プロローグ
タブロス市内にある書店に併設の和風カフェがオープンした。というチラシが入ってきたのは、まだ少し暑い初秋の頃でした。
「ねぇねぇ。ここ行かない?」
「本屋ですか?」
普段、本など読まない神人が珍しい。という表情をする精霊を見ないようにしながら彼女は続ける。
「あんた本好きでしょ。ここ、お店の中の本をカフェで読んだりも出来るんだって。ゆっくり本選び出来るよ?」
「……あぁ、貴女の目的はこれですか」
精霊の鋭い視線がきらりと光り、彼女の手に隠れていたドリンク一品無料のクーポンを見つける。
「う……だって、抹茶ラテ美味しそうなんだもん!」
店の一押しなのか、写真付きで紹介されている。それよりもその少し下にある【秋のスイーツフェア】という文字に内心彼は惹かれていた。
「まあ、良いでしょう。行きましょう」
初秋とはいえ、まだ昼間は暑い。冷房の効いた部屋というのはそれだけでなかなかに魅力的だ。
「良いの?!じゃあ、今日のデートは本屋デートだね!」
「えぇ。貴女に本の良さをたっぷり教えてあげましょう」
「い、いや。それはいらないかなぁ……」
苦笑いを浮かべ後ずさる彼女に、冗談ですよ。と精霊は微笑みながら活字嫌いの彼女でも興味を持ちそうな本があればプレゼントするのも悪くない。と新しい出会いに思いを馳せた。
解説
・概要
本屋デートをお楽しみください。
写真集や小説、絵本等が多く並び、大型の本屋ではあまり見かけないような掘り出し物もちらほら見えます。
探している本があれば大体の場合店員が出してきてくれますので、見つからない方がいい場合はプラン内にお書きください。
併設のカフェは、普通のテーブル席の他ソファー席や、テラス席もありますので、お好きな場所でお寛ぎ下さい。
本はあまり……という人でも楽しめるようにカフェだけでも楽しめるようになっています。勿論、カフェだけの利用でもクーポンは使用できます。
無料ではありませんが、スイーツや軽食も置いてあります。(注文しても別途Jrは発生しません)
無料で選べるドリンクは以下のようになります。
抹茶(温のみ)
グリーンティ(温・冷)
抹茶ラテ(温・冷)
コーヒー(温・冷)
・ジェールについて
諸々で300Jr消費致しました。
ゲームマスターより
こんにちは。または初めまして。龍川那月と申します。
秋ということで、読書の秋はいかがでしょうか。プロローグの彼女の様に本はちょっと……という方はカフェで食欲の秋をお楽しみください。
皆様の素敵なプランをお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
抹茶ラテ(冷)を注文 可愛いお店ね 読書の秋とも言うし、たまにはお茶をしながらゆっくり読書も素敵だわ そういえば、シリウスはどんな本を読むの? 彼の持つ分厚い本に目を丸く そういうのが面白い? 返ってきた答えに少し眉を下げる 今日くらい、ゆっくり楽しめる本を読めばいいのに… あ、そうだ。それなら、今日は相手のお薦めの本を読まない? わたし、シリウスが好きになりそうな本がんばって探す ダメかしら? 返ってきた答えにぱっと笑顔 ありがとう! 星の写真や物語の本を彼に 一瞬見開かれた目にどきりとするが 解けた笑顔につられて笑う 渡された絵本に目を輝かせ 抱きしめる 思い出の本ね?素敵ね、ありがとう 優しい絵 わたしも好きになりそう |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
和風カフェ……。和菓子、あるのかな。 (動きを目で追って、一拍遅れて言葉の意味を理解する 「うん」 本選び: どんな本が置いてあるのか、興味に任せて見て回る。 歴史のコーナーにあった図書館の写真集を引っ張り出す。世界各地の図書館の写真を年代ごとに掲載してる本。 一回見たかったやつだ。(しっかり抱えて、ルシェを振り返る 「うん。でも、見てから買うか決める、から」(顔をそっと伺う (頷いて、本をしっかり抱えルシェの隣に並ぶ カフェ:抹茶ラテ(冷)、モンブラン 「汚したら困るから。モンブラン食べてから」(本を汚さないように置く 結構甘いけど、おいしい。 「ルシェは、本いいの?」 (一瞬固まり、逃げるようにモンブランに集中する |
