急遽予定を変更しまして(茉莉 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 雲一つない、とてもいい天気だった。
 こんな日は子供達は楽しそうに声を上げ走り回っているのだろう。
 恋人達は木陰に腰を下ろし、ゆっくりと二人の時間を過ごしているに違いない。
 ――ああ、きっと皆は夏の一日を満喫しているだろうというのに。

 まだだるさの残る体を起こし、恨めしげに外を眺めては溜息を繰り返す神人。
(自分も外に出て遊びたいのにっていう顔だな)
 うっかり出かけた言葉をぐっと飲み込んで、精霊は神人の背に声をかける。
 振り向いた神人の表情を見るに、落ち込んでいるのは一目瞭然だ。
 神人の様子を見て、精霊はどう声をかけたものかと一瞬言葉を詰まらせる。

「そろそろ昼飯にしないか? 何選べばいいか分からなかったから色々と買ってきたんだ」
「私は……」
 あとで食べるからあなただけ先に食べていて、と言いかけたところで神人は思い直した。
(このまま不貞腐れた様子を彼に見せ続けるのも悪いよね)
 少し間を置いて神人はカーテンを閉め「今行くね」と返すのだった。

「今日はごめんね、せっかくのお休みだったのに……」
 食事を終えたあと、申し訳無さそうに神人は俯いた。
 テレビでは今日開店したカフェの特集が組まれており、多くの人が並んでいる場面が映し出されていた。
 何もなければ、今頃二人は先程のカフェに並んでいたはずだった。
 もしかしたらもう既に席についていて、注文の品が届くのを心待ちにしていたかもしれない。

 精霊は数時間前、神人を迎えに来た時のことを思い出す。
 今は大分落ち着いたが、扉を開けた神人の声は掠れ、目は潤み、足取りも覚束無い状態であった。
 大丈夫だと言い張る神人を無理矢理ベッドに押し込め、簡単に食べられるものを調達に近くの店へ走ったのだ。

「別に気にしてないって、今の様子じゃ落ち着いて話も出来なさそうだし」
 前もって混雑の予想はしていたが。
 思っていた以上の盛況ぶりに、あれでは席に着くところまですら時間がかかりそうだというのが嫌でも分かった。
 ならば落ち着いた頃に二人で雰囲気を楽しみつつゆっくりと過ごしたい。
 精霊の意見に、神人は「そうだね」と頷いて微笑みを返した。

「決まりだな! それじゃあ今日は予定を変更して家デート兼作戦会議の日ってことで!」

解説

精霊と二人でお出かけの予定でしたが、急な体調不良により家デートになりました。

●指定して欲しいもの
・どちらが体調を崩したか
・パートナーの症状

●お好みでどうぞ
・今日はどこへ行こうとしていたのか
・どこで、どうやってパートナーの体調不良を知ったのか
 (連絡があった、待ち合わせ時間になっても来ないので押しかけた)

個別描写になります。
また体調不良の人を連れて外に出ることは出来ません、無理はよくないぞ無理は。
看病のため必要なものを買ったので、300Jr消費します。

ゲームマスターより

初めて出すエピソードです。
大変緊張していますが、皆さんに楽しんで頂けるよう精一杯頑張ります。
参加される皆さん、よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  グレン、昨日は夜遅くまで起きてたみたいですね。
あの様子だと今日は家でゆっくりしていた方がよさそうです。
…今日で終わりのスイーツフェスタ、行きたかったけど仕方がないですよね。
正直私よりもグレンの方が残念がってる気がするんですけど…あとでケーキでも焼きましょうか。

叔父様元気そうでしたね。
またそんなこと言って…でも色々言いつつも最後まで追い出しはしなかったんですよね。
むしろご飯のこととか気を使って…頬抓らないでくださいぃ!
お水を持ってきたら今日は静かにしていましょう。
それならそばにいてもいいですよね?

どうしたんですか急にっ!
いえ嫌ではないですけど!けど!
…あの、私も好きです、よ?


