強制闇鍋大会(ナオキ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 移ろう四季によって、景色は美しく変化していく。
 そしてそれに伴い、いわゆる旬の食材も季節によっては様々だ。
 店先で売られる食材も、レストランなどで食べるメニューも、春夏秋冬の持ち味を生かしたものになる。
 寒さが厳しい冬に人気のメニューの中で、手軽に作れるという理由から愛され続けているのは――鍋料理、だった。
 すき焼き、土手鍋、水炊き、おでん、しゃぶしゃぶ。
 種類も味も多種多様にあるそれは、家族や友人たちとわいわい大人数で食べるのはもちろん、ひとり鍋というジャンルまで確立し、今も昔も揺るがぬ地位にある。
 あらゆる街を大寒波が襲ったその日、スーパーでは鍋の材料が売れに売れ、ああ今夜は鍋を楽しむ家が多いのだと店員たちは悟った。
 ここに、ふたりで鍋をつつこうと計画しているウィンクルムがいた。
 ふたりで何鍋にするか揉めつつもしっかりとスーパーで肉や野菜や酒を買い込み、雪がちらつく空模様から逃げるように帰宅して、暖房を充分に効かせた室内で大雑把に材料を切っていく。
 ふたりで食すにはやや大きめの土鍋をこたつの上に置き、美味しそうに煮える中身を見てふたりは杯を鳴らしてまずは乾杯。
 いざ、と箸をつけようとした矢先に、ばつん! という不穏な音が辺りに響いたかと思いきや、その瞬間に部屋の中は真っ暗になってしまったではないか。
 停電、らしかった。
 電気も、テレビも、エアコンも、こたつも、止まった。
 慌てず騒がずブレーカーを上げる。
 が、うんともすんとも言わない。
 ふたりで首を傾げていれば、選挙カーよろしく道を走る自治体の車が、車載用拡声器を通して何事かを住民に伝えている。
 曰く、電力会社のほうで問題があったが、この停電はあと30分程度で復旧するのでみなさんどうか落ち着いて――とのこと。
 30分。
 身体が冷えぬように手探りでアウターを着込んだ神人は、相棒の気配がするほうを一瞥する。
「鍋、どうすっか」
「……このまま食うか」
「食おう。どうせならスマホで照らすのも禁止な」
 持ち運び用のガスコンロは、幸いにも停電の影響は受けない。
 受けないが、30分も放置していれば折角の鍋が煮詰まってしまう。
「これがほんとの闇鍋ってな!」
 どこか楽し気な精霊の言葉に、それは意味が違くないか、と心の中でツッコミながら、神人はゆっくりと箸を伸ばす。

解説

※鍋の材料費として300Jrを消費

・現時刻は19時。どの家庭でも停電になっている中でお好きに過ごしてみましょう。
・暖房も止まっているので、寒さには注意して下さい。
・ライターなどで灯りを確保するのもいいですね。
・鍋にチャレンジするもしないも自由です!
 (食べるプランを提出なさる場合は、何鍋かといった情報の記載をお願いします)

ゲームマスターより

あけましておめでとうございます。
まだまだ冬本番で寒いですね!
闇鍋(?)で身体の内側からあたたまるのか、それともお互いの姿が見えない環境で何かが生まれるのか。
冬に怪談話をするのを個人的には推していきたい。

皆様のプランをお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  停電ごときでオレの食欲が留まる筈もない。
躊躇わず獲り箸を鍋に突っ込むぜ。
「面白そうだからこのまま食べても良いじゃん?」とニヤリ。
もう食べられる?と鍋の中を凝視してたからさ。
灯りが消えてもありありとその光景が目に浮かぶ。
むしろ、ラキアの目が届かない今こそ、入っている鶏肉をたらふく食べるチャンスか!

はっ!

ばれてた!

