雪やこんこ、ウィンクルムや…?(禰琉 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

あなたは精霊とともに雪を楽しめるイベントにやって来た。
「ねえ見てみて! かまくらで泊まれるみたいだよ」
「かまくらで?」
パンフレットには「らぶらぶ♡かまくら」と書かれている。大きなかまくらに、ちょうどふたりで泊まれるらしい。ご丁寧なことに、扉と窓までついており、中はベッドやソファーがあるほど広いようだ。
「こんなかまくら、どうやって作ったんだろうな」
「それは謎だね……企業秘密なんじゃない?」
「だな……」
「あっ見てみて。食事、ドリンク飲み放題で宿泊代も含めて300jrだって!」
「なに!?」
あなたの言葉に精霊が驚いて目を見開いた。
確かにパンフレットには「300jr」の文字がしっかりと刻まれている。
「どうしよう?」
あなたの質問に精霊は「そうだな……」と悩む。
「お前はいいのか?」
「うん。なんかかまくらってロマンチックだし!」
そう言って目を輝かせるあなたに精霊はなんだか考え込んでいる様子だ。
(これは誘われているのか? それとも無意識なのか?)
精霊が悩んでいることなど露知らず、あなたは早速手続きをした。
「年末なんだし、一年間お疲れ様ってことでいいんじゃない?」
「そうだな。今年も色々あったもんな」
そう言って、二人はクスリと笑った。
雪の欠片が音もなく二人を祝福しているかのようだった。

解説

食事のメニュー

・焼き肉
・鍋
・カレー
・うどん
・そば

ドリンクはご自由に選んでください。

300jr頂戴いたします。


ゲームマスターより

もうすぐ一年が終わりますね。皆さん、今年はありがとうございました。このお仕事を始めて本当によかった、と思いました!来年もよろしくお願いいたします!(*^^*)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  パンフレットを見て目を輝かせ
すてき かまくらに泊まれるんですって!
小さい時から夢だったの
かけられた言葉にぱっと笑顔
いいの?
ふっと緩む柔らかな顔に頬を染めて ありがとう、と

暗くなった空から ちらちら降ってくる雪
見慣れた景色もかまくらの中から見ると いつもと違って見えて
彼の問いに くすりと微笑み
シリウスはいつもそれを聞くわね
言葉の少ない彼から感じる柔らかな優しさに 自分の答えは同じ
あなたと一緒なら寒くない
解ける表情が嬉しくて胸がどきどき
照れ隠しに 備え付けのブランケットごと彼に抱きつく
シリウスは?寒くない?
指先に落ちたぬくもりに真っ赤に
ーシリウスの顔も赤い?…ふふ 
思わず目を見合わせて笑顔
来年も、よろしくね?


かのん(天藍)
  かまくらの構造を見て回る天藍の後ろを歩きながら
なんとなく、庭園やお花見に行った時の天藍の気持ちがわかった気がします
(2人で出かけた先で、草花や庭の造りに夢中になる度に、天藍からかのんの様子を見ていると飽きないと言われてた)

2人でお鍋の具を食べながら
寒い時は温かい物がうれしいですね
天藍と一緒に暮らし始めて1年過ぎますけれど…、あっという間に過ぎた気がします

外よりは寒くないですけれど、家の中と同じというわけではないですね
身を竦ませたら天藍に引き寄せられて
寄りかかった部分と頬に触れる彼の手から温もりが広がる

雪、降ってきました
はい、もうしばらくこのまま…
降り出した雪を2人で眺めながらお猪口を口に運ぶ


鬼灯・千翡露(スマラグド)
 


イザベラ(ディノ)
  「?…私の部屋に泊まれば良いだろう」
自慢では無いが、邸の調度品や食事はそれなりに上等。
敢えて外泊する必要性を考えてもよく分からない。
が、精霊には甘く都合をつけて行く事に。

雪景色やかまくらを堪能した後は、鍋を囲んで酒盛り。
初めての鍋は新鮮で美味しい。
「…こういうのも…何だ、中々に良い。…と思う」

ややぼんやりとしつつも、顔色一つ変えずに淡々と酒を飲む。
精霊の絡み酒には、何て面倒臭い男なんだとは思いつつも、
それだけ傷付けてきたのかと1つ1つ律儀に対応。
「な…泣くな。泣くんじゃ無い。………泣かんでくれ。…頼むから」
泣かれれば必死に宥めながらも困り果て。寝落ちた精霊を撫で。
そんな面倒臭い所もまた愛しい。




●夜空を見上げて

 鬼灯・千翡露と彼女の精霊であるスマラグドはたくさん並ぶ大きなかまくらに驚嘆していた。
 見事なまでに並ぶそれに2人はしばらく黙ったまま。
 そのかまくら群は隣同士でもそれなりの距離があり室内での会話などは他には聞こえない配慮もされている。
 キラキラと太陽に照らされたかまくらは雪との反射で宝石のように輝いて、このあと2人でここで過すことに2人の胸は高鳴っていた。
 盛況のようで、その中には顔を見知ったウィンクルムの姿もちらほら見える。
 皆、自分たちと同じくこのイベントを楽しもうとやってきたようだった。
 千翡露が数名のウィンクルムに会釈をすると相手も軽く返してくれる。
 かまくら群を見渡せばそこにいる人々の幸せそうな顔が見て取れる。
 自分たちの顔も同じ顔をしているのだろうか……。

