プロローグ
「あれは絶対にデミ・コボルドです! あんな凶悪な真似をするコボルドは、まちがいなくデミ・オーガ化しているに決まってます!」
「そう言われてましてもねえ……」
A.R.O.A.の職員、筆記具を逆さにしてデスクに打ち付ける。かれこれ一時間ちかく、似たり寄ったりの問答に付き合わされている。いいかげんに切り上げたくて仕方がない。しかし、相手はまったくそう思ってくれないようで、闘牛のごとくいきりたち、鼻息荒く突っ掛かるのだ。
「あんた、どうして儂のいうことを信じてくれんのですか?!」
それは――……職員は口にしかけた文言を、呑む。
それは、おまえさまがハゲだからです。
実際、彼が相手する実年男性は、見事なまでにてらてらした金柑頭である。光り物を好むというハーピーのあいだに放り込んだなら、さぞかし珍重されるだろうに、職員は不謹慎にもそんなこと考える。
金柑頭の主張はこうだ。実は、彼とて年中ハゲなわけではなかった。オーダーメイドの精確なカツラを愛用し、何処へ行くときもそれを佩き、黒黒ふさふさを演出していたのだ。ところが、悲劇が起きた。仲間といっしょに荒れ地へ行楽に出掛けた際、コボルドに目を付けられ、カツラを奪われた。彼一人だけではない。共に居た仲間全てのカツラが、コボルドに取り上げられてしまった。
「あのー。つかぬことをお伺いいたしますが、その仲間って、」
「タブロス蒸れないヅラ愛好会第28支部の集いです」
すげえぞタブロスなんでもあるぞ。
「ですから、儂等の大切なカツラを、是非とも取り返して欲しいのです!」
「いや、でも、それうちで扱う事件じゃないような。デミ・オーガの角を見た人がいるわけじゃないんでしょう?」
「仕方ないではないですか。奴等、ヅラを奪ったさきから頭にのせてくから、角があるかどうか、確認できなんだのです。しかし、このように不届きな犯罪を企てるとは、あれはきっとデミ・オーガにまちがいありません!」
とまあ、不毛な言い合いへし合いは、堂々巡りを繰り返すのであった。職員も諦めの境地にいたり、やがて妥協案に達する。
「じゃあ、こうしましょう。ウィンクルム達に呼び掛けて、デミ・オーガかたしかめてもらってきますよ。で、いけるようなら、ついでにカツラを取り返す」
「ふむ。まあ、そんなところでしょうな」
タブロス蒸れないヅラ愛好会第28支部会員No.034も、そのへんで手を打つことにしたようで、満足げに肯く。
「コボルド達は何故かカツラを気に入ったようですな、いったいそれが何れ程貴重なものかも、分かっておらぬくせに。ですから、囮としてカツラをかぶってゆくのも、一つの作戦かもしれません」
「……カツラを、ですか」
「カツラを、です。派手なものであればあるほど、目を引きやすいので、よろしい。ちょんまげやリーゼントやアフロなど如何かな?」
職人はげんなりした表情で、「ネタ、カマン!」と書類に書き付ける。おまえ内心ノリノリじゃねーか。
依頼:
郊外の荒れ地に出没する全てのコボルドからカツラを剥がし、デミ・オーガ化していないか、その目で確認せよ。デミ化してる場合、その場での駆除が望ましい。
解説
やだやだウィツグなんておしゃれなものじゃイヤなんだい。
・ぶっちゃけると、デミ・オーガいないんで。だから依頼の成功条件は本当に「デミ化してるかどうか、全てのコボルドについてチェックする『だけ』」になります。
・コボルドは倒しても倒さなくてもいいですし、ヅラは取り返しても取り返さなくてもいいですし。
・どこから調達したのか不明ですが、全てのコボルドがカツラをかぶっています。ただし、色物ネタ物のカツラは少ないので、コボルドの興味の対象になりやすいようです。
・あのねっ。囮はハゲヅラ鼻眼鏡のおとーさんがいいと思うの私っ。
・↑ノイズです、気にしないでください。
・現場はだだっぴろい荒れ野です。成人男性の膝丈ほどの雑草が生い茂ってますが、それだけです。視界は良好です。