水田 茉莉花(八月一日 智)
あったあった、これこれ 昔読んだことのある絵本なの、見つかって良かった うん、あの時の火災で燃えちゃったから もう一回手に入れたかったの それでね、雪がひどくてモグラさんの家で暖まっていくんだけど… ほづみさん、声! それでスープで元気になる話なの …ああ、やっぱり美味しそうだなぁ、このモグラさんのスープ うん、それしか見えないけど、とっても美味しそうに見えたの、このスープ 何回か作ってみたんだけどね、どうもこれって味にならなかったのを覚えてるわ あれ?本当だ! 記憶の色だとニンジンと一緒になってた、これはお肉っぽい色よね? ほづみさん…ありがとう、とても楽しみ♪(ニコ) うん、この本と一緒なら、あの子もきっと喜ぶわ |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
私、本屋さん大好きです。それこそ1日中居ても退屈しません。 カフェ併設でますます居心地の良い場所になりますね。 正直言って、根が生えそう。 でも今日は、フェルンさんがどんな本を読むのか気になります。 私が歴史書とか戦記物が好き、ってフェルンさんは知ってるけど。 私、フェルンさんがどんな本が好きなのか、ちゃんと判っていないかも。 彼は、色々な所の写真集見ているのが多いですね。 文字より風景が好みなのかも。 私は温かい抹茶ラテをお願いしますね。 お気に入りの小説最新刊を買って。 でもそれは読まずにフェルンさんの見てる旅行誌を覗きこみます。 クリスマスなら古い大聖堂のある地方都市とか、素敵かも? そうですね。行きたいです。 |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
EP87以降諦める事で心の平穏を保とうとしている テラス席 抹茶ラテ温 本の内容がやはり宝石関連でクスリ …本当に宝石が好きなんだね 生き甲斐かぁ…何かに没頭できるのって、いいよね 何も考えなくていいからと心中でぼそり 何? えっ…?! 手を握られ突然の語り出しに固まる 何を言っているのだろうこの人は 振るえる手に この人にも怖いものって、あるんだ… 不器用に気持ちを伝えられて 諦めかけた気持ちがまた燻り熱を持つ でもまだ決定的な一言はくれない 狡い人だなと思うと同時にらしいなとも思う どんな好きであれ好意的に思ってくれているのが分かり笑み …離れないよ 私はあなたの事が好きだから せめて返事のその時までは…好きでいてもいい、よね? |
●温かいスープ( 水田 茉莉花&八月一日 智 編 )
「まりかー、さっきからナニ探してんだぁ?」
タブロス市内にある本屋に新しく併設されたカフェ。その一席でパンケーキを口に運びながら八月一日 智がパートナーに声をかける。
「あったあった、これこれ」
丁度探し物が見つかった水田 茉莉花が一冊の絵本を手に戻ってくる。
「昔読んだことのある絵本なの、見つかって良かった」
「ふーん『お医者さんは野ねずみです』…ねぇ」
白衣を着たねずみと子供向けだからだろう、可愛いひらがなが表紙を飾っている。
「うん、あの時の火災で燃えちゃったから、もう一回手に入れたかったの」
懐かしそうに表紙を指でなぞる茉莉花の瞳は優しい。
「へー、雪の日にクマの家に往診に行く話なんだ」
どんな話なのかとページをめくっていく智を楽しそうな茉莉花の声が先導していく。
「それでね、雪がひどくてモグラさんの家で暖まっていくんだけど……」
「暖まってる間に春になった?しかもクマは腹減ってただけ?何だこの話は!」
智がゲラゲラと笑う。子供向けらしいほっこりとした話の流れだが、智の予想していた展開とはかなりのずれがあったようだ。
