【神祭】私に連なる物語(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 フェスタ・ラ・ジェンマの開催により、紅月ノ神社の鳥居が開かれました。
 神社の境内の一角に、テントが出され、そこでは古本市が行われています。

 相方とともに神社を訪れたあなたは、古本市を見かけて早速立ち寄ってみました。
 分厚い本、薄い本、研究書、漫画、あらゆる本が取りそろえられています。
 あなたは何冊かを手に取って見て、気に入ったものがないか探しました。

 そして、あなたは一冊の厚いタイトルのない本を見かけたのです。
 なんだろうと思って、あなたはその本を手に取りました。
 中身を開くと、そこも白紙でした。
 しかも、同じタイトルのない白紙の本が何冊かまとめられているのです。

「これは?」
 あなたは、古本市の店員に尋ねました。

「ああ、それはある魔導師が売りに来たもので、何でも、タイトルに自分の名前を書き込む事で、家族の過去か、未来を映し出すと言われているんですよ」

「家族の過去?」

「そう。自分で自分の名前をタイトルに書くと、自分の両親や祖父母など、家族、あるいは先祖の物語を文章に描き出すそうです。あるいは、自分の未来のパートナーや、子供、孫、子孫……その可能性の一つを文章に描き出す。そういう珍しい魔法の本だそうです。魔導師はそう言って売り込みに来ましたね」
「なるほど……」
「ま、売り物の本に自分の名前を書き込む訳にはいきませんから、まだ試していないんですけれども」
「養子だったり、孤児だったりする場合はどうなるんですか?」
「その場合は、自分の本当の両親の物語が映る事もありますし、あるいは、養い親の過去や真実を映し出したり、孤児院の院長の過去を映し出したり、様々なそうです。要は、タイトルを書いた人間が『家族』だと思っている人間の真実の物語が映るんです」
「『家族』だと思っている人間の物語。その中に自分も含まれるんですか?」
「それは自分の意識の問題です。自分を含んだ物語を見たいか、あるいは自分のいない場所での真実の姿を見たいか……」

 なるほど。
 自分と家族の物語。
 その過去、あるいは未来。
 それらを描き出す魔法の本のようです。

 自分の知らない両親のなれそめ。まだ見ぬ自分の子孫。
 あるいは、自分と家族達の楽しかった思い出。
 家族との忘れられない過去。
 それらを自由自在に描き出す魔法の本。

「一冊、300Jrですよ。どうですか?」
 店員は営業スマイルでそう話しかけてきました。

解説

 古本市であなたと精霊は、魔法の本を見つけました。
 ※一人一冊です。一冊は300Jrになります。
 ※神人一人が購入、精霊一人が購入、あるいは二人とも購入、どんな形でもOKです。

 タイトルのない白紙の本に自分の名前を書くと、自分の家族の過去か未来が自由自在に描かれます。描かれる物語は真実だと言われています。

・過去ならば、自分の両親、祖父母、先祖、いつの時代でも。
・未来ならば自分と未来のパートナー、子供、孫、いつの時代でも。
・養子、孤児の場合は、本当の両親か、育て親と思っている人間で、『家族』と認識している方。
・自分がいる場面でも、自分がいない場面での真実でもOK。

 プランにはどんな家族像が現れたかと、それを読んだ時の反応を描いてください。
 相方の知らないところで読んでも、相方と一緒に読んでもOKです。


ゲームマスターより

自分の両親だったり未来の子供だったり。あるいは精霊の家族の事を知ってみたり。自分の家族を知って貰ったり。
様々な掘り下げにお使いください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  どんな本になるのかしら
シリウスはどうする?
見上げた先に 困ったような彼の顔
じゃあ、未来のことなら?
きゅっと彼の袖を握る
少し丸くなった綺麗な翡翠の目を まっすぐに見て笑顔

未来
小さな家の小さな部屋
光の中で 小さな女の子がシリウスに抱きついている
黒い髪に青と碧の瞳 満面の笑みを浮かべて
「おとうさん」と
娘を抱き上げ 愛おしそうに微笑むシリウスに少し大人びた自分が近づく
フィリアはお父さんが大好きね
ええ、お母さんもお父さんが大好きよ
少しくすぐったそうなシリウスの答えに 未来の自分が嬉しそうに頬を染めて

見終わった後 自分の頬も赤く
シリウスの顔も、少し赤い?

