プロローグ
祭りの喧騒の中、ふうと屋台の隅に寄りかかり息を整える。タブロス市近郊にある、小さな町だというのに人混みがすごいことになっている。
自然豊かな普段の町並みはどこにいった。もしかして祭り目当てに移動して来ているのか。
「つ、疲れた……」
「大丈夫か? 人混みにでも酔ったのかよ?」
「そういう訳じゃないけど……さっきから何時間も歩きっぱなしだしな」
「普段、部屋に缶詰になってるからだぞ。それ」
「ほっとけ」
相棒の耳に痛い台詞も、優しく背に触れ摩る手に本当に心配されてるとわかるから、どうにもばつが悪くむず痒い。
さあ行くぞと顔をあげ歩き始める。祭りはまだ半ばを過ぎたあたり。後半の花火も見たいし行ってない出店もある。
楽しみたいし、楽しんでほしい気持ちが歩を進めさせる。
そうだ、今日こそは金魚すくいを成功させよう。普段行かないイカ焼きを食べてみようか。
「おい」
何度目かの、後ろからかかる声に足を止めた。
「……だから平気だって。せっかく一緒に祭りにきたのに……俺のせいで水を差すなんて無しだ」
「気にしねぇのに」
「は?」
祭りに来てからというものの先導して俺の手を引っ張り倒してた奴がそれをいうか、と思わず振り返る。
食べて飲んで時には交換しあって笑っていたのだ。そんな言葉が返るとは。
俺の驚きは知ってか知らずか。
にぃっと笑みを浮かべ、ゆっくりと背を向けると喧騒とは反対の林へと歩いていく。
来い――と言うことか。
その顔があんまり愉快そうだったのが、癪に障るが。思うところがあるのか。もしかしたら話でもあるのか。
「……敵わないな」
後を追いかける。あくまで不本意そうに。仕方なく。でも先ほどまでより心が軽いのは何故だろう。
解説
夏祭りの夜、ある事情があって二人っきりで林の影へ、どう過ごしますかというシナリオです。
プロローグで言うとこの後がメインになります。
近くにベンチもあり祭囃子は聞こえますが、ゆっくりとした時間が過ごせそうです。
【何の理由で来たのか】【どう過ごすか】は最低限お書き下さい。またシナリオの最後に【花火】も上がります。
屋台での話はサブ扱いになります。購入したものを持ってベンチで寛ぐのも構いません。その場合は何か教えて下さいね。
例えば
・静かなところで過ごしたかった
・食べ過ぎて一休憩
・踊りを張り切って疲れたので休憩
・人ごみに酔った
・草履の鼻緒で擦れて痛くて
・告白したくて
・なんとなく
それ以外でも自由な発想でどうぞ。
※夏祭りで400Jrを消費しました。
ゲームマスターより
初めまして。正真正銘PBWで出す初めてのエピソードとなります。新米GMの紬ゆら、と申します。
祭りを楽しむのもいいけど、寄り道してしっとり過ごすのはいかがでしょう。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
屋台色々あるね、イカ焼きもいいけどわたあめも食べたい レーゲンも食べる? ……いらないっていう割にじっとわたあめ見てる そうか!レーゲン、ちょっとこっちきて(林の影へ) はい、わたあめ ここなら誰にも見られないから食べていいよ わたあめぐらい大人が食べても平気だよ、遠慮しないで食べて ベンチに座って二人でゆっくりわたあめ食べよう なんだか不思議な感じだね。 少し先は明るくて祭囃子で賑やかなのに、ここは静かで二人っきり やけにわたあめの甘い香りを強く感じる 食べるときに顔とか指についちゃったから わたがしの香りが自分からしてるみたい わっ……そんなに美味しかったの? じゃあもう少しこうしてようか |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
次はどの屋台に…ってどこ行くんだ? …ここ何もないんだけど何しに来たんだ? イチャ…(呆れ)お前今度その薄い本処分しようぜ… さっさと出ていこうとすると後ろから引っ張られ 兄貴って、あの痩せた黒髪の男か? とても祭りを楽しんでるようには見えないが何してるんだ…? それにしてもお前ら全然似てないな… っておい、押すな つられて何となく身を隠し 二人で隠れると結構狭い 密着してるせいか暑くなってきた ネカは大丈夫か…ち、近い 真剣な目で兄貴の方見てるな ドキドキしてるの俺だけみたいでなんか悔しい 悔しいんだけど顔がいい… そのまま見とれてたら兄貴はどこかに行ったらしい ところで何で隠れる必要あったんだ? だからイチャイ…う、うん |
