祈望の神楽殿(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

タブロス全土で頻発するオーガによる事件。
A.R.O.A.の情報収集とウィンクルムたちの働きにより、救われた場所も今や数知れず。

しかしオーガによる被害から(一時的とはいえ)解放されても、まだ本当の解決と言えない場所もあった。

そんな場所の一つ、タブロス市から少し離れた森の近くにある神社の神主だという一人の男性が
本部の受付を訪ねていた。

「お願いします……!どうか、どうかっ、ウィンクルムの皆様のお力を、今一度……!!」
「頭を上げて下さい。こればかりは、本人たちのやる気次第でこちらからは概要を話してみるだけになりますので……」

 すでに一通りの話はし終えているようだ。
もしも最初から通りがかっていたらば、こんな話が耳に聞こえてきただろう。


 以前はデミ・オーガの脅威から村を救って頂きありがとうございました!と、まず放たれたのは感謝の言葉。
しかし続いた言葉のトーンは、若干落ちたものであった。

何でも、
デミ・オーガはその後村にも周辺にも出ることはなくなった。
だが、村人や周囲に暮らす人々にはオーガの恐怖が刻まれてしまい、とても以前のような活気は無くなってしまった、とのこと。

少しでも皆に希望を思い出させようと、神主の男性が仕える神社にて神事を、神楽舞を執り行おうとした。
神社の境内には古くからある立派な神楽殿があり、以前はよく人々が訪れ神楽舞がなくとも明るい声や灯された火が途切れる日は少なかったと。

ところがその神楽殿で舞を執り行おうとしたところ、次々に舞をする巫女たちが怪我をしてしまったらしい。
どうやら、デミ・オーガが来襲した際にいつの間にかその神楽殿も、所々破損されていたようで。
巫女の怪我はあくまで、支えがもろくなって落下した板や飛び出た木切れが原因であった。
しかし、見に来た人々の間で「オーガの呪いだ!」という噂がたちまち広がってしまったとのこと。
ただでさえオーガの恐怖がまだ色濃く残っていた心に、その噂が浸透してしまうのも無理のない話だった。

そこで神主は考えた。
ウィンクルムたちの、あの勇敢な姿とて人々の心に残っている。
オーガの恐怖を、ウィンクルムたちへの希望に塗り替えることは出来ないかと。

「あのウィンクルム様たちが纏うオーラ、あれはまさに神の祝福を受けているようでした……!」

 話しているうちに思い出したのか、若干興奮気味に叫ばれた神主の声がフロア内に響いた。
あの輝きを間近で見れば、きっと人々の心も満たされるに違いない。
ウィンクルムたちに、神楽殿に上がってもらえないか、というのだ。

舞を舞う必要はない。
神楽殿の後ろ階段からトランスして上がり、舞台に立ち、正面階段を下りて人々の間を歩いてもらえれば良いと。

「神楽殿はもうほとんど修復は完了しています。
 これで、ウィンクルム様方が上がって無事に下りてくれば、オーガの呪いという噂による不安も消え、
 通常の巫女たちも怖がらずまた舞を踊れるようになりますし」

 うむ。完全に見世物だな。
受付職員の、話を聞いた端的且つ正直な感想だった。

「神楽を奏でる楽士などは無事ですし、人々に希望を取り戻す為なら
 ウィンクルム様方が歩く際に是非とも演奏させてもらいたいとも仰ってくれていますっ。
 巫女装束など、少しでも神々しく見える衣装などもこちらでご用意させて頂きますので……
 何卒……何卒……!」

 演出まで付いた。


 程なくして、ようやく神主を見送った受付職員は
さてウィンクルムたちにどう説明したものか……と後頭部を書きながら
任意召集をかけにその場を動き出すのだった。

解説

●とある神社にて
 トランスして舞台に上がって下りて境内をちょっと歩く、という簡単なお仕事です。
 神人様は巫女衣装、精霊様は衣冠のような衣装(まぁつまり小袖に袴)をご用意。

 トランスする瞬間は、神楽殿の後ろ階段、つまり人々が集まる正面とは反対側なので
 その瞬間を見られることはありません。ご安心を。
 しかし、これも良い演出!とあえて舞台に上がってから人々の視線集まる中トランスする、という
 まるであたかも神道結婚式気分を味わいたい、というウィンクルム様も歓迎致します。

