プロローグ
●不思議な喫茶からのご案内
<さつきの喫茶より、アジサイ園のご案内>
みなさま、元気にお過ごしでしょうか? <さつきのきつさ>店長でございます。
今年もまた、アジサイの咲き誇る季節がやって参りました。
皆様により一層アジサイを楽しんで頂くため、パズル好きの店主がとっておきの謎を添えておもてなしいたします。
この季節、店長めのとっておきの花も先頃満開を迎えましたので、パズルを解いてぜひともお越しください。
場所 タブロス市郊外『さつきの喫茶』
開催 アジサイを楽しみながら、店長のとっておきを探す会
アジサイ園を楽しみながらパズルを解いて、6月の店長とっておきの花を探す催し物です。
アジサイの種類や意外と知らない生い立ちなど、皆様のお役にも立つちょっとした豆知識もご用意しました。
花より団子のお客様にもお楽しみ頂けるよう、散策しながら楽しめる串団子とお茶のセットもご用意しております。
また、パズルを解けなかった場合のペナルティも一切ございませんので、ご安心ください。
※時折、アジサイ園に店長が出没します。出くわしましたら、パズルのヒントをせがむなり回答を迫るなり、ご自由にどうぞ。
店長はノリが良いです(`・ω・´)キリッ
※目的地到着時点でパズルが解けなかった場合は、店長による解説講座が開かれてしまうかもしれません。あしらかず(^ω^)
※当店店長はアジサイだけでなく、多くの花を愛しております。
そのため、愛ゆえに暴走してアジサイでない話が出てくるかもしれません。あしからず(*´∀`)♪
●実際に行った人がそこに居たので
別に、このメールのレターテンプレートがポップな訳ではない。しかしこのダイレクトメールは、至ってポップである。
「(`・ω・´)キリッってしてくるDMとか、初めて見た……」
なんだろう、思わず脱力するというか、なんというか。
同時刻一斉送信のDMは、休憩所にいる他の面々にも届いているのだろう。
「てか、パズルって何だ?」
ただの植物観賞会にしては、変わったことが書いてある。
不意に斜め向かいのベンチから忍び笑いが聴こえ、顔を上げた。
「ぷっ、くくく……店長めっちゃノリノリやん……!」
先輩の神人のようだ。思わず見てしまったこちらに気づいたのか、彼女と視線が合ってしまう。
「あは、ごめんなぁ。いきなり笑い出したら怪しいやんな」
「えっと、まあ……」
すると何かがツボに入ったらしく、その女性神人はまた笑った。
「ちょっとは否定してや~。けど笑うやん? こんなDM送られたら」
「アジサイ園の?」
「そう、それ!」
ほんま、店長お茶目さんやわー。
まだクスクス笑っている彼女はどうやら、この<さつきの喫茶>の店長を知っているらしい。それにしても、訛りの強い話し方だ。
「行ったことあるんですか? アジサイ園」
彼女は可愛らしく首を傾げた。
「んー、夏の向日葵(ひまわり)迷路やったらあるよ」
あれ? 季節が違う……。
その疑問が眼差しに乗っていたのだろう、彼女は続けた。
「ここな、季節ごとに何かが満開になって凄いねん。庭園もめっちゃ広くて」
「へぇ……」
では、パズルとは何なのだろう?
ついでに尋ねると、そのまんまや! と返ってきた。
「店長とスタッフさん、めっちゃパズル好きでな! 簡単やけど面白いパズル作ってくれるんや」
なぞなぞとか、クイズって言ったらイメージ湧く?
言われてみれば、そんな感じのイメージがぼんやりと湧いてきた。
「いっぺん、行ってみたらええと思うよ? 意外とパズルも面白いし」
アジサイも凄そうやなあ……。
呟いた彼女に礼を言い、とりあえず席を立った。気づけば休憩時間が終わりそうだ。
「アジサイとパズルか……」
騙されたと思って、一度行ってみようか。
解説
●詳細
アジサイを愛でつつ、パズルを楽しみつつ、花より団子ももちろんOK。
・朝一番の「アジサイを愛でよう会」
お茶のペットボトルと串団子のセットが付いて、60Jrです。朝一の会なので、参加者のみの貸し切り状態。
お茶:緑茶or紅茶、串団子:三色団子orみたらし団子、が選べます。
・パズルは初心者向けの簡単なものです。
ひらがなと漢字を使ったパズルです。参加されたカップルひと組に1つずつ、違うヒントが出されます。
答えは一緒ですので、途中で別のカップルと出会ったら相手のヒントを見せてもらうと良いかもしれません。
●プランについて
・通常のハピネスプランに加えて、パズルが得意か/好きか、といった嗜好を少し記載して頂けますと助かります。
(記載がない場合は、皆様のプロフィールを元にアドリブで書かせていただきます)
また、一般スキルをお持ちの場合はそちらも考慮いたします。
例1)言葉遊びは苦手だけど、雑学知識はあるかな?
