おやすみデート!(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「――あ、そういえば」

 二人でソファに腰かけて、本を見たりテレビを見たりと、ゆっくり時間を過ごしていた秋のとある日。
 不意に口を開いた神人に、精霊が首を傾げる。

「今度の平日、学校が代休でバイトも休みなの。ほら、カレンダーのまるつけてるとこ」
「へぇ」
「……」

 へえ、じゃないでしょ。そんな顔で、彼女はじとりと精霊を睨む。
 返答が気に食わなかったのだろうか……? 思考して、ああ、と彼女の視線の理由に思い至るが、そうだとすればこの反応はとても可愛らしい。

「俺も仕事休みなの、覚えててくれたのか?」
「……別に。あわせて取ったわけじゃないけど」

 唇を尖らせてしまった彼女の頭をぽんぽんと撫でてご機嫌を取る。
 ウィンクルムの依頼はともかく、普段の生活スタイルが違うと、ゆっくり二人きりで過ごせる時間はそうそうないものだ。

「気付かなくて悪かったよ。そうだな、まる一日オフなら、二人でどっか出かけようか」

 ショッピングでもいいし、映画館でもいいし。紅葉を見に観光地へ行くのもいい。
 普段あまり購入しないタウン情報誌なんてどうして買ってるのかと思ったら、神人なりのデートのお誘いであったようだ。
 季節は旅行シーズン真っ盛り。遊びに行ける場所なんていくらでもある。
 改めて、二人で一日デート。さあどう過ごそうか。

解説

▼デートしましょう!

冒頭は一例です。理由はなんでも構わないので、都合よく二人で取れたお休みを思うように過ごしてください。
以下は行き先例一覧。

1.一日中遊べるショッピングモール
 出来たばかりの大型商業施設。ショッピング、ゲーセン、映画館、飲食施設、何でも揃っています。
 施設内の大きな本屋が読書の秋ということで、隣のコーヒーショップと提携して図書館を開いています。

2.オシャレなカフェと観光スポット巡り
 SNS映えする料理を撮ったり、オタクな街を巡ったり、肉まんたべたり、新しい店を開拓したりと、普段じっくり見る事の無い街中を散策して歩きます。

3.紅葉の綺麗な観光地
 山の奥地の紅葉秘境と呼ばれる渓谷が見頃を迎えています。渓流沿いに紅葉を鑑賞して細い洞窟を通り、奥で滝を見て帰ります。
 観光地まではバスで行くのも、運転できる方は自分で車を出すのもありです。

4.温泉デート
 寒くなってきたので、観光地にあるお宿の紅葉が見える露天風呂などでほっこり体を温めあいましょう。貸切の混浴もあります。
 旅館では料理も出ます。日帰りはバタバタするのでお泊りでも構いません。その場合描写は就寝までとなります。

5.レンタルボートでクルージング
 寒いのであえて海に行きましょう。海の真ん中で釣りや星空鑑賞などをして帰ります。
 ボートは自分で操縦してもいいですし、係の人にお願いしても。

・お出かけの用意で300jr消費しました。

行き先は一例です。番号表記で大丈夫です。
一日で巡れる範囲なら、朝はクルージング行って昼からモール…のように混ぜてもいいですし、まったく新しいデートプランをくださっても構いません。

ゲームマスターより

一気に冷え込んできましたがまだまだ読書に食欲に紅葉の秋です。
やりたい事は沢山有るんですが、プレイヤーさんによって違うだろうなと思いこういう形になりました。
男性側の焼き直しになってしまいますが、よければそれぞれの秋の一日を自由にお過ごしください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  3、紅葉を見に
シリウスが乗ってきたバイクに目を丸く
思ったより大きいのね
だって そういえば乗せてもらったことなかったなって…
失礼ね 落ちたりしないもん
唇を尖らせて怒った顔をするも 渡されたヘルメットにぱっと笑顔

思ったよりスピードが出るのに思わず声を上げてぎゅっと抱きつく
…背中、広いんだ…
改めて認識し 胸がどきどき
促され周りを見て 赤く染まった景色に歓声

ありがとうシリウス 連れてきてくれて
伸ばされた大きな手に はにかんだ笑顔

手を繋いで奥の滝へ
青い水に木々が鮮やかに
魅入られたように滝に近づこうとして 足を滑らせる
きゃ…!
ーえ、あ、ごめんなさい
慌てて謝る
燃える木々と 空と 彼の黒い髪と翡翠の目がとても綺麗で
目が離せない


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  1

あれっ、今日は人と会うから出かけるって言ってませんでしたっけ?
私も今日はお休みでいいって連絡が。
あのっ、もし嫌でなければ一緒に出掛けませんかっ!