 神楽殿を下りる際は、出来れば手を取り合って下りていただくと
 きっとオーラが重なり合って、更に神々しさが増すことでしょう。

 また 境内には御神籤、絵馬なども通常通り販売しております。
 おつとめ頂いた後などよろしければどうぞご利用下さい。
 ウィンクルムの皆様には半額にて、提供させて頂きます。

 ウィンクルム様方のお越しを、心よりお待ちしております。
 日時が決まりましたらご連絡下さいますと嬉しい限りです。
 村人や周辺の人たちに声をかけ、集まるよう申し伝えますので。

 どうか、未だ黒いモヤに囚われた人々の心を明るく照らしてもらいたく存じます。


                       (意外とちゃっかりでノリノリな)<神主より>


●神楽殿に上がる際は、一組ずつ順番に。
 一組が下りる頃に次の一組が上がる、という流れ。
 相談にて上がる順番を決めて頂いても構いません(トップバッター任せろ!など)
 特に希望がない場合は、こちらでノリもといプラン拝見しつつ執筆の流れに任せ決めさせて頂きます。

●【おみくじ 10Jr】
 【絵馬 20Jr】 ※どちらも半額値段
 境内にそれぞれを付ける小さなご神木あり。
 くじ結果にご希望があれば、プランにご記載下さい。
 お任せの場合GMがノリで(ry

●トランス時のオーラ描写
 決まっている色や描写がある場合は、プランに記して頂ければそのまま反映させて頂きます。
 記載なしの場合設定等からGMがノ(以下同文)

ゲームマスターより

 神社は好きですか?好きですっ。神事は好きですか? 大 好 き で す 。

お世話になっております、蒼色クレヨンです。
ここまでご拝読頂き誠にありがとうございます!

ジャンル「ロマンス」にしたはずなのにな……
どうして自分が書くとコメディ風味になるのか未だに謎です。

戦闘時以外のトランスということで、いつも以上に照れて頂いてもヤケになって頂いても
おいしく頂戴致します。
人々の間を歩くときの独自の演出なども大歓迎!

個性あふれる皆様の結婚しk、ぁ違うっ、えーと、希望に溢れる勇姿をお待ちしております☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  えっと…舞台に上がって…その…キス…いえトランスですね!!っていうのはちょっと恥ずかしいですが村の皆さんの心を穏やかにすることができるなら。是非やらせてください。
…でもこんな風に恥ずかしいのって私だけなんですか?イヴェさんはやっぱりトランスをするってだけなんでしょうか…それはなんだか寂しいです…。
私だって女の子です。やっぱり恋や愛に憧れたりもしますし。なによりイヴェさんとそんな関係を築けたらなって思ってます…。

あ、絵馬があるんですね。お願い事を書いておこうかな。
『イヴェさんともっと仲良くなれますように』
結局は自分の頑張り次第なのですけど…お願いにして書くとなんだかもっと強い思いになりますよね。


メーティス・セラフィーニ(ブラウリオ・オルティス)
  私たちはこの村を救ったウィンクルムではありませんが、力になれるのなら頑張ります

お、思っていたより人がいますね、緊張してきました
それよりもトランスの方が緊張します…うぅ、確かにぶっつけ本番よりは良いですけど!

あの…屈んでください
きれい…。…オルティスさん?
…!!い、いきますよっ!皆さん待ってます!
咄嗟に手を取って引っ張る

…あんな表情、初めて見た
なんでだろう…思い出すと落ち着かない
あ、手繋いだままだ…

なんというか…ウィンクルムってすごいですね
私、神人として覚悟が足りないのは分かっています
でも…この人たちの笑顔は守りたい、って思うんです

小さい子供には、もう大丈夫ですよって笑顔で小さく手を振る


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  心境:
 歩くだけって言われたけど。
 結構、距離が……。


行動:
 神楽殿の立派な造りに、やや興奮。

 着替えた精霊の姿に、「神様みたい……」と思わず呟く。
 ルシエロが美丈夫だと再認識した。
 対して、自分の格好は問題無いのか不安。

 状況の違いで、いつもより恥ずかしいと思いつつトランス。
 手を握られ、ビクッと肩が跳ねる。
 言われた言葉にはなんとか頷く。
 精霊の手の温かさに意識が向かい、周囲の音が遠い。
 言われた言葉を反芻し、自分に言い聞かせながら歩く。
 前を向き、こけないように心掛ける。
 けれど、やっぱり人の多さに気が引ける。

 元の服装になった精霊の姿にほっとした。

 一緒に籤を引く。
 結果次第で結ぶ。



楓乃(ウォルフ)
  あ、これが用意された巫女服ね。似合うかしら…?
着替え完了♪ウォルフの方はどうかしら?

