貴方と過ごす日々の中で(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●僕らの紡ぐ物語
「よいしょ、っと……ふう。あとちょっと、かな?」
「だな。お疲れさん、相棒」
 ぱし、と背を叩かれる。その遠慮のなさに、ウィンクルムの片割れたる黒髪の青年――少し背の低いこちらの方が精霊だ――は、むぅ、と唇を尖らせた。
「ちょっと、痛いってば」
「悪い悪い。……ちょっとさ、その、嬉しくって」
 切れ長の瞳を面映ゆげに細めて、茶髪の青年――神人の方が首の後ろをがしがしと掻く。
「思えばさ、色んなことがあったよな、俺達」
「……うん、そうだね。出会って、喧嘩して、いつの間にか気の置けない仲になって」
「危ない目にも遭ったよな。助けてくれたのは、ウィンクルムだった」
「あの頃は、夢にも思ってなかったよね。まさか……」
「自分達もウィンクルムになるなんて、って?」
「うん、そう。それにまさか……俺達がこういう仲になるなんて、っていうのも」
 頬を朱に染める相棒兼恋人の頭を、茶髪の青年はぐりぐりとした。
「そんな顔するなよ、こっちまで照れるだろ? ……ほら、引越しの準備、さっさと終わらせようぜ?」
 頷いて、黒髪の青年は乱れた髪を整えながら、窓越しの空を見遣る。
「ん? どうした?」
「いや……先輩のウィンクルム達もさ、こうやってちょっとずつ前に進んでいったのかな、って思ったんだ」
「かもな。何でもない一日も、特別な一日も。少しずつさ、積み重ねていって」
 そうして、新米ウィンクルムの2人は、顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。

 ――さて、今日はどんな一日を始めよう?

解説

●概要
ウィンクルムのお二人が過ごすある一日の、ある時間を描くエピソードです。
晴れの日でも、雨の日でも。何でもない一日でも、特別な一日でも。
舞台は首都タブロス及びその周辺となりますが、
家の中で過ごす、どこかへ遊びに出掛ける、等々、行動は自由です。
本エピソードは、自由度が高くなっております。
『(タブロスorタブロス周辺の)どこで』『何をする』のかを、必ずプランにご記入くださいませ。
また、特にご希望がございましたら、時間帯や天気等も添えていただければと思います。

●消費ジェールについて
その日の食事代等として300ジェール消費させていただきます。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

まだ諸々の見通しが立っていないので突然ひょっこりと顔を出すかもしれませんが、
男性PC様サイドの方は一先ず、古城カフェの最後のエピソードとこちらのエピソードで、
長く続いたこの世界の物語の中で、当方が必ずやっておきたかったことは終了となります。
ウィンクルムの皆様が「やっておきたい!」と思っていることも、
このエピソードを通して、幾らかでも叶えていただけたらという気持ちでございます。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  (店の定休日の朝の自宅。後から起きてきて)
ん、おはよう。

それなりに長い間一緒にいたけれど
それでもまだ知らなかった一面があるわけで
例えば目玉焼きには醤油派だったり
数字に強かったり(おかげで帳簿付けが楽になった)
こいつもいつまでも子犬じゃねえんだな、なんて思ったのは秘密だ
そういう新しい発見があることを嬉しく思えるのも、
きっとこいつの影響だろう

服なぁ、関心つったって今更じゃねえか……?
まあ、あれだ
お前が見立ててくれよ
但しドレスとか持ってきたら殴る(真顔)
んじゃ今日は買い物にでも行くか
……今度、実家に帰るつもりだしな
土産の一つも買っておこう
ん?お前も来るんだぞ?
家族が増えた報告くらいしないとな


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  思いつきかな、とピクニック準備

■紅葉とコスモス畑を通りついた先。母関連(136
(土砂崩れで亡くなったお母さんのこと。ここなんだ…)
タイガにならい手を合わせ
(セラフィムと言います。タイガにはいつもお世話になってます。お義母さん)
っ!婚約者って!?
そうだけど…(もごもご
僕もタイガと結婚したいし、将来はそのつもりでいるけど
…プロポーズは、された覚えがない

