プロローグ
宝石商の女は呆然としていた。
天然石店の店主は驚愕していた。
そして、ディスプレイ業者の青年は顔面蒼白になっていた。
「うそぉおぉぉ?!」
三人の悲痛なる叫び声は、タブロス市のとある商店街に響き渡った。
「頼む助けろ幼馴染だろ?!」
「オーガによる被害ですかー?」
「違うけどこのままじゃ俺の人生ヤバイ!!」
「次の方どうぞー」
「そんなんいねぇだろ! 聞いて下さいお願いします!!」
ディスプレイ業者の青年はA.R.O.A.受付の机に突っ伏し、幼馴染である受付職員の女性に泣きついた。
意地でもその場を動こうとしない青年に受付職員は溜息をつき、仕方なしに事情を尋ねた。丁度今、来訪者が途切れたから出来た事だった。
「宝石と、天然石と、アクリルアイスが混ざった」
「は?」
「商店街のディスプレイだよ! 入り口のショーウィンドウスペース! あそこを飾る小道具としてアクリルアイスを大量に持ってきたんだよ! そ、それをうっかり道にばら撒いちまったタイミングで展示する筈の宝石と天然石を持ってきた宝石商と天然石店の人がそれ踏んで転んでぶちまけて……」
「わぁ……」
「パニック状態になった俺達がいたそれぞれの上司に報告に行ったタイミングで、善意溢れる掃除のおばちゃん達が『あらあらまぁまぁ散らかしちゃって、おほほほ』って何もかも一緒くたにかき集めてショーウィンドウスペースにザラーッと入れてくださりやがって……」
「うわぁ……」
「そして今は混ざりまくったブツの前でそれぞれの上司が頭抱えてて『信頼できる人手をかき集めろ!』と指示を出してくださいまして……」
「うっわぁ……ていうか宝石と天然石を展示するのにディスプレイに似たようなアクリルアイス使うって。何それダサ」
「俺のセンスじゃねぇよ! 文句は注文した商店街のお偉いさんに言え!」
大体俺に任せておけばもっとさぁ! と、そのまま別の愚痴に移りそうだったので、職員は「で、私にどうしろって?」と先を進めた。
「明日の朝にはディスプレイ完成させなきゃいけないんだ……」
「え、今もう夕方」
「そうなんだよ! とりあえずA.R.O.A.なら信頼できる機関だろ? 手が空いてる奴いないか? 選り分けるの手伝って欲しいんだ!」
「報酬はー?」
「む、無償で……」
「お引き取りくださーい」
「あああ待った待ったちょっと待った! あ! じゃあこうしよう! モデル! 写真をパチパチっと撮らせてもらえればそれをディスプレイに使う! やったね、明日からあなたもモデルだイエー!!」
「商店街のショーウィンドウでデビューってか。しょぼいな。そして誰もがお前と同じく目立つの大好きだと思うなよ? もう一声」
「え、って言われてももう、俺の権限じゃ……金もないし……」
「給料削れよ。ねー、これ来週からの商店街のジュエルフェアの関連でしょー?」
「そうだけど……」
「確かレストランが最高級肉『レアジュエル』使ったフルコース出すよねー」
「ちょ、ちょっと待てあれ1600ジェールするコース……!」
「あー、高級フルーツ『ラックジュエル』使ったデザートコースも出すんだっけー?」
「それだって800ジェールするんですけど!」
「高いだけあって凄く美味しいって前評判なのよねー、楽しみー、うふふー」
幼馴染の笑顔に逆らえない圧力を感じ、青年は断腸の思いで決断する。
「…………こ、交渉、させて、いただきます……ッ」
ガクリと青年が肩を落とした瞬間、職員はバッと身を翻して事務室へ駆け込んだ。
「ねーねー! ちょっとバイトすればジュエルフェアに出すレストランの特別メニュー安く食べれるって! 行く? 行く?! あ、へいへいそこのウィンクルムさん達! 高級絶品料理とか食べたくない?!」
解説
●手伝いに関して
1、宝石(誕生石のルース)を見つけて分ける
2、天然石(結晶の形の様々な水晶)を見つけて分ける
3、アクリルアイスを色毎(虹の七色)に分ける
以上のどれかを行ってください。
・ショーウィンドウは商店街入り口の左右の建物にあります。つまり二箇所です
・長細い空間です。どちらも畳を縦に並べた二畳位のスペースと考えてください
・比率として、宝石1、天然石2、アクリルアイス7で混ざってます
