【ジューンブライド】6月の花嫁達(らんちゃむ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●愛のある真似事

「六月の花嫁イベント?」

「そ!結婚の予行練習としてうちでやってみませんか?ってイベントよ」

 会議室の一室でスタッフが問い返せば、提案者であるオーナー・アネッタはにっこりと微笑んだ。
ダブロスの一角に建てられたスタジオ「アネッタ」はその名の通り写真を撮るスタジオだ。
このスタジオ・アネッタで取り扱う衣装の中にはウェディングドレスがあり、それを有意義に使う最高のイベントだとアネッタは言った。

スタッフ全員に渡された資料にはアネッタ自身がデザインした、ジューン・ブライドモデルのドレスとコサージュのデザイン。
それに店内に暖色のライトを用意する事で、じめじめした空間から抜け出す工夫までも記されてある。
黙ってその資料を見つめるスタッフもいれば、目を輝かせるスタッフもいた。
もう少しだろうか、そう思ったアネッタはスタッフに向かってイベントの意図を語った。

「今回のイベントの参加者は、結婚を控えるカップルでもいいし、将来を考えるカップルでもいい……そうねえ、真似事として参加してもらってもいいと思うの」

そう切り出したアネッタにざわざわとするスタッフだが、アネッタは続けた。

「ジューン・ブライドってのは、六月に結ばれた夫婦が末永く幸せになれるってお話でしょう?……女の子だったら一回くらいジューン・ブライドに憧れるものよ、でもだからってすぐに体験できるかって言われたら、そうじゃないわ」

「……確かに、結婚ってよく簡単に言われますけどいざ自分がってなると結構悩みますよね」
「うんうん、私も旦那と結婚する時悩んだなあ」

人生における大きなイベントかもしれない、そう言ったスタッフにアネッタは大きく頷いた。
一度しかできないから貴重なのかもしれない、だが面倒な柵を無くして愛する人と並んで写真を撮ってもいいじゃない。
そう言うアネッタに、スタッフの一人が立ち上がる。

「なるほど……イベント対象はカップルですか」
「ジューン・ブライドにちなんで、スタジオも森をイメージした背景を使いたいと思うのよ……どうかしら」
「いいですね!じゃあ紫陽花が咲いててもいいと思うんですが……」
「うんうん!じゃあ私、紫陽花取り寄せておきます!……花アレルギーのお客様用に造花も用意しますね!」

オーナーの提案が火種となり、一つ、また一つと案があるまる。
こうしてスタジオ・アネッタで「六月の花嫁イベント」が開催される事となった。

解説

ジューン・ブライドを体験しましょう。

●参加費
今回はウェディングドレスのみ着用なので、参加費は500Jrとします。
ヘアアレンジ・メイク……アクセサリー等お好きなものを選んで下さいね

●撮影スタジオ
ジューン・ブライドにちなんで、紫陽花が咲く森をイメージしたスタジオが作成されています。
花が苦手な方の為に、造花もご用意できますのでお気軽にスタッフにお申し付け下さい。
他には教会・ステンドガラスなど結婚式にちなんだ背景を取り揃えております。

安物ですが、指輪もご用意してありますので、新郎様から指輪のサプライズ……なんかもできますよ?
指輪使用の際は指輪代300Jrをいただきますので、入店前のエントリーシートに「指輪使用」とご連絡ください……あ、内緒も可能なので、スタッフ一同全力で応援しますね

●オーナー・アネッタ
ピンクとパープルを基調としたファッションに片耳ピアスをした女性口調の男性。
撮影でぎこちないお客様に笑顔で写ってもらうべくこの口調になったとか。
ファッションセンスも長けており、小物を使ったファッションアレンジを得意とします。
困った事があったらオーナーアネッタにお声をかけて下さい。




衣装合わせ→ヘアアレンジ・メイク→撮影 という流れで行われます。
途中休憩が入りますので他の花嫁を覗いても良いかもしれませんね。
もしよろしければご一緒に撮影なども承りますのでスタッフにご連絡下さい。

ゲームマスターより

らんちゃむです。

またしてもスタジオ・アネッタでイベントです。
六月の花嫁……いいですよね、憧れますとも。

ウェディングドレス、と言ってもいろいろありますので
皆さんがどんなドレスを着るのかなあっとワクワクしながらスタジオでお待ちしていますね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  アネッタさん、また会えて嬉しいです
私、写真を撮ってもらうなら絶対このお店がいいなって思ってて
今日はよろしくお願いします

(エミリオに聞こえないように)それで・・・あの・・・ごめんなさい、実は私達・・・カップルじゃないんです・・・
エミリオさん、私のこと『妹』だって思ってるみたいで・・・わ、私は・・・エミリオさんのこと・・・(赤面して俯く)
私ほんの少しでもいいからエミリオさんに異性として見てもらいたいんです・・・皆さん手伝って・・・くれますか?

