プロローグ
「うわあああ!こ、今年も出たぞぉー!」
「こいつら、煩悩の分だけいくらでも湧いて出るんじゃないか!?」
とある住宅地で、一般市民たちが何かから逃げ惑っている。
人間たちを追い回すドロドロプヨプヨの大きく丸い塊――そう、去年も排水溝から湧き出て罪なき男性たちをひんむいた、煩悩スライムである!
『オイ……』
「……!? 誰の声だ」
『ワレダ……オマエノマエニイル……』
「うわああシャベッタアアア」
恐怖に叫び逃げ出そうとする男性にスライムは『マァマテマテ』と呼び止める。
『オマエタチモ……コイビトノハダカガ……ミタクハナイカ……?』
「えっ!?」
『ガードガカタクナル……フユダカラコソ……ミタイトハオモワナイカ……?』
「……!」
逃げ惑っていた男たちが、皆一様に思い浮かべるものは共通している。
そう。恋人の、魅惑の裸体である!
すっぽんぽんでは情緒がない。先程スライムに取り込まれ溶かされ打ちひしがれている傍らの男性のように、大事なところには衣類が少し残っているほうがいい。
見えそうで見えない方がいい。その方が萌えるし、色々と問題もないのである!
『ククク……カカッタナ……!』
「なに!? 大きくなってるぞ、こいつ!」
『ソウ……ワレハ、オマエタチノボンノウニコオウシ、チカラヲマスノダ……!』
ズゴゴゴ……! 見る見る内に、男たちのスケベ心に反応したスライムは大きくなっていく。
駆けつけたウィンクルムが一太刀浴びせたが、分裂しただけで消滅はしない。
煩悩が残っている限り、スライムは増え続け、罪なき人間たちを取り込み続けるだろう。
『アイノチカラヲ、ミナモトトスルトスル、ウィンクルム……ククッ、カッコウノエモノダ……!』
スライムの標的が、ウィンクルム達に絞られた――!
解説
・概要
排水溝に溜まった微生物に乗り移る『冬だから嫁のガード固くて露出が少ないのが切ないので脱がしたい』っていう邪念が篭ったスライムを倒してください。
・敵:デミ・スライム(スタート時体長二メートル)……参加ウィンクルム一組につき一体
黒っぽくて透き通ってます。RPGの大魔王みたいなカタコトで割と喋ります。
物理的な攻撃はあまりダメージになりません。ウィンクルムとデミ・オーガなのでトランスしていればスキルは通りますが斬られると分裂して増えたりします。粘液に触れても服は溶けます。飛散すると穴だらけになったりします。この攻撃は通るの? みたいなものは余程でなければ通ります。装備は戦闘の都合上溶けませんが下地の服だけ溶けます。
服溶かす以外の事は何もしません。レベルとしてはデミ・ワイルドドッグなんかと同じくらい。
申請で貰える洗剤が唯一決定的なダメージになるので、掛けると徐々に小さくなりますがスライムも死にたくないので抵抗して襲い掛かってきます。
煩悩に反応して大きくなります。口車に乗せられたりやらしい事考えると苦戦します。
・フィールド
市街地の一角
・事後
風邪ひいて寝込むとかそういう事後プランがあればどうぞ。傷心を癒すための特休がもらえます。
・戦闘パートは全体描写になりますが戦闘後は個別になったりならなかったりです。
ゲームマスターより
最早恒例になったアイツです。
去年冬に出した脱がしたがるスライムのアレに『煩悩による肥大化』というステータスが加わってます。
我が家は今年も懲りず大掃除が終わっておりません。
体は寒く、心は熱くなりそうなプランお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