シルキア・スー(クラウス)
  【崩】

目が覚めたのは彼の部屋の布団
側で彼が静かに本を読んでいた

ああそうだった…
ずっといてくれてたの…?
ごめんねお祭り
私から誘ったのに

んー(少し動き確認
大丈夫みたい 今からでも行けるよ!
疲労の蓄積?
そういえば休日でも体を休める事はしてなかったな…
わかった

ああでも お祭り勿体なかったな
待っていろと彼が席を外して暫く 居間の方から呼ばれた
あ! たこ焼き器

急遽たこ焼きパーティ
あなたって料理習ってる私よりそつなくこなしちゃうのよね(拗ねつつもぐもぐ
おいしー!

チョコバナナだー
満面笑み

薬飲んで布団に入ったけど
眠くないよ
あっもふもふ様ーわーい(撫でて超癒し
…ご利益貰ったから元気になるね
暫くして尻尾に触れたまま眠る


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  フェルンさんが体調を崩して。
熱が結構高いので、ちゃんとご飯も食べられるのか心配。
なので、彼のお家まで来ちゃいました。
AROAの資料は逃げないから、後日でも良いんですよ。
任務の報告書を見せてもらうだけですもの。
それよりフェルンさんの体の方が心配です。

やっぱりふらふらしてますよ、フェルンさん。
夏風邪は特効薬無いんですから、栄養と休息充分取らなきゃ治りませんよ?
「ベッドに大人しく寝てて下さいね」
と冷却ジェルシートを彼の額に貼り付けます。
台所借りてうどん作りますね。
寝室まで持って行きます。スポーツドリンクも。
「大丈夫ですよ、うつったりしませんよ」と彼を安心させますね。
横になった彼の頭を撫でて笑顔。



アンジェリカ・リリーホワイト(真神)
  体調不良:アンジェリカ
症状:風邪(39度)

ただの風邪とはいえ、不覚です…すみません、雪さまが隠れ家にしてるカフェに行こうっていってたのに…

雪さま…家事出来ましたっけ…?
お腹はすいてないです…喉が渇いたので、何か飲みたいです…
うー…なんだかあまり、眠たくないのですが…
雪さま、何か、お話してください
そしたら、寝れる、かも
……いつだったか雪さまも、閉じ込められてたみたいな、事を言ってましたけど…どう、だったのでしょう?
そう、ですか……俺様な性格の雪さまも、しおらしい時があった、と言う感じでしょうか…

(あぁ……もっと、聞きたいこと、あるのにな…ぼやーっとして、よく、わからない、や…)



西島 紫織(新藤 恭一郎)
  体調を崩す人…神人
症状…下記

少しずつ互いを知っていこうと約束してから初めての水族館デート
今回は私から手を繋ごうと意気込んだのが悪かった

前日緊張で一睡も出来ず

今朝は睡眠不足と緊張で胃腸炎プラス知恵熱
ベッドから起き上がれない…

部屋に入ってきた精霊の反応が怖くて目を合わせられない
余計胃が痛い

あれ?
悪態つかれるかと思ったらやけに優しい
それが余計に怖いけど今は逃げる気力体力無いし
と言っても何もされず

えっ 弟さんがいるの!?

私も何か話を…
でも体が言う事を聞かない
話す彼を虚ろな目でチラリ
おおっと!?
こんな優しい顔した恭一郎さん初めて見た!
でも…眠い
瞼が落ちる
頭撫でられてるような…夢かな?
現実ならいいのにな…


●初めて知る彼の一面
 西島 紫織は寝付けない夜を過ごしていた。
 新藤 恭一郎と交わした「少しづつ互いを知っていこう」という約束。
 明日はその約束を交わしてから初めてのデートなのだ。

(水族館に着いたら……ううん、中に入ってからの方がいいかな)
 今回、紫織は自分から恭一郎と手を繋ごうと決めていた。
 緊張、期待、不安。
 様々な感情が混ざり合い紫織の胃を締め付けていく。
(あ、館内のトイレの場所、調べておいたほうがよかったかな)
 痛みを増していく腹部をそっと手で抑えつつ、痛みを逃がすように目を閉じた。



(遅い、遅すぎる!)
 準備を済ませた恭一郎はリビングで紫織を待っていた。
 女性は準備に時間がかかるというが、それでも気配や物音くらいは立てるはずだ。
 だが紫織の部屋からはそれが全くないのだ。

