時はいつまでも巡りゆく(pnkjynp マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 夜もすっかり更けた大晦日。
 平時であれば人通りがめっきり減るこの時間に、この場所には未だ……いや、普段以上の賑わいがあった。
 手に取ればすっと溶けてしまうような雪が深々と舞い降りる中で、神人と精霊が自分達の1年の歴史に想いを馳せる……
 そう、それは新年を迎えるための1つの儀式。
「ふえ~、やっぱりどこの神社も混むんだね~」
「そうだな。だがこの神社はタブロスの中でも規模の小さな神社だ。他所と比べて身動きの取れない程ではないからな。丁度良い賑わいと言っても良いだろう」
 1組の神人と精霊がそういって辺りを見渡した。
 彼女達の視界には、カップル、木、カップル、甘酒配布所、カップル、カップル、小さな出店、カップル、除夜の鐘、カップル……と、揺蕩う人波から顔を覗かせる神社の姿も充分に見て取れた。これならば何かあった時に休んだりも出来るであろう。
「うん! 年が明けたら花火が上がるらしいから、場所取りもしたいかな~」
「おいおい、来年は一番におみくじで大吉を引いてやる~! って息巻いていたじゃないか。そんなんじゃ先に誰かに引かれてしまうぞ?」
「はうわっ!? それは困る~……でも花火が良く見えないのも嫌だし~……! あー! もう決められないよ!」
「なら俺が場所取りしておくから、そっちはこのままおみくじの列に並んでいろ」
 そう言って列から出ようとする精霊の着物の袖を、神人は強く握りしめる。
「……め」
「ん? どうした?」
「行っちゃ……だめ」
「おいおい、じゃあどうするっていうんだ?」
「それはまだ決められないけど……とにかく! あなたはあたしの隣で新年を迎えるのっ!」
「……分かったよ」
 精霊は観念したかのように列に戻ると、小さなパートナーの頭にそっと手を置いた。
「全く。お前は今年も我が儘だらけの1年だったな」
「ふんだ! 良いんだもん。だって、これまでもこれからも、わたしの願いは全部あなたが叶えてくれるんだから!」
「ふっ……調子のいい奴だな」
 だが、その全幅の信頼は彼の心を高揚させるには十分過ぎる。
 彼の口元には笑みがこぼれていた。
「仕方ない。それがお前の望みなら……な」
 彼は頭を悩ませる。
 自分のパートナーは大吉を引けるだろうか。
 花火が始まればどこに場所を取ろうか。
 どうすれば、この人は楽しい時間を過ごせるだろうか……
 ゴーン。ゴーン。
 除夜の鐘が鳴り響こうとも、彼のこの幸せな悩みは一生打ち払われることはないのであろう。

 こうして人々はこの神社で思い思いの時を過ごす。
 新たなる一年を、これからの未来を進みゆく糧を求めて。
 それは過去の想い出がくれる温もりであり、それは今を楽しむ平和な一時(ひととき)でもあるのであろう。
 さぁ、次は貴女の番。

※参加される場合、初詣デートにおいて諸々を楽しむため300Jrを消費致します。

解説

 皆様初めまして、こちらでは新規登録のGMとなりますpnkjynp(ぱんくじゃんぷ)と申します。
 まだまだこの世界に関しては初心者ですので至らない点もあるかと思いますが、精一杯頑張らせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します!
 
 さて、私のらぶてぃめっと初めてのエピソードは神社にて新年を迎えて頂くエピソードとなります。
 今回皆様が訪れて頂く神社は、山の上にあるこじんまりとしてはいるものの色々と程よい神社ですので、簡単な出店で食事や縁日的な物を楽しんだり、木陰で夜空を眺めながら休憩することも、全力で祈りをささげる事も可能です。

 神社内で行われている主なイベントとしては、おみくじ販売と花火打ち上げがあります。

 おみくじを引く場合は、「通常くじ」と「カップルくじ」があります。
 通常くじは神人のみで引き、カップルの場合は精霊もくじを引きます。
 書かれている内容はどちらのくじも恋愛、お金、出来事の三種類です。
 こちらに参加される場合は、三種類の占いに対してどのような回答を望むかご記載下さい。