また出たのかこいつら。長引くと面倒だ(主に男の本能的なイミで!)。 敵に遭遇したら直ぐトランス→ハイトランス。 ガードが堅くなる冬にこそ脱がしたいというその主張、一理ある。 内心頷こう。 (これが男の本能的に以下略、というワケで) しかし自分で剥いでこその歓びなのだ! 「この楽しみをスライムに獲られるのは面白くないからな!」 はっ。敵が元気になったかも。 仕方ねーじゃん、本能には逆らえないってゆーか。 よし、やっぱ本気出す。 こんなうらやまけしからん奴はさっさと駆除しなくては。 この寒空の下、ラキアが半裸にされて風邪でも引いたらどーすんだ。 ちゃっちゃと敵を斬って倒すぜ。 「これが俺の誠意だ!」 自分は半裸でも平気。 |
瑞樹(共夜)
カッパ、マスク着用。 両ポケットに粉洗剤爆弾をいっぱいに詰めて、それを投げて攻撃する。 滑らないように足元注意! 当初の作戦では僕が引き付けて攻撃してる間をぬって共夜が援護射撃…のはずだったんだけどなんか共夜がガンガン前線で撃ちまくってるし僕が援護にまわるかなぁ スライムの誘いに対して 「いつもお風呂一緒に入ってるから別に溶かしてまで見る必要ない!」っていったらなんかちょっと膨らんだ? きょーちゃん、一体何考えたの? えっちぃ感じよりも僕、無意識にエロい方が好み それに着こんでるからこそ出てる手足の細さが映えるんであって そこのところ分かってないなぁこのスライム 倒し終わったら今度こそ風邪ひかないように早めに撤収 |
テオドア・バークリー(ハルト)
あー…うん、知ってた、何となくまた出そうな気はしてた。 飲まれた時の緊急脱出用に、布に洗剤を包んだ洗剤爆弾を今年も手元に用意しておく。 こちらの感情に比例して大きくなるっていう点が心配かな…大丈夫かな、ハル。 ハル!普通に会話しないで貰える!? おかげでさっきから一向に減らないんだけど! このままじゃこっちのスライム以外にも悪影響が… 埒が明かないし、こうなったら! …あのさ、ハル。 俺、真剣な表情して格好良く戦ってるハルの姿、好きだよ。 …スライムが肥大化しなくなってきた。 ハルは一つのことしか考えられないタイプだから効果テキメンだったな。 おかえり。 大丈夫、ちゃんと見てたって。 …いつもこうならいいのになぁ。 |
俊・ブルックス(アルマ・グラキエス)
だから駄目に決まってんだろ着てください! 例によって着替えと毛布を用意し隠しておく 捕まった時用と投擲用に袋に詰めた洗剤も用意 レインコート着用し洗剤塗る 装備品の黒外套にも塗りトランスして準備完了 確固撃破の方針でいこう 殺気感知で敵を捜索 前衛のアルマの背後から洗剤を敵に噴射 足りなくなったら少しの間敵を任せて補充 替えの洗面器に洗剤注いで声かけて渡す 何故洗面器かって? 攻撃されたり粘液飛び散った時の緊急回避用だ アルマ100%放送事故!なんてことになったらまずいからな 戦闘中は何とかこれで凌いでもらうしかない ってこっち来た!? なんで俺の方ばっかりー!? 前回と同じ手(敵体内で洗剤ぶちまけ)を使うしかないのか…! |
歩隆 翠雨(王生 那音)
洗剤を申請し所持 戦闘開始時、即トランス 那音に引き付けて貰い、スライムを攻撃 液体洗剤を水で薄めシャボン玉液を作っておき、ストローで吹きシャボン玉の煙幕…水で薄めてるので目くらまし フェアリーボウの矢じりに液体洗剤をたっぷり付けて射る 那音の投げた洗剤入り袋を射抜き、スライムに洗剤を掛けたい スライムの甘言にはきっぱりこう返す 恋人の裸を公衆の面前に晒したいと思う訳ないだろ! (見たくないと言ったら嘘になる…見る機会がない訳じゃないけど…何となく気恥ずかしくて見れないし…いやいや、誰かに見られるのは絶対NO!) 那音を粘液攻撃から身を挺して守る 那音が剥かれるよりマシだと思って 事後風邪で寝込む 那音の看病が嬉しい |
●
