あなたと家族の物語(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「あれ、こんなところに古本屋……」
 その日、あなたは精霊と街を散歩していました。
 普段とは一本外れた道を探検気分でわざと歩いていたのです。
 表通りとは違う顔をしたその裏道に、一見の古本屋がありました。
「入ってみようぜ」
 興味を惹かれた精霊がそう言ったので、あなたはその古本屋のドアを開けました。

 紙と埃の匂いがする店内は、壁いっぱいが天井まで本棚になっていて、古風なランプの光の中不思議な迫力がありました。
 あなたと精霊は興味深くて本棚に近づいて行きます。厚い本、薄い本、外国の本、見知った本、ありとあらゆる本が所狭しと詰められている中、あなたは面白そうな本がないか探し始めました。
「なあ、これ」
 そのとき、精霊が一冊の本を棚から抜き出しました。
「あれ?」
 見ると何も書いていない背表紙の同じ本が何冊もあります。あなたも不思議に思って手に取りました。表紙を開いてみると、中は全て白紙です。
「???」
 びっくりしているあなたたちに、奥から出て来た老人が話しかけました。どうやら店主のようです。
「ああ、それは、近くに住む魔導師が置いて行った本なんですよ」
「魔導師……?」
「なんでも、タイトルに自分の名前を書き込むと、あなたの家族の物語が絵と文で描かれるという魔法の本なそうです」

「魔法の本!」

 あなたと精霊は声をそろえて叫んでしまいました。

「あなたの家族の過去、未来、いずれにせよ真実が描き出されるんだそうです。方法はタイトルに自分の名前を書き込むだけ。どんな秘密も分かってしまうし、あなたも覚えている大切な思い出も描く事が出来ます。どうでしょう。あなたと家族の物語を見てみたくはありませんか」

 老店主に穏やかに言われて、あなたと精霊は顔を見合わせます。

 さあ、どうしましょうか――。

解説

※本は一冊300Jrになります。
※神人一人、精霊一人、あるいは二人で本を買ってもOKです。
※タイトルに自分の名前を書き込むと、あなたと家族の過去か未来の真実の物語が絵と文で描かれます。どんな秘密も見る事が出来ます。
※養子などの場合は、本当の親、育て親、孤児院の係など、自分が本当に家族と思っている人間の物語が描かれます。
※見る物語は過去(親、祖父母、先祖etc……)から、未来(子、孫、子孫etc……)までなんでも構いません。
※ペットもOKです。


ゲームマスターより

らぶてぃめっと終了に向けて、周辺の掘り下げなどにお使いください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  タイガは見たいのある?
わかる気がする。気にはなるけど、タイガと一緒ならどこでもきっと笑っていられると思うし…未来の僕らを覗くのは少し申し訳ないかな

タイガの家族が見てみたい。美術館ではみたけれど、その映像がみれるなら
書いてみない限り何がくるかわからないけど、タイガ書いてみて

わあ。本当に絵と文が表れてる。すごいね
タイガ…?
(見入ってるみたいだ。そっとしておこう)
みんな相変わらず(くす
タイガ「母ちゃんがいる…)火山家の日常だな」
僕もこの中に入りたいなぁ
「俺も。でもま、この本をみれただけでもよかった」

え。この子って!?
「いやまさか」
その後、メイドがきて帰っていく。バイバイで終了
小さい頃会ってたのか


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアが本を買った。
俺も横から覗き見。ラキアが生まれた頃の事っぽい。
ラキアは昔話をあまりしないから、オレとしてはやっぱり気になるワケで!

