自由過ぎる芸術~秋のオーガ展覧会~(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ


 鏡の森芸術公園で、一風変わった展覧会が開かれる--。
 あなたがその事を知ったのは、依頼の報告にA.R.O.A.に行った際に掲示板のポスターを見たからでした。
「現代オーガ展!?」

 なんと、オーガの芸術作品が一堂に会するというのです。
 絵画、彫刻、イラスト、中にはフィギュアなどなどなど……。
 オーガというオーガ全てに関する芸術がかの公園に集められるという一大イベントのようなのです。
 ポスターにはっきりとそう書いてありました。

 あなたと精霊は呆然としてポスターの前に立ち尽くしました。
 その様子を見て気を利かせた職員がパンフレットを持って来てくれました。

「あ、私、これ戦った事ある。ヤグ・ゴールド・アス……へんなやつだった」
 あなたはパンフレットを見てそう呟きました。
「ヤグアート、ヤックハルス、ヤグズナル……う~ん、流石にこのへんのべたな奴はみんな描いているんだな」
「オーガなんて描いて何が楽しいのかしら」
「芸術って爆発なそうだしオーガ爆発しろとか……? いやまあ、多分、悪魔を描いたり鬼を描いたりするのと同じ感覚なんじゃ……?」
 あなたと精霊は首を傾げながらパンフレットをめくります。
「AスケールオーガやBスケールオーガも軒並みそろっているようね。そうねえ、オーガには肖像権はないでしょうしね……」
 数々の強敵の芸術作品としての写真を見て、脱力するあなた。
「うわ、この写真の彫刻、凄い迫力だ。無駄によく出来ている。うっかり間違えて攻撃したりしないようにしないとな……」
 精霊は変な事を気にしています。
「え、うそ。ネイチャーもいるみたい!」

 あなたたちウィンクルムが確認したところ、自分達が戦った事のあるオーガは大体全部、芸術作品となって鏡の森公園に安置されている模様です。
 入場料は一人300Jr。

「…………」

 あなたと精霊はなんとも言えない玄妙な表情になって顔を見合わせてしまいました。

「芸術の秋で、美術館とかに行くのはいいけど……オーガってどうなの……?」
「…………一生の思い出にはなりそうだな……」

 さあ、行きますか!?

解説

※オーガ展の入場料は一人300Jrです。
※レストランが二つあります。
ベジタリアン向け→サハリ 地中海風→アポロ
お値段は70Jr~120Jrです。

あなたたちが戦った事のあるオーガやネイチャーは大体全部、展覧会に芸術作品として出ています。
思い出の強敵を眺めながら、美術館デートをしてください。
あのときはまだ低レベルで大変だった、あのときはあなたが守ってくれた、仲間がいたから心強かった、などなど、自由な会話をしてください。

※美術館デートということで、普段とは違うオシャレなどをしてもよいでしょう。展覧会を見終わった後にはレストランで食事してもいいかと思います。そこらへんのプランは自由です。

※参照にして欲しいエピソードなどがある場合は、プランかプロフィールにエピソードのナンバーを書いてください。

※一緒に共闘した他のウィンクルムさんとダブルデートをして展覧会を見て回ってもよいでしょう。その場合は、「交」とプランの上に書き、簡単な会話とエピソードのナンバーを明記してください。

各ウィンクルムの個性が出ているプランをお待ちします!


ゲームマスターより

オーガを果たして芸術作品としていいかどうかは分かりませんが、悪魔が絵画などに出てくるのと同じ感覚だと思われます。

開始以来の数々の激闘を思い出しつつ、精霊や他ウィンクルムさんと絆を深めてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)

  芸術や美術は得意ではないのですが。
敵への対策を考えるのに、この展覧会は資料性が高いのです。
だから、どうしても来たくて。

しげしげとオーガの像を眺めます。
「羽根が生えてるなら、空を飛ぶのでしょうか? でも体重を支えるだけの浮力を得るのは難しい大きさですね…」
フェルンさんの忠告には頷きます。
「でも芸術家は相手の本質を見抜く鋭さも持っていますから、そういうのを上手く感じ取れれば良いんですけどね…」と呟いて。
自分の芸術的な感性の乏しさに思い至りました。
「でもそう言うの、私、苦手なんです…」
資料で姿への言及があったオーガは判るので。
いざ対峙した時にどう対処するか、敵の姿から予測して考えておきたいのです。



シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  関連EP30
……あ、ねえ、グルナ
先へ進む精霊を呼び止める
デミ・リビングデッドの絵を見る

あの時瘴気の影響であんたには私の母親が見えていたらしいけど、私が見えていたものはまだ言っていないわよね
これよ、デミ・リビングデッド
あら、もしかして残念に思ってる? まあ、私の親、美人だし(からかってる
……好き、とか思ってても納得してしまうわ

え、うそ。あんた好きな人、いるの?
 精霊も生きているのだから好きな人くらい、と思ってはいたものの、胸にちくりと刺さるものがあった

ちょっ……! ちょっと、グルナっ押さないでよ…!
え、あれ見るの…? ……報告書にあった例の暑苦しいって話のヤグ・ゴールド・アスを?


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  このイベント教団に目を付けられてそうで心配なんだけど…

展覧会
まずヤグ・ゴールド・アスの無駄にさわやかな笑顔が目に入り思わず笑う
も、物凄く目立つ…!

独り身?なデミハーピーもいる(EP19

ふと視界に入った黒い長身の影にヒュッと息をのむ
デーモンリップス…(EP64、67、76、85
…もう消滅済みなのに、不思議だね

…?あのオーガがどうしたの?

あ…(思い至り
そっか…(EP5の事は12で告白し55で解決済
初めて客観的に見
この中に“私”が入ってたんだ…

ふと見ると意識が何処かへ行きかけてる精霊
ガルヴァンさん(覗き込み
…“私”は、ここにいるよ?(じっ

あっ
手を取り
前回はサハリだったから、今回はアポロにする?
行こ?


鬼灯・千翡露(スマラグド)
  (デミ・オーガ化した妖怪【EP7】のコーナーへ)

斬新だね!
(画家の卵故のポジティブ視点)

そうだねー
私があんまり戦うの好きじゃないからかも
平和主義って言うよりはこう、身体動かすの苦手だし

姉さん?
あー……んっと、そうかも
自分じゃあんまり意識してなかったのにね

……ふふ、有難う
ラグ君がそう言ってくれるのが凄く嬉しい
私も、頑張るラグ君に恥ずかしくないような
姉さん義兄さんに誇れる、神人にならないとね

あっでも無理はしちゃ駄目だよ
ふたりで生きていく事に、意味があるんだから

ん、もうそんな時間?
そうだね、じゃあアポロにパスタ食べにいこ
私達にはまだまだ時間があるからね

(姉さん、義兄さん、私達は二人の分も、生きるよ)