ずっと一緒にいると約束した
あんな未来が 訪れる日がくるのかしら


七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
  魔法の本について話し合いました。
年の始め、帰省した翡翠さんが、家族と再会しながらも、
今後、どう向き合っていいか悩んでいたからです。

「この本には、自分が知り得ないご家族の過去も見られるそうです」
もし、それが叶うなら……。
本を翡翠さんに差し出す。

恐る恐るページを覗く。
倒壊した街、その下敷きになる女性、隣で叫ぶ男性。

想像を巡らす内に場面が変わる。
拒む女性、目の前の子供、もしかしてこの2人は……!?

翡翠さんの言葉を聞くと、静かに歩み寄り、呟きました。
「……すぐに……決めようとしないで下さい」
そっと、後ろから抱きしめる。

「親御さんと、どう過ごすか。
それと同じくらい、私達の今後も大事な事になるんですから」


シルキア・スー(クラウス)
  1冊購入
未来と過去
どちらを知りたいかと言えば…過去かもしれない
本に名を書き過去への思いに集中してみる

内容
小さな村で両親が出会い結ばれ私が生まれ
赤ん坊を村人全員で祝う儀式の最中流星融合が発生し
赤ん坊の私と私を守る巫女のお婆様2人を残し村は消えそこは湖になっていた
その後被害に遭った近隣の村人達が村を作りそこで私はお婆様に育てられた
赤ん坊と奮闘するお婆様が逞しい
※文章整えて頂けると嬉しいです

流星融合の兆候や現象、両親と村の人達はどこへ行ったのか
手掛かりを求め注意深く読むけど
両親が最後まで私を心配する叫びの描写に涙が出る
命がけで私を守ってくれたお婆様…
切なくて胸が苦しい

泣き笑い
頑張って生きなくちゃね


八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
  過去
結婚前の若い頃の両親が、AROAに勤めていて
たくさんのウィンクルムをサポートしている
その中にそーちゃんの両親
父親同士は親友で、そーちゃんの両親の恋を応援していた

二冊とも、同じ時代のことが書いてあったね
そーちゃんの言葉に、そんなことない、と言おうとして口ごもる
黒龍さん(蒼龍父)が息子を愛していなかったのは確かに本当のことで…
幸せな家庭で育った私が何を言ってもそーちゃんの心には届かないんじゃないかって思ってしまう

…あれ?どうして私が慰められてるんだろう
ごめんね、つらいのはそーちゃんの方なのに

いつも明るいけど、この人は本当は闇を抱えて傷ついてる
家族に愛されたい、その願いを何とか叶えてあげたい…


イザベラ(ディノ)
  【状況】
即買い。
「素晴らしい。倍…否、5倍の値でも惜しくは無い」

【本の内容】
近親から遠縁まで様々なガードナー家の話。
全てが大なり小なり正義に纏わる。
特に叔父の話に夢中。
子供の頃に聞いた叔父の誇張混じりの武勇伝は、彼の話上手さも相まって、自分の正義の礎となっている。
「…ああ、これは知っている。良い話だ」
吸い込まれる様に読み耽る。

【精霊への反応】
「……何だ」
読書の邪魔をされて少しムッとするが、貸して欲しいと言われればあっさり手放す。
「叔父上の話は特に素晴らしいぞ」などと得意げに布教活動。
終始機嫌の悪そうな精霊には首を傾げつつも、まぁその内元に戻るだろうと呑気な反応。