例2)パズルは好きだけど、数字とひっかけ問題は苦手。
ゲームマスターより
●GMより
キユキと申します。
初めましての方もそうでない方も、エピソードをご覧下さりありがとうございました。
季節的にはちょっと早いですが、6月〜7月にかけて盛りの花でハピネスをひとつ。
みなさま、パズルはお好きですか? 私は某局で放映していたパズルアニメが大好きでした。
しかし私のパズラーレベルは上がりませぬ。探偵もパズラーも知識と体力必須ですね…(´・ω・`)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
かのん(天藍)
パズル:あんまり手を出した事が無いんです、植物関係ならお手伝い出来そうでしょうか? 職業柄と言い訳しつつ、花の傍にいる事が一番落ち着く(肩の力が抜ける感じ) 多様な品種が咲き誇っているので目移りしながら散策 店長と出会ったら他の時期の庭園の事等聞きたいが、姿を見つけても声をかけにくい 切っ掛けを作ってくれる天藍に感謝して、店長と紫陽花や、他の時期の庭園の花の話を 以前にも似たような状況があった事(バレンタイン時)を思い出し、天藍に気遣って貰ってばかりで申し訳ない気持ちを覚える せめてもと繋いだ手を少し握り返してみる 園内で、他の参加者と会った時は情報交換 雨の日に、改めて紫陽花を見に来ませんか?と天藍を誘う |
八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
数字パズルや熟考するものは得意 ひらめきが必要なものは苦手 最近、オーガ関連で大変でしたから、綺麗な花を見て息抜きしたいです。 でもパズルは真剣に解きますよ。 スキル:語学・計算でよく考え、会話術で他参加者や店長さんとの情報収集。 どうしても分からなければアスカ君の直感に賭けます。 パズルの後は緑茶とみたらし団子で一息つきましょう。 紫陽花には、家族団欒という花言葉もあるみたいですよ。 今の状況にはぴったりじゃないですか? アスカ君がうちに越してきてから数か月たちますが、今はもう本当の家族みたいに思っているんですよ。 あ、私何言ってるんでしょう!?ええと、む、婿とかではなくて… そう、私お兄さんが欲しかったんです! |
テレーズ(山吹)
アジサイですか!もうそんな季節になったんですね パズルも好きなので両方楽しめるだなんてとっても得した気分です 私は紅茶と三色団子にしますね 山吹さんて甘いもの苦手でしたよね?(期待の眼差し パズルは大得意って訳ではないですがあの閃いて視界が開ける瞬間がたまりません! スキルは語学と暗号解読があるので精一杯頑張ってみますね 他の方とあったらヒントを交換したいです みんなで協力し合えればきっと解けますよね 最近は色々と忙しかったのでこんなにのんびりできるのって久々ですね やっぱり私はこういうのんびりとした時間が一番幸せで大切です こんな日をずっと過ごせるように明日からまた頑張りましょうね、山吹さん |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 オーガとの戦いが私の最優先事項なのですが……。戦いより娯楽を求めるラダさんの希望と店長さんのノリの良さで、参加を決めました。 パズル 知識はそこそこあるはずですが、どうやら発想がズレているそうです。私が「パズル」で真っ先に連想したのは、危ないパズルボックスがキーアイテムのホラー映画でした。……うふふふふ。 行動 緑茶と三色団子をいただきましょう。 他の参加者さんと出会ったら、軽くご挨拶。ヒント交換もしたいですね。 パズルの解読には熱心に取り組みます。 うふふ、店長さんの明るいノリが好きです。よく誤解されますが、私だって楽しいことや愉快な空気も好きなんですよ。ええ、怖いものや不気味な雰囲気と同じぐらいに。 |
