プロローグ
大神祭が各地で開催される中、このバレンタイン地方のある町でも祭りが連日開催されている。
目玉はもちろん、子供達に大人気のチョコレート花火だ。
不思議そうに眉をひそめる、そこのおにいさんおねえさん。ドロドロのチョコが闇夜にあがるわけではないのだよ。そんなもの見えないだろう。
答えは、小さなチョコの粒だ。
甘いお菓子がお空から降ってくる、それだけでも魅惑的で楽しいイベントだけども、
小さなチョコ一つ一つに、色とりどりのカラフルなデコレーションを施したチョコ達が、夜空に打ちあがり大輪の花を咲かせて降り注ぐ。
その甘い香りと綺麗なことといったら。
しかも怪我をしない速度にするために低空に打ち上げるから迫力満点。キャッチして何が取れたか見せあうのも楽しいね。
興味を持ったら一度体験してみてはどうだろう。
そんなツアーコンダクターの誘い文句に乗せられて来たのは数時間前。祭りも終盤を過ぎチョコレート花火も半分は終わったというところ。
子供たちはみんな笑顔で袋や服を広げ、チョコレートをキャッチしようと励んでいる。
いい年した自分たちがするのは大人げなくて大っぴらにはやってないが。懐に入った物は遠慮なくもらっておく。
なかなか遊び心があるいい祭りかもしれない。
そんな中、先ほどまで他の子と一緒にキャッチに励んでいた一人の少年の手をすり抜け、チョコがソーダの噴水へ落ちるのを目撃した。
ありふれた光景だ。
けれどもいつまで経っても項垂れて眺めていたから、気になっていた。
涙目の少年とばちりと目が合い、私と精霊は立ち尽くしていた。どうしようと目線を合わせ、少年を見やった。
「うるさいな。見てんじゃねぇーよ」
「別に話しかけてないし」
「しっ」
精霊の口を押えるも時すでに遅し。睨みつける少年の目線が痛い。ぷい、とそっぽを向けるとそのまま行ってしまった。
慌てて後姿に声をかける。
「ねえ! 落としたチョコどうするの」
「……どうしょうもないだろ」
そう言って走り出す。まだ花火は続いてるというのにいいのだろうか。
周りにいた他の子供たちの会話が耳に入った。
「あーあ。好きな子にあげる、やっと見つけたって張り切ってたのにな。あいつ」
「どうしょうもないだろ。あのチョコレアだし」
「去年も一昨年も取れなかったんだと」
「チョコより告白すればいいのに」
再び精霊と顔を見合わせる。どうしようか、と。関わるか、当初の予定通り自分たちで祭りを満喫するか。
解説
※祭りで300Jrを消費しました。
片思い少年を目撃したのは共通で。【関わる、関わらないは自由に選べます。】熱く語るもよし、ただ一緒に過ごすのもよし。
自分の片思いはどうだった、とウィンクルムで話し合うのもよいかもしれません。もしくは今と重ねて。
「祭りいきそびれた!」とただ参加をきめてもいいのよ?