わぁ…ウォルフ素敵!よく似合ってるわ!
こんな姿見たことなかったからなんだかどきどきしちゃう…。

さ、そろそろ出番だから行きましょ!
なぁに?ウォルフったらどうして動かないの?みんな待ってるわよ?(あ!もしかして緊張してるのかしら?)
大丈夫!ちゃんと私がフォローしてあげるから!
え?もういいって?…変なウォルフ。

【行動】
神楽殿の後ろの物陰でひっそりトランス。観客の皆さんににっこり笑顔。ウォルフと手を取り合って神楽殿を下りる。
名残惜しくてウォルフと手をつないだまま。
おつとめ後二人でおみくじを引いてお互いのおみくじを交換。


●心の準備

 神主による誇張とすら言えたかもしれない事前告知により、件の神楽殿の正面には村のほとんどの人々と噂を聞きつけた周囲の町の人々が、お互い時折視線を合わせながらその時を待っていた。
本当に大丈夫なのだろうか、いくらウィンクルムとはいえ、呪いに遭ってしまったら……
そんな澱んだ空気がいまだ境内を覆っていた。

 各々に衣装を渡しそわそわと待機していた神主は、境内家屋の廊下に掛けられた古時計を見やり。
襖の並ぶ部屋の前にて声をかける。
「いかがでしょうか?そろそろお出になれますでしょうか……ああ、こちらの組みはもう大丈夫そうですね」
 ちょうど神主が声をかけ始めたのと同時に襖が開かれれば、巫女衣装をまとった淡島 咲と衣冠の着物を着こなしたイヴェリア・ルーツが姿を見せた。
「ご準備が整ったのであればご案内したいのですが。段取り、なども大丈夫ですか?」
 神主が窺う。
「えっと……舞台に上がって……その……キス……いえトランスですね!!
 っていうのはちょっと恥ずかしいですが、村の皆さんの心を穏やかにすることができるなら。
 是非やらせてください」
「おおっ。舞台の上でなさって頂けますか!一番最初の方にそうして頂けると、皆もきっと喜ばれると思います!」
「見世物状態なのは少々気に食わないが。トランスのオーラで心を穏やかにできるのなら……仕方ない」
 咲の気合を見ればイヴェリアも了承の意を唱える。そんな淡々と述べるイヴェリアをチラリと横目で見る咲。
 (こんな風に恥ずかしいの、私だけなんでしょうか……イヴェさんにとってはやっぱりトランスするだけの……)
咲の寂しそうな表情になったのに気づき、イヴェリアがやや片眉を上げ困惑顔になる。
「…どうした?サク。緊張してきたのか」
「あ、いいえ……!その、イヴェさん、とても似合うなって……」
 嘘では無かった。日頃は黒いチャイナに身を包むイヴェリアの、普段と全く違った印象の姿に改めてはにかんだように見つめる咲。
その言葉にホッとしたように笑みを漏らせば、イヴェリアも目を細め。
「なに……サクのその姿には及ばない」
(このような姿のサクと、トランス以外でキスできる機会も早々ないしな……)
咲の心イヴェリア知らず、逆もまた然り。
気を取り直し、神主の後に続いていく二人であった。

