プロローグ
●薔薇泥棒が出たんですよ!
「助けてくださいぃぃぃー!!」
その日、本部にはそう言って数人の男女が転がり込んできた。
宥めすかし、時に愚痴を長々と聞きながら、話を聞いたところによると……。
「薔薇が盗まれる?」
「そうなんです、薔薇が咲き始めたなーって思ったら、あちらこちらで盗まれまして」
いや、まぁそれぐらいなら警察とかに対処してもらえばいいんじゃ? という表情になった職員に、首をぶんぶん振った。
「相手はデミ・オーガ化したゴブリンなんですよぉぉぉ!!」
「先にそれを言ってくださいよぉぉぉぉぉ!!!!!!」
長々と薔薇の育て方から薔薇の薀蓄まで三時間ほど聞かされた職員は、慌ててウィンクルム達に連絡するのだった……。
●薔薇泥棒を捕まえろ!
それは、げっそりした職員から持たらされた依頼だった。
「薔薇がゴブリン達によって盗まれる事件が発生しました。
魔法使いをリーダーとした、20体程のゴブリンの集団です。魔法使いがどうもデミ・オーガ化しているらしいとの情報がありました」
ただ、きちんとその姿をみた者が居ないという。
足跡からだったり、去りゆく集団の姿を遠目にみたり程度の情報だ。
「もうその街の家々で育てていた薔薇は全滅しているそうです。残されたのは……その街が誇る、薔薇園の薔薇のみとなっています。
そのため、次にゴブリン達が現れるのは薔薇園だと思って間違いはありません」
間違いはないのだが、と職員が瞳を伏せた。
「ただ、街の皆様はかなり……えぇ、かなり、とてつもなく!! 薔薇を愛しておりまして」
なんでそんなに力を込めるんだ、という疑問は、なんとなくげっそりした職員からもたらされるその雰囲気から答えを察した。
空気を読む、大切である。
「出来れば薔薇園の薔薇だけは死守していただきたく思います。
まぁ、多少ならば被害がでてもいいでしょうが……それ以上になると、例えゴブリン達を倒したとしても街の皆様からはあまりいい表情はされないでしょうね。
戦闘場所としてよさそうなのが、薔薇園の駐車場になっています。そこならばゴブリン達と戦っても周りに被害はないでしょう。
薔薇園へ行くには、その駐車場を通ってゲートでお金を支払い、中へ……という道順になっています。
駐車場にも薔薇はそれなりにあることから、ゴブリン達は駐車場から侵入して行く確率がかなり高いです。
薔薇園を囲む大きな壁を壊すか、よじ登るかよりはよほど楽ですからね」
そうそう、とげっそりした表情から突然明るくなった職員がにこーっと微笑んだ。
「もしも、被害が最小限で収まり、時間がある場合は7000株ある薔薇を堪能して行っていいそうですよー!
勿論タダです! ご褒美って奴です! 種類は200種類ぐらいだったかな?
ただ、館長とかに捕まると、永遠三時間ぐらいは薔薇の育て方から種類、薔薇の薀蓄まで聞く羽目になりますけど!」
なにそれ怖い。
なんだかハイになってしまっている職員を見ながら、薔薇園へと向かうのだった……。
解説
●被害について
今回、駐車場の薔薇ぐらいの被害ならば成功、園内に侵入された場合は失敗になります。
1体でも入ってしまえばあとは……ぺんぺん草も残りません。
●ゴブリン
魔法使いを中心とした、20体のゴブリン達。
デミ・オーガ化しているというのは、見間違いだったようです。
「女王様ニ、薔薇ヲ、渡スー」
という使命の元に、薔薇に執着しています。
薔薇があれば真っ先にそちらを狙うようです。
ゴブリン達の生死は不問です。
ただ、ここはすげぇ怖くて痛いー! というのが理解できれば二度と来ないでしょう。
会話は少々なら可能ですが、ちゃんとした意味で伝わるかなどは分かりません。
●薔薇園
駐車場から入れるゲートは二つ。
混雑防止のためにあり、その距離は大体2m。
鎖がかけられており、人が入れないようにはなっていますが、ゴブリン達ならばその間をすり抜けて侵入が可能です。
駐車場は戦闘に支障はない広さになっております。
●薔薇園での過ごし方
薔薇の種類をここに書くと文字数が足らなくなるため、調べればわかる範囲のはほぼあります。
7000株の薔薇庭園は見ごたえがあり、一日のんびりと過ごすのもいいでしょう。
薔薇が見える喫茶店や、薔薇庭園にも休む場所が点在しています。
皆様は無料で入ることが可能ですが、運悪く? 住民に声を掛けたりして薔薇のことを聞くと、ほぼ三時間の雑談という名の講義を受けることが可能です。
ゲームマスターより
こんにちわ、如月修羅です。
家にある薔薇もいつの間にか満開なっていました!