「服だけを溶かすとは、面妖なオーガめ」
忌々しげに吐き捨てて、フンと鼻を鳴らすのは精霊、アルマ・グラキエス。
用意した着替えと毛布をスライムに見つからないよう隠しつつ、アルマの言葉に苦笑いを返すのは神人の俊・ブルックスだ。
「こんなの普通の人間には太刀打ち出来ないしなぁ」
「ならば最初から服など着なければい」
「だから駄目に決まってんだろ着てください!」
「……チッ」
俊の冴え渡るツッコミは、相手が別精霊の兄であっても変わらないらしい。
やたらと脱ぎたがるアルマに一抹の不安を隠せないまま、はああ、とため息を吐き出す。
洗剤を塗りたくった装備品、及びレインコートを──アルマは気持ち程度だが──、一応こちらも着用。
投擲用の袋詰め洗剤を装備しトランスを終えれば、こちらの準備は完了だ。
『フハハ! ワレハナンドデモヨミガエル!』
ずもおぉん! と効果音まで聞こえてきそうな威勢を張り立ち塞がる巨大なスケベの塊。
菌が繁殖し実体を持てるこの季節は、男を脱がせたい彼らにとって絶好のチャンスなのである。
「あー……うん、知ってた。何となくまた出そうな気はしてた」
呆れたような半眼で現場に立つ神人、テオドア・バークリー。
手元には、飲まれた時の緊急脱出用にと、布に洗剤を包んだ洗剤爆弾を今年も用意してある。
こういった相手はもう慣れっこなので対策も心構えも万全であるが、全く万全でないのが隣で瞳をキラキラさせているハルトである。
「こっちの感情に比例して大きくなるっていう点だけが心配だ……大丈夫かな、ハル」
「俺は脱がされようと寒いこと以外は別に何ともねーや!」
「そういう事を心配してるんじゃない」
ぴしゃりと言い放たれテオくんつめたーいさむーいなんてぼやきながらゴーグルを装着する。
洗剤を扱っているから、という建前だが、どちらかと言うとテオドアからの目潰しツッコミ対策である。
同じく駆けつけた神人、歩隆 翠雨と王生 那音は洗剤を申請し、剣と盾に塗りコーティングする。
去年もスライムと戦った瑞樹と共夜はカッパとマスクを予め着用済みだ。
両ポケットには粉洗剤爆弾をいっぱいに詰めこんでいるためパンパンに膨らんで、なんとも可愛らしい出で立ちになっている。
「きょーちゃん、今日もがんばろうね!」
「ああ……今年もやるのかぁ……」
げんなりと項垂れて、メイン武器のスプレー型洗剤を億劫そうに構えた。
「また出たのかこいつら。長引くと面倒だぜ」
主に男の本能的なイミで!と付け足し準備運動に励むセイリュー・グラシアの隣で、他と同じくスプレータイプの洗剤を用意したのは相方のラキア・ジェイドバイン。
空気中に散布するタイプのものなら距離があっても効果を期待できそうだ。
「変なこと考えちゃ駄目だよセイリュー。この寒空の下で剥かれるのは洒落にならないから」
念を押しつつトランスからハイトランスまでを手早く済ませ、前衛を任せるセイリューへ『シャイニングスピア』を付与する。
任せろ! と駆け出したパートナーに、本当に大丈夫かなぁと頬を掻きつつ、仲間達それぞれに向かったスライムが彼らに気を取られている隙に、命中率低下を狙った『シャインスパーク』をこっそり付与したのち、セイリューの後を追った。
●
「翠雨さん、無理はしないように」
トランスからの『コンフェイトドライブ』。
こういう仕様なのだとは理解していても、頭を撫でられるという行為に若干の照れを隠せず、翠雨は赤い顔を隠すように前線へ駆ける。
「こっちだスライム。お前たちのような下品な輩は、綺麗な顔が好みなんだろう?」
翠雨を見送った那音が挑発するように『アプローチⅡ』を使用し、そちらに意識を取られている隙を突いて翠雨が背後から洗剤付きの『フェアリーボウ』でスライムを射る!