最近グレンにはどきどきさせられてばっかりですし、今日こそは逆にどきっとさせますよー!

歩いていける距離でよかったです。
せっかくなので道中おもいきって手、繋いじゃいましょう!
人の目さえなければ、私からだってこのぐらいのことは…
うーん…普段とあまり反応が変わった様子がないですね。

ここは雑誌を読んで勉強するしか!
手当たり次第それっぽい雑誌を読ん…書いてることがよく分かりません…
ああ!まだ読んでる途中なのに!
グレンがそう言うのなら…このままでもいいんでしょうか


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
 
あんたさ、
……相変わらず寒がりね
まあ、気持ちは分からなくもないけど
……あ。ねえグルナ
空も、見てみなさいよ

ええ、そうでしょう?
……この間のこと、訊いても良い?
あんたが口を滑らせた例の好きな人(EP44
ただの興味よ
あんたがどんな人が好きなのか、知りたいなあ、なんて(悪戯っぽく微笑む

精霊の話を聞いて、少し驚いた
へえ……そう、可愛いのね
なにそれ。まだ告白しないつもり?
……まあ、あんたの優しさがあれば、大丈夫でしょ
優しいわよ。パートナーの私が言うんだから
けど、あんたに好かれる子が羨ましく感じるのは、なぜかしら
腕を掴まれてびっくり
えっ? な、なによ……
(なんだったの、今の)


マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
  お呼び出しだ
紅茶とお茶請をお持ちして彼の執務室へ
お疲れなのではないですか?
精霊の体力を侮って貰っては困るね、と余裕の笑みを見せて下さるので追求せず
「はい、明日を楽しみにしております」

翌日
行き先は紅葉回廊が美しい場所(詳細お任せ)
先日約束した交換読書の朗読会をする事に

紅葉の見事さに感嘆の声を上げて歩く
しばらく堪能してから外れのベンチへ
いよいよ…ドキドキする
だってこの美しいお顔であのセリフを囁かれたら私死んでしまうかも
彼は私の心中をとうにご存知だ だってお顔が悪戯っ子のよう
(萌死の)覚悟は出来ております キリ
声にならない悲鳴と悶えで無事萌え死に

その後はずっとふわふわした一日でした

はい 幸せです


鬼灯・千翡露(スマラグド)
  4へ

(しっかりバスタオル装備)
ひゃー、秋の風がしみるねえ
早くお湯に浸かろ
……待って待ってラグ君そんなに肩押さないで
(肩どころか口まで沈められそうになってるので少し抵抗)

……あはは、ラグ君は過保護だねえ
どっちかって言うと私がしっかりしないとだと思うんだけどな
年上だし、ラグ君も美人さんだしね

其処まで力説しなくても……誰も聞いてないんだし(苦笑)
それに、私はちゃんと解ってるからね
ラグ君は弟分じゃなくて、ちゃんと大切な人

……のぼせちゃったね! 上がろうか!

