艱難汝を玉にす~追憶~(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ゚・*:.。. ふと 思い出す …… 『 あの日 』 の事を .。.:*・゚

 晴れた日に、青空見上げながらベンチの上で。
 雨の日に、相合傘の中で水たまりに映った自分たちを見つめながら。
 星が輝く夜に、偶然出会った瞬間デジャヴを感じ苦笑いと共に。

 パートナーとなってから、どれくらいの月日が過ぎただろう。
 長いような短いような。
 いまだ隣りにいるのが新鮮で、ついその横顔を眺めてしまう時もあるだろうか。
 空気のように、在ることが当たり前になっていて、その温もりが近くにいないと落ち着かなかったりするだろうか。
 どちらからともなく、口にする。

 「そういえばあの時……――」

 今だから言えるあの日の心の内。
 今だから紡げる遠慮なくした言の葉。
 語らい合えば、知らなかった思いもあるかもしれない。
 初めて見る相手の表情もあるかもしれない。
 もしかしたら、初喧嘩に発展してしまったりも……

 ウィンクルムとして、パートナーとして、お互いが認める関係として、
 どんな思い出が強く残っているだろうか。
 あの頃と今、歩んできた道でどのように自分たちは変化してきたのだろうか。
 思い立ったが吉日。
 目と目が合えば、蘇った思い出が言葉にされて。
 
 さぁ、『あの日』を包み隠さず振り返ってみましょうか ――

解説

◆唐突に出来た語らいの時間。二人にとっての『あの日』とは?

 『あの日』のアフターエピソードもどき、な完全個別描写になります☆
 以下、どちらの描写の仕方がご希望か、プラン冒頭に数字をご記載下さい。
 選択された描写に合わせて、プランをお書き頂けると幸いです。

 1.喫茶店で向かい合って、公園の芝生で寝転びながら、等、今いる場所(ご自由に設定可)で
   「あの時はああだったね」と、過去を振り返りながら【現在】語らっている。

 2.振り返った『あの日』に遡った、【過去】当日の描写として。


◆過去エピソード名を【1つ】、ご記載下さい☆

 キャラクター様「依頼履歴」にある、Noの数字で書いて頂いてもOKです。
 そのエピソードを当方が拝読し、プランに沿って参照させて頂きながら描写する形になります。

 「1」の場合、育まれたご関係を保ったまま、懐かしむ感じでしょうか、
 「2」の場合、初々しい反応同士で『くっ……成長したんだなぁ……っ』とPL様が噛み締める形でしょうか(メタ)、
 個性豊かなキャラ様たちの数だけ、色々な雰囲気がありそうですね!
 プランの書き方次第で、「1」「2」が混合になる場合もありますが、基本的には選択された数字の方を、主体で描写させて頂きます。

◆語らい合ったらお腹がすいた……帰りに食事でも【一律300Jr】消費。
 ※「食事」までは描写に入りません。ご了承下さい(ペコペコッ)

ゲームマスターより

 うわあああああああんお久しぶりです皆様お元気ですかぁぁあああああ(ざしゃぁ!!!)
 (上記色々台無しな登場)
 げふんっ、キリッ☆ ご無沙汰しておりました、蒼色クレヨンでございます。
 もしくは初めまして! ヘタレに定評のある文房具GMです。
 色々慌てて飛び込んでまいりました。………ううサミシイ………(小声)

 ビギナーマーク付いてますが、ピュアウィンクルム様からベテランウィンクルム様まで
 どなたさまでも両手広げてお待ちしております!
 浦島GMでスミマセンがっ、プロフィール設定などは今一度、更新されてるかご確認下さいませネっ(頼る気満々)
 どんな『あの日』が選ばれるのか、拝読出来るのをワクワク待機しております!☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  1.ラキアと共に暮らす自宅、居間で。
ラキアが報告書整理してるから手伝う。
敵司令官生存案件はまだ継続中って気持ちなんだよな、オレ。
だからファイル分けてくれるのか。ラキアも同じ気持ちなんだな。

(◆エピNo158『ウィンクルム救出戦』)

この時は正直、一番、アタマ使ったぜ。
皆、無事に救出できて良かったよな。
オレ、あいつの事は好敵手だって今でも思っている。最も手ごわい敵だ。
戦争のやり方をちゃんと解ってる。だから部下達もよく訓練されててさ。
あいつのトコで部下達は消耗品じゃないんだ、って。戦って解った。
部下を大事にする司令官は強いぜ。
あいつに負けてらんねぇ、と思うと鍛錬にも熱が入るぜ。
もっと強くならねば!




俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  1
依頼No.34

買い物帰りの喫茶店
ネカ、何買ったんだ?…リップクリーム?

フラッシュバックする記憶
トランスのキスにさえ言い訳が必要だったあの頃
リップの匂いを確かめる時ですら、キスは恥ずかしくて鼻の頭に塗ったっけ
無意識に口に手をやり

え?今使うつもりかよ!?
あわあわしつつ目の前のもうひとつのリップを手にとって葛藤
別に嫌なわけじゃないしあの頃よりはキスに抵抗なくなったとはいえ、一応人前…あっ
指摘されて真っ赤に
く、くそ…やっぱりこういう話題になるとどうも調子が狂う

…か、帰ってからなら…
自分もリップを塗り
こっちは林檎の香りがするな
二つ合わせたらどんな匂いになるか、楽しみだな
…に、匂いが!楽しみだからな!


ユズリノ(シャーマイン)
 
EP48

現在
帰郷が済み帰りの列車内
あの初夢はこういう事だったんだね

思い出
2人で墓前に銀賞を取った報告をした
実家へ向かう途中道外れの春の花が咲き乱れる場所へ彼を誘う

この前の返事…その前にシャミィに話さなきゃいけない事があるんだ

★「決別したと思っていたのにシャミィと繋がりのある人だって知って 会えるかもしれない て期待した
誠実じゃないよね
シャミィと家族になりたいなんて言える資格…ない

問われて
「…違う 好きなのはシャミィ…

いいんだって何度も言ってくれる
「僕もシャミィの事幸せにしたい

落ち着いた頃
あの夢の途切れた言葉が聞けた「リノ 俺と家族になろう」
胸が詰まりながら はい と答えて心が幸福に包まれた

現在
腕輪撫でる


歩隆 翠雨(王生 那音)
 
エピ24

休業日に骨董店の大掃除中
那音が手伝ってくれるお陰で捗る
いつも悪いな、サンキュ
礼を言うと、こちらをじっと見ていた那音と目が合った

那音の言葉に思考は過去へ
思えば、もの凄い事を言われた…あの時は好意を受け取るのに精一杯だったのだけど
時間が経つにつれ、じわじわと広がる言葉
思い出すだけで顔から火が出そうで
那音にはとても言えやしないけど…

も、勿論覚えてるさ…
何だよ、突然…
恥ずかしいだろと言外に訴えるべく軽く睨む

いいかな?って…
…断る理由なんてある筈ない

那音の温もりを感じ
続いた言葉に目を見開き

俺は……もの凄く面倒くさい奴だぜ
そう笑ってから

俺も、那音を独り占めしたい
…喜んで

嬉しいと涙が出る物なんだな


 とあるショッピングモールを出た正面、喫茶店の外に設けられたテーブルと椅子に腰かけ、向き合うウィンクルムが一組。

「姉貴たちに頼まれた分は……よし、完璧」
「シュンも人がいいですねえ。突然来訪してきた身内の頼みなんて、遠慮なく断ったって良いのでは」
「……『では私もご一緒してきますね!』っていい笑顔で有無を言わせなかったのは誰だよ」
「だってシュンとデートしたかったんですもん」

 じとりと睨んでも全く悪びれない笑顔を向けてくる『ネカット・グラキエス』に、それ以上突っ込んでも無駄だと悟って溜息に変える『俊・ブルックス』である。
 ふと、そういえば自分が買い物している最中いつの間にか紙袋を手にしていたネカットが、目の前でその紙袋へガサゴソと手を入れ始めた。