 まだ開かれない襖の一つ。畳の部屋の中に衝立が立てられ、同じタイミングで着替え終わったらしい組みが衝立から歩き出し、
まだ部屋内で互いの装いを確認していた。
「やれやれ。結構お気に入りのもの多いんだが」
 自前の装飾は一切外したことに、冗談交じりに肩をすくめて出てきたその姿に。
「神様みたい……」
 ひろのは自分の精霊であるルシエロ=ザガンの出で立ちに、ぽろっとそんな一言を漏らした。
意外そうにひろのの言葉に目を見張るルシエロ。
己を避け気味な神人に気づいているルシエロは、聞き慣れない素直な言葉に、ふ、と息を吐き笑う。どこか嬉しそうに。
「神人はお前だろうが」
「あ、いや。私は……なんか服に着られてる、ような……」
「そんなことないだろ。孫にもなんとかってな。結構良いと思うぞ」
「……褒めくれてるのかな……それ」
「当然」
 あ、ありがとう……と落ち着かなそうに下を向くひろの。
そこへ神主から声がかかる。
「今、お一組みが舞台に向かわれました。整った方はどうぞ続いておいで下さい」
「よし。行くか」
「う……っ」
 足を中々前に出さないひろのを押しながら、ルシエロは襖を開け放った。

「あ、これが用意された巫女服ね。似合うかしら……?」
 ひろのたちが着替え終わる少し前、その隣りの部屋では楓乃のワクワクした声色が響いていた。
衝立の向こうからは別の声が聞こえてくる。
「ん?これが今日着る衣装か。あんまこーゆーの着ねーんだけど……」
「ウォルフ、大丈夫?着方分かる?」
「な、なんとかする……」
 簡素な衣冠とはいえ、常日頃が布を被るか巻くかといった服装である精霊ウォルフにとっては若干複雑な衣装であるようで。
大抵こういった着替えは女性の方が遅れがちだが……
「着替え完了♪ウォルフの方はどうかしら?」
「!?あ、あぶねぇな楓乃!女がいきなりそんなマネするなよ!」
 ちゃかちゃかっと着替えた楓乃が衝立を覗き込んだのと、ウォルフが着替え終えたのはほぼ同時だったようだ。
これっぽっちも気にしていない風で、まじまじとウォルフを眺める楓乃。
「わぁ……ウォルフ素敵!よく似合ってるわ!」
「そ、そうか?へへ、サンキュー。その……お前も割と似合ってんじゃねーの?」
「本当?!嬉しい!」
 ほのぼの、と微笑み合う楓乃とウォルフ。しかしてその心中は。
(こんな姿見たことなかったから……なんだかどきどきしちゃう……)
(いつもと違うからか何か……。だーっ!!静まれ心臓!)
中々の模様。神主に呼ばれるまでに果たして収まるであろうか。

 3組目の楓乃とウォルフが神楽殿裏側に到着して間もなく、皆が待機しているそこへ
メーティス・セラフィーニとその精霊ブラウリオ・オルティスも姿を見せた。
全てのウィンクルムが揃ったのを見て、神主が静かに頭を垂れる。
「舞台に上がる順番は到着された順、でお願いしようと思います。
 それでは皆様、どうか、どうか集まった人々の心を……」
「力になれるのなら頑張ります」
 自身の巫女姿におかしなところは無いか、そわそわ確認していたメーティスは神主からの言葉に慌てて背筋を伸ばしてそう返す。
神主が正面で待つ人々の元へと挨拶に向かったのを見てから、こそりと台座の柱の影からそちらを覗き見る。
「お、思っていたより人がいますね、緊張してきました……」
「メーティスの巫女姿はどこもおかしくないから大丈夫。本当に神々しいと思う……から。胸張って歩くといいよ」
「それよりもトランスの方が緊張します……うぅ、確かにぶっつけ本番よりは良いですけど!」
「…………うん。そうだよね。でもほら、見られることはないから。出番まで深呼吸しようか」
 気持ち強調して、勇気を出して送った賛辞が本人によりあっさり流され、ブラウリオの背中に一瞬哀愁が流れた。
しかし緊張高ぶるメーティスを支えるため、すぐに気を持ち直せば安心させるよう穏やかに声をかけ続けるのだった。