(夕食後の部屋にて)
料理も美味しかったし、お部屋も綺麗だし
紅葉も見れてあったまったし最高の旅行だったね
えへへ、また行こうね

それじゃあ、おやすみなさい



「……さっみぃ」
 ボートを操縦しつつ鼻を鳴らして、呟きを秋風に流したのは精霊のグルナ・カリエンテ。
 客席に行儀よく座って、なびく風を片手でおさえる神人、シャルティが「あんたさ」と呆れたように口火を切った。
「……相変わらず寒がりね」
「ああ。寒いのはいつまで経っても慣れねぇ」
 答えつつ、ぶるりと身を震わせれば、気持ちは分からなくもないけど、とコートの襟を正した彼女が、ふと空を見上げる。
「ねえ、空も見てみなさいよ」
「……空?」
 神人に促されるまま見上げれば、黒に染まる海色ばかり眺めていて気づかなかった、満天の星空が視界いっぱいに広がり、思わず頰を緩ませた。
「悪くねえな。こういうのも」
「そうでしょう? 綺麗だわ……」
 目を細め、しばらく夜の静けさに瞬く星たちを眺めていた二人だったが。
 思い出した様に、シャルティが口を開いた。
「……この間のこと、訊いても良い?」
 思考を一通り巡らせるも何の話か理解できず、グルナは瞳を丸く瞬かせる。
「なんだよ、この間のことって」
「……あんたが口を滑らせた例の好きな人」
「――んなっ!?」
 想定外の質問に思わず声がひっくり返った。
 表情を取り繕って「なん、なんでだよ……」とカミカミに言葉を絞り出せば「ただの興味よ」と淡々とした答えが返る。
「あんたがどんな人を好きなのか、知りたいなあ、なんて」
 悪戯っ子のような微笑みに、心音が落ち着かない。
「どんなヤツ、か……」
 目の前に居るよ、と言えてしまえたらどんなに良いだろうか。
 小首を傾げる想い人を目の前にすると簡素な言葉一つ口に出せない。
「最初はただ、ツンツンしたヤツだと思ってた。気はつえーし、素直じゃねぇし……」
「へえ……」
「けど、女らしい所や弱い所もあるって……かっ、かわいい、ヤツ! なんだって、わかったから……」
 赤い頰を自覚しては、半ばヤケクソになりながら、グルナはまくしたてるように言葉を続ける。
 ひとしきり言い終わったあと、改めて神人の顔色を伺えば、少し驚いた様に瞳を瞬かせていた。
「……そう、可愛いのね」
 解ける様な笑顔にまた心音を乱されるから、可愛くねえよ、と強がって、視線を海へ逸らした。
「けど、いつになったら告れるかねぇ……」
 ぼんやりと、遠い水面に浮かぶ月明かりを眺めてぼやいたら「なにそれ。まだ告白しないつもり?」と顔を覗き込んでくる。
「まだ、言う気はねえよ。覚悟とか、なんかそういう……大事だろ、タイミングって」
「……まあ、あんたの優しさがあれば、大丈夫でしょ」
「優しい、か?」
「優しいわよ。パートナーの私が言うんだから」
 男らしく自信持ちなさいよ、と背中を叩かれる。
 けれどもそれから、シャルティは少しだけ寂しそうに眉尻を下げ「でも」と切なげな表情を浮かべた。
「……あんたに好かれる子が、少し羨ましく感じるのは、何故かしら」
 パートナーを取られてしまうような、妙なもの寂しさ。そういう類の気持ちなのだろう、とシャルティは自身を納得させたけれど、グルナは瞳を見開く。
 僅かな期待に、かすかな希望に。
「なあ、それって――」
「えっ?」
 気付けばシャルティの細い腕を、グルナの手が掴んでいた。

 ――それって俺が好きって事なんじゃないのか。

 喉元までせり上がった言葉は結局口に出せないまま、耐えきれずシャルティが口火を切った。
「な、なによ……」
「……あ? い、いやっ」
 なんでもねえ。言って、らしくなく急いてしまった事を恥じるようにグルナが手を離しても、シャルティの気持ちは落ち着かないままだった。
(……なんだったの、今の……)
 掴まれた手首を片方の手できゅっと握って、何も言わず俯く。
 そんな反応にも、小さな光明が見えた気がして、グルナは空気を和ませるように「月がきれいだな」と言葉を投げかけた。


