プロローグ
年明けの喧噪もすっかり治まった今日この頃。
人々が既に新年を一か月も消費したという事実に気づかぬまま、比較的穏やかな毎日が続いていた。
だが、ウィンクルムとなればそういう訳にも行かない。
彼らは一度オーガ出現の知らせを受ければ、昼夜を問わず、年中無休でその対応に追われているからだ。
そんな彼らを労わる為、A.R.O.A.はウィンクルム達にルミノックスのとある温泉旅館へ、慰安旅行を提案する。
「年明け早々、君達には様々な苦労を掛けてしまっている。これはそんな日々の活動に対する感謝の証だと思ってくれ。行った先の宿での経費は全てこちらが持つことになっている。安心してゆっくり疲れを癒すといい」
こうしてひょんな事から、休暇の機会を得たウィンクルム達。
神人は早速、精霊と共に慰安旅行の計画を練っていく。
今回渡されたチケットは特別製で、1泊2日のプランには限定されるものの、指定されたルミノックスの宿泊施設はチケットを所持するウィンクルム達だけの貸し切り状態となり、宿泊する部屋のタイプから食事、サービスまで大抵の事は思いのままだというのだ。
どうやって疲れを癒そうか。
はたまた何をして遊ぼうか。
時にはゆったりとした時間を2人きりで過ごすのも悪くない。
彼らの思い思いの一日が、一体どのような形になったのか、ここで少しだけ……覗いてみよう。
※流石に全額タダではA.R.O.A.が経費で落としきれなかったので、旅行後300Jrだけ支払う事になりました。
解説
皆様初めまして、こちらでは新規登録のGMとなりますpnkjynp(ぱんくじゃんぷ)と申します。
まだまだこの世界に関しては初心者ですので至らない点もあるかと思いますが、精一杯頑張らせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します!
さて、私のらぶてぃめっと男性側の初エピソードは、温泉宿にて自由に過ごして頂くエピソードとなります。
今回皆様が訪れて頂く施設は、和風系の装飾がされているごく普通の温泉宿です。
ですがサービスに関してはこだわりがある店で、出来るだけお客様の要望を叶えようと従業員一同精一杯努力をしておりますので、そこらの宿泊施設で可能な事は全て出来ます。
温泉に浸かり料理を楽しむだけでなく、卓球やゲームといった遊戯関連や、宿近くの丘を登り冬景色を楽しむといったレジャーまで、お好きな癒しの時間を堪能して頂ければ幸いです。
リザルトは個別描写で考えています。リザルト内の時間経過としては
【宿に到着⇒午前⇒午後⇒就寝前後⇒帰宅】となっておりますが、文字数は基本的に参加人数で均等割りとなります。
全ての時間帯を掘り下げて描写することは恐らく出来ませんのでご了承くださいませ。
この中からタイミングを選んで自分達らしいプランをご記載頂ければと思います。
また、もし他のウィンクルムと行動を共にする場合は【GA名】をプラン内にご記載下さい。
そして今回は、ご希望があれば依頼履歴を参照させて頂きます(3つまで)。
ご希望の際は必ず
~~~~~
【依頼履歴】
1
3
10
~~~~~
のように、参照してほしい依頼の番号が分かるようにしてご記載下さりますようお願い致します!
ゲームマスターより
今回らぶてぃめっと男性側にもお邪魔させて頂くことになりました。
既に皆様によって沢山の変化が起き大きく成熟しているこの世界ですが、少しでも皆様の世界を彩る一助になれれば幸いです!
とは言いましても右も左も分からないひよっこですので、プランや自由設定において皆様の歴史、関係性を振り返って頂けたら非常にありがたいです。そこから勉強させて頂きます!
勿論、糖度高めのプランもお待ちしております!