●その絆 希望なり

『貴方にすべてを捧げる』
頬への口づけと共に……
青く、碧く、どこまでも澄んだ湖のような青色が咲とイヴェリアを包み込んだ。
閉じていた瞳を開けば、オーラに同調するかのように益々青色を称え、その中に最初にイヴェリアを映し出し、そして人々を映し込んだ。
(この時、裏階段下にて「ええ!?舞台上で!?」「わわ私、私には……!」「落ち着け」「しなくていいから……」と
 声が上がったのは幸い人々には届かなかったとか)
「わ……まるで水の妖精さんみたい……!」
 不安げに母親の手を握っていた女の子が、吸い込まれるようにただただ咲とイヴェリアを見つめる。
「なんて穏やかな光でしょう……」
 静かに、ゆっくりと足並みを合わせ手を携えた二人が降りてくれば、両手を握って祈るような老人の姿も見える。
微かに震える手を握り締めてくれる、その温かさを確認しながら咲は人々へ笑みを保ったまま想う。
(まるで私たちが祝福されてるよう……イヴェさん。私はイヴェさんと、そんな関係を築けたらなと思うんです)
青い光が、咲の想いに反応するかのように繋がれた手からイヴェリアへと光の帯を走らせる。
その先には人々へ、咲の横顔へ、うっすらと微笑むイヴェリアがいるのだった。

『誓いをここに』
順番だ!と意識してからどうにも硬直状態であったひろのは、やっとの思いでルシエロの頬へと唇を落とす。
その瞬間、吹き付けるような荒々しいオーラが二人以外寄せ付けぬようするかのように、一度囲むよう巻き吹きすさぶ。
まだ数度のそのオーラ現象に、いつもなら少々の動揺した顔を向けていたひろのだが今やそれどころではない。
口付け達成したものの、その行為の余韻とこれから人々の前に出るという緊張で頬が赤い。
(オーラの色のせいか……照れてるのかいまいち分かりにくいな)
その強ばった表情を見つめながら小さく首を傾げるルシエロ。
ひろのが落ち着くのを待っていては日が暮れる、と判断すればぐいっとその手を掴んで階段に先に足をかけ。
「いいか。オマエじゃなく、このオレに視線が来てると思え。
 俯くなよ。顔を上げていろ。何、後はこけなければ如何とでもなる」
 突然繋がれた手に一度びくりと肩を震わせるも、ルシエロの発言に目を丸くし、ただ大きく頷くひろの。
それを確認すればルシエロがひろのの手を引く。舞台へ堂々と立つその姿に人々の視線は集まる。
「なんだろう……すごく、激しいけど……太陽の光を浴びた大地、みたいに温かくて安心する」
 荒々しい風も止み、階段を降りる頃には大地に芽吹く若草のような、緑と山吹色が寄り添うようなオーラとなって、人々は息を呑む。
そんな人々の近くを通る際に、恭しく、一つ一つ丁寧な動作で一礼するルシエロとは対照的に、
近いっ、見られてる……っ、と今にも歩みが止まりそうになりながら、階段を上がる直前に言われた言葉を反芻しどうにかひろのは歩き切るのだった。

『ネオ・インスパイア』
階段下でもまだ他のウィンクルムがいることで人目がある、と、更に物陰に隠れてどうにか頬へのキスを承諾してくれたウォルフを引き連れて。
「さ、そろそろ出番だから行きましょ!……あら?ウォルフ?」
 楓乃は固まっているパートナーに気づく。
「みんな待ってるわよ?」
「わ……分かってる……!」
 その声色と表情から明らかに緊張していることを察すれば、ウォルフの正面に立ちその両手をきゅっと握り締める楓乃。
「大丈夫!ちゃんと私がフォローしてあげるから!」
「……あ?フォローってなんだよ。ったく、人の気もしんねーで……。もういい。行くぞ」
「え?いいの?……変なウォルフね?」
 男として楓乃にフォローをされるワケにはいかない!
そんなプライドにてどうにか己を奮い立たせれば、楓乃に握られて片方の手を自ら引いて階段を上がるウォルフ。
舞台中央まで歩いてくれば、観衆へとにこっと優しく笑みを向ける楓乃。
その笑顔につられるかのように、ウォルフの空気が変化する。真っ赤な火を連想させるオーラに青い炎が混ざったように変化し
安定すればその静かな炎は人々の目を魅了する。
(まだ……つないでいても、いいかしら……)
緊張感でそれに気づいていない様子のウォルフをちらりと見てから、人々の前まで来てもこっそりとそのまま。
「あの、その光熱く、ない?握手しても、平気!?」
 歩み寄った先に居た小さな男の子が、目をきらきらさせてウォルフを見上げてくる。
「お、おぉ……」
 使命感と緊張感から、素直にその手を取るウォルフの姿を人々の嬉しそうな視線と一緒に楓乃も見つめるのだった。