・必要な道具があれば、宝石商、天然石店、ディスプレイ業者から借りられます
●報酬に関して
・薄給の青年に全額負担は無理です。なので、超高級絶品料理が『安く』食べられます
・フルコースは800Jrで、デザートコースは400ジェールです。お好きな方をお選び下さい
・レアジュエルは最高級霜降り牛肉と思って下さい
・ラックジュエルは虹色に輝く皮の巨峰と思って下さい。皮も種も甘くて食べられます
・レストランはプロポーズの場所によく使われるほどいい雰囲気の場所です
●報酬に関して2
・モデルはやりたい人だけどうぞ。こちらは無料です
・こんな風に撮って貰いたいと希望を言えば、その通りに青年が撮ってくれます
・希望が無い場合、青年がうまいこと撮るそうです
・写真はアイテムとして配布されません。自由設定への反映はご自由にどうぞ
ゲームマスターより
ちょっと狭い空間でのお手伝いです。ちょっと狭い空間です。大事なことなので(ry
キラキラした時間をお楽しみください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
報酬につられてサフランを引っ張ってお手伝いに参加 私は天然石を分ける作業のお手伝いをします 作業に入る前に手袋と 石の汚れを吹ける布を借りられないか聞いてみて 借りる事が出来たらそれをつけて作業します 石の形を確認しながら一つ一つ丁寧に 見分け辛いものがあればサフランに 「これは天然石だと思います?」と聞いてみましょう サフラン凄く集中していますわね それに何だか楽しそうですわ …って!ぼうっと眺めている場合じゃありませんわっ ○報酬 報酬はモデルの方でお願いします ポーズはおまかせします 確かに最初は美味しそうな報酬につられましたけれど 今でもとっても食べたいですけれどっ サフランが楽しそうだったから、何だか記念にしたくて |
篠宮潤(ヒュリアス)
フェア、実は楽しみにしてた…し。手伝いたいんだ …うん。デザートにつられは、したよ… ・作業 視力と集中力を駆使しアクリルアイスを色分け(ロアさんとは反対のショーウィンドウ担当) 「っと…ぅぁ!ヒューリご、ごめん…っ」 夢中のあまり頬同士ぶつかったり(ベタ) それまで集中していたのがベタな免疫無かった為一気に動揺 「ぁっヒューリ、尻尾の毛に引っかかって…触って、じゃないっ、取っても…いい?」 ・作業後 「完成まで手伝えることまだあれば、手伝ぅ、い…ます!」※敬語苦手 完成したの見れば感動したり 後日 「…こんな巨峰、見たことないっ…うん、すごく甘くて…美味しい」 いつもより少し洒落た服で。雰囲気良すぎて緊張誤魔化し |
リゼット(アンリ)
私達は宝石を分けるわ 数が少ないみたいだから二人で同じ所を集中的に見て探すわね 他のものよりも繊細でキラキラしているものを探すのよ? 見つけられなかったらフルコースはおあずけ。いいわね? 話には聞いていたけど思ってた以上に狭い… ちょ、ちょっと!狭いんだからあまりこっちに来ないで! あ…一緒に探すって言ったのは私だったわね…ごめんなさい わ、私だって悪いと思ったら謝るわよ!いいから早く探して! フルコースいただきましょうか 雰囲気のいいお店なんだからはしゃがず静かに食べてよ? あら心配なさそうね 普段もこうならいいんだけど アンリの写真…ねぇ くれるというならもらってあげる 手帳に挟んで…べ、別によれたっていいんだけどっ |
ロア・ディヒラー(クレドリック)
これは…頭を抱えたくなるかも…人助けと、報酬のために、ちょっと頑張ってみますか! 借り物 宝石用手袋 透明ビニール袋(大)×10 サインペン 手袋を一応つけて3。他の人とも協力。色ごとにビニール袋に入れて(色名は袋にサインペンで書く)分ける。 細かい作業って結構疲れる面倒…いやいや、頑張らないと。 …見てるでしょ?至近距離から視線感じて気づかない方がどうかしてるから! 真剣な顔で分け始めたか。 クレドリック何でさっきから紫ばっかり集めてるんだろ? デザートコース希望。 うわあ綺麗で食べるのもったいない。 …見た目もだけど味も美味しいし、人生に悔い無しだよ え、あのちょっと大げさに言っただけだよ?嬉しいけども |
■ヘルプ!
