プロローグ
●
「はぁ~い、じゃあまずカーテンから出しちゃって~…あぁ!その本棚は3階にお願いね」
昼下がり、何もない部屋に数人の男女が段ボールを抱えがやがやと入っていくなか、その男性は中央で指示をしていた。
ピンクとパープルを基調としたファッションに片耳に光る金色のピアスがきらりと光った。
「アネッタさーん!オープンイベントって何やるんですか?」
一人の男がそう彼を呼べば、彼はにっこりと笑って返事をした。
「この街でお店を出せるんですもの、オープンイベントは派手にしなくっちゃ!」
首都ダブロスは常に人と精霊で溢れた賑やかな場所、そこに店を構えるというのは相当の努力が必要なのである。
今日ダブロスの一角に小さくも立派なスタジオを構えるのが、アネッタという男性である。
人材に恵まれた彼の周りには明るく愉快なスタッフが集まり、今もこうして賑やかにオープン準備を進めている所だ。
「アネッタさん、そういえばオープンイベントって何します?」
「んーそうねえ…とりあえずオープン当時だけお安くしちゃおうかなーって思うわ、メイクとヘアアレンジ付き!」
「おお、太っ腹ですね!」
「誰が太っ腹だ?」
「いえ、アネッタさんのお腹の事言ってませんよ」
●
「来週10時からオープンのスタジオアネッタでーす!よろしくお願いしまーす」
人が賑わう噴水前で、スタッフは通りかかる人達にビラを配った。
内容はオープンイベントについてだ。
ドレス、着物…コスプレ衣装まで完備すると書いてあるチラシの下には「ヘアアレンジ・メイクもします!」と書いてある。
更にはスタッフ自らも愉快な仮装をしてお出迎えとまで書いてあるのだ、大盤振る舞いなイベントだ。
ビラを受け取った人の一部が足を止め、そのチラシの内容に目を奪われる。
そして何より、そのオープンイベントの参加費が足を止める問題になっている。
「ねえ、本当に800Jrだけで衣装貸してくれるの?」
一人の女性がそう言えば、スタッフが振り返り笑顔で答えた。
「そうなんです!衣装もヘアアレンジも込みのお値段なので軽い気持ちで来ていただければって思って」
「へえ…それで800Jrかー」
「因みに通常料金は8000Jrです、ヘアアレンジにメイク…衣装によっては2、3万Jrくらいになっちゃうんですよ」
「なるほど!」
「いただく金額以上のおもてなしをしてますけどね!…というわけで、気になったらいらしてください」
そう答えるスタッフに女性は関心しながらチラシを受け取りその場を後にした。
スタッフ達の明かるい笑顔の効果もあってか、ビラが地面に落ちている事は無かった。
●
「いよいよ三日後ですよアネッタさん!」
「んー!緊張するわね…あなた達衣装は決まったの?」
スタッフも仮装すると書いた為、スタッフも自分が何を着るかで話はもちきりだった。
ワイワイと賑やかなスタジオを見て、アネッタは思わず笑みがこぼれる。
「私達は大体決まりました!あとは参加者を待つばかりですね…!」
「よーし…はーい皆注目ぅ~!」
数回手を叩くアネッタにスタッフ全員の視線が向く。
いつもと少し違う「オーナー・アネッタ」としての彼の言葉がスタジオに響いた。
「三日後はいよいよお客様が来てくれるオープンイベントになるわ、あなた達の対応次第でスタジオ・アネッタの運命が決まるの…お客様をとびっきりの美男美女にして差し上げるのよ!いいわね?」
「はい!」
解説
●参加費
参加費が800Jrのみ、別料金は発生しません。
ご希望のヘアアレンジ、メイク…衣装を揃え、最終的には写真撮影まで用意されています。
オープンイベント限定なので、好きな衣装をスタッフにお申し付け下さい。
通常金額は8000Jr、衣装…ヘアアレンジ等を踏まえると値段が上がってしまいます。