というわけで、薔薇泥棒を捕まえてください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
持ち物 ロープ、薔薇のブーケ(造花) 何で薔薇にこだわるんだろうね、誰かへのプレゼントかな 追い払う前に何か聞けると良いのだけれど 事前にゲートへ有刺鉄線を巻くのを手伝う 準備を終えたらトランス ブーケを囮にし中へ仕込んだ剣でゴブリンを斬り付ける 孤立せず周囲と声掛けして状況を共有 ゲートへ向かう者から優先的に攻撃する 精霊と連携し魔法使いを捕獲しに行く 捕まえたらロープでぐるぐる巻きに ……もう二度と盗んじゃ駄目だよ、女王様にも伝えて 折角だから薔薇園の中、少し歩いてみようか 此処には色んな種類の薔薇があるんでしょう? ラセルタさんの瞳みたいな青い薔薇もあるかもしれないね ふふっ、このまま喫茶店に行ってお茶にしよう! |
スウィン(イルド)
綺麗な花を取りたくなっちゃうのは分からないでもないけど 人が育ててんのを根こそぎってのは許せるもんじゃないわ ■準備 ・二人とも胸に薔薇 買ってくるか、薔薇園から分けてもらう 少しでもゴブリンを引き付けられれば ・有刺鉄線 亀甲網と組み合わせ障害物としてゲートに設置 少しでも足止めになれば バラ線とも言うんですって。ぴったり? ■作戦 2班に分かれそれぞれゲートを守る 駐車場で戦闘 命までは奪わず、懲らしめて撤退させる ゲートは死守。駐車場の薔薇も可能な限り守る 前衛 イルドの攻撃範囲に敵を誘導 攻撃優先度は「ゲートに近い敵」>「イルドの攻撃からもれた敵」 ■後 住民に捕まらないよう注意しながら 様々な薔薇を見て見てまわり楽しむ |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
◆防衛準備 ザッと現地を確認 ホームセンターに走る 幅約90cmの亀甲網を各ゲートに渡すに足りる二倍強の長さ購入 それをワイヤーでしっかりと上下二段に渡す 簡易的だがゲート封鎖だ 有刺鉄線は更にその上 止めるなら「線」よりも「面」 だが線には棘がある 併せ技だよ ◆防衛実行 2組ずつ分担 俺はセイリューと ランスにトランス 「頑張ろうな」照(←少し慣れた 俺も抜剣し魔物を切る 魔法が最大数を巻き込めるよう、剣腹でぶん殴って後退もさせる 一匹も通さん 取付く魔物の重みで網が倒れかかったら後ろから思い切り剣で貫く! ◆事後 「住民は俺達が引受ける。皆は先に行ってくれ」 館長に顛末と結果を報告し… 3時間コースを体験しようじゃないか(興味津々 |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
セイジさんと組んでゲートを護るぜ。 ゲート上部に簡単な電気柵を設置。 ゴプリンがゲートを乗り越えようとしたらビリッとなり驚いて止まるようにする。 ゴプリン達が何故薔薇を欲しがるのか気になるぜ。 奴らも恋の季節とか? ゴプリンの姿を見たらトランスする。 ゴプリン達と剣で戦い、ランスさんの魔法詠唱時間を稼ぐぜ。 奴らが「もう帰る!」な気になるように痛い目に遭ってもらおう。 殺さないように注意はする。手加減できる程強くないのでガチで勝負だ「覚悟しやがれ」。 ゴプリン達退けたら薔薇園見学するぜ。 ラキアの薔薇解説を聞きつつ。 名の由来とか蘊蓄いっぱい。良くそんなに覚えてる&見分けがつくなと感心。そんなに夢中かと微笑ましい。 |
●薔薇園へ
向かう道すがらみた家々では、とりどりの花が咲いていた。
けれど、確かに一輪も薔薇の姿がない。
その中でひときわ目立ったのは緑色の茨の垣根達……。
薔薇を愛しているというのは誇張ではなかったのだろう、家々の垣根はどうやら薔薇でできていたようで、これが満開であればさぞかし美しい光景だったに違いない。
勿論、綺麗に摘む。ということなぞ無視された状態でとられたそれらは、せっかく手入れしていただろうに歪な印象を与えていて。
(綺麗な花を取りたくなっちゃうのは分からないでもないけど)
「人が育ててんのを根こそぎってのは許せるもんじゃないわ」
スウィンの言葉に、イルドが頷きつつ、胸元の薔薇を直してやる。
「……曲がってる」
買ってこようか、と思っていたが話を聞いた館長により、無事スウィンとイルドは美しい薔薇をその胸に刺していた。