 かまくらに案内をされ、中に入ればパンフレットの案内通りに入り口には扉、壁には窓、そしてソファにベッドとかまくらの中とは思えないほどの充実している室内である。
 広さもあり、窮屈さは皆無である。
 千翡露がソファに腰掛ければ、その隣にスマラグドも腰を下ろした。
 息をゆっくりと吐き出せば微かに白く色づく。
 それがかまくらの中なのだということを実感させてくれる。
「ラグ君……かまくらって暖かいね」
「そうだね」
 お互い顔を合わせれば、そこには千翡露の温かい微笑み。
 スマラグドの心に温かい風が流れる。
 彼女とここに来てよかったと、彼女の微笑みをまた見れてよかったと。
 クリスマスを一緒に過した先日……スマラグドは気持ちを共有できる幸せを感じた。
 自分の存在が彼女に良い影響を与えていると。
 スマラグドが居るお蔭で千翡露は幸せだと、世界のすべての色彩が彼のお蔭で輝き豊かに見えるのだと。
 その言葉を思い出しながらスマラグドは千翡露は俺が幸せにする、そう決めたんだと告げたことを思い浮かべる。
 その気持ちが一生揺らぐことはないと彼の心にいつもより熱い炎が灯った。

 食事を済ませ、外は暗闇に落ちていた。
 窓から外を見れば空には多くの星が瞬き夜空を彩っているのが見える。
 千翡露の瞳がその多くの輝きに囚われているのを感じたスマラグドは彼女を外へと連れ出す。
 昼間のかまくら群も宝石のように見えたが、夜空に輝く星々の煌きは宝石を散りばめたような美しさ。
 外は寒さが増してはいたが、その甲斐あってのことだろう。空はしんと冷えた冷気によって空気に淀みがなかった。
 2人は夜空を見上げる……千翡露はこの光景を忘れぬように、となりにスマラグドがいるからこその夜空の輝きを目に焼き付けるため。
 スマラグドは他の星より煌びやかに輝いている星を見つめる。
(ちひろを……)
 と星に誓うように強く胸に想い、そっと彼女の手に自分の手をゆっくりと温かく重ねたのだった。


●愛おしい者

 イザベラは適度に間隔をあけて鎮座してるかまくら群を眺めていた。
 その隣にはディノがいる。
 彼女の表情からは彼女が何を考えているのか、ディノには少々分からない様子だ。
 
 それは数日前のこと……。
 ディノは『らぶらぶ♡かまくら』と書かれているパンフレットを手にし、
 “彼女とお泊りデートがしたい!同じ部屋で夜を過ごしてみたい”
 と思い、誘うために彼女の部屋を訪れた。
 しかし……
「?……私の部屋に泊まれば良いだろう」
 パンフレットを見ながら彼女はそう答えた。
 その返答にディノは肩を落とした。
 彼女はこう言いたいのだ。
 彼女の邸宅に居候をしているディノ、就寝している時は別ではあるが、かまくらに一緒に泊まるというだけの話であるのだから一緒にこの部屋に泊まればいいと。
 自分が居る邸宅は豪華な調度品に彩られ、そして食事も上等なものが毎食出てくるのだ。
 わざわざ外泊する必要性を感じないと。
 この邸宅で食事をし、会話を交え、そして一緒に眠れば同じことである。
 それに移動時間等を考えればこちらの方が合理的ではないかと。
 しかしその返答に今も尚ディノはションボリと耳を垂らしている。
 ディノの中では、できるのならば、イチャイチャ的な事をしたり!なんてことも考えていたためでもある。
 そんな彼の妄想を言葉一つでイザベラは打ち消してしまったのだ。
 しかし、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。
「そ……れは………こう、またちょっと違う話なんです!」
 あきらかにしょんぼりしているディノとそれとは裏腹にイザベラを説得するための声色は必死さと共にイザベラへの愛情も感じられる。
「ふむ……」
 イザベラは思案した。
 ディノの『一緒に過したい』という気持ちが心のどこかでわからない気もしない……それに彼の提案である。
「では、行くか」
 数分の説得で彼女は微かに笑むように承諾してくれたのだ。
 ディノには甘いのだ、彼の喜ぶ顔がみたいから。
 もちろん訓練ではそうはいかない、が。
 彼女の承諾にディノは嬉しさのあまり驚嘆しつつ、顔全体で喜びを表現した。