 紫織の部屋の前で「紫織」と名を呼んでみるも反応はない。
(女性の部屋に入るのは無粋だが――)
 やむを得ない、そう自分に言い聞かせて恭一郎はドアノブに手をかけた。



「いつもの胃腸炎に睡眠不足、おまけに発熱ときたか」
「す、すみません……」
 ベッドの傍に椅子を寄せる恭一郎。
 顔を覗き込もうとするも目を逸らされ、消え入りそうな声で謝る紫織の姿に溜息をつく。
(怒っている訳でもないというのに)
 それも日頃の行いや言動のせいだという自覚が恭一郎にはあった。
 部屋に入った瞬間、思わず「何だこの死にかけは!?」と叫びそうになったくらいだ。
 しかし怯えた仔犬のような姿を見せられると苛める気も削がれていった。
 それほどまでに恭一郎には紫織が弱って見えたのだ。

 一方、紫織は必死に平常心を保とうとしていた。
 デート当日に体調不良、それだけでも十分に後ろめたいというのに恭一郎が部屋に入ってきた時の恐怖たるや。
(どんな悪態をつかれるか……!)
 冷や汗が紫織の頬を伝う。
 目も逸らさなかった方がよかったかもしれない。
 ただでさえ痛みを訴える胃が更に痛みを増した気がする。

 暫し、椅子に座ったまま紫織を見つめていた恭一郎だったが突然立ち上がる。
 思わず身構える紫織、そんな紫織にかけられたのは――
「必要そうな物を取って来る、大人しく寝ていろ」
 驚くほど優しい言葉だった。

 そもそも恭一郎は、紫織をもっと知る切欠になればとデートの予定を立てていた。
 今回はその場所が変わっただけだ。
 お互いのこと聞かせ合う機会さえあればそれでよかったのだ。

 その後も、恭一郎は紫織の傍に居続けた。
 紫織も最初のうちは警戒していたものの、心配するようなことは何もなく。
 むしろ恭一郎の見せる意外なほどの優しさに戸惑いを覚えていた。
 怯えた仔犬のような様子を見せ続ける紫織に、恭一郎はふと笑みを浮かべる。

「君のことを見ていたら弟のことを思い出した」
(えっ、弟さんがいるの!?)
 聞くのが精一杯の紫織だったが、言わんとしていることは伝わったらしい。
「意外か? 甘え上手で、したたかで…年は離れているんだが――」

(私も何か話を……でも体が言う事を聞かない)
 だるさと眠気に耐え切れずに瞼が落ちていく、せめて視線だけでもと恭一郎の方に顔を向ける紫織。
 ぼんやりとした視界に映る恭一郎はかつてないほど穏やかな顔だった。
(こんな優しい顔した恭一郎さん初めてみた!)
 もっと見ていたいと思うものの、徐々に視界が黒に塗り潰されていく。

(無理をして返そうとするな)
 恭一郎は虚ろな目の紫織に手を伸ばす。
 触れる直前で一瞬躊躇するも、恭一郎の指先がそっと紫織の髪に触れる。
(頭撫でられてるような…夢かな?)
 まどろみの中、現実ならいいのに、そう願いながら紫織は意識を手放した。

「俺は君の元気な姿を早く見たいんだ…って、もう寝てやがる」
 静かに寝息を立てる紫織に苦笑いを浮かべる恭一郎。
 部屋を出る前にもう一度だけ。
 感触の名残を惜しむように恭一郎は紫織の髪に優しく触れるのだった。

●それで十分
「ただの風邪とはいえ、不覚です……」
 アンジェリカ・リリーホワイトは頬を膨らませ、不服そうに掛け布団を口元まで引き上げた。
「すみません、雪さまが隠れ家にしてるカフェに行こうっていってたのに……」
「何、あんじぇが気に病む必要はない、茶屋は逃げはせぬ」
 それより寒くはないかと真神が尋ねると、アンジェリカはこくりと頷き「平気です」と微笑んだ。