久野原 エリカ(久野木 佑)
アジサイ……か。 図鑑とかでしか見たことがなかったから、見てみたかった。 ……で、そこのバカ犬はなんでそんなにはしゃいでるんだ。散歩じゃないぞ。 パズル……簡単なものだといっていたが、どうだろうな。あんまりやったことない…… ……離れにあった本のおかげで、無駄に知識はあるのにな(自嘲気味に) ……あ、うん。頭脳面での期待はしてなかったから大丈夫だ(と言いつつポツリと教えてあげたりする。めっちゃ喜ばれるので照れるよ!) 一緒にお茶……いいな。 緑茶とみたらし団子で。 補足: 他人には人見知りモード発動。口調はいつも通りだが発言に「……」が増える。 そして祐の服の裾を僅かに掴む。 |
●庭園入り口にて
梅雨の晴れ間、とは言い難いが、時折雲の間から陽射しが射し込んでくる。
なだらかな丘の下り斜面。色鮮やかなアジサイが、まるで道標のように満開の盛りを見せていた。
「皆様、本日は『アジサイを楽しみながら、店長のとっておきを探す会』へご参加頂き、誠にありがとうございます」
わたくし、<さつきの喫茶>店長でございます。どうぞお見知りおきを。
白髪混じりの紳士然とした男性。ビニール加工を為された厚手のエプロンに、首元は手拭い、手元は軍手。腰のベルトに下がる革鞄からは、剪定用具と思しきものが幾つも覗いている。
どうやら、彼が例の店長のようだ。
「では早速……」
にこやかと笑った店長は、5枚の葉書を右手にしていた。誰も取り出したところを見ていない。
(えっ)
(手品……?)
葉書はそれぞれ『久野原エリカ』『かのん』『八神伊万里』『テレーズ』『エリー・アッシェン』へ手渡される。
始めに選んでいたお茶と団子は、『久野木佑』『天藍』『アスカ・ベルウィレッジ』『山吹』『ラダ・ブッチャー』へと渡された。
店長は葉書を手渡し空いた右手で、アジサイ園の向こうを指し示す。
「ちょうどこの方向が、アジサイ園の出口となります。パズルの答え合わせはそちらにて」
それでは皆様、いってらっしゃいませ。
美しい辞儀に見送られ、各々がアジサイの中へと足を踏み出した。
●花を愛でるか?
葉書の表には宛名のみが敬称で記されている。裏返して、エリカは首を傾げた。
力の右に足りない
(なんだ? これは)
漢字の問題、だろうか?
「うわあ、アジサイ凄いですね!」
(答えは植物の名前なんだろうが……)
「みたらし団子も美味しそうですよ!」
(……)
エリカは葉書から顔を上げ、佑を見た。彼は2人分のお茶と団子を手に、落ち着きなく行ったり来たりしている。
「……で、そこのバカ犬はなんでそんなにはしゃいでるんだ」
散歩じゃないぞ。
スパン! と小気味良く頭を叩く……のではなく、ガツン! と目の前の脛を蹴り上げた。なぜなら、彼の頭はだいぶ高い位置にあるのだ。途端に佑は悲鳴を上げる。
「あっ痛っ! すみませんはしゃぎすぎました!」
素直に謝ってきた佑だが、キラキラとした笑顔を向けてくる。
(なんでこのバカ犬はいちいち眩しいんだ……)
自分の分の緑茶とみたらし団子を受け取り、エリカは胸中で呟いた。間違いなく褒め言葉であるそれは、素直に口から解き放たれてはくれない。
周りを見れば、青や紫のアジサイが咲き揃っている。
(これがアジサイ……か)
図鑑でしか知らず、実物を見てみたかったのだ。酸性の土だと青に、アルカリ性の土だと赤の花が咲くのだと。
アジサイの株は、大きなものだとエリカの背よりも高かった。