関わるかどうかもその人の性格だと思うので、好きなように楽しんで下さい。これ重要。
チョコレート花火のチョコもキャッチもできますよ。お気に入りのをみつけちゃいましょう。味や形も教えてくださいね。
バレンタイン地方の独特のお祭り。他の祭りと変わらずお面屋、たこ焼き屋、金魚すくい屋、かき氷屋、たいやき屋など各種あります。
甘い屋台が多めなのはご愛敬です。
■PL情報■※仲良くならない限り教えてくれません。
少年はツンツンデレ。名はリック。6歳。片思い相手はミサちゃん。
ぶっきらぼうにいつも振舞ってしまって悩んでる。ミサの好きなチョコを知り、見つけたが……。
赤茶に金が入った宝石のような楕円のチョコ。
ベンチで体育座りしてあきらめムード。自分で見つけて渡せば恋が叶う気がしてる。
ゲームマスターより
女性側では初めまして。新米GMの、紬ゆらと申します。
ミニイベントのプロローグを見てからどうしても形にしたくて滑り込み、こんな形で出させていただきました。
もう秋めいてきましたが。大神祭はまだまだ続いております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
シルキア・スー(クラウス)
【関わる】 ●動機 お祭りで下向いてるなんてもったいないなーって思って ●話掛けてみる 綺麗なチョコだったね 狙ってたの?(友達の話からして 花火は終わってない チャンスはまだあるよ ツンツンでも怒りません 笑顔になって欲しいなって勝手なお節介だから 話してくれるならうんうんと話し易い相槌を ●掛けたい言葉 この夏を諦めた思い出にしてしまっていいの? どうなるかは今の頑張りに掛ってるのよ!(拳グッ 頑張った思い出は私を強くするから私は欲しいチョコ取りまくるわよー クラウス行こ 君の欲しいチョコも手に入れちゃうかも!(挑発的ウインク 君はどうするの? 花火に戻る お説教ぽかったかな?(不安 ※聞くなら名乗るけど知らない縁もいいかな |
水田 茉莉花(聖)
ひーくんが怒らせたんじゃないの…って、聞いてないのかなこの子はっ! (さっきまで一緒に拾ってたチョコを食べさせる) あ、そうだったの?…じゃあ、みんなに聞いてみようか? チョコ食べながら彼の名前とか好きな子の話とか聞いてみましょう そうねぇ、どこかでへそ曲げて丸まってそうだけど…ひーくんはどう思う? リック君を見つけたら警戒されないように近づいて たこ焼でも差し出しながら、何が悲しかったのか聞いてみるわ 無理には聞かず、話してくれるのを待つの 好きの伝え方はひとつじゃないの、いっぱい有るのよ つっけんどんになっても、素直に伝えられればそれでいいの もしダメだったら…やけ食いすればいいんじゃないの? ちょ…ひーくん! |
大神祭が執り行われ幾日か過ぎた。だが各地独特の祭りが見れるとありツアーや宿泊プランが組まれて賑わいを見せている。
とあるバレンタイン地方のショコランド王国近郊のこの町も大盛況だ。
弾ける音がひびき夜空に花火が上がる。どどん、どどんと。
「わああ!」という子供たちの歓声が一段と上がった。我先にと一直線に駆け寄る。
上空でチョコの玉が弾け、チョコレートの粒が花火となって散った。
黒いチョコはもちろん、イチゴのピンク、レモンの黄色、ミントの青、キャラメルの茶色、ホワイトチョコの白、何の味か食べてみるまでのお楽しみのレインボー。しましま、水玉、ハート、幾何学模様、にっこりマークなど模様も様々。
色だけではない。手に取らないとわからない工芸品のような花や月、丸まった猫や熊、パンダなど愛らしいチョコもある。
具もさまざま、香ばしいナッツに、粒々ベリーに、さくさくクッキーに、それからそれから、ともかく沢山!