それでは、リザルトにて皆様とお会い出来ますことを楽しみにしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
レーゲンと久しぶりの旅行だ、楽しみ! レーゲンと一緒にお茶飲んで、景色見て、ゆっくりして 全力でのんびりするって決めてるんだから! 旅館のご飯どんなのかな はい、レーゲンどうぞ。お酒ついであげるよ いいなー俺も早くお酒飲みたい …俺もいいの?こうやるとなんだか本当にお酒飲んでるみたい 乾杯…でいいのかな?とりあえず乾杯! 料理の品数いっぱいあるね。何の食材か二人で当てっこしながら楽しんで食べよう。 温泉もゆっくり入ったし満足満足 疲れ?うん、おいしいご飯とあったかい温泉で身体の疲れはとれたよ ぎゅっとレーゲンの背中しがみつく へへっ、あとは心のチャージ。 こうやってると頑張るぞーって気持ちがわいてくるんだ |
クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
(温泉入り)はー…疲れた 良い眺めだな… 「(背中流すかに)…せっかくだし頼む」 (出たら瓶牛乳奢り渡し) 「なんか様式美っつーか…いいから飲めよ」 それにしてもいつも洋服だから、浴衣って新鮮だな… あ?卓球?「しゃーねーな…」 うおっ、動いたらすぐはだける あいつ、わざとはだけるように動いてるな… 「(挑発に)…うるせぇ!」 男のに興奮するかよ、バカ ていうか、スポーツとは無縁と思ってたのに…案外強いな 「引きこもってばっかだと思ってたぜ!」 (部屋でごろごろ) …全力で卓球したらまた汗かいた 「あとで入りなおそうぜ…ん?」 「…は!?なんでそんなことになるんだよ!?」 だいたい、そういうのは他のやつらといつでもやってるだろ |
ルゥ・ラーン(コーディ)
午前はゆったりお風呂を楽しみ お昼も頂いたら 午後は宿近くの丘で冬景色を楽しみます こんなに雪があるなら遊びましょうか♪ まずは雪玉ごろごろ転がし雪だるま作り 彼と手分けして私は頭を作ります 彼が作った胴体に頭を一緒に持ち上げ乗っけて さあ、お顔はどうしましょう 彼がナナカマドの実などで笑顔を作ってくれた 可愛いですね 携帯で雪だるまと彼と私で記念写真(彼が撮ってくれました そして雪にダイブ 気持ちいです 雪ってどうしてこんなに気持ちいいんでしょうね 彼に促されて宿に帰る またたっぷりお風呂を楽しみ 夕飯はお鍋 そして就寝 幸せな休暇でした お休みなさい |
歩隆 翠雨(王生 那音)
午後 昼食を食べてから、那音と温泉宿内を探索 庭園が見事で思わず写真を撮る あれは…ゲームセンター? なあ、那音。入ってみたい 実はゲーセン入った事がなくて… おお!色んなゲームがあるんだな…那音、何かやってみようぜ ダーツか、面白そうだな! 那音に教えて貰いながら投げたら…俺って結構才能ある? よし、那音、勝負しようぜ。その方が面白いし! 負けた方は勝った方の願いを一つ聞くって事で よーし、勝つぞ! 意気揚々と挑んだ結果は…負けたー! 那音、強すぎるだろ…詐欺だ… けど、負けは負け!よし、何でもこい…! へ?背中を流す? そんなんでいいのか…いやマテこれは結構難易度が高いというか俺の心臓がもつのかとドキドキ 背中、大きいな… |
●ハートウォーミング!