 すでに楓乃とウォルフが階段を下り始めている頃、まだトランスの準備に手間取っていた最後のウィンクルムがいた。
「……メーティス、そろそろだけど……」
「は、はい……ちょ、ちょっと待ってくださいね……っ」
 すーはー、すーはー、と一生懸命深呼吸を繰り返す神人の姿を微笑ましく見つめるも……
(そんなに、俺とトランスするの嫌かな……)
顔には出さないようにするものの、普段の垂れている耳が更にいつもよりしょんぼり気味に見えるブラウリオ。
トランスせずに上がるしかないか、と諦め始めた時に声がかかった。
「あの……屈んでください」
 危うく尻尾が跳ね上がりそうになるのを堪え、あくまで微笑を浮かべたままブラウリオは膝を曲げた。
『Great burnet』
 メーティスの口がブラウリオの頬へと触れたその瞬間、やわらかな風と共に薄緑の花びらが舞う。
そして花びらたちの後を追うように、金色の帯が二人を優しく覆っていった。
初めてのトランス。時間が止まったように思わず見つめ合うメーティスとブラウリオ。
「きれい……」
「俺の目の色と同じ、だね」
 呟いたメーティスは、同じように呟いた隣りへと視線を移せば、大きく目を見張る。
自分を見つめるブラウリオの顔が、瞳が、刹那憂いを帯びているように見えたのだ。
「……オルティスさん?」
「ん?大丈夫?落ち着いた?ほら、順番のようだよ」
 見間違えだったのだろうか、と思う程いつもの余裕のある笑みでメーティスの手を取るブラウリオに何故か心拍数が上がって。
「そ、そうです!皆さん待ってますよ!」
 メーティスは動揺を隠すように自らぐいぐいとその手を引っ張って。舞台へと並んで上りつく。
(危ない危ない……)
いつもは自分へと申し訳なさそうな、寂しそうな色を秘めていたメーティス。
その口から純粋に自分への素直な感想が聞けて、それが自分の瞳と同じ色であるオーラに対してで、
ブラウリオは咄嗟に潤う瞳を誤魔化したのだった。
凛とした二人の金色のオーラが、穏やかに二人自身を、その場にいる人々を照らしていく。
両親の後ろに隠れていたまだ不安そうな小さな姉妹に気づけば、メーティスは手が繋がれていない方の掌をその子供たちの方へと向け。ひらり。
「もう大丈夫ですよ」
 照れたような、輝いたような顔になった子供たちに両親たちも安心したように微笑む。
そんなメーティスの仕草に、愛おしそうにこちらもこっそりと……指を絡ませるようにブラウリオは繋ぎ直すのだった。

●お勤め後

「あ。絵馬があるんですね。……イヴェさん、ちょっと書いてきていいですか?」
「あぁ。もちろん」
 すっかり活気が戻り、まだ人々の会話で明るい境内の横道へと進んでいく咲。
すぐそばの木に寄りかかるように待っているイヴェリアへと一度視線をやって。
(結局は自分の頑張り次第なのですけど……お願いにして書くとなんだかもっと強い思いになりますよね)
咲は真摯な字で絵馬へと想いを込める。
『イヴェさんともっと仲良くなれますように』
それを大事そうに持っては近くの御神木へと吊るす咲の姿を、満足そうに優しくイヴェリアは見つめ続けていた。

ようやく元の服装に戻ってはぐったりしているひろの。
着替えては家屋から出てくると、すでにすっかりいつも通りな装いのルシエロを捉えてどこかホッとした表情になる。
「お疲れ様、ルシエロ」
「……ルシェ、と呼ぶんじゃなかったのか?」
「あっ……ちょ、ちょっとまだボーっとして、て……」
「あの電話の一件の時、自分で言ったんだろう。頑張れよ」
「えーっと……、あ!籤引、あるみたいだ。ルシェも、やる?」
「……無理矢理カンはあるが、まぁいいだろう」
 ルシエロが歩き出したのを見ては胸を撫で下ろし、籤のある台までやってきて。
引く。仲良く同時に。
「……あ。大吉」
「末吉だと……」
 ひろのが少し口元を綻ばす。その手元を覗くルシエロ。
『さきを楽しめ。おもひごと叶う』
「いつも昼寝に費やさず物事を楽しめということだなつまり」
「そんなこと……っ、……え、そうなのかな……。ルシェは?」
 ルシエロ、渋々といったふうに手元を見せる
『因縁因果の理をしれ』
「……絶対まんまだよね」
「オレ、結んでくるわ」
 そんなルシエロの背中を見送り、籤を大切にポケットをしまうひろのが居た。