個性的なデコレーションはチョコたちのファッションショーのよう。色とりどりの服をまとい降りそそぐ。
またチョコレート花火にかける職人のこだわりか、赤い花火には苺の割合が多いなど、円を描いたり、重さの違うチョコで調整され芸術的な花火となる。
それは他の花火にも引けは取らない。この地方だけの甘く楽しい特別な花火だ。
●穏やかに寄り添う心で
見とれながら一歩踏み出し、煌めいて舞い散るチョコへと手を伸ばす。
「見て。すごいよクラウス」
「本当だな」
あ、落ちちゃう、と最初はつんのめるように、徐々にバランスを取り戻して『シルキア・スー』は花火に負けないほど、緑の瞳をきらきら輝かせ花火のチョコ争奪戦へ加わる。
子供たちの輪の中で踊るようにはしゃぐ、その姿は微笑ましくて『クラウス』は胸に募る愛おしさを改めた。
自分にも取れそうなものは――そう視線をやると目に飛び込んだ一つのチョコに手を伸ばし、受け止めた。
ガーベラのような鮮やかな黄色の花型のチョコ。彼女の心象の花と色だ。
どうしても受け止めたいと思った、それを手にできた喜びが溢れる。ここにあると確かめて。
シルキアの方はどうだったろうと、そちらを見やる。
奇しくもシルキアの手の中には青い薔薇のチョコが見えた。
(俺の心象の花だと言っていたな)
シルキアもクラウスの手にあるチョコに気づいたようだ。言葉はなくとも、気持ちは暖かくて。お互いの心理的な傾向の戦利品に気恥ずかしさを内心抱えつつ、二人は幸福感に包まれていた。
そんな折、少年を見かけたのだ。この町にきたのは偶然。けれども一期一会だろうとも気にかかった。
(お祭りで下向いてるなんてもったいないなー……)
シルキアがクラウスと視線と合わすと、その思いを見越したかのように快く頷くクラウス。感謝して少年の元への歩を進める。
「はあ……」
「綺麗なチョコだったね 狙ってたの?」
祭りの外れにある人気のないベンチで、少年は何度目かのため息をつき、身じろいだ。
そこに転がる鈴の音のような声が聞こえたのだ。弾かれて顔を上げる。
「っ!? あんた、なんで……」
まさかこのタイミングで話しかけられるとは思ってもいなかったのだろう、動揺する少年。
声にならぬのを見越してか、シルキアは「隣に座ってもいい?」と伺い、そっと腰かける。気にしてないよ、と示すかのように。
「別に。……あんたには関係ねーだろ」
かっこ悪いところを見られたとばつが悪い顔をする少年。
迷惑そうではあるが、隣に座っても怒鳴られることもない。良いということだろう。
それとも女性だからか、一対一のその対応がよかったのか。先ほどまでの取り付く島もない反応ではないことに、シルキアは胸を撫でおろした。
「関係はないけど……。でも花火は終わってない。チャンスはまだあるよ」
「……言われなくてもわかってる」
「だったら」
「だからどうした! 俺だって好きで諦めてる訳じゃねーんだ。やっと、やっと今年は見つけて、それで……っ」
少年は怒鳴りつけるも、次第に顔を背けてくぐもった声になる。「渡せると思ったんだ……」そう聞こえた気がする。
「もう、いいだろ……!」
振り払うように声を荒げた。
その怒り顔には、目頭に光るものがあって。
シルキアは少年を真直ぐに見つめて微笑む。傍らで弾けた花火を見上げた。
「笑顔になって欲しいなって勝手なお節介だから」
だから気にしないよ、と。その言葉は口には出さなかったけれど。言わなくても伝わるだろう。
シルキアは静かに落ち着くのを待った。
「……」
少年からは返答はない。呆気にとられているのかもしれない。でもそんな顔を見た後に帰るなんて選択肢になかったから。
ただ隣で微笑み、時に花火を見上げて他愛もなく声をかけた。
「……ほんとお節介。暇人。独り身の俺のことなんてほっといて彼氏んとこ行けよ……」
怒らない、怒らな……。
彼!? 突然降ってわいたその言葉に頬が熱くなる。
クラウスはそうじゃなくてっと言い返したいところを寸前までこらえて。今までの悪態から遠ざけるための言葉とはわかっている。ここはぐっと飲みこんだ。