スタッフの言った通り「お値段以上のおもてなし」を心がけております
●スタッフ
個性豊かな衣装を着たスタッフと、オーナー・アネッタがお出迎え致します。
三階建ての白を基調とした1階に、2階がスタジオ・衣装部屋となっております。
3階はオーナーとスタッフの作業部屋になっているので立ち入りはお控え下さいね。
●オーナー・アネッタ
ピンクとパープルを基調としたファッションに片耳ピアスをした女性口調の男性。
撮影でぎこちないお客様に笑顔で写ってもらうべくこの口調になったとか。
ファッションセンスも長けており、小物を使ったファッションアレンジを得意とします。
困った事があったらオーナーアネッタにお声をかけて下さい。
撮影を楽しんでいただけたお客様には、スタジオアネッタよりお写真と「素敵なプレゼント」がありますので
是非、楽しんで行ってくださいませ。
ゲームマスターより
らんちゃむです。
近所にあるスタジオからピンクのドレスを着た女の子が飛び出して来た時の事を思い出しました。
まるで天使のようでした。ぎゃんかわって奴ですね
オーナーアネッタと愉快なスタッフさん達のお店、思う存分楽しんでいただければなーと思います!
コスプレ衣装は王道なものからコアなものまで用意してあるらしいですよ!
お望みあればスタッフも一緒に混ざってくれるとかなんとか…皆さんがどんな衣装を着るのか、すっごく楽しみです!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
エミリオさんと一緒に思いっきり楽しみたいな 私は『魔女』の格好をするよ 黒×ピンクのゴスロリワンピにマントと帽子を被るの 髪はガーリーな感じに巻きたいな メイクはスタッフさんにお任せ 実は開店のお祝いにプレゼントを用意したんです 明るいこのお店をイメージして、ポップでキュートなデコレーションの『カップケーキ』を作りました(スキル使用) 『皆が笑顔になりますように』って思いを込めながらスタッフと参加者全員にお菓子を配るよ 私笑顔を見るのが大好き 大切な一瞬を形にできる写真はもっと好きなの エミリオさんが笑ってくれるだけて私は嬉しい 写真はエミリオさんとのツーショットと スタッフさんや、できれば他の皆とも一緒に撮りたいな |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
私は一度全部をなくした こういうふうに誰かと撮った写真も、あったのかなかったのかさえ覚えてない。 だから何かを残したい、家族写真を残したいなって (一人が椅子に座って、一人が後ろにたって椅子に手をかけている写真) この写真はちゃんとした服装で撮るのが良いということだから ドレスと燕尾服に着替えるみたい。 でも私、こういう服着たことないからちょっと照れくさいな…。 ドレスはたくさんあるし、どれが私に似合うだろう? オーナーのアネッタさんにアドバイスしてもらって、私にぴったりのドレスを探そう。 ディエゴさんの隣にいて恥ずかしくない立派な感じにしたいから…。 「おめかしするのは初めてかも…でも嬉しいな」 |
クロス(オルクス)
アドリブOK 写真会か… 楽しそうだな(微笑 衣装が沢山あるから悩むぜ… ん?オルクは決まったのか? で俺にこれを着ろと? 分かった、ずっと悩んでてもしょうがねぇしこれにするよ (全て完了し綺麗に着飾った) うわぁ此れが俺? 別人だろ(苦笑 てか十二単って意外に重くて歩きにくいんだな あっオルク…Σ(陰陽師姿のオルクに見惚れる) ベッ別に見惚れてなんか!(赤面 つぅかオルク似合い過ぎ!格好良いんだよ! (オルクに綺麗で似合ってる等言われる) あぁもう写真撮って貰う心臓がもたん! 写真会 (少し緊張) 自然体と言われても… 言い忘れてたが、褒めてくれてありがと嬉しかった(照微笑 コンセプト 平安貴族の姫 衣装 青系をベースにした十二単 |