スウィンは黒の薔薇、イルドは紫色の薔薇。それぞれの髪の色だ。
これだけ美しい薔薇がある中、この薔薇に興味を示してくれるかは謎である。
しかし、やらないよりやってみたほうが断然いいだろう。
「黒い薔薇ってあるんだ?」
セイリュー・グラシアがまじまじと黒い薔薇を見つめて言えば、ラキア・ジェイドバインが緑の瞳を細めて頷く。
「実際は、赤が濃すぎて黒に見えるってことみたいだよ」
「へぇ?」
そんな2人を見詰めた後、自分の持つ造花のブーケにと視線を落とし、羽瀬川 千代が首を傾げる。
「何で薔薇にこだわるんだろうね、誰かへのプレゼントかな」
「奴らも恋の季節とか?」
オレもなんで薔薇を欲しがるか気になる、とセイリューが同意すれば、女王に求婚? なんて声があがるのも自然だろう。
「女王だの結婚だの、推測は最早不要だ」
きっぱりと言い切るのはラセルタ=ブラドッツだ。
気になるのならば、聞けばいい。簡潔に言い切る。
「確かに、それに一理あるわよねぇ」
スウィンが頷き、千代もそうだね、と微笑んだ。
「追い払う前に何か聞けると良いのだけれど」
「そうだな」
そんな会話をしながらも、ちゃくちゃくと電気柵をつけていたセイリューがほっと息をついた所で、少々席を外していたアキ・セイジとヴェルトール・ランスが荷物片手に戻ってきた。
「まだ、来てないかな?」
「大丈夫だよ」
一度来た後、すぐにホームセンターに走ったアキとヴェルトールの荷物を見て、スウィンが首を傾げた。
「何を買ってきたの?」
取りだされたのは、幅約90cmの亀甲網だった。
「止めるなら「線」よりも「面」。だが線には棘がある」
併せ技だよと言うアキの言葉に頷きながら、ヴェルトールはその網を設置し始める。
ちなみに、アキに『力持ちのランスが手伝ってくれたらきっと捗ると思うんだ』なんて言われていたヴェルトールの動きはとても素早い。
(セイジが頼ってくれたしな……)
それはもう捗るというものだろう。
用意していた有刺鉄線も使ってちゃくちゃくと守りが出来あがっていく。
二手に別れての作業は、スムーズに終わった。
人だけで守ると乱戦になったら隙が出来る、だからちゃんと蓋をしておきたい……。
そんな思いと共に作られたそれは、即席だとは思えない程頑丈そうだ。
「これ、採用してもよさそうだね」
千代がそう言って見詰めれば、ラセルタがふむと頷いた。
「提案してみればどうだ?」
「とりあえず、今回使ってみてからでもいいんじゃないか」
イルドがそう言って強度を確かめるかのようにそっと触れた。
少し揺らす程度ならばびくともしないが、少しでも強くしたら倒れてしまいそうだ。
即席の上、今回は足止め目的の物だ、少しの間時間を稼ぐのならば十分に仕事をしてくれるだろう。
そんな中なんだか騒がしい集団がやってきた。
「モウ少シ、頑張レー!」
「オー!」
という、言葉だけ聞けばなんとも愛らしいゴブリン達の声が聞こえてきた。
「薔薇を守らなくちゃね……」
ラキアがぽそりとそう言い、じっと駐車場にある薔薇たちを見る。
それはとても美しく咲き誇っていて、無残にも荒らされるのは我慢できない事態だろう。
そう、ゴブリン達のやることは言葉とは裏腹にペンペン草も残らないぐらいの薔薇の略奪行為である。
まだ見えぬゴブリンが来る前に、と少々照れながらもトランスを促すのはアキだ。
「コンタクト!」
そっと触れた唇が2人にさらなる力を与えて。
「頑張ろうな?」
少しはにかんでヴェルトールに言えば、ここの所ちゃんと『相棒』をしてくれるアキにとにっと笑い頷く。
その考え方もちょっとずつ変えていってやる……と思うヴェルトールからすれば、また一歩前進してくれただろうか。
「あぁ、頑張ろうなセイジ」
そんな中、さて、では別れようと千代班とセイリュー班に別れた所で、セイリューとラキアもトランスを行う。
「滅せよ」
「街の薔薇達を無造作に荒らした報いとして、痛い目に遭ってもらおうね?」
薔薇に限らず花は丁寧に扱わなきゃ駄目だからね……というラキアにそうだな、と頷くセイリュー。
皆、言葉は違えど思いは同じ、薔薇をこれ以上荒らさせないという気持ちだ。
別れたのを確認後、不敵に微笑むのはラセルタだ。
「美しいものを奪った罪は重い。手酷くお仕置きしてやる」
ラセルタのその言葉が終わるか否か の時に、一体、ゴブリンがすてーんとすっころびながら駐車場に転がり込んできたのだった。