ユズリノ(シャーマイン)
お祭り今年も一緒に来られて凄く嬉しい 彼がここずっとそわそわと何か言いたげだ …もしかして(悪い予想 ベンチでいたたまれなくなり僕から あ…その僕なら大丈夫だよ 家出ていくね 抱締められ抵抗 だってシャミィ恋人ができたんでしょ? 僕がいたら家に呼べないよね 言い辛そうにしてたのそれでしょ 自分を戒めてきたせいで彼の言葉が受入れられない 無理しないで シャミィの恋人女の子ばっかりだったじゃない 男の僕じゃ… 受入れたいのにヒステリーに否定してしまう 駄目だよシャミィは自由でなきゃ 僕じゃ迷惑かけるよ 宥める声が優しくて少し前向きに 僕も…愛してる 耳元で何度も囁いてくれた まだ怖くて玩具の指輪を今は拠り所に 僕のシャミィて思っていいの? |
君と一緒に林に潜んで
祭りの夜は華やかだ。友達や家族連れ、恋人達が思い思いに談笑し、日常から抜け出した特別な今という時間を楽しむ。
『俊・ブルックス』と『ネカット・グラキエス』もその一人。二人並んでかき氷片手に屋台を見て回っていた。
夏の日のかき氷は飛び切り美味しい気がする。それは祭りの雰囲気もあっての賜物かもしれない。
「お祭り楽しみです」
次々と目に映る祭り特有の活気と弾む音楽にネカットの声も弾んでいた。
そうだ、と一言。「良い事を思いついた」とでも言いそうな顔に、俊は興味が勝り深く考えずに付いていく。
「次はどの屋台に……。ってどこ行くんだ?」
人気がない方へ進んでいるような……。この先に特別な屋台でもあるのだろうか。
ネカットが立ち止まり振り返る。目の前には屋台どころか鬱蒼と茂った林しかない。
「……ここ何もないんだけど何しに来たんだ?」
訝しげな俊とは対照的に、ネカットは何故か得意げで。
「ふふふ、お祭りといえばこのシチュエーションは外せません。隠れてイチャイチャするものだと薄い本に書いてありました」
「イチャ……。お前今度その薄い本処分しようぜ……」
ばばーんとネカットの後ろに効果音が聞こえた気がする。何か輝いて見える。俊はもう呆気にとられるしかない。
……その薄い本に何か描いてあるんだ。ネカットに偏った知識を与えないでくれと、早くなんとかしないと……と胸に誓う。
じわじわと有言実行して迫ってくるネカットに、寸前のところで回避し、
ふうと息を吐いて気を取り直すと、俊は踵を返し「次の屋台はどうするか」と元来た方へ歩いて行く。
「えーもう戻るんです? まだ何もしてないのに……」
肩を下しながら渋々と俊の後を追うネカット。せっかくの祭り、恋人を目の前につれない俊が意地らしい。
どうやったらつれるんでしょう、と耽りながら、ふと、行く先の人混みに目を向けた。
反射的に俊の服の裾を掴んでいた。
「待ってください」
「っ!? だからイチャイチャは」
「そうではなくて、今レギ兄様の姿が見えたような……」
振りほどこうとするも思わぬ言葉に動きが止まる。ネカットが見やる、その方向に目を凝らす。
「兄貴って、……あの痩せた黒髪の男か? とても祭りを楽しんでるようには見えないが何してるんだ……?」
眠れなかった夜に打ち明けてくれた、グラキエス家の乗っ取りを企てていたという長男か……。本当にタブロスに来ていたのか。
「確証はありませんがたぶんそうです」
そう告げるネカットは一瞬たりともその男から目を離さず真剣で。
「それにしてもお前ら全然似てないな……」
ネカットの視線の先をみてわかったが、兄弟と言われなければ、すれ違っても気づかないと断言できる。
「っておい、押すな」
「しっ」
静かに、という声。ゆっくり、しかし体を強く押して促すネカットに、俊も何となく身を隠す。
男が通り過ぎるまで、木の影から見えないように。男二人が潜むには狭くて、密着した肌が汗ばんで暑い。息をするのも憚れる。
(ネカは大丈夫か……ち、近い)
近くで見るネカットはいつにも増して睫毛が長くて精霊に違わぬ美青年で、何よりいつも微笑みかけるネカットとは違う、真剣な表情に目を離せない。