(まだ然程あんじぇの熱は下がってはおらぬか)
 真神は目を覚ました時のことを思い出す。
 いつもなら先に起きているはずのアンジェリカが、今日に限ってまだ眠っていた。
 珍しいこともあるものだと思ったが、すぐに異常に気が付く。
 アンジェリカは頬を赤く染め、呼吸もいつもよりも浅く、時折息苦しそうにしていたのだ。
 もしやと思い額に手を当ててみたところ案の定、という訳だ。
 すぐさま近くの売店へ向かい、店員を捕まえるや否や必要になりそうな品を用意させたのだった。

(雪さま……家事出来ましたっけ……?)
 熱に浮かされつつも頭の隅でぼんやりと家事のことを考えるアンジェリカ。
「腹が減ったならいつでも言うがよい、後で冷凍うどんを茹でてやろう」
「お腹はすいてないです……けど、喉が渇いたので、何か飲みたいです……」
「ならば、すぽーつどりんくとやらを買ったぞ、飲むが良い」
 真神に背を支えられつつ、アンジェリカはよろよろと体を起こす。
 スポーツドリンクを手渡されると、ひんやりとした感触がアンジェリカの掌に広がっていく。
 その感触が心地よく、アンジェリカは目を細める。

「何だかんだ言うて、汝はいつも働いておるからな。 こういう時くらい、ゆるりとすると良かろう」
「うー……なんだかあまり、眠たくないのですが……」
 真神は再びアンジェリカを寝かせると、冷えないよう布団を丁寧に掛け直す。
 しかし先程まで眠っていたからだろうか、アンジェリカは横になっていてもあまり眠気を感じなかった。
 アンジェリカは暫し思考を巡らせると、一つだけ願い事をした。

「雪さま、何か、お話してください」
 そうすれば眠れるかもしれない、そのように頼まれれば真神に断る理由はない。
「そうだな…折角だし我の身の上話でもしてやろう」
「……いつだったか雪さまも、閉じ込められてたみたいな、事を言ってましたけど……どう、だったのでしょう?」
 その話か、と真神は頷くと、淡々と語りだした。

 引退したウィンクルムの間に生まれたこと。
 真神の社の跡取りとして育ったこと。
 弓の修練に明け暮れる日々を送ったこと。
 話の間、アンジェリカは真神を曇りない天青石の瞳でただただ見つめていた。



「隔離された世界で暮らしていたのは確かだな」
「そう、ですか……」
 アンジェリカはそっと目を閉じ、過去の真神の姿に思いを馳せた。
(俺様な性格の雪さまも、しおらしい時があった、と言う感じでしょうか…)
 突如、思い描いた真神の姿が霞がかったように姿が薄れ消えてゆく。
(あぁ……もっと、聞きたいこと、あるのにな……ぼやーっとして、よく、わからない、や)
 雪さま、と。
 心の中でそっと名を呼んで。
 そこでアンジェリカの意識は途絶えた。

「……ん、寝たか」
 いつの間にか眠ってしまったアンジェリカの髪を、真神はそっと梳いてやる。
 頬に触れてみると、これまで程の熱さは感じられない。
 これならばそう経たない内に、また外に連れ出してやることも出来るだろう。

 ――いつだったか雪さまも
 アンジェリカの顔を見つめていると、真神の脳裏にアンジェリカの言葉が蘇った。
 真神の口元に弧が浮かぶ。
「齢20にして伴侶に会えた、我にはそれで十分だ」

 思わず零れた言葉。
 眠っているアンジェリカには聞こえるはずもない。
 それでも一瞬、真神にはアンジェリカが微笑んだように見えた。

●悪いことばかりじゃない
「参ったな…」
 手にした体温計は38度以上を示しており、フェルン・ミュラーは苦笑いを浮かべる。
 喉の痛みや咳だけならまだどうにか耐えられるものの、この熱である。
 これでは動くこともままならない。
 この体温計を探し出すのだって結構苦労したのだ。

 よろめく足取りでどうにか寝床まで戻ってくるなり、そのまま倒れこむ。
 チラリとサイドテーブルの時計を確認する、予定の時間までは大分ある。
 そのままフェルンは、傍らの携帯端末に手を伸ばした。
(この時間ならミズキはまだ家を出てはいないはず)
 フェルンはSNSを開くと、瀬谷 瑞希の名を探し出すのであった