『オノレ、オマエトテコイビトノハダカガミタクハナイノカ!?』
微量なダメージに呻いたスライムが翠雨めがけて液体を吐き出し、間一髪で避けつつ言い返す。
「恋人の裸を公衆の面前に晒したいと思う訳ないだろ!」
『ミタクナイノカ!?』
「ない! ……っていったら、う、嘘になる、けどぉ……!」
見る機会がない訳でもないけど、何となく気恥ずかしくて見れないし、いやいやでも誰かに見られるのは……! という内心の戸惑いをスライムは見逃さない。僅かな揺らぎですらエネルギーに変えて、矢じりで食らった僅かなダメージを回復した。
『ククッ、オマエモショセンハオトコダ、パートナーノラタイニキョウミガアルダロウ!』
気を良くしたスライムは那音にも揺さぶりをかけるが、彼は一切動じない。
「翠雨さんの裸を見ていいのは、私だけなので」
「那音ーっ!?」
ついでに茹で蛸状態の翠雨の声にも動じない。何とも堂々たる返しである。
「こんな場所で、しかも他の誰かの手で……なんて、許すとでも?」
『オマエタチハ、コイビトドウシデハナイノカ!?』
「いいや。だからこそ、するなら二人きりの時に俺自身の手で脱がせ」
「ストーップストップ待って俺が無理耐えられないーっ!」
言葉を遮るように叫ぶ翠雨には「冗談だよ那音さん」とにこやかに笑って――勿論全て本音だが――不意に、洗剤の詰まった袋を勢い良く上空へと投げ飛ばした。
『バカメ! ドコヲネラッテ――』
翠雨がキリキリと引いた矢を勢いよく放ち、見事にスライムの真上で洗剤袋を射抜いた!
『グオオッ!』
上空から大量に降りかかった液体洗剤に、ジュワアアッ、と音を立ててスライムが縮む。
息の合った連携プレーに二人は目を見合わせ頷きあった。
「くらえぇ煩悩スライムーッッ!」
『ウオオオオッ!』
瑞樹の援護に入り後衛からスプレー型洗剤を二刀流の要領でガンガン撃ちまくっていた共夜であったが。
同類の敵対策で、履いていたパンツをばらされ恥ずかしい目に遭った、という過去の忌々しい記憶を思い起こしたら、無性にむしゃくしゃしてきた。
『モブッ、ヤメッ、チョット、コッチノハナシヲ』
「お前らの都合なんぞ知るかー!!」
『ブモオオオ!』
当初の作戦では瑞樹が引きつける間にプレストガンナーである共夜が合間を縫って援護射撃――のはずだったのだが。
「なんかきょーちゃんが前線でガンガン撃ちまくってるし、僕が援護にまわるかなぁ……」
放っておいても一人で倒してしまいそうな勢いのパートナーに、のんびりとマイペースにポコポコと洗剤を投げつけ、地道にダメージを削っていく。
が、そんな瑞樹に気付いたスライムは甘言を向ける標的を変更した。
『オマエハ、ショタノハダカガ、ミタクナイノカ!』
「いつもお風呂で見てるから、溶かしてまで見る必要ない……ってあれ、ちょっと膨らんだね?」
肥大化するスライムの傍らで、のぼせたような表情の共夜が視線を泳がせている。
湯上りに、長い髪の隙間からうなじが見えている瑞樹の姿を、うっかり思い出してしまったらしい。
「あれちょっとエロ……というか、いけない感じ出てるよな……」
「きょーちゃん、一体なに考えたの?」
「なっ、なんでもねぇよ!?」
漫才のような掛け合いにスライムの肥大化が止まり、ぐぬぬと歯ぎしりするように、敵はもちゃもちゃと口を動かしていた。
「スプレーで噴射などまどろっこしい!男ならば、こうだ!」
頭から洗剤をひっかぶり、敵対するスライムに洗剤を張った洗面器をぶちまけるべく突撃していく、なんとも漢らしい精霊アルマ。
いってらっしゃーい、と見送る俊を狙われないよう、前線に出て壁になるのが彼の役目である。
今回はそれぞれ五体のスライムを各個撃破の方針だ。
俊はアルマの後ろにつき、地道に、確実にスプレー噴射でダメージを蓄積させていくが、それよりも最早服とか関係ないアルマが洗面器ごと大量にぶっかけてくれる方が確実に効く。なんといってもこのペア、煩悩の付け入る隙がないのである。
「替えの洗剤だぜ、アルマ!」
「うむ! 食らうがいい!」
『モブウウ!』
アルマの洗剤が切れたら補充し渡すという、古典的な火消しのごとき洗面器の連携プレーで、手早くダメージを与えていった。
(ガードが硬くなる冬にこそ脱がせたいというその主張、一理ある!)
