ねがいをかなえるおまじない(しのかわ冷徹 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ


 あなたの手元に、一つの郵便物が届いた。A.R.O.A.本部からだ。身に覚えはないものの、念のために封を切って中身を確認してみると、何やらピンク色の和紙のようなものが同封されていた。



 A.R.O.A.による調査にご協力ください。

 同封の短冊には、あなたの恋の願いを一つだけかなえる不思議な力があります。
 黒のボールペンあるいは鉛筆で恋に関するあなたの願いを書き込み、外側から内容が読み取れないように所定の手順で内側に折り込んでください。

 なお、短冊の効力が発揮されるためには、以下の2つの条件が必要です。

 願いを書き込んだ本人以外に内容を暴かれた場合、短冊の効力は消失します。願いを書いてから24時間が経過するまでは、他の誰にも内容を見られないように厳重に保管してください。

 当調査には、あなたのパートナーにもご協力いただいており、パートナーにはあなたの持つ短冊と対になる短冊が郵送されています。
 短冊の効力が発揮されるためには、願いを書いてから24時間が経過した時点で、パートナーの短冊の効力が消失している必要があります(24時間が経過した時点で両方の短冊が効力を維持している場合、同時に両方の短冊の効力が消失します)。

 以上の2つが条件です。
 なお、調査にかかる短冊の経費として300ジェールを徴収させていただきますことをご了承ください。

 それでは。



 紙に願いごとを書き終えたあなたは、説明書通りに短冊を花の形に折りたたんで、とある場所に隠した。

 要は自分の短冊を隠しながら、パートナーの短冊の内容を暴けばよいということだ。もちろん、彼も願いをかなえるためにこちらの短冊を見つけ出そうとするし、彼自身の短冊は巧妙に隠されているはずだ。

 果たして、恋の願いは無事成就するのか?

解説

【今回の目的】
 自分の短冊(恋の願い)を見られないようにしながら、パートナーの短冊の内容を見る、あるいは予想して当てる。



 まず、参加者の皆様には、以下のポイントを考えていただきます。

・あなたが短冊に書く恋の願い
・あなたが短冊を隠す場所
・パートナーが短冊に書く恋の願い
・パートナーが短冊を隠す場所

 以上を踏まえたうえで、二人の行動や心情などを、ぜひご提案ください。

 また、どちらの恋の願いが成就するか(あるいはどちらもかなわないか)についてもご提案いただければ、リザルトノベルに盛り込まさせていただきます。



 なお、調査の参加費用として300ジェール消費しました。


ゲームマスターより

 しのかわ冷徹と申します。こんにちは。

 暑い日が続きますが、しのかわの住まいにはエアコンが一台もありません。夜通し室温が30度を下回ることはありません。よって、私の命はあとわずかでしょう。……皆さま熱中症には十分ご注意ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)

  ■恋の願い
「レオンと今後も一緒にいたい」

■短冊を隠す場所
胸ポケット

■相手の短冊の入手法
勝負を始める前に茶でもどうだと勧める
睡眠薬を仕込んでおく
眠ったら入手

あいつは旅慣れた傭兵だから
大切なものは身につけておくだろう
…やはりな

■反応
まあ…割と無理やりくっついたしな(冷めた様子
今後は友達関係でも構わんぞ
それなら堂々と他に彼女が作れるだろ

お前…言動が矛盾だらけだぞ(頭抱え

ていうか以前「俺はお前に相応しくない」とか言ってなかったか(※依頼56

■告白を聞き
…なんだ、そんなことか(あっさり
別に構わないぞ、結婚とか形式的なことは
私はお前と既に家族だと思ってるし、今後もそれでいい

そのうち二人で旅に出ような(握手


真衣(ベルンハルト)
  ・短冊に書く恋の願い
『ハルトが私にわがままを言ってくれますように』
いっつも甘えてるから、ハルトにも甘えてほしいもの。
・短冊を隠す場所
入れない場所に隠すのはフェアじゃないから、家の中より外のほうがいいかしら。
そうだ。公園!
【公園のベンチの下に貼り付ける】