「ほづみさん、声!」
「……うぇーい、静かにしまっす」
カフェとはいえ、ここは本屋。静かな空間に似合わない笑い声に茉莉花がぴしゃりと注意すると、首をすくめる智。
「それでスープで元気になる話なの」
エンディングまで話し終えた茉莉花の視線が、スープのイラストの上で止まる。
「……ああ、やっぱり美味しそうだなぁ、このモグラさんのスープ」
「ああ、このスープか。入ってるのは人参とじゃが芋と…ってかそれしか見えねぇな」
本文に書かれていた二つの食材の他にも何か入っていないかとスープを見るが、智の目には赤と白の塊が浮かんでいるようにしか見えない。
「うん、それしか見えないけど、とっても美味しそうに見えたの、このスープ。
何回か作ってみたんだけどね、どうもこれって味にならなかったのを覚えてるわ」
彼女の子供心には相当美味しそうに見えたようで、苦笑しながら言葉を紡ぐ神人の声は少し残念そうだ。
「んー、出汁とあめ色玉ねぎで何とかするしかねぇかな?」
料理が趣味の智としても、彼女をそこまで言わせるこのスープが気になってきた。何とか再現できればと少ないヒントからあれこれ想像を膨らませていく。
「スープ透明っぽく見えるし……アレ?この欠片ってじゃが芋でも人参でもねー色だぞ?」
最初は二種類の塊しか見えなかったスープ。よく見るとその二つよりも小さめではあるが茶色い塊も見える事に彼は気が付いた。
「あれ?本当だ!記憶の色だとニンジンと一緒になってた、これはお肉っぽい色よね?」
精霊の指の先を見た茉莉花も声を上げる。ここに正解の糸口がありそうだ。料理の知識やレシピが智の頭の中を駆け巡る。
(見えた!)
「ブロックのベーコンをあめ色玉ねぎに入れて炒めて煮るんだ。これなら作れる!今日の夕飯はこれにするぞまりか!」
それならこの見た目で美味しいスープになる。そんな確信めいた響きが智の言葉にはあった。
「ほづみさん……ありがとう、とても楽しみ♪」
嬉しそうに微笑む茉莉花。いつも強気な彼女のその声と笑顔に不意打ちをくらって智はドキッとしてしまう。
「お、おう、留守番のチビスケにも喰わせような」
「うん、この本と一緒なら、あの子もきっと喜ぶわ」
そう笑いあう二人。
共に暮らすもう一人の精霊を交えた今夜の夕食は絵本の中でネズミを温め元気にしたそれよりもきっと三人を温めることだろう。
●思い出の本( リチェルカーレ&シリウス 編 )
「可愛いお店ね」
リチェルカーレは店内に視線を送りそう感想を述べた。氷が溶けたのか抹茶ラテが小さく音を立てる。
(読書の秋とも言うし、たまにはお茶をしながらゆっくり読書も素敵だわ)
そう思う彼女の手元には数冊の本がある。
「そういえば、シリウスはどんな本を読むの?」
「……年鑑、とか」
コーヒーカップしか置かれていない自分の手元を見たシリウスが少しの沈黙の後そう答えた。が、『年鑑』という書籍がピンと来ないのか、不思議そうな表情のリチェルカーレの頭上にはてなマークが浮かんだ。
見たほうが早いか。と、苦笑して本棚からシリウスが取り出して見せる。大判の辞書かと思う様な分厚い本に彼女の目が丸くなる。中はどうなっているのだろうと少しめくってみるがリチェルカーレがいつも楽しんでいる読み物とは少し毛色が違う気がする。
「そういうのが面白い?」
「……面白い、というか……。俺の場合、読書は時間潰しか情報収集だから」
こういうものが好きなのかもしれない。そう思いながら投げた疑問に対して返ってきた答えに無意識に彼女の眉が少し下がった。
「今日くらい、ゆっくり楽しめる本を読めばいいのに……」
「読み物として楽しむことは、そう言えばないな」
少しの沈黙。その間何かを考えていたリチェルカーレが再び口を開いた。
「あ、そうだ。それなら、今日は相手のお薦めの本を読まない?」
シリウスの翡翠の瞳が僅かに丸くなる。
「わたし、シリウスが好きになりそうな本がんばって探す」
「……どんな本を選んでも、文句を言うなよ」