内心うんうんと頷いているセイリューだが煩悩ならばこの場においてはダダ漏れも同然である。
ずもっ、と微妙に大きくなったスライムに、ラキアがジト目でセイリューを見遣った。
「セイリュー……」
「ハッ、スライムが元気になったかも」
「なったんだよ」
「仕方ねーじゃん、本能には逆らえないっていうか?」
『ククク、キサマハナカナカ、ミゴタエガアル……』
「男の本能だからな! だがしかし、だからこそ!」
大刀を抜き、ズバッ! と一閃、スライムを斬りつける。一刀両断されたスライムが分裂した所へ、ラキアがすかさず洗剤を吹き付け攻撃する。
「自分で剥いてこその歓びを、スライムなんかに獲られるのは面白くないからな!」
「セイリュー、君何言ってるの」
かっこいいことを言っているように見えるが相方のラキアは呆れ顔で「本能のせいにするんじゃない!」とプンプンしている。
「それは本能じゃなくてただの煩悩だよっ。ほらもうこいつら元気になっちゃったじゃない!」
ぴったんぴったんと飛び回るスライムが順調にセイリューの服を溶かしていくが毎度のことながら彼の健全な精神は微動だにしない。ラキアとしても見慣れてしまったし、むしろ自ら全裸を押し通して来ることもあるし、と考えるとセイリューにとっては無問題なのだろうが、ラキアに向かって来るスライムに関しては放置するわけにはいかない。
「セイリューがこんな感じだからって、こっち来なくていいんだよスライム!」
ラキアの着衣が一部じゅわあっと溶かされた事で、セイリューのやる気スイッチもようやくオンになったようだ。
「よしやっぱ本気出す。こんなうらやまけしからん奴はさっさと駆除しないとな!」
『シャイニングスピア』の光輪を身にまとい、毅然とした態度で煩悩に立ち向かった。
「うーん。ガンガン洗剤ぶつけちゃいるけど、あんまり除去が進んでねーなぁ……」
「お前のせいだろバカハルトーッ!」
一方こちらはみょうちくりんな方向に苦戦しているテオドアとハルト。
戦闘開始時よりも何故かスライムは大きくなっているが、これといった攻撃はしてこないおかげで二人とも無事なのである――というのも。
「いや、ちゃんと理由は分かってるのよ? こいつらマジ話弾むわー、俺のツボとかめっちゃよく分かってるってゆーか……」
『オマエトハ、ハナシガアウヨウダ、アアイウタイプハツンデレナドトイッテ』
「それな! 強気な態度の裏の恥じらいとか最高に――」
「普通に会話しないで貰える!? おかげでさっきから一向に減らないんだけど!」
テオドアの正論に、しまったぁ! なんてわざとらしく頭を抱えるハルトとスライムは、会話にすっかり没頭して戦闘らしい戦闘をしておらず、一方的にテオドアが洗剤を噴射してはハルトの煩悩により回復させる悪循環だったのだ。一体どちらが味方なのか分からない。
三人――否、二人と一匹でずるずる続けているだけならば良いが、このままでは周囲のスライムにも悪影響が出る、と懸念したテオドアは意を決し、きっ! と顔を上げた。
「埒が明かないし、こうなったら!」
神妙に、武器を下ろしたテオドアが、スライム……ではなくハルトを見据えて不意に口を開いた。
「あのさ、ハル。俺、真剣な表情して格好良く戦ってるハルの姿、好きだよ」
「えっ、テオくんそれマジで言ってる……!?」
『ナン……ダト……?』
スライムの肥大化が――止まった。
滅多にデレてくれない相方の甘言にハルトは意識を奪われている。
心中で効果を確信したテオドアが更に言葉を続けた。
「ああ。かっこいい姿、本当にほんっっっとーにたまにしか見せてくれないけど……もっと見ていたいんだ。聞いてくれるよな?」
「……テオ、ちょっと離れてて、こいつら十分……いや、五分で終わらす」
ハルトは一つのことしか考えられないタイプだから効果はテキメンだな、と、テオドアの笑みが確信に変わった。
『コノウラギリモノ!』
「味方になった覚えはないぜ! どりゃああっ!」
普段あまり見る事のないガンナーとしての精霊が、威勢良く攻勢に転じた。
「……翠雨さんっ!?」
那音が目を見開いた先で、粘液を体中に浴びた翠雨がどさりと倒れこんだ。
じゅわああ、と音を立てて服が溶かされていく――那音の隙を突いたスライムの攻撃から、翠雨が身を挺し庇ったのである。
翠雨の負傷にいち早く気付いた仲間のラキアが『サンライズ』の効果を付与したことで、寒気に半裸を晒す事はなく済んだが、衣類が心もとないことには変わりない。
「どうして貴方は……!」
「那音が剥かれるより……マシだと思って……」
服を剥かれる以外のダメージはないが、駆け寄った那音が毛布を被せてやった。
「もっと自分を大切にしてくれ。……俺がやられるより、貴方が傷付く方が辛い」
「那音……」
ゆっくり立ち上がる那音を翠雨が見上げると、少しだけ困ったように苦笑して。
スライムを振り返ったその顔には、明確な怒りを灯していた。
「覚悟はいいか?」
繰り出される粘液攻撃にも怯まず、これまで後衛をつとめていた那音が単身突撃し、スライムを斬り付けた!