ご、ごめん。何ムキになっているんだろ(羞恥心
タイガはこうやって宣言してくれてるし入ってるよね

喜んで。隣に居させてください

タイガ!?あぶなっ!いって
あはは、お弁当ぐちゃぐちゃになってても知らないよ

あとでコスモスの花冠をタイガに被せ(101から練習した


信城いつき(ミカ)
  ミカの自宅。仕事の休憩中

ミカはオーダーメイドとかやらないの?
俺はいつもミカ作ったアクセサリー、いいって言ってるのに
どーせ俺が褒めたって信じてないんだー

少し拗ねてみたら、意外にミカから真面目に返された
確かにアクセの出来について意見するのは、技術的にも心情的にも難しい
俺はまだ対等にミカと仕事できてないのかな…

ミカがくれたの…名刺だ
前に俺が欲しいって言ったから?

そうじゃないんだ
厳しいことも言われたけど、
ちゃんと俺の仕事を評価してくれたんだ

ミカもこんな風に評価して欲しいのかな。
厳しい事も受け入れてもいいものを作りたいって

もっと勉強もしてしっかり意見も言えるように頑張るから
いいもの作ろうね、一緒に。


ユズリノ(シャーマイン)
  昼過ぎのカフェテラス
可愛いな~夢菓子だよ~♪
2人で秋の味覚のスイーツを愉しんでいたら彼から思いがけない言葉
パティシエ?
初めて聞いた言葉で彼がお菓子職人の事だと教えてくれた

思い出を話してると僕はよく彼に観察されていたんだと気付き恥かしくも嬉しい
考えた事もなかった 僕がお菓子職人…
僕も将来の事考えなくはないんだけど
今が幸せだからこのままでいられたら、なんて

縛られてるなんて思ってないよ
シャミィが帰ってくる家だからね 家事も楽しい エヘヘ
でも…考えてみるね僕に何ができるのか
スイーツぱくり
パティシエ…夢菓子職人…素敵だね
彼と微笑み合う

ハト公園
…でも もし僕が仕事で外に出る様になったら家事困らない?
末永い?(ドキ


歩隆 翠雨(王生 那音)
  骨董店(休業日)で大掃除
じーさんが言ってた
古き良きものを並べる店は綺麗でなくてはいけない
毎月の習慣で大変だけどやり甲斐がある…そんな話を那音にしたら、手伝いたい?
そりゃあ、助かるけど…大した礼も出来ないぜ?
断る理由もない
手際よい那音の仕事ぶりに舌を巻きながら、ひたすら胸がざわめく感覚に戸惑い