ジェイドバインって翡翠葛のことって知らなかったぜ。
ラキシスはどうしてラディアータって名前で
ラキアと違うのかなーと思っていたけど。
そんなヒミツがあったとは。
ファミリーネームじゃないんだ。なるほど。
しかも長いからリコリスの部分を省略してるのかよ、ラキシスって。
今度会った時ツッこんでみよう。
同じ存在だ半身だっていうけど違うトコちゃんとあるじゃんってさ。
でもソコはラキアとラキシスの個性っていうトコなんじゃね?
性格だって結構違うし。
オレはラキアと一緒にいる方が安心する。



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  魔法の本を見つめる。
珊瑚の過去から、お祖母様の若い頃であろう写真を見た事が未だに忘れられなかった。
(誰からも聞けないなら、自分から知りに行け、か)

黄、紫、赤。
原色の服装をまとったその女性は、
見覚えのある服を着た老年と腕を組み、霧に包まれた山奥へ消えていく。
泣き顔は、誰かに涙を向けているようだった。

ふと珊瑚の本をチラっと見る。
目に飛び込んだ「かなさ」という文字。
やはり、あの時の写真は。

おれは……お祖母様を通して受け継いでいたんだ。
自分の一族の血も、お前の一族の血も。 

そして、大学で出会ったのは、偶ぜ。
出会うべくして出会った……というのか?

「瑠璃を好きになるから」
と、言うと思った。

「……ありがとう」


シムレス(ソドリーン)
  昼過ぎ 公園ベンチ
俺は購入した本、彼は例の魔法の本を読んでいる
ふいに目の前に缶ココアを差出された
飲物を買ってきて一つを俺にくれたのか※彼は缶コーヒー

シムレス「ああ ありがとう
ソドリーン「なぁシム あんた卵焼き作れたか?
シ「…何の話だ
ソ「お前が上手に焼けたって大喜びしてるぜ?

本を見せられた
俺と彼とロックの日常の物語らしい
シ「…そういうあんたはそれを旨いと絶賛しているとあるが?
ソ「お前如きの料理に歓喜してるなんぞ 何をトチ狂ってるんだか(苦笑


家族の物語を紡ぐ本だったな
「しかし…何故俺がいる?

「卵焼きが作れる様になればこのあんたが見られるのか 興味深い

「腹… いいだろう見ていろ

(俺の人生にこんな可能性があるなら


歩隆 翠雨(王生 那音)
  過去は出来れば、余り思い出したくはないよなぁ…そう思っていたら、那音が一冊購入し驚く

ヤバイ
泣きそうなくらい嬉しいなんて、口には出せないけど…
ああ、喜んで

タイトルに那音がその名前を書き込み、二人で一緒に開く

俺との出会いが切欠で那音が変わった?
…こんなのずるいじゃないか。ぐっと来ない訳ないだろ…心で叫んで口元押さえ

ごめんな
直ぐに那音の事を思い出せなくて…
でもさ、お前、変わり過ぎ!
あんな可愛かった子が、こんなになるなんて思ってなかったし
けど、俺も…忘れた事は無かった
記憶を失ってる間は別だけど
…初めてだったから
一緒に逃げようと言ってくれた人は
嬉しかったんだ
あの子が俺の分も幸せになればいいって、思ってた


 ある秋の一日、ウィンクルム達は、古本屋で魔導師が置いて行ったという魔法の本を見つけました――。

●セラフィム・ロイス(火山 タイガ)編
「タイガは見たいのある?」
 セラフィム・ロイスとその精霊の火山 タイガは本を一冊購入した後、家に帰ると、部屋に二人並んで座っています。
 セラフィムが片手で本を持ち、タイガが表紙の方をのぞきこんでいました。
「そうだなー……俺らの未来が気になっけど未来がくるまでのお楽しみでもいいかなぁ。セラは?」
 タイガがそう言うと、セラフィムは頷きました。
「わかる気がする。気にはなるけど、タイガと一緒ならどこでもきっと笑っていられると思うし……未来の僕らを覗くのは少し申し訳ないかな」
 それから二人はちょっと黙ってしまいました。
 面白そうな本なので使ってみたいのですが……。
 そこでセラフィムが気がつきました。
「タイガの家族が見てみたい。美術館ではみたけれど、その映像がみれるなら。書いてみない限り何がくるかわからないけど、タイガ書いてみて」
 そう言ってセラフィムは棚からペンを取りだし、本と一緒にタイガに手渡しました。
「いいのか?」
 タイガが尋ねるとセラフィムは頷きます。
 なので、彼は本の表紙のタイトルのところに「火山 タイガ」と書き込みました。
 それから幼い頃の思い出を振り返りました。
「わあ。本当に絵と文が表れてる。すごいね」
 たちまち浮かび上がった物語に対してセラフィムは声を上げて喜びました。
 ですが、タイガは何も言いません。
「タイガ……?」
 彼の物語に見入っている様子に、セラフィムはそっとしておこうと決めました。