(真剣な目で兄貴の方見てるな。ドキドキしてるの俺だけみたいでなんか悔しい)
何を考えているんだろう。そんなことを考える。
悔しい、それには違いはないんだけど。
(悔しいんだけど顔がいい……)
意識してしまうと、知らず知らずに見とれてしまって。
ネカットの体が少し浮いたことで、俊は気づいた。すでに兄貴は通り過ぎていたようだ。時間にして僅かの間だったのに随分長く感じられた。
冷静に、冷静に……一拍間を置いて、いつもの調子で話しかける。
「ところで何で隠れる必要あったんだ?」
「後ろめたいことはないはずなのに何となく隠れてしまいました」
おかしいですね、とネカットは続けた。どうやら気づかれてはない。俊はいつも通りの笑顔のネカットに安堵する。気が緩んでいたのかもしれない。
「あれっ? シュン顔赤いです、大丈夫ですか?」
離れたと思ったのに、自然に顔を近づけ、こつんと額を合わせ熱を確認しようとするネカットに、再び心臓が跳ね上がった。
「……なんてね。ふふ、途中から私に見とれてたのは分かってますよ」
その言葉に、一瞬分からず、いつ頃から気づいていたのかと疑ってしまう。
「改めてイチャイチャします?」
まだ忘れてなかったのか。
でも、そういつものように穏やかに手を差し伸べるネカットは、俺の知らない顔にも見えて。
先ほどまでこちらを見てなかった、焦がれた深緑色の瞳に射貫かれる。
「だからイチャイ……う、うん」
気づけば、手を取っていた。
離れていた温もりがまた伝い、先ほどの熱が戻ってきたようだ。頬が熱い。
背後で大輪の花火が上がり、二人が合わさる長い影が一瞬できる。
歓声や次々と上がっては散る花火の光と音。遠くに聞こえる祭囃子が別世界のように思えた。
●わたあめの香りに包まれて
祭りの夜。行きかう人の賑やかな声に、ライトアップされた屋台の群れ。一歩、歩く毎に様々な香りが食欲を掻き立てる。
どれにしようかと目移りさせながら『信城いつき』と『レーゲン』は連れだって練り歩いていた。
「屋台色々あるね、イカ焼きもいいけどわたあめも食べたい」
数々の屋台が並ぶ中、いつきが、そう口について出たのは、丁度わたあめ屋のおじさんが棒を片手に丸い機械からわいて出てくる雲のかけらのような、
糸の束のような白いもやを、棒でくるくると手際よく回して大きくしていく場面に遭遇したからだ。白くて丸い雲になる。
無駄のないその動きは洗練されていて、あっという間に出来上がり。袋にいれるその手際も見事で芸でもみてるみたい。
見入っていた様子に気づいたのか、にっこりとこちらに差出し「買うかい?」と聞くおじさんは輝いてみえた。
「出来立てを買えてよかったね」
「うん。本当に。見ていたから気を遣わせちゃったかな」
買ってきたわたあめは綺麗な白いキラキラした肌をしていて食べるのがもったいないとさえ思う。新雪のような白に足跡を残すのは憚れる、そんな感覚かもしれない。
意を決して口に含む。消えていくのはいつもどこか不思議で。甘くて美味しくて、足取りまで軽くなってしまう。
「いつき、美味しそうに食べてるね」
「レーゲンも食べる?」
「私はいいよ」
(……いらないっていう割にじっとわたあめ見てる)
(鼻の頭にわたあめがついてる)
わたあめの雲を乗せながら考えるいつきに、笑みを堪えるレーゲン。口元を手で隠しているので辛うじてバレないだろう。
「そうか! レーゲン、ちょっとこっちきて」
思い当たった、ととびっきりの笑みで手を引くいつきに、何だろうと素直についていく。
着いた先は何の変哲もない林の影。特に何も見当たらないが。
「? どうして人気の無い所へ?」
いつきの事だから違うんだろうなと思いつつも少し期待してしまうレーゲンで。
向き合い、にっこりと差し出すそれに、すぐには意味がわからなくて。
「はい、わたあめ。ここなら誰にも見られないから食べていいよ」
(……そういうことか)
案の定と分かってはいたけれど、がっくりと肩を落としてしまうレーゲン。実にいつきらしいけれど。
「わたあめぐらい大人が食べても平気だよ、遠慮しないで食べて」
これはもう一つ買っていたレーゲンの分だからと続けるいつき。
(わたあめとか、子供みたいで照れくさがってると思われたのか……。見ていたのは美味しそうに食べてるいつきだったんだけど)