「フェルンさん……大丈夫でしょうか」
 SNSに届いたフェルンからの通知を見て、瑞希は表情を曇らせた。
 熱が38度も出ているのである、自分で食事も取れるかどうか心配になるのも当然だ。
「…よし!」
 心配するよりも、実際に会いに行ってしまえばいいのだ。
 そう決断した瑞希の行動は早かった、手早く必要なものを集めると家を出た。



「悪いね、わざわざ来てもらって……それより今日はごめん」
「いいえ、A.R.O.Aの資料は逃げないから、後日でも良いんですよ。それよりフェルンさんの体の方が心配です」
 瑞希はフェルンに付き添いながら、先ほど家に到着した時のことを思い出す。
 玄関から覗くフェルンの驚いたような、でも嬉しそうな表情。
 そっと表情を緩める瑞希に、フェルンは不思議そうに首を傾げていた。

「そういえばフェルンさん、食事ちゃんと取りましたか?」
 瑞希の言葉を聞き、そういえば朝から何も食べていないことをフェルンは思い出す。
 時計を見ればもう昼頃だ。
(熱で頭が廻らないけど、少し移動するくらいなら……)
 とりあえず台所へ向かおうと体を起こそうとするフェルン、しかし瑞希がそっとそれを制する。
「やっぱりふらふらしてますよ、フェルンさん。 夏風邪は特効薬ないんですから――」
 栄養と休息を十分に取れ、そのように瑞希に説得されてしまってはフェルンは従うしかない。
 瑞希の指示に従い、フェルンは大人しくベッドに潜り込む。
 その様子を見届けた瑞希は、用意してきた冷却用のジェルシートを取り出し、手早くフェルンに額に貼り付ける。
「ベッドに大人しく寝ててくださいね」
 台所借りますね、と言って瑞希は部屋を後にする。
 敵わないな、そう呟くと、額のひんやりとした感覚の心地よさにフェルンはそっと目を細めた。



 暫くして、うどんとスポーツドリンクを持って瑞希が戻ってきた。
 こういう時の暖かい食事は本当にありがたい。
 おいしい、と伝えると瑞希は照れたように笑った。

 しかし半分ほど箸を進めたところで、フェルンの手が止まる。
 あまりお腹すいてませんでしたかと不安げに尋ねる瑞希に、フェルンは慌てて首を横に振ってみせる。
「こうやって一緒にいると、君に風邪をうつしてしまわないかと心配だよ」
「大丈夫ですよ、うつったりしませんよ」
 笑顔で答える瑞希に対して、ならいいけれど、やや弱気に返すフェルン。
(病気してる時は何となく弱気になるね)
 フェルンは悪い考えを吹き飛ばすように軽く頭を振ると、暖かいスープを口に運ぶのだった。

 食事を終え、いくらか語らいの時間を過ごした後フェルンは再びベッドに身を横たえた。
 その時、フェルンの頭に瑞希の掌が触れた。
「私のことは気にしないで、早く元気になることだけ考えてくださいね」
 笑顔で、頭を優しく撫でる瑞希の掌から心地よい温もりが伝わってくる。
(こうやってミズキに撫でてもらっていると、幸せを感じるな)
 風邪を引くのも、そう悪いことばかりではなかったかもしれない。
 そんなことを考えながら、フェルンは暫くの間、そのまま瑞希に身を委ねていた。

(今度、今日の埋め合わせに美味しいケーキを食べに連れて行ってあげよう)
 そう心に決めつつ、フェルンはゆっくりと目を閉じた。

●二人きりのお祭り
「ここは……?」
 何故かクラウスの部屋で目を覚ましたことに軽く混乱を覚えるシルキア・スー。
 シルキアがゆっくりと体を起こすと、傍らで静かに本を読んでいたクラウスは本を閉じ、どこか安心したように微笑んだ。
「目を覚ましたか」
 もう大丈夫かと問うものの、シルキアはいまひとつ状況が読み込めていない様子で首を傾げてみせる。

 その日、二人は夏祭りに行くため館のロビーで待ち合わせをしていた。
 しかし合流したシルキアの様子を不審に思ったクラウスがシルキアの額に手を触れてみると、熱があることは明らかで。
 このまま連れ回す訳にもいかず、とりあえずシルキアを休ませるため自室まで手を引いてやり、薬を飲ませて寝かせたという訳だ。