「えっちぃ感じよりも僕、無意識にエロい方が好み!」
こちらも攻勢に打って出る瑞樹。
昨年の教訓もあり、足もとは滑らないよう万全を期している。
ポケットに詰め込んだ洗剤爆弾を次々に投げ付け、少しずつではあるが序盤から与え続けたダメージにより、徐々にスライムが小さくなってきた。
「それに、着込んでるからこそ出てる手足の細さが映えるんであって、そこのところ分かってないなぁこのスライム」
ちっちっち、と人差し指を左右に揺らし肩を竦めて見せる瑞樹にスライムはたじたじだ。瑞樹の嗜好は些かスライムには玄人過ぎて、ついていけなかったらしい。
『サッキ、ウナジノコトヲカンガエタ、オマエハドウダ! カワイイオトコノコノハダカヲ、ミタイトハオモワナイノカ!』
往生際悪く共夜にも揺さぶりをかけようとするが、ぱんつの二の舞を食らいたくない彼は一切聞く耳を持たない。
「正直、ここで剥かれても生肌だと喜ぶ前に風邪ひきそうで嬉しくないんだよッ。それに――」
『モブウウッ』
二丁のスプレー型洗剤から繰り出される銃撃に抗うすべなく縮んでいくスライム。
最後は瑞樹の洗剤爆弾と、共夜のスプレー洗剤による連続攻撃が見事に決まった!
「それがお前に提供されたものだと考えたら、もっと嬉しくなぁい!」
『グオオオッ!!』
やがて反撃の余力も失った粘液の固まりはしおしおと小さくなり、やがて水の塊となって。
モブ……モブ……と懸命に排水溝へ逃げようとするそれに向け、ちょこんとしゃがんだ瑞樹が「えい」と洗剤を振りかけて、一滴残らず殲滅した。
「破廉恥なオーガめ、そんなに裸が見たいか!」
肉体を武器に煩悩へと立ち向かうアルマが不意に洗面器を投げ捨て、ムキィッ! とボディビルダーよろしくポーズを取ったら、鎧から股間の危ない所が見えそうになったので、すかさず俊が洗面器を手に滑り込んだ。
バケツではなく洗面器を持ち込んだ理由はまさにこの瞬間の為だった。「アルマ100%放送事故!なんてことになったらまずいからな……」とブツブツ言っていた俊に瑞樹が「なんのはなし?」と首を傾げていたのはつい先ほどである。
「見たいならば好きなだけ見るがいい! この俺の肉体美……おい何故逃げる!?」
別の意味で効果はテキメンだったらしく、スライムは大きく距離を取る。
『キサマ、ハジライトイウモノガナイノカ!』
「恥ずかしがっている方がいいのか? ほとほと呆れた奴だ」
『グヌゥ、ナラバ――オマエダ!』
「うえっ!?」
最終手段に出たスライムは、アルマの股間を隠す事に気を取られていた俊へと標的を変更した。
「なんで俺の方ばっかりーっ!」
俊を追い回すスライムに、アルマは腕をコキコキと鳴らし狙いを定める。
「あれは大事な弟の嫁だ、もしひん剥いたりすれば貴様らは今より恐ろしい目にあうぞ。そうなるよりは――」
駆け出したアルマの手には洗面器になみなみの洗剤が注がれている。
「俺が一思いに、介錯してやろうというものだ!」
『ブオオオ!!』
俊もろとも洗剤をひっかぶったスライムには今度こそトドメとなり、小さく縮みやがて水の塊となった。
「はは、助かったぜ……前回と同じ手を使うしかないかと思ってた……」
敵の体内で洗剤をぶちまけて大ダメージを与えたあの手法は、我が身を犠牲にするので出来るだけ使いたくない。
その前に倒せて良かったと思うも、洗剤をひっかぶったことで体が冷えて、ぶえっくしゅ! と一つくしゃみを吐き出した俊は、アルマを連れて『サンライズ』の効果範囲内へ急いだ。
「ああもう、この服お気に入りだったのにぃ!」
引き続きこちらもラキアを追い回すスライムが、スプレー洗剤による反撃に我が身をけずりながらも、着実に綺麗な方の精霊を脱がしていった。
一点モノの衣類をだめにされたラキアが腹を立て、洗剤を無慈悲に噴射し続ける。
『アトチョット……! アトチョットデミエル……!』
「そうはさせるか!」
『ブァッ!?』
トドメの粘液攻撃がラキアに向いたその時、セイリューが身を挺して間に割り込んだ!