「タイガ! またオネショして!」
 タイガの母親が彼を叱りつけています。
「べー! しーっらね! ぎゃ!? とおちゃんはなせー!」
 逃げだそうとしたタイガを父親が軽々と抱え上げてしまいます。
「悪い子にはお仕置きだぞー!」
 そう言って、父親はタイガを庭の池に放り込みました。
 池に落っこちてバシャバシャ暴れる小さな虎の子のタイガ。
「またやってる」
「元気だよなあ。それよりも、勉強みてよー」
 ふくよかで優しくも肝っ玉な母親は、布団を干して怒りつつも笑顔です。
 巨漢でヒゲの目立つ父親は笑っています。
 下のお兄さんと上のお兄さん達は、呆れているけれど、タイガが池に入っているのでうずうずと遊びたくなっているようです。
 家の外、木漏れ日の下で、みんなで寛いでいる風景です。

(母ちゃんがいる……)
 タイガは目を細めて物語を見つめています。
「火山家の日常だな」
 タイガは懐かしそうに笑ってそう言いました。
「僕もこの中に入りたいなぁ」
 セラフィムは羨ましそうな様子です。
「俺も。でもま、この本をみれただけでもよかった」
 嬉しそうに笑いながらタイガが次のページをめくると、白紙に新しい物語が浮かび上がりました。

「たんけんにしゅっぱーつ」
 ある日、町の中に探検に出かけたタイガ。
 森の公園の木々の下で、泣いている小さな男の子を見かけました。
 青い髪、銀色の瞳、中性的な面立ち……。
「え。この子って!?」
「いや、まさか」
 驚くセラフィムとタイガ。
 間違いありません。今ならはっきりと分かります。小さい男の子は、セラフィムでした。
 まだ幼いタイガは、セラフィムの傍らに近づきます。
「泣くな。泣いたら……わーん!」
 なんと、タイガはセラフィムの隣で一緒に泣き出しました。
 セラフィムは、びっくりして泣き止みました。
 そこに、メイドが現れて、セラフィムを連れて帰って来ます。
「バイバーイ!」
 幼いタイガが大きく手を振ると、セラフィムも手を振ります。

「小さい頃、会っていたのか……」
 セラフィムは呆気に取られて物語の成り行きを見守りました。
 そのセラフィムを、タイガは隣から勢いよく抱き締めました。
「な、何!?」
「いや、なんだか……とっても愛しいなあーって」

●瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)編
 瑪瑙 瑠璃とその精霊の瑪瑙 珊瑚は、自分達の部屋で魔法の本を見つめています。
 瑠璃は、珊瑚の過去から、祖母の若い頃であろう写真を見た事が、未だに忘れられませんでした。
(誰からも聞けないなら、自分から知りに行け、か)
 瑠璃はそんなことを考えています。

 魔法の本のタイトルに自分の名前を書き込みました。
 白紙に絵と文で物語が浮かび上がります。
 黄、紫、赤。
 原色の服装をまとったその女性は、瑠璃の見覚えのある服を着た老年の男性と腕を組み、霧に包まれた山奥へ消えて行きます。
 その泣き顔は、誰かに涙を向けているようでした。
「オジーやさ、何で泣いて……。しかも誰に向かって叫んでんだ。やしが、瑠璃ぬオバー、カナサなのか」
 珊瑚は現れる物語を見つめながら呟きました。

 瑠璃を通して、その女性は語り始めました。
 瑠璃の祖父には、元々、思い合っていた男性がいた事。
 それが珊瑚の祖父です。
 二人は、結婚まで望んでいました。
 ですが、その周囲--家族や親族の目は冷たかったのです。
 世間体の事を考えても、同性が隣にいることは、禁じられなくてはならないという考えだったのです。
 好きだったのに、諦めたのでした……。