ディスプレイ業者の青年は集まった者達へ「ありがとうございます!」と必死に頭を下げていた。
「フェア、実は楽しみにしてた……し。手伝いたいんだ」
気にしないでほしいと気遣うのは『篠宮潤』で、パートナーの『ヒュリアス』は、そんな潤に「……お人好しな」と溜息をついていた。
「楽しみなのは報酬ではないのかね?」
何か言いたげなヒュリアスの視線から逃げるように、潤は遠くを見てぼそぼそと答える。
「……うん。デザートにつられは、したよ……」
「正直でよろしい。まぁ、黙々とやる作業は嫌いではないがね。アクリルアイスの色分け、か」
『マリーゴールド=エンデ』も報酬につられ、パートナーの『サフラン=アンファング』を引っ張って参加を決めた。
「私達は天然石を分ける作業のお手伝いをしましょうねっ」
「まぁ俺は細かい作業は好きだからね、こういう仕事は楽しいな」
同じく報酬につられた『リゼット』とパートナーの『アンリ』も張り切っている。
「私達は宝石を分けるわよ」
「宝石? んなもん俺様にかかればすぐに見つかるさ。さっさと終わらせて肉だ肉!」
既に報酬の事しか頭になさそうなアンリに、リゼットは呆れたように溜息をつく。
「私達もアクリルアイスの色分けを手伝うよ」
そしてやはり報酬につられた『ロア・ディヒラー』が言えば、パートナーの『クレドリック』が、宝石用手袋と複数枚の大きい透明ビニール袋、それにサインペンを強奪、ではなく、借りようと動き出した。
つまり、皆美味しい報酬につられたのだった。
クレドリックが道具を借りているのを見て、ヒュリアスはピンセットを、マリーゴールドは石拭き布を借りる。
準備が整ったウィンクルム達が問題のショーウィンドウへ行くと、ロアが呆然と呟いた。
「これは……頭を抱えたくなるかも……」
二つあるショーウィンドウのどちらにも、大小様々な光り輝くモノが山になって置かれていた。一山、数にして五百個はあるだろう。
「不運に不運が重なった結果が具現化して混沌としたショーウインドウになっているな。これはこれで面白いが、分類手伝おうではないか」
「あのね、もうちょっと普通の言葉でね……まぁいいや。人助けと、報酬の為に、ちょっと頑張ってみますか!」
ロアの宣言に、皆腕まくりで向かった。
■トライ!