ロア・ディヒラー(クレドリック)
800Jrで全部やってもらえるなんて凄い! プロのメイクの方法興味あるし、良い機会よね(メイクスキル1) ・・・いいじゃない別に! (いつもの白衣じゃなく他の格好を見たかったなんて言えない) 衣装は不思議の国のアリスのアリスでお願いします。クレドリックは帽子屋で。 この間本で読んだのが頭に残ってて。 わ、可愛いエプロンドレス! 人にお化粧してもらうのって緊張しますね これが私!?ま、魔法を使ったんですか!? ありがとうございます! わ、あ・・・帽子屋だ。(予想以上にぴったりだ) ・・・なんでもない、プロって凄いなって改めて思ったの 何このポーズ指定・・・!? め、目が合うと顔が熱いっ 撮影中不思議の国に居るみたいだった。 |
●ようこそ
「こんにちは皆様、うさぎちゃんです」
スーツにうさぎのカチューシャをつけた女性スタッフが寄ってきては、にこりと微笑んで挨拶をした。
「はい!それじゃあ二組様なので…いち、に…四名のスタッフをつけておきますね!おーい!」
二組に一人のスタッフをつけてくれるといったうさぎの女性は、四名のスタッフを呼び、そのまま2階を指さした。
「それじゃあ撮影、いってらっしゃーい!」
ひらひらと手を振るうさぎのスタッフの傍で、アネッタがひょこりと顔を出して一同に手を振った。
「さーて、張り切っていくわよ」
「はい!」
●服選び!
「えーっと、クロス様とオルクス様ですね?お二人の担当スタッフをします、ちょんまげ侍にござる!」
「おお!お侍が俺達の…よろしくお願いします」
クロスがにこりと微笑むと、ちょんまげ侍と名乗ったスタッフは恥ずかしそうに笑い返した。
「こちらこそにござる!ささ、お召し物は何がよろしいでござるかー?」
衣装部屋に通された二人は、その広さと量に驚かされた。
種類、色、サイズ…全て見やすいようにわけられて衣装はどれも魅力的で綺麗なもの。
キョロキョロするクロスにの肩をオルクスがとんとん、と叩いた。
「ん?オルクは決まったのか?」
「まあな、クーはこれな」
渡された衣装を受け取ると、オルクスの手にもう衣装が持ってあった。
「平安貴族と陰陽師…どう?」
「なるほど…ずっと悩んでてもしょうがねぇしこれにするよ」
受け取った着物を持ち更衣室へ向かうクロス達とすれ違うように、ロアとクレドリックが入っていく。
「わー…あ、あの!エプロンドレスってどこですか?」
「エプロンドレスはー…あった、こちらになりますよ!」
楽しそうに服を選ぶロアをじっと見るクレドリックは、彼女が何故楽しそうにしてるのかと首を傾げていた。
そんな彼に、ロアは持ってきた服をずいと差し出す。
「…なんだこれは」
「クレドリ…く、クレちゃん用の服」
「ロアだけかと思ったが、私も着ろと・・・?」
少し考えた後、彼女の手から服を受け取ったクレドリックにロアはにっこりと笑った。
見てわかるくらい、嬉しそうに笑っている。
「じゃあ着替えてくるね!」
「…ふむ、これは私も着替えて来なければいけないのか」
少し派手な色な気がすると、受け取ってから思うクレドリックの後ろから、ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツがやって来た。
付き添いのスタッフはもふもふとしたひつじの格好をしている。
「スタッフさん可愛いです」
「えへへえどーも!あ、もふもふしていいんですよ?」
「俺はしませんよ…」
「じょーだんです、にひひ…さあ、こちらが衣装部屋になります!…もう決まってたりしますか?」