 花火は除夜の鐘が鳴り終わると、打ちあがります。
 ゆっくり見たい場合は鐘の音が鳴り始めたら、移動した方が良いでしょう。

 最後はご指定が無ければ初日の出を見て終了となります。
 
 リザルトは個別描写で考えていますので、鐘の鳴る前⇒花火(年明け)⇒初日の出の時間軸で、自分達にあった内容で素敵な一夜を過ごして頂ければと思います。
 ただしショートですので、文字数は基本的に参加人数で均等割りとなります。ご了承下さいませ。
 また、もし他のウィンクルムと行動を共にする場合は【GA名】をプラン内にご記載下さい。

 そして今回は、ご希望があれば依頼履歴を参照させて頂きます(3つまで)。
 ご希望の際は必ず
~~~~~
【依頼履歴】
 1
 3
 10
~~~~~
のように、参照してほしい依頼の番号が分かるようにしてご記載下さりますようお願い致します!


ゲームマスターより

遂にらぶてぃめっとの世界にもお邪魔させて頂くことになりました。
既に皆様によって沢山の変化が起き大きく成熟しているこの世界ですが、少しでも皆様の世界を彩る一助になれれば幸いです!
とは言いましても右も左も分からないひよっこですので、プランや自由設定において皆様の歴史、関係性を振り返って頂けたら非常にありがたいです。そこから勉強させて頂きます!
勿論、糖度高めのプランもお待ちしております!

それでは、リザルトにて皆様とお会い出来ますことを楽しみにしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  お参りをして花火を見終えたら改めて新年の挨拶を
明けましておめでとうございます、天藍
今年も1年よろしくお願いします

折角ですから、年の初めの運試しに2人でおみくじ引きませんか?
どの内容でも大吉なら嬉しいですし、凶は出ない方が良いなと思いますけど
今が十二分に幸せなので、これからも平穏な日々が続く内容だと良いです
天藍はやっぱり大吉が良いですか?

少し寒いかもと思っていた所にタイミング良く渡された甘酒
ありがとうございます、天藍
温まりますね、おいしいです

暖まったせいか小さくあくび
家に帰ったら、お雑煮とおせちでご飯にします?
そうですね
お参りも済ませましたし、帰って温かい家の中でゆっくりするのも良いですね


シルキア・スー(クラウス)
  日出まで長丁場よね
二人共防寒着着込んでカイロだって貼って万全!
ホットドリンク飲みながら二人で年明けを待つ

もうすぐ年が明けるね
今年もいっぱいお世話になりました(ぺこ
印象深いのは依頼でデミギルティに関る事が増えた事ね
こうして元気に年が越せるのは仲間の力と戦場でのあなたの支えがあったから
ありがとうクラウス(ハグ

花火
歓声が上がってるから声を張って彼に新年の挨拶
あけましておめでとー今年もよろしくねー

お参り
今年も無事乗り切れますように

カップルくじ 吉
恋愛お金は無難な内容
出来事に東へ行くと喜ばしい事がある的な事が書いてあった(文言お任せ

話をしつつ日出待つ
途中甘酒や温かい物食べる

日出
彼と一緒に見られて嬉しかった


イザベラ(ディノ)
  出店を廻り食べ物で軽く体を温めながら、
頭の中では除夜の鐘を数え。
ここぞというタイミングで本殿へ向かう。
参拝は年明け1番に行うものだという持論。

お願いと言った精霊には、馬鹿者と叱る。
己の望みは己で努力して叶えるもの、
神頼みではなく飽くまで決意表明であるべきだと。
望みは勿論、
「世界平和」
…それともう一つ。
これは昨年を振り返って感じた、達成すべき自分の課題。
昨年は余りにも泣かせ過ぎた。
「…だから今年は沢山、笑顔にしてやるからな」

「どうした、花火が見たかったのだろう。行くぞ」
あんなに見たがってた癖にしゃがみ込んで動かない精霊に、
呆れつつも隣に寄り添って座る。
「…ここで良いのか」
くっついた部分が暖かい。