瞬間、衣類が勢い良く溶けて半裸となるが彼はまったく動じない。そんな彼の心意気にスライムもしおしおと勢いをなくしていく。
「ラキアが風邪でも引いたらどーすんだ。これが、俺の誠意だーっ!」
『モブウウウ~ッ!!』
シャイニングスピアの光輪と斬撃により、瞬く間に細切れにされたスライムへ、無慈悲に洗剤が噴射され。
やがて最後の一滴すらラキアは見逃さず、ぷしゅっと吹きかけられたそれに、一滴残らず殲滅された。
「終わったな……」
「ああ、終わったぜ……」
硝煙をふうっと吹き消し、同じく動かなくなったスライムに洗剤を噴射し片した那音とハルトも、仲間達の所へ無事帰還した。
テオドアは(扱いやすくなってきたな……)と胸中で呟き、翠雨はパートナーの雄姿に目を輝かせていた。
●
戦闘後、それぞれ残った汚れを綺麗に片して。
住民らに感謝されたあと、瑞樹と共夜は「今度こそ風邪ひかないよーに!」と早めに撤収を決めたおかげで、衣類も無事、体調も万全のまま帰路へつく事に成功した。
お気に入りの服がすっかりだめになってしまったラキアは「後で服買ってね」と、煩悩を幾らか助長させたセイリューにねだっていた。
一方で鎧以外全裸という、色々と問題のある出で立ちのアルマはそのまま帰ろうとしたものの「捕まるから!」と俊に毛布を渡されて渋々体に巻き付けていた。
「テオ君、ただいまー!」
「おう、おかえり」
意気揚々とパートナーの元へ帰還したハルトを「お疲れさま」とテオドアが労えば、先ほど鼓舞された言葉を思い出したらしく、大型犬のようにじゃれついた。
「ねーねーテオ君見てた!? なんか戦ってる間の記憶薄いけど俺の戦い見てたー!?」
「大丈夫、ちゃんと見てたって」
「へへっ、テオ君に誉められた~」
にかっとはにかんで、それはもう上機嫌なハルトを見ているとテオドアも口元が自然と綻ぶ。
いつもこうならいいのになぁ、と心中でだけ呟いて、パートナーの頭をぽんぽんと撫でてやった。
粘液をまともに浴びた翠雨は『サンライズ』の恩恵もあり大事には至らなかったものの、普段から外出の少ない彼には免疫のなさもあったようで、自宅に帰るなり熱を出していた。
りんごをうさぎに作り変える相方に、布団から顔半分を出して謝罪すれば。
「貴方が自分を大事にしないなら、俺がその分大事にする」
と、てらいなく気障な言葉が帰ってくるから、余計に熱が上がりそうだった。
それでも彼の優しさが嬉しくて「ありがとう」と素直に告げ、差し出されたりんごを一口ご機嫌に頬張った。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 12月26日 |
出発日 | 01月06日 00:00 |
予定納品日 | 01月16日 |
参加者
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 瑞樹(共夜)
- テオドア・バークリー(ハルト)
- 俊・ブルックス(アルマ・グラキエス)
- 歩隆 翠雨(王生 那音)
会議室
-
2018/01/05-23:48
挨拶が遅れてごめんよー、セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
夏は何度か参加したが冬にもいるんだな。
で、また出たのか。ははは。今回もよろしく頼むぜ。
敵、各個撃破了解。その方向でプランは提出済みだ。
負傷者は必要に応じラキアから回復スキルとばすので、そこは安心して欲しい。
ただし、精神的ダメージはその限りではないので
パートナーに後でしっかり癒してもらってくれ!