●コボルド(15体)
犬頭のネイチャー。痩せぎすの人型、身長もだいたい人間とおなじくらい。
でも、人間は嫌いみたいです。相手が強いとみるや、すぐ逃げ出します。
●コボルド戦士(4体)
錆びた槍や錆びた鎧やカツラで武装し、戦闘訓練を受けたコボルド。
ちょっと強い。でもやっぱり逃げるときは逃げる。
●コボルドボス(1体)
2メートル100kg級の巨体のコボルド。これからカツラをひっぺがすのは、ちょっと大変かもしれない。
彼のみ片言ですが、人語を解します。ボスだけあって、わりと勇敢。
●デミ・コボルド
いません(断言)
ゲームマスターより
御拝読ありがとうございます。紺一詠です。
禿頭を侮辱する意図は決してありません。みんなちがってみんないい。
そういや、わたくし男性神人様にネタしか提供してないような気がします。
しりあすってなにそれおいしいの。ぱくぱく。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
事前にシュシュやヘアゴムなどのヘアアクセサリーをいくつかバッグに入れておく。 カツラ:上に向かって毛を盛り上げ、ゴテゴテな飾りをつけた、ちょっと斜め上にぶっ飛んだギャルっぽいカツラ (面白そうなので選んでみた) 現場では普通のコボルドたちに驚かれないようにそっと近づいてみる。 カツラにコボルドが興味を示したら、交換するか聞いてみる。 言葉が通じないときは身振り手振りで伝えようとする。 持ち込んだヘアゴムやシュシュなどを使い、コボルドたちがかぶってるカツラをアレンジしようと試みる。 もしかしたら、少しアレンジして個性を出したら喜ぶかもしれないし、確認もしやすくなるかもしれない! 怖がらせないように優しく接する。 |
田口 伊津美(ナハト)
(結寿音を名乗って参加) 【心情】 もうこれほっといていいんじゃな(ry ナハトは殺る気だし、しゃーねーな、付き合ったるか… …あれ、なんか私今日テンション高くね?自分でもなんでかわかんないけど 【準備】 万が一に備えてインカムを配っておくよ デミいたり、逃げ出した奴がいたら報告よろしくね 私がカツラかぶる?冗談はほどほどにね! こっちに来られても困るし、私は双眼鏡でももって敵位置の把握しておこうかな 【戦い?】 戦闘指揮っぽいのと殺すか生かすかの判断でもしようかな…大人しくカツラを飛ばされない奴は申し訳ないけどもみじおろしになってもらおうか! …たまにはこんなくだらない戦いもいっか、報酬はしっかりもらえるんだし |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【カツラ要請】 ディエゴさんに立派なリーゼント 私もかぶりたい、ソフトモヒカン(サイドにバリアート付)で。 リーゼントすごく格好良いよ 崩れないようにスプレーで固めなくちゃ。 ディエゴさんが…無理やりひっぺがして調査するのは男の気持ちを理解してない…自分の立場で考えても見ろ、嫌だろ。って だからコボルドボスの所に行って説得したいみたい 自らかつらを外すよう促すって かつらを被るってことは…頭が寂しいってこと? 二人のかつらの下に肌色のキャップつけてスキンヘッドみたくするのはどう? 説得の後にこっちがかつら外せば共感を得られないかな ちなみに…リーゼントをけなされた場合、ハロルドが怒ります |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