●鬼灯・千翡露(スマラグド)編
 今日、鬼灯・千翡露とその精霊のスマラグドは鏡の森芸術公園に現代オーガ展を見に来ています。
 美術館に入った後、千翡露達はまっすぐにデミ・オーガ化した妖怪『笑い女』のコーナーを見に行きました。
「斬新だね!」
 千翡露は画家の卵ゆえにポジティブな視点を持っています。
「斬新にも程がある」
 スマラグドは至極まっとうな意見を述べました。
 千翡露は興味深そうに『笑い女』の絵画や彫刻に顔を近づけて鑑賞しています。ひととおり見渡し終わったスマラグドは千翡露のところに戻って来て言いました。
「思えば僕らってあんまり実戦経験ないよね。なんか変な妖怪……? と戦ったのと、後は……去年のクリスマスの大規模作戦くらいか」
 スマラグドに話しかけられて、千翡露は彼の方を振り返りました。
 それからちょっと頭を傾けて考えこんでみます。
「そうだねー。私があんまり戦うの好きじゃないからかも。平和主義って言うよりはこう、身体動かすの苦手だし」
 微笑んで言う千翡露の様子に、スマラグドは眉を顰め、思い切って切り出しました。
「……もしかして、お姉さん達の事気にしてる?」
「姉さん?」 
 千翡露は軽く目を瞬きました。スマラグドは黙って彼女の顔を見つめています。
「あー……んっと、そうかも。自分じゃあんまり意識してなかったのにね」
 千翡露は何となく首を傾げながらそう答えました。
 スマラグドはしばらく黙っていましたが、やがて苦しみか苛立ちのようなものを滲ませながら千翡露に告げました。
「……この先、何回戦う事になるかは解んないけどさ。もし、いつ何が起こっても、ちひろは『俺』が守るから。理不尽に、別たれる事のないように、強くなるから」
 あまり表情を変える事のない、考えの読めない彼女の様子からは、悲惨な過去が顔をのぞかせる事があります。
 千翡露の苦しみを取り除き、本当の幸せに気づかせてやりたいとスマラグドは切に願いますが、それは言葉で言えるほど簡単な事ではありません。
 自分の不甲斐なさと過去のギルティへの憤りから、スマラグドの声には苦渋がにじみ出てしまいます。
「……ふふ、有難う。ラグ君がそう言ってくれるのが凄く嬉しい。私も、頑張るラグ君に恥ずかしくないような、姉さん義兄さんに誇れる、神人にならないとね」
 そんなスマラグドの様子に、千翡露はお姉さんのような表情になり、微笑みかけながら余裕のある調子で答えました。
 自分の気持ちが分かってくれているのか、と、スマラグドはツンツンとした表情で千翡露を睨むように見ています。
「あっでも無理はしちゃ駄目だよ。ふたりで生きていく事に、意味があるんだから」
 千翡露はその事に気がついて、ふと真剣な様子になりました。
「解ってるよ。ちひろを悲しませるなら意味ないもん」
 間髪入れずにスマラグドはそう答えました。
 最もやってはいけないことは、千翡露を悲しませる事だと、彼はよく分かっているのです。
「……ともあれ、良かった。生きる事に前向きになってくれて」
 スマラグドは一瞬見せた、千翡露の酷く真剣な表情を見て、安心してほっと息を吐き出しました。
 彼の苛立ちも和らいで、優しい顔になっています。
「そろそろ昼だけど、何か食べに行く?」
「ん、もうそんな時間?」
 スマラグドは、『笑い女』からそろそろ離れたくてそう言いました。
『どうせいつまでたってもお前は子ども扱い。気づいているんだろう? お前は子供だ……! 彼女に釣り合うような男じゃない……』
 そんな発言を繰り返すデミ・オーガに散々嘲笑された記憶があるのです。
 そのデミ・オーガの芸術作品の前に、いつまでも立っていたい訳がありません。
「……本当にちひろは絵の事となると時間忘れるよね。食べたらまた見に来ればいいじゃん。絵は逃げないんだしさ」
 またしてもツンツンとスマラグドが言うと、千翡露は普段の余裕のある笑みを見せました。
「そうだね、じゃあアポロにパスタ食べにいこ。私達にはまだまだ時間があるからね」
 千翡露は心の中で呟きます。
(姉さん、義兄さん、私達は二人の分も、生きるよ)
 それは最近、スマラグドとこうした会話をする度に、胸の中で繰り返されている言葉なのでした。

 二人は公園の中にある地中海風レストランを訪れました。
 明るい清潔な店内で窓際の席に通され、向かい合って座ります。
 メニューを渡されたので、千翡露はムール貝のペスカトーレ、スマラグドは定番のトマトのパスタをそれぞれドリンク付きで頼みました。
「もうちょっと見たかったから、食事の後に、オーガ展に戻りたいな」
 メニューを待ちながら千翡露がそう言います。
「そんなに?」
「いや? せっかく来たんだし……」
 不満そうなスマラグドに千翡露はちょっと驚いたようです。
「そんなに見たい? さっきのオーガの絵とか」
 スマラグドは『笑い女』に自分の弱点やコンプレックスを散々笑われるという精神攻撃を受けています。
 当然、そんなオーガの作品をしげしげと見たい訳がありませんでした。千翡露はその攻撃を受けていないから平然としているのかもしれません。
「あ……うん。ちょっと無神経だった?」
 そのことに気がついて、千翡露は困ったようにスマラグドに尋ねました。
「別に。あのとき、ちひろに言われた事は嬉しかったからさ」
 スマラグドはずっと年上の千翡露に認めて欲しいという願いを持っていました。それを『笑い女』が抉ったのです。
 だけど、千翡露はそのとき、スマラグドが何を嘲笑されているのか想像して見抜き、正確な言葉を与えてくれたのでした。