では、皆で頑張ろう! -
2018/01/05-23:41
-
2018/01/05-23:41
こちらも前回宣言した内容で、各個撃破な方針でプラン提出済みだ。
頑張ろうな! -
2018/01/05-22:52
こっちも各個撃破方針でプラン提出おわり。
皆気を付けてな、無事を祈る。 -
2018/01/05-21:33
そろそろ出発だが、他に何か決めておくことややりたいこととかないか?
特になければ確固撃破の方針でこのままいくぜ。
こちらのプランは提出済みだ。
それじゃあ、健闘を祈る。 -
2018/01/03-22:35
歩隆 翠雨だ。
相棒はロイヤルナイトの那音。
皆、よろしくな!
各自撃破、了解だ。
俺達も以前の報告書には目を通したぜ…何とも面妖なオーガなんだな…(汗)
兎に角、液体洗剤を当てていこうと思う。
那音のスキルで引き付けて貰って、俺が攻撃する方向で考えてる。
うん、何とかなるなる!
風邪ひかないように頑張ろうな! -
2018/01/02-14:37
瑞樹とPGの共夜です!今年もお願いします!
今度は風邪ひかないように頑張るぞ
各自撃破でおっけーです。
確実に自分の分は殺ります、前よりはコントロールよくなってる(気がする)し
いかがわしい…はよくわかんないけど脱いでほしいなぁって思わなければいいんだよね?
大丈夫、大丈夫。余裕、余裕(そういってなんかお前やらかしそうで怖い By共夜)
共夜「今年も出たのかよ、これ…
前回の恨みで噴射回数多くなってもしょうがないよな?
そのために洗剤爆弾多めに作って、持ち替えの時のロスを…(ぶつぶつ)
あっ、あとは…剥かれる服多くするのと洗剤汚れから守る意味でカッパ準備しとかないと!
瑞樹の裸?…正直想像するとなんかいけない感というか罪悪感ひどくてできない…
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2018/01/01-20:53
テオドアとPGのハルトです、今年もよろしくお願いします…
うん、何かもうそういう固定イベントかなってもう諦めてる。
…諦めてる。
一組一体づつ処理することになりそうかな。
いかがわしい妄想…格好の餌がここにいるわけなんだけど(隣をチラリ)
でかくなった分は本人にきちんと処理させるとして、
少し思い付いたことがあるからそれほど皆のところに被害は及ばない…はず、
というよりさせない。
以前洗剤爆弾はかなり効いてたんで今年も積極的に使っていこうと思う。
ハルト「あの!俺信用なさすぎやしませんかね!?
確かにテオ君被害にあったら小一時間ほどガン見はするかもしれないけどね!
…あっ、今年も目潰し対策にゴーグルとマスクもってかないと」 -
2017/12/31-13:39
俊・ブルックスだ。よろしく。
去年もあったなこれ…で、今回のパートナーは…
アルマ:
HBのアルマ・グラキエスだ。
いつも弟が世話になっている。
またあれにこんなふざけた依頼を受けさせるわけにはいかぬゆえ、参加した。
よろしく頼む。
さて、去年の報告書は読ませてもらった。
敵の粘液等は服だけを溶かし、装備や身体には影響しない、と。
ならば俺に案がある。
服を溶かすのが奴等の狙いなら、そもそも最初から服など着なければ
俊:
駄目に決まってんだろっ!?
え、えーっと、だいたいの方針は去年と同じく液体洗剤噴射で確固撃破
って感じでいいかな?
袋に詰めた洗剤爆弾とか、着替えや毛布の用意もあるといいな。
今回新たに気をつけるのは、いかがわしい妄想をしないこと…だな。
あ、アルマは裸でも平気らしいんで、頭から洗剤かぶって突撃するそうだ。