【願いは言葉にしなければ叶わない】



『おめでとうございます! あなたは、制限時間内にパートナーの短冊の内容を見ることができました!』

 ガートルード・フレイムが短冊を開くと、大音量のアナウンスとともにクラッカーの割れる音が響き渡った。すぐ隣で熟睡していたレオン・フラガラッハも、これにはさすがに目を覚ます。

 ゲームが始まるまでに、ガートルードはあらかじめレオンが短冊を隠した場所にアタリをつけていた。今でこそ寝起きで無防備をさらしている彼だが、これでも旅慣れた傭兵だ。大切なものは肌身離さず身につけておくだろうと考えたところ、やはり胸ポケットに忍ばせていた。

 彼女の作戦は至って単純だった。短冊さがしが始まる少し前に、レオンに睡眠薬入りのお茶を飲ませる、というものだ。それとなく勧めると、有難う、とか、気が利くな、とか言いながら、レオンは一気にお茶を口に含んだ。警戒して茶を口にしないかもと、第二、第三の手を準備していたのだが、無駄になってしまったようだ。

 さて、レオンが容赦なく一服盛られた件についてはさておき、問題は彼が短冊に書いた願いの内容だった。

『上手に二股かけたい』

 レオンが恐る恐るガートルードの反応を伺うも、今日ばかりは彼女の無表情が何を伝えようとしているか、察することができなかった。おそらく、嵐の前の静けさとか、限界まで引き絞られた弦とか、そういう表現がふさわしいのだろう、とレオンは勝手に憶測していた。

 ガートルードが少し目を伏せた。緊張を先に破ったのは、彼女のほうだった。

「ウィンクルムの能力は互いの愛情に依存する。しかし、それが恋愛である必要はないだろう」
「それってどういうことだよ」

 まあ……と冷ややかなため息交じりに言葉を投げる。

「我々の契約は……そう、割と無理矢理くっついた恋人関係だ。お前が望むのなら、今後は友達関係でも構わない」
「ちょっとまて。どういうことだよ、それ!」
「我々が友達関係になれば、そもそも二股をとがめられる理由もなくなる、という提案だこれなら堂々と他に彼女が作れるだろう。そもそも付き合っていないのだから」
「ひでぇな!お前俺が他の女と付き合ってもいいのかよ! 今までのアレやコレはなんだったんだ!」
「ちょっと待ってくれ……お前……言動が矛盾だらけだぞ」

 あまりに唐突な別れ話に狼狽えるレオンの様子は、本来愛想をつかす側であるはずのガートルードが頭を抱えるほどだった。どころか悪びれもしない彼の様子に、こめかみに指を置きながら、眉間にしわを寄せるガートルード。正直なところ、すっぱりと関係を切られる事もありうると思っていたので、戸惑いを隠せないのはむしろこちらの方だ。

(いくらレオンが生粋の女たらしとは言え、腹を立てている相手に対して開き直るような態度はとらないはずだ。となれば……気持ちの行き違いか?)

 ひとまず彼女は、こちらにも言いたいことが山ほどあるのだが、と前置きした。

「ていうか以前『俺はお前に相応しくない』とか言ってなかったか」
「それは、いつか話すって言っただろうが」
「覚えている。だから、今なら聞いてやろうと言っているんだ」

 レオンの様子を見ると、どうやら図星のようだ。だが、ここはあえて譲らない。こうなれば、まじめな性格のガートルードは梃子でも動かないことを、レオンは何度も身をもって思い知らされてきたはずだ。

 思った通り観念したらしく、レオンが重い口調でぽつぽつと話し始めた。

「俺、母親が狂死しただろ」
「ああ、聞いた」
「実はあれは、遺伝性のものでな」

 ショッキングな内容だけに、レオンの口調には迷いがある。

「引かねえ?」
「引かない。生まれ持った宿命に立ち向かい続けたお前の母君を、私は尊敬する」

 ガートルードは引くどころか、怖じ気づく事すら無く受け入れた。
 そのいつも通りの頼もしさに背中を押され、レオンの語り口調は少しずつ滑らかになる。

「俺もいつか家族を壊す存在になるかと思うと、結婚したり、当たり前に子どもを持ったりする気にはなれなくてな」

 言われてみれば確かに、彼が一所に留まったり、特定の何かに執着を持つ事は少なかったように思う。流れ者の傭兵としての生き方を選んだレオン。ガートルードには、彼の戦闘能力の高さが、人とのつながりを避けてきたがための孤独の裏返しに思えてならなかった。