……頼もしいって思った。優しいって思った……。ああ、ラグ君も、どんどん大人になってるんだって。だから、自信持って? ラグ君は、強くなってるよ。……これからも、強くなるよ!……

「……あの言葉は、僕の支え」
「うん。私にとっても、ラグくんは支えだよ」
 透明感のある笑みを見せる千翡露にスマラグドはまた安心感を覚えます。
 同時に、思うのでした。
(僕は彼女の過去を上書き出来ない。けれど、未来を描く事は出来る。過去を踏まえた上で、僕達はどんな未来を手にするんだろう……)
 月光華の傍で手を重ね合い、想いを重ね合った時の事を、昨日のように思い出します。
 そして、二人で幸せになりたいと、心から願ったのでした。
 
●アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)編

 アラノアとその精霊ガルヴァン・ヴァールンガルドは、鏡の森芸術公園に現代オーガ展を見に来ています。
「このイベント教団に目を付けられてそうで心配なんだけど…」
「存在しない悪魔と同列に扱っていいのか…?」
 アラノアが呟くと、ガルヴァンも首を傾げていました。
 ともかく二人は美術館の中に入りました。
 入るなり、まず、ヤグ・ゴールド・アスの無駄にさわやかな笑顔が目に入り、アラノアは思わず笑ってしまいます。
「も、物凄く目立つ…!」
 ガルヴァンもヤグ・ゴールド・アスの彫像や絵画に見入りました。
「この中での黄金は浮くな…」
 それから進んで行くとすぐに、独り身?のデミ・ハーピーのコーナーがありました。
 その隣は南瓜頭のデミ・ダックのコーナーです。
 そのまま二人で進んで行くと、ふと視界に入った黒い長身の影がありました。
 アラノアは思わず、ヒュッと息を飲みます。
「デーモンリップス……もう消滅済みなのに、不思議だね」
 ガルヴァンは今思えば長かった因縁の相手の作品をつくづくと見入りました。
「…こうして作品として世に残るとは、奴も思いもよらなかっただろうな…」
 芸術作品になってしまった因縁の強敵に、アラノアとガルヴァンは何かしみじみと感慨深いものを覚えました。
 そうして現代オーガ展を順路に沿って見て行くと、ガルヴァンの目をひきつけるものがありました。
「あれは……」
「……? あのオーガがどうしたの?」
 ガルヴァンの様子を見てアラノアが怪訝そうにします。
「……俺が『初めて殺した』オーガだ。厳密にはそれと同じ姿のオーガ。あの場にいたそのものではないと分かってはいるが…」
「あ……」
 ガルヴァンの顔が見られなくなりながらアラノアは声を殺します。彼女も思い至ったんでした。
「そっか……」
 そのオーガの体の中に入って、アラノアは一度、ガルヴァンの手で殺されているのでした。そのことは後に彼女自らが彼に告白し、そしてある事件からガルヴァンは正しい事をしたのだと分かっていました。
 アラノアは初めて客観的にそのオーガを眺めました。
「この中に“私”が入ってたんだ…」
 長い沈黙の後に、アラノアはふとガルヴァンを振り返りました。
 ガルヴァンは茫洋とした表情で、意識がどこかに消えかかっているようでした。
「ガルヴァンさん」
 アラノアは彼の顔をのぞき込みます。
「……『私』はここにいるよ?」
 じっと彼の瞳を見つめます。
 ガルヴァンはアラノアに呼ばれて、考えの奥に沈みかかった意識が戻るのを感じ取りました。
 いつもは控えめに伏せられているアラノアの目が真っ直ぐに自分を見ています。
「……強いな。今までの経験故か」
 ガルヴァンは軽く自嘲するように笑いました。
「あっ」
 今、気がついたようにアラノアはガルヴァンの手を取りました。
「前回はサハリだったから、今回はアポロにする? 行こ?」
「……そうだな」
 アラノアの心遣いと掌のぬくもりに、ガルヴァンは口元を緩ませるのでした。