コボルド戦士を調べようか コボルトと接触する時は降矢さんに囮になって貰おうかな うん、もちろん囮らしい恰好でね? 私は…普段の格好で…ね? 戦意を見せてきたら仕方なしに剣を抜こうかな 私と降矢さんからしたらデミ化しているか調べたいだけで敵意は無いんだけれど…それが相手に伝わるか分からないからねぇ …チョコ食べる? 七色のアフロを4、5個紙袋に入れて持っていこうかな カツラを変えるときには少しだけでも頭を確認できるだろうからね 気に入ってくれれば良いんだけれど 被っているであろう依頼人さん方の鬘と交換出来ればいいんだけれどね …飴食べる? …あ、七色アフロで武装したコボルト戦士団を一目見たいっていう欲があるのは内緒ね? |
クロス(オルクス)
アドリブOK カツラを取るコボルト? よく分かんねぇオーガもいたもんだ(苦笑) よしオルク、俺らもカツラ被んぞ! 何がいいかな~♪ うっし俺は金髪パイナポーヘアーで良いや オルクは…ぶふっ(笑) 何でそれにした!?(笑) てか似合わな過ぎて…(笑いを堪える仕草) まぁ俺も大概似合ってねぇけど! 取り敢えずデミ化してるかどうか確認だろ? 俺等はコボルト戦士狙いでなるべく危害を加えずに行こうと思う 勿論取られないよう注意しながら 取り敢えず自分が被ってるカツラを取ってもらえるよう説得してデミ化してるか確認するか そうだな… 今被ってる奴と交換して欲しいとか言うか? 人語理解するか分からんけど カツラ 某クフフパイナポーヘアー |
●Aパート
「デミ的なワンワンあたまは見当たんないな。んじゃっ本日のお仕事終了」
完――結寿音先生の次回作に御期待ください!
「つか、もうこれほっといていいんじゃなry」
双眼鏡でもって荒れ野の前途にあるらしきコボルドの集落を一寸見、最低もとい最短の打ち出しを計った結寿音こと田口 伊津美であるけれども、近くのぐるりを見渡せば、この気なんの気気になる殺る気が勢揃いしているから、逃げるに逃げられず……こら大人の事情っちゅうな。
伊津美、肩をばじっくりめぐらして、ぱきぽきり、鳴らす。
「……しゃーねーな、付き合ったるか」
どうやらナハトも異様な殺る気をみせているし。それになんだか自身だって昂揚の気配、お金ももらえるし、ま、こんなのもたまにゃあいいよね。
伊津美の精霊であるナハトは、カツラの、金色の毛髪50センチばかり立ち上げてバキバキに固めたのを阿弥陀にかぶって、将来的には2とか3とかになるかもしれない雰囲気。寄るな変質者とばかり半径5メートルより外に追い出しておいたけど、いつもより3割ほど増した身の丈は否が応でも目立つから、二振りのダガーを、ナハト、真面目な顔で舐めずるところまで、伊津美にはばっちり分かってしまう。
「今宵のハイ&ローは血に飢えておる」
「お天道様、絶賛稼働中だけど?」
楽しそうならまあいいか、という方針に関しては、ディエゴ・ルナ・クィンテロも心向きを同じくする。最近、過去について悩み、ふさぎ込みがちだったハロルドが、浮き浮きと、まるで遠足前日の児童がそうするかのように、出立の前から準備に余念がなかった。出来るかぎり彼女の望みどおりにしてやりたいとは思うが――……、
「ディエゴさん、すごく格好良いよ」
こんなだったり、結果が。
ハロルドが夜なべでせっせとセットしたリーゼント、のヅラ、を装着させられた、ディエゴ。副次効果として、ピリオドの彼方が見えそうに。
ディエゴ一人だけに任せてはなるかと(私もかぶりたい的な意味で)ハロルドはソフトモヒカン仕様の、サイドはウィンクルムの文様に似せたバリアート。
「そうか……?」
ディエゴの率直な疑問に、ハロルド、こっくり首を垂れる。バリアートもまた、こんにちは、する。
「うん。背中に『魔鬼那泥依怙参上』って刺繍したら、もっと格好良いかな」
無論、金の糸で。「まきなでぃえごさんじょう」と読むそうだ。ディエゴの衣服のつくりは長ランに似ているからさぞかし映えるだろう、と、ハロルド、やけにはきはき主張する。
自分がハロルドに施した知識のなかに当て字のテクニックはあったろうか、それともこれがハロルドの過去の手掛かりだろうか、いや、まさか、だが万が一ということもありうる、というか、ハロルドが自ら刺繍するのか……?