「おれは……お祖母様を通して受け継いでいたんだ。自分の一族の血も、お前の一族の血も。そして、大学で出会ったのは、ぐうぜ……」
「んなんかじゃねぇ!」
 珊瑚は瑠璃の言葉をさえぎるように叫びました。
 瑠璃はかすかに目を見開いて珊瑚を見つめました。
「……わかんねぇよ。やしが、あんな話がなくったって、わん」
 珊瑚は逆に俯いてしまいました。
「出会うべくして出会った……というのか?」
 そこで瑠璃は珊瑚の言いたい事を察しました。

「瑠璃を好きになるから」
 と、言うと思ったのです。

「ありがとう」
 瑠璃は優しく微笑んでそう言いました。
「なんで、礼なんやさ……」
 珊瑚はなんだか気まずそうです。
「運命の出あ……って、いや、まぁ、だいたい合ってる、か。んふふ、まっ、出会いに感謝、やさ」
 その後、珊瑚は楽しそうに笑って瑠璃の頬に触れてきました。
 瑠璃はあまり表情は変わらないのですが、結構喜んでいる事が珊瑚には分かりました。
 珊瑚は両手の掌で瑠璃の顔を挟みながら言います。
「運命なんやさ。なあ、瑠璃、一緒に行こうな。二人でミッドランドを駆け回る、世界の旅へ!」
 何の曇りもない少年らしい笑顔を見せて珊瑚は言います。
「……だがら、それは無謀かもしれねって……」
「運命の相手、瑠璃と一緒なら絶対大丈夫!」
 珊瑚は笑いながら瑠璃の両方の肩を叩きました。

「わん、瑠璃がいれば、なんだって出来るような気がする。二人なら。本当は瑠璃もそうやさ」
「そんなことは……」
 そう言いかけて、瑠璃は口ごもりました。
 視線も不安定です。
「色々調べてみて、確かにわんの言う、世界を、大陸を旅で駆け回るのは、滅茶苦茶かもしれない。働いて、旅して、働いて、旅して、なんて。だけど、瑠璃と一緒なら絶対に楽しいし、瑠璃と一緒なら出来ると思えるんだ」
「お前……」
「本当は、瑠璃もそう思っている事、わんには分かる」
 きらめく瞳を真っ直ぐに向けながら珊瑚はそう言います。
「……」
 瑠璃はその視線から逃れる事が出来ませんでした。
 瑠璃は自分の感情もまた、真っ直ぐに珊瑚に向いている事を感じていました。
「オジーの代から決まっていた、運命の相手なんさ。わんと瑠璃は。瑠璃も、分かるだろ?」
「……それは」
 瑠璃は躊躇うように視線を揺らしました。
「そうかも……しれないが」
 自信のなさそうな瑠璃の事を珊瑚は力強く抱き締めます。愛しい相手の匂いを嗅ぎながら、珊瑚もまた出会いに感謝を捧げるのでした。
「ありがとう」

●歩隆 翠雨(王生 那音)編
「過去は出来れば、余り思い出したくはないよなぁ…」
 そう思っていた歩隆 翠雨ですが、精霊の王生 那音が魔法の本を一冊購入してしまったので、仕方なく一緒に翠雨の部屋に戻って魔法を試す事になりました。
「貴方に俺の過去を知って貰いたい…と言ったら、一緒に読んでくれるかな?」
 本を両手に持って、那音はそう言い、翠雨に微笑みかけます。
(ヤバイ。泣きそうなくらい嬉しいなんて、口には出せないけど…)
 翠雨は那音に頷きかけました。
「ああ、喜んで」
 勿論泣いたりしません。笑顔です。
 タイトルに那音が自分の名前を書き込み、二人で一緒に開きます。