「大丈夫。ちゃんとお玉で掬うし」
しかし見えてた部分の鶏肉からオレは回収するのだ。取り皿へ取って、もぐもぐもぐ。
白菜も勿論食べるし、この手ごたえは豆腐だな。
まいたけも側にあったはず。

暗い中で食べると、鍋の旨さがよく解る気がするぜ。
「相変わらず、ラキアの料理はウマー」
はふはふと喜んで食べる。





李月(ゼノアス・グールン)
  居間のコタツで今夜はモツ鍋だ
来週には1年越しの約束の
相棒の故郷へ行き成人の儀に参加する事になってる
獣の棲む谷へ茸を採りに行くというかなりデンジャラスな行事だ
スタミナをつける為にも食うぞー!て所で停電に
広報車のお知らせで事態を把握した

30分だって!?
この築ウン十年の家が30分も暖房切られたら極寒世界必至!
ゼノ!僕の部屋から灯油ストーブ持ってくるぞ

ゼノがいつもの力技行使してきた
いつまでも僕が大人しくされると思うなよ
ていっどうだ
脱出試みる
くっ
脱出失敗
大人しく後ろ抱っこされる

やっぱ敵わないなゼノには
成人の儀に合わせてトレーニングしてきたのに
こんなんで儀式突破できるのかな…
負けてるじゃないか(笑)

ああ!


フィリップ(ヴァイス・シュバルツ)
  トマト鍋(スープが)
は? 止める? なんだよそれ……
ますます分からない。つーか、くん付けすんな
……はいはい。どーぞ……

精霊が戻ってきたと思ったら、手にかけたものを見て嫌な予感(懐中電灯で照らしている)
おい……ヴァイス、あんた何して、
!?
本気で何してんだバカか……!?

……ライトで照らしてたら成立しないだろ、闇鍋……
あんた、やることなすことガキっぽいよな、ほんと……
別に面白くなくていいっての……

相方が嬉々としてトマト鍋に投入していく(鯖缶や果物など)姿をぼんやり眺める
……腹壊しても知らないからな
小皿を受け取り、一口
う……まっず。無理
相方の突発的な発想には呆れるが、この時間を楽しんでいる自分がいて違和感


ユズリノ(シャーマイン)
  停電にびっくり
彼が携帯で調べてくれて事態を把握できた
灯りは懐中電灯を頼りに鍋をつつく事に

僕に代わって今夜の鍋は彼が作ってくれた
豚と白菜のミルフィーユチーズ鍋!
ミニトマトやブロッコリーも入って見た目もお洒落で感激してたのに
良く見えないよ~
彼が電灯照らしてくれたので2人分小皿によそい一緒に「頂きます

おいしーよシャミィ
今でも完璧カッコイイのに料理スキルまで習得なんてどこまでイケメンレベル上げるの
別に鍋くらい大した事ないだろうと声がする
(あ 今照れてる なんで停電なの顔見たいっ)

何度目かのよそう時
待って!そのまま
凄くいい これだ!
蓮華持ってて
ペン!紙!

…ふう
あ 電気点いた

うん絶対賞取るから 正夢の為に


歩隆 翠雨(王生 那音)
  白菜と豚バラのミルフィーユ鍋
シメに餅を入れる予定

このままじゃ冷えちまうし、食べるのは賛成なんだが…
折角だから面白い事がしたいと悪戯心が沸々と

那音、お互いに食べさせあいっこしないか?
その方が面白いし!
まずは俺が那音に食べさせる
ライターの火は消してくれ
大丈夫だって、俺、夜目が効く方だし、ちゃんとふーふーして冷ますし
はい、あーん♪
どうだ?美味いか?(満足)

ああ、次は俺…と言って気付く
あれ?これって結構恥ずかしいのでは?
固まっていたら引き寄せられて
那音、お前な…!ズルイだろ
確かに温かいけど…温もり過ぎそうだ…
へ?怪談話は止めろ…!一人で寝れなくなるだろ!
いや、別に怖い訳じゃなくて…
わー!わー!言うな!