「【レーゲン】、レーゲン! ほら、旅館が見えてきたよ!」
【信城 いつき(しんじょう いつき)】が指さす先には、本日彼と彼の精霊レーゲンが泊まる温泉宿が顔をのぞかせていた。
ゆったりとした登り坂をいつきは勢いよく駆けあがる。
「いつき。宿は逃げたりしないよ」
「だってさー、レーゲンとの旅行なんて久しぶりだから楽しみで!」
「ふふっ。嬉しいけど……あまり飛ばし過ぎないようにね」
最近はクリスマスシーズンのバイト三昧から始まり、年末年始もバタバタと忙しなかったいつき。
そんなお疲れ気味の彼が休めるようにと今回のチケットを受け取ってきた彼だったが、どうやらこうした遊びにおける元気は別腹らしい。
たった一泊の小さな旅行ではあるが、今日はいつきが楽しめる日にしよう。
そう決めたレーゲンの顔には微笑みが浮かんでいた。
~~~
受付を済ませた2人が通された部屋は『鶴之間』。
大きく開いた窓からは、氷の張った湖が見て取れた。と言っても大きさはおよそ直径10mほどで、大きな水溜りと言ったところだろうか。その奥にはうっすらと雪化粧をした雑木林が立ち並ぶ。
華美な装飾などない自然のままの景色に、いつきは吸い寄せられるように窓へと近寄っていく。
「へー。こんなところに湖なんてあったんだ……」
「まずはお茶を入れるから、少し景色を見てゆっくりしようか」
そう言うとレーゲンはいつきの分共々荷物を手早く片付け、部屋に用意されたお茶を入れる。
既にお湯等は準備されており、急須で注げばすぐに緑茶の渋い香りが立ち込め始めた。
「レーゲン! 早く早く!」
「まぁ待って。もうすぐ出来るよ」
「違うよ、そうじゃなくて! ほらっ!」
いつきの言葉にレーゲンは視線を向ける。
彼の目に映ったのは、丁度2羽の鶴が湖へ降り立つ瞬間であった。
つがいであろうか。2羽は着氷した後も寄り添うようにして離れようとしない。
これは後で知った事であったが、どうやら生物の保護を目的に、この辺りでは国に管理された鶴の繁殖実験が行われているのだそうだ。
「なるほど、だから鶴之間って事か……」
「ねぇレーゲン、宿の人に聞いてあのツルを見に行こうよ!」
「ふふっ、いつきは元気だね。でもそんなに慌てなくても大丈夫だと思うよ。だってほら……」
いつきの目の前には湯飲みが差し出される。
「茶柱、立ってる」
~~~
午前中、湖の近くまで行き鶴の観察を堪能した2人。
冷えた体を温泉で温め、浴衣へ着替えると一緒に部屋へ戻る。
「温泉もゆっくりつかれたし! 鶴も見れたし! 後は晩御飯だね。旅館のご飯、どんなのかな?」
「受付の時に食事もオーダーしておいたけど、ここのメニューは日替わりでその日良い物を提供しているそうだよ。期待してても良いんじゃないかな」
「そっか。楽しみだなぁー」
いつきが部屋のドアを開ける。
するとそこには、タイミングを見計らったかのように豪勢な懐石料理が彼らを出迎えた。
「おおっー! すごい! 種類がこんなにたくさん……!」
「流石貸し切り、用意が良いね」
2人は向かい合うように座ると、両手を合わせ……
『いただきます(!)』
息もバッチリ、旅館の料理を堪能する。
「いつき、美味しいかい?」
「うん! この釜飯とかすっごい気に入ったよ!」
「どれどれ……ああ、これか。椎茸や松茸のようなキノコの出汁を使っているようだね。私もこれが一番気に入ったよ」
「そっか、同じなんだ……へへっ」
「ん? どうかしたかい?」
「ああなんでもないよ! ああっ、ほらレーゲン、お酒ついであげる」
いつきは彼のお猪口に日本酒を注ぐ。
「ありがとう」
「いえいえ! でもいいなー。俺も早くお酒飲んでみたい」
「なら、飲んでみるかい?」
「えっ?」
レーゲンはもう1つ用意されていたお猪口に手を伸ばすと徳利から液体を注ぐ。
「ほら」
「だ、ダメだって! 俺まだ未成年……」
「あはは。大丈夫、こっちはお酒じゃなくて水割用の普通の水だから」
「え、そうなの!?」
なんだよ~と意気消沈するいつきに対し、彼の明るい様子にレーゲンはご満悦の様だ。