商店街入り口から向かって右側のショーウィンドウには、潤達とマリーゴールド達が入った。
たまに交わされる会話はあるものの、基本的には静かな空間で黙々と分けていた。
「っと…ぅぁ! ヒューリご、ごめん…っ」
夢中のあまり前屈みになって周りが見えていなかった潤は、ヒュリアスと軽くぶつかってパッと身体を起こした。
「ぶつかった程度構わん」
ヒュリアスは気にするな、と作業を続ける。しかし潤は続けられない。
どんな体勢と動きの不思議か、潤とヒューリは頬同士をぶつけてしまったのだ。
トランスする時ならばまだしも、何も無い時に顔と顔が触れ合うなんて。
経験した事も考えた事も無かった事態に、潤は顔を赤くさせて手元が狂う。綺麗に仕分けていたアクリルアイスに、色分け前の物をポロポロ落としてしまった。
「落ち着けウル。若干天然石が混ざり始めているぞ」
「ご、ごめん」
溜息交じりの声に、潤はふるりと頭を振って意識を切り替える。
「ぁっヒューリ、尻尾の毛に引っかかって……」
ヒュリアスの尻尾に埋もれるように光るものが幾つか。
「触って、じゃないっ、取っても……いい?」
自分の発言でさっきの接触を思い出し、慌てて言葉を改める。
「む……頼む。箒代わりにはなってもココでは邪魔だな」
真面目な表情のヒュリアスから似合わない発言。潤は動きを止めて目を丸くした。
「……なんだね、その顔は。俺とて冗談くらい言う」
「あ! そ、そうだよ、ね」
ヒュリアスの言葉に硬直が溶ける。まさか冗談を言うとは思わなかったのだ。
「もういっそ持っててくれんかね。後は俺がやる」
もう一度、潤の動きが止まる。
(え、これも冗談、かな……?)
潤は必死に考える。
どうしよう。どうすれば……冗談で、返せばいい、のかな?
「よ、よしきた!」
両手を差し出し、常には出さない強い声で返す。
今度はヒュリアスが止まって目を見開く。
「……そうきたか」
小さく呟いてから「では頼む」と潤の両手にぽふりと尻尾を乗せて作業に戻る。
ヒュリアスはアクリルアイスを色分けする。潤は尻尾を持って動かない。
そのまま、たっぷり三十秒。
「ヒューリ、これ、おかしい、よ、ね?」
「ようやく気がついたかね」
呆れ声で答え、潤の両手を尻尾でぽふっと叩いた。
マリーゴールドとサフランは、天然石を見つけたら傷の確認と拭く作業もしていた。
白水晶、乳石英、紅水晶、黄水晶、紫水晶、煙水晶。
様々な水晶があったが、どれも結晶形なので見分ける事は容易かった。
ただ、天然石か宝石か扱いに迷う事が多く、何度か「これは天然石だと思います?」とマリーゴールドがサフランに尋ねては二人で首を捻っていた。
それでも作業は進む。
(サフラン凄く集中していますわね。それに何だか楽しそうですわ)
パートナーの様子に気がついたマリーゴールドが、真剣で、けれど何処か楽しげなサフランを横顔を見つめる。
普段のわざとらしい喜怒哀楽ではなく、素直な気持ちが零れているような、あまり見られない表情。
(…って! ぼうっと眺めている場合じゃありませんわっ)
我に返ったマリーゴールドが再び作業に集中する。
「終わったぁ!」
外はもうすっかり暗くなっている。
目の前には綺麗に色分けされたアクリルアイスに、天然石、宝石。全て正しく分けられていた。
サフランは満足気に両手を上に向けて大きく伸びをして、そこでようやく状況に気付く。
(……何かここ狭くないデスカネ。そんで近くないデスカネ)
いや、狭い事は分かっていた。だが、この近さは。
完全に気が抜けているマリーゴールドはサフランと肩がくっつくほど近い。マリーゴールドはその事に気がついていないようなので離れる様子もない。
それがなんだが、サフランには妙に照れ臭く感じて。
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラセッキョクテキー」
「え?」
言われたマリーゴールドはその声の近さに驚いて振り向く。そうして飛び込んできたいつものからかい顔のいつも以上の近さに、一気に顔が赤くなる。
「ち、違いますわっ! 集中していたから気がつかなくて!」
逃げる場所もない空間で必死に状況説明をするマリーゴールドに、サフランはようやくいつもの自分の調子を取り戻して笑った。