――両親の顔は知らない。何故孤児になったのかも分からない。オーガに襲われた町の生き残りかもしれないし、単に捨てられたのかもしれない。気付いたら、俺は孤児院の門の前にいた――
 那音のそんな生い立ちが、絵と文で白紙のページに浮かび上がってきます。

――3歳頃。名前は持っていたハンカチに刺繍されてた。
 孤児院で育つ。読書が好き。妙に冷めて大人ぶり。
 シスターは優しかったが周囲に馴染めず、ある日イジメにあって孤児院を飛び出し、翠雨さんと出会った――
 まだ子供なのに酷く大人びた表情の少年が、孤児院の社会の中で様々な経験をしていく様子が絵で流れていきます。

――己が子供でとても無力な存在なのだと思い知った。いつか…いつか翠雨さんを救う、そんな力が欲しい。俺は変わった――
 翠雨との出会いが見開きのページで描かれていました。
 衝撃的だったあの日の事。

 その後、那音は必死に努力します。
 仮面を被る事を覚え、良家に養子に行けるように頑張り続けて、そして本当に王生家の養子となったのでした。
「俺との出会いが切欠で那音が変わった?」
 その事に翠雨は酷く驚きます。
(……こんなのずるいじゃないか。ぐっと来ない訳ないだろ……)
 そう心の中で叫んで口元を押さえたのでした。
 しばらく口を押さえて俯き、やがて翠雨は言いました。
「ごめんな。直ぐに那音の事を思い出せなくて……」
 那音は何も言わずに翠雨を見守っていました。
「でもさ、お前、変わり過ぎ! あんな可愛かった子が、こんなになるなんて思ってなかったし」
 突然、がばっと起き上がって翠雨は大きくそう言いました。
「けど、俺も……忘れた事は無かった。記憶を失ってる間は別だけど…初めてだったから。一緒に逃げようと言ってくれた人は。嬉しかったんだ。あの子が俺の分も幸せになればいいって、思ってた」
 翠雨はらしくない事に途切れがちな口調でそう言いました。
 その震えるような複雑な表情を見つめて、那音は自分の中の欲が膨れあがるのを感じました。
(ゆっくりでいい。俺を見て欲しい)
 切ないぐらいの那音の欲望。そして願いです。
 記憶にすらない辛い経験の末に、自分でも気づかず無意識のうちに、自分に向けられる愛情を信じられなくなっている翠雨です。
 だから、一番身近にいるウィンクルムの精霊である那音の感情に対して、翠雨は思考を閉ざしてしまうのです。
 考えないように。感じないように。
 失われた記憶の中で、翠雨が考えていた事。感じていた事。それは一体どんな出来事だったのでしょうか。
 那音は『リツィーパシオン』での思い出を振り返りながら、翠雨の方へ手を伸ばしました。隣からそっと肩を抱くようにして寄り添います。
「俺だけが幸せになっても仕方ないだろう。翠雨さん」
「え?」
 ずっと傍にいると言うように彼の体を抱き寄せて、それなのに那音は視線をそらします。
「俺達はウィンクルムなんだ」
 一心同体とも言える存在だから。
 あなた一人が幸せになっても、自分一人が幸せになっても、意味がない――。
 那音はそう言いたいのでした。

●シムレス(ソドリーン)編
 ある休日の事です。
 魔法の本を買ったのはシムレスの精霊のソドリーンでした。
 シムレスは古本屋では美術書を購入しました。
 昼過ぎの公園のベンチで、二人はそれぞれ買った本を読んでいます。
 不意に、シムレスの目の前に缶のココアが差し出されました。
 公園の自販機から飲み物を買ってきて、一つシムレスにくれたのです。
 彼は缶コーヒーを手に持っていました。

 シムレスがここのところ、体調が良くない事をソドリーンは気にかけています。
 今日は体調を見ながら散歩に連れ出したのですが、特に会話もないのです。
(……やれやれだぜ)
 ソドリーンは苦いコーヒーを一口飲みました。
 どのようにシムレスに接すればいいのか、ソドリーン自身も迷っていました。
 だから、魔法の本が気になったのかもしれません。
 ベンチで休んでいる間、ソドリーンは胡散臭いと思いながらその魔法の本を読んで見ました。
 読み終わってから自販機に飲み物を買いに行ったのです。