街中の薔薇を全て採ってしまったゴブリン達は、結構な距離を歩いてやってきたのだろう。
「薔薇、薔薇!」
と元気な個体もいれば、最初の一体のようにころんと転がっている者もいた。
「数は情報通りだね」
ざっと見詰めた先に居る集団に、そう千代が言えば暫し離れた先のセイリュー班も数を確認したのだろう。
すでに動き始めたようで、詠唱をしようとする姿が見える。
「トットト、動ケー」
びしぃっと魔法使いがゴブリンの頭をぶん殴れば、わたわたと動き始めたその瞬間、ゲート前に居るウィンクルム達に気が付いた。
「ナンカイルー!」
何か呼ばわりされたウィンクルム達の背後には、頑丈に補強されたゲート。
交互に見た後、それが自分達の 邪魔をする敵だと認識したようで……。
「カカレー!」
魔法使いがぶんっとふった杖から、魔法の小石の雨が降り注いだ。
●千代班の場合
とても号令はかっこよく、そしてオー! と声を上げたゴブリン達は威勢は良い。
ゴブリンは総じてあまり知能は高くないという。
高くはないが、幾らなんでもそんな簡単に此方の誘導に引っかかるとも思えない。
「薔薇!」
胸元にある薔薇に、瞳を輝かせるゴブリン。
少なくともここにいるゴブリン達は、明らかに単純だった。
もう少し砕けた言い方をすると……愛すべきアホ、とでも言っていいかもしれない。
「ありなんだね……」
千代の言葉と共に、2体のゴブリンは取ろうと駆け寄ってくる。
それに、黒い薔薇と紫の薔薇というのが珍しかったのかもしれない。
「あらー……」
(デミ化したやつはいないのか……どっちにしろ叩きのめすのは変わらねぇ )
スウィンが引っかかったゴブリンに苦笑する傍ら、イルドがぐいっと肩を掴む。
「デミじゃなくても油断すんなよ」
「えぇ、そうね」
前衛に躍り出た2人 、視線を交し合えばやってきたゴブリンにイルドの太刀が煌めき吸い込まれる。
「蹴散らしてやるぜ!」
範囲攻撃だと薔薇を散らしてしまうと判断したイルドの攻撃により、その攻撃はあまり大きなものでなかった。
その代わり、ひらりと薔薇を囮にしつつもイルドの助けになるよう動くスウィンのお蔭で、すばしっこい彼らに的確に傷を与えていく。
この薔薇は諦めて、あの中のにする! とばかりにすり抜けて、ゲートに向かうが阻まれ、そのまま刺の痛みに泣きながら落っこちた。
「バラ線とも言うんですって。ぴったり?」
そんな言葉を背に、魔法使いに焦点を定めているのは千代とラセルタだ。
「さて、と……僕達はこっちだね」
「あぁ、仕置きをしてやろう」
すでに臨戦状態のラセルタに微笑を零し、千代は持っていた薔薇のブーケを見せてみた。
その薔薇に意識を持って行かれたゴブリン達に、手厳しいラセルタのお仕置き……もとい攻撃も当たる。
誘われやってくるのをブーケに隠し持っていた剣で切りつければ、ワーッと声があがった。
千代が道を切り開き、その後ろからラセルタが攻撃し、そうして魔法使いの元へ向かえば、あわあわとした魔法使いが逃げようとした所で……。
「と、こいつは任せな」
イルドとスウィンが壁にしようとしたゴブリンを捕まえる。
がしり、と魔法使いがラセルタの腕につかまった。
「こいつを死なせたく無ければ早々に去るがいい! これ以上、痛い目に遭いたくないだろう……?」
魔法使いの悲鳴を受けて、一気に此方側の戦意は喪失した。
セイリュー班の方は……? と視線を向ければ、そちらは一気にゴブリン達が薔薇と共に吹っ飛んでいるのが見えたのだった。
●セイリュー班の場合
無理に入ろうとした一体が、鉄線の痛みに悲鳴をあげ、それでも頑張って登ったがびりっとした刺激にこてーんとそのまま落っこちた。
殺さないように注意はする。
するけれど手加減出来るほど強くないからガチ勝負だ、と剣片手に召喚までの時間を稼ぐセイリューは、落っこちたその一体に止め……というか、戦意喪失させるためにごいーんと打ん殴る。
キューと悲鳴を上げながら倒れ込んだまま動かないゴブリンを確認しつつ視線をやれば、ラキアの元へと一体が近寄ってい て。
「こっちは一体! って、そっち気を付けて!」
「あぁ……!」
(おいたをする悪い子はちゃんと躾けてあげなきゃ)
突進してきたゴブリンが、ラキアの周りを浮遊していた光の輪による反撃を受けて転がって行った。
ふわふわと舞う光の輪に、恐れをなしたようにゴブリンが逃げ惑う。