☆ドレス
プリンセスラインの淡いピンクのドレス
ピンクの薔薇の装飾がついてるのがいいです

☆メイク・髪型
メイクはお任せします
ティアラに合う髪型にアレンジしてください


油屋。(サマエル)
  ドレス:淡い青と紫、紫陽花イメージふんわりチュールのカラードレス ヘアアクセ 紫のリボン

メイク:分からないので相談、大人っぽい感じ希望

アクセ:雨粒をイメージして、青のラインストーンネックレスとイヤリング

一度着てみたかったんだよね~ ウェディングドレス
子供っぽい?う、うるさいッ!
アタシだって もうちょっとすれば立派な大人だもん!

森を背景に撮影
ジューンなんとかには興味無 ドレス着たかっただけ

結婚式ごっこ?も、もう なに遊んでるんだか

アタシにも将来 好きな人が出来たりするのかな?
全く想像がつかないけど

サマエルに付き合ってくれてありがとう、とお礼を


かのん(天藍)
  天藍、聞いていた話と違うのですが・・・
しれっと答える天藍と店長のトークで、なし崩し的に衣装合わせに
普段スカートすら履かないのにドレスってハードル高すぎです
あの、せめてあまり肌の出ないデザインをお願いします
髪飾りだけではなくてドレスにも生花を飾るのですか?
(前後姿見で確認して)・・・これは綺麗ですね
スタッフの人達との会話で、この場を楽しんだ方が良いのかもと少し開き直り
いざ撮影となって2人並んだ段階で呟かれた謝罪の言葉を聞いて
その表情と近距離でこのタイミングはずるいと思いつつ、貸しておきますので、高利で返してくださいねと軽口で返す
天藍の存在が大きくなることを怖いと思うのは、贅沢な悩みなのでしょうか



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  アネッタさん、先日はありがとうございました
今回もお願いします。

一回、豪華なウェディングドレスって着てみたかったんだ…
どんなのが良いかな…
私はクラシカルな雰囲気のものが好きみたいだから
形はエンパイアラインで…肩はレースのフレンチスリーブがいいな
ベールも、レースをあしらったもので…お願いします。

ヘアアレンジはゆるいシニヨンで、そこにコサージュを
コサージュは…勿忘草がいいな

ねえねえ、ディエゴさん似合う?
ディエゴさんは私の幸せを願うと言ってくれたけど
私だけが楽しかったり嬉しくても幸せじゃない
ディエゴさんも一緒じゃないと…私もディエゴさんの幸せを願ってるんだから。

いつか本当の意味でこれを着るのかなあ


香我美(聖)
  こういうのは見るのは好きでも参加するのは苦手なのだけれど。まあ、折角親交を深めるために来たのだしカップルではないですけど楽しみましょうか。
ヘアアレンジやメイクはプロの方にお任せしてできればやり方を教えて頂きたいですね。
機会があれば他の方たちがどんな服装をしているのかも見てみたいです。

・ウェディングドレス
マーメイドラインでロングトレーンのドレスにロングベールとティアラ



●それぞれな花嫁
「いち、に…はい、確認終了です」
 にっこりと微笑むスタッフに案内され、2階へ上がる一同。
店内にはジューン・ブライドのイベントをしているからなのか、結婚式で流れる定番の曲が流れている。
どれもオルゴールでアレンジされていて、優しい音色だ。
「それじゃあ衣装合わせをしましょう!花嫁さんはこっちですよ~」
花婿さんとはしばしのお別れです、と言ってウィンクするスタッフは、女性を連れ奥の部屋へと向かった。