 そして今ここに2人は訪れている。
 数々並ぶ大きなかまくら。
 外は冷えているが、その冷えからかまくらは太陽に反射して宝石のように輝いている。
「このかまくら……良く出来ている」
 雪で固められたそれをイザベラが触ればしっかりとしていて簡単には崩壊することはない固さなのである。
「企業秘密、でしょうか」
 イザベラの言葉にディノも一緒に触ってみる。
 確かに固い、ヒンヤリとしたその感覚、少し手を当てればその塊からてに水分を感じる。
「これは……」
 興味深げにイザベラはかまくらを観察している……がディノは現在彼女が考えていることがわかるのだ。
 代々軍人を輩出しているガードナー家の娘である、訓練……演習……今ディノが考えていることとは違うと。
「イザベラさん!あっち!」
「ん?」
 そのイザベラの興味を逸らそうとディノはかまくら群の奥で雪玉が飛んでいる方向を指差した。
「雪合戦をやっているみたいですよ!」
 合戦!!とイザベラの視線はそちらに向く。もちろん思考も。
 少し遠くではあるが、雪玉が左右に飛び交っているではないか。
「行ってみませんか?」
 彼女は楽しそうに言うディノの顔を見て、
「行ってみるか」
 とかまくらからそっと手を離すと2人は歩き出した。
 ディノの顔は嬉しそうだ、とイザベラは安心する。
 正義以外のことに感情や思考は不要と考えていた。しかし、ディノと契約したことでそれだけではダメだと最近気付くことができたのだ。
 できるだけ真摯に向き合おうと……もちろんディノにも。
 歩いていると木々に太陽に照らされたいくつもの氷柱があった。
 剣のように鋭く透明に輝き、その切先からは水滴が滴り落ちる様はとても幻想的である。
 ディノがふと立ち止まれば。先を歩いてたイザベラも足を止める。
「刃のようだ……」
 氷柱を見上げるディノにイザベラは鋭い目つきで氷柱を眺めながらそう言った。
 とても彼女らしい言葉である。
「そうですね……」
 一滴水滴が地面へと落ちる。
 音も無くその水滴は地面の雪へと落ち消えていった。
「少し……遊ぶか」
 そう言うとイザベラは軽く飛び木にある氷柱を2本取る。
 そのうちの1本をディノに渡せば剣を構えるように姿勢を正す。
 1本を受け取ったディノはそのヒンヤリとした冷たさと表面の滑るような感覚を感じつつ握る。
「折れるか落としたら負けですね!」
「そうだ!」
 稽古ではない、遊びである。
 2人は顔を見合わせると口元は弧を描く。
「開始!」
 そして2人は勢い良く立ち合った。

 日も暮れてかまくら群は闇に包まれつつ、空には星が瞬いていた。
 イザベラとディノは案内されたかまくらの中にいた。
 室内はそれなりに暖かく、ソファにベッド、2人で居ても狭さを感じることはない広さである。
 室内の中央部分には大きめのテーブルが用意されており、椅子も2脚ある。
「イザベラさんにはかないませんね!」
 ディノはそう言うと軽くソファに腰掛けた。
 ディノはイザベラとの先ほど繰り広げた“遊び”を思い出していた。
 結果としてディノの氷柱は折れてしまったが、イザベラの気迫に押されたとも言えたからである。
「いや、後から良くみれば……私の氷柱の切先が折れていた、先に折れていたかもしれないのだ。ディノの勝ちかもしれないぞ」
 イザベラの顔は満足そうにディノを見下ろす。
 稽古ではなく遊びだと言われたことに、ディノの心は満たされ、顔には笑顔が溢れる。彼女も楽しんでいるのだと。
 もちろんディノの様子にイザベラも心満たされていた。
 イザベラの心もそしてディノ自身も成長しているのだ。
 そうこうしている内にかまくら内に鍋料理と酒が届けられた。
 外で楽しく遊んだ2人のお腹は空である。
 テーブルに置かれた鍋の蓋を明けると、少し芳ばしい醤油の香りと野菜の甘みに肉の旨みの効いた香りが漂う。
 酒をお互いのお猪口に注ぐと席につき傾けた。
 ディノがイザベラの器へと鍋の中身を取り分けてやる。
 内心ディノは緊張していた。
 ガードナー家では鍋や大皿料理が出ないのである。
 慣れ親しんでいない彼女の口に合うかと。
 鍋の中身が入った器を受け取るとイザベラは箸を使って口の中へと運んだ。
 行儀良く咀嚼し飲み込むと、酒を口に運ぶ。
 ディノも少々心配ではあったが、鍋の具の一つである白菜を口に運んだ。
 暫しの沈黙……イザベラは無言で鍋を食べつつ酒を煽る。
 ディノは少しの不安を抱えつつ一緒に鍋を食べ進めていた。すると、
「……こういうのも……何だ、中々に良い。……と思う」
 イザベラのアイスブルーの瞳は優しさに溢れていた。
 気に入ってくれたようだ……ディノの顔は花が開花したような笑顔になる。
「イザベラさん!よかった」
 嬉しく浮かれたようにディノはまたイザベラに鍋を取り分けた。
 その姿にイザベラも自然と口元に弧を作っていた。