それでも、私の事をいつきが気にしてくれた事は好ましくて、自然と笑みが零れていた。
いつきといると心がほっと温かくなる。改めてそう思った。
(思っていたのとは違うけど、気持ちは有難くもらっておこう)
「じゃあ、いただきます」
「はい、どうぞ」
レーゲンはいつきの手からわたあめを受け取ると、近くのベンチに座って二人でゆっくりわたあめ食べはじめた。
「なんだか不思議な感じだね。少し先は明るくて祭囃子で賑やかなのに、ここは静かで二人っきりで」
「そうだね。こんな風に静かに食べるわたあめも、ゆっくり味わって食べるから、いつもより甘くておいしく感じる」
レーゲンの言葉に、よかったと胸を撫でおろす。
わたあめをぱくり、ぱくりと。
微笑んで、何気ない会話をして、
3人だったらもっと楽しく食べれたかな、とこの場にはいないもう一人なら何て言うか考えた。
お土産を買って弁解しておこうか。なんて。
でもこうして、レーゲンと一緒に同じものを共有してるのが嬉しくて名残惜しそうにわたあめを食べ終える。
それなのに、やけにわたあめの甘い香りを強く感じるのに気づいた。
(ああ。そうか)
食べるときに顔とか指についちゃったから、わたがしの香りが自分からしてるみたい。いつきはその事に思い当たった。
少しの間を置いてレーゲンもわたあめを食べ終えた。
でも、わたあめは無くなったけど、なんだかもう少し食べたい気分だから――
わたあめの香りのするいつきをそっと抱きしめる。
スローモーションのように呆気にとられるいつきが可愛くて微笑ましい。
甘い、わたがしといつきの香りが増した。まるでいつきの優しさが香ってるようで。
「もう少し食べたかったから、香りだけでも味わっていい?」
「わっ……そんなに美味しかったの?」
いつきは、それは嬉しいことだけど……と戸惑うも、自分からわたあめの香りがするのは少し照れくさくもあって。
突然のレーゲンの申し出に驚きはしたが、自分ももっと一緒にいたいと思ったから。
「じゃあもう少し、こうしてようか」
手を添えて、二人して目を閉じる。この時間を楽しむように。
花火が上がる。祭囃子はより一層活気づく。
それでも二人は、こうしていたいと、いつきはレーゲンの腕の中で時が経つのを心地よく思うのだった。
●交差する愛言葉
祭り会場を一望し『ユズリノ』は、わあと歓声を上げて隣の『シャーマイン』に寄り添う。
お祭りに今年も一緒に来られて凄く嬉しかったから。
一方、シャーマインは浴衣を纏うユズリノの、いつもにも増して可愛い様子により一層の気合を入れていた。
愛していると自覚してから数か月、今夜こそ告白しようと決意をして来たのだ。
「話があるんだ」
こっちだ、とシャーマインは林へ促す。
静かな場所で話したいこと……? 大事な話?
ここ最近そわそわと何か言いたげなのは気になっていた。
(……もしかして)
一度その感覚に囚われてしまうと、高揚した気分はどこへやら。足が歩き方を忘れたかのようについて来なかった。
人気のない林の影にあるベンチをみつけて二人並んで腰を下ろした。
遠くの祭囃子がより静寂を深めているように思えた。普段なら気にも留めない間に、ユズリノはいたたまれなくなり口を開いた。
「あ……。その僕なら大丈夫だよ。家出ていくね」
自分は疎まれ続けた神人。こんな日がくるかもと覚悟していた。
「は!? 何を」
緊張で躊躇していたシャーマインは、ユズリノの突然の言葉に耳を疑う。
(泣きそうな顔だ。俺は何をやらかした?)
わからない。今は何も、告白もしてないし何がリノの琴線に触れたんだ。
でも、けれど。
咄嗟にシャーマインはユズリノを抱き締める。
今こうしないとこのままリノを失ってしまう、そんな錯覚に捕らわれた。
「何の話だ。そんな必要どこに」
「だってシャミィ恋人ができたんでしょ? 僕がいたら家に呼べないよね。言い辛そうにしてたのそれでしょ」
あの時は『特別な存在』と言ってくれたけど、シャミィは素敵だから、すぐに恋人ができると思っていた。
その日が来ただけで。
「ばっ 違う。恋人になって欲しいのはリノだ。リノ好きだ」
突然の言葉に、思考が止まる。
恋人に、シャミィが、僕を……?