●不思議な気分
 静かに流れるオルゴールを聞きながらドレスを選ぶ。
花嫁体験だと分かっていても、綺麗に色別に並べられたウェディングドレスに、大きな鏡…。
広く明るいその部屋は、なんだか不思議な空間のように見える。
「わー…いろんなドレスがあるんだ」
油屋。がドレスを眺め、目をキラキラと輝かせた。
定番の白いドレスから、花があしらわれたドレス…カラーもあって個性豊かなドレスもあった。

「迷いますねえ…」
 明るい色で統一されたドレスは、自分に似合うかも分からない…かといって試着、とまでは踏み込めずにいた。
悩む香我美の肩をぽん、と叩き、スタッフは香我美を呼んだ。
「香我美様ですよね、花婿さんからオススメを承っておりますよ」
「花婿さん?」
スタッフが香我美に出したのは、紫のマーメイドドレス。
上品な色合いとボディラインが美しく見えるそのドレスを見て香我美はへえ…と声が出た。
「綺麗なドレスですね」
「ふふ、香我美様にはこれがオススメ…との事でしたが、どうします?」
「折角花婿さんに勧めてもらったものだし、これにします」
クスクスと笑った香我美はスタッフからそのドレスを受け取る。
ふと、このドレスを探したであろう花婿さん…聖の事を考えると、また笑みがこぼれた。
今度は小さな、暖かな気持ちになる笑み。

「ドレス、ですか…」
 ずらりと並ぶ色とりどりのドレスに困惑するかのんは、選ぶどころかその場で眺めていた。
パートナーに誘われたのが、花婿衣装を着て撮影するブライダルイベントだなんて…。
「聞いていた話と違う気が…いえ、違いますよね」
紫陽花の森で記念写真を撮らないか…そう誘われたかのんは楽しそうだと思い、天藍の誘いを受けた。
だがスタジオに入れば結婚式で流れるBGMに、花嫁が幸せそうに微笑むポスターまである。
おかしい、と思った時には遅く、こうしてドレスの衣装部屋にいるわけで。
「…困りましたね」
「かのん様、ですよね」
呼ばれて振り返れば、女性スタッフがかのんに笑顔を向けた。
「花婿さんからのオススメがありますよ、こちらです」
「オススメ…ですか?」
「はい、えっとー…かのん様は肌の露出を控え、派手な衣装ではなく…お花をアクセントできるドレスを、との事です」
細かく書かれたファイルを読みながら一緒に探してくれるスタッフの後ろをついていくかのん。
ドレスを選ぶスタッフの手に持たれたファイルから少し見えた、見慣れた文字があった。
…天藍の文字だ。
「…あの、それ」
「え?…あぁ、とても丁寧に記入していただきましたので、私達もお手伝いしやすいです」
にこりと笑ったスタッフに、かのんも思わず笑みがこぼれた。
自分に似合うドレス…好きなもの、気に入ってくれそうなドレスを、天藍がこっそり考えてくれたのだろうか。
そう思うと、なんだかふわりと、頬が暖かくなった気がした。
「ありました!これなんてどうでしょう」
「…それじゃあ、試着してもいいですか?」
かのんは先程までの、呆然とした気分はいつの間にか無くなっていていた事に気づいては…いなかった。
「……ふふ、よかった、かのん様笑ってくれた」
着替えに向かったかのんの後ろでガッツポーズをしたスタッフは、メイク室へ打ち合わせに走った。


「わあー…綺麗!」
「こちらになさいますか?」
 青と紫の淡いグラデーションがかったドレスを見て、油屋。は思わずそう言った。
後ろにいたスタッフが試着をするかと聞けば、嬉しそうに頷く。
彼女のキラキラした笑顔に、思わずスタッフも微笑んだ。
「それでは着替えてみましょう、こちらへどうぞ」
ドレスを持ったスタッフの後ろを追うように入れば、大きな鏡のある小さな空間に通された。
「何かお困りでしたらお声を…すぐ傍にいますので」
頭を下げ試着室から出て行ったスタッフにドレスを受け取る油屋。は、目の前にある大きな鏡に映った自分と向き合う。
…こんなにしっかり全身の自分を見るなんて、いつぶりだろうか?
「…結婚かあ」
 考えもつかない、まだ自分が心に決めた男性の手を取り、誰かに祝福される姿。
手に持ったドレスを見ると、ついつい考えてしまう、未来の自分の姿。
「か、考えても仕方がないのに何してんだアタシは」
ぶんぶんと首を振って、自分の着ている服にてをかける。
脱いだ衣類を置いて、ドレスに体を通す…すこし、くすぐったくなって、口元が緩む。
後ろの方に手が届かずスタッフの助太刀を依頼すると、スタッフはそっとドレスのチャックを上げていった。
「綺麗ですね油屋様…ちょっと胸元苦しそうですけど、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…!」
「ふふ、それはよかった…はい、これでドレスはお着替え完了です、あとご一緒にアクセサリーもあるので、それは後ほど」
「ありがとうございます」
 試着室のカーテンを開け、すっと手を差し出すスタッフに油屋。は首を傾げた。
ぽかんとする彼女に、スタッフはふわりと微笑む。
「…メイク室までお手を、花嫁様」
「は!はなよ…ど、どうも」
「ふふふ、顔が真っ赤ですよ油屋様」
万が一がないように、花嫁をお連れするのは義務ですから。
そう言って油屋。の手を取ったスタッフに、油屋。はなんだか気恥ずかしい思いをした。
(…絶対本番では冷静になれる…はず!)