そこで彼女は葉書の存在を思い出し、佑へと差し出す。
「これがパズルだ。解るか?」
「う……うーん、と……」
頭を捻る佑に見えないところで、エリカは解答が解らぬ己を自嘲気味に思う。
(……離れにあった本のおかげで、無駄に知識はあるのにな)
真面目に考えていた佑は、眉をハの字に項垂れた。
「うぅ……わかんないです」
「……あ、うん。頭脳面での期待はしてなかったから大丈夫だ」
「ひどいです……」
どうせ俺は頭使うの苦手で、昔から運動バカとか何かにつけて馬鹿馬鹿言われてたんで……。
エリカは些か拗ねてしまった佑から葉書を返され、ぽつりと呟く。
「漢字を組み合わせるもの、じゃないか?」
「え?」
「例えば、お前の名前は示偏と右で作られているものだ」
「……なるほど! エリカさんすごいです!」
尊敬の眼差しが真っ直ぐに寄越され、エリカは赤くなり心持ち後ずさった。
「こ、答えが解ったわけでは……」
「それでもすごいですよ!」
賑やかな声が、幾株も生い茂るアジサイの向こうから聞こえてくる。
土の作りに工夫があるのか、赤から青へグラデーションを描くアジサイの群れに気を取られながら、かのんは葉書を裏返した。
大に4つ足りない
盛大に?マークが浮かんでしまった。
「どんなパズルだ?」
ひょい、と天藍がかのんの手元を覗く。が、やはりすぐには解らないようで首を捻った。
「答えは植物……だよな?」
パズルっつーより、なぞなぞだな。
天藍は三色団子を手に取った。
「かのん、どれ食う?」
「えっと、では一番下のよもぎを」
上の2つは食べてしまって大丈夫です、とかのんは緑茶をひと口。ガーデナーとして長くやっているが、アジサイは見たことのない品種が多い。
「あ……」
庭園入り口で見た姿が、白いアジサイの一角にある。店長だ。
天藍はかのんが声を掛けようとして気後れしていることに気付き、仕方ねぇな、と1歩先へ行った。
「店長さん!」
「おや、これは天藍さんにかのんさん。如何ですか? 当園は」
「すげーな。アジサイの種類とか全然知らなかったぜ」
ほら、と天藍はかのんの背中を押す。
冬にもこんなことがあった、とかのんは申し訳無くなりながら店長へ尋ねた。
「あ、あの、こちらの庭園では他にどのような花に力を入れていますか?」
「はい。これからの季節であれば、朝顔と時計草、鬼灯や向日葵でしょうか」
続いて話題はアジサイへ。職種の重なる者同士、話題の途切れる気配がなく、天藍はモヤモヤしながら痺れを切らした。
「なあ店長さん。このパズルの答えって、出来上がる漢字のことではないよな?」
「ええ、その通りですよ」
店長は楽しげに笑い、軽く頭を下げるとアジサイ園の奥へと去っていった。
「天藍、答えが解ったのですか?」
教えて貰ったアジサイを探しに歩き出したかのんが、何かにつまづく。
「きゃっ」
「っと、」
咄嗟に両手を前に回した天藍が、転けそうになったかのんを支えた。
「危なっかしいな」
彼は拍子に繋いでしまった片手を、離しはしなかった。かのんは謝罪と感謝を込めて、少しだけその手を握り返す。
「あっ、店長さん見失った……!」
伊万里はきょろきょろと辺りを見回し、残念そうに手元の葉書へ視線を戻した。
女の右に足りない
この問題、スキル『語学』を用いても、漢字の問題であろうことしか見えて来ない。
「アスカ君、解りますか?」
「……うーん」
これは適当にやって解けるものでもなさそうだ。アスカは葉書から顔を上げ、首を捻る。
「あ、」
こんもりと茂るエゾテマリとムサシノの向こうに、別のカップルが見えた。
「あれ、テレーズと山吹じゃないか?」
伊万里とアスカはアジサイをぐるりと周り込む。
「もうアジサイの季節になったんですね」