手伝って貰ってるのに何してるんだ、手を動かさないと…
不意に足元がぐらつき

驚いて声が出ない
心臓が五月蠅い
これが初めてではないのに
どうして…

那音の言葉に逃げなければと思い
何故?
俺は…

…ずっと信じられなかったんだ

俺は…きっと凄く面倒くさいぜ
そう口に出した時に気付いた
那音を失いたくない
そうか…好き、なんだ
俺は那音が


●僕らの未来はどこまでも
「可愛いな~夢菓子だよ~♪」
 昼下がりのカフェテラスにて。秋の味覚をふんだんに使ったきらきらしいスイーツを前に、ユズリノは緑の瞳を宝石の如くに輝かせる。そんなユズリノの様子を柔らかい眼差しで見遣っていたシャーマインが、秋色ドリンクを一口喉に流したあとで、ふと、口を開いた。
「リノは、パティシエに興味はないか?」
 南瓜のプリンを一匙もぐりとしたところだったユズリノが、思いもかけない問い掛けに双眸をぱちぱちと瞬かせる。その首が、こてん、と傾いた。
「パティシエ?」
 初めて聞く言葉を前に目をまんまるにするユズリノへと、シャーマインは「お菓子職人の事だ」と優しい響きの声で応じる。そうしてシャーマインは、テーブルの上、まさに大切な話をする時の為のように指を組み、あたたかな、それでいてどこか諭すような調子で声を零すのだ。
「リノはスイーツを食べるのも眺めるのも作るのも好きだし、そこには勉強しようという向上心があるし、何より……」
「何より?」
「人の為に作るのが好きだ。素養は揃ってる気がするけどな」
 にっ、と、そこまで言い終えたシャーマインのかんばせに明るい笑みが乗った。虚を突かれた様子でじぃと自分の顔を見つめるユズリノを前に、シャーマインは、歌うようにして2人の思い出を音に紡いでいく。
「お祭りで食べた綿あめやチョコバナナ、覚えてるか?」
「! 勿論! 綿あめは夢みたいに甘いし、チョコバナナを考えた人って天才だよね!」
 神妙にシャーマインの言葉を噛み締めていたユズリノの声が、ぱっと華やいだ。
「古城カフェのスイーツや、バレンタインのチョコバザーは?」
「忘れないよ。古城カフェで食べたのは、今日みたいに秋のスイーツだったよね」
 そこまで言って、ユズリノはハッと気付く。
(僕、シャミィによく観察されていたんだ……)
 その事実が、恥ずかしくも嬉しかった。シャーマインへとはにかみ笑いを零したあとで、ユズリノは、考え込むように手元のスイーツへと視線を落とす。
「考えた事もなかった。僕が、お菓子職人……」
「リノの『夢菓子』は、ストレートに伝わってくる素直な表現で俺は好きだ」
 リノなら素敵な『夢菓子』を沢山作れると、シャーマインはふっと口元を綻ばせて言った。ありがとう、と目元を和らげるユズリノ。
「僕も将来の事考えなくはないんだけど、今が幸せだからこのままでいられたら、なんて」
「俺としても今の生活は申し分ないんだが、リノの可能性を考えると家に縛っておくのは勿体ないと思ってな」
「縛られてるなんて思ってないよ。シャミィが帰ってくる家だからね、家事も楽しい」
 エヘヘ、とくすぐったいように笑って、ユズリノは「でも」と言葉を続けた。
「考えてみるね、僕に何ができるのか」
 真っ直ぐに告げて、今度はモンブランをぱくり。幸せの味が、口の中に広がった。
「パティシエ……夢菓子職人……素敵だね」
 顔を見合わせ、微笑み合って。カフェでのひと時を終えた2人は、ハト公園へと向かう。赤く染まった紅葉の美しさに、ユズリノは「わあ」と感嘆の声を漏らした。
「ねえ、さっきの話だけど……もし僕が仕事で外に出る様になったら家事困らない?」
「ん? そこは分担会議だな。二人の末永い幸福な生活の為に」
 金の双眸に紅葉の色を映してのシャーマインの言葉に、ユズリノの胸はどきりと跳ねる。
「末永い?」
「そう」
 短く応じて口の端を上げ、ユズリノをそっと抱き寄せるシャーマイン。可愛い恋人の青灰色の前髪を指で優しく流して、シャーマインは露わになった額へと、誓いのような甘い口付けを零した。