「…変じゃないですか?」
 鏡の前でくるりと体を動かすハロルドに、スタッフは変じゃないですよ、と答える。
ホッとしたのか胸に手をあて、一呼吸していた。
「ベールなんですけど、この衣装だといろんなデザインと合わせる事が可能です…どれにしますか?」
ファイルを見せられたハロルドはいろんな種類のレースの写真を見て…そして1枚の写真に送る視線が止まった。
「あ…あの、これ」
「これですか?可愛いでしょうー、スタジオアネッタ限定ベールです」
「限定…?」
「はい、アネッタさんの手作りです」
 アネッタ……ふと思い出したオープンイベントの写真会でいろいろしてくれた、このスタジオのオーナー。
その写真にあったベールのレース部分に描かれた花を見て、ぽつりとハロルドはつぶやいた。
「勿忘草…」
「ここに来る前のスタジオで注文があった時のベールですよ!…あ、持ってきましょうか」
「はい」
パタパタとその場を走り去っていったスタッフは、数分後にベールを持って戻ってきた。
柔らかな色合いに際立たないように施されたレース…その中には小さくだが、勿忘草の形が描かれてあった。
「…これで、お願いします」
「かしこまりました、それじゃあヘアメイクにうつりましょうか」
差し出された手を取り、ハロルドはメイク室へと向かった。

(…珍しいなあ…勿忘草の描かれたベールだなんて…)


「あ、あああの…どうですか?」
「大丈夫です!バッチリ可愛い!」
 グッと親指を上げるスタッフに、ミサ・フルールは安心した。
彼女が選んだのはプリンセスラインのミルキーピンクのドレスで、淡い色は彼女の頬によく似た色をしている。
だがシンプルなデザインの為、なんだか物足りないとスタッフは頭を抱えていた。
本来、ミサが要望したのはピンクの薔薇のあるデザインだったのだが、どうやらスタジオには無かったようだ。
「んー…!」
「き、気にしないで下さい!これでも凄く可愛いですし」
「ダメですよ!お客様の要望は絶対ですし、そのほうがミサ様の愛らしさが際立ちます!」
ああでもないこうでもないと嘆くスタッフの後ろから、柔らかな男性の声が響いた。
ピンクとパープルの似合うその人は、片耳についたピアスを揺らして微笑んだ。
「お久しぶりね、魔女ちゃん」
「アネッタさん!お久しぶりです」
頭を下げるミサに、アネッタはジロジロとドレスを眺め、首を縦に動かした。
「これはシンプルすぎるわね、若い魔女ちゃんにはちょっと上品すぎるかしら」
「要望だとこの色でいいんですけど…薔薇のデザインが無くて」
がっくりとうなだれるスタッフに対し、アネッタはミサを見て何かを決めたようだった。
「魔女ちゃ…えーっと、ミサちゃんね?少し立っていられるかしら」
「え、は…はい」
「いい子ね、それじゃあすぐに要望のピンクの薔薇を咲かせちゃいましょう!」
無いなら作ればいいのよ!と大声で言ったと思えば、アネッタは別のスタッフに持たせていたカバンを広げる。
針と糸…そしてミルキーピンクよりも少し濃い色の布を出すと、何かのスイッチが入ったのか…目の色が変わった。
「あ、ああアネッタさん!?」
「動くんじゃないよ…3分でいいわ」
キラリと光った瞳に、針が危ないとか一回着替えたほうがとか提案する余地すら無かった。
(ひ、ひえええっ…!)