ディエゴの困惑を余所に、ハロルド、なにか悟ったというふうに、花の相好を無垢に綻ばせ、
「ディエゴさん、いいこと思い付いた。インスパイアスペルを今日だけ変更して」
「やめよう(即決)」
神人たち、つまるところ女性陣の士気の高さとは反対に、どちらかといえば、テンションだだ滑りの男性陣イコール精霊たち、ナハトは大体いつもあんななので例外。
無駄にディテールに凝った、なんで蟀谷を矢柄が貫いてるの、雀がちょんと一羽止まってるの、な、落ち武者のカツラを頭に載せられている、ジャスティ=カレックもまた、どうしてこうなったな事態に気乗りしない一人だ。ヅラからはみだしたディアボロの角が描く、空虚なカーブ。
ちなみにこれまでとこれからのカツラの全ては、神人たちの要請により、A.R.O.A.とタブロス蒸れないヅラ愛好会の提供でお送りしております。A.R.O.A.め普段物資ケチりやがってこういうときだけ奮発するな、とか、言っちゃダメだよ書いたけど。
少なくとも、アレよりはましかもしれない。ジャスティ、パートナーのリーリア=エスペリットの上のほう、打ち見る。タブロス中心あたりにいるようないないようなギャルっぽく、上空へ向けて堆く盛り上げた髪に、星やハートや様々なラメを繰り入れた、リーリア言うところの「らぶてぃめっとサマーの本気! 女子力あふれるCawaii☆彡」カツラ、あれはギルティ成仏盛りというんだそうだ、意味が分からないって? 考えるな感じろ。
しかし、ジャスティにとってはただの盗み見のつもりが、どういうタイミングか、リーリアとがっちり目が合う。リーリア、敬意すら含んでいるような、これまでになく潤んだ熱っぽい目でジャスティを見据える。
「雀……かわいい……」
そっちか。
「私も雀を用意してもらえばよかった……。一羽でチュン二羽でチュチュン三羽揃えば……したかった……」
そっちか、どっちへ行くつもりだ、多分明後日だ。
ところで他の精霊のように士気が低いというのとは別の意味で、精霊のオルクス、いつ地にめり込むかというぐらい、がっくり落胆している。
「オレとしたことが……」
そう。黄金の怒髪が天を衝く、なあたり、オルクス、ナハトとネタがかぶってしまったのだ。なんたる悲劇! ナハトのほうは殊更ネタかぶりを気にするでないが、しかし、オルクスにとっては、遙かでもない昔、上層部の飲み会で無理矢理被らされたトラウマ押してまで、準備したカツラであったのに……!
「これしか思い付かなかったんだからしょうがねぇだろ!」
クロス、本当ならオルクスのヅラをクフフだのクハハだの、力一杯笑ってやりたいところだったけど、オルクスはガチ滅入ってるようだから下手に触れない。別にコンテストの類いではないのだし、デミ・オーガかどうかチェックすればいいだけだから、ネタがかぶったってどうってことはないのだが、オルクスにとっては沽券に関わる一大事らしいのだ。
「こうなったらオレはもう戦闘種族の王子として、ヤツより先に2となり、砲弾ぶちまくるしか……!」
面倒見のいい性質のオルクスがいつになく対抗心むき出し、そうまで言い切ってしまうのだから、クロス、オルクスの阻喪の重々ぶりを知る、王子の自称にツッコミ入れたいのはさておいて。本音の更に本音としては、それはそれでありかもしれないとは思うのだが。
「やめとけってもー」
「おいクー、笑うなら思いっきり笑えよ! オレだって似合ってねぇのは重々承知だわ!」
「まぁ俺も大概似合ってねぇけど」
クロスは、彼女は一言でいえばぱいなぽーな六道めぐってきたような、あ、それ以上はいけない。今にものの字を地面にひっかき記しそうなオルクスの、頭ってゆうかカツラ、よしよしいい子いい子と撫でてやる。すこし気をよくしたオルクス、いじけた俯せの姿勢からようやく頭を擡げた。
「いや、クーは案外似合ってるぞ?」
「うーん。なんか褒め言葉に聞こえないような……」