■トライ! 2
商店街入り口から向かって左側のショーウィンドウには、ロア達とリゼット達が入った。
右側のショーウィンドウとは対照的に、こちらは賑やかな作業風景が広がる。
「細かい作業って結構疲れる面倒……いやいや、頑張らないと」
本音を零してから溜息にも似た深呼吸をし、ロアがもう一度色分け作業に集中しようと……集中、出来ない。
「……見てるでしょ?」
「正解だ。よく気がついたな、さすが我が研究対象」
「研究対象とか関係ないから! 至近距離から視線感じて気づかない方がどうかしてるから! 今やる事はアクリルアイスの色分けでしょ?! どうして作業をしないで私を見るの!」
ロアはクレドリックを叱り付ける。
「苦労しながら細かい作業をするロアをかなり近くから見られるとは、良いデータがとれそうだ、と思ったから実行したまでだ。そもそも何も言われないから見ていても良いと認識していたのだが、違うのかね?」
「全然違う!! はい、色分け作業に集中、ホラ集中、私のラックジュエルの為に集中!!」
若干自分の欲望が漏れた煽りに、クレドリックは素直に従った。短い間だったとはいえ、観察出来た事でとりあえずは良しとしたらしい。
(紫色か)
色分け作業を始めたクレドリックは、何気なしに掴んだ紫のアクリルアイスをじっと見る。
(ロアの瞳の色を思い出すな……もっともこれは安っぽいが。ロアの瞳はもっと透き通っていて、輝きを放っていて……)
そこからクレドリックは本格的に集中する。斜め上方向に。
借りたビニール袋にサインペンで『紫(酷似)』『紫(近似)』『紫(相違)』と書いて、紫のアクリルアイスの色分けを始めた。
(やっと真剣な顔で分け始めたか)
視線を感じなくなったロアがちらりと見て安心するが、しかし、クレドリックの手元を見て首を傾げる。
(クレドリック、何で紫ばっかり集めてるんだろ?)
まぁ問題はない。よって、ロアは特に気にせず自分の作業に戻った。
「おお! これは限りなく近い! 近いぞ!!」
「訳分かんないし五月蝿いんだけど! あとそれ多分宝石!」
あんまり戻れなかった。
リゼット達は効率を考え、同じ所を集中的に見て探す事にしていた。
「他のものよりも繊細でキラキラしているものを探すのよ?」
わかった? と、アンリに言い含めると、アンリはすぐに手元の一つを拾って得意気にリゼットに突き出した。
「ほーらもう見つけた! これだろ?」
「違うわ」
すっぱりとリゼットが切り捨てる。
「え、違う?」
「ええ、違うわ」
それはかなり精巧に作られた宝石型のアクリルだった。
正真正銘箱入りのお嬢様であるリゼットは、宝石を見慣れていたから分かったのだ。
「見つけられなかったらフルコースはおあずけ。いいわね?」
「ふふん。リズがちゃんと見分けられてるか試したまでよ」
そう言って、何事もなかったかのように宝石を捜し始めた。
(話には聞いていたけど思ってた以上に狭い……)
その上、問題物が山になって場所をとっている。座れる場所は限られていた。
「ちょ、ちょっと! 狭いんだからあまりこっちに来ないで!」
リゼットの方へと身を乗り出したアンリに慌てて叫ぶが、アンリは理由があっての行動だから引かない。
「こっち来んなって言ったってお前の足下にあんのは宝石じゃねぇのか?」
そう、それらしきものを見つけたから身を乗り出したのだ。
「あ……」
視線を落とせば、確かにスカートの陰に隠れるようにダイヤモンドが落ちていた。
「一緒に探すって言ったのは私だったわね……ごめんなさい」
気まずそうに、けれど非を認めて謝るリゼットに、アンリは動揺しながら無理に笑う。
「って、そんなに素直に謝られるとなんつーか……調子狂っちまうな。ちょっと見なおしたぞ。いい子いい子」
言って頭を撫でようと手を伸ばしたところで、リゼットがパシッとその手を払いのけた。
「わ、私だって悪いと思ったら謝るわよ! いいから早く探して!」
突き放すような発言は、リゼットの頬が赤くなっていた事により大して迫力が無いものになっていた。
その後も二人は似たようなやり取りをしながら作業を進めていく。
賑やかなこちらのショーウィンドウでの作業が終わる頃、反対側のショーウィンドウでも作業の終わりを告げていた。
■サンクス!