●愛の魔法
「さて、油屋様はどんなメイクがいいですか?」
 なんでもできますよ!と微笑んだスタッフはメイク道具を両手に構えかっこよくポーズを決める。
一瞬呆気に取られる油屋。だが、慌てて手元に置いてあったメイク雑誌をめくる。
…だが、どれもピンと来るものは無かった。
「すみません…アタシ、こういうのよく分からなくて」
「そうなんですか?」
「と、友達は詳しい人いたり…クラスでも綺麗な奴はいるんだけど…アタシはそういうガラじゃないし」
目を泳がせる油屋。にスタッフは彼女の頬にそっと触れた、少しだけひんやりした両手で包まれ、油屋。は目を見開く。
「ガラじゃないなんてそんな事ないですよ、なんでも言って下さい?」
「で、でも…うーん…アバウトでもいいですか?」
「勿論!」
会話を交わす間に、化粧水や乳液で肌のマッサージを始めているスタッフにどぎまぎしながら、油屋。は口を開いた。
普段話すようなトーンではなく、少しだけ恥じらいが残る…可愛らしい声で。
「お、大人っぽく…なりたい」
「…はい、かしこまりました」
マッサージを終えたスタッフは、油屋。の横に顔を寄せ、にっこりと笑い油屋。に「大丈夫」と言った。
大人の女性の優しく包容力のある声に、油屋。は不思議と安堵感を覚えた。
「アクセサリーも合わせてつけていきますから、目を閉じてゆっくりしててください」
「…あ、ありがとうございます」
「んふふ、花婿さんビックリさせちゃいましょうね」


「はぁーい、お元気そうね」
「…アネッタさん」
 ヘアアレンジとメイクが終わった頃、顔を出したアネッタを見てハロルドは頭を下げた。
どうやら最後のアクセサリーはアネッタが仕上げてくれるらしく、アネッタはよろしくと手を振る。
「えーっとベールは…あら、懐かしいものチョイスしたわねえ」
「…それが、綺麗だなって」
「ふふ、ありがと…これ結構気に入ってるのよ」
そっと頭に乗せ微調整をするアネッタを鏡越しにじっと見ているハロルドに、アネッタは目を合わせずに話し始める。
「…私を忘れないで、なんて控えめで健気な花言葉よね」
「そう…ですか?」
「そうよ、忘れないで欲しいならもっとアタックするものじゃない…だけどそうしないのが、女の子よねえ」
 目を細め丁寧にベールを合わせていくアネッタはヘアアクセサリーのコサージュを手にとった。
…まるで本物の花のような、勿忘草のコサージュを見て、ふっとアネッタは笑う。
「あたしはカテゴリ外でいいけど、貴方みたいな儚いお客様を忘れたりなんてしないわ」
「…儚い、ですか?」
「目がなーんとなく、でもこの花をチョイスする辺りまだ大丈夫よ」
「……?」
首を傾げるハロルドに首動かさないの!と頬を掴むアネッタ。
申し訳ないと思ったが、アネッタはお構いなしにコサージュをつけてしまっていた。
「よし、っと…あぁあと、こっちはおまけよ」
「こっち…?えっと、これは」
少し大きめの勿忘草のコサージュ…その下に小さいアクセサリーが付けられていた。
紫色のクリスタルで作られた…花のアクセサリー。
よく見なければ分からないような位置になぜ置いたのだろうかと思えば、アネッタはハロルドの肩をぽん、と叩いた。
「それ、かきつばたっていうの」
それだけ言ったアネッタはすっと離れ、スタジオで待ってるわと笑顔で手を振って去っていった。
ぽかん、とするも勿忘草の隅にひっそりと光るそのアクセサリーに、ハロルドは目を細めた。
「…あとで見てみようかな」


●撮影開始!