●君に近付く一歩
「ミカはさ、オーダーメイドとかやらないの?」
 ミカの自宅にて。仕事の合間、休憩時間の最中に、信城いつきはふとそんな問いを口にした。あたたかい飲み物を喉に流したあとで、素っ気なくミカが言う。
「以前オーダーうけて自分の実力不足を知ったからな、当分先の話だ」
「えー」
 漏らした声に、幼さの残るかんばせに。いつきがわかりやすく不平を滲ませれば、
「何だその反応は」
 と、いつきを見遣るミカの目には、じとりと呆れの色が混ざった。むう、と唇を尖らせるいつき。
「だって、俺はいつもミカが作ったアクセサリー、いいって言ってるのに」
「だから、理由も説明してやっただろ」
「そうだけど……どーせ俺が褒めたって信じてないんだー」
 少し拗ねたような調子で零してみれば、「あのなぁ」とミカはどこまでも真面目な顔でいつきを見る。いつきはぱちぱちと瞳を瞬かせた。予想外の反応だったのだ。
「じゃあチビ、お前は俺の作品にダメ出しできるのか?」
「え?」
 与えられたのは、いつきの側からしてみれば唐突な問い。いつきが答えに窮していれば、「ほらな」とミカは肩を竦める。
「……褒めてもらうのは嬉しいが、批評もきちんともらえない以上そのまま鵜呑みにはできない。わかるだろ?」
 ミカの言葉は、いつきの胸にずばりと刺さった。ミカの言う通り、いつきには、ミカの作るアクセサリーの出来について意見することは少なくとも今はまだ難しい。技術的にも、また、心情的な面から見てもだ。その良さを語ることなら存分にできるけれど、それでは足りないのだと思い知る。
(俺はまだ、対等にミカと仕事できてないのかな……)
 しゅん、と、一度に静かになるいつきの姿に、ミカは胸の内だけで「しまった」と呟いた。
(チビが凹んだ。信用できないという意味じゃ無くてだな……)
 けれど、言葉でそれを伝えるのはミカにとっては簡単なことではない。少し考えて、ミカは用意してあった『それ』の存在に思い当たった。今こそ、渡すのに丁度いいタイミングだ。
「――チビ、これやる」
「へ? これ……名刺だ」
 ミカがいつきに手渡したのは、いつきが口にした通りのものだった。以前いつきが、一番欲しいと言っていたものだ。
「ええと……前に俺が欲しいって言ったから?」
「いや、お前が欲しがってたからからじゃないぞ」
 じゃあ何で? といつきの目が問うている。だからミカは、素直すぎる眼差しに幾らかの面映ゆさこそ覚えながらも、混じりけのない真剣さで音を紡いだ。
「俺が注意した事をひとつひとつこなしていって、関係者の対応や材料の手配をしたり、アイデアもくれただろ」
 俺が言わずとも納品時に検品してくれたのも知ってる、ともミカは言う。金の双眸で、真っ正面からいつきを見遣って。
「作り手ではなくても『俺の作品』に関わってる。だから渡すんだ」
 名刺を手渡された意味を知れば、手のひらの中のそれが、眩く煌めいて見えた。
(そっか。厳しいことも言われたけど、ちゃんと俺の仕事を評価してくれたんだ)
 名刺は、その証。ミカの真摯さが、温もりになっていつきの手と胸に染みる。
(ミカもこんな風に評価して欲しいのかな。厳しい事も受け入れてもいいものを作りたいって)
 ならば、いつきにできることは一つだけだ。
「あのさ、ミカ」
「何だ」
「俺、もっと勉強もしてしっかり意見も言えるように頑張るから。いいもの作ろうね、一緒に」
 ミカの目を見て、口元には明るい笑みを乗せて、決意と想いを伝える。青の双眸には、揺らぎない、真っ直ぐな輝きが宿っていた。ミカの口の端が、ふっと上がる。
「ああ」
 短い返事に満足げに笑みを深くして、いつきは手元の名刺へととっておきの宝物に向けるような視線を落とした。
「……あと、喜ばれるのは普通に嬉しいからな」
 ぼそりとミカが零した声は、いつきの耳に届いたか、どうだったか。