セイリューが怪我をしないように……その願いが、さらに力を与えてくれる……そんな気がした。
そんな中、アキがゲートが倒れないように蹴散らしながら、鋭い声をあげた。
「避けろ!」
その言葉と共に、皆がぱっと動いた。
分からなかったのはゴブリン達だ。何がなんだかわからぬうちに……。
ヴェルトールの放つカナリヤの囀りのきゅーきゅーという音は可愛い。
可愛いのだが、効果は覿面だ。
きゃーとかわーとか言いながら薔薇と共に吹っ飛んでいくゴブリン達は、そろそろなんだか辛そうである。
ヴェルトールの一撃は範囲が広がり6体程のゴブリン達をほぼ戦闘不能間際まで追いつめていた。
「痛イー!」
まだなんとか頑張ろうとする者も居たが、薔薇を持ってこてーんと転がっている仲間を見れば、すぐに戦意を喪失したようだ。
「お前たち、まだやるか?」
アキのその言葉に、ゴブリン達は首を振った。
千代達の方は、と見れば終わっていたようで。
「……ブラドッツ、魔法使い持ってるよな」
「持ってるね……」
アキとヴェルトールが捕獲されたままの魔法使いを見つけ、苦笑を零す。
セイリューが手を振って終わったことを伝えれば、自然と皆が 集まってきた。
「人質とは考えたね」
ラキアが感心しきって言う中、セイリューが首を傾げる。
「人……いや、ゴブリン質?」
なんてことを言いながら、戦意を喪失したゴブリン達を見つめるのだった。
●お説教の時間
千代の持ってきたロープにて、動けそうな者はぐるぐる巻きにされている。
「もう二度と盗んじゃ駄目だよ?」
女王様にも伝えて、という千代に、頷きはするもののどこまでそれが分かっているかは謎である。
ラセルタが首謀者と居場所を聞いては見るが、なかなかうまく捗らない。
そもそも彼らはそんなに頭がよくないため、此方の情報が敵に漏れない代わりに、あちらの情報も有益な物を与えてはくれないようだ。
「そもそもなんでお前たちは薔薇なんかを……?」
セイリューの疑問に、話せるゴブリン達が顔を見合わせた後すごく簡素に答えを返した。
「ゴハンー!」
「女王サマニ、薔薇ヲ渡セバ、ゴハン、沢山!」
もっと具体的に答えたのはどこか不貞腐れているようにも見える魔法使いだ。
「明らかに労働>対価だよな?」
セイリューの言葉に、ほろりとなったのは神人と精霊だけのようで、ゴブリン達はその事実に気がついてもいないようだった。
「これって求愛だったほうがまだましだったんじゃないの?」
物凄く哀愁漂うセリフだが、ゴブリン達にはゴブリン達の世界があるのだろう。
道理を説いたところで、ゴブリン達が理解できるとも思えなかった。あまりにも単純思考過ぎる。
「野原に行って花で も摘んでろ。人の物をとるんじゃねぇ! ここじゃなくても、人の物狙ったらまた痛い目見るぞ」
イルドの言葉に、ダッテーと声が上がった。
どうあがいても相容れそうにないためしっかりお灸は据えようとラセルタが再度ゴブリン達に視線を合わせる。
「お前たち、これ以上ここで悪さをするというのなら……」
ぱしんと武器の音を鳴らしながら微笑まれれば、その場にいたまだなんとか動けるゴブリン達が震え上がった。
そもそもさっきの悪人面が記憶に新しい。
「モウ、来ナイー! トラナイー!」
「オ家帰ルー! 来ナイー!」
まだ動けるゴブリンが、意識を失ってしまったゴブリンを担ぎあげ……時に転がしながら、去って行った。
あれだけ痛い思いをしたのだ、 二度と来たくないだろう。
別に殺すつもりはなかったウィンクルム達は、最後の駄目押しに出したままだった武器をしまう。
薔薇への被害は最小限に抑えられ、やってきた館長に抱きしめられんばかりに喜ばれたのだった……。
●薔薇咲く庭園へ
三時間コースは俺達に任せて、皆は先へ行ってくれ……。
というわけで、館長の元に残ったのはアキとヴェルトールだった。
「で、ですね。この白薔薇は……というか、そもそも薔薇というのは、種類によって手入れの仕方が違いまして、この薔薇は虫に弱くてですなぁ」
どんなものだろうと興味津々だったアキは苦笑を浮かべた。
なるほど、筋道があっての話ではなく、思いつきや感想なんかも織り交ぜながらの話である。
これは話を 聞き出した職員がぐったりするのも頷ける。
薔薇を見つめ隣を歩くヴェルトールにアキが視線をやった。
三時間コースが気になって頼んだのは自分だが、ヴェルトールは詰まらなくないだろうか……?