「皆さん、本当にありがとうございました!」
ディスプレイ業者の青年が感謝の気持ちを伝える。
「モデルを希望される方はもうちょっと残って下さい」
尋ねると、まず反応したのはアンリだ。
「あ? モデルだ? 俺を撮りたいってのも無理ない話だ、特別に撮らせてやってもいいぞ」
やや斜め下の角度がおすすめだ、と続けるアンリの背中を、リゼットは無言でバシッと叩いた。
「うちの馬鹿犬をよろしくお願いするわ。私は、うーん、やめとくわ」
リゼットが言うと、青年が残念そうに「そうですか」と言った。
「あの、モデルお願いします」
そしてもう一人。反応したのはマリーゴールドだった。
青年が笑顔で「わかりました」と答える中、サフランは驚いてマリーゴールドを見た。
「報酬につられて来たから料理の方にするかと思ったら、モデルの方にするの?」
確認するように言うと、マリーゴールドはぐっと我慢するような表情になった。
「確かに最初は美味しそうな報酬につられましたけれど、今でもとっても食べたいですけれどっ」
それでも、モデルにするらしい。
疑問に思いながらも「まぁ俺はマリーゴールドの好きな方で良いよ」と言って終わらせた。作業自体を楽しめたサフランには、報酬がどうなろうと不満は無かった。
(……サフランが楽しそうだったから、何だか記念にしたくて)
理由は口に出せない。
多分、あの時見れた自然な表情は撮れないのだけど、それでも。
「……私も楽しかったから、いいんですわ」
満足気に微笑んだ。
写真撮影が始まる。
「ポーズはお任せします」
マリーゴールドの言葉に、青年は小道具を持ち出して撮影を行った。
それが終わると、次はアンリ。
先ほど言ったやや斜め下の角度からの写真も撮ってもらい、上機嫌で撮影を終わらせた。
「写真はリズにやろう。大事にしろよー?」
テスト用のポラロイドをひらりとリゼットに渡す。
「アンリの写真……ねぇ。くれるというならもらってあげる」
興味なんかなさそうに受け取ったが、リゼットはそれを手帳へ大切に挟んだ。
「べ、別によれたっていいんだけどっ」
それでも手帳から出さないようで、アンリはそんなリゼットをニヤニヤと笑いながら見ていた。
■サンクス! 2
ジュエルフェアが始まった。
ウィンクルム達は待ちに待った美味しい報酬の為にレストランへ赴く。
「フルコースいただきましょうか」
リゼットとアンリが選んだのは、最高級肉『レアジュエル』をメインに使ったコース。
「雰囲気のいいお店なんだから、はしゃがず静かに食べてよ?」
普段のアンリを知ってるだけについ出てしまう注意だったが、正面に座るアンリは何も問題はなかった。
「待ちに待ったメシだー! と叫びたいところだが、ここは抑えて大人の振る舞いだ」
上品に微笑んで食前酒を傾ける。外見の良さも手伝い、アンリはまさに王子のようで、リゼットは心臓が高鳴るのが分かった。
「あら心配なさそうね。普段もこうならいいんだけど」
それでも素直に褒められない。そんなリゼットに苦笑しながら食事をとる。テーブルマナーも完璧だった。
しかし、そんな猫かぶりや誤魔化しも、メインの登場で吹き飛ぶ。
運ばれてきた小ぶりのステーキには山葵風味の醤油ソースがかかっており、その上には金粉が少量、キラキラと輝いていた。
厚みのある肉はナイフが抵抗無くスッと入り、温かいその一切れを口に入れた瞬間。
「肉、超うめぇ……!」
「美味しい……!」
二人の顔は思い切り崩れ、蕩けるような恍惚としたものに変わった。
ちなみに、レアジュエルを食べてそうならなかった者はいないらしい。
「何だこれ、肉の歯ごたえがちゃんとあるのに口の中で溶けたぞオイ」
「たっぷりの脂も肉汁が山葵風味のソースでさっぱりして、なのに旨味と甘味を際立ってるわ。美味しい。やだこれ美味しい」
「分かる、このソース、肉との相乗効果がやべぇ。ふへへ、マジうめぇ。ヤバイもうこれ何だこれホントうめぇ。へへへ」