 もう深夜に近い時間に差し掛かろうとしていた。
 イザベラは少しぼんやりとしつつも顔色一つかえずに淡々と酒を口に運んでいた。
 ディノはイザベラと同じく……いやペースだけは同じく飲み、弱い酒を許容量以上に飲んでいた。
「イザベラさんて本当そういう所有りますよねぇ、らしいと言えばそうなんですけどぉ」
 絡み酒である。
 いままでのイザベラとの出来事を振り返るようにディノは語りつつイザベラに絡み酒をしている。
「大体この間だってそうだったじゃないですかぁ」
 ディノの口が閉ざされることが無い……。
(何て面倒臭い男なんだ)
 なんて内心思ってはいるものの、
「聞いてますか?」
 ディノの絡み酒は止まらない。
 それにそれだけ私はお前を傷付けてきたのか……と感じているから。
 止めることはないのだ。
「あぁ……そんなこともあった」
 そしてイザベラはディノの話一つ一つに丁寧に対応する。
 自分自身の悪癖に気付けたのはディノのお蔭であるし、彼にも思ってる以上の態度をしていたのだろうから。
「やっぱりイザベラさんは!」
 しかしディノの言葉にけして棘はなかった。
 イザベラの心に沁みるものの、それは傷口を抉ったり塩を揉みこんだりするような言葉ではない。
「そうか……ありがとう」
 素直に今ある感情のままに言葉を返す。
 酒も進み何本目の酒だろうか……軽く再び酒を喉へと滑らせると……。
 ディノの様子は変化していた、少し据わっている黒い瞳から涙が溢れているではないか……。
 イザベラの酒を飲む手が止まる。
「……それに比べて、俺は……」
 突如目の前の出来事にさすがのイザベラも立ち上がりディノの元へと寄る。
「本当に……俺なんて……」
 その言葉は続いていた。
 どうやらディノは自分とイザベラを比べているようだ。
 大粒の涙が溢れる瞳を見つめながらイザベラの表情は困惑を隠せないでいた。
「な……泣くな。泣くんじゃ無い。………泣かんでくれ。……頼むから」
 必死に宥めつつディノに泣かれれば泣かれるほどその困惑は顔や心に深まっていく。
 そんな様子のイザベラを見るとディノは更に瞳を濡らす。
「自分でも面倒臭いなって分かってるんです」
 そう分かっていると……今だってイザベラを困らせているのだと。
「だから…だか…ら、お………れは……」
 8年前にイザベラに一目惚れした自分……、初めて見た彼女はとても輝いて見えたこと。
 そしてその憧れと共に心に宿った感情。
 今彼女は変わろうとしてくれていること……だから自分も変わらなくてはいけない。
「そんなことはない!お前が居てくれるからこそ――今日だって!」
「イザベラさんの楽しそうな顔見れて……幸せ…で……し……」
 イザベラがそう言おうとすると、ディノもそう言って気絶するようにテーブルに突っ伏した。
 イザベラは最初ディノの身体を心配しつつ観察する。問題ないだろうか、と。
 しかし心地良い寝息を立てている己が精霊の顔をみると、そんなことはないようだ。
 言いたいことが言えたのか、少しスッキリとした顔をしているように思える。
(そんな面倒臭い所もまた愛しいのだ)
 イザベラの手は優しくディノの頭を撫でる。
 ディノが居てくれたからこそ気付けたことがたくさんあるのだと……心地良い寝息を立てる精霊に彼女はそのまましばらく頭を撫でていた。
 彼の存在が自分自身の中で重要なのだと、泣かないでほしい、お前に向き合って共に歩んでいこうと。
 ディノの顔を覗き込むように見、まだしばらくそのまま彼の頭をゆっくりと優しくイザベラは撫でていた。


●その温もりは永遠に

 かのんと天藍は『らぶらぶ♡かまくら』のパンフレットを見ながら会場を見て回っていた。
 天藍は目を凝らすようにかまくらをよくよく観察していた。
 “冬の野営に参考になる物があるかもしれない”
 と思ったからである。
 天藍は普段自警団に入りレンジャーとして活動している身である。今回のかまくらの構造を分かれば今後の役に立つのではないかと思ったからである。
 そんな天藍の後ろを歩いているかのんは微笑ましく感じていた。
 一生懸命に観察している天藍のその真剣な眼差しにかのんは手を口元に当て笑う。
 その様子に天藍はかのんの方へと振り向く。
 そこには優しくクスクスと笑うかのんの姿があった。
「いつもと立場が逆転だな」
「なんとなく、庭園やお花見に行った時の天藍の気持ちがわかった気がします」
 かのんのその言葉に天藍は照れ隠しのように頬を掻く。
 以前かのんは天藍に言われたことがあった。
 草花や庭園の作りを一生懸命に見ているかのんを見ていると飽きないのだ、と。
 よく天藍は庭園や草花のある公園などに行かないかと誘ってくれる。
 その都度かのんはその庭園の作りや、草花の生え方、そして土の手入れの仕方などを観察し、夢中になると集中しすぎるので天藍には申し訳なく思うことが度々あったのだ。
 しかし天藍はその度に「飽きない」と言ってくれていて、とても有難いと感じていた。
 そして今回その逆をかのんは体感していた。
 確かに飽きないと。
 真剣な表情の天藍、何か気付いたのか少し目を見開いてみたり、そう思えば感心したりと様々な表情を見せてくれるのだ。
 成人した男性ではあるが、今では少し少年のようにも見えてくる。
 かのんは納得していた。
 天藍が、彼が言っていたのはこのことなのかと。
 なんだか天藍は照れくさくなったのかかのんに向けていた視線をかまくらに移す。
 そんな様子の天藍にかのんはまた一つクスリ、と笑った。それは幸せの笑い。
 一緒に居ることが長くなった2人だが、知らない顔がまだまだ私にも彼にもあるのだと。
「かのん……」
 そんなに笑わないでくれ、と言いたそうに名を呼んでくる。
「はい」
 かのんは微笑み、わかりました、というようにまた笑う。
 天藍はかまくらを観察しつつ頭を掻き、かのんに顔を向けることは無い。
 それはなぜなのかかのんには分かっていた。
 そんな天藍を『可愛い』と思うかのんだった。