「オレが戦闘種族の王子だとしたら、クーはマフィアの姫だ、女幹部だ、女王様だ。是非ともオレと永遠のサンバで契約してくれ」
「ウィンクルムなんだからとっくにしてるだろ、契約」
で、皆様。肝心のなにかお忘れでないでしょうか。
「……コボルドは?」
伊津美と同様に双眼鏡で向こう側を見ていた降矢 弓弦、ぽつりと溢して、銘々ようやく本件を思い返す。そうだった、目的は調査だった。まあ報告した弓弦とて、日向 悠夜の見立ての、鼻眼鏡付きの禿ヅラの(正確には3本は毛がある)を頭上に積まれて、いっそどうにだってしてくれ、俎上の鯉の気分である。
「ねえ悠夜さん。これ本当に付けなきゃ駄目かい?」
「降矢さん、がんばってね」
悠夜の優しげな、それでいて一癖も二癖も隠していそうな笑みが、一点集中型の鋭さで宣告する、駄目よ、と。二人も囮になる必要はないからと、悠夜は素のままの恰好とあたまで、二人でしない分一人はちゃんとやらなきゃ申し訳ないでしょう、と暗に主張する。
予測はしていた弓弦、それ以上の反駁試さず、やれやれ、と、ずれかけた頭上のそれを丁寧に修正した。知識を増やすにやぶさかでないが、これは知識という以前の問題というか……おなじく頭上に置くなら枕代わりの書物にしたいものだ。いや、それもなにか違う。
どうやらコボルドもウィンクルム達の存在(付属品)、そしてカツラ(本体)を見留めたらしく、叢雲のごとく、集団ごとうごめいて。対するウィンクルムもまた、じりじり、陣を広げる。
今だかつてなくどうでもいい戦いの幕の火蓋が切って落とされる――……!
●コマーシャル
「歌って踊れて戦いもできる! アイドルIZUIZUをよろしくね! ってしまったあ、コボルド相手に営業うっても、びた一文、見返りがない!」
●Bパート
「僕は思うんだけど」
降矢、心底嫌そうに、資源の無駄だといいたげに、しかし万が一をおもんばかり銃に弾薬を装填する。だが、外の行為とは裏腹に内の疑念は尽きない。
「コボルドがデミ化しているのなら、囮の僕より、神人の悠夜さんに目を付けるんじゃないかな。だから、調べるまでもなく、コボルド達はデミ化してないんじゃあ……」
完――降矢先生の次回作に御期待ください!
だって、わりとマジでそのとおりですし。
個々の性状があるから絶対にそうだとは言い切れないが、デミ・オーガやオーガはそれとなく神人を察するらしいから、コボルドたちのなかにデミがいるなら、行動はともかく注意だけでも、とっくに神人たちに向けられていたっておかしくない。
だが、コボルドたち、そろいもそろって、色も形も笑いのベクトルもとりどりの、ウィンクルム達の真上の小劇場に気を取られている。隙を窺って、リーリア、コボルドの1体にそうっと寄ってみる。
「こんにちは」
一般のコボルドには人語は通じないとは聞いていたが、他に適切な挨拶も見付からず、肉体言語をだしぬけに行使するわけにもいかず、とりあえずそんなふうに声をかけてみる。リーリアの見付けたコボルドは七三分けのカツラ、ぎっとりした油で固めた、それだけの。
――……こりゃない、な。
リーリアの心に使命感めくなにかが湧く。携えた荷を下ろし、シュシュやヘアゴム、ブラシを取り出す。今度こそはほぼ肉体言語だ、ただし、地力に訴えない的な。リーリア、コボルド1体の頭をぐわしっといういきおいで掴み、櫛を入れる。彼女らを脅かすまい、と、幾分身を離して彼女らに目を配るジャスティ、ふと思い付いたことをそのまま口にした。
「そういえば、リーリア。ヘアアレンジなんていつ習ったんですか」
「習ってないよ?」
「……」
「平気よ、自分の髪ならいつも結ってるもの。だいたいこういうのは、女の子にとっては本能で出来るはず……」
出来た。
「……リーリア。僕にはこれは、未来的な廃墟のようにしか見えないんですが」