テレーズは鮮やかなアジサイに、季節の移り変わりを思う。その隣で山吹が頷いた。
「本当に、時間の流れはあっという間ですね」
ふと視線を感じてテレーズを見ると、星の出そうな期待の眼差しがこちらへ向いている。その視線の先にあるものはというと、
「山吹さんって、甘いもの苦手でしたよね?」
団子である。園に足を踏み入れて早々、彼女は花より団子へシフトしたらしい。山吹はくすりと笑って、みたらし団子を差し出した。
「そうですね、苦手なので団子はテレーズさんが食べてくれませんか?」
「喜んで!」
彼女があまりに嬉しそうなので、今度は苦笑が出てしまった。
「相変わらず、花より団子ですね」
らしいといえばらしいですが、と続けて、そっと言葉に出さず呟く。
(貴方はそのまま、変わらずにいてくださいね)
テレーズは葉書の裏に書かれたパズルをじっと見つめた。
木の下に足りない
スキル『暗号解読』を用いてみるが、これは暗号ではないようだ。
「テレーズさん」
みたらし団子を頬張り悩むテレーズへ、山吹が声を掛けた。
「あれは八神さんとベルウィレッジさんでは?」
2人の右手にあるアジサイ群の向こうから、別の男女がやって来る。
「おはようございます、テレーズさん。山吹さん」
伊万里とアスカへ、テレーズと山吹も挨拶を返す。伊万里は直球に問い掛けた。
「あの、そちらのパズルを見せて貰えませんか?」
「もちろんです。あ、伊万里さんのも良いですか?」
「ええ、どうぞ」
交換された葉書を、それぞれにパートナーが横から覗く。
「こういうのって、常識に囚われない発想の出来る方が強いですよね」
山吹の言に、テレーズはうぅんと唸る。
「宝物でも埋まっているのかと思いましたが、これは……」
「店長、答えはどれも一緒だって言ってたよな?」
アスカの言葉に、伊万里が目を瞬いた。
「もしかして、この『女』と『木』に同じものを組み合わせる?」
あっ、とテレーズも声を上げる。
「漢字の作りと偏?」
2人はじっと相手を見つめ、次いでお互いににこりと笑った。
「ありがとうございます。テレーズさんのおかげで解けそうです!」
「こちらこそ! 伊万里さんのヒントでもやもやしたものが晴れました」
機嫌良くみたらし団子を食べ始めた伊万里に、答えが解ったんだろうなとアスカも三色団子に口をつけた。
(アジサイって、確か浮気とか移り気って花言葉があったよな)
俺が将来結婚とかして、もし浮気されたら……。
(あれ……なんで俺、相手こいつで想像して……?)
うっかり伊万里を見てしまったアスカは、彼女と目が合い動揺する。それに感化されたか、伊万里も内心で慌てた。
「あ、アジサイには、家族団欒という花言葉もあるみたいですよ」
今の状況にはぴったりじゃないですか?
「アスカ君がうちに越してきてから数か月経ちますが、今はもう本当の家族みたいに思っているんですよ」
あ、私何言ってるんでしょう!? ええと、む、婿とかではなくて……。
「そう、私お兄さんが欲しかったんです!」
必死に言葉を紡ぐ彼女がおかしくて、アスカはこっそりと笑った。
紅茶を飲んで、三色団子でほぅと肩の力を抜く。周囲には咲き誇るアジサイ。
「あら」
「おや」
テレーズと山吹は、また別の男女と鉢合わせた。
「おはようございます」
「ヒャッハー! おはよぉ!」
エリーとラダだ。何とも不思議なカップルと、早速葉書を交換する。
矢の右に足りない
パッとテレーズが満面の笑みを浮かべた。
「やっぱり!」
どうやら彼女は解答が閃いたようだ。
(この、閃いて視界が開ける瞬間がたまりません!)
一方のエリーは、テレーズの葉書にこんなことを思った。
(木の下に足りない……木の下に死体が埋まっていないというの?)