●イザベラ(ディノ)編

 その日、フェスタ・ラ・ジェンマでイザベラと精霊のディノは魔法の本を見つけました。名前を書いた人間の家族の真実が描き出される本なのです。
「素晴らしい。倍……否、5倍の値でも惜しくは無い」
 その魔法の意味を知ると、イザベラは即座に買う事に決めてしまいました。
 一方、傍らにいるディノは複雑そうな顔です。
 イザベラとちんぴらの事件があって以来、最近は一緒にいると居心地が悪いのでした。
 とはいえ、すぐ無茶をするイザベラを放っておく訳にもいきません。そのため渋々と外出についてきたのです。
「……俺はいいです、そういうの」
 ディノは本を買いませんでした。
 イザベラはすぐに神社のベンチで魔法の本に自分の名前を書き込みました。
 たちまち本のページにはイラストと文章が描き出されます。
 それは彼女の近親から遠縁までの様々なガードナー家の物語でした。
 その全てが、大なり小なり『正義』に纏わる物語なのです。
 イザベラは特に叔父の話に夢中でした。
 彼女が子供の頃から聞かされていた、叔父の誇張混じりの武勇伝は、彼の話の上手さも相まって、自分の正義の礎となっているのです。
「……ああ、これは知っている。良い話だ」
 イザベラは吸い込まれるように読みふけりました。
 本の内容は、いわば娯楽性のある道徳の教科書です。
 中でも彼女の叔父の話は冒険譚に近く、物語は確かに面白いかもしれません。
 ……ですが、胸焼けしそうな程の正義の物語、そしてそれに没頭するイザベラの姿を、ディノは反抗的な思いで見守りました。
 なんだか『洗脳』とか『狂信者』という言葉ばかりが胸に浮かびます。
 少し前の自分ならば、無邪気だと思って微笑ましく見守る事が出来たのに。
 ディノはさっとページの上を手で覆い隠しました。
「……なんだ」
 読書の邪魔をされてイザベラは少しムっとしています。
「……別に。……しばらく借りていいですか、それ」
 ディノは目も合わせずぶっきらぼうに言いました。
「どうしたんだ」
「いえ。正義について考えてみたくて」
 ディノは適当な言い訳をしますがイザベラは嬉しそうに破顔しました。
「そうだ! ならばこの本はぴったりだ」
 イザベラはすぐにディノに本を貸しました。
「叔父上の話は特に素晴らしいぞ」
 布教活動までしてしまいます。
 なんだかずっと機嫌の悪そうなディノにイザベラは首を傾げています。
(まぁその内、元に戻るだろう)
 しかし彼女は至ってのんきなものでした。

(貴方には人の心が分からない……分からないと言われても傷つかないほどに)
 ディノは自分の複雑な心中が全く理解出来ない様子のイザベラに苛立ちを感じますが、言葉にする事が出来ません。
 上機嫌でのんきなイザベラ。
 ずっと愛してきた人は、自分の気持ちに無頓着で無理解で。それは、正義の名の下に、プライドすらもゴミ同然の生き方をしてきたからで。
(今更、何も期待してはいけない……)
 ディノはそう思うのですが、何かを期待し、何かを変えたいと思うから、イザベラの魔法の本を手に取ったのです。
 彼の心が晴れる事はあるのでしょうか--。
 ディノが、イザベラの前で笑う事が、出来ますように。

●八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)編

 八神 伊万里と精霊の蒼龍・シンフェーアは、フェスタ・ラ・ジェンマの古本市で、魔法の本を買いました。
 本に自分の名前を書き込むと家族の真実が描き出されるのです。
 早速、二人は本に名前を書き込みました。ページに美しいイラストと文章が浮かび上がってきます。

 伊万里の本には、結婚前の若い両親が、A.R.O.A.に勤めて沢山のウィンクルムをサポートしている場面が浮かびました。
 その中に蒼龍の両親もいます。
 蒼龍の父親と伊万里の父親は親友でした。伊万里の父は蒼龍の両親の恋を応援していたのでした。

 蒼龍の本には、彼が生まれる前、ウィンクルムとして活動していた両親が浮かびました。彼らは、周囲が羨むほど仲むつまじいカップルだったのです。
 当時は、A.R.O.A.のマッチングシステムが確立しておらず、蒼龍の父親は自力で母親を見つけた場面も描き出されました。