「ネカ、そういや何買ったんだ? ……リップクリーム?」

 紙袋から取り出された形状を条件反射的に口にした直後、見覚えのあるセットとなったラッピングに目が釘付けになる俊。
 そしてそれがどういったブツか、次には瞬時に理解してしまった。
 俊の脳内を補完するかのように、嬉々としてネカットが説明してくれる。

「以前買った、二つ合わせると香りが変わるリップクリームです。使いきってしまったのでまた買ってきたんです」
「やっぱそれだったか……!」

 フラッシュバックする記憶たちに、俊は思わず突っ伏した。
 まだ、トランスのキスさえ言い訳が必要だったあの頃。
 うっかり手に入れてしまったこの二つのリップは、互いが混じり合うと匂いが変わるというもので。
 当然の如く確かめようとしてくるネカット相手に、キスなど恥ずかしくて相手の手の甲と己の鼻の頭とに塗って、何とか納得してもらった思い出が今走馬灯の如く。

「なんと、今年の新作ですよ! 今度はどんな匂いでしょうか、わくわくします」
「え? 今使うつもりかよ!?」

 俊の胸中を分かっているのかあえてスルーなのか、目の前では早くもパッケージから1本取り出しているネカット見やれば、
 無意識に俊は自身の唇をガードした。けれども。
 何分、以前は自分の意思を通させてもらっている。
 更に言えば今や互いに認め合う恋人同士。
 2度目の機会となれば、公平さを考えるならネカットの希望を叶えるべきだろうか男として。
 あわあわと、やや動転したそんな思考で思わず俊ももう一つのリップを手にしていれば、ぐるぐる葛藤し出す。

「え? もちろん早速使うつもりですが」
「やっぱそうなのかっ……いや別に嫌なわけじゃないしあの頃よりはキスに抵抗なくなったとはいえ、やっぱり今回も一応人前d」
「シュン、シュンー」
「あ?」
「忘れてませんか? これは単体でも普通に使えますしいい匂いなんですよ」
「……へ」
「こっちは薔薇の香りですね」

 ぬりぬりぬり。うん、ぷるぷるツヤツヤになりました☆ なんてリップ使用した唇を指差すネカット。
 そういや買い物前に、今日は乾燥してますねーとか何とか言ってたような言ってないような……。
 そこまで思考巡らせた瞬間、ボンッと音を立てたようにして俊の顔が真っ赤に染まった。
 つまり、自分の早とちりだったのだと。
 例え今までの経験上、『ネカならやりかねないどころか絶対やる』と決めつけてもしょうがないだろう! と自身に言い訳しても。
 平然とリップクリームに蓋をしているネカット見れば、羞恥に染まるのを止められるはずもなく。
 ――― く、くそ……やっぱりこういう話題になるとどうも調子が狂う……。
 本来なら、『紛らわしい言い方したおまえが悪ぃ!!』とでも言ってやりたいのに。自分が恥ずかしくなって、また顔を隠すよう突っ伏した。
 それを始終見やるネカットさんは、大変良い笑顔である。
 ―― うっかり勘違いしてただけなのは分かってますが、面白いので黙っておきましょう♪
 まさに掌で転がすが如く。

「……ふふっ、もしかしてここでキスして匂いを確かめたかったです?」

 あえて尋ねたりするネカット。
 まだ顔が上げられないらしい俊の様子を、楽しそうに見つめながら言葉続ける。

「でもまあ、シュンがそんなに気になるなら試してみましょうか。今度はちゃんと唇で……ね?」

 そろそろ怒られる頃ですかね。
 分かっていてもついつつきたくなってしまうのは、全て愛情表現ってことで毎度観念してもらうしかない。
 いつ盛大な切り替えしが来ても良いように、逡巡しつつ俊の動向を見守っていたネカットの耳に、ぽつりと何かが聴こえた。

「……か、」
「うん?」
「……帰ってからなら……」

 なんと。
 あのシュン が 成長しました 。
 思わず、ジーン、と今の言葉をリピート堪能したくなるのをこっそり堪えて。

「うーん、分かりました。では帰ってからのお楽しみということで」

 葛藤と羞恥で回らなくなった頭の代わりに、気付けば呟いてしまった自身の言葉。
 こちらも畳みかけられるかと身構えていた俊が、妥協したネカットを不思議そうに見つつどこかホッとしていたり。
 今はもうされる事はないだろうと安心しては、手にしていたリップを自分も塗ってみた。