その視線に気が付いたヴェルトールは、優しい瞳でアキを見つめ、微笑んだ。
「今日はお疲れ様」
「あぁ……ランスもな。……ところで」
流石に退屈じゃないか、とは聞けずに言葉を濁せば首を振られた。
それでも、ありがとうの気持ちと付き合わせてごめんな、の気持ちを込めてさりげなく白薔薇を渡せば、ヴェルトールが瞳を瞬いた後微笑んだ。
「セイジ、ありがとう」
その言葉に、ほっと息をつく。
2人、まだ説明を続けていた館長の話に耳を傾け……つつも、少々違うことを考えてしまうのは、致し方なかったかもしれない。
そんなアキとヴェルトールとは違い、人を避けるように歩くのは千代とラセルタだ。
折角だから薔薇園の中を少し歩いてみよう、という千代に否をいうラセルタではない。
「見事な薔薇園だ。並々ならぬ労力が費やされているのだろう」
咲き誇る薔薇達は、美しくその身を風に任せている。
「此処には色んな種類の薔薇があるんでしょう?」
それに頷くことで肯定を示し、2人ゆっくりと歩く。
「おい千代、お前の瞳の色に似た薔薇があるぞ」
示された薔薇に瞳を瞬き、微笑みを浮かべた。
金色の花弁がとても美しく咲き誇っていた。
「ラセルタさんの瞳みたいな青い薔薇もあるかもしれないね」
「ああ 、其処の係員に聞けば分かるかも知れないが……」
地獄耳というのだろうか。ぴくりと動いたのを確認して、ラセルタが千代の手を握った。
「……おい、逃げるぞ。三時間の演説など堪ったものじゃない!」
「ふふっ、このまま喫茶店に行ってお茶にしよう!」
2人、仲良く薔薇達の間を駆け抜けていった。
そんな楽しげな2人のちょっと先で、むしろ三時間コースをしそうなのが隣に居る……状態なのはセイリューだ。
ラキアの薔薇解説に耳を傾けつつ、そんなに夢中かと微笑ましく薔薇よりもラキアを見つめる。
一つ、一つ、「綺麗だね」とラキアに褒めらえた薔薇達は、誇らしげに2人の前でその姿を見せつける。
「こんなに沢山の種類を1カ所で見られるのは凄い事なんだよ 」
ちなみに、この薔薇は……と名前の由来や花の咲き方、特徴を教えていく。
生き生きとしたその薀蓄に、セイリューが小さく笑い声をあげた。
「よくそんなに覚えてるなぁ」
そして、よくもまぁ見分けもつくものだと感心しきりのセイリューに微笑む。
無事終了したからこそ、こうやって共に過ごせることが嬉しい。
「皆とても丁寧に世話されていて、美しく咲いているね」
視線の先の薔薇もとても美しいけれど、隣で笑うセイリューの笑顔も綺麗だ。
そんな風に思えるのも、きっと2人に流れる時間が優しいものだからだったかもしれない。
全部同じに見えるんだが、と咲き誇る薔薇を前に思うのはイルドだ。
正直色違いの薔薇が沢山あるよな、程度ぐらいしか分からない。
とはいえ勿論花は普通に綺麗だと思う。
けれど、もっと心を満たすのは、スウィンの幸せそうな様子であろう。
住人に捕まらぬよう注意しながら様々な薔薇を楽しんでいく。
慎ましい薔薇、大輪の薔薇、希少なのか種類があまりない薔薇……。
「どの薔薇も綺麗ね~♪」
自分達と同じ色を持つ薔薇の前でそういえば、イルドがぎこちなく頷いた。
「そうだな……」
(違いがよくわからねー……)
結局回ってみたものの分からないものは分からなくて。
スウィンが微笑んだ。
「もうちょっと楽しみましょうか」
その様子がとても楽しそうだったから、まぁいいかとイルドも隣を歩いてくのだった……。
日がとっぷりと暮れた頃。
漸く話 をやめた館主が、今日頑張ってくれたウィンクルム達を食事へと誘う。
勿論、薔薇のお話は聞きたい人だけ……そんなことを笑いあいながら言い合って、一人、また一人と館へと入っていく。
きっと、また来年……この街は薔薇でいっぱいになるだろう。
それは、確かな未来だった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 如月修羅 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 06月10日 |
出発日 | 06月18日 00:00 |