「ああそうだった……」
 クラウスの話を聞き、徐々にその時の記憶が蘇ってくる、両手で顔を覆い項垂れるシルキア。
 自分から誘っておいて当日に体調を崩すとは何たることか。
「ごめんねお祭り、私から誘ったのに……」
 自己嫌悪に襲われつつ、シルキアはクラウスに軽く頭を下げた。
「気にするな、また次の機会がある」
「うん、次は絶対に万全の状態で挑むから!」
 次からは予定の3日前くらいから早寝早起きした方がいいだろうかと真剣に考え出すシルキアの様子に、クラウスはフッと表情を緩めた。

「それより調子はどうなのだ?」
 シルキアは大きく伸びをしたり、立ち上がって歩いてみたりなど、動きを確認する。
 特に問題はなさそうだと分かるとニッと笑ってみせる。
「大丈夫みたい、今からでも行けるよ!」
 そうか、と頷くも、クラウスは少し考える様子を見せてからこう続けた。
「だが今は体を休めた方がいい」

 再び首を傾げるシルキアを見据えるクラウス。
「恐らくだが、疲労の蓄積があるのだろう」
 休日にしっかりと体を休めているか、とクラウスに問われたシルキアは最近の生活を振り返る。
 言われて見ると確かに、休日とは言っても出かけたり何かをしているばかりで。
 クラウスの言うような体を休めることはしていなかったかもしれない。
 わかった、と告げるとクラウスは満足げに頷いた。

 その後、お茶を淹れて「体を休める休日」を満喫していた二人だったが、ふとシルキアが零す。
「ああでもお祭り勿体無かったな、たこ焼き、お好み焼き……」
 りんご飴、チョコバナナ、次々と挙げていくシルキア。
 腹は空いているのかと問われ、シルキアはこくりと頷く。
 頷くのを見たクラウスは読んでいた本を閉じ、立ち上がる。
「ならば祭りもどきを楽しむか」



 それから暫くして、居間に呼び出されたシルキアは目を輝かせた。
「あ! たこ焼き機!」
 生地を器用に引っくり返していくクラウスの手つきを、シルキアは近くでじっと見守る。
 次々と出来上がっていくたこ焼きを頬張りつつ、料理をそつなくこなすクラウスの様子に少し嫉妬を覚える。
「相性の良し悪しだろう」
 拗ねた様子のシルキアだったが、お前は確実に上達している、というクラウスの一言に頬を綻ばせるのだった。

 その後、デザートにはチョコバナナ、という名の輪切りバナナのチョコフォンデュが振舞われた。
「チョコバナナだー!」
 そう歓喜の声を上げたシルキアは、その日一番の笑顔だったとか。

 用意してもらった薬を流し込み、布団に横たわるシルキア。
 しかし散々はしゃいだためか、眠気が全くやって来ない。
「うー……クラウス、眠くないよ」
「横になるだけでいい、しっかり休んでおけ」
 自身の尻尾をファサとシルキアの近くに寄せると、途端にシルキアの顔がぱぁっと明るくなる。
 たっぷりと撫でて、そのもふもふ具合を堪能する。
(……ご利益貰ったから元気になるね)



 いつしか、クラウスは尻尾を撫でる感触がなくなったことに気がついた。
 視線を落とせば、そこには幸せそうに寝息を立てて眠るシルキアの姿。
 クラウスは一つ微笑むと、再び読書を始めるのだった。

●好きというその一言
「あれだけ酒空けておいてピンピンしてるとか……あのクソジジィ、バケモンかよ……」
 ソファに身を投げ出しつつ、グレン・カーヴェルは激しく痛む頭を抑えながら吐き捨てた。
(グレン、昨日は夜遅くまで起きてたみたいですね)
 心配そうにグレンの顔を覗き込むニーナ・ルアルディ。
 大丈夫ですか、と声をかけるものの、グレンの反応は鈍い。