怪談の定石、桜の下には死体がという話である。が、今必要な話ではなかった。
「うふふ。ありがとうございます、テレーズさん」
2人と別れて、エリーは葉書をラダへ渡す。
「解りますか?」
「ウヒャァ……無理」
即答された。
「諦めるのが早いですよ」
三色団子を食べていると見覚えのある男性の背中が見え、エリーは咄嗟に声を投げた。
「店長さん!」
「これはエリーさんにラダさん。調子は如何ですか?」
「他の人のヒントを見せて貰いましたが、難しいですよ~」
そう言うと、店長は茶目っ気たっぷりに人差し指を唇へ。
「ではもうひとつヒントを。仕えるという漢字は、『人』と『士』で出来ていますね。つまりエリーさんのパズルですと……」
「矢と何か?」
その通りです、と頷かれ、やる気を取り戻す。
「アジサイには関係ありますか?」
「咲く時節が近いくらいでしょうか」
街でも見掛けるマチルデグッケス、可憐なヒメアジサイ。そして幾重にも白い額が重なるスミダノハナビを見て、店長は再度口を開いた。
「白い花、ですよ」
もぐ、とみたらし団子を食べたラダは、白いアジサイを物珍しげに見てから、またエリーへ視線を戻す。
(息抜きはもちろんだけど、エリーの挙動観察もボクの目的だよぉ)
気づけば店長は居なくなっていた。ラダは思わず口にする。
「……エリーも普通に話すんだねぇ」
彼女はラダを振り向き、ふふふ、と微笑った。
「よく誤解されますが、私だって楽しいことや愉快な空気も好きなんですよ」
ええ、怖いものや不気味な雰囲気と同じぐらいに。
●店長のとっておき
アジサイ園の出口に参加者たちが集まった。店長はでは、と手を叩く。
「私のとっておきの植物は何でしょうか?」
せーの、と音頭を取られ、釣られて口を開いた参加者は4人。
「「「クチナシ!」」」
かのん、天藍、伊万里、テレーズだ。店長はぱちぱちと拍手を贈る。
「はい、正解です」
すべてのパズルに『口』が無いのですよ。
「アヒャヒャ、なるほど!」
ラダが納得して葉書を見直した。
『加』『器』『如』『杏』『知』
葉書ではそれぞれの元となった漢字に、『口』が無かった。つまり口無し……クチナシ。
「では、参りましょうか」
店長に着いて、アジサイ園の奥へと足を進める。
しばらくしてふわ、と何かが香った。テレーズはきょろりと頭(こうべ)を巡らせる。
「何か……甘い匂いが」
「ええ、確かに」
山吹も同じく、香る甘い何かに気づいたようだ。足を進めるほどにその芳香は強くなる。
先頭を歩く店長が振り返った。
「先ほど皆様がご解答された花の香りですよ」
そうして彼が指差した先。人の背丈よりもやや高い木々と、奥の方には腰付近で剪定された垣根。
それぞれに、真っ白な花が咲き誇っていた。クチナシだ。
木々には幾重にも重なる八重の花弁で、手のひら程の大きさもある花が。
「これは八重の品種で、実がなりません。ですが薔薇のように豪奢に咲くため、一輪で場を創ることが出来ます」
顔を近づけてみたかのんは、花のひとつをじっくりと見る。
「色が違う……?」
目の前の花は真っ白だが、隣の花はやや黄色味がかっていた。
「花の咲く期間が長くなるにつれて、黄色くなるのですよ」
「アジサイにもそういうのがあったな」
天藍はアジサイ園の一角を思い出す。
そのすぐ傍、エリカは手で鼻を覆った。近くに別の参加者が居るため、反対側の手で佑の上着の裾を掴んでいる。
「あ、甘ったるくて……酔いそう……」
「そうですね、ちょっと匂いがキツイです」
佑は服の裾を掴む指先に気づかないフリをして、小さく笑った。
2人の感想に、店長はまだまだ、と愉快そうだ。
「クチナシの香りが一番強いのは真夜中です。こんなものでは済みませんよ」
「真夜中に見たら……白く浮かび上がって良い感じでしょうね……」
うふふ、と微笑んだエリーに、ラダはビクリと肩が震えた。
垣根のクチナシは一重で、大きさも八重のものより小さい。
「こちらは実がなります。実は、たくあんやきんとんの色付けに使われているんですよ」
「食べものだったのか……」
アスカが思わずそう零し、伊万里は一重のクチナシを指でつついた。
「クチナシの花言葉は、『喜びを運ぶ』……ですね」
甘い香りは、まだ強く香っている。
●帰り道
「……楽しかったか? バカ犬」
ぽつんと尋ねてきたエリカに、佑はきょとんとしてから破顔した。
「楽しかったです!」
エリカさんと一緒ならどこでも!