「気分だけでも。ね?」
「……そうだね、それじゃあ」
『乾杯』
陶器同士が優しくぶつかり、コチンと良い音を鳴らした。
「……んくっ。ふぅ、なんだか本当にお酒を飲んでるみたい」
「すぐに本当になるさ」
「……だね。待っててレーゲン」
「もちろん。さ、鍋物をよそってあげよう」
レーゲンは立ち上がると、いつきの横へ行き鍋をよそう。
そんな姿を見つめていたいつきは、突然レーゲンを後ろから抱きしめた。
「……いつき?」
「へへっ、こうやってると頑張るぞーって気持ちがわいてくるからさ。温泉で体の疲れはとれたし、心のチャージって事で」
「なら申し訳ないが……」
レーゲンはおたまをおくと、振り返りいつきを抱きしめ返す。
「こうしても良かったかな? ……私もチャージしたいから」
「……もちろん」
2人は静かに、互いの温もりで心を癒すのであった。
●ループ&アドバンス
「はー……疲れたな」
「えー。なんで温泉入って疲れてるのさ? そこはこう、骨身に沁みる~とかじゃないの?」
温かな日差しが差し込む露天風呂。
そこには雪景色に囲まれながらダルそうにする【クルーク・オープスト】と、対称的な様子の【ロベルト・エメリッヒ】が安息の時を過ごしていた。
「んなジジくせぇ事言うかよ。大体温泉つっても、この風呂お前んちのと大きさそんな変わんねぇし」
「そりゃ僕の家のお風呂も広いけどさ、温泉は違うよー。ほら、風情があるじゃん?」
「まぁ……」
ロベルトに言われて改めて付近を見渡してみるクルーク。
広がる雪原を小さなキツネの親子が横切り、樹木から垂れる氷柱は、太陽に溶かされて水へと変わり滴り落ちる。
確かにこうして自然の息吹を見つめる事は、家では中々出来ない。
「眺めはいいな……」
「うんうん。良い気分になったでしょ? 良いよねー。何でも許しちゃいたくなるよねー」
「……かもな」
「それじゃクルーク、僕が背中を流してあげようか?」
「……」
ぼーっと考え込むクルークだったが、温泉効果か、今日は何だか気分が良い。
「そうだな。せっかくだし頼む」
「……おっ、良いんだ? オッケー。じゃあたーっぷり洗ってあげよう」
「変な事すんなよ?」
「はいはーい」
2人は屋内の洗い場へと移動する。
「うんうん。今日も君の身体は美しいねぇ」
以前一緒にお風呂に入った時には眺めるだけだった体を、ロベルトは丁寧に磨き上げる。
「背中完了ー。んじゃ次は前かな? それとも下ー?」
「ったく、調子に乗り過ぎだ。残りは自分でやる!」
「えー。残念だなぁ」
残念そうにがっくりと肩を落としたロベルトは、クルークに背中を見せると自身の身体を洗い始める。
幸か不幸か、そのおかげでクルークは赤らんだ顔を見られずに済んだのであった。
~~~
温泉を満喫した2人は用意されていた浴衣へ着替えると、更衣室と繋がる形で併設されている遊技場へやってきた。
「さてと……」
クルークは、温泉に入る前に目を付けていた自動販売機へと歩み寄る。
「ん、ねぇねぇ何買うのー?」
「風呂あがりと言えば……これだろ」
受付で渡されたICカードをスキャンすると、お金を入れずに商品が2つ払い出された。
「ほらよ」
「これ……牛乳?」
「なんか様式美っつーか……お前風に言うと風情ってやつなのか? まぁいいから飲めよ」
「ふーん。いただきまーす」
「おう」
ゴクンゴクン。
喉を滑り落ちる液体は火照った体を優しく冷やし、ほのかに甘い味が口の中へ広がる。
「……うん。おいしい」
「そうか」
「お風呂あがりに牛乳ってあんまりなかったけど、『イケる』ね。今度家でもやってみよー」
「いちいち発音が怪しいんだよてめぇは! ……けど、旨かったなら良いんじゃねぇか」
「へへ。あ、そうだ! ねぇクルーク。温泉と言えば、『あれ』もやんないとじゃない?」
ロベルトがウィンクをしながら肩越しに視線を送る。そこには卓球台とセット一式が用意されていた。
「面白れぇ。いいぜ」
入念に手首をほぐしクルークはラケットを手に取る。
「あれ、スリッパじゃなくていいの?」
「当たり前だ。というかなんでスリッパが用意されてるんだよ!」