「ふ、ふふ、幸せ……! 美味しいものって本当にもう、ふふふ、人を幸せにしてくれるわね!」
あまりの美味しさに声に出して笑ってしまう。二人は頬を紅潮させ、うっとりとしながらレアジュエルを味わい尽した。
いつもより少し洒落た服でレストランに来たのは潤とヒュリアスだ。もっともヒュリアスは普段着がフォーマルに近い服なので、あまり変化は無い様に見える。
雰囲気に呑まれて緊張していた潤だが、すぐに期待へと切り替わる。
まずはラックジュエルシードのカクテル。
種を粉末状にしてミルクで割ってミントで風味付けたカクテルは、甘さが控えめで飲みやすい。
そしてメインのデザート、ラックジュエルのケーキパルフェが運ばれる。
アンティークの器にラックジュエルのタルトが一切れ乗ったパフェ。一番上には皮ごと飾り切りされたラックジュエルが三粒、虹色の輝きで存在を主張していた。
「……こんな果物、見たことないっ」
潤もまた目を輝かせ、柄の長いスプーンで一粒すくって口に入れる。
「……うん、すごく甘くて……美味しい」
皮の部分は飴がけしているのか、薄いパリッとした食感。そしてその皮ごと実を噛めば、濃厚でいて爽やかな甘さが口の中に広がる。
もう一度、と、まだ口の中にある状態でスプーンを動かすと、ヒュリアスが「そんな早く食べようとせんでもデザートは逃げんよ」と小さく笑う。
夢中になって食べている潤を面白そうに見ていたヒュリアスが、潤がパフェの大半を食べ終わった頃に声をかけた。
「ウル、果汁が瞼に。ちょいと瞑れ」
言われた潤は恥ずかしげに顔を赤らめ、素直に目を閉じる。
「?!」
口に何かが突っ込まれた。
驚いて目を開けば、悪戯に成功した笑みを浮かべるヒュリアスがいた。
「美味しいか?」
潤は咄嗟にコクコクと首を縦に振る。実際はまだ味なんて分からない。
「随分と気に入ったようだから、俺の分もあげようと思ってな」
そう言うと、潤の口からスプーンを引き抜き、何事もなかったかのように自分のパフェをつつきだした。
(それ、間接、キス……!)
パニックになりながらも潤は口を動かしてごくりと飲み込む。
ラックジュエルが、さっきよりも甘くなった気がした。
同じくデザートコースを堪能しているのはロアとクレドリックだ。
「うわあ綺麗で食べるのもったいない」
そう言いながらも、ロアはカクテルもパフェもぺろりと食べた。
(いつも思うが、甘い物を与えたときのロアの表情はくるくる変わって非常に興味深いな)
クレドリックは相変わらずロアを観察しているのだが、デザートを前にしたロアの精神は強い。完全に無視して楽しんでいた。
最後に運ばれてきたのはラックジュエル・プティ。
ラックジュエルをチョコやカラメルで半分コーティングしたもの、シャーベットをラックジュエルの皮で包んだもの。どれも一口サイズだ。
宝石のように輝くそれらを充分に見入ってから口に入れる。
「……見た目もだけど味も美味しいし、人生に悔い無しだよ」
ほぅ、と恍惚の息を吐きながら言うと、クレドリックがピクリと眉を動かして反応した。
「人生に悔いなしだと……? 研究対象に死なれては困る。またここに連れて来るから早まるな」
焦るように言うクレドリックに、ロアは戸惑い、慌てて誤解を解こうとする。
「え、あのちょっと大げさに言っただけだよ? 別に死ぬつもりも覚悟もないし……」
「糖分の摂取により満足感が溢れるのか? それともラックジュエル特有の成分か……調べる事が多いな。この環境も左右しているのかもしれん。よし、ロアよ、帰ったら早速実験に協力を……」
「うん、何もかも台無し」
脱力してそれだけ言うと、今まで通りクレドリックの視線と戯言を無視してデザートを楽しみ始めた。
(……まぁ、ちょっと、嬉しいけども)
さっきの焦ったクレドリックの顔を思い出しながら、ロアは小さく笑った。
■美しいモノ、キラキラリ
ショーウィンドウのディスプレイは左右で違った。