「二冊とも、同じ時代のことが書いてあったね」
「他の人が見ても分からないかもしれないけど、僕には執念めいたものを感じる。それにやっぱり父さんが愛してたのは母さんだけ……子供も本当はいらなかったみたいだ」
 蒼龍は本を閉じて自嘲気味に笑いました。
「やっぱり僕が生まれたから二人は別れちゃったのかな。母さんは母親になったけど父さんはずっと一人の男として生きていた。子供いない方が二人には幸せだったのかも…」
 蒼龍の言葉に、そんなことない、と言おうとして伊万里は口ごもってしまいます。
 蒼龍の父、黒龍が息子を愛していなかったのは、確かに本当の事なのでした。
(幸せな家庭で育った私が何を言ってもそーちゃんの心には届かないんじゃないか……)
 そう思って言葉を失ったのです。
「ふふ、イマちゃんが泣いてどうするの」
 気がつくと涙ぐんでいる伊万里に対して蒼龍が優しく頬を撫でました。
(…あれ? どうして私が慰められてるんだろう)
 伊万里はちょっと驚き、指先で涙を拭いました。
「ごめんね、つらいのはそーちゃんの方なのに」
「ううん、いいんだよ。イマちゃんがこうやって僕のことを考えてくれるだけでも嬉しいから」
 蒼龍は微笑んで伊万里の頭を軽くぽんぽん叩きました。
(いつも明るいけど、この人は本当は闇を抱えて傷ついてる。家族に愛されたい、その願いを何とか叶えてあげたい……)
 伊万里は心から純粋にそう願いました。

――怖くなったら、いつでも言ってね。私、すぐに飛んで行くから。

 かつての自分の言葉を思い出しながら、伊万里は蒼龍の黒髪を軽く撫でます。
 ウィンクルムの絆は絶対に切れる事はない。そう信じたかった蒼龍。けれど、彼の両親は父親の束縛がきつすぎて離婚してしまいました。
 ウィンクルムの絆。家族の絆。
 それを信じる事が出来ず、それでいて信頼と愛に飢えているような蒼龍の視線。
 それを真正面から受け止めながら、伊万里は言います。
「私はいなくなったりしないよ。そーちゃん」
 それはウィンクルムだから? それとも友達だから?
 理由ははっきりしないけれど、蒼龍とずっと一緒にいたいと思う、伊万里の気持ちに偽りはないのでした。

●リチェルカーレ(シリウス)編

 フェスタ・ラ・ジェンマの古本市で、リチェルカーレと精霊のシリウスは魔法の本を見つけました。自分の名前を書き込むと家族の真実が描かれるという本なのです。
「どんな本になるのかしら」
 リチェルカーレはわくわくしながら、一冊購入しました。
「シリウスはどうする?」
 リチェルカーレが見上げた先には、困ったような彼の顔がありました。
 シリウスは薄く苦笑して首を振ります。
「……俺はいい。正直、過去を見るのはハードルが高い」
「じゃあ、未来のことなら?」
 リチェルカーレはぎゅっと彼の袖を握り締めました。
 その言葉にシリウスは目を丸くします。
 リチェルカーレは少し丸くなった綺麗な翡翠の目を、まっすぐに見て、笑顔を向けました。

 未来――。
 リチェルカーレの本には、小さな家の小さな部屋が浮かびました。
 光の中で、小さな女の子がシリウスに抱きついています。
 黒い髪に青と碧の瞳。
 満面の笑みを浮かべて、彼女が呼ぶのは、
「おとうさん」……。
 シリウスは娘を抱き上げて本当にいとおしそうに微笑みます。
 そこに少し大人びたリチェルカーレが近づいて話しかけます。
「フィリアはお父さんが大好きね。ええ、お母さんもお父さんが大好きよ」
 
 シリウスの本は、小さな女の子が駆けてくるところから。
 林檎のような頬に弾けるような笑顔は、リチェルカーレによく似ています。なんの混じり気もない信頼と好意が溢れている女の子の瞳に、シリウスは胸がつまるようです。思わず抱き上げてしまいました。
「フィリアはお父さんが大好きね……」
 笑みを含んだリチェルカーレの声が響き、女の子がぱっとそちらを振り向きます。母親の言葉に女の子が満面の笑みで頷くと、少し舌足らずな声で言いました。
「おかあさんも、おとうさんがだいすき?」
「おとうさんも、フィリアとおかあさんがだいすき?」
 瞬きをする未来のシリウス。
「……ああ。父さんもふたりが大好きだよ」
「じゃあ、みんななかよし。ね?」
 優しく暖かな、陽だまりのような空間がそこにありました。