「ひゃー! 秋風が身にしみるねえ」
 バスタオルを着用して、露天風呂から沸き立つ湯気の中、ぶるりと体を震わせたのは鬼灯・千翡露。
 早くお風呂に浸かろう、と呼びかける先で、腰巻をしっかり巻き直しつつ目線を真摯に逸らし「……うん、確かに風は冷たい」と答えるのは精霊のスマラグドだ。
 二人が訪れて居るのは貸切の混浴温泉。邪な思いがなくとも、女性の半裸と言うだけで、男としては目のやり場に困るのである。
「けど、それ以上に目に毒だからね。ほらちゃんと肩まで浸かって!」
「……待って待ってラグ君そんなに肩押さないで」
 肩どころか、勢い余って口元まで沈められそうになって、流石に抵抗を見せる千翡露にハッとし、ごめん、と慌てて手を離した。
「まあでも貸切で良かったよ。ちひろはなまじ見てくれがいいから、他の人も居るところだと気が気じゃ無くなりそうだ」
 自分も肩まで湯に浸かりながら、スマラグドが言葉を続ける。
 千翡露の事を信じてない訳じゃないし、寧ろ信頼を預けているけれど――どうしても他の男の視線に晒すのだけは、と思う。
 そんな精霊の気持ちをよそに、肩にお湯をかけながら、千翡露はくすくすと穏やかに笑う。
「ラグ君は過保護だねえ。どっちかって言うと、私がしっかりしないとだと思うんだけどな」
 年上だし、ラグ君も美人さんだしね、と続いた言葉に、スマラグドはふと「御兄弟で旅行ですか?」と聞かれた事を思い出して、不服そうに唇をひき結んだ。
「……姉弟に見られたのが解せない」
「え?」
「旅館についたとき」
「ああ」
 一度は瞳を瞬かせて、旅館を訪れた際の、女将とのやり取りだと思い至る。
 お二人とも綺麗な顔立ちをしてらっしゃいます、と、女将は褒めたつもりで言ったのだ。自分だけでなく、パートナーの事も好意的に見てもらえるのは、別に悪い事じゃないと思うのだけれど、スマラグドとしてはその勘違いを許せないらしい。
「ちひろは! 恋人なの! 姉さんじゃないの!」
「其処まで力説しなくても……誰も聞いてないんだし」
 立ち上がり、つい声を大きくしてしまい、苦笑する彼女にしぶしぶ言葉を止める。
 誰に聞かせたい、というよりも再確認しておきたいし、こうしてムキになってしまう所が弟のように見られてしまうのかもという焦りもある。
 けれどもそんな少年の気持ちを汲んだように、それに、と千翡露は瞳を閉じて微笑む。
「……私はちゃんと解ってるからね。ラグ君は弟分じゃなくて、ちゃんと大切な人」
「ちひろ……」
 じぃんと心に響くその言葉を噛みしめるように彼女を見やれば、気恥ずかしさからみるみる頰が赤く染まっていき、羞恥心を誤魔化すように頭をかいた。
「……のぼせちゃったね! 上がろうか!」
「うん、そうだね」
 照れ臭そうな彼女が可愛らしくて、ついつい口角が上がるのは仕方が無い。ご機嫌に答えを返し、風呂を後にした。

 その後は季節の食材を使った豪華な夕食に舌鼓を打ち、窓から見える紅葉もしっかり堪能して。
 部屋に戻った二人はのんびりと広い座敷に足を伸ばしていた。
「料理も美味しかったし、お部屋も綺麗だし、紅葉も見れてあったまったし! 最高の旅行だったね」
 一日中、無駄なく遊び尽くせて千翡露は満足そうだ。そんな彼女を見ているだけで、スマラグドの気持ちも自然と暖かくなる。
「ちひろが楽しそうで良かった」
「えへへ、また来ようね」
「そうだね。また秋に来てもいいし、別の季節に来てもいいかも」
 そういえば旅館の女将が春先には桜も綺麗なんですよ、と再度の来館をすすめてくれた。先の予定を考えるのも旅行の醍醐味のひとつだ。
 電気を消して、並んで少し離れた布団の中、二人目配せして微笑み合い、就寝の挨拶を告げた。
「おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
 はらはらと舞う落ち葉たちが障子窓に影を差す中、二人の休日は幕を下ろした。


「あれっ? グレン?」
 ひょこりと覗き込んだ部屋に、今日は居ないはずの家人――グレン・カーヴェルを見つけた神人、ニーナ・ルアルディは首を傾げた。
「何してるんですか?」
「見りゃわかんだろ、暇なんだよ」
「今日は人と会うから出かけるって言ってませんでしたっけ?」
「……二日酔いだからまた今度にしてくれだと」
 自分から呼び出しておいて馬鹿にしてんのか、とぼやき、時計を見やる。
「そういうお前だってそろそろ出る時間だろ。行かなくていいのか?」
「……私も今日お休みでいいって連絡が」
「ん……そうなのか?」
「あのっ!もし嫌でなければ一緒に出掛けませんか!」
 背伸びして、キラキラと期待の眼差しで答えを待つニーナの後ろに尻尾が見えそうだ、と苦笑し、二つ返事で快諾した。