彼女がどうこうというよりは、情緒面での機微に疎いと思っている彼には彼女の喜びそうな本を選べる自信が余りない。というのが本音のところだったが、窺うように見上げながらダメかしら?と訴えてくる青と碧の瞳にシリウスはそう答えた。
「ありがとう!」
答えを聞くや否や数秒前と打って変わってぱあっと花が開いたような笑顔を浮かべる彼女に困ったように微笑み、どんな本を選んだものかと彼は考えを巡らせ始めた。
暫くして。
選び終わったからと、渡された星の写真や物語の本にシリウスは目を見開いた。それもつかの間すぐに彼の表情は解け笑顔になる。
知らないうちになにか傷つけてしまったかとドキリとするリチェルカーレもつられるように微笑んだ。
「ありがとう……父が……星が好きな人だった」
今も過去は彼の心を苛み、悲しみの海へと突き落とす。だが、本を見た時によぎったのは確かに温かく幸せな記憶。
「……」
リチェルカーレの微笑みと彼女から渡された星の本に後押しされるように差し出したシリウスの手には一冊の絵本。まだ家族と住んでいた頃読んでいた絵本だと告げる。
「思い出の本ね?素敵ね、ありがとう」
目を輝かせ受け取ると抱きしめるリチェルカーレ。
「優しい絵。わたしも好きになりそう」
絵本の表紙を撫で、嬉しそうに愛おしそうな表情でそう言う彼女に微笑みかけるシリウスの表情には彼女の反応への感謝が見える。
彼女にとっては何気ないかもしれない言葉や素直な彼女の反応、一緒に過ごす穏やかな日々が闇を照らす星の様に自分を照らしてくれている。彼女に渡された星の本に目を落としふとそんなことを彼は思うのだった。
●近づく心( ひろの&ルシエロ=ザガン 編 )
「和風カフェ……。和菓子、あるのかな」
ひろのはチラシを見たままそんなことを呟いた。チラシには秋のスイーツフェアの文字が躍っているが和菓子があるとは書いていない。どうなんだろう。そんなことを考えている彼女は無防備で、隣にいるルシエロ=ザガンと距離を置こうという気持ちはないようだった。
他人との接触を苦手とするこの神人は無意識に警戒するのか他人にこんな無防備な姿をさらしたりしない。それが間近で見られる距離まで近づけたという実感がルシエロの心を喜ばせる。
「行くか」
そう言って立ち上がる精霊に彼女の視線がチラシから彼へと移る。
「うん」
動きを目で追い一瞬右に傾きそうになった頭が、縦に動いた。
(やはり行きたかったらしいな)
どこか嬉しそうな声音にルシエロの口角は穏やかに上がるのだった。
店に入ると、ひろのは言葉もないままに歩き始めた。
どんな本が置いてあるのかと興味に任せて見て回るその姿はルシエロの目に楽しそうに映る。本を手にとってはページをめくり棚に戻す。そして次の棚へ。気の向くままに本を探すその姿は猫の様に愛らしい。
探検するように店内を見ていた彼女の手が歴史のコーナーで止まった。その中の一冊の背表紙をなぞりそっと引き出す。ページをめくるでもなく表紙をまじまじと見ているのは図書館の写真集だった。世界各地の図書館の写真を年代ごとに掲載してるその本はひろのが一度見てみたいと思っていた本だった。その本を大切なものを抱くようにしっかりと抱えパートナーの方を振り返った彼女の視線がルシエロと重なる。
「目当てのものがあったのか?」
「うん。でも、見てから買うか決める、から」
「なら、チラシにあったカフェに行くか。気になってたんだろう?」
顔をそっと伺うひろのにルシエロが声をかける。頷いて本を抱えたまま彼の隣に並ぶ神人の表情はほころんでいるように見えた。
ルシエロの前にコーヒー。ひろのの前には抹茶ラテのグラスとモンブランが置かれる。そこから少し離れたところに本を置く彼女。
「読まないのか?」
「汚したら困るから。モンブラン食べてから」
「そうか」
それ以上追及するわけでもなく頷くと精霊はコーヒーを口に含んだ。ほぼ同タイミングでひろのもモンブランを口へと運ぶ。
(結構甘いけど、おいしい)
「ルシェは、本いいの?」
抹茶ラテのグラスを置き、そういえばとひろのは口を開いた。彼の手元に本は見えない。