「こっちは林檎の香りがするな。二つ合わせたらどんな匂いになるか、楽しみだな」

 言った瞬間、ネカットと目が合った。
 にっこり微笑まれた。

「……に、匂いが! 楽しみだからな!」

 家に帰ってから俊がどうなったか、お察しである ――

◆ ◇ ◆ ◇

 もうじきタブロスに到着することを淡々と述べる放送が列車内に響く。
 隣りに並んだ席で、『ユズリノ』はまだどこか信じられないといった夢心地な表情で、『シャーマイン』の肩に頭を預けていた。
 
「あの初夢はこういう事だったんだね」
「……ああ、きっとそうだ」

 幸せそうに呟かれた言の葉に、優しい声色が続いた。
 同時に二人は想いを馳せる。
 帰郷して得た出来事、その中でもっとも色鮮やかに思い出された数日前の出来事に ――。

 * ~ * ~ * ~ * ~ *

 一時期はもう二度と踏むことはないと思っていた故郷の土。
 ユズリノは踏みしめるように歩いて、一つの墓前の前にシャーマインを導いた。
 それはユズリノの兄のお墓。オーガによって散らされた命が眠る場所。
 二人は手を合わせ祈った後、伝えたかった事を報告した。
 ユズリノが、スイーツコンテストで銀賞を取ったことを紡げば、付け足すようにシャーマインが、今ユズリノは菓子職人を目指しているのだと繋げてくれる。
 ここまでは、いつか見た初夢の通り……。

 実家へと向かう道すがら、ユズリノは夢を辿るが如く春の花が咲き誇れる場所へと、彼を誘った。
 ずっと向けられたままの背中を、シャーマインは見つめたままただただ素直について行く。

「この前の返事……その前にシャミィに話さなきゃいけない事があるんだ」

 立ち止まった先で、ユズリノが俯いてそう告げるのを暫し耳の奥に木霊させてから。
 言い辛そうにしているその華奢な背中をそっと押すように、シャーマインは言葉を与えた。

「……ロディおじさんの事か?」

 バッと振り向かれた新緑の目が、すでに微か潤んでいるのを見て取って。それでも頷いて、大丈夫だと促して見せる。
 見守ってくれる金の双眸を見つめた後、ユズリノの重い口がようやく開かれる。
 交流の中で、彼に恋をしたのだと……。
 外へ連れ出して欲しいと懇願したのだと。
 しかし、シャーマインの叔父でもあったその彼ことロディは、『神人になったらまた会える』と言い残しユズリノの下を去った。
 顕現したユズリノは、その言葉を胸に都に来たけれどどんなに待てども会えないまま……いつしか、諦めと共に過去と恋心に決別したのだと。
 決別する決心をさせたのは他でもない、シャーマインに恋をしたから。そう、小さく小さく唇が動く。

「決別したと思っていたのにシャミィと繋がりのある人だって知って……会えるかもしれない……て、期待しちゃったんだ」

 向き合う形に正面に立って語るも、ユズリノはシャーマインと中々目が合わせられなかった。
 ―― こわい。
 ずっと言えなかった理由。自分を想ってくれていると分かれば分かる程、この告白は彼を傷つけるものだと強く実感していたから。
 何より、シャーマインに見放される事が怖かったから。
 ―― シャミィと家族になりたいなんて言える資格……ない。
 誠実じゃないよね……、自嘲ともいえるそんな呟きも耳に届けば、シャーマインは一歩、ユズリノへ踏み出した。

「好きなのか? ……今も」
「……違う。好きなのはシャミィ……」
「ならいい。リノは俺が幸せにする」

 やっと瞳と瞳が交わった。
 心から驚いた表情を浮かべるユズリノを、シャーマインは一気に引き寄せ堪らず抱きしめてはキスを降らせた。
 もういいんだ、そう何度も紡いでくれる彼へと、ユズリノは笑顔と一緒に一筋の涙をこぼす。