 本を読み終わった後、シリウスは赤くなった目元を隠すように横を向いてしまいます。
 リチェルカーレは自分の頬が赤くなっている自覚があります。
 そっと隣を見ると、シリウスの顔も、少し赤いようです。
(ずっと一緒にいると約束した。あんな未来が 訪れる日がくるのかしら……)
 リチェルカーレはそっと青と碧の指輪に触れました。

――あなたがいなくなったら わたし泣くわ!    
  泣いて泣いて溶けちゃうんだから。
  そんなことになったら困るでしょう?
  ……だからずっと側にいて。
  その代わり、お父さんとお母さんの分も、
  わたしがあなたを抱きしめるわ。

 廃墟のような場所で、命を閉じようとしたシリウスに言った言葉。それに答えてシリウスは指輪をくれました。
 そのときの約束は違えられる事はないのでしょう。
 きっと、そんなに遠くはない未来に。
 リチェルカーレとシリウスの望む幸福は訪れるのです。
 変わらずに愛し続けてくれる存在を、隣に感じながら、シリウスは本のページをまためくりかけて指先を止めます。
 自分が抱き締める事が出来る娘。
 自分を抱き締めてくれる妻。
 そんな温かい家族を自分が得る事が出来るのだとしたら--。その光景はまた見たいのだけれど、それでいて怖いような気がするのでした。
 そのシリウスの指の上にリチェルカーレは指輪を嵌めた手を重ねて微笑みました。
 そして二人で一緒に、一冊の本の表紙をめくり、幸せな物語を二人で読み始めました。きっと遠くない未来。きっと叶えられる希望。きっと、二人はずっと一緒。
 そして新しい命が訪れて、幸せは一つずつ増えていくのです。

●シルキア・スー(クラウス)編

 フェスタ・ラ・ジェンマの古本市でシルキア・スーと精霊のクラウスは、魔法の本を見つけました。家族の真実が映し出される本です。
 早速、シルキアとクラウスは一冊ずつ購入しました。
 その後、クラウスがシルキアを紅月ノ神社の片隅にひっそりと置かれているベンチに連れて行きました。
「どちらを知りたいかと言えば……過去かもしれない」
 そう呟いて、シルキアは本に名前を書き込み、過去への思いを寄せて集中していきました。
 やがて白紙の本に美しいイラストと文章が浮かび上がり、物語が描き出されました。

 小さな村で両親が出会い、結ばれて、シルキアが生まれます。
 神人の誕生。
 赤子のシルキアを村人全員で祝う儀式の最中に、流星融合が発生しました。
 赤子のシルキアと、シルキアを守る巫女のお婆様二人を遺して、村は消えます。
 村は、湖に変わり果ててしまいました。
 被害にあった近隣の村人達が新しい村を作り、そこでシルキアはお婆様に育てられます。
 赤子と奮闘する逞しいお婆様。
 それはシルキアという守らなければならないもの、遺された希望があるから。
 悲劇の中に残る希望の記憶--その物語。

 シルキアは疑問に思います。
 流星融合の兆候や現象、両親と村人達はどこへ消えたのか……。
 手がかりを求めて注意深く読むけれど、判明しませんでした。
 両親が最後までシルキアを心配する絶叫の描写に涙がこみあがってきます。
 それに、命がけで彼女を守ってくれたお婆様……。
 切なくて胸が苦しくてたまりません。

「お父さん……お母さん……」
 シルキアのか細い囁くような声を聞いて、本を読む気になれずにいたクラウスは、彼女の肩を優しく抱いて寄り添います。
 クラウスはシルキアの過去を聞かされているのです。
 その後、シルキアの本を読ませて貰いました。
 シルキアは泣き笑いの表情です。
「頑張って生きなくちゃね」
「愛されていたのだな、お前は」
 クラウスはそう答えました。
 それから息を吐きました。
「……代わりに読んでくれないか」
「声に出して読むね」
 シルキアはそう言って頷き、クラウスの本を読み始めました。