それにしてもなんと、ませているのだろう。子供同士の会話が気になる。
暫くたって。
はああ、と少年は盛大なため息をつくと、ぽつりぽつりと今までのことを話し始めた。
チョコのこと、ミサのこと、今年やっと見つけて逃したこと、半分ヤケを起こしているのかもしれない。
うん、うん、とその度に相槌をうつ。やがて寂しげながらも穏やかな顔を見せはじめた。
今だと、核心に迫る。
「この夏を諦めた思い出にしてしまっていいの?」
「それは……。もう夏も終わりだし、無理だって」
それはそうかもしれないけど。でも、ここで諦めるのと、やりきって諦めるのは違うから。
「どうなるかは今の頑張りに掛ってるのよ!」
大丈夫! 前を向いて! そう拳を握りしめ勇気付けるシルキア。
「確かにそうだけど……」
シルキアの正面からの熱意に気圧されたのか、否定的な意見はあまりでなくなった。
でもまだ、もごもごと尻込みをしてる少年。行動に移すにはまだ考える時間が必要なのだろう。
これから先は少年の心次第。
でもこれだけは伝えておきたかった。
「頑張った思い出は私を強くするから。私は欲しいチョコ取りまくるわよー。クラウス行こ」
これは私の想い、と少年に告げる。いや自分自身の信念を改めて、今までもたくさん乗り越えてきたから、きっと――
遠くにみえるクラウスに声をかけると、シルキアはベンチから立ち上がり歩を進める。
くるり、と最後に振り返る。
「君の欲しいチョコも手に入れちゃうかも!」
そしたらどうする? と挑発的にウインクする。
「君はどうするの?」
「……俺は」
祭り会場。チョコレート花火の元へと戻ったシルキアとクラウスたち。
結局、あの後の少年の言葉は聞き取れなかった。大輪の花火が上がって音でかき消されたのと、「取る」宣言をした手前、少年の返事を待って留まっていても急かす形になってしまう。そう思ったから。
(少年が声を荒げた時はどうなるかと思ったが、何事もなく済んでよかった)
クラウスは内心安堵する。
しかし先ほどまでの元気はどこへやら、大輪のチョコ争奪戦から帰還し終えた物憂げなシルキアが気がかりだった。
「お説教ぽかったかな?」
不安そうにするシルキア。静かに肩に置かれた手に顔をあげる。クラウスが気遣うような微笑を向けていて。
「少なくとも共感した者がここに1人いる」
「……うん」
頷き、目を閉じて微笑む。シルキアは「一人じゃなかった」という安堵感が胸に満ちる。
無駄なんかじゃない。きっと少年にも何か残せたと、そう願う。
クラウスには、シルキアと少年との会話は聞こえていた。クラウスも頑張って今を歩んできた一人だ。いかなる時も。
そう、想いが届くかどうかは頑張り次第だ。誰に言うでもなく自分の心に言い聞かせる。
少年に向けたシルキアの言葉は、少なくともクラウスの心には響いたのだから。
●同年代だから響くこと
少年が走り去って周りにいた友達らしき子供たちも「さあ、次がくるぞ」とチョコレート花火争奪戦へと向かう。
そこに声をかける少年が一人。精霊の『聖』だ。
「ねえねえ、そんなになんかいもチャレンジしてるの、あの子?」
「ひーくんが怒らせたんじゃないの……って、聞いてないのかなこの子はっ!」
後ろから、「何やってるの!」と神人の『水田 茉莉花』は本当のママがわが子を叱るかのように聖の口へと、先ほどまで一緒に拾っていたチョコを食べさせる。
「モガ! ……ママ、じょうほうしゅうしゅうですよ。てきを知ればおのずと対さくができるというものです」
いきなりのチョコに少しびっくりするも、チョコだと認識すると味わいつつ冷静に反論する。
「あ、そうだったの?……じゃあ、みんなに聞いてみようか?」
茉莉花は、情報収集などという言葉が返ってくるとは思わず、思わず怒りも引っ込んでしまう。それにしても敵認識でいいのだろうか。
聖が少年を怒らせてしまった手前もある。協力するに越したことはない。
えっと……と先ほど少年のことを話してた一人に声をかける。