●気持ち新たにご挨拶
 年の瀬の夜に、人々は神社へと集う。
 【かのん】と【天藍(テンラン)】もまた、小さな山の上に建てられたこの神社を訪れていた。
「もうすぐ到着……ですね」
「かのん、足は疲れてないか?」
「大丈夫です」
 境内へ至るまでの数十段の階段を、2人はゆっくりと登り切る。
 頂上には今年最後の一日を堪能しようとする人だかりが、縁日の周りに出来ていた。
「皆さん笑顔で楽しまれていますね」
「世の中が平和な証拠だな。少し混んではいるが、どこか寄ってみたいものはあるか?」
「そうですね……。縁日も楽しそうですけど、空いているうちにまずは神様へご挨拶をしたいと思います」
「分かった」
 天藍はかのんの半歩前を進むと、彼女のペースに合わせながら2人の道を開けるように歩く。
 何も言わずとも自分の事を考えてくれる大切な人の姿に、かのんは思わず微笑みを浮かべた。
「ふふっ」
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
「そうか。ほら、もう着くぞ」
 拝殿の前に着いた2人は手や口を清め、作法に従って祈りを捧げる。
(神様。天藍と夫婦となって、もう2年目になりました。彼はいつも私の側にいてくれて、私を大切に想ってくれて……それは神人と精霊としてだけの関係だった頃からそうだったかも知れませんが……でも違うんです。彼が居てくれることがあの頃よりずっと嬉しくて、もっと愛おしく感じています。そんな想いを深めてくれたこの1年に感謝を捧げます。そして……どうかこれからも、彼とこの想いを深めていく事が出来ますように)
「……終わったか?」
 かのんが目を開け隣を見れば、愛する人が優しくこちらを見つめ返す。
「……はい」
「ふっ。なら行こう。そろそろ除夜の鐘が鳴り終わる」
 2人は再度一礼をすると、拝殿を後にする。
 丁度その時、最後の鐘が鳴り終わり、新年の訪れを告げる花火が打ち上げられた。
「天藍……! 見て下さい……!」
「ああ。綺麗な花火だ」
 2人は暫し、夜空を彩る花を愛でる。
 花火は1発ずつこの空を登り、静かに新年を迎え入れた。
 時に赤く、時に青く輝くその光は、見る者を魅了する。
「素敵……ですね」
「そうだな」
 だが天藍は、花火よりも、花火に目を輝かせるかのんの様子を見つめていた。
(かのん……綺麗だ)
 自身の隣に咲く華の美しさに、思わず見とれてしまう。
 その視線に気づいたかのんは天藍の方へ向き直ると笑顔を浮かべた。
「明けましておめでとうございます、天藍。今年も一年よろしくお願いします」
「お、おう! こちらこそ宜しくお願いします、だな」
 改まった様子で頭を下げるかのんに驚く天藍だったが、慌てつつも返事を返す。
「明けましておめでとう、かのん。 こうしてまた一緒に年を越すことが出来て嬉しいよ」
「天藍……それは私もです。こうして貴方と特別な時間が過ごせる事、本当に感謝しています」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。そう言えば、こうして年越しを神社で迎えるのも、大分慣れてきた気がするな。2年前くらい、か?」
「そうですね。天藍と出会ってからですよ、大晦日にこうして外出するようになったのは。おかげで毎年寝不足です」
「嫌だったか?」
「ふふっ、冗談ですよ。そんな事ありません。むしろ感謝してます。これまで知らなかった特別な時間を、私と一緒に過ごしてくれているんですから」
「なら良かった。俺もかのんと一緒に年を越せる事、嬉しく思ってる」
 改めて言葉にしなくとも、伝わっているこの想い。
 だが改めて言葉にすれば、それは相手に一段と深く沁み込んでいく。
 花火が終わるまでの間、2人は静かに互いの存在の強さを確かめ合った。

~~~

「さて、花火も終わったようだが……これからどうしようか?」
「折角ですから、年の初めの運試しに2人でおみくじを引きませんか?」