 クラウスも覚えていない両親の物語が展開します。
 両親はウィンクルムの戦士として生きる為、クラウスを施設に托しました。
『真実の愛に出会いますように』
 両親は赤子のクラウスに祝福を授け旅立って行きます。
 物語は進み、在るとき、両親は戦場でともに斃れました。
 
「……実感はない。だが、両親が誇り高く人生を生きたならば、それだけで充分だ」
 どこか乾いた声でクラウスはそう言いました。
 シルキアはそんなクラウスを優しく抱き締めたのでした。
 きっと、何も覚えていなくても、クラウスの両親の魂はクラウス自身に引き継がれています。ウィンクルムとして誇り高く戦い、真実の愛のために殉じていく、そんな愛しい性質が彼の中にはあります。
 シルキアだからそれが分かるのです。
 だからシルキアは、自分の事も、自分のつながりの事も、クラウスには知って欲しいと願うのでした。
 シルキアの愛しい人なのだから。

●七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)編

 フェスタ・ラ・ジェンマの古本市で発見した魔法の本。
 その事について、七草・シエテ・イルゴは精霊の翡翠・フェイツィと話し合いました。
 年の初め、帰省した翡翠が、家族と再会しながらも、今後どうやって向き合っていけばいいか悩んでいたからです。
「この本には、自分が知り得ないご家族の過去も見られるそうです」
 もし、それが叶うならば……そういう気持ちで、シエテは本を翡翠に差し出します。
 翡翠は本に彼の本当の名前を記しました。
(人生初だ。本1冊に、親と息子の過去を賭けるなんて)
 妙に感慨深いのでした。
 そして意を決してページを開きます。
 シエテも恐る恐るページを覗きこみました。

 浮かび上がる精緻なイラストと文章――。
 そこは倒壊した町でした。
 建物の下敷きになっている女性。その隣で叫ぶ男性。
 翡翠が生まれた町は、オーガが昼夜問わずに争いを起こしていたのでした。
 貪欲に破壊だけを求めるオーガの来襲。無力な人々。
 その最中、母親だけが日に日におかしくなっていきます。
 長い、長い、オーガの争いによる醜い騒音、下敷きになったことによる大怪我、さらに出産による三重苦。
 もしかして記憶喪失になったのでは? と翡翠は推測しました。

「知らない! こんな子知らない!」
 病床の上で女性が叫ぶと、生後まもない子供は火が点いたように泣き出しました。
 そういう物語でした。
 シエテも息を飲みながらその物語を読み終えました。
「伯母の話によると、その後も、母は俺を実子だと認めなかった。父は泣く泣く俺を親戚に預け、養育費を稼ぐ為に大都市へ出た、という話だ」
 翡翠の言葉を聞くと、シエテは静かに彼に歩み寄り、呟きました。
「……すぐに……決めようとしないで下さい」
 そっと、シエテは彼を後ろから抱きしめました。
「親御さんと、どう過ごすか。それと同じくらい、私達の今後も大事な事になるんですから」
 翡翠は本をそっと静かに閉じて、シエテに礼を言いました。
「ありがとう――」
 でも。
 ――でも。
「まだ……答えは出せそうにない」

 シエテは後ろから彼の首筋に顔を埋め、抱きつきながら、夢想花の事を思い出していました。
……このブーケを七色にしたのは、楽しい事も悲しい事も全て受け入れる為です。それは、これまでの過去も、今も、これからの未来も同じです。私は、これまでの私を全部受け入れて歩いて行きたいのです。それは、翡翠さんの事も同じです。翡翠さんのことも、過去、今、未来、全部受け入れて、そしてずっと翡翠さんと一緒に居たいです。ウィンクルムを辞めても……傍にいてくれませんか?
 ブーケに託した想いは本物だったけれど、今、彼が厳然とした過去のために苦しんでいる時に、自分はなんと無力なのでしょうか。翡翠と同様、辛い思いを抱えるシエテの耳に彼の声が蘇りました。
「俺は、ずっとシエの傍に居る」
 そう。だから、きっと大丈夫。
 そばにいるから。



依頼結果:大成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月02日
出発日 09月13日 00:00
予定納品日 09月23日

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