【神祭】ある夏の午後(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ


 その日はとても暑い日でした。
 空には灼熱の太陽。
 うだるような気温。風もほとんど止まっています。
 街路樹の緑も、あまりの暑さにしおれかかっているような。アスファルトの上に陽炎。

 あなたは午前の間にどうしてもA.R.O.A.に出頭しなければならなくて、用事をすませて帰って来る途中です。
(昼飯、何があったかなあ)
 しかし、猛暑日の13時前の道路を歩いてきたあなたには、昼食を作る気力があまり残っていません。

 部屋に帰った後、エアコンをつけて扇風機を回して。
 それから食糧を確認したらそうめんが残っていたのでそれにしようかと思いますが、まずは座って一休み。
 それにしても酷い汗です。
 あなたは意を決して、風呂場に入っていき冷たいシャワーを浴び始めました。
 気分がすっきりしてきます。

 そのとき、洗面所でスマホが鳴ったのであなたは慌てて電話に出ました。
「よう! フェスタ・ラ・ジェンマだろ。近所の公園で夜祭りをやっているらしいから、今夜行かないか?」
 あなたの相方からの連絡でした。
「ちょっと待って、今、シャワー浴びていたところなんだ」
 あなたは体を片手でバスタオルで拭いながら言います。
「マジ? ちょっと、今すぐお前の部屋に行くよ。一緒に風呂はいりた……」
「バカ言え。殴るぞ」
「なんだよもー。なあ、夜祭り行かない?」
「んー、どうしようかな」
 暑さの疲れで、あなたは曖昧な返事をします。
 夜祭り自体には興味があるんだけれど、暑いし……。
「はっきりしねーな。今日、俺ヒマなんだよ。お前の部屋行きたい」
「そりゃかまわねーけどさ。変な事すんなよ? そうだな、俺昼飯まだだし。それじゃどっか食べに行く?」
「飯かー」

 夜祭りはどういうものかというと、近所の大きくも小さくもない公園に、焼きそばや金魚すくいやお面屋など、昔ながらの屋台がいくつか出て、櫓の周りで近所の住民がジェンマやセイントを讃える踊りをひとしきり踊り続けるというものです。
 行こうかな。行かないかな。
 相方は、すぐにあなたの部屋にやってくるようです。
 さあ、今日の予定はどうしよう。

解説

 真夏の一日を、ウィンクルム同士で過ごすエピソードです。
※A.R.O.A.までの交通費で300Jrかかりました。

『天候』
 猛暑日あるいは台風の日。
 フェスタ・ラ・ジェンマ期間の夏らしい一日です。

『午前中~昼』
 あなたはその日の午前に、一人でA.R.O.A.に行って来て部屋に帰ってきたところです。昼食はまだです。食糧はそうめんが一袋、それに冷蔵庫の中になすの漬け物など、常備菜が多少残っているようです。暑い中を歩いて汗びっしょり、もしくは台風の中を歩いてぐっしょりです。

『午後』
 相方と合流します。相方と食事に出かけるなり、何か一緒に作るなりしてみてください。その後、各ウィンクルムらしい過ごし方をしてください。
(シャワーを浴びているところに合流した、あるいは一緒にシャワーを浴びたなどでもOKです。公序良俗には留意してください)

近所にはカフェレストランとラーメン屋が一軒ずつあります。値段はどちらも70Jr~100Jrです。

『夜祭り』
 近所の公園で、昔ながらの屋台(焼きそば、金魚すくい、お面屋など、ありがちなもの)が出て、櫓の周りで近所の住民がジェンマやセイントを讃える踊りを踊っています。
 櫓では途中からカラオケなども催されるようです。
 雨天の場合は延期になります。その場合は翌日以降に夜祭りに行ったプランをください。
※夜祭りには参加してもしなくてもOKです。


ゲームマスターより

それぞれのウィンクルムらしい夏の一日をお過ごしください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  シャワー冷たくて気持ちいい……(火照っていたので少しぼおっとしてる)
■開けられびっくり
タイガ!?帰ってきたの?A.R.O.A.に呼ばれてさっきまで出てたんだ
じゃなくて!…僕が入ってるのに来ないでよ(赤面)
あははっくすぐるのは卑怯っ…!お返しだ(シャワー向け)
捕まった(微笑)そうだね(ずっとこうして居たいな…)

今、素麺しかないんだ。タイガはどうしたい?
行くよ。その為に浴衣も用意したんだ

■紺に白の縦模様の浴衣。白い狐のお面を身に着け
タイガすごい!金魚すくいって本当にとれるんだ(自分は失敗)
ありがとう。金魚鉢かわりの家にあるかな

タイガ…(視線に気づき、じと目)
もちろん。タイガと一緒ならどこだって


ルゥ・ラーン(コーディ)
   おや 迎えに来て下さったんですか?(キョト
帰宅途中彼にばったり 怒っている様です
 心配して頂いて
 嬉しいです
 はい 今度からは ふふ