「そこの君、さっき走って行った彼の名前とか好きな子の話教えてくれないかな?」
二人してチョコ食べながらではあったが、手分けして聞き込みしたこともあり。
知らないやつ……と最初は浮かない顔をしていた少年たちも、同じ年頃に見える聖がいたためか、茉莉花とのやりとりに毒気を抜かれたのか、警戒心をもたれずに難なく少年の情報を仕入れることができた。
リックという名前に、好きな子のこと、彼の好みのデータなどなど。一度話し出せば嬉々として弱点まで教えてくれた。悪乗りって怖い。
途中で抜け出したリックへの仕返しも兼ねてるのかもしれない。
「あとはリックくんをさがすだけです。ママ、いそうなところってどこでしょうね?」
「そうねぇ、どこかでへそ曲げて丸まってそうだけど……ひーくんはどう思う?」
聖は「うーん、ぼくがリックくんだったら……」と、ぱくっと一つチョコを頬張り咀嚼し終えると、探偵さながらにこう続けた。
「人けのないベンチですね」
居た。
子供たちや祭りの賑わいでごった返す中、本当に人気のないベンチの上に少年リックは居た。名探偵と名助手だ。
けれどもまた怒らせたり逃げられては意味がない。
茉莉花は、「ちょっと待ってて」と聖を制すと、一人先にリックに警戒されないようにゆっくりと近づいた。
「たこ焼きでも食べない? ねえ、何が悲しかったの?」
「あんた……。食べてもいいけど金払わねーぞ。悲しいことなんて、ないし」
塞ぎこんだ顔を僅かに上げる。
リックは目の前に現れたたこ焼きと、思わぬ訪問者しかも年上の女性に、状況が追いつかず少し間を置いて現実に戻ってきたようだ。
ふわりと鼻腔をくすぐる香ばしいかおりに負けてか、口は尖らせつつも、たこ焼きを一つ摘まんで頬張る。「しない、しない」と茉莉花は苦笑いを堪えつつ、さらに勧めた。
「ここ座っていいかな? 名前は? あたしは茉莉花よ」
すでに情報収集していたことだが敢えて聞いた。突然名前を呼べばまた機嫌を損ねかねない、話すことで打ち解けてくれることを願う。
「リック」
その間もぱくりぱくりとたこ焼きを口に運ぶ。不愛想のまま。でも嫌がるそぶりもなく。美味しいとか、感情を表に出すのが照れくさい性格なのだろう。普段は叱りがちだが、情報収集もあり対応することができている。
「あんたも物好きだな。……レアチョコだったんだアレ。やりたい奴がいて、いつも俺こんな調子でさ。話せなくて逃してちょっと……凹んでるだけだ」
「そうだったんだ」
苦労してたんだね、と労う。
無理には聞かず、話してくれるのを待とう、最初からそういう気持ちではいた。
でもそれは茉莉花自身にも思うところがあって。自然と口をついて出た。
「好きの伝え方はひとつじゃないの、いっぱい有るのよ。つっけんどんになっても、素直に伝えられればそれでいいの」
「ひとつじゃない……?」
「そう」
そう力強く少年を励まして。まるで自分を叱咤激励してるようにも思った。
「もしダメだったら……やけ食いすればいいんじゃないの?」
今みたいに美味しいものを食べて気持ちを紛らわせればいい。それまでやりきるまでは諦めちゃダメだ、と。
「ふーん」
いつの間にか、聖が二人の、いやリックの目の前に来て見下ろしていた。その視線は冷たくて。
「そのチョコがあげられないってだけでかなわなくなるたんじゅんな恋なんだ」
「こ!? 恋だなんて言ってねーし!」
「そんなの、はなしをきけばわかるよ」
「ちょっと!?」
そうだ。感情に乗せて先ほどまで上手く乗り切れたが、「好き」や「恋」までは少年の口から引き出せてはいない。
もし勘づかれていたならここまで心を開いてくれなかったかもしれない。
ナイスフォロー聖。
いやまだだ。茉莉花が慌てて険悪ムードになりそうな二人の間に割って入る。それでも二人はヒートアップするばかりで。今にも喧嘩になりそうだ。
「みみっちーね」
「勝手なこというな! 自分の身じゃねーからわかんねーんだ!」
「それでもみみっちーよ」
「まだ言うか」とリックの鋭い視線と、聖の突き放した氷のような視線がぶつかる。一触即発。