予定納品日 | 06月28日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- スウィン(イルド)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
会議室
-
2014/06/17-23:55
ありがとね、千代♪それじゃ皆、相談お疲れ様。うまくいくといいわね。
-
2014/06/17-23:54
>羽瀬川さん
うん、しかも亀甲網って金属製なんだよ。ワイヤーなんだ。お得だよな。
というわけでプランは提出できた。うまくいっているといいな。
では、リザルトで会おう。
-
2014/06/17-23:51
プランは提出出来たよ。
薔薇園をゆっくり楽しめるといいな。
相談その他諸々、お疲れさまでした。
色々と上手くいくよう祈ってるぜ。 -
2014/06/17-23:13
アキさん>
えっ!網って意外とお安いのですね…?今後も何かに使えそうです(メモメモ)
強力な魔法の一撃、頼りになります。
スウィンさん>
有り難うございます、俺も気に入っている名前なので呼んで頂けると嬉しいです(ふふ)
俺も先ほどプランをまとめて提出して来ました。
有刺鉄線の配置、お手伝いしますね! -
2014/06/17-22:16
こっちは命中率低いのよ…たはは。プラン提出してきたわ。ぎりぎりまで修正可能よ。
■班分け
千代って呼んでも大丈夫かしら?いい名前って思ってたから。
ちゃん付けもいいな~って思うけど。
それじゃ、セイジ&セイリュー、スウィン&千代で。遠距離攻撃期待してるわ♪ -
2014/06/17-22:07
>羽瀬川さん
その代わり一発しか撃てないんだ(遠い目
ちなみに、網は1mの長さあたり342円とかだったからポケットマネーでいける。
俺は「最大多数のカナリア効果範囲への巻き込み」での個体数一気減らしを相棒に頼むので、丁度いい分担になると思う。
なお、魔法投射直前に皆には合図する。巻き込み防止に(笑 -
2014/06/17-21:58
すみません、遅くなりました…!
人数が増えて心強いです、改めて宜しくお願い致します。
罠に関してはそれぞれが持ち寄って設置する形になりそうですね。
今回はA.R.O.Aの予算が潤沢にある事を祈って。
>班分け
では、俺はスウィンさんペアとご一緒させてください。
ハードブレイカーさんやエンドウィザードさんの攻撃力って凄いなぁ…(ごくり)
>予定
長期戦だと人数的に不利だと思うので、
積極的にリーダーの魔法使いを攻撃しにいくつもりです。
個人的に盗まれた薔薇の行方が気にかかっていて…
追い払う前に、少し会話ができたらと考えています。 -
2014/06/17-21:06
>スウィン
すまんな。鉄線と併用しよう。
>セイリュー
じゃあ俺と組むか。 -
2014/06/17-21:04
じゃあオレは簡単な電気柵を網の上に渡しておくよ。
自分達は攻撃力に難があるので高い攻撃力の人と
ご一緒できるとありがたい。
詠唱時間は稼ぐから。
>セイジさん
3時間で終わればいいな・・・。
オレなんか一晩中コースな事もあるんだぜ。
「お前達の意思は無駄にしないっ!」
ありがたく薔薇園を堪能させてもらうよ。 -
2014/06/17-20:28
色々な意見をありがとね。おっさんは皆の意見がまとまって依頼が成功するなら
それが自分の出した案でも他の人の案でも気にしないから大丈夫よ~。
これからプラン書き始めるわ。
■班分け
攻撃力高めのセイジ達とおっさん達は分かれた方がいいかしら?どう組む?
■薔薇付け
それじゃ、おっさん達は生花で一応やってみる予定。
薔薇園から分けてもらえないかしら?皆は自由にしていいと思うわ。
■設置物
有刺鉄線の事は書く予定。他の物についてはお任せするわね。
もちろん、皆が有刺鉄線の事を書くのも自由よ。
「無茶しやがって…」 -
2014/06/17-19:53
アキ・セイジだ。
正直な所を書かせてもらうよ。
決してスウィンさんの意見をただ否定したいわけじゃないってことはわかってほしい。
>バラ付け
ゲートの向こうに大量のバラがあると香りの具合や垣間見える光景から分かっているのに、
武装した人間の持ってる数本のバラに好んで向ってくる花盗人がいるものなのだろうか?