「ああ、ありがとう」
 シムレスは何気なく顔を上げて礼を言い、缶を受け取りました。
「なぁシム。あんた卵焼き作れたか?」
 突然、ソドリーンがそう言いました。
「……何の話だ」
「お前が上手に焼けたって大喜びしてるぜ?」
 ソドリーンはシムレスに本を見せました。
 シムレスはページを開きました。
 彼と、精霊達の日常の物語のようです。
「……そういうあんたはそれを美味いと絶賛しているとあるが?」
「お前ごときの料理に歓喜してるなんぞ、何をトチ狂ってるんだか」
 ソドリーンは苦笑いをしています。
 彼は、料理なんぞほとんどしないシムレスが卵焼きを焼くという想像をしただけで愉快でした。
(家族の物語を紡ぐ本だったな)
 シムレスはしげしげと本を眺めます。
「しかし……何故、俺がいる?」
 その問いにソドリーンは微かに苛立ちます。
 だけど、シムレスは分かって言っているのだろうと思いました。
「ちっ。つきあいが続けばそういう関係にもなるんだろう? これは未来、可能性の一つだ」
 ソドリーンはそういうふうに答えました。
「卵焼きが作れるようになればこのあんたが見られるのか。興味深い」
 シムレスは真顔で頷いています。
「ああ。腹踊りも追加してやるよ。作れればな!」
 ソドリーンはヤケ気味にそう言いました。
「腹……。いいだろう見ていろ」
 そこまで言われるとシムレスの方も本気になってしまいます。
「言ったな? 投げ出すんじゃねぇぞ」
 ソドリーンは不敵に笑ってそう答えました。
(見てるさ。俺の家族なんだからよ)
 それが当然の事だと、胸のうちで思っています。
(俺の人生にこんな可能性があるなら……)
 シムレスは希望を抱いた表情で、本のページをめくりました。

 自分がいて。
 ソドリーン達精霊がいて。

 絶え間なく続く、楽しく、優しい、ささやかな日常。
 そんな日が来ればいい、いつまでもずっと続けばいいと、彼もまた思っています。
 けれども、自らはいつか死ぬ病で……。
 
 ふとそんなシムレスの脳裏に、夢現に見た幼い頃のソドリーンが浮かび上がりました。
 狭い空の下、天涯孤独のソドリーン。訳も分からずA.R.O.A.に追われていた彼。
 彼が、左手に浮かび上がっていた紋章をなんと言ったか。

--家族の印?

 そして自分は『戒め』なのだと答えたのです。
(もしも絵を描くなら、こんな絵を描いてみたい……)
 シムレスは、本のページをまた一枚めくりながら考え込みました。
 自分達の平和で楽しい日常のヒトコマを、描いていきたい。その夢の中で、生きていきたい。そう思うのです。
 死ぬまでは。

●セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)編
「本を買ったよ。絵本のようだね」
 古本屋で魔法の本を買ったのはラキアの方でした。
 家に帰ってから、ラキアがタイトルに自分の名前を書き込みます。
 セイリューも横からのぞき見です。
 ラキアが生まれた頃の事のようです。
 ラキアは昔話をあまりしないので、セイリューとしてはやっぱり気になるのでした。
 その様子を見て、絵本に浮かび上がる物語を見ながら、ラキアが語り出しました。
 セイリューに自分の事を知られるのを、嫌がっていた訳ではないようです。
「俺の故郷は森が近くて。精霊は皆森の守護者であるってされているんだよね。精霊が生まれると村の長老格が占いみたいなのをして「精霊と縁の深い植物の名」をその精霊に与えるんだ。『生まれた双子の精霊に、この子は曼珠沙華の守護があり、こちらの子には翡翠葛の守護がある』と」
「ジェイドバインって翡翠葛のことって知らなかったぜ」
 セイリューは目を丸くしてそう答えました。
「ラキシスはどうしてラディアータって名前で、ラキアと違うのかなーと思っていたけど。そんなヒミツがあったとは。ファミリーネームじゃないんだ。なるほど」
 双子なのに何故そんなに名前が違うんだろう。
 セイリューの方も当然、それは疑問に思っていたのでした。
「曼珠沙華、リコリスラディアータの名を授かったのがラキシスで。翡翠葛、ジェイドバインの名前を授かったのが俺の方。俺達2人の髪の色は曼珠沙華から、瞳の色は翡翠葛から授かったのだね。と両親や近所の人に良く言われたんだよ。ホントの所は判らないけど。守護華は一卵性の双子でも違うんだ。村の精霊は皆違う花のを授かるんだよ」
 ラキアは絵本の中とセイリューを見比べながら話して聞かせました。
「しかも長いからリコリスの部分を省略してるのかよ、ラキシスって。今度会った時ツッこんでみよう。同じ存在だ半身だっていうけど違うトコちゃんとあるじゃんってさ」
 セイリューはラキシスの事を振り返りながらそう言いました。
「でもソコはラキアとラキシスの個性っていうトコなんじゃね? 性格だって結構違うし。オレはラキアと一緒にいる方が安心する」
 そう言って、セイリューは床のクッションに寝転がりました。
 途端に、家族のクロウリーやトラヴァース達が彼に群がってきます。一緒にお昼寝したいと思っているのでしょう。

「ラキアを攫おうとしている奴の顔を見に来た」
「全く、俺が一生護ってやるって言っているのに」

 ラキシスはそんなことを言ってセイリューを挑発したのです。
 セイリューこそがラキアの神人でウィンクルムだと言うのに。
(まあ、生まれた時から一緒にいる双子の兄弟が大事で仕方ないっていうのは、オレにも分かるけど)
 寄ってきたユキシロの腹を寝転がりながらもふもふしつつセイリューは喫茶店での出来事を振り返りました。
 一方、ラキアはセイリューの言葉を思い出しています。
(……でも、ラキアはオレが護るし『オレだって負けないからな』)
 あのときのセイリューの男らしい精悍な表情を、ラキアは本当にいとおしく感じるのでした。
 ラキアとセイリューでは今や30もレベルが違うというのに、未だにセイリューはラキアを守れるのは自分だと信じて疑っていないのです。
「セイリュー。ラキシスは双子の兄だから、俺の兄弟で家族であることは変わらないよ。俺が双子の兄弟に本当に冷たいような人間だったら、セイリューだって悲しいでしょ? そしてセイリューも、クロウリーもトラヴァースもユキシロもバロンも、みんな俺の家族だよ。大事でいとおしくて、守るべき存在。一緒にいると楽しいし、幸せだし、癒やされるし……」
「全部言わなくてもわかるって!」
 セイリューは跳ね上がってラキアの方に飛びつきました。
「オレも同じ事考えていた!」
 二人は同時に笑い出しました。なんだろうと思って猫達が寄ってきます。
 その猫達を抱きかかえて、楽しく笑い、そして家族の日常が積み重ねられていくのでした。



依頼結果:成功
MVP
名前:瑪瑙 瑠璃
呼び名:瑠璃
  名前:瑪瑙 珊瑚
呼び名:珊瑚

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月20日
出発日 10月31日 00:00
予定納品日 11月10日

参加者

会議室

  • [4]セラフィム・ロイス

    2017/10/30-22:39 

    :タイガ
    ちわーっ。俺タイガと相棒のセラだ。よろしくー!
    俺らは昔の火山家。うちの様子がみれないかと思ってる。どうなるかな~セラ喜んでくれっといいけど

    皆のもたのしみにしてるぜー!

  • [3]歩隆 翠雨

    2017/10/30-22:10 

  • [2]歩隆 翠雨

    2017/10/30-22:10 

  • [1]シムレス

    2017/10/28-01:34 

    ソドリーン:
    魔法の本ねぇ(疑いの目)…家族…か(一冊購入)
    シムレスと俺はソドリーンだ、よろしくな。


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