 かまくらを観察し終わり、冬の景色を楽しんだ後2人はかまくらへと案内された。
 室内は外よりは温かいが少し空気はひんやりしている。
「思ったより広いですね」
 室内を見渡しながらかのんは言った。
 パンフレットにも室内の写真が載っていたが、写真で見るよりも広く感じたからだ。
「かまくらに炬燵か……この時期の風物詩だな」
 雪で固められた地面には炬燵が置かれている。もちろん決まりごとのようにみかんも炬燵の上にある。
 そっと炬燵の中に手をやればフワッとあたたかい空気が感じられた。
「しかし……構造はどうなっているんだ?」
 炬燵の中はこんなに温かいのにその下の雪は融けている気配はないのだ。
 とても頑丈にできているかまくらなのは先ほどよくよく観察したのでわかったのだが、更なる疑問が天藍の中に広がっている。
 そして外からの観察は終えたものの今度は室内の観察もし始める。
「窓に扉……頑丈なかまくらだな」
 真剣に扉のある箇所をみたり、またはめ込まれた窓枠を見ていく。
 その表情はまたまた真剣そのもので、天藍の真面目さが滲み出ていた。
 かのんも微笑ましくそんな彼を見る。
 彼らしいと。しかし、
「天藍ったら」
 と、そんな様子にかのんはまたクスクスと笑ってしまうのだ。
 百面相でもしているような見ていて飽きない天藍に。
 そして天藍もかのんの様子に笑みが出る。もちろん照れ隠しも含めての。
 かまくら内の窓から外を見れば空は闇に包まれつつあり、夕焼けと夜空のコントラスト。
「綺麗ですね」
「天気が良くて良かった」
 少しずつではあるが空高く見れば星が煌き始めているのだ。
 しばし夜空を眺めている2人の下へと鍋が運ばれてきた。
 熱燗と共に。
 炬燵に置いてもらい鍋を囲む。
 中には白身魚や白菜に人参、きのこ、豆腐など具が盛りだくさんである。
 さっぱりとした塩味で出汁の味も丁度良い塩梅である。
 かのんは天藍の分を装えばそっとそれを彼に手渡した。
「ありがとう」
 彼の優しい声音の謝礼にかのんは微笑み返す。
 自分の分も装っていると天藍は持ってきてもらっていた熱燗をかのんと自分のお猪口に注ぐ。
「今日も楽しくかのんと共に過せた……ありがとう」
「私も……天藍の気持ちが良くわかりました。ありがとうございます」
 かのんに言われて天藍は少し気恥ずかしく頬を掻く。
 そして二人でお猪口をカツンと合わせる。
 口に含めば米の甘さとそしてその温かさが口の中に広がり、そのまま喉を通っていく。
 熱々の鍋は湯気をあげつつ中の具材をさらに柔らかくしているようだ。
 その具材をかのんは美味しそうに食べている。
 天藍も同じくかのんを見つめつつ鍋に舌鼓を打っていた。
「寒い時は温かい物がうれしいですね」
 食べながらかのんは嬉しそうにそう言った。
 天藍も肯定し、頷く。
 少し寒いかまくら内で食べる鍋、これもまた一興だろうと2人は笑う。
 もちろん熱々の鍋で体にも心にも温かさが伝わるが、お互いがいるからこそ、だと2人は分かっている。
 1人ではここまで温まらないし、他の人と食べたとしてもこの安堵感のような温かさは味わえないと。
 そういえば、とかのんは続ける。
「天藍と一緒に暮らし始めて1年過ぎますけれど……、あっという間に過ぎた気がします」
 天藍と暮らし始めてもう1年過ぎたのだ。
「思い返せば色々あったが、かのんの言うとおりあっという間な気がする」
 2人は笑みながら瞳を合わせる。
 鍵を渡しあい、そしてかのんの家を修復、修繕し一緒に暮らし始めた1年前。
 そして婚約から婚姻とこの1年本当にいろいろなことがあった。
 初めてあった時はお互いに伴侶になっているとは思っていなかった……でも今でなら運命というものがあるのだと確信できる。
 そしてそんな1年も今思えば一瞬のうちに過ぎてしまったように思う。
 いろいろはあったものの、お互いがいたからこそ幸福な1年だったと言える。
 かのんも天藍もお互いの表情を見れば同じことを感じていると分かるのだ。
 鍋はグツグツと煮えているが、2人の間にはそこに負けない程の情熱が心に熱々とあるのだ。