「僕もシャミィの事幸せにしたい」

 気付けばとめどなく溢れ出る涙たちが落ち着くのを、大きな掌でその背を優しく撫ぜて待ってから。
 あの夢の途切れた言葉が、シャーマインの口から紡がれた。

「リノ。俺と家族になろう」

 薄桃色の花弁が舞い散る中で、聞いた言葉。
 少し違うのは、不安混じりに問いかけるものでは無く、力強く望む声であること。
 今なら、ユズリノから勇気と信じる気持ちをもらえたから。
 覗き込む愛しい人へ、ユズリノは胸いっぱいになって喉の奥に詰まらせた言葉を、やっと口にする。

「……っ、はい……」

 答えた瞬間、二人の心を幸福が包み込むのだった。

 * ~ * ~ * ~ * ~ *

「ご両親には、盛大に驚かせて少々悪かったか……」
「ううん。結婚前提の付き合いだって、挨拶してくれて嬉しかったよ」

 回想から戻れば、気まずそうに頬をかくシャーマインを可笑しそうに、しかしとても嬉しそうにユズリノは見つめてから。
 その手の中にある、小さめの腕輪を、そこに彫られた木彫りの装飾を大切そうに撫でた。
 それは亡き兄がくれたはずの物。オーガから逃げる時に失くしたはずの物。
 今、確かに存在するその腕輪にシャーマインも視線をやった。

「リノが思うよりも、村人たちの対応が丸くなっていたのは一重に、A.R.O.A.の広報の賜物だろうかね」
「あははっ。そうなら恩返しもかねて、もっと頑張らなきゃかな?」

 冗談交えて笑い合う。
 思ってもみなかった、穏やかな気持ちでの帰路。
 どちらからともなく、家族の誓いかのように手を重ねては強く握り合うのだった。

◆ ◇ ◆ ◇

「うぉ!? なんだなんだ」
「あ、ごめんセイリュー、そこ雪崩れるかも」
「今! まさに雪崩れた! そんでオレ受け止めた!」

 ぐっじょぶオレ☆ と言いながらも、ふぅと一瞬焦った表情を吐息と共に戻し。
 『セイリュー・グラシア』は片手で支えていた紙束タワーを倒れない位置に置いてから、入ってきた居間の状況を改めて見回した。
 いつもは整理整頓の行き届いた、二人が同居するラキア宅の居間。それが現在、紙やファイルで溢れているのである。

「任務の報告書が色々と溜まってきたから、整理。丁度いい、セイリューも手伝って」
「おー」

 セイリューらしく、嫌な顔一つしない素直な返事に、クスリと一度微笑んでから。『ラキア・ジェイドバイン』はテキパキと指示を飛ばし始める。

「敵司令官生存案件はこっちに綴じて。完全討伐すんだものはこっちへ」
「討伐済んだのそっち、と。あ、これ……」
「どうかした?」

 『敵司令官生存案件』と手書きで書かれた紙面に、セイリューの手が止まったのを見てとれば、ラキアは首を傾げた。

「これに関しちゃ、まだ継続中って気持ちなんだよな、オレ」
「俺もだよ」
「あ。だからファイル分けてくれてるのか」

 他の報告書とは違うカラーの背表紙に纏められているのに気付いて、『ラキアも同じ気持ちなんだな』とセイリューは頷いてみせる。
 セイリューが手にしたファイルを見つめれば、ラキアの脳裏にもその任務にあたった日の事がアリアリと浮かび上がった。
 それは特殊なデミ・ギルティと邂逅した日。
 相手の目論見にハマり、仲間が打ち負かされ捕らえられてしまった任務。
 
「この時は正直、一番、アタマ使ったぜ。皆、無事に救出できて良かったよな」
「重症の怪我人が多かったのは、正直胸が痛むけれど、ね……」
「命あってなんぼだって。あの時出来る精一杯をやったから、それですんだんだ」
「うん、そうだね」

 心優しいラキアの気にする所をすっかり理解しているセイリューだからこそ、その心を癒せる言葉が届けられる。
 何でもないつもりでついた言葉だったけれど、相変わらずの彼らしい返答きけば自然と笑顔になる己に気付いて、ラキアは心の内でこっそりはにかんだり。