●貴方と歩む日々を
「今日はー和食ー」
 機嫌良く歌いながら、イグニス=アルデバランは火を止めた鍋の中に手際良く味噌を溶かす。初瀬=秀が起き出してきたのは、それから程なく、煮えばなの味噌汁にイグニスがねぎを加えた時だった。イグニスの表情が、益々明るく華やぐ。
「あ、おはようございます秀様!」
「ああ、おはよう」
 今日は、秀の店は定休日だ。自宅の台所に漂う味噌汁の香りは、眩しいような朝の色を纏っている。
「ご飯は新米ですよ! 味噌汁もできましたよ!」
「ん、ありがとな」
 秀の声を耳に如才なく火を止めて、テーブルに出来立ての朝食を並べるイグニス。口元に手を遣って秀がふあ、と欠伸をするのに、イグニスはそっと微笑んだ。イグニスが秀の家に引っ越してきてから、しばらくが経っている。
「ふふー」
「うん? 何だよ、イグニス」
「いえ、一緒に住み始めて初めて気が付くこともあったりして、それもまた楽しいですね!」
 例えば、おやすみの日の朝はおねぼうさんであるとか! との言葉に、まだ幾らか眠たげだった秀が、きゅっと口元を引き締めた。それを見たイグニスの目元が和らぐのに、決まり悪げに首の後ろをがしがしと掻く秀。
「……まあ、それなりに長い間一緒にいたが、それでもまだ知らなかった一面はあるな」
「わ、秀様もでしたか! 例えば!」
「例えば? ……目玉焼きには醤油派だ、とか。あとは、数字に強い」
 おかげで帳簿付けが楽になった、というのをしみじみと感じている秀である。こいつもいつまでも子犬じゃねえんだな、なんて思っているそのことは、胸の中に厳重に仕舞っておく。
(で、そういう新しい発見があることを嬉しく思えるのも、きっとこいつの影響だろう)
 実際、イグニスの方は、目に見えて楽しげだった。と、あれもこれもと新しい発見を指折り数え上げていっていたイグニスが、「あと」と不意にぎゅっと拳を握る。
「部屋着が、学生時代のジャージだったとか!」
「……それ、力説するところか?」
「しますとも! 体型変わってないの凄いですねとかそういう問題以前に! 服を! 買いましょうよ!!」
 力強くイグニスは言うが、秀の方は首を傾けるばかり。
「服なぁ……別に、今のままでよくないかね」
「そんな! お料理以外の関心はないんですかー!」
「関心つったって、今更じゃねえか……?」
 秀の方はやはりピンときていないのだが、イグニスはぷんすこと唇を尖らせている。だから秀は、「あー……」と、居心地悪げな顔で短い黒髪を撫でつけた。
「まあ、あれだ。なら、お前が見立ててくれよ」
 秀の言葉に、がばっ! と身を乗り出すイグニス。青の双眸が、ぴっかぴかに煌めいている。
「お任せいただける!? 私、頑張っちゃいますよ!」
「但しドレスとか持ってきたら殴る」
「えっ! なんでわかったんですか!?」
 真顔で零された険呑な台詞に、心底からびっくりしたという顔をするイグニスだ。ちょっぴり渋々、イグニスは言葉を続ける。
「じゃあ、ドレス以外の方向で……」
「よし。んじゃ、今日は買い物にでも行くか。……今度、実家に帰るつもりだしな」
 土産の一つも買っておこう、との秀の言葉に、
「里帰りというやつですか、お土産待ってますね」
 なんて、イグニスはにっこりとした。「ん?」と秀が怪訝な顔になる。
「いや、お前も来るんだぞ?」
「え、私も?」
 きょとりとするイグニスを前に、秀は今更のように、面映ゆげに銀の眼差しを逸らした。
「……家族が増えた報告くらいしないとな」
「!」
 イグニスの双眸が、パッと見開かれる。本人同様正直者の尻尾が、ピン! と真っ直ぐに立った。驚きのあとに訪れるのは、胸を満たす柔らかな幸福。
「ふふー、そうですよね!」
 王子様のかんばせに、とびっきりの笑顔の花が咲く。星が散るようなその眩さに、姫君は色付き眼鏡の向こうの双眸をふっと細めて、出来立ての味噌汁を口に運んだ。