「ああ、楽しそうなヒロノが見れたからな」
その言葉に、ひろのが一瞬固まる、そして無言のまま逃げるように視線をモンブランへと移すと食べることに集中し始めた。以前の彼女に同じことを言ってもきっと首が右に傾いて終わっただろう。そして、少しずつ言葉に持たせた含みを理解しはじめた目の前の彼女、本屋に来る前の無防備な姿を思い出し、早く自分のものにしたいとルシエロの心がざわつく。
白昼夢の中で告げた告白。それを撤回する気はないと告げてから彼女の答えはまだもらっていない。ルシエロはずっとそれを待ってきた。
(ここまで待ったんだ。まだ待てる)
ルシエロはそう自分に言い聞かせ逸る心を抑え込むのだった。
●乱れる気持ち( アラノア&ガルヴァン・ヴァールンガルド 編 )
マジカルメディソンの一件以来二人の間を流れる空気はどこかぎくしゃくとしている。
「一緒に行かないか?」
ガルヴァン・ヴァールンガルドがそう言ってアラノアにブックカフェのチラシを見せる。欲しい本があるのだとそう続けるパートナーにアラノアは頷いた。
この想いが実ることはないと諦めることで平穏を保とうとしている心。それでも、一緒にいたいという欲は捨てきれない。
テラス席で抹茶ラテを口にするアラノアの前に、分厚い本を持ってガルヴァンがやってきた。テーブルの上に置かれたのは最新版の宝石図鑑と世界のジュエル全集。全集の帯に書かれた『世間を騒がせた宝石達がこの一冊に』という文字が内容を物語る。
「……本当に宝石が好きなんだね」
クスリとアラノアから笑みがこぼれる。予想していたことではあるが、彼がどれだけ好きなのかを見せつけられているような気分になる。
「ああ……生き甲斐と言って良い」
コーヒーカップに口を付けながら目を細め答える精霊の声は穏やかだ。
「生き甲斐かぁ…何かに没頭できるのって、いいよね」
(何も考えなくていいから)
最後の言葉を心の中だけに収めながら笑う彼女の表情がどこか物憂げにガルヴァンには見えた。
「……アラノア」
「何?」
返ってくるのはいつも通りの大人しい声。
(何か、何か伝えねば)
向かい合っていた椅子を隣に寄せ、ガルヴァンは神人の手を握る。少し冷たく感じる指先が彼女の心の様で、余計にガルヴァンの心をかき乱した。これ以上傷つけたくないが世辞が言えないたちである彼の語彙では彼女を傷つけずに今の気持ちを伝える為の言葉がするするとは出てこない。
「……俺は、お前に興味がある」
「えっ……?!」
少し熱い手で包み込むように握られた自分の手。そして放たれる言葉。
(何を言っているのだろうこの人は)
アラノアの心にあの時の面倒くさそうな彼の言葉が蘇る。あの言葉は今と真逆だった。
「俺は、お前の作る物が好きだ。チョコもタルトもクッキーも、芋の炊き込みご飯の握り飯も好きだ。心が温かくなる」
ガルヴァンの声は真剣だった。
「……かつては誰かに嫌われても何とも思わなかった。だが今は……お前にだけは嫌われたくないと思うようになった」
握る手が震えていることにアラノアは気が付いた。
(この人にも怖いものって、あるんだ……)
彼女は純粋にそう思った。
「お前に嫌われたのではと思うと苦しい。俺から離れないでくれ……」
不器用な言葉と答えを待つような沈黙。その先にあるだろう決定的な一言はまだ彼女の耳に入ってこない。
(狡い人だな)
そう思う。彼の気持ちがどんな好きなのかが分かれば楽になるのに。そう思いながらも、何度も自分に言い聞かせ諦めかけていた気持ちがまた熱を持ち始める。
(でも、らしいな)
自分が知っている彼はそういう人だ。どんな好きであれ好意的に思ってくれているのが分かっただけでもいいのか。
「……離れないよ。私はあなたの事が好きだから」
言葉と共にアラノアの少し温かくなった指が安心させるように小さく握り返す。また聞けた好きに安堵の息を漏らすガルヴァンを見ながらアラノアは心の中で呟く。
(せめて返事のその時までは……好きでいてもいい、よね?)