「ま、恋人として将来性がないから、別のやつでいいかなーって思った。ほらぁ、俺ってモテるしな」

 沈黙に耐えかねて、後半はつい茶々を入れてしまったが、ガートルードはあごに指を添えて、何やらふむふむと納得したようだった。

 そして。

「なんだ、そんなことか」
「……え、そんなことって、おい」

 ガートルードは、些末なことといわんばかりに、レオンの告白をあっさり受け入れた。
「ああ、いや、すまない。私が何かおかしなことを言っただろうか」
「いやいやいや、じゃあお前、俺が母親みたいにいきなり気が狂って、お前に襲いかかってもいいっていうのか?」
「よくないが、遺伝性のものなら仕方が無いだろう。……ああ、そういうことか」

 そこまで言って初めて、ガートルードは二人の会話がかみ合っていない原因に気づいたらしい。おそらく、ウィンクルムとはなんぞやとか、レオンが抱える葛藤などといった問題の大前提として、彼女が彼に伝えるべき事だ。

「お前の気持ちは最大限尊重したい。だが、もし許されるのなら、私はお前とともに戦うことを選択したい」

 ガートルードの緋色の瞳が、レオンをまっすぐのぞき込む。

「私はお前と既に家族だと思っているし、今後もそれでいい。結婚とか形式的なことは、別に構わない」

 破局に次いで、葛藤との向き合い、さらには告白返しまで一気に叩きつけられ、レオンは一瞬口を開けて固まってしまった。

「ぷ、あっはははは!」
「……ん、やはり私はおかしなことを言ったか?」
「言った言った。ていうか、おい! 俺がずっと気に病んでたことを、たった3秒で片付けるなよ」

 気が済むまで笑い転げたレオンの目尻には、涙すら浮かんでいる。

「一応、お前は怒られている立場であることは分かっているのか?」
「いや、悪い。でもいいじゃん。俺の短冊は見られちまったんだから、もう叶わないんだろ?」

 どうやら、レオンの中では二股の件はこれで無かったことになった気でいるらしい。まあ、この様子だと、彼はもう二股に未練は無いようなので、このあたりで勘弁してやってもいいような気もする。というより、あまりこちらがだだをこねるのも、短冊に…………を願ってしまった手前、始末が悪いというものだ。

(つい柄にもなくゲームに本気になってしまったが……。この調子で、本当に私の願いは叶ったのだろうか?)

 すっかりいつも通りのレオンを見て、やはり短冊の効力は眉唾物だな、と本日二度目のため息をついたガートルードであった。



「もし、お前がそれでも、周りを傷つける事が怖いというのなら……旅に出よう」
「旅?」
「ああ。そのうち二人で。いつかお前の我慢がきかなくなったら、人がいない砂漠や海に繰り出そう」

 短冊の騒動からしばらくたったある日。ふとガートルードが口にした。

 見つかってしまったレオンの短冊は、その瞬間に紙吹雪になって消えてしまった。時間切れで両方の効力が失われてしまった場合も、同じくそうなるらしい。しかし、効力を保ったままのガートルードの短冊は、ゲームが終わった後も消えることはなかった。

 本人はすっかり短冊の存在を忘れていたらしく、何日か後に、洗濯されて胸ポケットの内側にへばりついていたものを、こっそりレオンが手に入れたのだ。

(同じところに短冊を隠していたのか。ったく、気が合いすぎるのも困りものだな)

 勝負に負けた悔しさもあり、本人のいないところでこっそり中身を見てみた。

『レオンと今後も一緒にいたい』

 他に気の利いた願いが思いつかなかったのだろうか。なにを当然のことを願っているのだ、と当てが外れてがっかりしてしまったくらいだ。それに、もし彼女が本気でそう願っているのなら、それは叶ったも同然だな、とレオンは思った。頼まれても、今更彼女を手放す気は、ない。