 かのんが指さす先には【カップルくじ】と書かれた立て看板があった。
「あれか。運試し……面白そうだ」
 そうと決まると、すぐさまその列に並ぶ。
 花火が終わって人の流れが拝殿へ向かっている事もあり、割とすんなり順番が回ってきた。
 2人は1つの番号を選ぶと、それぞれ目の前の箱から同じ番号がかかれたおみくじを引く。
「かのん。今年は何だと思う?」
「運試しですから、やっぱり大吉なら嬉しいですけど……どんな結果でも、私はこの平穏な日々が続く内容なら良いです。今でも私は、十二分に幸せを感じていますから」
「なるほど。そうやって多くを望まないのはかのんらしいな」
「天藍はやっぱり大吉が良いですか?」
「そのつもりだったが……かのんの話を聞いて考えが変わった。俺もかのんと過ごす日々が続くことを祈る」
「そうですか」
 2人は笑い合うと、同時におみくじを開く。
 ここのカップルくじは2つのくじに文章がまたがって記載されており、読み終わったら2つのくじを絡めてから指定の場所に結ぶのが作法であった。
「どれどれ……俺の方に全体の結果が書かれてるのか。恋愛:大吉、金銭:末吉、出来事:中吉、全体は……中吉。だな」
「私の方には文章ですね。恋愛、難無し。日々成就。金銭、散財の相あり。しかれど価値もあり。出来事、苦難の波あり。波共に乗り越ゆれば、安寧長し……だそうです」
「ウィンクルムとして活動する以上オーガの難は避けられないだろうし、そう考えればその他は良い方向を向いているだろう」
「はい。良い結果で良かったです。天藍、くじをこちらへ。結んできます」
「ああ。ありがとう」
 天藍がかのんにくじを手渡すと、かのんはそれを結びに離れた木へと向かう。
 それを見ていた彼は、彼女の後を追わず、くじの列から離れていった。
「ん……よいしょ、っと。これで良いかな」
 手近な枝にはくじが付けられていたため、背伸びをし、高めの枝になんとか結び付けるかのん。
 少々手間取った彼女は、周囲を見渡し天藍の姿を探す。
「天藍? ……天藍?」
「こっちだ、かのん」
 彼はかのんの横から、姿を現すと、手に持っていたコップの1つを彼女に手渡す。
「これは?」
「甘酒だ。さっきくじを渡した時、手が冷えていたみたいだったから貰って来た」
「……ありがとうございます」
 両手でその温もりを感じるように掴むと、かのんはそっと一口それを含む。
「美味しい……」
「そうか。良かった」
 かのんの様子を確認し天藍も甘酒を飲む。
 そうして温まっていると、どちらとともなく欠伸が出る。
「温まって落ち着いたせいでしょうか?」
「かもな。今日は帰ろうか」

 2人はこうして神社を後にする。
 かつて帰宅は別れを意味したが、今は違う。
 夫婦となった2人は常に共にあり、その特別な時間はどんな場所でも続いていくのだから。



●神前に臨みて
「うむ。今の所異常は無いな」
 楽し気な雰囲気に満ちたこの神社においても【イザベラ】は凛とした態度を崩さない。
 人の集う場所は何かしら起きるもの。『正義』を信念に掲げる彼女にとって、このようなイベント事は常に危険が潜む。
 警戒するのは強盗や痴漢といった犯罪も含まれるが、それだけではない。
 転んでケガをする人が居れば、連れとはぐれて迷子になってしまう子供もいるであろう。
 そうした人々が涙を流す可能性がある限り、彼女の信念が油断を許す事はないのだ。
「イザベラさ~ん! 焼きそば、買ってきましたよー!」
 そう声を上げながら近づいてくるのは、彼女の精霊である【ディノ】だ。
 嬉しそうに耳を揺らす彼の手には、焼きそばだけでなく甘酒も握りしめられていた。
「ディノ! そう足早に動き回るな。人にぶつかったらどうする?」
「す、すみません!」
 イザベラの注意を受け飛び上がったディノは抜き足差し足でやってきた。
「本当にすみません! 俺はこれを早く渡したかっただけで!」