 鍋も食べ終わり2人は室内にあるソファに腰掛けていた。
 ソファの前にあるテーブルには先ほど新しくもってきてもらった熱々の熱燗が置いてある。
 熱々の鍋を先ほどまで食していたためか体はまだ温かさを保っているのだが、さすがに少し冷えるのかかのんが手にゆっくりと息を吹きかける。
 微かに白くなった息が室内の気温を現す。
「外よりは寒くないですけれど、家の中と同じというわけではないですね」
 炬燵に入っていれば温かさはあるが普段の室内とは違いたまに入る風はかのんの手や体を少し冷やしていた。
 隣に居た天藍はそんなかのんをそっと引き寄せる。
 かのんの顔をみれば熱燗のせいも聊かあるかもしれないが、頬にほんのり赤みがあり、そして少し瞳が潤んでいるのが見受けられた。
「その分2人でくっついて暖を取れるから『らぶらぶ♡かまくら』なんじゃないか?」
 そんな表情のかのんが愛おしく思いつつ天藍は言い、かのんの肩に回した手に少し力を入れる。
 それと同時にかのんは天藍の右肩に頭を置く。
「かまくらの中なら人目を気にする必要もないしな」
 そう言うと天藍はそっとそのかのんの頬に手を当てる。
 その手の温かさは頬からかのんの体全体に広がっていく。
 いや、体だけではなく心にも。
 そして天藍にもその寄り掛かってくるかのん自身の重みと共に温かさが広がり、彼の心を満たしていく。
 幸福感に満たされた2人はかまくら内が寒いことも忘れ静かにお互いの温もりを感じていた。
 すると、
「雪、降ってきました」
 かのんは少し頬を赤くしたまま、そして天藍の温かさを感じながら呟くようにそう言った。
 ふと窓の外を見れば仄かに照らされたかまくら群の中に雪が舞い落ちてきているのが見える。
 確かに、というように天藍は頷き返答する。
 まだ温かいお猪口に入った熱燗を天藍はコクンと一口飲む。
 自身のお猪口を置くとかのんのお猪口を取ってやる。
 それを受け取るとかのんも熱燗を口に含みゆっくりと流し込む。
 熱燗を飲んだせいか体の熱がまた一段階上がったように思う。
 潤んだ瞳を天藍に向けるかのん。
 天藍は口角を上げると、言う。
「もう少しこのままでもいだろう?」
 と。
 かまくらの中には2人っきり。
 誰もいない。
 かのんは小さく頷くとそっとアメジストのように輝く瞳を閉じる。
「はい、もうしばらくこのまま……」
 もちろんとかのんは返す。
 この幸福感は……安心感は……。
(心地いいですね)
 かのんは心の中でそう呟いた。
 この心満たされる感覚……愛おしい……。
(心地が良い)
 天藍もそう心の中で呟いた。
 2人でいることの幸せ、恋人となってからそして伴侶となってから今でも何も変わらない。
(天藍……)
(かのん……)
 2人の心は合い、通じ、重なる。
「雪、綺麗ですね……」
 静かに舞い散る雪がキラキラと輝く。
 他のかまくら群も相まってか、窓の外の景色は2人を彩っているようにキラキラと煌いている。
「あぁ」
 天藍はかのんの顔を覗き込む。
 そこにはアメジスト色の瞳を潤ませ、頬を赤らめ外を見るかのんがいた。
 彼女の顔を見ると愛おしさが増してくる。
 その視線に気付いたかのんが天藍へと視線を向ける。
「天藍……?」
 天藍は愛おしむようにかのんに頬に当てていた手を優しく撫でる様に動かした。
「かのん……愛している」
 潤んだ瞳を真っ直ぐと見つめながら天藍は言う。
 少し酔っているのかもしれない、と思う。
 かのんの温かさと、温かい酒に。
「はい……」
 かのんはそっと瞳を閉じた。
 この2人の時が永遠に続けばいいと。
 外が室内が寒くてもこの天藍の温もりがあればいつでも温かい。
 窓の外ではまだ雪が煌きながら優しく舞い降りていた。
 2人は眺めながら、この温もりが永久に残るようにと寄り添う。
 そしてたまにお猪口で熱燗の温かさ流し込みつつ体温の温もりを感じながらしばらくそのままで過したのだった。
 