●君に誓う
「ここだ! ここ」
 タブロスの外れ、紅葉が拝める山の麓の拓けた場所に、火山 タイガの声が朗々と響く。
「ここにさ、俺の元の家が建ってたんだ。今は、なーんもねぇけど」
 タイガが緑の双眸で見渡すのと同じものを、セラフィム・ロイスも見遣った。
(土砂崩れで亡くなったお母さんのこと。ここなんだ……)
 紅葉の群れの下を越え、コスモス畑を通って辿り着いた場所だ。大福のように笑ったというその人のことは、セラフィムもタイガに聞いて知っている。その人が眠っている場所へと、タイガはセラフィムを誘(いざな)った――。
「いや……小さい頃にみてた風景は変わらずにあるか。セラに見てほしくってさ」
 飛ばしていた心を、大切な人の声が呼び戻す。遠く懐かしむような眼差しをしているタイガへと、セラフィムは声を投げた。
「それで、僕をここへ?」
「ん、行きたかった所にセラを連れて行こうって」
「タイガってば、言ってくれないから。思いつきのピクニックかと思った」
 セラフィムの言葉に、声を漏らしてタイガが笑う。屈託なく笑い終えたあとで、タイガは道すがらから咲き誇るコスモスを花束にして供え、手を合わせた。セラフィムも、タイガに倣って合掌し、瞼を閉じる。
(セラフィムと言います。タイガにはいつもお世話になってます。お義母さん)
 心の中で呼び掛ければ、さやと吹く風がセラフィムの髪を柔らかく揺らした。耳に、タイガの声が染み渡る。
「お袋みてっか? 俺は元気にやってるぞ。それで、こっちが婚約者のセラだ」
 腰にそっと手が回り、ぎゅっと抱き寄せられるセラフィム。思わず「わ」と短く声を上げ、目を開ける。タイガの真剣な横顔が、すぐ近くにあった。
「一緒になることを許してくれ。親父達にもセラの両親にもOKもらってっから。後はお袋だけだ。頼む!」
 タイガが紡ぐ言葉には、真摯さと、母親への愛情が滲んでいる。それをきちりと汲み取った上で、けれどセラフィムの頬には、淡い薔薇色が美しく差した。
「っ! タイガ、婚約者って!?」
「へ? だろ?」
「そうだけど……」
 あっけらかんとして言われて、セラフィムは軽く俯き、もごもごと口ごもる。
「僕もタイガと結婚したいし、将来はそのつもりでいるけど……」
 ――プロポーズは、された覚えがない。
 小さな声で訴えれば、タイガの口から「あ」と音が漏れた。その声に、セラフィムは我に返ったようになる。羞恥に、頬が、益々火照った。
「う、ご、ごめん。何ムキになっているんだろ。タイガはこうやって宣言してくれてるし、入ってるよね」
「いや……じゃあ、今する。お袋の前だし丁度いい」
 凛とした声音に、顔を上げる。緑の眼差しが、あまりにも真っ直ぐにセラフィムのことを捉えていた。
「一生かけて大事にするから俺と結婚してください」
 力強い言葉と共に差し出される、手。一つはにかんで、セラフィムはその手に自分の手を重ねようとした。
「……喜んで。隣に居させてください」
 指先が、タイガが差し伸べた手に触れる。次の瞬間には、タイガはセラフィムの身体をぎゅうと抱き締めていた。そうしてタイガは、くるくると回る。嬉しさを、身体いっぱいで表現しようとするように。
「タイガ!? あぶなっ! いって!」
「だって、喜ばずにいられっかよ!」
「あはは、お弁当ぐちゃぐちゃになってても知らないよ」
「あー! でもそれでもいい」
 くるくる、くるくる、幸せは回る。ひとしきり回ったあとで、セラフィムが編み、タイガの頭に乗せたのはコスモスの花冠だ。
「本物の花畑にいくまでに作れるようになってるって言ったの、覚えてる?」
「セラ、これ……練習したのか」
「よく似合うよ、タイガ」
 その人が眠る場所で、その人がかつてタイガに手渡したのと同じ言葉を口にして。セラフィムは、銀の星のような双眸を細め、そっと微笑んだ。