「歩いていける距離で良かったですねぇ」
「そうだなぁ。あー、寒……」
 秋風にひとつ体を震わせたグレンの手を、がしっ! とニーナが力強く掴んだ。
「暖めてあげますね、グレン!」
「……」
 渾身のドヤ顔――に、可愛らしさもあれど、いつもは分かりやすくソワソワしているだけのニーナがこうして積極的に手を繋いでくる事は珍しい。朝からやたらと張り切っているように見える。
(人の目さえなければ、私だってこのくらいは……!)
 一方のニーナも、心中でガッツポーズを決めていた。
 いつもはグレンにドキドキさせられっぱなしの彼女だから、今日はどきっとさせてあげよう! というのが秘めたる計画であった。
 が、グレンはいつもとあまり変わりばえしない。握る力が足りなかっただろうか……? なに、まだまだ一日は長いのだ。
(一体何を考えてるんだか)
 ウキウキと前後に揺らされる繋いだ手に、まあいいかと笑って、目的地である商業施設へと向かった。

(ここは雑誌を読んで勉強するしか!)
 道中では上手く事が運ばなかったから、コーヒーショップと連携している本屋へ向かうべく、先にドリンクを飲み干したニーナは雑誌コーナーへ向かった。
『オトコを落とす仕草10選』なんていう浮ついた本を片っ端から手にとり、読書スペースで読みふける。
(書いてることがよくわかりません……)
 見慣れない文字の羅列に目を回す。思わせぶりな仕草だとか誘い方だとか、何がいいのか理解出来ない――そうこうしていると、横合いからひょいと本を取り上げる手があった。
「ふーん、男をドキドキさせるテク……?」
「ああっ! まだ読んでる途中なのにっ……て、グレン!?」
 ニーナが戻らず探しに来たグレンが、つまらなそうに記事を流し読みしたあと、面白そうにニーナに視線を移せば、狼狽と羞恥でわなわなと震える赤い顔。
「今日やたらソワソワしてたのはこういう理由か」
「うっ……バレてたんですね」
「そりゃな。どういう心境の変化だったんだ? お前らしくもない」
「う、うー……いつもドキドキさせられっぱなしですから、私がたまにはドキッとさせたいと思って……」
 しどろもどろ、視線を泳がせて、両手の人差し指を顔の前でいじいじとさせるニーナが細い声で弁明する。
 健気とも可愛いとも思うけれど、彼女は彼女らしいままでいて欲しい、というのがグレンの本音だ。上目遣いで「嬉しくなかったですか……?」と聞いてくる今のニーナの方がよっぽど彼女らしくて好感が持てる。
「まあ、嬉しくない訳じゃねーけど。お前には合わねえっつーの。いつものままでいろ」
「……グレンがそう言うのなら……」
 このままでも、いいんでしょうか。ありのままの自分を好いてくれる事は嬉しい反面、望まれる事はないのだろうかと不安にもなる。
 肩を落とすニーナに、グレンはまたひとつ笑って、積まれている雑誌の一冊を手に取った。
「……まあ、俺のために頑張ってくれるお前を見てるのは、嫌いじゃねーから」
 買ってくか? と問えば嬉しそうに笑顔を咲かせて頷いたニーナに、こういう所なんだよなぁ、と苦笑して、二人仲良くショップを後にしたのだった。


「――……思ったより、大きいのねぇ」
 神人、リチェルカーレは、精霊シリウスが乗って来たバイク――普段仕事でしか使われることのないそれに、目を丸くしていた。
 ヘルメットを取る仕草も様になっている。いつまでもほうけたような彼女に、彼は肩を竦めてみせた。
「自分から乗りたいと言った癖に」
「だって、そういえば乗せてもらった事なかったなぁ、って思って……」
「そうだったな。転げ落ちるなよ?」
「失礼ね。落ちたりしないもん」
 シリウスの揶揄いに、リチェルカーレは唇を尖らせ、怒ったような顔をする。
 そんな彼女に小さく笑ったあと、ほら、ともうひとつのヘルメットを渡せば、ばっと期待に笑顔を咲かせた。