首を傾げるひつじのスタッフに、ミサはにっこり笑って頷く。
「決まってるんでしたらそれに合ったお洋服探しのお手伝いします!」
「ありがとうございます!…この量の中飛び込むのかと思ってました…エミリオさんと頑張ればいけるかと!」
意気込む彼女に、エミリオはひつじのスタッフにこっそりと耳打ちした。
勿論ですよ、と返事をするひつじのスタッフは、ふわふわと体を揺らして服を探しに向かった。
「あ、そちらのお兄さんはどんな衣装を?」
「俺は…」
「ひつじさん!ダークでカッコいい魔王様にしてください」
「はぁ~い!」
衣装の奥を探しているのか、ひつじスタッフのおしりがふりふりと揺れている…それを見て、ミサはくすりと笑った。
「…もふもふ、可愛いです」
おっとりした顔に笑うとへにゃっと崩れる表情。
服がずらりと並ぶ間から姿を消したかと思えば、ひょこっと頭を出したスタッフを見て、ふきだしそうになったのは二人だけの秘密。
「ハロルド様とディエゴ様はどんな衣装がいいですかに?」
「…かに…」
「いや、ドレスと燕尾服を…お願いします」
ハロルドが思わず口にした「かに」という言葉を訂正するようにディエゴが依頼すれば、かにのかぶりものをしたスタッフは了解しました!と敬礼してみせた。
勢い良く衣装部屋に飛び込む…が、入り口でつっかかってしまった。
原因は言わずもがな、その頭だ。
「ちょっとアンタ何してんのよ」
「あ、アネッタさん!」
「どうしたのかと見に来たら…茹でてサラダにしちゃうわよ!」
「…かにのサラダ」
「んふ、美味しいのよ?…さて、お洋服は何がいいのかしら」
やんわりと微笑むアネッタに、ハロルドはドレスと燕尾服をと説明した。
詳細な情報が欲しいと言うアネッタに、二人は顎に手を当て考え込んでしまう。
「じゃあ…どういうお写真にしたいのかしら」
「…家族写真が、欲しいんです」
「家族写真…よし、それじゃあドレス見に行きましょう!ドレスはあっちにあるから…ほら、お兄さんも」
「は…はい」
ドレス衣装を探しに向かった二人を、かにのスタッフは見送った。
「いってらっしゃー…って違う!アネッタさんそれ俺の担当さーん!」
●魔法をかけて
「わー…お客さん綺麗な髪ですね!」
「そ、そうか?」
「そうですよ!」
衣装を着終えた後のメイク室、既にクロス、ロア、ミサの三名はスタッフによってメイクとヘアアレンジをしてもらっていた。
クロスは後ろで一つにまとめた髪を下ろしている最中で、スタッフは髪をとかす度に嬉しそうに笑う。
長い髪はクロスが着ている十二単にかかり、綺麗な色合いを見せていた。
「はーい、じゃあメイクをしますから、いいですよって言うまで目を閉じて下さいね」
ひんやりとしたスタッフの手がクロスの目元に触れる、クロスはその冷たさを心地よく思いながら、ゆっくり目を閉じた。
「アリスちゃん可愛いですねー」
「でしょうでしょう!俺も一緒に選んだものー!」
「…は、はい、一緒に探していただきました」
うさみみのヘアバンドをセットするスタッフの後ろから嬉しそうに左右に揺れるスタッフ、どうやらロアとクレドリックの担当のようだが…鏡に映る彼の姿を見て、ロアはプルプルと震えていた。
「ちょっと!アリスちゃん笑いこらえるのに必死だから出てってよ!」
「えー!いいじゃないっすかー!」
「揺れるな!アメリカンドッグが揺れるな!」
厳しくツッコむヘアスタッフに、アメリカンドッグの姿をしたスタッフがしぶしぶと外に出て行く。
その姿がミサの鏡にも映ったらしく、クスクスと笑う声が聞こえる。
「…はあ、よし、さーてアリスちゃん、あとはお化粧しますよー?」
「は、はい!よ、よよよろしくお願いします」
「ふふ、そんなに緊張しないでいいのよ、目を閉じててくれればすーぐだから」