「ミサ様入りまーす!」
 スタジオで先に待っていたエミリオ・シュトルツはスタッフの言葉に反応し、振り返る。
転ばないようにとゆっくり歩み寄るその姿に、息をするのも一瞬だけ…忘れてしまった。

ミルキーピンクに、それより少し濃いピンクの薔薇があしらわれてある優しい色合いのドレス。
長い髪は横に流しサイドアップされており、首元が綺麗に見える。
「…み、ミサ?」
 その声に反応するように顔を上げるミサの顔に、エミリオは驚きを隠せなかった。
普段見ているのとは少しだけ違うパートナーの姿、ほんのりと頬が赤いミサはすっと目線を逸らす。
伏せ目がちな目元がキラキラと光り、口元はぷっくりと上品な色。
口元に目を奪われている自分に、エミリオは気づくと首を左右に振った。
「ど、どう…かな」
「驚いたよ、とても綺麗になったね」
「へへ、スタッフさんのおかげだよ」

そう言ったミサに遠くからスタッフの声で「違う違う!」とか「元が可愛いから!」などと声が飛んでくる。
恥ずかしそうに笑う彼女を見て、まったく…と小さく呟いた。
「一緒に並ばないのですか?」
「え?」
隣からの声に目を向ければ、おっとりとした表情のスタッフが首を傾げて見上げていた。
…なんだろう、このまったりとした表情を何処かで見た気が…。
「…あ!ひつじさん」
「おぉ!覚えててくれたんですかぁ~!」
「一緒にって…俺はミサが幸せそうにしてるのを、兄としてみていたいだけなんで」
兄として、そう口にしたのは自分なのに、何故か胸が痛んだ。
今目の前で幸せそうに微笑むミサが、知らない男と並んでいたら…。
そう考えると、先程までの小さな違和感はざわざわと騒ぎ出す。
「…これじゃあ、兄失格だな」
「?…エミリオ様、はい」
スタッフがそっと渡したのは、スタジオの装飾品の薔薇だった。
複雑な表情をするエミリオを見ていられず、ぐいと背中を押すスタッフ。
「え、ちょっと」
「寂しいなら並んで写真撮りましょう?…いいじゃないですか」
「で、でも…」
「…妹さんが望む事をしてあげるのも、お兄ちゃんの役目だと思って、ね」
そう言ったスタッフの指した先で、ミサはじっとエミリオを見つめていた。
カメラのシャッターもいつの間にか止まっている…エミリオがこちらに来るのを待っているようだった。
「っ……いい、のかな」
「エミリオさん…一緒に、撮りましょう?」
手を伸ばすミサの手を、エミリオは握り返した。
スタッフに貰った花は…渡すまでいかなかったものの、楽しそうに微笑む二人をカメラは撮り続けていった。


「かのん様入りまーす!」
 少し薄暗いスタジオに入ったかのんは、やんわりと光る先へ目を向ける。
白い階段の数段上で、どこか違う場所へ視線を向けるパートナーを見つけた。
紫陽花が階段のサイドで咲き、バックには月が用意されているスタジオで、天藍の礼服姿は魅力的なものだった。
目の前まで辿り着くと、なんだかバツが悪いようで…目を逸らす天藍。
「それじゃあ場所決めますねー!」
「お願いします」
「……かのん」
何処がいいかなーと話しだすスタッフをよそに、天藍はかのんの後ろに立つ。
振り返らないままのかのんに、天藍は頭をかいて大きく息を吐いた。
「はあ…その、乱暴な誘い方した悪かった…騙したみたいになってしまった」
耳元で囁くように語りかける天藍にかのんは眉を寄せる。
…だが衣装やメイクをしている間に、なんだかそれも楽しいかも、と思えて。
「貸しておきますので、高利で返してくださいね」
「は…?」
「いいですよね、勿論」
「……ッフ、喜んで」
天藍の唇が耳に触れるのではないか、そんな錯覚に陥るほどの近い声に、顔を赤くならないように冷静を気取るので精一杯だった。
その後すぐ、スタッフの位置決めが決まり撮影が始まる頃には、穏やかな笑顔をカメラに向けるかのんと天藍がいた。