「ちょっと名残惜しかったわね。ウォルフのあの格好」
「動きにくいことこの上無かったぜ……」
 笑顔で籤を引く楓乃とげっそり気味のウォルフ。
それでも今日のことはきっとお互いの心に刻まれたことだろう。
籤を開き、しばし無言の二人。
『小吉:一の言を惜しみ 十の縁(えにし)逃さぬよう』
「これからも思ったことを伝えるべし、そしたらウォルフに伝わる、ってことかしらね!」
「どうやってそう解釈した!?俺が関わるのか……っ?」
「常に一緒にいるんだもの、きっとそうよ!ウォルフは?」
『小吉:負うたより 増えて戻るや人の縁』
「……」
「んー。どんどん人助けしなさい、ってことかしら」
「いやいい。俺なりに意味を受け止めた」
(楓乃の色々やらかした後始末も、いつか報われると……思っておこう)
首を傾げる楓乃に曖昧に笑顔を返しては、今日の記念にと籤を交換する二人であった。

 来た時よりも空気が軽く、人々に笑顔が溢れている境内の様子を見つめるメーティスとブラウリオ。
「なんというか……ウィンクルムってすごいですね。私、神人として覚悟が足りないのは分かっています。
 でも……この人たちの笑顔は守りたい、って思うんです」
「今日はその立役者の一人だろう?メーティスも。いいんじゃないか。まず思うところから始めても」
 呟いただけのはずの言葉に、響くように返ってくればその顔を見上げ。
(……オルティスさんのあんな表情、初めて見た。なんでだろう……思い出すと落ち着かない)
ん?と視線に気づいたブラウリオが顔を向けてくれば、サッと反らせ(そしてそれに若干のダメージを受け耳ぺっしょりなブラウリオがいたり)。
楓乃たちが籤をしているのを見つけ、メーティスは先程の自分の視線を誤魔化すようにブラウリオを籤へと誘う。
二人、おもむろに籤を引いて中を確認する。
『小吉:見据えるべし 敵は我に有り』
「オルティスさん、どうでし……、……どんな意味ですかね?」
「わからない。が、どうしてかやや痛いような……。ん、メーティスは?」
『中吉:何でもないと思ふことほど 思い直すべし』
「……簡単なようで、難しいお告げがきました」
 それを見せては真剣味のある声で言われたことに、ブラウリオ思わずハハッと笑い。それにつられるようにメーティスも自然と微笑んで。
その籤はそのままお告げと共に互いに持ち帰るのだった。


 その後、この神社での神楽舞には昔以上に人が来るようになったとか。
噂によると、ウィンクルムのご利益にあやかりに来るのだとか……



依頼結果:成功
MVP
名前:メーティス・セラフィーニ
呼び名:メーティス
  名前:ブラウリオ・オルティス
呼び名:オルティスさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 06月02日
出発日 06月07日 00:00
予定納品日 06月17日

参加者

会議室

  • [3]楓乃

    2014/06/06-21:55 

    遅れてしまってすみません!
    私、楓乃と申します。こちらはパートナーのウォルフです。
    どうぞよろしくお願いいたしますね。

    私も順番は特に問いません。
    ただ、ウォルフがあまり乗り気じゃないみたいで…。
    何故か手を取り合って人前に出るのが恥ずかしいみたいなんですよね。
    頑張って説得しますので、ちょっとだけお時間いただけると嬉しいです。

    まぁ、いざとなったら背中おしていきなりステージオンでも大丈夫です(笑)

  • ご挨拶が遅れましたー!みなさま初めましてですね、メーティス・セラフィーニと申します。
    よろしくお願いしますね。

    私も何番目でも大丈夫なのですが…その、トランスは初めてなので…時間がかかって後のほうになるかも、です。

  • [1]ひろの

    2014/06/05-12:27 

    はじめまして。
    ひろの、です。よろしくお願いします。

    順番は、何番めでもいいです。


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