水色のエプロンドレスに、エプロンの端に書かれたトランプの刺繍がポイントになっている可愛いらしい服。
合ってると言われたロアは恥ずかしそうに笑った。
スタッフの指示通りに目を閉じれば、ふわりと柔らかなものが彼女の頬に触れ始める。
「わー…早いですね」
お客様を飽きさせないのがうちのモットーなんです、そう言うスタッフに、ミサは感心した。
傍にあるケースから数本のエクステを取り出すと、ミサの髪にそっと絡ませていく。
「これは?」
「魔女さんの服に合わせて探してきたベリーカラーのエクステです、目立たない程度のアクセントに」
黒とピンクのゴシックロリータのワンピース、マントの襟には花の留め金をセットしてある。
その衣装に合わせ、ミサの髪の数箇所にベリーカラーのエクステを合わせていった。
和やかで温かい雰囲気、スタッフとお客という立場にも関わらず、まるで友人と話すような時間が過ぎていく。
目を閉じるように言われた三名に、スタッフは同時に声をかけた。
「開けてもいいですよ」
「うわぁ…此れが俺?別人だろ…」
「これが私!?ま、魔法を使ったんですか!?ありがとうございます!」
「二人共可愛いです!…えへへ、美人さんにしてもらいました」
「皆さん美人さんだから楽しかった!さて、相方さんはスタジオに入ったみたいなので、行ってきて大丈夫ですよ」
クロス達を見送ったスタッフの前に、アネッタがひょっこりと顔を出す。
お疲れ様ですと挨拶をしたスタッフに、ハロルドが現れた。
「この子もお願いね、衣装選ぶのに時間かかっちゃったわ」
「はーい、どんなメイクにします?」
「ナチュラルでいいわ、口にはぷっくり効果のあるグロスに…あと、この髪飾りをお願い」
アネッタが差し出した髪飾りを受け取ると、スタッフは任せて下さいと拳を作る。
ハロルドの肩をポンと叩き、アネッタはその場を後にした。
「…あの、変じゃないですか」
「え?とっても似合いますよ、暖かでやさしい色合いですね」
クリームとイエローのグラデーションがかったミディアムドレス、肩が出ているので白のストールが合わせてある。
アネッタから預かったものは、その色に合わせた可愛らしいひまわりの髪飾りだった。
「さあ、お化粧しましょうか」
「…はい」
表情にはでないものの、ドキドキと緊張が収まらないハロルドの手をスタッフはそっと取った。
●撮影開始!
「あっオルク…」
「クー?何固まってんだ?」
京都の背景前で扇子をひらひらさせていたオルクスは、入り口で棒立ちしているクロスに呼びかける。
は!と我に返るような動きをしたクロスは、恐る恐るオルクスの傍へと歩み寄った。
「じゅ、十二単が重かっただけだ!ベッ別に見惚れてなんか!」
頬を赤らめ動揺するパートナーに、オルクスは弧を描く口元を扇子で隠し、クロスの姿を見つめた。
青の十二単と髪は同化する事なく美しく映え、目元がきらきらとしている。
「褒めてくれたんだろ、ありがとな」
「は!?…お…オルク似合い過ぎ!格好良いんだよ!」
「どーも、クーも似合ってるし綺麗だ、流石オレの自慢のパートナーだぜ」
扇子をパチン、と閉じてにっこり微笑むオルクスに、クロスはふいと目を逸らした。
平安貴族の姫と陰陽師、手に持たれた扇子と気品ある衣装を着こなすオルクスは何か術でも使えそうだとすら思える。
撮影を始めると言ったスタッフの言葉に慌てるクロスの手をきゅっと握ると、オルクスは少し屈んで彼女を見上げた。
「転ぶといけません…お手を、我が姫様」
「っ!…お、おう」
「そこははい、だろ?」
「い、いいじゃんか!」
「うふふ、はーい撮影はじめまーっす!」
「お二人共素敵でござるぞー!」
ぎこちない表情のクロスをよそに、綺麗に微笑むパートナーに、クロスはちょっぴり悔しくなった。