(あの様子だと今日は家でゆっくりしていた方がよさそうです)
 散らかったままの机を片付け始めるニーナ。
 その途中、ニーナは机の上に置かれたままの一枚のチラシに目を留めた。
 ショッピングモールで行われるスイーツフェスタの広告だ。
 各地の人気スイーツが大集結と書かれた見出しの下には開催期間も掲示されており、今日の午後で終了するとのことだった。

(行きたかったけど仕方がないですよね)
 グレンはチラシの前で動きの止まったニーナを見て、何を考えているのかを察する。
「……悪かったな」
 突然掛けられたグレンからの言葉にニーナは慌てて振り返る。
 体調不良は誰にでもあるから。
 また同じような催し物をやるから。
 必死にフォローを入れ始めるニーナ。
(正直私よりもグレンの方が残念がってる気がするんですけど)
 今はもう背を向けてしまったグレンの背を見つめながらニーナは思う。
(……あとでケーキでも焼きましょうか)
 お店のものには敵わないかもしれないけれども、少しでも彼の慰めになるのであれば。

「叔父様、元気そうでしたね」
 昨日、二人は買い物中に偶然グレンの叔父に遭遇し、ニーナの提案で叔父を家に迎えることになった。
 叔父の気が済むまで散々酒の席に付き合わされたグレンは、思い出すことすらも腹立たしいとばかりに首を振ってみせた。
「散々年寄りの話に付き合わされて好き勝手されてりゃあ、二度と来るなの一言くらい言いたくもなるだろ」
 早朝にそう言って送り出したものの、気にも留めずに笑っていたことがまた腹立たしい。

 しかしニーナは知っている。
 このような口を叩いてはいるものの最後まで叔父を追い出すような真似はしなかったこと。
 暴言が飛び交うものの、二人がとても楽しそうな雰囲気だったこと。
「食べられないものはあるかとか、むしろご飯のこととか気を使って……」
「ニーナ、ちょっとこっち向け」
 その後、ニーナがグレンの頬引っ張りの刑から解放されるまで暫くの時間を要した。



 ソファはグレンが使っているため、ニーナは傍らの床に腰を下ろし、静かに料理本のページを繰っていた。
 体調が悪いのでそっとしておいてあげたい、でも離れたままは寂しい、そう思っての行動だった。
 グレンは天井を眺めながら叔父との会話を思い返していた。
 殆どが式はいつだだの、親族と顔を合わせた時にありがちな会話ではあったが。
 ――好きの一言くらい言わないと可愛い嫁さんに逃げられるぞ。
 その言葉が何故だかずっと、心のどこかに引っかかっているように感じていた。

「なあ」
 突然グレンに呼ばれた気がして、ニーナは振り返った。
 何となく歯切れの悪いグレンの様子に、ニーナはきょとんとした表情で首を傾げる。
「好きだ」
 グレンは意を決してたった一言、言葉を紡いだ。
(……心配になった訳じゃない、確かに言ってないなと思っただけだ)

 何を言われたのかを理解した瞬間、ニーナの顔が真っ赤に染まる。
「どうしたんですか急にっ!」
「嫌かよ」
 不貞腐れるグレン、それをニーナは慌てて訂正する。
「いえ嫌ではないですけど! けど!」
 普段グレンはそういったことを口にしない。
 なので、いざ言われると恥ずかしい。
 どう反応したらいいのか分からなくなってしまうのだ。

「……あの」
 暫くして、おずおずとニーナが顔を上げる。
 頬は赤く染まったままだ。
「私も好きです、よ?」
「……ああ、知ってる」
 ニーナは再び頬を赤く染め俯くのを、グレンは満足そうに眺めていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 茉莉
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月04日
出発日 09月10日 00:00
予定納品日 09月20日

参加者

会議室

  • [5]瀬谷 瑞希

    2017/09/09-23:57 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さまよろしくお願いします。

    プランは提出済みです。

  • ご挨拶が遅れました。
    アンジェリカ・リリーホワイトと、真神雪之丞、です。
    よろしくお願いします。

  • [2]西島 紫織

    2017/09/08-10:56 

    ご挨拶が遅れましてすみません。
    西島紫織です。
    パートナーは恭一郎さんです。
    よろしくお願いします。

  • [1]シルキア・スー

    2017/09/07-00:23 

    シルキアとクラウスです。
    よろしくお願いします。


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