「分かっている。慌てずとも私が逃げもしなければ、食事が消える訳でもない。だからこういった場所では落ち着いた行動を心がけろ。良いな?」
「うぅ……了解です……!」
 生真面目なディノは肩を落とす。
(くっ、そんなに気を落とすな)
 注意したは良いがこうも落ち込むのは想定外だ。放っておく事も出来なくはないが、物事に真摯に向き合おうと挑戦している今日この頃、まずは自身の精霊の気持ちときちんと向き合う事から始めよう。
 そう考えた彼女は焼きそばと甘酒を口にする。
「まぁ……だが。お前がここまで運んできてくれたおかげで、私は周囲の安全を確保しつつ食事を取ることが出来た。それに……冷えた体にこうした温食は効果的だ。感謝するぞ」
「はぁぁ……! はい!!」
 彼女の感謝の言葉に、先程までとは一転して目を輝かせるディノ。
「イザベラさん! あっちに縁日があったんですよ! 良かったら見回りに行きません?」
「除夜の鐘までは時間もある。今は屋台周りに注意を向けるべき、か……分かった」
「やった! 色々見つけといたんで、案内します!」
 ディノに連れられ、屋台が集まる場所へ赴くイザベラ。
 途中輪投げや、射的、真剣白羽取りなど武器を使用する縁日を見つけるたびに、片っ端から安全確認のため出し物をこなしていく。
「おおっ! この燕返しマシーンの剣を受け止めるとは流石だなぁ! あんちゃん!」
「ちょ!? イザベラさんはあんちゃんじゃなくて姉ちゃんですよ! おじさん!」
「おおっと、そいつはすまねぇ!」
「構わん。それより店主、この機械は同時に三方向から竹刀が振り下ろされるようだが?」
「ああ、そうだぜ」
「一般人が楽しむ遊戯としては些か難易度が高すぎる。事前の安全性検証などに問題はないだろうな?」
「そりゃ勿論だ。ここは客が年越し前に遊ぶ場所なんだからよ、楽しくなくちゃ意味はねぇ」
「ならばよい。ただ強いて助言をするならば……その機械、右竹刀の振りが数秒ズレている。修正しておくんだな」
 まさか自身のマシーンの欠陥までも指摘されると思ってはいなかった店主であるが、イザベラに自身の完敗を悟ると、景品を彼女とディノにおまけ付きで渡してくれた。
 こうして各種縁日周りで危険がない事を確かめた彼女は、大量の戦利品を食しつつ、ディノと共に元の境内の中心部へと戻っていく。
「全く、失礼しちゃいますよね。イザベラさんはその……ちゃんと女の子なのに」
「ん、何と言った?」
「い、いえ! 何でもないです! あ、それよりこのきな粉餅、イザベラさんもどうですか?」
「そうだな。多少身体も動かして糖分を消費した。1つ貰おう」
 彼女はそういうと、串で餅を突き、きな粉が口に残らぬ様注意を払いつつ食べる。
 除夜の鐘が鳴り響く中で、ディノはその様子に釘付けになっていた。
(イザベラさん……綺麗な指先……)
「む、そろそろだな……行くぞ、ディノ」
「はぁ~~……ってちょ、イザベラさん!? どこに行くんですか? 逆ですよ! 花火はあっち~!」
 鐘の音に誘われるように、人々が建物の邪魔が入らない入口付近へ向かう中、その流れに逆走する形でぐんぐんと拝殿の方へ進んでいくイザベラ。勿論彼女のその歩みは決して人にぶつかり危害を加える事の無いよう、計算された動きであったが、ディノがそれに追いつくには暫しの時間がかかった。
「はぁはぁ……イザベラさん、急にどうしたんですか?」
「そろそろ除夜の鐘が鳴り終わるからな。人々の平和を守ることは当然重要な事項ではあるが、我々が居る場所は大晦日の神社なのだ。年明けと同時に一番に参拝し敬意を示すのは、この場所にいる者の責務であろう」
「ああ、そういう事ですね」
 人のいなくなった拝殿。そこで2人は手や口を清めじっとその時を待つ。
 やがて鐘の音が止み花火があがると、彼女は礼をし、鈴を鳴らすと目を閉じ手を合わせる。
(何だか初詣デートみたいな感じ……ここは1つ、今年こそイザベラさんともっとラブラブに!)
 そんな事を考えていたディノは、横目で大好きな人を覗き込む。