ジャンケンの結果先攻はクルークから。彼はスピンをかけたサーブでロベルトを揺さぶろうとする。
「そら、よっ!」
「おおっと!」
しかし彼の予想に反してロベルトは難なくそれに対応してみせた。
手先が器用な方であるクルークは卓球もそつなくこなせるレベルだ。際どいコースも狙ってみるものの、上手く返されラリーが続く。
「案外強いな、ロベルト!」
「そっちこそ!」
「てっきり引きこもってばっかでスポーツとは無縁かと思ってたぜ!」
「何それ? そういうイメージってどこから来てるのさ?」
「さぁ……なっ!」
一定のリズムで続いていたラリーを打ち破るクルークのスマッシュ。
強烈な一撃は見事ロベルトのコートに決まったのであるが……。
「うぉっ!?」
クルークは勢いのあまり浴衣がはだけそうになり、慌てて手で押さえる。
「ほほう~」
「なんだよ?」
「別に~。じゃあ、次は僕の番からだね」
ロベルトはサーブをするのに必要のない力を込めて、思いっきりラケットを振りぬく。
飛んできたボールは大したことないものの、浴衣ははだけ胸元が見え隠れした。
「いや~ん」
「ばっ!?」
「あはっ、空振りだね。ドキッとした?」
「うるせぇ! 男に興奮するかよバカっ!」
それから暫し、2人の真剣? 勝負は続いた。
~~~
白熱した試合に汗をかいた2人は、もう一度温泉へ入る事に。
「どうせ入りなおすなら、折角だから……しよ?」
「は!? なんでそうなるんだよ!?」
「いいじゃん。悪いようにはしないよ」
ロベルトはしなだれかかるようにクルークの身体に触れる。
「そういうのは他のヤツとやれ!」
妙に色気ある仕草に緊張したクルークは彼を払いのける。
「むえ~……まぁ他の子とはもうそういう事シてるけど、中々きみは落ちないねぇ~……まぁ、いっか」
今日も2人の賑やかな一日が過ぎていく。
こうした毎日が、あの時見た未来へと続いていくのだろうか。
ロベルトはお風呂のシャボン玉にそんな予感を感じたのであった。
●いつかから一歩前へ
「……うん。良い感じだ」
温泉宿に到着した【歩隆 翠雨(ほたか すう)】は【王生 那音(いくるみ なおと)】と共に、遅めの昼食を終えると、腹ごなしもかねて宿を散策していた。
とある骨董品屋の店主だけでなく、フォトグラファーとしての顔も持つ翠雨は、自身の気に入った風景を見つけては、次々にカメラへ収めていく。
中でも宿の中心部から見下ろせる場所にある庭園は気に入ったようで、角度や構図を変えて撮影する。
その度に庭園には生き物が通りかかったり、日差しに氷が煌めいたり、まるで翠雨の期待に応えているかの如くその姿を変えていった。
楽しそうに撮影を続ける彼の姿に那音は笑みを浮かべる。
「気に入ってくれたようで何よりだよ。最近は店の方の仕事も忙しかったから、少しでも安らいでもらえればうれしい。何かしてみたい事があれば遠慮なく言ってくれ」
「それじゃあ……あれ」
翠雨が指さす先には、遊技場と書かれた広い部屋があった。
そこには沢山の大型ゲーム機や卓球台、遊具などが所狭しと並べられている。
「何か凄い楽しそうだからさ、ちょっと行ってみたいかな~なんて」
「ああ遊技場か。ゲームセンターみたいなところだから楽しいと思うよ」
「ゲームセンター、か……」
「ん? どうかしたかい、翠雨さん?」
「ああいや、実はゲーセンって入ったことなくてさ」
「なに、心配しなくとも楽しい所だ」
「那音は入った事があるのか?」
「子供の頃に付き合いで少し。だから入るのは久しぶりだけどね」
那音についていく形で、翠雨は初めてのゲームセンターへ足を踏み入れた。
途中卓球に熱中する2人組の横を通り過ぎながら、室内を見て回る。
「何かやってみたいけど、こう沢山あると迷うな~……」
「それなら……あれはどうだ?」
「へぇ、ダーツか! 面白そうだ!」
那音が指さす先には一台のダーツマシン。
やった事は無くとも、見ただけでそれとわかる代物だ。
「でも俺、ルールとか分からないけど大丈夫か?」