するとクロスの手をぐいと引っ張り、抱き寄せるようにしてみせるオルクス。
「ちょ…!」
「自然体自然体…大丈夫、オレがいるから」
「っ…あ、あのさ…その言い忘れてたが、褒めてくれてありがと…う、嬉しかった」
「…っふふ、どういたしまして」
小声で交わされる恥ずかしくも優しい言葉に、クロスの表情も自然と和らいでいった。
その瞬間を逃さなかったのか、次の瞬間スタッフからキター!と大声が出て驚いたのは言うまでもない。
「うんうん!京都背景に古風な衣装…おしゃれねえ…あ、いけない次のお客様チェックしなくっちゃ」
影でこっそりと覗いていたアネッタは、次の客…ロアとクレドリックを覗きに隣のスタジオへと向かった。
●不思議の国へ
「アリスの背景があるんですか?」
「ありますよー!お相手が帽子屋さんなので、バラ園の背景セットにしてあります」
スタッフに手を引かれ入ったロアは目を見開いた、スタッフの言ったバラ園と、少し違っていたからだ。
不思議の国のアリスに関連する為に、赤に塗りかけの白い薔薇や、可愛らしいカラーのエッグで彩ってある。
テーブルに置かれたカップまでもが、不思議の国を再現しようと細かな演出がされていた。
「遅かったな」
「…あ、帽子屋だ」
カップに紅茶を注ぎ、優雅にくつろいでいるパートナーにロアは目を丸くした。
彼女に気づくと、クレドリックはカップをおろした。
すらりと長い足を組み、彼女が来るのを待っている。
「…なんだ、固まって」
「な、なんでもない、プロって凄いなって改めて思ったの」
「…奇抜な格好だなメイクや髪をいじられるのも初体験だ」
綺麗に後ろにまとめられた髪と帽子に触れるクレドリック。
切れ長の目を強調するように施されたメイクや、目の下のうっすら浮かぶくまなど丁寧なメイクがされてあった。
関心するロアに、スタッフの声がかかる。
「お写真撮りますよー!」
「は、はい!」
「えーっと?ポーズの指示があるんですよね」
アメリカンドッグのスタッフがひょこっと顔を出し、カメラマンに説明を始める。
会話が聞き取れないが、どうやら説明を聞いて納得をしたようだ。
「はーいはじめまーっす!それじゃあ帽子屋さんアリスちゃんの顎をとって…そうそう!」
「…こんなシーンは本に無かったぞ」
ロアの顎に手を添え、空いてるカップを彼女の口元へ寄せる。
じっと見つめるクレドリックに、ロアの手はエプロンドレスをきゅっと掴んだ。
(っ…!め、目が合うと顔が熱いっ)
(顔が真っ赤だ…撮影で緊張しているだろうか)
「あの二人の周りにキラキラ加工と薔薇欲しいかも…」
「あ、それ俺も思った」
スタッフの声が二人の耳に届かない程、緊張の撮影会は続けられた。
●素敵な魔女
「はーい!魔女さん入りまーす!」
「よろしくお願いします…あ、エミリオさん!」
他のスタジオより少し薄暗い中、青白い光の下にはエミリオが立っていた。
魔女と魔王との設定に合わせ、背景とセットは夜の城に満月になっている、城の一部分を切り取ったようなセットの前に、彼は立っていた。
「…ミサ」
にこりと微笑み、彼女に手を差し伸べるエミリオ。
それに合わせ、衣装のマントがひらりと揺れ、貴族のような出で立ちの衣装が見える。
黒と淡い紫が使用された服は、上品な優雅さを表してあり…マントの留め金は青いバラのコサージュが飾られていた。
「それじゃあお二人揃ったので撮影はじめまーっす!」
「お二人共準備はいいですか?」
はい、と返事をすれば、ムードを出す為にBGMが流れる、ヴァイオリンの旋律がスタジオを包んでいった。
「…あのね、エミリオさん私笑顔を見るのが大好き」
自分たちを撮影して微笑むスタッフ、一緒に付き添ってくれたひつじのスタッフ、影で覗いてるアネッタがひらりと手を振る。