だが、それを破るかのように、聖が一度目を閉じて、袋から何やら取り出し広げてみせた。
どこか舞台俳優のようにも見えた。
「ぼくならいっぱいチョコひろって、これくらい好きって言うよ。そしてまた来年もひろって全ぶあげたいくらい好きって言うんだ」
今までキャッチしたり拾ってきたチョコを広げ。笑顔で。その視線の先はリックではない。
真直ぐに、横にいる茉莉花に向けられて。
ずっと渡すことを考えて今まで拾っていたのだろうか。
両手いっぱい、溢れるほどのチョコを茉莉花へと、その手に手渡した。あっ、と思わず零れ落ちそうになるチョコの山をだき抱える。
「ハイ、だからぼくはママに毎年好きって言うんだ」
「ちょ……ひーくん!」
「……」
リックは突然の方向転換に、向けていた矛先をどうしていいか分からず固まっている。
茉莉花でさえ、まさか自分のことが今ここで飛び出すとは思わず、また見ず知らずの少年の前でも想いを伝えるとは思わなくて、子供ながら肝の据わりようは驚かざるを得ない。
「……お前、頭いいな……」
「ほめても何もでないよ」
思わずぽかんと感心しきりのリックに、胸をはってみせる聖。納得してしまった。告白にしても会心の出来だと思う、けども。
はっ!? このままだと流されてしまう。頭を振って現実に戻る。
「リック君!? ひーくんもちょっと!」
(あたしは返事してないから!)茉莉花は心の中で声にならない叫びを上げる。
でもこの場合、リック君を納得させたからいいのか、まだ少しだけ揺らいでしまう。
「ん?」
聖は「どうかしました?」と誇らしげで子供らしい笑顔を向ける。けれどそこから続く言葉は。
「まりかママはね、いつかぼくのおよめさんになるんだよ、ねー! 」
お嫁さんにする宣言だ。
「……やるなぁ」
すっかり丸め込まれたリック君。
前にも同じことはあった。あったけれど何度言われても慣れないもので。
ほづみさんが聞いたらなんというだろう。茉莉花は無意識に前の出来事を重ねて、さらに頬が熱くなるのを感じた。
なんと返すべきだろうか途方にくれるのだった。
●祭りの終わりに
少年と別れてから暫く経って。
会場に祭りの終了を告げるアナウンスが響き、がやがやと人々が家路に帰り始めた頃。
店を畳む屋台の亭主に、大収穫に頬を緩めるもの、転んでひっくり返し泣き出す子、それを慰める子、様々な子がいる中、ふと遠くにあの少年をみつけた。
隣にはツインテールの女の子が一人。もしや例の好きな子だろうか。
ただ女の子が気付く前に、少年と目があった。
途端、何とも言えない顔をして強引に女の子の手を引いて走り出す。見られるのが嫌だったのか、照れてたのか、話しかけられると思って警戒されたのかもしれない。
けれども。その耳は赤くて……とても初々しかった。
これから二人がどう歩むのかはわからない。上手くいくかもしれないし、いかないのかもしれない。
だが今日、この日に少年が受け取った享受は、かけがえのない糧になる。そんな気がした。
依頼結果:成功
MVP:
名前:水田 茉莉花 呼び名:ママ |
名前:聖 呼び名:ひーくん |
エピソード情報 |
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マスター | 紬ゆら |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 2 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月16日 |
出発日 | 09月24日 00:00 |
予定納品日 | 10月04日 |
参加者
会議室
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2017/09/22-00:25
クラウスとシルキアです。
よろしくお願いします。
折角なので少年に関わってみようかなって思ってます。 -
2017/09/20-02:04