド

    2014/06/15-15:04 

    はじめましての方ははじめまして
    そうでない方は今回もよろしくお願いします、ハロルドと申します。
    まだいろいろ考え中です。

  • [3]ミサ・フルール

    2014/06/15-12:56 

    ミサ・フルールです(お辞儀)
    パートナーはディアボロのエミリオさんです。
    お久しぶりの方も初めましての方もどうぞよろしくお願いします!
    ふふ、染め物楽しみだな~♪

  • (訂正箇所があったので挨拶し直します。)

    こんばんわ。
    初めましてな方も、お久しぶりの方も改めまして
    僕はElly Schwarz、エリーと言います。精霊はCurt、クルトさんです。

    染め物って初めてなのでワクワクしています!
    僕は布の花に挑戦する予定です。クルトさんは確かハンカチと言っていたような……。
    とにかく皆さん楽しみましょう、よろしくお願いします!


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