 これを過ぎれば一気に秋めいていくでしょうから
 最後の夏と思えば 楽しみたいですね
洗いっこしていたら彼が
 (吐息零し)ここで体力使います?
悪戯な笑みで解放してくれたけど名残惜しい
 また今度お願いします(もじもじ

さっぱりした所で彼が茹でたそうめんに私が切ったトマト乗せて漬物と共に昼食
 そうめん美味しいです
 一年…経ちましたね 早いですね
彼が神妙な面持ちに その視線が指輪に向いてる?
 何か現状に思う所が?
 ふふ それを相性というのではないですか?
彼が目を丸くしてから納得した様に笑んだ

夏を楽しむため夜祭へ


歩隆 翠雨(王生 那音)
  この暑さは本当に参る
へとへとでシャワーを浴びてたら那音からの電話
何も食べる気が起きないくらい疲れてると、思わず本音を漏らしたら、待っていろと言われ切れる電話
待つ?
首を傾げ、冷たいシャワーが気持ちいいと思ってたら
あれ?那音?
ありゃ、鍵をかけ忘れてた?暑さでぼーっとしてたからな…
わしゃわしゃタオルで拭かれると心地良さと嬉しさが込み上げる
心配して来てくれたんだよなぁ…サンキュ

那音の作ってくれた料理をがつがつ美味しく頂く
ふー美味しかった!生き返ったぜ…!

夜祭り?勿論行くぜ!
そうだ、じーさんの浴衣がある
那音も浴衣着ようぜ
んでもって、写真を撮ろう
那音と一緒に映る為に三脚を買ったんだ
現像したら那音にも渡すな


●セラフィム・ロイス(火山 タイガ)編
 その日の午前中、セラフィム・ロイスは精霊の火山 タイガを置いて、A.R.O.A.に出かけていました。太陽のギラつく猛暑日でしたが、何とか用事を果たし、帰って来た時はもう汗でびっしょりでした。
 セラフィムは早速、洗面所に行くと服を脱ぎ捨て、風呂場に入ってシャワーを浴び始めました。心地の良いぬるま湯が汗を流していきます。
「シャワー冷たくて気持ちいい……」
 頭も体も火照っていたので、少しぼおっとしていたかもしれません。
 一方、セラフィムが出かける前に、やはり自分も用事があって出かけていたタイガも帰って来ました。
「ただいまー。あれセラいねーのか?」
 そろそろ帰って来ると思ったのに、と呟きながらタイガは家の中でセラフィムを探し回ります。
 すると、洗面所の籠に服が脱ぎ捨ててあったので、セラフィムの居場所が分かりました。
「シャワーか、おーれも!」
 タイガは一瞬にして服を脱ぎ捨てると、風呂場のドアを開けて中に飛び込みました。
 セラフィムは突然のタイガの登場にびっくりです。しかも風呂場でお互いに裸です。
「タイガ!? 帰ってきたの? A.R.O.A.に呼ばれてさっきまで出てたんだ。じゃなくて! ……僕が入ってるのに来ないでよ」
 セラフィムはもう顔を真っ赤にして小声で言います。
「声かけただろ? 今日はセラも外出てたのか。いーじゃん、俺とセラの仲だろ」
 そう言って、タイガはセラフィムの脇の下に指を差し込むと直接くすぐり始めました。
「あははっくすぐるのは卑怯っ…! お返しだ」
 セラフィムはシャワーを掴むとヘッドをタイガの方へ向け、蛇口をひねって冷たい水をかけました。
「冷めてー! このー捕まえた」
 タイガはセラフィムを後ろから強く抱き締めます。
「捕まった」
 微笑むセラフィム。
「はー風呂場ではしゃぐのってそういえば初めてだな」
 タイガはセラフィムの体温を感じながら満ち足りたため息をつきました。
「そうだね」
 セラフィムも安心感の溢れる笑みを見せています。
(ずっとこうして居たいな……)
 タイガの腕の中でセラフィムは純粋にそう思いました。

 シャワーを浴びた後、二人はキッチンで食糧を確認しました。
 タイガはぐううと腹の音を立てています。
「今、素麺しかないんだ。タイガはどうしたい?」
「たまにはカフェレストランで済ますか。夜祭りはもちろん?」
 タイガが誘うと、セラフィムは得意そうな笑みを見せました。
「行くよ。その為に浴衣も用意したんだ」
「よっしゃ!」
 セラフィムの言葉にタイガは気合いを入れます。
 その後、二人で近所のカフェレストランに出かけ、日替わりランチセットを頼みました。