●冬の計画 ( 瀬谷 瑞希&フェルン・ミュラー 編 )
ある天気のいい日、フェルン・ミュラーが 瀬谷 瑞希に出掛けないかと誘った。
行き先は、とある本屋。瑞希にとって静かに読書を楽しむ時間は至福の時だと知ってのことだ。
「読書が好きだということは知っていたからこう言うところも好きかなと思ったんだ」
道すがら、そうチラシを見せるフェルンに瑞希が小さく声を上げる。
「はい。私、本屋さん大好きです。それこそ1日中居ても退屈しません。カフェ併設でますます居心地の良い場所になりますね。正直言って、根が生えそう」
(カフェが併設されてとても嬉しそうだ。誘って良かった)
心からの笑顔にフェルンも嬉しそうに目を細めた。
「ミズキは何にする?」
「私は温かい抹茶ラテをお願いしますね」
メニューを見ながらフェルンがコ-ヒーを注文するのに続いて彼女も飲み物を注文する。
かしこまりました。と下がる店員を見送ってから、ドリンクが来る前に。と二人はそれぞれ店内を見て回ることにした。
フェルンは瑞希が歴史書や戦記物が好きだと知っている。普段、彼は色々なところの写真集を見ていることが多い。だが、ここには写真集以外の本もたくさんあるし、購入しなくても読める。つまり、いつも気になっているが手が出にくい本も読める環境なのだ。こういった場所でどんな本を読むのか瑞希としてはとても気になるところだ。
お気に入りの小説の最新刊を購入すると鞄へとしまう。今日買った本は帰ってからでも見ることが出来るが、彼がどんな本を読むのかは今この時にしか見ることが出来ない。
瑞希が戻るとテーブルにはドリンクと雑誌が何冊か置かれていた。
(文字より風景が好みなのかも)
そんなことを思いながらフェルンの指の先にある雑誌をのぞき込む瑞希。
(そう言えば、どんな本が好きか。という話をフェルンさんから聞いたことないな)
ぺらぺらとめくられていくページを追いながら彼女は思う。文字より風景が好きなのかもしれないというのも、彼女の推測で彼がそう言ったわけではない。
(私、フェルンさんがどんな本が好きなのか、ちゃんと判っていないかも)
瑞希が本を選んでいる間、フェルンは旅雑誌のコーナーからいくつか選んでいた。これから深まっていく秋から冬にかけて、彼女と訪れるのに良い場所がないか少し調べようと考えたのだ。
(瑞希と一緒に色々な所へ行きたい)
紅葉の綺麗な所や、各地のクリスマスイベントが紹介されてないかとページをめくっていく彼の指がふと止まる。パートナーがのぞき込んでいるのに気が付いたからだ。
ページをめくるペースをゆっくりしながら
「君はドコが良いと思う?」
そう、話を振った時、丁度開かれていたのはクリスマスデート特集のページだった。
「クリスマスなら古い大聖堂のある地方都市とか、素敵かも?」
「うん? 古い大聖堂のある地方都市?」
彼女が指さした先には、イルミネーションが幻想的な大聖堂の写真。
「それは確かに良い感じだね。歴史の古い所とか好きだよね、ミズキは」
(どうやらデートの希望は聞けそうだね)
そんなことを思いながらちらりと場所を確認しつつフェルンは会話を続ける。
「じゃあ今度のクリスマスはそんな大聖堂へ礼拝にでも行こうか?」
「そうですね。行きたいです」
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 龍川 那月 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月28日 |
出発日 | 10月06日 00:00 |
予定納品日 | 10月16日 |