 二人は地中海風レストラン『アポロ』を訪れました。
 明るく清潔な店内で日当たりのいい席に案内された二人は、まずはメニューを頼みます。
 ガルヴァンは魚介のパエリア、アラノアはトマトのパスタを頼みました。
 メニューを待つ間、ガルヴァンはやはり物思いに耽っているような表情でした。
 アラノアは話しかけようかと思いましたが、控えめな彼女はついタイミングを逃がしてしまいました。
 ガルヴァンは指先で軽く唇と顎を押さえながら、宙の一点を見ています。
 貴族的な容貌の彼は、そんな仕草をしているだけでも、それこそ絵の中の人物のように格調高く美しく見えるのでした。
 アラノアはそれに対する自分の平凡さに微かな引け目を感じています。
「……アラノアは」
 ガルヴァンは、目の前の愛しい存在に話しかけました。
 彼女からの告白は受けています。本当は自分の事をどう思っているのか、知らされているのでした。それに対して、返事を保留しているのは自分でした。
(いつか、俺の口から、はっきりと本当の気持ちを伝えたいと思っている。だが俺には、そんな資格はあるのだろうか?)
 オーガの作品を見た事によって、ガルヴァンはその事が気がかりとなったのでした。
(せめて返事のその時までは……好きでいてもいい、よね?)
 彼に対して、アラノアはそんな風に思っていました。
 崖から飛び降りるような気持ちで告白したのですが、ガルヴァンは返事は待って欲しいと言われて。
 そのあと、ガルヴァンから「嫌われたくない」という中途半端な気持ちを伝えられて。
 彼の感情が分からないけれど、だけど今は離れたくないという本心に従って行動しています。
「アラノアはいつから、そんなに強くなった……?」
「え……?」
「お前を死ぬような目に合わせたオーガを見ても、何も気にしなかったのか?」
「あ……それは……」
 アラノアはたじろぎました。下手をすれば自分のトラウマになっていたかもしれない出来事だったのです。けれど、そんなことよりも、アラノアが気に掛けたのはガルヴァンの心でした。
「えっと……。な、なんだかガルヴァンさんの方ばっかり気になっちゃって、気がつかなかった……」
 躊躇いがちにアラノアは自分の正直なところを告げました。
「アラノアは、自分で思っているよりも、魅力的な人間だ。自分を抑える事も、守るべき事も知っている。お前は自己評価が低いだけで、何もそんなに怯える必要のない人間なんだ」
 ガルヴァンはまた一つ胸に秘めていた想いを口にしたのでした。
「俺は、そんなお前を……」
「ガルヴァンさん。あなたがあのときにしたことは正しかったんだよ。あのときあなたが私を殺さなかったら、別の誰かがオーガになった私を殺していたの。私はあなたに殺されて良かったと思っている」
 そこでアラノアはそっとさえぎりながら言いました。
「あなたに会えて、あなたとウィンクルムになれて、よかったんだよ。ガルヴァンさん……」
 その言葉にガルヴァンは琥珀色の瞳を見開いて息を飲みました。
 例え、殺されたとしても、あなたと出会えたのならば悔いはない……それ以上の告白の言葉があるでしょうか。
 正に、盲亀の浮木、優曇華の花。
 ガルヴァンはどんな言葉で、アラノアの想いに報いるのでしょう。