●隠し味は愛情だけに非ず(フィリップ&ヴァイス)
 酸味が苦手なヴァイス・シュバルツの舌を、多少――ほんの極々僅かだけ考慮した結果、今夜の晩餐であるトマト鍋は、真っ赤な色合いに反してとてもまろやかな味をしている。
 はずだった。
 しかし今や、とろりとした赤色を纏っていたはずの鍋の中身は、懐中電灯に照らされて何とも言えない色と禍々しい雰囲気を放っている。
 フィリップは、己の向かい側でからからと笑うヴァイスへと恨みがましい視線を向けた。
 遡ること、数分前。
 運悪く鍋の真っ最中に停電に襲われたものの、慌てもせずに懐中電灯のみを頼りに淡々と残りの具材を投入しようとしていたフィリップに待ったをかけたのは、他でもない彼の精霊だった。
『……なあ、ここにある具材入れんの止めにしねぇ?』
『は? 止める? なんだよそれ……』
 当然訝しむフィリップとは反対に、右の口角だけを意味ありげに上げて笑うヴァイスは、やれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
『停電を楽しまねぇなんて損してるぜ? フィリップくんよぉ』
『ますます分からない。つーか、くん付けすんな』
『まだ分かんなくていい。懐中電灯貸せ』
 ほれ、と伸びてきた左腕は、光量の少ない闇の中では普段よりもやけに白く儚くフィリップの目に映ったが、腕の持ち主の顔に浮かぶ含みのある表情には儚さの欠片も感じられない。
 溜息交じりに懐中電灯を渡してやると、小さな灯りと共に恐らくはキッチンへと消えた姿は存外に早く戻って来た。
 何をするつもりだ、と厳しい口調で問いかけるつもりだったフィリップはしかし、
『おい……ヴァイス、あんた何、を――!?』
 珍しく感情的な声を出して思わず腰を浮かせた。
 片手でライトを持ったまま、器用にぽいぽいと景気良くヴァイスが鍋に投げ込んだのは、冬季限定のチョコレート菓子、だった。
 急いでおたまを握り異物を排除しようとしたフィリップを笑うかのように、チョコレートは呆気なく鍋の底へ沈んでいく。
『本気で何してんだバカか……!?』
『あー? うっせーな。テメーも知ってんだろ闇鍋だよ』
 左に比べてややぎこちない動きで髪を掻き上げ、事もなげにヴァイスは答えた。
 見れば、キッチンから持ち帰ったのは先のチョコレートだけではないらしい。
 こんもりとした小さな食料の山が、ヴァイスの隣に出来上がっていた。
『……ライトで照らしてたら成立しないだろ、闇鍋……』
 脱力するように座り直したフィリップは、自由気ままなヴァイスの行動を咎めることを放棄し、今夜一番大きな溜息を吐いてからそう指摘する。
『遊び心がねぇとなんもおもろくねぇだろ』
『あんた、やることなすことガキっぽいよな、ほんと……別に面白くなくていいっての……』
 鯖缶に始まり、バナナまるごと、みかん、などなどを嬉々とした顔で手際良く入れていくヴァイスを、呆れと諦めが混ざった目でおとなしく見守った。
『……腹壊しても知らないからな』
『平気だっての。万が一腹壊してもテメーが介抱してくれんだろ?』
『……』
 即座に否定出来なかった己に内心で舌打ちしつつ、めったにない甲斐甲斐しさを発揮して小皿によそってくれた相棒から、渋々それを受け取る。
(停電していて良かった。皿の中身をまともに見ないで済む……いや、そもそも停電さえなければこんな……、くそ!)
 真向いからの期待の籠った視線に後押しされ、覚悟を決めてフィリップは得体の知れない物体を箸で摘まんで、そして、
『う……まっず。無理』
『ははっ! テキトーにブチ込んだかんな!』
 何故か得意げなヴァイスを見るに、どうやらフィリップは期待通りの反応が出来たらしい。
 現在に戻る。
 ヴァイスの突発的な発想には心底呆れるが、こうして子どものような彼の行動に振り回されて共に過ごす時間を、愉快だと感じている自分がいる。
 指先がざわつくのを鍋のせいにして、新しい缶詰を開けようとしていた大きな子供に、フィリップは冷淡に告げた。
「あんたも食え」