どちらも床にはアクリルアイスがグラデーション状に敷き詰められ、中央の飾り台に宝石と天然石が展示されているのだが、その背後。壁に飾られたモノクロの大きな三枚の写真パネルが左右で違ったのだ。
入り口向かって左側には、アンリの写真。
街灯に寄りかかり誰かを待っているような一枚。
実はこっそりと撮られていた、撮影が終わってアンリに近づくリゼットの後姿と顔を上げたアンリの一枚。
そして、ケースに入った指輪を持っているアンリの手のアップの一枚。
『何処へ行くにも、貴方と輝きと共に』
そんなキャッチコピーが添えられて。
入り口向かって右側には、マリーゴールドとサフランの写真。
書類を持ち真面目な顔で話し合っている一枚。
カップを持って背中合わせで座っている一枚。
そして、マリーゴールドにネックレスをつけているサフラン、笑い合いながらの一枚。
『どんな時でも、貴方と輝きと共に』
数時間後、ディスプレイを見に来たマリーゴールド達は照れ臭そうに見て、リゼットは顔を赤くしてアンリがそれをからかうだろう。
キラキラ、キラキラ。
輝いているのはアクリルアイスか、天然石か、宝石か。
それとも、二人だけの思い出か。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:篠宮潤 呼び名:ウル |
名前:ヒュリアス 呼び名:ヒューリ |
名前:リゼット 呼び名:リズ |
名前:アンリ 呼び名:アンリ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 青ネコ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月31日 |
出発日 | 06月06日 00:00 |
予定納品日 | 06月16日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- 篠宮潤(ヒュリアス)
- リゼット(アンリ)
- ロア・ディヒラー(クレドリック)
会議室
-
2014/06/04-09:29
ご挨拶が遅くなってごめんなさい。
リゼットと連れのアンリよ。よろしくお願いね。
じゃあ私は宝石を探そうかしら。
原石だったら難しいでしょうけど、ルースなら探せそうだわ。
料理は絶対フルコースだろ!とうるさいのがいるから、そちらになりそうね。 -
2014/06/03-22:50
初めまして、だ。篠宮 潤というよ。よろしく。
アクリルアイス、の比率が多いならそっちに人が居た方がいい、かな?
アクリルアイスを分ける予定、だけど…
もしも宝石、分ける人が誰もいなかったら、が、がんばってそっちに回ろうと思う、よっ
甘いのは得意で無い、のだけど…果物の甘さは好きなんだ(心中、俄然やる気) -
2014/06/03-22:28
こんにちは、初めまして!
ロア・ディヒラーと申します。パートナーはディアボロのクレドリックです…ちょっと怪しい白衣着てますが大丈夫です、問題ないです!
どうぞよろしくお願いいたします。
私達の方は、アクリルアイスを色毎に分ける作業をしていきたいと思います。
天然石や宝石はもしかしたら間違えちゃうかもしれないですが、アクリルアイスだったら私にも見分けられそうなので…!一応間違えて触っちゃっても良いように作業用に手袋借り手作業しようかと思ってます。
デザートコースという報酬のために!…はっいやいや困っている人のために頑張ろうと思います(ちょっと遠くの方に眼を泳がせながら)
-
2014/06/03-21:28
ごきげんようっマリーゴールド=エンデと申します。
パートナーはマキナのサフラン=アンファングと言います。
皆様、どうぞよろしくお願いしますっ
えっと、私達は天然石を分ける方のお手伝いをしようかしら……。
混ざってしまったのを分けるのってなかなか大変そうですけれど、魅力的な報酬もありますし、キラキラした綺麗なものを見られますし、何だかワクワクしますわねっ