●シャルティ(グルナ・カリエンテ)編 

今日、シャルティと精霊のグルナ・カリエンテは鏡の森芸術公園の現代オーガ展に来ています。
「……あ、ねえ、グルナ」
 シャルティはどんどん順路を先に進んで行くグルナを呼び止めました。
 彼女は、以前、サクラヨミツキで出会ったデミ・リビングデッドの絵に気がついたのです。
 グルナはだるそうに振り返ります。戦闘狂の彼は、芸術には興味がないようです。
「あの時、瘴気の影響であんたには私の母親が見えていたらしいけど、私が見えていたものはまだ言っていないわよね」
「あ? ……あーそうだったな。お前からはまだなんも聞かされてねえ」
 グルナはぶっきらぼうにそう答えました。
「これよ、デミ・リビングデッド」
「……これって、デミ・リビングデッドじゃねぇかっ。マジか…よりにもよってこいつかよ……」
 グルナはサクラヨミツキの中で見たものの正体を知り、大きなショックを受けています。
 それを見てシャルティはサディスティックな笑みを浮かべました。
「あら、もしかして残念に思ってる? まあ、私の親、美人だし」
 そんな事を言ってシャルティはグルナをからかいます。
「なっ…! ち、ちげぇっての……!」
 グルナは明らかに動揺を見せました。
「……好き、とか思ってても納得してしまうわ」
 シャルティはさらにサディスティックな気持ちに駆られてそう言いました。
「はっ? す、すき……?」
 グルナは目を白黒させています。
 そして勢いこんで言いました。
「ばぁか、いくら美人でもあの人はちげぇし! 第一、好きな奴なら別にい――」
 そこまで言いかけて、グルナは慌ててそこから先の言葉を飲み込みました。
 一瞬、かっとなったのですが、話し相手がシャルティだった事に気がついたのです。
 シャルティはびっくりしました。
「え、うそ。あんた好きな人、いるの?」
 シャルティの方も微かに動揺が顔に出ます。
 精霊も生きている人間なのだから、好きな人くらいいるでしょう。
 そうは思っていたものの、実際に彼の口からそれを聞くと、胸にちくりと刺さるものがあったのでした。
「こ……この話はもう良いだろっ。おら、さっさと先行くぞっ戦ったことねぇけどあれ! 見てみようぜ!」
 グルナはシャルティの背後に回り、彼女の背中を絵の方に向けてぐいぐいと推し始めました。
 このとき、グルナは顔がとても熱くて熱くて、シャルティの顔を見ていられなかったのでした。
 シャルティに『好き』というかけがえのない感情を抱いていることを、まだ知られたくないのでした。
「ちょっ……! ちょっと、グルナっ押さないでよ…!」
 突然の事にシャルティは慌てふためきます。
 そしてグルナが押している方向を見てさらに驚きました。
「え、あれ見るの…? ……報告書にあった例の暑苦しいって話のヤグ・ゴールド・アスを?」
 ヤグ・ゴールド・アスの黄金の顔がシャルティに否応なしに迫ってきます……。

 グルナに押されてシャルティは暑苦しい黄金の笑顔のヤグ・ゴールド・アスの彫像の前に立っています。
 無駄に爽やかに白い歯。
 笑顔。
 なんとなくシャルティとは正反対のキャラに思えます。
「グルナ、あんた……本当にこれ見たかったの?」
「ああ、うん」
 グルナも強引にシャルティを連れてきたものの、なんとなく歯切れが悪いようです。
「別に戦った事がある相手という訳でもないし、何がそんなに気に入ったのかしら……」
「いや、別に……話のネタになるんじゃね?」
 連れて来ておいてグルナは無責任です。
「そうねー。突然変異種のオーガだものね……。でも、何がどう突然変異したらこうなるのかしらね」
 シャルティは淡々とそう言って、ヤグ・ゴールド・アスの彫像や絵画を眺め回しました。
 それからふと、グルナの方を振り返ります。
「戦ってみたいと思う?」
「ん? ……まあ、まともに戦えるならなんだっていいぜ」
 そういう話をして、シャルティとグルナは連れだってそのコーナーを離れました。
 そして順路に沿って歩き始めます。
「あ、ポインセチアオーガ……」
 シャルティは黒き宿り木のポインセチアの絵画の前で足を止めました。
「全く、あのときは一体なんだったのかしら。目が覚めたら全部終わっていたんだけれど……」
 ぼやくシャルティの隣でグルナは黙って笑っています。
 グルナはデミ・リビングデッドの正体は知らないままだったのですが、逆にシャルティも自分が何と戦っていたか知らない出来事を持っているのでした。
 長くウィンクルムでいると、意外とそういう一方通行の記憶のエピソードは多くあるのかもしれません。
「俺達も結構、色々な敵と戦ったよな」
 グルナは辺りのオーガの芸術作品を見回しながら言いました。
「そうね。オーガだけじゃなく、マントゥール教団なんかとも戦ったわね」
 シャルティは宝石のエピソードを思い出しながらそう言いました。
「アレクサンドライト……だっけか。何か石言葉がなんとかってお前が言っていた」
「そうよ」
 シャルティは複雑な笑みを顔に浮かべました。
「石言葉は、沈黙、勇敢……秘めた想い」
 それ以上は何も言いませんでした。
 だって、グルナ本人が、これ以上の話は終わりだと言ったのですから。
 シャルティはそれ以上突っ込んで聞くような性格ではありません。
「……お前」
 そんなシャルティに対して、グルナもまた彼らしくない複雑な顔になってしまいました。
「本当に、”気にしい”だよな……」
「なによ。それ、どういう意味?」
 かちんときたシャルティは即座にグルナに言い返しました。
「戦闘狂の癖に、なんでそんなことが分かるのよ」
「分かるよ。だって俺は、お前の……」
 グルナは珍しく、そこでつっかえました。
「お前の、精霊なんだから」
「…………」
 シャルティは一瞬、グルナを睨み付けましたが、そのあと、気を抜いた調子で、穏やかに笑いました。
「そうね。私はあなたの神人なのよね」
 グルナが誰の事を好きなのかはシャルティにはまだ分かりません。ですが、その相手が、自分よりもグルナの事を理解出来ているのかどうか、気になりました。
 そしてグルナもまた、シャルティが、今の状況をどんなふうに考えているのか、気になってしょうがないのでした。
 グルナもシャルティに関しては、気にしいなのかもしれません。

●瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)編

 今日、瀬谷 瑞希は精霊のフェルン・ミュラーと鏡の森芸術公園に現代オーガ展を見に来ています。
「なるほど、現代オーガ展か」
 フェルンは感心してしまいました。
 瑞希が芸術公園の展覧会を見たいと、たいそう熱心に誘ってくれたので、珍しい事もあるものだと思っていましたが、これなら納得です。
「芸術や美術は得意ではないのですが。敵への対策を考えるのに、この展覧会は資料性が高いのです。だから、どうしても来たくて」
 美術館の中に入りながら瑞希がそう言いました。
「敵への探究心で見たいというミズキの気持ちはとてもよくわかるよ。でも芸術作品は写実的なモノばかりじゃないから。注意が必要だね。特徴をより強調して表現する方法もあるからね」
 フェルンも彼女に頷きながら、一緒に順路に沿って様々なオーガの芸術作品を見て回りました。
 瑞希は一つの彫像の前で足を止めました。
 しげしげと観察しています。
「羽根が生えてるなら、空を飛ぶのでしょうか? でも体重を支えるだけの浮力を得るのは難しい大きさですね…」
 そして先程のフェルンの忠告に納得して頷いたのでした。
「でも芸術家は相手の本質を見抜く鋭さも持っていますから、そういうのを上手く感じ取れれば良いんですけどね…」
 そしてそう呟きました。
 瑞希は自分の芸術的な感性の乏しさに思い至ったのです。
「でもそう言うの、私、苦手なんです…」
 それからオーガ展のパンフレットを開きました。
「資料で姿形への言及があったオーガなら分かります。いざ対峙した時にどう対処するか、敵の姿から予測して考えておきたいのです」
 そんな瑞希にフェルンは優しく微笑みかけました。
「でも今回のことをきっかけに少し美術品にも興味を広げてくれると嬉しい。もっと感情的な揺らぎが瑞希には必要だと思うから。出来れば、それは美しさへの感嘆などのプラス的感情だとなお良いと思うから」
「……はい」
 瑞希ははにかんだように笑いました。
 そうして自分の成長を見守ってくれるフェルンの存在が本当に頼もしく尊く感じられたのです。