●餅を焼く暇もない(翠雨&那音)
 歩隆 翠雨は、暗闇の中で聞き慣れない音を耳にした。
 音の出処を見遣れば、小さな炎に照らされる王生 那音の姿が在った。
「ライター?」
「ああ。煙草は吸わないが、取引先に吸う人が居るからね。持ち歩くのが癖になってて」
 外からの情報で大ごとではないと知り、ライターが倒れぬように食器と食器で挟んで固定した那音は、身体が冷えるのを防ぐ為にこのまま食事を続けようと提案した。
 折角ふたりで作った白菜と豚肉のミルフィーユ鍋が冷めていくのを見るのも忍びない、と。
 もちろん翠雨に異論はないものの、澄んだ色の瞳にとある思惑を乗せ、隣で鍋から白菜をよそっていた那音を見上げる。
「那音、お互いに食べさせあいっこしないか? その方が面白いし!」
 突然の誘いを受けて驚いた那音の箸から、白菜が逃げていく。
「まずは俺が那音に食べさせる。な? いいだろう? ライターの火は消してくれ」
 非効率的だとか、暗い中で危ないだとか、尤もらしい忠言は山ほどあったのだが、真っすぐにこちらを見詰めてくる翠雨に、思わずそれらの言葉も喉につっかえてしまう。
「大丈夫だって。俺、夜目が利く方だし、ちゃんとふーふーして冷ますし」
 愛しい相手に押し切られ、那音は結局、言われた通りにライターを消してから向かい合って座り直した。
 ふうふう、と具材を冷ます音のあと、
「はい、あーん♪」
 やけに楽しげな声に促され、那音はそっと口を開く。
 カメラのレンズ越しに様々な美しい景色――ここ最近はひとの生きざまも――を見てきた翠雨の双眸は確かに闇にも強いらしく、寸分の狂いもなく絶妙な量の肉と野菜を口に入れてくれた。
「どうだ? 美味いか?」
 上機嫌で尋ねる翠雨に、咀嚼しながら大きく頷く那音はしかし、なんとも言えぬ面映ゆい気分になっていた。
(まるで親子だ……暗くてよかった。顔が熱いのが分かる)
 火照った頬を甲で押さえ、想像よりもずっと美味な料理を飲み込んで那音は言う。
「次は俺だな」
(仕返し、させてもらおうか)
 食事には不似合いな不埒な計画を立てる那音に気付くはずもなく、翠雨は同意して箸を置き、そして察した。
 食べさせる側ならまだしも、食べさせてもらう側というのは、案外恥ずかしいものなのだと。
「俺は翠雨さんみたいに夜目は効かないから、もっと傍に来て」
 固まっている内に、優しく那音に抱き寄せられる。
 両腕を使っているこの状態でどうやって食べさせてくれるのかと首を傾げた翠雨は、人生で初めて夜目が利くのを呪った。
 端正な那音の顔が迫り、キスを、贈られる。
 正確には、キスではなかった。
 唇とは異なる感触を己のそこで受け止め、翠雨は薄く口を開けて、それ――白菜の欠片を口内に迎えた。
 邪魔者が消えた瞬間、ついでとばかりに今度こそ唇同士を短く重ね、那音は低く笑って顔を離す。
 口移し。
 ほとんど丸飲みにして、ばくばくうるさい心臓を悟られないように翠雨は声を張り上げて犯人を糾弾した。
「那音、お前な……! ズルイだろっ」
「この方が温かいだろう?」
「確かに温かいけど……逆に暑いぐらいだ……」
 相変わらず密着したままの体勢で、互いに相手の体温を享受する。
「ならば、少し涼しくなる話をするか? 怪談話なら何個かとっておきが、」
「やめろ! ひとりで寝れなくなるだろ!」
「あれ? もしかして怖い?」
 ぶんぶんと首を横に振って見え見えの虚勢を張る翠雨に、これはある学校の話、と那音は目を細めて語り出す。
 わー! と大袈裟に叫んで俊敏に両耳を押さえた華奢な手首を掴み、大した苦労もせずにそっと耳から離してやる。
「好きだよ」
「!」
 翠雨の鼓膜を滑り落ちたのは、怪談ではなく愛の言葉。
 シメとして用意されていた餅が、所在なさげに困っている。