●その微笑をいつまでも

 『らぶらぶ♡かまくら』と書かれたパンフレットを握り締めるように持ち、見つめる少女がいる。
 その瞳は輝き、パンフレットから目が離せないようだ。
「すてき かまくらに泊まれるんですって!」
 そう言って瞳を輝かせていたのはリチェルカーレである。
 その横にいるシリウスはうさぎのように跳びはねている彼女を見て息を一つついた。
「……まぁ そういう反応だろうな……」
 買い物へと来た2人。
 そこでリチェルカーレの目に留まったのはこの『らぶらぶ♡かまくら』のパンフレット。
 最初は買い物途中で目に留まったのだが、まだ途中だったために最初は通り過ぎた。
 シリウスはもちろん彼女の視線に気付いていて、もしや……なんて考えてはいた。
 そして買い物を終えると再びこのパンフレットが置かれている場所を通った。
 シリウスの予想通りに彼女は足を止めたのだ。
 そして現在リチェルカーレはシリウスの前でピョンピョン状態なのである。
「小さい時から夢だったの」
 青と碧の瞳はとびっきり輝いていた。
 子供の頃、小さいかまくらに入り、ここで泊まれたらどんなに素敵なことだろう……と。
 シリウスはそんなリチェルカーレを見て苦笑いを浮かべる。
「―で、泊まるのか?」
 と彼女に尋ねた。
 その彼からの質問にリチェルカーレの瞳は元々の大きさよりも更に大きくなる。
 いつもならそうはならなかったりとするのだから。
「いいの?」
 彼女は花が今開花したような笑顔をシリウスに向ける。
 シリウスの心はその彼女の笑みでゆっくりと氷を溶かすように心を温めてくれる。
 その彼の優しく緩んだ顔にリチェルカーレは頬を赤らめながら彼の腕をそっと掴むと、
「ありがとう」
 と更に花が満開になったような満面の笑顔を彼へと向けたのだった。

 それから数日後……。
 リチェルカーレとシリウスは『らぶらぶ♡かまくら』の会場にいる。
 マシュマロコットンで作られたハットとコートで暖かな格好をしていた。
 ふわふわとした彼女の隣にはシリウスが居る。
 目の前にあるかまくらは予想以上の大きさで彼も少々驚いているようだ。
「シリウス……凄い!雪も輝いていて素敵ね」
 彼女が花のように微笑む。
 今日は晴天で太陽も輝いていた。
 シリウスはその微笑みを見ると自分自身の心が温かくなることを知っている。
 本当に喜んでいることにシリウスも内心安心と喜びに溢れていた。
「ありがとう」
 彼女は言った。
 直ぐに承諾してくれたこと、この素敵な景色を見せてくれたことへの感謝である。
 シリウスはその言葉に答える代わりに微かな微笑みをリチェルカーレに向けた。
 2人は案内されたかまくらへと入った。
 室内は外よりは暖かくはあるが空気は少しひんやりとしている。
「広いな……」
 ソファにベッド、テーブルに椅子。
 パンフレット通りに壁には窓に扉がある。
 これがかまくらである以外はホテルや至って普通の住居と変わりない上に、2人で入っても十分な広さがある。
「凄いねシリウス!」
 彼女は無邪気にうさぎのように跳ねながら室内を歩き回っている。
 そんな彼女らしい行動にシリウスは彼女を視線で追う。
「ねぇシリウス!少し外を歩いてみない?」
 彼女は微笑みながらシリウスに提案した。
 せっかく来たのだからかまくら以外も楽しみたいと。
 それにまだ陽も高い。
「いいでしょう?」
 その微笑みを向けられれば断る理由はない。
 シリウスは快く承諾をすると、再び彼女は満開の笑みを向けてくる。
「ありがとう」
 と言いながら。
 かまくら群を見ながらリチェルカーレは雪道を無邪気に歩いている。
 木々に積もった雪、またかまくらを作る時に余ったものだろうか……それを使った雪だるまがあったりする。
「シリウス!見て、雪うさぎ!」
 スタッフが作ったものだろうか、目は何かの赤い実を使い耳は青々とした葉っぱが使われているようだ。
「かわいい……作れないかしら」
 辺りを見回してみれば木々には目に使われている赤い実、そして葉っぱがある。
「―少し待ってろ」
 シリウスはそう言うと軽くジャンプしてそれらを集めてくれた。
 リチェルカーレに渡すと彼女はまた微笑みをくれる。
「ありがとう」
 受け取ると、道にある雪をあつめ雪ウサギの形を作っていく。
「雪ってふわふわしているけれど……やっぱり冷たいわね、ふふ」
 リチェルカーレは微笑みを絶やさずにもくもくと作成している。
 そんな彼女を見守るシリウス。
 綺麗に形が整うとシリウスから貰った目と耳をつけていく。
「できた!どう?シリウス?」
 そこには大きい雪うさぎが2匹、そして小さい雪うさぎが2匹いる。
「親子……か?」
「そう!これがシリウスでこれが私!そして……」
 『子供!』と言おうとしたのだが、言う前にリチェルカーレの頬は赤くなってしまう。
「そして……?」
 察しはついているもののシリウスは聞き返す。
「シリウスの意地悪っ!!」
 シリウスの行動に赤い頬を膨らませるリチェルカーレ、でもリチェルカーレは微かに彼が今微笑んでいるような気がした。
 彼が笑んでくれるだけで、彼女は幸せな気持ちになる。
 初めて出会った時には不安に揺れていた翡翠の目が、今は少し細められていることに幸福を感じるのだ。
 もう出会って長い年月が過ぎたのだ、でもまだまだ彼のいろいろな表情を見たいのだから、彼にも幸福で居てほしいと。
 