メイクをしてくれたスタッフ…一緒にやって来て撮影を終えたクロスやロア達も覗いていた。
皆、楽しそうに笑っていた。
「大切な一瞬を形にできる写真はもっと好きなのエミリオさんが笑ってくれるだけて私は嬉しい」
「…そうか」
「一緒に来てくれて、ありがとう」
エミリオに向き合い、にこりと笑う彼女にエミリオは頬が暖かくなるのを感じた。
すっと彼女に顔に寄り添い、耳元で囁く。
「似合ってるよ、ミサ」
「わぁ、ちゅーしてる」
「してるの!?まじか、激写だ激写!カメラ撮りまくってー!」
「み、見間違いですよ!」
ひつじのスタッフの小声がスタッフに火をつけ、ミサとエミリオの撮影はワンシーン部分だけ大量に撮影されていた。
●欲しかった物以上のモノ
「あれれー…ほーら笑ってー!」
「…えっと…」
「すみません…」
シンプルな背景と、椅子に座るハロルド…その後ろに立つディエゴは申し訳無さそうに視線を下に送る。
撮影開始から、どうも上手く取れないのだ。
笑顔で写真を撮ってこそ思い出になる、だが笑顔という表情を上手く表せない彼女達には…難題だった。
困惑するスタッフに、アネッタが顔出した。
「あらあら、どうしたの?」
「それが…あまり笑顔を作るのが苦手な方みたいなんです」
「あらあら…だと思ったわ」
カニのかぶりものをしたスタッフがカメラ前で必死に変顔を披露するもダメな中、アネッタが二人の前に現れる。
「お疲れ様、ごめんなさいね?笑顔の強要してしまって」
「!…そんな事無いです」
首を左右に振るハロルドに、アネッタが乱れた髪をそっと手櫛で直す。
「んー…笑おうとしないでいいわ、笑顔ってのは自然とやって来るものよ」
笑う手目のアドバイスをするわけでもなく、アネッタはそう言ってカメラマンの隣に座った。
…互いに目を合わせる、ハロルドの目に不安が浮かんだ、その時だった。
「お、やってるやってる!おーいハロルドー!」
「本当に覗いていいんですか?」
「ノリノリで来てるではないか」
「い、いいのそういう事言わないで!」
「…みな、さん」
撮影を終え、ぞろぞろと二人を見に来た一同に目を開く。
ぎこちない表情をする二人に、オルクスが自分の頬をつついて「スマイル」と口パクしてみせた。
二人に向かって手を振るクロス…可愛いと目をキラキラさせるロアにそれを見守るクレドリック。
かけつけたミサがぱたぱたとハロルドとディエゴの前にやって来ると、小さな何かを差し出した。
「…これは?」
「…えへへ、魔女が送る笑顔になる魔法です」
手のひらに乗せられたのはカップケーキ、可愛らしく作られたそれを見て、ハロルドの心がぽかぽかと暖かくなっていく。
カメラを見れば、その後ろで手を振ったり口元を指さす仲間の姿…どれも強要ではなく、誘っているようだった。
笑うときっと、楽しくなるよ と。
「お、いいねいいね!じゃあこっち見てくださーい!はい、チーズ!」
「可愛い可愛い!ハロルドさんこっち向いてー!」
「にしても綺麗なドレスだな…あれも着てみたかったかも」
「ん?何クー、また来るって?」
「い、いいいい言ってない!」
「…ふふ」
「賑やかだな、もっと静かだと思った」
「…来て、よかったです」
ワイワイと騒ぐ仲間達を目に、ハロルドはそう言った。
笑顔とまではいかないものの、嬉しそうなのが感じられるその表情に、ハロルドも釣られて暖かな気持ちになっていく。
「そうだな、来て…よかった」
「いいですねその顔ー!」
「おおー!」
「あ、じゃあじゃあ…あの、アネッタさん」
「はーい?何かしら魔女ちゃん」
「えっとですね…」
そっと耳打ちする彼女の言葉に、パンと手を叩きナイスアイディアねと笑ったアネッタは、カメラの後ろにいた全員をハロルドとディエゴ達の元へ移動させた。