「しっかり捕まっておけよ」
 そう言われるも、好きな人の体に強くしがみつくという行為にたじろいでる余裕は、エンジン音を上げてバイクが発進した後には微塵も残っていなかった。
 きゃあああっ、と上がる悲鳴にシリウスが吹き出してしまう。さっきまであんなに楽しそうにニコニコと笑っていたのに、思ったよりも速いスピードに驚いたようで、角を曲がったり直線で加速するたびに、体にしがみつく細い手にぎゅうと力がこもる。
 本当に振り落とされやしないか不安で、捕まっている手をぽんぽんと軽く叩くと、いつもよりも慎重な運転に切り替えた。
(……背中、広いんだ……こんなに)
 シリウスがスピードを落としてくれた事もあってか、後部シートに慣れたころ、不意に抱きついている体の大きさを再認識する。
 物腰が落ち着いていて真摯な彼だから、普段はそこまで考えた事がないけれど、ちゃんと男性の体つきをしているんだ、と思うと胸がどきどきと高鳴り、シリウスの背中を通じて伝わっていやしないか不安になって。そんな気持ちを誤魔化すように目を閉じて、バイクの振動に身を任せていたら「リチェ」とシリウスが声をかけた。
「周りを見てみろ」
「え? ……あっ!」
 さっきまで緑一色だった山間が、別世界に迷い込んだかのように紅く色めき立っていて。
 その景色に感動し、また歓声を上げたリチェルカーレを見て、シリウスも満足そうに微笑んでいた。

「ありがとうシリウス。連れて来てくれて」
 無事観光地へたどり着くと、リチェルカーレは改めてシリウスに礼を述べた。
 秋色に輝く柔らな横顔がふと自分を向いたと思えば、何に対しての礼なのか分からず瞳を瞬かせるも、バイクでここまで連れてきた事だと思い至り「礼を言われるほどのことじゃない」と返す。
「奥まで行くんだろう? ほら」
 差し伸べられた大きな手に、またリチェルカーレは嬉しそうにはにかむ。
 手を繋いで滝へと向かい、青く澄んだ水面へ木々が鮮やかに映る絶景に、ほうと見惚れた。
「気をつけろ。滑りやすくなっているようだから」
「大丈夫よ。本当に、すごく綺麗……」
 魅入られたように滝へ近づこうとして――ずっ、とぬかるんだ足元が、不意に崩れた。
「きゃ……!」
「リチェっ!」
 後ろから慌てて抱き寄せたシリウスの腕のおかげで、滝壺へ転落しそうになる事は防がれた。
「――っ……だから、気をつけろと……!」
 はーっ、と、安堵にため息を大きく吐き出したシリウスが再度の忠告を口にする。
 抱きとめた小さく頼りない体に、息が止まりそうだった。
「ご、ごめんなさい……っ!」
「いや……大丈夫か?」
「え、ええ、ありがとう。助かっ……」
 恐怖から一度騒ぎ出してしまった心音は、至近距離で見上げた先にあった彼の顔のおかげで、別の意味でまったく落ち着かなくなってしまった。
 秋色燃える木々、空、彼の黒髪と翡翠の眼――そのコントラストがあまりにも美しくて。今度こそ魅入られてしまったかのように、瞳をそらさず見つめてくるリチェルカーレに、シリウスも思わず息をすることを忘れる。
「……綺麗、だな……」
 無意識に口をついた言葉が、またリチェルカーレの頬を赤く、紅く染め上げたのだった。