「旅か。いいじゃん。なんだか昔を思い出すな」
「お前が傭兵だったころか。やはりその頃も、いろいろな場所を旅して回っていたのか?」
「そりゃまあな。ただ、あの頃は毎日戦ってばっかりだったからなぁ……」

 一方、ガートルードは吟遊詩人の一族の出だ。世界を転々とするにも、見える景色はそれぞれ違ったことだろう。それを今度は二人で見てみたい。

「あ、一緒に旅をすると良いことが、もうひとつあるぜ」

 レオンがいたずらっぽい笑みを浮かべてみせると、ガートルードは察したのか、いったいどんなジョークが飛び出てくるのかと待ち構える。彼女の反応に、レオンは満足した。

「俺が浮気しなくなる」
「案外、行く先々で色恋沙汰に巻き込まれるのが恒例になったりしてな」
「その場合は、俺が悪いわけじゃないだろ」
「冗談だ」

 目が合うと、二人してからからと笑う。こんな時間がいつまでも続くのだろう。短冊の力など無くとも、二人のいつまでも一緒にいたいという想いを確かめ合うことができたのだ。それが何よりの報酬だろう。

「ああ、いいかもな、二人なら」

 どちらとなく、そう口にした。





【願いは心に秘めなければ叶わない】



「あーあ、時間切れかぁ」

 がっくりと肩を落とす真衣の姿を見て、ベルンハルトはその無邪気さにふっと笑みを漏らした。だが、真衣はそれにかえって腹を立てたらしく、隠し場所が難しすぎると、唇を小さく尖らせて抗議の声を上げ始める。

 結局短冊は、見つからないまま決められた時間が経過すると、紙吹雪になって消えてしまった。運悪く部屋の中にいたため、タンスの下あたりから色紙の破片が吹き出すところを真衣に見られてしまったが、ともあれ予想通り、ベルンハルトの願いが真衣に見られることはなかった。

「タンスの下なんて、私ひとりじゃ絶対に見つかりっこないじゃない!」
「悪かったよ。隠し場所を聞かれたら、言いくるめてやり過ごすつもりだったんだが」
「ズルい! これってフェアじゃない!」

 卑怯かもしれないと若干の引け目を感じてはいたものの、願いの内容が内容だけに、真衣にだけは見られるわけにはいかなかった。真衣の言い分ももっともだが、これはいわゆる大人の事情というやつなのだ。

『いつか、恋愛対象に認識して欲しい』

 真衣が大人になるまでと自制していたつもりが、いつのまにか、彼女が大人になったらと考えるようになってきた。悪い大人だ。しかし、少なくとも真衣の前では、ベルンハルトは良い大人でなければいけないのだ。

 重いタンスを動かし、さらに大きな絨毯を持ち上げて短冊を取り出すことなど、華奢な真衣には物理的に不可能だ。そんな慢心があってか、柄にもなくつい短冊に本音をつづってしまった。無論、果たしてこれを恋の願いと呼ぶべきか、はたまた、良識ある大人として願ってもいい内容なのかという葛藤はあった。なんなら、あたりさわりのない適当な願いをかけば、真衣に見つけさせて喜ばせることもできたのかもしれない。

 ならば、どうして真衣に見つかってしまう危険を冒してまで、短冊に本当の願いを書いてしまったのだろうか?

 答えは簡単だ。真衣との恋仲を、ベルンハルトの理性が遠ざけようとするのに反比例して、気持ちは放っておけないのだ。

(恋仲か。果たして俺のこれを、恋なんて括りに入れて良いものかどうか)

 自分の気持ちに嘘をついているわけではないのだが、考えなしに受け入れてしまうのは、良識ある大人としていささか問題アリな気がする。思わず、うーん……とうなり声を上げてしまった。