「オレ、あいつの事は好敵手だって今でも思っている。最も手ごわい敵だ」
「そうだね、彼……敵司令官の呼称が判ったのは次の戦いだったけど。プロバーティオという呼称、本名では無いかもね」
「やっぱそうだよな」
「うん。でも、自分達は髪の色と雰囲気から勝手に『夕闇』って呼んでたから、呼称だけでも判って良かったよね。
 特別な呼称を知らせたくなる程度には、お互い意識したって事だから」

 お互い意識した、の言葉にセイリューのアメジスト宿す瞳が燃えるように輝いた。
 熱くなったように次々とラキアへと紡げば、ラキアからも応じる返答が続く。

「戦争のやり方をちゃんと解ってる。だから部下達もよく訓練されててさ」
「彼は今までの敵とは少し違ってるよね。救出戦では、オーガの統率管理が素晴らしかったよ」
「ヤグズナムとかヤグナムとか、それまでは見境なく個々で襲ってくる感じだったもんな。
 あん時はこう、攻撃の性質活かした配置にされてたっていうか」

 おかげでオレ思考フル回転で大変だった! とセイリューが今だから叫べるのも、彼らの取った行動がしっかり仲間の助けになったからだと、ラキアも、そしてセイリュー自身も自信を持って言えるからこそ。

「引き揚げさせた部下は俺達との経験を持って帰るからより強くなる。それを理解し実践する。どこが自分達と似た部分を感じるね」
「あいつのトコで部下達は消耗品じゃないんだ、って。戦って解った。部下を大事にする司令官は強いぜ」

 デミ・ギルティにもあんな奴がいるんだな、と嬉しそうに話すセイリュー。
 好敵手と認めた相手、それに対抗しようとするセイリューの姿勢は確実にウィンクルムとしての力に変わる。
 それが分かっていたから、ラキアは続けようとした言葉は自身の胸の中のみで響かせた。
 ―― 大事に、というには語弊があるかもしれないけれど……。
 と。
 ラキアは、あの夕焼けから宵闇色になるいっそ美しくすら見える髪とは反対に、どこまでも光など映そうとしない、いっそ笑って眺めているような漆黒の瞳を思い返せば
 部下を……如何に有益な駒まで成長させるか、という感じに近い気もするけれど。と、そう静かに渦巻く思考があったから。

「あいつに負けてらんねぇ、と思うと鍛錬にも熱が入るぜ」

 もっと強くならねば!
 真っ直ぐ耳に、心に響く言の葉。
 一緒に強くなろう。そう、頷いて返すラキアを見ては満面の笑顔が。
 再び手を動かし始めてくれたセイリューの横顔に、ラキアは思う。
 いつだって自分の心が傷つかないように守ってくれるセイリューへ、ならば自分は、彼の彼らしさが決して陰らないように努めようと ――
 
◆ ◇ ◆ ◇

 ―― こうして翠雨さんと店の掃除をしていると……思い出す。

 共に同じ屋根の下で暮らすようになってからも、互いに多忙な二人。
 やっと時間が取れれば、つい思い出を増やしたくなって外出しがちとなっていたここ最近。
 しかして本日は、『歩隆 翠雨』が切り盛りする骨董店の休業日。
 定期的に行っていた掃除もやや久しぶりともなれば、大掃除に発展するのも自然な流れであった。
 パートナーであり恋人である『王生 那音』も、時間が取れたとなれば当然の如く現在大掃除手伝いの真っ最中であるわけだが。
 大掃除風景、そして愛しい人の存在、この二つが重なる日の事が、那音の脳裏にふとよぎっていた。
 そう。受け止めた彼の、遠い空のような瞳を覗き込み気持ちを伝えた、そしてやっと、遠くを見ていたと思っていた彼が今の自分を見つめ、受け入れてくれたその時の事を。
 ―― 本当に……嬉しかったんだ。
 恋人となる以前、それまでも那音は抑え切れない衝動に任せ、何度か唇を重ねさせた事があったけれど。
 初めて想いを重ねてしたキスが、あれ程に身を焦がすような幸福で満たされるものだとは思わなかったのだ。
 