●想い、重なる
「じーさんが言ってた。古き良きものを並べる店は綺麗でなくてはいけない、って」
 場所は、世話になった老人から歩隆 翠雨が受け継いだ骨董店。休業日に大掃除をと思っていたところに顔を出した王生 那音へと、翠雨はそう語った。
「毎月の習慣で大変だけど、やり甲斐があるんだ」
「翠雨さんが言うのなら、そうなんだろうね」
 てきぱきと掃除の準備をこなしていく翠雨へと、那音が柔らかな声音で言う。そして、
「翠雨さん、私も手伝わせてもらっても?」
 なんて、次いで零されたのはそんな申し出。思いもかけない反応に、翠雨は瞳を瞬かせた。
「へ? そりゃあ、助かるけど……大した礼も出来ないぜ?」
「お礼なんて要らないさ。私が手伝いたいんだ」
 目元に、口元に、そっと微笑を乗せる那音。断る理由もないと、翠雨は「ありがとう」と頷いた。言葉とは裏腹に、どこか困ったような顔をして。そのことに気付いてなお、
(――だけど、俺は引けない)
 と、那音は胸の内だけに呟いて、翠雨へと掃除の手順を尋ねる。確認を終えれば、大掃除の始まりだ。
「翠雨さんの足を引っ張らないようにしないといけないな」
 とは言いながらも、那音の手際は見事なものだった。天井や照明の埃を綺麗に叩き、或いは拭い。棚は丁寧に磨き上げ、床は奥から手前へと角や隅まで念を入れて拭いていく。その仕事ぶりに舌を巻きながらも、翠雨は、ざわめきが収まることなく淀む胸をぎゅ、と押さえた。戸惑いに、水色の瞳が揺れる。
(手伝って貰ってるのに、何してるんだ)
 手を動かさないと、と、頭ではそう思うのだ。それなのに、ままならない心がその邪魔をする。
(掃除だ、掃除。集中しろ、俺)
 胸中に唱えて、脚立の上、ぐんと腕を伸ばす翠雨。常ならば、翠雨はもっと慎重に動いたかもしれない。けれど、今は『常』ではなかった。那音がいる。胸には、形容し難い何かが満ちている。
「翠雨さん、高い棚は俺が……」
 翠雨の様子がおかしいことを気に掛けていた那音がそう声を投げた時には、もう遅かった。翠雨の足元が、那音の目の前でぐらりと揺れる。バランスを失った翠雨の身体が、脚立の上から成す術もなく落ちて――、
(……!)
 次の瞬間には、床の上、翠雨は那音にしっかりと抱き留められていた。その直前、唇に唇が触れた感覚が翠雨から声を攫う中、
(これで何度目だ? 恋人でもないのに……)
 と、那音は浮かぶ自嘲の笑みを綺麗に押し隠さんとする。何でもない顔、何でもない声を作って「大丈夫か?」と尋ねるも、翠雨の声はまだ喉の奥に凍りついたままだ。
(これが初めてでもないだろ? なのに、どうして……)
 五月蠅く騒ぐ心臓の音は、翠雨から思考すらも奪わんとしているようだ。翠雨のかんばせに乗る色が、那音の胸を痛いほどに締め付ける。
(……翠雨さんの気持ちを大切にしたい、と)
 今までそう思ってきたし、そう自分を律してきた。けれど、待つ時間はもう終わりだ。
(その表情を見たら、止められない)
 青の双眸が、真っ直ぐに翠雨を捉える。那音の形の良い唇が、心のままに音を紡いだ。
「俺は……翠雨さんが好きだ」
 びくり、翠雨の肩が跳ねる。衝動が、翠雨の胸を、頭を満たした。
 ――逃げなければ。
 けれど、それと同時に、頭の中で囁くもう一つの声。
 ――何故?
(俺は……)
 ああ、そうだ。
(……ずっと、信じられなかったんだ)
 那音の声が、翠雨の耳を柔らかくくすぐる。
「貴方を愛してる。ずっと貴方に恋をしてきた」
 伏せていた眼差しを、翠雨はようやっと、ゆるゆると那音へと向けた。
「俺は……きっと凄く面倒くさいぜ」
 口に出して初めて、翠雨は自覚する。那音を失いたくないという、自分の心に。
(そうか……好き、なんだ。俺は那音が)
 翠雨の言葉に、那音はふっと口元を緩めた。どこか可笑しげに、子供のように楽しそうに。
「ああ、知ってる。そんな貴方が、俺は欲しい。身も心も、全部」
 もう離さないと音にして零されて、翠雨はくしゃりと目元を歪めた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:セラフィム・ロイス
呼び名:セラ
  名前:火山 タイガ
呼び名:タイガ

 

名前:歩隆 翠雨
呼び名:翠雨さん
  名前:王生 那音
呼び名:那音

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月09日
出発日 10月15日 00:00
予定納品日 10月25日

参加者

会議室

  • [3]信城いつき

    2017/10/14-18:18 

  • [2]セラフィム・ロイス

    2017/10/14-03:55 

    :タイガ
    俺、タイガと相棒のセラだ!よろしくー!
    俺らはちょっと出かけてみるつもりだ。ついでにできねーことだし、いい一日になるといいんだけど

  • [1]ユズリノ

    2017/10/12-01:08 

    シャーマイン:
    ユズリノとシャーマインだ、よろしく。


PAGE TOP