「勿論俺が教えるよ。やり方もそんなに難しくないから安心してくれ」
「そうか。じゃあやってみる!」
こうして翠雨は那音からマンツーマンのレッスンを受ける事となった。
「いいかい? これがスローライン。足がはみ出さない様に気を付けて。ダーツは力を入れずに楽に持つんだ」
「よし……いけっ!」
那音のアドバイス通りダーツを投げる翠雨。
「おおっ! 真ん中に当たったぞ! もしかして俺って結構才能ある?」
「うん。翠雨さん、初めてとは思えないほど筋が良いよ」
「そっか……よし那音、勝負しようぜ! 先に900点取った方の勝ちで!」
「え?」
「負けた方は勝った方の願いをひとつ聞くって事でどうだ? その方が面白し!」
「なるほど。その勝負、受けてたとう」
「それじゃ俺の先攻な。えっと、前足に重心を寄せて、肘を支点に……紙飛行機を飛ばすようなイメージ……でっ!」
那音の教えを思い出しながら、翠雨は矢を放つ。
結果その矢は中心部を少し外したものの、まずまずの点数をたたき出した。
「ああっ! 外したかっ。でも感覚はつかめてきた気がするし……この勝負勝ってみせる!」
「次は俺の番だね」
翠雨と交代した那音は、優雅にダーツを構えると迷いなくそれを投げていった。
~~~
「俺の勝ち、だな」
「だー負けたー!」
終わってみれば那音が翠雨の倍近い点数で勝利していた。
「那音、強すぎるだろ……こんなの詐欺だー!」
「手を抜かなかっただけさ」
悪戯っぽくそういうと、那音は笑みを浮かべる。
「くそーっ。けどまぁ、負けは負けだ! 何でもこい!」
「ははっ、潔いね」
まるで武士が己の命を差し出すように、地べたに座り込んで翠雨はじっと目を閉じる。
「それじゃあ……これから一緒に温泉に入って、俺の背中を流してくれ」
「へ? 背中を流す?」
カポーン。
そして現在、翠雨の目の前には那音の背中があった。
(背中、大きいな……というか、最初はそんなんで良いのかとか思ったけどこのお願い、俺には結構難易度が高い……! いや、落ち着いてやれば問題は……)
翠雨の心臓は早鐘の様に鼓動を刻む。
何とかそれを那音に悟られないよう、ゆっくり丁寧にタオルでこすっていった。
「ありがとう翠雨さん、お返しに俺も背中を流してあげるよ」
今度は那音が翠雨の背中を洗う。
翠雨の顔は見えないものの、耳まで赤く染まっているのは、お湯のせいだけではないだろう。
「翠雨さん、緊張してる?」
「そそそんな事は!?」
「そうか。俺は綺麗な翠雨さんの身体に緊張してるけど」
「んなっ!?」
那音のセリフに思わず翠雨は振り返る。
すると彼の目の前には、那音の顔が待ち構えていた。
「ふふっ。今度は目があった」
心臓が破れてしまいそうだ。
それほどまでに翠雨の緊張は高まる。
だが、前回の旅行からこれまでに、2人の関係はより深まっていた。
そんな今ならば……。
温泉の煙に包まれながら、恋人達の影はゆっくりと重なり合うのであった。
●貴方と今日を楽しめますように
「見て下さい【コーディ】。雪がこんなにも……!」
午前中ゆったりと温泉を楽しんだ【ルゥ・ラーン】は、パートナーのコーディと共に宿近くにある丘へとやってきた。
そこから見下ろす景色は雪に白く染められていて、キラキラと太陽を反射した光がルゥを楽しませる。
「ちゃんと見てるよ」
「そうでしたか。こんな風景、一緒に見られてよかったです♪」
「そうだね」
「さぁ、折角ですから雪で何かして遊びましょう!」
「雪遊びって……クス」
本当に、この人は時折子供みたいな事を何の恥ずかしげもなく言い出す。
でもそんな姿がとても自然で優しくて……可愛い、なんて思う。
そんな本心はとても伝えられたもんじゃないが……。
コーディはふとそう感じた。
「まぁいいか。何をしたい?」
「そうですね。どうせなら何か形に残る事を……あっ、雪だるま!」
作ってみたいです♪ そういう笑顔を向けられるとどうにも弱い。
「よし分かった! デカいやつ、作ってみようか!」
コーディはそういうと足元の雪をがっちりつかみ、一気に押し出した。