 手を動かし続けながらも、いつの間にか緩んでいた口元を自覚した所で、現実の翠雨から声がかかった。

「いつも悪いな、サンキュ」
「俺が好きで手伝ってるんだ」

 一人でおこなう時とは違い、テキパキと捗る掃除や整理についと翠雨は口にしたが、打って響くようにしてすぐに優しい声色が返ってくれば
 照れくさそうにしつつも、感謝の念をちゃんと届けるべく振り返る。
 澄んだ御空色と、深いディープブルーの瞳が交わった。

「……翠雨さん、こうして二人で掃除していると、あの時の事を思い出さないか?」

 今しがた物思いに身を投じていた内容を、ふと那音は言葉にしてみる。
 すると一瞬ピシリッ、と硬直した後みるみる色づいていく表情から、翠雨の思考もその過去へいざなわれたのだとハッキリ見て取れた。
 ―― 思えば、もの凄い事を言われた……あの時は好意を受け取るのに精一杯だったのだけど。
 あまりにも情熱的且つストレートな那音からの告白をじわじわ感じ取れば、今にも顔から火が出そうで。
 翠雨は誤魔化すように、棚掃除へ手を伸ばすふうを装いながら。

「も、勿論覚えてるさ……何だよ、突然……」
「うん、思い出したら……キス、したくなった。いいかな?」

 言外に恥ずかしいだろと訴えていたつもりの睨むような視線が、次に紡がれた言の葉に一際目を見開かせた後、熱を帯びていく。
 ―― いいかな? って……。
 もう翠雨は分かっていた。断る理由などある筈ないのだと。
 過去に縛られ頑なに凍っていた心は、この男にいつしか融かされていたのだと。
 逸らされない瞳と温かさ纏う沈黙から、一歩、また一歩と那音は翠雨へと近づいていく。
 翠雨さん……と、甘い呟きと共に細い腰が引き寄せられれば、互いの唇が触れ合い温度を分け合った。
 唇が離れても自分へと身を預けてくれている銀の糸へ、軽く口元を寄せながら一度那音は瞳を閉じる。
 ―― ……本当はもっとちゃんとした場所で言おうと思っていたのだけど……。
 ムードを重んじようと思っていた思考は、触れあう温もりに背中を押されるように那音の胸の奥の言葉を押し上げた。
 告白した場所と同じこの場所だからこそ。伝えよう ――

「結婚してください」

 真剣な声色が銀の糸をつたって、その双眸へ落とされる。
 見開かれた空色の瞳。
 見つめ合ったまま、那音は心からの言葉を繋げた。

「俺はずっと貴方を独占したい」

 いつもは余裕のあるその表情が、真剣な色を浮かべていれば翠雨はもういつかのようにそれに背を向けることはしなかった。
 信じさせてくれる。信じていいのだと、いつだって気持ちをぶつけてくれていたから。

「俺は……もの凄く面倒くさい奴だぜ」

 だから翠雨はそう紡いだ。取り繕うでもない、翠雨らしい真っ直ぐな笑顔で。
 いつかと同じ言葉。けれど、あの時よりずっと、自分の心に正直になった言葉。
 那音も微か瞳を細め感じ取った。
 翠雨のそれが、緊張はらんでいたものでは無い、両手で自分を受け入れてくれる愛情含んでいることを。

「俺も、那音を独り占めしたい」
「……喜んで」

 那音は、言葉ごと翠雨を抱きすくめた。
 翠雨は、躊躇うことなくその広い背中へ手を回した。
 ―― ああ……初めて知った。嬉しいと、涙が出る物なんだな。
 暫く、新鮮そうに自らの頬をつたう雫をそのままに感じていると、長い睫毛に付いた雫を貰い受けるように、那音の唇が落とされる。
 幸せになろう。
 その唇からそう囁かれたのを聞き取れば、翠雨の瞳から一層温かな涙があふれると同時に、控えめに首を頷かせた。
 夢で終わることのない、本当の家族となる誓いを胸に抱いた二人を、骨董品たちがしばし嬉しそうに見守っていたとか ――



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 津木れいか  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月08日
出発日 05月14日 00:00
予定納品日 05月24日

参加者

会議室


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