…という疑問があったりする。
だが、もしかしたら多少は迷う素振りを見せるかもしれないし。やるのは構わないと思う。
>鉄線
人間だけで守る場合、注意がそれたり体を捻るなどして隙間が開くことは想像に難くない。
なので、有刺鉄線を渡すという考えは悪くないと思う。
ただ、「線」より「面」の方が効率的だ。
なので、俺は面でとめたい。
ホームセンターで亀甲網を適当なメートル買ってきてゲートの左右に渡す。
一枚91cm程度なので上下二枚渡せば十分だろう。
亀甲フェンスと違い足をかけて登れる程穴は大きくない。
棘つきの線である鉄線とあわせたら、より効果的だと思うんだ。
鉄線も亀甲網も耐久力はさほどではないから、
大量に魔物が群がれば全部纏めて倒れる可能性があるけれど、ようは暫く足止めできれば良い。
そこを攻撃したらいいんだ。
>セイリュー
俺は聞くぞ。三時間コースを(笑
俺も相当理屈っぽい方だが、三時間もナニをどう話すのか、とても興味が有るからだ。
そんなわけで、
↓
「村人は俺達に任せて、お前達は先に行け」 -
2014/06/17-00:53
>スウィンさん
薔薇をつけるなら、生花でも良いかと思うぜ。
ゴブリン達が香りでも花を判断しているかもしれないし。
有刺鉄線よりも多分薔薇の方が安いし。
(ラキア注:薔薇の品種によります)
さっさとゴブリン蹴散らして、ゆっくり薔薇を楽しめるといいな。
薔薇蘊蓄は街の人だけじゃなく俺の場合ラキアが…。
街の人達とうっかり会話なんか始めたらそれは凄い事になりそうな予感。
毎回花の事になると全く文字数足らないし!(苦笑) -
2014/06/17-00:40
スウィンよ、今回もよろしく!
女王ゴブリン…求愛…あんまり考えても楽しくないわねぇ。
綺麗な花を取りたくなっちゃうのは分からないでもないけど
人が育ててんのを根こそぎってのは許せるもんじゃないわ。
頑張って守りましょうね!
「2班に分かれてそれぞれゲートを守る」「罠設置」賛成よ。
どの程度の物を持ち込めるか分からないけど、可能なら有刺鉄線張るとか…。
調べたら有刺鉄線って、茨の刺に見立ててバラ線ともいうのね~。ぴったり?(笑)
薔薇を狙うみたいだから、おっさん達の胸に薔薇(造花?)つけといたら
こっちを狙ってくれないかしら?
敵は普通のゴブリンだし数が多いから、神人も積極的に戦った方がいいわね。
遠距離攻撃がある人は魔法使いを優先して狙うといいかね?
イルドは遠距離ないから、近い敵から範囲攻撃でなぎ払う予定だけど。
駐車場で戦う、とどめは刺さないで追い払う、って感じでいいかね?
戦闘後は、住民に薔薇の事を聞かないよう注意して、薔薇を楽しもうと思うわ~。 -
2014/06/16-23:29
セイリュー・グラシアだ。ヨロシクな。
前の…試運転以来か。
今度はもう少し上手く出来ればと思ってる。
今回は鳥獣被害の対策の物を設置してもいいかもしれない。
サルが来ていると思えば・・!
繁殖期で、ボスザルならぬ女王ゴブリンに薔薇渡してアピール!
とかいう背景があるのかも・・ほら、結婚シーズンだし(笑)。
侵入防止電気柵を入口部分に設置するとか?
死角からゲート掴むとビリッときて驚く程度なので気休め程度だけど
人海戦術で押された時とかは役に立つかも。
2つあるゲートをそれぞれ護る案には賛成だぜ。
そんな方向でより具体案を考えてみる。
-
2014/06/16-02:50
成立しましたね。こんばんは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
セイリューさんとラキアさんとは前の…ロピア(小声)の試運転以来ですね。
街の人達に愛されている薔薇園を、精一杯守りたいです。
流れとしては駐車場に来るらしい20体程のゴブリンたちを
薔薇園へ入れずに追い返す、もしくは退治…でしょうか。
ゲートが2つあるので、今のところそれぞれ守る形になりそうです。
俺としては攻撃の標的を集団の中心となっている魔法使いなどに絞って、
薔薇を盗もうとするとこうだぞ、というのを他のゴブリンたちに
見せられたらと…それで意欲が削がれて逃げてくれたら良いな、って。