●インスピレーションは突然に(ユズリノ&シャーマイン)
「冷めない内に食っちまおう」
 携帯端末で情報を調べ終えたシャーマインはそう言って、端末の画面よりも灯りの強い懐中電灯で鍋を照らす。
 停電自体はすぐに復旧すると分かってなお、ユズリノの表情は晴れなかった。
 ふたりのこの愛の巣では主にユズリノが家事を担当しているのだが、勤務先であるケーキ屋がスイーツコンテストに出場する運びとなっている今現在は、どうしても家のことにまで手が回りきらない。
 コンテストの準備に追われるユズリノに代わり、目下、シャーマインが恵まれた体躯でやや窮屈そうに料理や掃除や洗濯などをしてくれているのだ。
 今夜の豚肉と白菜のミルフィーユチーズ鍋も、リノは仕事で疲れているだろうから、と頼もしい精霊が作ってくれた。
 彩りとしてミニトマトやブロッコリーが飾られ、見た目にもたいそう食欲をそそる鍋も、停電のせいで明瞭には見えない。
 それがユズリノは無念でならない。
 むくれるユズリノの頬を苦笑交じりに指の腹で撫でて、シャーマインは食事を促す。
「リノの為に作ったんだ。ほら、たくさん食ってくれ」
「……うん、ありがとう。いただきます」
「いただきます」
 揃って手を合わせ、まだほこほこと湯気を立てている具材をよそう。
 家事、とりわけ料理に関してはほとんどユズリノから教わったと言ってもいいシャーマインは、心許ない灯りの中で師匠である恋人がチーズを絡めた肉を頬張る様子をじっと見詰めていた。
 何度経験しても、やはりまだ、自分の作った料理を想い人が食べるひと口目の瞬間というのは緊張する。
「おいしーよ、シャミィ!」
「そうか。弟子の手料理が口に合って良かった」
 率直な感想を頂き、シャーマインもやっと箸を動かし始めた。
 他愛のない会話の端々に、惜しみない称賛をユズリノは織り交ぜる。
「今でも完璧カッコイイのに料理スキルまで習得なんて、どこまでイケメンレベル上げるの」
「……。別に鍋くらい大した事ないだろう」
 数秒の間を置いてシャーマインは静かに返答したが、こと精霊相手には勘の鋭いユズリノは騙されなかった。
(あ、今照れてる。絶対照れてる。なんで停電なの! 顔見たいっ)
 懐中電灯の向きをさりげなく変えてなんとか表情を窺えないかと計画するユズリノから何か不穏な気配を察したのか、口調こそ普段通りにシャーマインは突然話題を大きく変える。
「コンテストの準備は順調か?」
「ん? うん……それがね、ケーキで表現したい味の方向性は決まりそうなんだけど、デザインがなかなか……」
 根が素直なユズリノは、シャーマインの思惑通りに自然と話に乗ってくれた。
 リノのこういうところが可愛い、と胸中で盛大に惚気ながらも表面上はおくびにも出さない。
「そうか。だがそれも楽しいんだろ?」
 えへへー、と笑うユズリノはもう、照れるシャーマインを見逃したことなどすっかり忘れていた。
 和やかに食事は続き、少なくなった鍋の中身を集めてシャーマインがよそおうとしたその刹那、
「待って! そのまま」
 戦闘中かのような鋭い声色でユズリノは静止を命じた。
 驚きつつも反射的に言いつけを守り、微動だにしないままシャーマインはノートとペンを掴んで暗さなどなんのそのといった風情で猛然とスケッチを始めるユズリノへ視線だけを向ける。
 なるほど、とろりとしたチーズが重力に引っ張られる形に何かを感じたらしい。
 凄くいい、これだ、と呟きながらペンを動かしていたユズリノが顔を上げた矢先に、タイミング良く電気も復旧した。
 明るくなった部屋で誇らしげにスケッチを見下ろす晴れやかな顔つきに、シャーマインも満足感を得る。
「絶対賞取るから、正夢の為に」
 頼もしい言葉にひとつ、頷く。
 停電もたまにはいいかもしれないな、と思いながら。