疑似結婚式でも、ウィンクルムの務めでもないんだよ? それなのに。
告白された。両想いだった。嬉しいことのはずなのに、自分を戒めてきたせいで彼の言葉が受入れられない。
「無理しないで。シャミィの恋人女の子ばっかりだったじゃない。男の僕じゃ……」
「性別は関係ない。信じてくれ。俺が一番愛してるのはリノだ」
ユズリノはもう一度、振り絞るように声を出した。
「駄目だよ。シャミィは自由でなきゃ」
僕が隣にいるのは厚かましいんだ。シャミィのことを信じてない訳じゃない。僕より素敵な相手がきっとできるのに。
何を必死になってるのか自分でも分からなくなっていた。
「リノ……」
「あ……」
ユズリノは知らず涙を零していた。
嬉しさと苦しさと悲しさと、今までの幾重もの思い出が脳裏によぎり、感情のうねりが収集できずに溢れ出る。
「涙を……すまん。不安にさせたのか、勝手だったか?」
優しい手つきで拭おうとするシャーマイン、
ユズリノは俯いて頭を横に振る。顔を見せないようにするのが精一杯だった。
「僕じゃ迷惑かけるよ」
シャーマインは返事をする代わりに、ユズリノを包み込むようにもう一度腕に抱く。流れる静寂。それでも俺は一緒に居ると示すかのように。
暫くして震える声で、「嫉妬するよ……? 束縛だって……」と聞こえてきた。
「ああ、俺だってする。リノ……愛してるんだ。やっと言えた」
伝えれた。愛おしむように存在を確かめるかのように指でなぞる。
その優しい真摯な眼差しが、温もりが、声が、嘘偽りのものじゃないと思えたから――
「僕も……愛してる」
ユズリノはシャーマインの肩に顔を埋めながら、やっとのことで本当の想いを口に出せた。
本当はずっと伝えたかった言葉。ずっとずっと隣で思ってきた思いを。
か細い返事だったけれど、確かに耳に届いた。腕の中にいるリノを今一度確かめるように強く抱き、髪に口付ける。
「愛してる。……愛してる」
可愛らしいリノ。俺のリノ。
何度も何度もこの想いが伝わるように。
傍らで、髪飾りの青い蝶が、二人を祝福するかのように光を瞬かせながら旋回すると、空に舞い上がっていった。
二人は本来の目的である祭を楽しもうと屋台を練り歩く。特別な日となった今日という時間を楽しむ。
途中見かけたのは、光る玩具を売る屋台。ユズリノは玩具の指輪が目に留まり遠慮がちにせがんだ。
仮でも彼とのペアリングがほしくて。この指輪を今は拠り所にしたかった。
花火が始まった。会場は人々でごった返している。はぐれない様にという名目で繋いだ手。前来た夏祭りでもこうして手を繋いでいたっけ。
あの時は両想いになれるなんて夢にも思わなかった。
ユズリノの指輪と、そのシャーマインの手の指輪を一度みつめ、花火を見上げる。
咲いては散る夜の花。それが次から次へと咲いては消える。
まだ勇気がなくて。消え入る声で口に出した。
「僕のシャミィて思っていいの?」
「ああ」
聞こえてなくてもいいと思ったのに、
シャーマインはユズリノの手を強く繋ぎ直した。伝わる熱がより感じられた。
大輪の花火が上がり歓声があがる。立て続けに幾重も重なる花火の競演に周りの人々は釘付けだ。
「今度、本物を見に行こうな」
本物って――。
ユズリノは息を飲む。鼓動が早鐘を打った。
花火の光に照らされて、そう告げるシャーマインがあまりに真直ぐ見つめていたから。
きっと、その日が来るのはもうすぐだろう。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ユズリノ 呼び名:リノ |
名前:シャーマイン 呼び名:シャミィ |
エピソード情報 |
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マスター | 紬ゆら |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月28日 |
出発日 | 09月05日 00:00 |
予定納品日 | 09月15日 |
参加者
会議室
-
2017/09/04-23:43
ギリギリの参加になったけど、間に合ってよかった
信城いつきと相棒のレーゲンだよ、よろしくね! -
2017/09/04-23:42
-
2017/09/01-14:02
俊・ブルックスとパートナーのネカットだ。
よろしくな。
祭りかー何するかな… -
2017/08/31-01:18
シャーマイン:
ユズリノとシャーマインだ。
よろしくな。
祭りに行きたかったんだ、それにこのシチュエーション…いいな。
ちょっと気合が入ってきた。