昨日降り積もったばかりの雪はこの陽気にほどよい柔らかさとなっており、力を入れればしっかりと固まった。
「わぁ、コーディ凄いですね」
「うん、この雪なら良いのが出来そうだ。僕は胴体を作る。ルゥは頭を頼むよ」
「分かりました」
思いっきり雪をかき集めるコーディと対照的に、ルゥは丁寧に丁寧に雪を掬うと綺麗な球を作り上げていく。
~~~
「ふぅ。出来ました~」
ルゥが納得したものを作り上げた頃、既に日はその色を白から朱へと変え始めていた。
「どうですかコー……コーディ?」
作業に夢中になっていたルゥが辺りを振り返るが、そこにコーディの姿はない。代わりに少し粗削りではあるものの、既に完成した大きな胴体が置いてあった。
「トイレにでも行ったのでしょうか? なら今のうちに頭を付けて驚かせてあげましょう♪」
そう考えたルゥは頭を転がしながらゆっくりと運んでいく。
そして後は胴体の高さまで頭を持ち上げるだけとなったのだが……。
「ん~~……ふぅ。んっ~~……!」
途中途中胴体の大きさを確認しながらそれに合う様作ったそれは、彼には少し大きすぎた。
必死に持ち上げ何とか地面から浮かせるものの、思わずバランスを崩し後方へ倒れそうになる。
「わっ?!」
「おおっと!」
しかし、そんな彼の身体を後ろからコーディが支えた。
「全くルゥは危なっかしいな。非力なクセに1人で無茶するからだぞ。ほら僕も手伝うから」
せーのっ。
2人は息を合わせて頭部と胴体を連結させる。
「それは……あなたを驚かせたくて」
「確かに心配したって意味では驚いたけどね」
「そういうコーディはどちらにいたのですか? 私も心配したんですよ?」
「ああ。ほらあれを取りに、ね」
コーディが指さす先には、赤く染まった実をつけたナナカマドの枝が幾つも転がっていた。
「雪が積もってたりで思ったより時間がかかって。でも、こういうのあった方が嬉しいでしょ?」
「そうでしたか。ふふっ。わざわざありがとうございます」
本当はあんまり心配はしていなかった。
何だかんだいいつつもコーディはこうして私の事をいつも考えていてくれる。
思わず笑みをこぼしたルゥにその理由を問いただすコーディだったが『秘密です♪』という答えで今は充分だろう。
2人はナナカマドの実を1つ1つ埋め込んでいき、雪だるまの口をつくってやる。
勿論形はスマイルマークだ。
そして枝を刺し手を作ってやると、雪だるまが完成した。
「うん。中々良い出来じゃないか。ルゥが調整してつけてやった雪の帽子も似合ってるし」
「そうですね。後は……」
だがまだ終わりではない。ルゥは目となる部分にくぼみを作ると、持っていた青色のビー玉をはめてやる。
「だるまは願い事が叶ったら目を入れて完成させるそうです。だから、これで完成ですよ」
「へー。じゃあ何かルゥの願いが叶ったのか?」
「はい♪」
そういうと、ルゥは突然近くの雪へとダイブする。
「ちょっ!? ルゥ?」
「気持ち良いですよ~。コーディもどうです?」
「冷たいよ、そんな事したら」
「いいから……ほらっ」
「うおっ?!」
雪の中から体を起こした彼に引っ張られる形でコーディも倒れ込んだ。
当然雪が触れてひんやり冷たいが、その分隣に居る彼の温もりもじんわり伝わってきた。
2人は笑い合うと、少しの間、そのまま空を見上げる。
「コーディ。私はとっても楽しかったです。アナタは、今日は楽しかったですか?」
「ああ、僕も楽しかった」
「では……目を入れて正解でした」
「ふふっ……ほら、そろそろ帰ろう」
「……はい♪」
2人は冷えた手を互いの熱で温めながら、旅館へと戻っていく。
そんな生みの親の姿を、雪だるまは見えなくなるまでその瞳で見守るのであった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | pnkjynp |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 01月22日 |
出発日 | 01月31日 00:00 |
予定納品日 | 02月10日 |