「ねえハルト、ハルトは短冊にどんな願いを書いたの?」

 そんなベルンハルトに、真衣が問う。短冊を見つけられなかったことがよほど悔しかったのかと思いきや、単なる好奇心のようで、ご機嫌はすっかり元に戻っていた。

 どうはぐらかそうか策をめぐらせる。

「うーん、それは内緒、だな」
「えー、どうして?」
「願い事は、『相手』に教えると、破れてしまうと相場が決まっているからな」
「あ、そうだった」

 ほら、と、ベルンハルトはこっそりため息をついた。今のだって、願いの『相手』が真衣だということを暗にほのめかしている。子ども相手に、我ながら随分大人げない。とはいっても、口から言葉が出てくるときは、ほぼ無意識なのだ。まるで自分の中の天使と悪魔が、家主そっちのけで互いに足を引っ張り合っているような感覚だ。

 ふと、思う。

(もし俺の短冊が真衣に見つかっていたら、今すぐ気持ちを聞けたのだろうか)

 彼女の気持ちが憧れでなければいいなんて、やはり自分は悪い大人だ。この願いは見つけられることはおろか、叶うことですら困りものだ。

 じゃれついてくる真衣を軽くいなしたり、時々跳ね飛ばされたりしていると、不意に彼女が膝にもたれかかってきた。具合が悪いのかと慌てて真衣の顔を覗き込むと、まぶたが半分溶けたような、いつ寝落ちしてもおかしくない表情をしていた。

「もうこんな時間か。一日中、短冊を探し回ったから、疲れたんだな」

 天気が良かったこともあって、今日は真衣に引っ張られてずっと街を散策していた。いくら小学生の行動範囲が限られているとはいえ、小さく折りたたまれた短冊を探し出そうとすれば一苦労どころの話ではない。

 実のところ、真衣の短冊の隠し場所にはある程度の見当がついている。彼女はこのゲームの最中、一貫して自分とベルンハルトが公平であることを重視していた。となると、隠し場所は、真衣とベルンハルトの両方が探しに入っても不自然でない場所……例えば、公園や図書館などの公共の施設だろう。あとはそこから、今日真衣が短冊を探すために立ち寄った場所を除けばいい。ゲーム中は、真衣の行くところには必ずベルンハルトが付き添った。相手を自分の短冊の隠し場所に近づけたくないと思うのが、プレイヤーの心理だ。

 まあ、おそらく真衣の短冊も、同じように紙吹雪になって消えてしまっているだろうが。そう思うと、真衣が短冊に何を書いたのか、気にならなくもない。

 ベルンハルトの隣に腰掛けながら、うとうと舟漕ぎをする真衣の様子を見ていると、なんだかこちらまで眠くなってしまう。うっかりベルンハルトが大きなあくびをすると、真衣もつられたように小さなあくびを漏らした。あくびがうつるのは、相手を大いに信頼している証らしい。

 そっとブランケットをかけると、まぶたを閉じたままの真衣がぴくっとはねる。

「まだ眠くないよ?」
「いつもそう言って、最後には眠ってしまうだろう」
「いいの。だって、ハルトに運んでもらうもの」

 油断すれば年相応に甘えてくれるのも、今のうちだけだ。子供の成長は大人が思うよりもずっと速い。そのうち、隠し事も今よりずっとうまくなるのかと思うと、やっぱり子供のままでいてくれてもいいのではと、真剣に悩んでしまう。

「いや、大人になってもこのままのほうが問題があるのか。いろいろと、主に俺にとって……」

 それとなく真衣に抱き枕にされながら、良識ある大人は独り葛藤した。

 ……願いが本当に叶えたいものであるのならば、本来は短冊などに頼るべきではないのかもしれない。
 
 自分がもし真衣と恋人のような関係であったなら、短冊の中身を打ち明け、口げんかの一つでもできたのかもしれない。しかしベルンハルトは、やはり、この願いは自身の胸の内に秘めておこうと思った。何も知らない無垢な彼女は、果たして自分を選んでくれるのだろうか? 不安も心配も尽きない。しかし、もし自分が選ばれなかったとしても、彼女がそう選択したのなら、受け入れる覚悟がある。

 この願いがかなうかどうかは、すべて未来のレディに託そう。
 少しわがまますぎるだろうか、とも思うが。



 沈みゆく意識の中で、真衣はふと考える。

 そういえば、ベルンハルトの望みを、真衣は知らない。契約を境に、今まで滅多に会うことができなかった彼とは、ぐんと話す機会が増えた。それでもお互い、すべてを知り尽くしているというわけではない。