 かまくら内で食事を終えた2人は穏やかな時を過していた。
 暗闇に包まれた空からは雪がチラチラと舞い降りてくる。
 窓に張り付くようにそれを見ているリチェルカーレ……いつも見ている景色なのに、どこか違う。
 見慣れている景色のはずが、かまくらの中にいるという状況だけでこんなに心が弾む。
 そんな彼女にソファに座っていたシリウスは声を掛けた。
「寒くないか?」
 と、優しい声音で。
 その問い掛けに彼女はくすりと笑う。
 リチェルカーレの微笑みにシリウスは怪訝そうに瞬いた。
 そして彼女は言う、
「シリウスはいつもそれを聞くわね」
 と……シリウスの瞬きは大きくなる。
 2年前の聖夜、季節はずれの雪が降ったあの時、そして1年前の聖夜、シリウスは彼女に同じ質問をしている。
 リチェルカーレを気遣うように、優しくそう聞くのだ。
 いつもは口数の少ない彼だからこそ、その柔らかく暖かな優しい言葉はリチェルカーレの心に温かく沁み込んでくる。
 そしてリチェルカーレはいつものように満開の花のような微笑みで言うのだ……、
「あなたと一緒なら寒くない」
 と。
「リチェ……」
 その言葉にシリウスは僅かに笑んだ。
 そのシリウスの解けて出た笑みにリチェルカーレの胸は高鳴っていた。
 室内が少し寒いせいだろうか、いつも以上に自分の頬が赤らんでいる気がする。
 照れ隠しに窓の外を見ようとするが、すぐそこにシリウスが居て、彼の香りがするような気がして、窓から見える景色が彼女の目に入らない。
 隠そうとすればする程、更に熱くなる頬。
 どうしようかと思案していると視界の中にブランケットが目に入る。
 彼女は窓際のテーブルに置いてあったブランケットを頭から被ると、その勢いでシリウスに抱き付いた。
「……っ、リチェ?」
 突飛な行動にシリウスは驚きを隠せなかった。
 頭上からブランケットが甘い花のような香りと共にシリウスに降ってきた。
 リチェルカーレは恥ずかしさを隠すためにブランケットと共にシリウスの体を包みながら胸に飛び込んだのだ。
 それと、自分ではなく彼が寒いような気がして。
 いつも気遣ってくれる彼にお返しのように、
「シリウスは?寒くない?」
 シリウスを見上げるリチェルカーレ。
 先ほどシリウスにされた質問を彼に投げかけてみた。
 シリウスはブランケットの中、いつもより近い青と藍の瞳に吸い込まれるように見つめている。
 この瞳の輝き、光差す瞳、大切な大切な二色の瞳。
「―俺も、寒くない お前の手は暖かいよ」
 そう言うとシリウスはそっとリチェルカーレの小さな手を取る。
 この小さく華奢で温かな手に幾度となく救われたのだ。
 子供の頃に自身の村はオーガに襲われ、誰も助けてはくれなかった。
 その事から彼の心身は氷の中に閉ざされたようになっていた。
 しかしこの手がこの瞳が彼の氷を少しずつ暖かく溶かしていくのだ。
 “苦しみも悲しみも 支えられるようになりたいの”
 リチェルカーレの心からの想い。
 そして毎日花が開花したような満開のような笑顔を見せてくれる。
 無邪気さや無防備さ、どれをとっても彼女が愛おしかった。
 手に取ったリチェルカーレの小さな手……指先に視線を落とすと優しくそっとそれに口づけする。
 少し冷えていたリチェルカーレの指先にシリウスの暖かい唇が触れると、一瞬で彼女の頬は更に赤くなる。
 頬を隠すようにブランケットに彼女は顔を埋める。
 その行動にシリウスは我に返った。
 愛おしいからこそ自然と出た行為だったのだが、思い返せば自身も恥ずかしい。 
「―シリウスの顔も赤い?……ふふ」
 少し顔を背けたシリウスに気付いたリチェルカーレは彼を見ると小さく笑う。
 背けていた顔をリチェルカーレに戻せば、優しく可憐な微笑みを彼女は向けてくれていた。
 そしてシリウスもそのリチェルカーレの微笑みにつられる様に微笑む。
 この真っ直ぐな笑顔と好意がシリウスの心を暖かくし、氷を溶かしてくれる。
 今日もまた息ができる。
 彼女の存在はシリウスにとって大きく、大切なものである。
 どんなシリウスでも彼女は好きだと言ってくれた。
 “全部わたしの大好きな あなたの一部”
 以前心を読む敵と対峙したことがあった。その時の彼女の言葉である。
 どんな自分でも受け入れてくれると言った、ひとりで耐えないでほしいと。
 このかけがえのない存在にシリウスは心が穏やかになっていくのを感じる。
 何を思案しているのかを知らないリチェルカーレは言う。
「来年も、よろしくね?」
 微笑みを浮かべる彼女はこの胸の中にいる。
 強く彼女を抱き締めると、
「こちらこそ」
 シリウスは彼女の耳元で囁いた。
 来年もこの笑顔を見せてくれと。
 彼女の笑顔が変わることはないだろう、シリウスという大好きな人が居る限り……。
 ブランケットの中2人はしばらく見つめ合い、そのままお互いの心を確かめ合うように抱き合ったまま心を通わせていた。

(このリザルトノベルは草壁 楓マスターが代筆いたしました。)



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 禰琉
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月31日
出発日 01月05日 00:00
予定納品日 01月15日

参加者

会議室


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