「ほらほら皆行って行って~…よし、もうちょっと寄ってちょうだーい?」
「集合写真っすか!いいっすねー」
「わぁ…賑やか~」
「何言ってんのほらアンタ達も行くのよ!あとお願いね~ん」
椅子に座ったハロルドの傍にクロスとロア…そしてミサが寄り添い、後ろに立つディエゴの傍にクレドリックとオルクス…そしてエミリオが立った。
その周りを囲むように、担当したスタッフが並ぶ。
端に立ったアネッタがカメラマンに指示をした。
「はーい綺麗に撮ってね~?」
「いきまーっす!皆さんいいですかー!はい、チーズ!」
●素敵な思い出
「皆さんお疲れ様でしたー!」
ありがとうございましたと頭を下げる一同に、うさぎのスタッフはにっこりと笑った。
「さて、今回はスタジオ・アネッタオープンイベントに参加いただきましてありがとうございました」
担当スタッフが紙袋を持って前に出る、各々が担当した二組にその紙袋を差し出した。
「魔女ちゃんもお菓子ありがとうね」
ミサが全員集合写真を撮り終えた後に、スタッフ達に作ってきたカップケーキを差し入れしていたのだ。
ひつじのスタッフの口元に、それが残っている。
「皆さんの素敵な思い出を記録できれば、このアネッタ…幸せですわ」
にこりと微笑んだアネッタは、入り口のドアを開けて一同を見送った。
「…あ」
紙袋を覗いたロアは思わず声を出した。
どうしたのかとクロスやミサが振り返れば、ハロルドも紙袋を見て固まっている。
「みてみて!これ!」
中に入っていたのは綺麗に印刷された写真と…ガラスの写真立てだった。
端にはスタジオ・アネッタと印字されてある写真立ては、シンプルなデザインだった。
「これは…驚いた」
二人で撮った写真と、全員で撮った写真用に二つ入れてあった写真立て。
…本当は一つのはずだ、全員で撮ったあの写真は、最後にミサがアネッタに提案したものなのだから。
「…ふふ、アネッタさんすごいです!」
紙袋をきゅっと抱きしめ、何処に飾ろうかと語りながら帰る一同であった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | らんちゃむ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月03日 |
出発日 | 06月09日 00:00 |
予定納品日 | 06月19日 |
参加者
会議室
-
2014/06/06-22:00
クロスさんとは初めましてですね、ロア・ディヒラーと申します。
ミサさん、ハロルドさんとはお久しぶりですっ。
皆さんよろしくお願いします!
わー皆さんの衣装セレクト素敵ですね!
私たちは不思議の国のアリスの格好をしたいなと思ってます。
私がアリスでクレドリックがマッドハッター(いかれ帽子屋)で。
に、似合うかどうかは果てしなく不安ですが。
プロの手によってどんな風にメイクされて素敵な衣装が着られるかがとても楽しみです。 -
2014/06/06-09:02
ロアさんとは初めまして!
俺はクロス、宜しく頼む(微笑)
俺とオルクは平安貴族の姫と陰陽師にする予定だ
被ってたら又考えるから遠慮なく言ってくれよな! -
2014/06/06-08:04
皆さんよろしくお願いします!
私とディエゴさんは家族写真を撮りたいので
ドレスコード的な服を着ていると思います。 -
2014/06/06-08:00
ミサ・フルールです(お辞儀)
今のところ初めましての人はいないみたいだね。
また皆とご一緒できて嬉しい、よろしくね!
私とエミリオさんは『魔法使い』と『魔王』のコスプレしようかなって思ってるよ。
もし意見が被っちゃってる人がいたら考え直すから、
遠慮せず言ってね(微笑み)