「か、かわいいじゃない。ほら、このシュシュ。ビーズのお花がチャームポイントなの!」
「たしかにシュシュはかわいいんですけどね。そのかわいいシュシュを3つも4つも使って、どうしてこうまで殺気の充溢する作品を生み出せるのか、相手がコボルドだということを差し引いても、僕は理解に苦しみます」
しかしコボルドは喜んでいる! 廃墟はコボルド規準では御褒美だった、のかもしれない。
A.R.O.A.からウィンクルム達に託された依頼は、あくまでも『調査』である。別に倒さなくてもいいのだから、相手がデミでさえなければ、という注釈は付くけれど。コボルド戦士を調べようと、悠夜は、装備を心許り誂えたコボルド達の方へ向かい、敵意のないこと示そうと、鞄のなかから取り出だしたる、ビターな一枚。
「……チョコ食べる?」
砂煙。ものすごい速さでなんか来る。
いただきます。ものすごい速さでチョコ平らげる。
ごちそうさまでした。それなりの速さでてくてく帰る。
「馬鹿ロボ、いったいどこ行……って、あーっ。また拾い食いしてきたな! 戦闘と仕事んときだけはよしとけっていつも言ってんだろ!」
「降矢さん、世の中にはおもしろい生き物がいるのね」
「精霊だよ」
しろよ、調査。
というわけで、次こそはほんとうに調査をするべく、悠夜、次はおもむろに小粒の丸いのを取り出して、
「……飴食べる?」
砂煙。ものすごい()
いただ()
ごち()
「だから馬鹿ロボ! 拾い食いのために脱出して、歯磨きしつつ帰還すんなーーー!」
「降矢さん、世の中にはおもしろい生き物が沢山いるのね」
「精霊だよ。というか、今回は確実に来ること予想してたよね?」
そのうちするんじゃないかな、調査。
「いいか。次にやったら、背中のゼンマイ引っこ抜いて、廃品回収に出すからな」
伊津美、今の大移動で、ちょっと危ういことになってた、ナハトのカツラを両面テープで再度固定する。ナハトは真面目に肯くが、本当に分かったものかどうか怪しいので、伊津美は早々に彼方を指さし命じる。
「エトワールだ! あっちにいっぱいコボルドがいるだろ、そっちに突っ込め。アンタの素早さで一気に襲いかかってカツラを吹きとばせ!」
ツノ確認したならばデミは即効スタッカート、と指定すれば、ナハトはやはり首を縦にし、即実行。
ダガーの二刀握り直して腰を落とす、発射だっ。コボルドの只中に吹き下ろす円の嵐、大で薙ぎ、小で撫でる。コボルドの、装着しているというよりは頭に乗っけているだけのカツラ、次々とめくれて、角など見当たらぬ無印のワンワン頭がさらけ出された。
いやぁわん♪(スカートめくれたっぽく、徒に色っぽいコボルドをご想像ください)
「おーい、馬鹿ロボット。今のもとりあえず斬ってもいいからー」
ナハト、着地して、冷ややかに、一文字に、刃を舐めずる。
「今宵のハイ&ローは麩菓子に飢えておる」
「飢えてんのは、アンタだ。あ、今宵のあたりはもうつっこまねーぞ。めんどうだ」
「……やるな」
好敵手の動向が気になるらしいオルクス、ナハトの奮闘を認めると、胴に結わえたホルスターに触れてたしかめた。先程宣言したとおり、砲弾の代用に連射したいという衝動はあるが、まずは「なるべく危害を加えないように」「確認」と云ったクロスの云うとおりにしよう、敵意がないこと証明するには、さて、どうすれば。
オルクスはコボルド戦士にとにもかくにも近付いて、だが、コボルド戦士の戦士たる瞳を見たそのときに、分かる。オルクスもまた、オーガを殲滅するための戦士であったから。
否、最初から分かっていた。人語を理解しない? そんなことでないのだ、問題は。そんなものよりずっとすばらしい言語があるではないか。彼のかぶったカツラが告げている、コボルドにも精霊にも共通する、無口にしてなによりも率直かつ雄弁な器官を使えと――畢竟、拳。
「そうか、オレたちは戦いあうことでしか分かりあえない!」
友情! 努力! 勝利!