 真剣な彼女の横顔に、それまで考えていた俗な願いは頭の片隅へと潜んでいった。
(俺は、この人と……)
 祈り終え拝殿から離れたタイミングで、ディノが問いかける。
「イザベラさん、何をお願いしたんですか?」
「お願い……だと? 馬鹿者! 己の望みは己で努力し叶えるもの。神の前ですべきは神頼みではなく、決意表明でなくてはならない!」
「うわわ!? す、すみません!」
「分かれば良い。私が成すべき事として誓ったのは『世界平和』だ」
「ですよね」
 彼女の予想通りの決意に頷くディノ。しかし、彼女はもう1つ……と付け加える。
「昨年は、お前を泣かせ過ぎた。だから今年は……沢山笑顔にしてやるからな」
 決意の籠った目が、微かな笑みと共に向けられる。
 それはディノには新年早々刺激の強すぎるものであった。
「はうぅ!?」
「おい、急にしゃがみこんでどうした? 花火を見たかったのではないのか!?」
「ハァ……好きぃ……」
「何と言った? とにかく、ここでは次の参拝客の邪魔になる。移動するぞ」
 イザベラは腰砕けとなったディノを、その場からなんとか人の邪魔にならない所まで移動させる。
「すみません、何か立てなくなっちゃって……ここで良いです」
「……そうか。分かった」
 そうして座り込むように木陰から空を見上げる2人。
(俺も、いつかきっと、この人に見合う自分に……)
 ディノは、触れ合う温もりを感じながら新年の抱負を胸に抱く。
 この小さな熱こそが、いずれ2人の決意を大きくしていくのかも知れない。



●新年の計は東方にあり!
「もうすぐ年が明けるね」
そう笑顔で話す【シルキア・スー】の視線の先では、彼女の精霊である【クラウス】が空を見上げていた。
「そうだな。この鐘の音が終われば、花火と共に新しい一年が幕を開ける……過ぎ去るこの年に悔いはないか、シルキア?」
「今年か~……。印象深かったのは、デミギルティに関わる依頼が多かった事かな? 色々大変だったし、何だかんだ怖い事もあったかも」
「デミギルティ、か……」
 シルキアの言葉に、クラウスの脳裏にはこれまでの戦いが甦る。
 どんな時も、彼自身は持てる全てをもって彼女を守り、尽くしてきた自信はあった。
 だがデミギルティとの戦いは、ウィンクルムとしての戦いの中でもとりわけ厳しいものが多く、文字通り死闘となるような事もないとは言えなかった。
「すまない。俺もまだまだ修行が足りなかった。シルキアにそんな想いをさせるなんて……」
「クラウス!」
 彼女の声に振り向いたクラウスは、シルキアにそっと抱きしめられる。
「私、クラウスに悪い所があったなんて思ってないよ? むしろ逆。私が考えるより先に行動しちゃってピンチになった時も、いっつも助けてくれた。支えてくれた……そんな仲間がいて、何よりもクラウスが側に居てくれたから、こうして元気に年が越せるんだ! って思ってるよ?  だから……ありがとう、クラウス」
 抱きしめられ、最初は驚いた様子でシルキアを見ていたクラウスであったが、彼女の思いやりを感じる言葉に、触れ合う気持ちに心が温かくなった。
「ふっ……俺とて同じだ。感謝している、シルキア」
 自身の神人が彼女であったからこそ、どんな苦難も乗り越えることが出来た。
 彼はそんな想いをこめて、シルキアを抱きしめ返す。
「えへへ……あったかいね」
「そうだな……」
 暫しそうして抱き合う2人。
 だが2人の意識は、年明けを告げる花火の光と人々の歓声によって再び空へと引き戻される。
「あ、年明けちゃった!」
 シルキアは居住まいを正すと、周囲の声に負けない大きさでクラウスに語り掛けた。
「去年はいっぱいお世話になりました。 今年も宜しく、お願いします」
 ペコリと一礼。そんな仕草1つ1つが、彼女の快活さを物語る。
「うむ。明けましておめでとう。こちらこそ、今年も宜しく」
 その明るさは、クラウスにとって最高の年明けを届けてくれるのであった。