 願いの内容は分からないが、短冊さがしの前に背中合わせになって一緒に書き込んでいるとき、ベルンハルトが頭が痛そうな表情をしていたのを覚えている。彼から女性の話を聞いたことはないから、恋のねがいといわれて困惑したのだろう。

(子どものころは、ハルトも誰かに甘えたりしていたのかしら。でも、ハルトってとってもまじめだから、誰かに甘えているところを想像できないのよね)

 その一方で、ベルンハルトは真衣が小さいころからずっと見守ってくれている。いろいろ面倒を見てもらっているし、同い年同士ではまかり通らないようなわがままも聞いてくれる。

『ハルトが私にわがままを言ってくれますように』

 いつも甘えている自分が、そんなベルンハルトを甘やかすことができればと思い、短冊に願いを託したのだ。

 神人として顕現したばかりのころ、ウィンクルムがどんなものかもわからない状態でいるところを、ベルンハルトが契約に応じてくれた。あのとき無理を承知で試してみなければ、今頃見ず知らずの男性と一緒に戦場に駆り出されていたかもしれない。ベルンハルトと適合したことが分かったときは、それはもう大喜びしたものだ。

 しかし、今になってわかった。自分は、ベルンハルトのことを、知っているようで実は知らない。殊に、今日のように恋愛が関わってくると、ベルンハルトの表情に『見ず知らずの男性』が垣間見えるのだ。

 たぶん、こうして真衣が不安になるのは、ベルンハルト自身が真衣に悟られないよう隠し続けている何かがあるからなのだろう。だから真衣は、彼の弱い部分をあえて攻撃するようなことはしたくなかった。彼が真衣を大切にするからこそ、そういう風に思い悩んでいることにも気づいているからだ。

 その何かがわかったとき、胸を張って彼と肩を並べられるのだろう。彼に釣り合うレディになるということは、きっとそういうことだ。

 ……ここはもう、夢の中なのだろうか。ベルンハルトが真衣の髪を指ですきながら、おやすみ、と優しくささやいた。その声の心地よさや腕の暖かさに身を委ねながら、真衣は穏やかな眠りに落ちていったのだった。







依頼結果:大成功
MVP
名前:ガートルード・フレイム
呼び名:お前、ガーティー
  名前:レオン・フラガラッハ
呼び名:お前、レオン

 

名前:真衣
呼び名:真衣
  名前:ベルンハルト
呼び名:ハルト

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター しのかわ冷徹
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 08月28日
出発日 09月07日 00:00
予定納品日 09月17日

参加者

会議室

  • そうかそうか…いい話だ(他人の過去エピソードを勝手に覗いて感動していた←)
    しかし、三年も寝ていたせいでムダに気力は余っているのだが、ゲームはエンドロールという…。
    やっぱり異世界への移住かねぇ。
    そんなわけでどっかで見かけたらよろしくな(・ー・)ノシ

  • わーいよかったー!!
    真衣ちゃん、ベルンハルトよろしくなー♪
    三年…そうか、俺らも三年くらい眠っていたんだな…(汗)
    ん。おっきくなったな♪(頭なで撫で)

    これで安心して出発日まで待てるぜ!

  • [4]真衣

    2018/08/31-14:41 

    大丈夫よ。だって、私たちも参加したもの!
    ガートルードさんと、レオンさんはおひさしぶりです。
    えーと、……3年ぶり、かな? えへへ、おっきくなったでしょう?

    どんなお願いごと書こうかな。
    かくす場所も考えないと!(わくわく

  • しかしまあ、この状態だから仕方ないとはいえ、出発できるかがちと心配だな!
    このまま今日プロローグが出なかったらこのエピが最終出発になるし、
    プラン提出しつつ気長に待ってみるかね。

  • (レオン)
    遅 れ て 来 た ぜ (・ー・)ノ(どぉーん)
    いやあ、いつの間にか戦いが終わったんだってな!みんな乙!!ハッハッハ!!
    そんなわけでどこもかしこも蛍の光が流れてるようなムードの時に、
    あえて挑戦的なエピを投げるゲームマスターさんの男気をかってな!!
    そんなわけで、


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