口先だけの説得なぞは生ぬるい。すべてを凌駕する真実の有質量を叩き込め!
「オルク、なにしてんだ?」
「すまん、クー。オレのオマエへの気持ちは本物だ。だが、漢にはどうしてもやらねばいかん瞬間がある」
「はあ……」
「しかし、オレは約束する。全てが終わったら、二人で教会へ行き、愛の鐘を共に鳴らそう!」
「ヅラ落としかけながら、意味不明なフラグ立てるなーーー!」
しかもね、伊津美が事前に用意しておいてくれたインカムのおかげでね、その場のウィンクルム達全員フラグを聞いてしまうっていうね、知らぬは本人ばかりなりっていうね、もう。
「ならば、彼等のためにも迅速に戦いを集結せねばなるまい」
キリッと姿勢を正し、ディエゴ(リーゼント)とハロルド(バリアート)、コロルドボスの寸前に立った。2メートルを越す巨体のボスをディエゴは見上げる、思い切り腕を伸ばせば届きそうな位置に、見えた。カツラ。だが、あれを無理無体にひっぺがすのは男の気持ちを理解していない、と、ディエゴはまともに
でもオルクスもそうだけど……コボルドって男なのか?
「わん!」
警告のように、けれども巨体にしては案外かわいらしいボスの一声が、轟く。ディエゴは反射的に身を竦めるが、ハロルド、むっと桃唇を尖らせる。
「酷い。ディエゴさんのこと、そんなふうに言うなんて」
「……ハル。どうして分かった?」
「魂」
魂か。で、あるなら、こちらも魂で応じねばならない。ディエゴは覚悟を決める(notトランス)。相手はコボルド、難しい会話は理解しない。でも拳はもうおなかいっぱいだし、ならばはったりを弄せず、舌に心意を込めるまで。
「わん!(どうして、人間からカツラを掠う? 自分に合うカツラをつけないと頭皮によくない影響を残す)」
「わわん!(自分たちコボルドなんで、頭皮、あんま関係ないっす)」
「わふ(……ま、まあ、それはそうだが)」
「きゃんきゃん」←なんとなく参加してみたハロルド
「わおーん(お、お嬢さん。けっこう話わかるっすね)」
「やはり魂か! 俺の魂は、ハリーに負けるのか?!」
十数分後、けれど、どうにかこうにかディエゴは魂通じさせることに成功した。コボルドボスが片手をあげれば、コボルド、コボルド戦士、一時休戦、カツラを次々脱ぎ去った。
「それじゃあ、仲直りってことで、」
悠夜はぽんと手を打ち、鞄をがさごそ手探りして、ちょっと小さめの七色アフロをぽんぽんと順繰りにコボルドの上へ被せてやってけば、コボルドたち、アフロ県からやってきたかもしれない、アフロコボルドに大変身。あら、かわいい。満足したので、もうちょっと優しくしてやりたくなる。
「……クッキー食べる?」
「(一番乗り)」
「だから馬鹿ロボ、アンタ、自分の神人が誰か忘れてるだろーーっ?!」
「悠夜さんも……余所の精霊を安易に餌付けしないでほしいんだけど……」
「クー、オレはオマエのために死の淵から(※死んでない)蘇ってきたぞ! さあ、ウェディングカツラを探しに行こう!」
「荒野のまんなかで愛を叫ぶな、ベタすぎて恥ずかしいっ!」
終わったはず、だ。だのに、始まるまえよりずっと賑やか、というか、殆ど騒音の域に達しているのは何故だろう?