 やがて二人はヤックドロア・アスとデミ・ワイルドドッグの絵画の前に来ました。
「懐かしい」
 フェルンが思わず微笑みます。
 近くにはヤグナムやデミ・コボルトの彫像などもあり、一瞬、フェルンと瑞希はウィンクルムとしてまだ駆け出しだった時代に戻りました。
「元気でしょうか。カロリーナさんにダリオさん……」
 瑞希も昔の事を思い出す表情になりました。
 瑞希が初めて戦闘に赴いたのはシレーヌとセイレーン岬に行くためでした。そのときの緊張感は未だ忘れる事が出来ません。
 そして、カロリーナとダリオは、フェルンと瑞希達のウィンクルムとしての資質を認めてくれた経験豊富なウィンクルムでした。
 カロリーナたちとともに戦った事も、頼もしい言葉をかけてくれた事も、二人にとっては大切な思い出です。
「あのときから……もう二年以上もの時間が経っているんだね。月日が流れるのはあっという間だ」
 フェルンは目を細めながらオーガ達の作品を見渡しました。
「光陰矢の如しですね。私達も随分たくさんのオーガと戦いました」
 瑞希もさすがに感慨深いといった様子です。
「そうだね。ヤグナムのような雑魚だけではなく、本当に色々なオーガと戦った」
 フェルンも頷きます。
「私達の戦った全てのオーガがこの展覧会にはいるんでしょうか……」
 瑞希はパンフレットを開きながら首を傾げています。
「さあ、どうだろう。ひょっとしたらいるかもしれないね」
「探してみましょう」
 二人はまた連れだって歩き出しました。
「初めてオーガと戦った時の事は覚えている?」
 フェルンが瑞希に尋ねました。
「勿論です。シレーヌさんの歌も、覚えてます」
 瑞希は即答しました。
「もっとも、シレーヌさんの歌の芸術的な意味は、私は……」
「うん?」
 瑞希は芸術的な感性に乏しいと自分で思っています。
「シレーヌさんが愛しい人に会いたいという気持ちは分かるんですけれど、私は歌を理解しているかどうかは、自分でも分かりません」
「本当にそう思っている?」
 フェルンは立ち止まって瑞希の事を振り返りました。
「ええ」
 瑞希は同じく立ち止まって頷きます。
「ミズキ。あのときは分からなかったかもしれないけれど、今なら分かっていることはあるはずだよ」
「え--」
 瑞希は目を瞬きました。
「例えば僕が波にさらわれた彼で、ミズキが岬で歌う立場だったとしたら……。それでも、シレーヌさんの気持ちは分からないか」
「そ、それはっ……」
 瑞希は本当に珍しく狼狽えた表情を見せました。
「逆に僕は……ミズキが波にさらわれてしまったとしたら……」
 フェルンはそう言いかけて言葉を切りました。
「そうなった時に、僕が岬で歌い続けるかどうかは、分からないけれど。もしかして廃人のようになっているかもしれないからね」
「廃人? そんな、フェルンさん……」
 瑞希はすっかり困惑しています。
「ミズキ。君は、初めての戦いの時よりも、明らかに成長しているよ。強くなったし、優しくなった。色々な事も分かるようになったはずだ。君は、シレーヌさんの歌が分からないと自分で思い込んでいるだけだし、様々な芸術の事だって、本当は分かっているのかもしれない……」
 フェルンは瑞希の黒髪にそっと触れながらそう言いました。
「それはフェルンさんの買いかぶりだと思います」
 そこは冷静な調子で瑞希は首を左右に振りました。
「でも、そうですね。フェルンさんがもしも波間に消えてしまったら……私は……」
 瑞希の声は次第に低くなっていきました。
 ウィンクルムである以上。
 フェルンが戦いの中で、必ず自分の所へ帰って来てくれるとは、限らないのです。
「そのときまで冷静でいられるかは、分かりません。シレーヌさんの歌が全て分かる訳ではないけれど、歌い続ける気持ちは……きっと、よく分かるようになるのだと、思います」
 歌は理解出来ないけれど、歌いたくなる事は分かる……。
 初めての戦いの時は分からなかったけれど。
「……ミズキは僕の隣で、一緒に成長してくれた大切な女の子だ。僕はミズキの事を本当に誇りに思っているよ」
 フェルンはそんな瑞希に微笑みかけて、今までの戦い全てを振り返りました。
 決して光だけに満ちていた訳ではない。だけど、そこにはかけがえのない二人だけの足跡があるのです。



依頼結果:成功
MVP

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エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月10日
出発日 10月21日 00:00
予定納品日 10月31日

参加者

会議室


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