彼の輝くような笑顔はエリカには眩しく、そして温かい気がした。まだ、あのクチナシの匂いが周りに残っている。
そうして身体に残ったクチナシの香りが、少しだけかのんの心を推した。
「あ、あの、天藍」
「なんだ?」
「雨の日、に。また改めてアジサイを見に来ませんか?」
アジサイは雨にこそ美しく映える。かのんの誘いに、天藍はもちろん首肯した。
「傘は大きめの1本で良いよな」
返された言葉に不意打ちを食らい、かのんは頬を染めた。
店長のとっておきを当てることが出来た伊万里は、すっかり満足しているようだ。そんな彼女を横目に、アスカは眼差しを伏せる。
(家族、か。いいのかな、俺が新しく家族になっても)
アジサイ園で伊万里が告げてきた言葉が、頭の中で回っていた。
(元の家族のこと、まだ忘れられないし……)
でも、それでもいいなら、兄がわりくらいにはなってやる。
そう思いながら空を見上げると、雲の合間から日が射し込んできた。
日差しは次の季節を思わせ、少し暑い。
「やっぱり私は、こういうのんびりとした時間が一番幸せで、大切です」
テレーズはアジサイ園を振り返り、改めて口にした。
「ええ。こうして何事もなく過ごせる日というのは、大事にしたいですね」
山吹がそう返せば、彼女は楽しげに笑った。
「こんな日をずっと過ごせるように、明日からまた頑張りましょうね、山吹さん」
やっぱり、息抜きは大切だ。
エリーが店長と明るく話す様は、ラダには結構な衝撃だった。
(正直にいうとねぇ、ボクはエリーが少し怖いんだ。不気味だし、なぜかオーガに執着してるし……)
けれどそれは、彼女の一面でしか無いのだと気づいた。
「さぁて、爽やかな朝も過ぎました。今日も1日、元気にすごしますよ」
うふふふふ。
彼女の不気味な笑い声も、今はいつもより明るく聴こえる。
不意に全員の携帯電話やスマホにメール通知が入り、各々が首を傾げてメールを開いた。
同時刻一斉送信のそれは、<さつきのきつさ>からのもので。
ーーーーー
件名:
アジサイを愛でる会参加者の皆様へ
本文:
本日はご参加ありがとうございました。
アジサイの盛りは6月末まで続きます。
雨の日に再度ご来店頂くと、カタツムリの
出迎えサービスが無料オプションとなりますよ(^ω^)
それでは皆様、またのお越しをお待ちしております(`・ω・´)キリッ
<さつきの喫茶>店長より
ーーーーー
(((店長、歪みない……)))
誰かが堪えきれずに吹き出した。
さあ、1日が始まる。
End.
依頼結果:成功
MVP:
名前:テレーズ 呼び名:テレーズさん |
名前:山吹 呼び名:山吹さん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | キユキ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月01日 |
出発日 | 06月09日 00:00 |
予定納品日 | 06月19日 |
参加者
会議室
-
2014/06/05-19:11
うふふぅ、はじめまして。よろしくお願いします。
テレーズさんとは、学校潜入任務で面識がありますね。またお会いできてうれしいです。
エリー・アッシェンと申します。
こちらはテイルスのラダさんです。
店長さんのノリの良さにつられて、参加することにしました。うふふぅ~。
ギルティの復活などで空気が張り詰めていたので、こういうゆったりとした余暇の時間をすごすのも悪くないですよね。
庭園で皆さんとお会いしたら、ヒントの交換などできれば良いと思っています。 -
2014/06/05-13:23
初めまして……。
久野原、エリカ。こっちは、精霊の久野木 佑……。(人見知りモード発動中
アジサイ園がちょっと気になったから参加することにしたんだ。
……なぜかバカ犬がウキウキ張り切ってるんだが。
……よろしく。 -
2014/06/05-01:25
初めましての方は初めまして。
テレーズと申します。パートナーは山吹さんです。
花より団子になりそうな予感もしますが、頑張ってパズルも解いてみようかと思います。
向こうでお会いしましたらよろしくお願いしますね。 -
2014/06/04-21:21
はじめまして。
伊万里さんお久しぶりです、テレーズさんは引き続きですね、皆様よろしくお願いします。
庭園に咲き誇る紫陽花、これは見逃せないとパートナーの天藍と参加してしまいました。
当日、園内でお会い出来たら、ヒントの交換が出来ると良いなと思いつつ。 -
2014/06/04-07:11
はじめまして、かのんさんとテレーズさんはお久しぶりです。
八神伊万里とパートナーのアスカ君です。
ここのところ、オーガ関連で大変でしたから、パズルと花で少し息抜きしたいですね。
皆さんよろしくお願いします。