「油屋様入りまーす!」
慣れない服装に慎重に進む油屋。を、サマエルはスタジオでじっと見ていた。
手を貸すわけでもなく、こちらに来るパートナーをじーっと見ているサマエルに、油屋。は恥ずかしくなった。
「…な、なんだよ」
「腐っても女だな」
「なにぃ!」
「似合ってるじゃないか」
フン、と鼻で笑うサマエルだが、油屋。は似合ってるという言葉に思わず笑みがこぼれた。
撮影が始まる少し前に、選ぶ過程やメイク中の事などサマエルに話していた。
「…アタシもいつかするのかなーって、思っちゃったよ」
「ふうん」
「…そ、その、一緒に来てくれてありがとーな、いろいろ考える機会みたいなのできちゃったし」
「どれだけ考えようが悩もうがお前は立って寝ているだろうな」
「なんでそうなるんだよ!」
スタッフに聞こえないようにサマエルに抗議をすれば、はあとわざとらしく深いため息を吐かれた。
「本物の式はなぁ、長ったらしい祝いの言葉を聞いた後永遠の愛とやらを誓い合うんだ、こんな風に」
「…え、ちょ」
傍に飾ってあったアクセントの薔薇を掴み、よろよろとする油屋。の腰をぐいと引き寄せる。
口元に押し付けられた薔薇に驚いた油屋。の耳元にしか聞こえないような…小さく低い声で言った。
「クソガキにはこれで充分だ」
「なっ…!」

「あ!二人共早速素敵なポーズとってる!撮影はじめますね!」
…二人の会話がスタッフの耳に届いていないのが幸か不幸か。


「香我美様入りまーす!」
 優雅に歩み進める香我美の姿に、スタッフ一同おぉー…と声が漏れる。
両手を後ろにまわして待つパートナーの前に立って、にこりと笑ってみせた。
長い髪はハーフアップにし、毛先をふわりと巻いてあり、緩やかに流れる髪がドレスの色と合わさり更に上品に仕上げられている。
「…どうかしら」
「とっても似合います…あと、これ」
聖が香我美に差し出したのは赤色の花で作られたクラッチブーケだった、それを見た香我美は目を丸くする。
「私に?」
「折角の機会だからって…受け取ってくれますか」
「…えぇ、勿論」
ブーケを受け取り向き合いながら微笑む二人を、カメラマンが逃すわけがなかった。
嬉しそうに笑う二人に「ベストショットいただきましたー!」と声が掛かるのは、数秒先の話。


「ハロルド様入りまーす!」
「…歩けるか」
「大丈夫ですよ」
 スタジオに入るハロルドに駆け寄るディエゴ・ルナ・クィンテロは彼女の手を取りスタジオに入っていく。
「…随分と様変わりしたものだ」
「綺麗ですか?」
「…そうだな、そうだと思う」
少し弾んで、沈む会話…スタッフがカメラの調整をする間、二人は黙って待っていた。
小さく深呼吸をし、ディエゴはポケットに手を入れた。
「ハロルド」
「…はい?」
顔をあげようとしたハロルドの先には、ディエゴはいなかった。
目の前で膝をつき、こちらを見上げるディエゴにハロルドは何がなんだか分からないでいる。
首を傾げてどうしたんですか、と問うハロルドに、ディエゴは少々気恥ずかしく思えた。
「…手を」
「え?手ですか…あ」
「…前にもらった指輪のお返しだ」
薬指にするりと通った指輪をハロルドはまじまじと見つめる。
表情には出ないものの咳払いをするディエゴに、ハロルドは彼の袖をきゅっと握った。
「嬉しいです…ありがとう」
「…どう、いたしまして」

自然と笑っているのではないか
そんな不思議な気持ちになれる撮影は、あっという間に終わってしまっていた。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター らんちゃむ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月07日
出発日 06月14日 00:00
予定納品日 06月24日

参加者

会議室

  • [5]ハロルド

    2014/06/13-01:08 

    はじめましての方ははじめまして
    そうでない方は今回もお世話になります、ハロルドと申します。
    パートナーはディエゴさんです。

  • [4]香我美

    2014/06/13-00:22 

    こんばんは、初めまして。
    ご挨拶が遅くなりまして、香我美と申します。こっちはファータの聖さんです。
    宜しくお願いしますね。

  • [3]ミサ・フルール

    2014/06/13-00:13 

    こんばんは。
    途中参加失礼します。
    ミサ・フルールとパートナーのエミリオさんです。
    どうぞよろしくお願いします(お辞儀)

  • [2]かのん

    2014/06/13-00:09 

    こんばんは、思いっきりの飛び込みで失礼します。
    どうぞよろしくお願いします。
    こちらは何だか私が聞いていた話と様子が違う気がするのですけど。

  • [1]油屋。

    2014/06/12-19:47 

    初めまして!飛び入り参加の油屋。です!
    相方はディアボロのサマエル、宜しくお願いしまーす♪
    ウェディングドレス……着てみたいなぁって思って


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