●油断は禁モツ鍋(李月&ゼノアス)
 ゼノアス・グールンの故郷に於ける成人の儀とは、霧のかかる深い谷へと赴き、証としてそこに生息する茸を持って帰ってくることだった。
 ――虎とも言えない、イノシシとも言えない獰猛な獣が棲む谷から無事に帰って初めて、成人したことになるのである。
 その儀式を来週に控えている李月は、来る試練の為に心身ともに内側からも外側からも鍛えてきた。
 鍛えてはきたが、突然の停電により襲いくる寒さといった気温の変化は流石に想定していない。
「30分だって!? この築ウン十年の家が30分も暖房切られたら極寒世界になることは必至!」
「モツうめー」
 鍋を熱し続けるガスコンロが微かな灯りとなっている部屋で、徐々に冷たくなっていくであろうコタツから、決然と李月は立ち上がる。
 ゼノアスは意に介さずスタミナたっぷりのモツとニラをぱくつく。
 儀式前の仕上げとして、この精のつく鍋料理を選んだのだが、独特の臭みも上手く出汁に馴染んでいた。
 美味しい。
 ゼノアスのフォークは止まらない。
「ゼノ! 僕の部屋から灯油ストーブ持ってくるぞ」
 名前を呼ばれて漸くゼノアスは生返事と共に立ち上がり、さあいざ行かん、と一歩踏み出しかけた李月を素早く後ろから抱きすくめた。
「なっ、な、なんだ?!」
「落ち着けって。30分くらいオレが抱っこで温めてやるよ。座って鍋食おうぜ、鍋」
「はあー?!」
 大食漢故に食事を中断するのが嫌なのか、単にストーブを取りに行くのが面倒なのか、ここぞとばかりにスキンシップがとれる状況を歓迎しているのか。
 理由は分からないものの、そのままコタツに戻ろうとするゼノアスの腕の中で目を白黒させていた李月が、生来の負けず嫌いを発揮して軸足に体重を乗せる。
「いつまでも僕が大人しくされると思うなよ」
「おっ。暴れんなよ」
「ていっ」
 するりと逃げ出しかけた李月に虚を突かれたゼノアスだったが、驚きと愉悦を口元に滲ませて危なげなく再び捕獲する。
 上半身をしっかりと抱え込まれても、今夜の李月は諦めなかった。
 直角に曲げた両肘で相手との距離を作り、更に前に踏み出すことでゼノアスから逃れる。
「今日は随分抵抗するじゃねーか……! つーか力が強え……なろっ」
 それこそ、以前の成人の儀でのように。
 ぎらりと瞳を光らせたゼノアスは、利き腕を李月の首に回す。
 気道を絞めてしまわぬよう細心の注意を払いながら出来るだけ優しく足払いを仕掛けて李月のバランスを崩す。
 小さく息を飲んで後方へ倒れかけた大切な相棒を胸で受け止め、今度こそ両腕の中に閉じ込めると意気揚々とコタツへ引きずり込んだ。
 暗闇での攻防は、ゼノアスに軍配が上がった。
 胡坐になったゼノアスの膝の上に収まり、肩に乗る顎と胴体にまきつく長い腕を、敗者はただ悔しげに唸って受け止めるのみ。
 脱出に失敗してやや不機嫌になった李月に、
「オマエ……タフになったじゃねーか。あ、鍋遠くなったから食わせろよ」
 などと平然と宣えるのはこの世でゼノアスひとりだけだ。
 李月はしばらくぶつくさと文句を並べていたが、やがて観念したのか、律儀にゼノアス専用のフォークを使ってお望み通りに食べさせてやる。
「やっぱ敵わないな、ゼノには」
「そう簡単に追いつかれてたまるかよ」
「成人の儀に合わせてトレーニングしてきたのに。こんなんで儀式突破できるのかな……」
「ここまでオレを手こずらせたんだ、なーんも問題ねえ! 堂々と散って来い」
(散って来い、か。もし失敗しちゃっても、ゼノは笑って迎えてくれるんだろうな)
 不安になりかけていた李月の心境が、たったひとことで浮上していく。
「勝利の茸獣鍋、期待してるぜ」
「ああ!」
 李月の力強い返事と美味しい鍋にすっかりご満悦になり、ゼノアスは嬉しそうに彼を抱く腕に力を込めた。