●Cパートだから、短いよ
「ハル、話がある」
ディエゴとハロルド、勿体ないから(なにせ一晩かけて作ったのだから)という主張のもと、二人はカツラを外さないでいた。
「リーゼントをつけてる俺は別人か」
「うん。泥依怙さんになってる」
終了、
「……違うな、俺は俺だ」
再開。
「ハルも……過去にどのような人間だったにせよ、お前はお前だ。知ったところで今更おまえを見捨てるようなことはしない」(リーゼント中)
「ディエゴさん」(バリアート中)
ハロルドはディエゴの前に立ち、彼を塞ぐ。身体を二つに折り曲げる程、深く、低く、頭を下げる。
「これからもバリバリ喧嘩上等夜露死苦おねがいします」
「…………」
言い切ったようにハロルドはハロルドで、ハロルドのことはもちろん信頼している、けれども今ここでは迂闊に肯定したら、なにか思いもがけぬ仕事が舞い込みそうで、例えば魂。返事に迷うディエゴである。
●嘘予告ですけど何か
雀を手に入れて(ジャスティがくれた、というか、喜捨してきた)御機嫌のリーリアが立ち上がる!
「私、冷静に考えたの。廃墟も、これはこれでありなんじゃないかって、だってコボルドも喜んでたでしょ。もうちょっと上手くやれば、Cawaiiと雀とコボルドと落ち武者とギャルとカツラが共存できる、夢のヘアアレンジが出来るようになると思うのよ。見ててね、ジャスティ。私は世界をひっくりかえしてみせる……!」
「まったく冷静でないのはわかったから、とりあえず、落ち着きましょうか。世界の敵とならないためにも」
次回『リーリアの3羽の雀が牙を剥く!!』
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 紺一詠 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 日常 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 05月29日 |
出発日 | 06月05日 00:00 |
予定納品日 | 06月15日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- 田口 伊津美(ナハト)
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- 日向 悠夜(降矢 弓弦)
- クロス(オルクス)
会議室
-
2014/06/01-13:10
結寿音でーす、エピソードで始めましては悠夜さんだけかな?
友達機能くれー
かつらは私は被らない方向で行くよ、私に突進されても困るし
ナハトには一応なんか被せとくかな?龍球コスプレ用の金色で逆毛なアレにでもしておくか。
多分エトワール使ってるうちに落っこちそうなものだけど!
落ちたら落ちたで早さを利用してすごい勢いでかつらを飛ばす作業に移りますわ -
2014/06/01-10:02
こんにちは。
私はリーリア。パートナーはシンクロサモナーのジャスティよ。
よろしくね。
カツラは、私はアゲ嬢みたいに盛って飾りまくったようなのか、どこかの音楽家みたいなのを。
ジャスティには落ち武者か辮髪がいいかもって思ってるの。
ジャスティから文句たっぷりの怒りまじりの視線を感じるけど、気にしない気にしない。
これはきっと表情筋や腹筋を鍛えることもできる任務よね!
とりあえず、一番数が多い普通のコボルドたちに接触してみようかなーって思ってるわ。 -
2014/06/01-09:50
初めましての方は初めまして!
そうじゃ無い人は又宜しくな(微笑)
俺はクロス、パートナーはプレストガンナーのオルクスだ
オルクスにはアフロとか丁髷とかにしようかと…
俺もアフロとか被ろうかと… -
2014/06/01-00:41
初めましての方は初めまして
そうでない方はまたお世話になります、ハロルドと申します。
精霊はガンナーのディエゴさん
ディエゴさんには是非、軍艦みたいなリーゼントを…
私も被れたらソフトモヒカンあたりを希望したいですね。
行動なのですが、ディエゴさんがどうしてもボスに伝えたい事があるそうなので
ボスコボルト方面を立候補しときます。 -
2014/06/01-00:30
こんばんは。皆、任務では初めまして…かな?
違っていたらごめんね。
私は日向 悠夜って言います。パートナーはプレストガンナーの降矢 弓弦さん。
よろしくお願いするね。
今回は…なんと言うか…こう、愉快な依頼だね。
…七色のアフロってインパクトあるかしら?
とりあえず、降矢さんには禿げ頭のカツラと鼻眼鏡を頼んでみようかな~って思っているよ。
…途中で笑っちゃわない様に頑張るね。