~~~

 花火を見終えた2人は、人の流れに従いお参りを済ますと、今度はカップルくじの列に並んでいた。
「流石に定番であるこの回り方では人も多いようだ。待ち時間も長くなっているが、寒くないか?」
「大丈夫! カイロもまだまだ暖かいし、服も沢山着込んでるんだから!」
「その様子なら問題はないだろうが。ほら、甘酒だ。飲んでおくといい」
「わー! ありがとう、クラウス!」
 この神社で日出を見る計画を立てていたシルキア、勿論準備も万全である。
 だが、寒空の下ただ並んで待つというのは退屈に感じるもの。
 そのような事態にならぬよう、クラウスはシルキアがお守りを買う列に並んでいる間に屋台で色々と買い込んでいた。
「他には……鯛焼きも用意した。クリームとあんこ、選ぶと良い」
「じゃあ私は~……クリーム!」
「なら俺はあんこだな」
 2人は軽い食事で体を温めつつ、少しずつ前へと進んでいく。
「そういえば、シルキアは何を祈ったんだ?」
「んっと、今年も無事に乗り切れますように! だよ。また1年、ウィンクルムとして頑張って、成長出来たら良いな~と思ったから!」
「そうか……良い願いだ」
「クラウスは?」
「俺は、シルキアと共にあれるように。と願った」
「ふふっ。ありがとうクラウス。嬉しいよ!」
「さて、手番が回ってきたようだ」
 カップルくじの順番が来た頃には、既に付近はうっすらと白み始めていた。
 2人は日の出を見るために急いで場所を移動すると、その先で引いたくじを確認する。
「どうやらこちらが結果のようだな。読み上げて良いか?」
「うん。お願い!」
「恋愛:吉、金銭:吉、出来事:末吉、全体は……吉。だな」
「むぅ……もう少し良い結果でも良かったのに。えっと、こっちの方にはね……恋愛、日進月歩。焦りは禁物。金銭、溜まらず流れず。天下に程よく流すべし。出来事、宵闇誘われし。晴らすは東方の縁なり。行動すべし……って、東方だって! 東方!」
「東方、か……東に何かあったか?」
「ほら、こないだの魔法の本、覚えてる?」
「ああ。俺達の過去を垣間見たあれか。覚えている」
 2人の脳裏には、フェスタ・ラ・ジェンマの古本市であった不思議な出来事がよぎる。
 彼等が出会ったその本には、名前を書き強く念じると家族の過去か未来を示した物語が白紙の本に描き出されるという不思議な力が秘められていた。 
 シルキアはそこで自身の誕生に関わる過去を、クラウスは覚えていない過去に託された両親の想いを知ったのであった。
「私ね、最近旅に出たいな、って思う事があるの」
「それは今いる洋館を出たい……そういう事か?」
「うんん。あの本で自分の事を知ってから、私の生まれた村があった湖は今どうなってるのかな? とか、私の育てられた村の皆は元気なのかな? とか、ずっと気になってて……」
「成程。確かに故郷は自身の根源を知れる場所。その気持ちは分かる」
「それでね、その村って、私達の暮らしてる地域から見ると、東の方角にあるんだよね」
「ほう、それは珍しい偶然だな」
「それにね、クラウスの両親の事だけど……あれから調べてみたら、ご両親の痕跡が遠くの方の街に残ってるみたいなんだって! 勿論東の方角ね!」
 そういってシルキアはクラウスへ上目遣いを送る。
「そ、そうか……」
「だ・か・ら。考えておいて?」
「う、うむ……」
 彼女の少々いたずらっぽい笑顔に、クラウスはそう答えるしかなかった。
 確かに、戦場で散ったという両親が何かを残しているのであれば、それが気にならないと言えば嘘になる。
 しかも、シルキアは表情から察するにやる気十分だ。
 どうやら、東方への旅路は既に確定事項らしい。
(何が出たとて俺の進む道は彼女と共にある道……彼女がそう望み、俺も望んでいるのなら……進むべき道は1つだな)
 クラウスはそう心の中で決意する。
 そんな彼の背後から、その決意を後押しする様に太陽が輝きを放ち始めた。
「あっ! 初日の出だよ! 後ろ後ろ!」
 目の前で嬉しそうに指さす愛しの女性。
 彼女とこの時を過ごせる喜びをかみしめながら、クラウスは振り返る。
(宵闇晴らすは東方、か……丁度良い機会かもしれないな) 

 日の出を見終えた2人は帰路に就く。
 これからの2人旅立ちへ、夢と希望を描きながら。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター pnkjynp
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月31日
出発日 01月07日 00:00
予定納品日 01月17日

参加者

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