●見えなくとも分かること(セイリュー&ラキア)
 丸くなって眠る猫たちにとっては、停電なぞどこ吹く風、のようで。
 そしてそれはセイリュー・グラシアにとっても同じことだった。
 新たな灯りを確保せず、構えていた取り箸をそのまま鍋があった位置目掛けて振り下ろす。
 具材に火が通るのを今か今かと待ち侘び鍋を凝視していたおかげで、セイリューはどこに何があるかをはっきりと覚えていた。
「面白そうだからこのまま食べても良いじゃん?」
「……まあ、そうだね。実に君らしいよ」
 セイリューが醸す生き生きとした空気に苦笑するのは、彼の食欲に付き合っている内にいつの間にか料理上手になっていたラキア・ジェイドバインだ。
(むしろ、ラキアの目が届かない今こそ、入っている鶏肉をたらふく食べるチャンスか!)
 嬉々として――視界が悪いのが嘘のような正確さで――肉を集中的によそっていたセイリューだったが、
「セイリュー、肉ばかり取っちゃ駄目だよ」
「!」
 こちらもまた、相手の様子が見えないのが嘘のようなタイミングでしっかりと釘を刺してきたラキアのやんわりとした指摘に、思わず四つ目の鶏肉を取り損ねてしまう。
「見えていた肉はごく一部だよ?」
 まさしく、胃袋を掴む側の特権というべきか。
 調理した本人だけが知り得る情報というのも多い。
 例えばラキアは、こんもりと盛った白菜の下に肉が隠れていることを知っている。
 セイリューの食欲が落ち着いた頃に投入予定の鶏肉第二弾が、今は静かになっている冷蔵庫にあることも。
 そわ、と。
 図星をさされた神人の気配がざわめくのを、ラキアはしっかりと感じ取る。
「探り箸なんで不躾なこと、セイリューはしないよね?」
 一般的な中流家庭、と評するのが失礼にあたるような家柄で育ったセイリューに、とどめのひと言を。
「……大丈夫。ちゃんとおたまで掬うし」
「うん。偉い偉い」
 かちゃ、と箸を置く音に続き、おたまを鍋に沈める音が。
 ひと通りよそえたのか、闇に慣れてきたラキアの目が、おたまを差し出すセイリューの姿をみとめる。
 おおよその記憶と勘を繋ぎ合わせて、ラキアも鍋に向き直った。
「ん。この掴みにくい感じは豆腐か。ウマー」
 自分がよそっている間に早速舌鼓を打つセイリューに、ラキアは小さく噴き出してしまう。
 停電なんて気にも留めずにうまいうまいと絶賛してくれる彼が、可愛くて仕方がなかった。
「暗くても案外支障なく食べられるものだねぇ」
「だよなあ。鶏肉食った? 柔らかくてうんまいぞ」
(オレは諦めないぞ。肉は見えてた分から回収するのだ。白菜と豆腐はゲット出来たし、まいたけも側にあったはず)
 食べながら喋る、なんてことはもちろんせずに、もぐもぐごくん、の合間にしっかり会話のキャッチボールを楽しみながらも、セイリューは脳内で食べ方のシミュレーションを怠らない。
「相変わらず、ラキアの料理はウマー」
 何杯目かのおかわりを終えて、身体の内側から温まってきたセイリューは満足げに呟いた。
「目を使わない分、感覚が鋭くなるのかもね」
「あ。オレも同じこと考えてた。長ネギも味が染みててウマー」
 熱いものをはふはふと頬張るセイリューの顔が手に取るようにわかって、ラキアは浮かべていた笑みを深くする。
(少なくとも、セイリューとの食事は見えなくても問題ないね)
「そろそろ具材を追加しようか」
「肉か?!」
「うーん、どうかな」
 セイリューからは見えない位置にこっそり隠しておいた、追加の野菜がででんと乗った大皿を慎重に引き寄せて白を切った。
 見えなくても危なげない事柄があるという関係は、とても心地好いものである。
 だが、そろそろセイリューの喜ぶ顔を目で確かめたいから、肉は停電が直ってからにしよう、と思いながら。



依頼結果:成功
MVP
名前:歩隆 翠雨
呼び名:翠雨さん
  名前:王生 那音
呼び名:那音

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター ナオキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月05日
出発日 01月13日 00:00
予定納品日 01月23日

参加者

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