 時刻は夕刻の執務室。
 屋敷の主人、ユリシアン・クロスタッドは、一仕事終えた感慨に長椅子で一息つき、凝り固まった体を元に戻そうと大きく伸びをする。
「失礼します、ユリアン様」
 主人に呼ばれ、紅茶と茶菓子を持った神人のマーベリィ・ハートベルが、コンコンと扉を叩いて入室する。
 暖かく香り立つ紅茶をありがとうと告げて受け取り、ひとつ大きく息を吐きだすと、傍に控えつつ心配そうなマーベリィと目が合った。
「お疲れではないですか? 今日もお部屋へ篭りっきりでしたし……」
「精霊の体力を侮って貰っては困るね。これしきでへこたれる体をしていては、ここの主人は務まらないよ」
「ふふ、そうでした」
 余裕の笑みにほっと安堵して、それ以上は追求せず、マーベリィもくすくすと笑った。
「そうだ。仕事は全部片付けたから、明日は約束の朗読会が出来るよ」
 主人の告げるその言葉の示唆するところに思い至って「はい、明日を楽しみにしております」と嬉しそうにはにかんだ。

 翌日二人が訪れたのは、美しい紅葉に囲まれた秋色の回廊。
 以前約束した、交換読書の朗読会をするためだ。
「先日も紅葉を楽しんだけれど、ここもまた別の趣があって素晴らしいね」
「ええ。本当に綺麗……別世界にいるかのよう」
 木々の見事さにマーベリィが感嘆の声を上げていると、さりげない仕草で腕を差し出された。
 おいで、と真摯に呼ばれて、おずおずとためらいながらも腕を組むと、ユリシアンも嬉しそうに微笑む。
「どこからどう見ても恋人同士だね、ぼくたち」
「改めて仰られると、ちょっとはずかしいです……」
「いいんだよ。そういう所が可愛いから」
「……意地悪」
 他愛なく会話しながら、やがてたどり着いた人目の少ない広場のベンチ。
 並んで腰かけて、鞄から数冊本を取り出した。
(いよいよだ……ドキドキする)
 目の前でパラパラと本を開くユリシアンに、高鳴る胸の鼓動を抑えながら、マーベリィはその時を待った。
 こんなに美しい顔で、あのセリフや、このセリフを囁かれたら、私は死んでしまうかも……そんな思いを見透かしたかのように、ユリシアンは頭を少しだけ傾けて、悪戯っぽく微笑みかけた。
「じゃあ、始めようか。ふふ」
「か、覚悟はできております」
 せめて表情だけでもキリリと引き締めたマーベリィに柔らかく告げると、徐に開いたページの一節をユリシアンが読み上げ始めた。
『美しい姫……どうなさいましたか? この出会いの前には、どんなに不幸で悲しい過去も霞みましょう。さあ、僕の瞳を見つめて――』
 美しい音色が、秋風に乗せて紡がれていく――その間、マーベリィはただただ声にならない悲鳴を上げたり、自分の体を抱き締めて悶えたりと忙しい。
 そんな彼女を見ているユリシアンもまた、その愛らしさに悶えたくなるのを、持ち前のフェイクスキルでなんとか誤魔化していた。
「はあ、はあっ……と、尊い……!」
「え? なんて?」
「いっ、いえ! あ、有難う御座います……非常に心地良いひと時でした……」
 たった数行読み終えただけで、息も絶え絶えのマーベリィに漏れ出る笑いを堪えつつ。
 じゃあ、これが最後。告げて本をぱらぱらと捲る手に、今度こそ耳に刻みつけよう、とマーベリィは瞳を閉じた。

「――僕の心を掴んで離さない君が、今隣で微笑んでいてくれる事が、何よりの幸せだ」

 え、と、表情が固まり瞳を見開く。そんな台詞、その本にあっただろうか……?
 不思議に思いユリシアンを見遣れば、本は既に閉じられて、楽しそうに彼女をにこにこと見ている彼に。
 先程の言葉が彼自身のものである事に気付いて、今度こそマーベリィは意識を飛ばしそうになった。

 その後はランチに彼女の手作り弁当を二人で食べて、夕刻からは紅葉の見える温泉宿で足湯と夕食を味わった。
「充実した一日だったね」
「はい……幸せです」
 朗読会の後からずっとふわふわした心地のマーベリィに「また読書会をしようね」と笑いかければ「私の心臓が持ちません……」と、紅葉に負けないくらい、鮮やかに頬を赤らめた。



依頼結果:成功
MVP
名前:マーベリィ・ハートベル
呼び名:マリィ
  名前:ユリシアン・クロスタッド
呼び名:ユリアン様

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月01日
出発日 11月12日 00:00
予定納品日 11月22日

参加者

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