 夜になると、二人は近所の公園に出かけました。
 公園はフェスタ・ラ・ジェンマの素朴なお祭りをしています。
 タイガは白に紺の縦模様の浴衣を着て、赤い狐のお面を髪の上に着けています。そして手はセラと恋人繋ぎして夜祭りを見て回りました。今日はセラフィムが疲れているのを見てゆっくりとリードしています。
 セラフィムの方は紺に白の縦模様の浴衣で、白い狐のお面を身に着け、タイガにくっついて歩きました。
 二人は金魚すくいの屋台の前に来ました。
「タイガすごい! 金魚すくいって本当にとれるんだ」
 タイガがひょいひょいと金魚をすくっていくのを見てセラフィムは驚愕です。セラフィムの方は勿論失敗なのでした。
「ふっふふ~運動神経の賜物だな♪ ほい、セラ」
 タイガはセラフィムへと景品の金魚をあっさり渡してきました。
「ありがとう。金魚鉢かわりの家にあるかな」
 なんのてらいもなく喜んでいる笑顔を見せて、セラフィムはひらひらした可愛い金魚を見つめています。
 そのあと、二人は食べ物の屋台を巡り、最後に公園のベンチに腰掛けました。
 タイガはでっかいリンゴ飴を食べながら、チョコバナナを持ってるセラフィムをじーっと凝視しています。
「タイガ……」
 彼の視線に気づき、不穏なものを感じ取って、セラフィムはジト目になってしまいました。食欲なのか、もう一つの欲望なのか、彼の場合は分かりませんが、危険を感じる事には変わりありません。
「何でもね! 今日来てよかったか?」
 慌てて誤魔化しながらタイガはセラフィムの顔を見つめました。
「もちろん。タイガと一緒ならどこだって」
「俺もだ」
 タイガは歯を見せて笑います。白い大きな犬歯。やけに子供っぽく男っぽく、それなのにとても頼りになる、セラフィムの大好きな笑い方。
 セラフィムは酷く温かい気持ちになって、片手に金魚、片手にチョコバナナという格好ですから、そのまま、腰を浮かせてタイガの方へ数㎝近づいて行きました。
「もっと近寄れよ、遠慮することない」
「だって……」
 夜祭りの人の視線を気にして、セラフィムは顔を背けてしまいました。
 ツンの部分を見て、タイガは苦笑します。こういう部分はセラフィムの、彼だけに見せる甘えなのですから。
 愛しい人が、自分だけの見せてくれる愛らしい表情を胸に、タイガは幸せを噛みしめます。彼とともにあれるという、幸せを。

●歩隆 翠雨(王生 那音)編

 歩隆 翠雨は午前中に精霊の王生 那音とは別行動で、A.R.O.A.に出かけました。
 その日は猛暑日で、青空には太陽がギラギラと輝いており、帰宅する頃には翠雨は汗ぐっしょりになってしまいました。
(この暑さは本当に参る……)
 ぐったりとした翠雨は洗面所で服を脱ぎ捨てると、風呂場に入っていき、冷たいシャワーと温かいシャワーを交互に浴び始めました。それでもまだ頭がぼうっとしています。
 その時、洗面所に置いていたスマホが鳴り、翠雨は慌てて風呂場から出ると、電話に出ました。
「翠雨さん。昼食を一緒にどうかと思って……」
「ああ、那音。……暑くて何も食べる気が起きないんだ」
 翠雨は疲れ切った声でそう答えました。
 那音の雰囲気が変わります。
「待っていろ」
 那音はそう言うと電話を切ってしまいました。
「……待つ?」
 翠雨はきょとんとして首を傾げます。
 ですが、暑気あたりで頭がぼんやりしていた事もあって、翠雨はそのまま冷たいシャワーを浴び続けました。
(冷たい……気持ちいい)
 その頃、那音は翠雨の自宅へ到着しました。呼び鈴を押しても反応がないのでドアを押してみると、すんなりと開きました。
(鍵がかかってない? なんて不用心な……)
 呆れながらも那音は翠雨の家の中に入っていきます。
 水音が聞こえるので浴室の方へ向かいます。
 見れば、翠雨は勢いのよい冷水シャワーを浴びてぼうっとしていました。
「あれ? 那音?」
「翠雨さん。何をしているんだ。玄関が開いていたぞ」
「ありゃ、鍵をかけ忘れてた? 暑さでぼーっとしてたからな……」
 翠雨はそう言いながらもまだぼんやりした様子。
 那音が腕に触れてみると、その皮膚は充分に冷えていました。
「体を冷やしすぎてはいけない」
 そう言って那音は翠雨を風呂場から引っ張って出すと、タオルで体を拭いてあげました。
「本当に翠雨さんは子供みたいだな」
 翠雨は那音にわしゃわしゃとタオルで拭かれると、心地よさと同時に嬉しさがこみあがってきます。
「心配して来てくれたんだよなぁ……サンキュ」
 那音はさらに、翠雨にスポーツドリンクで水分補給をさせました。
 翠雨は気持ち良さそうで機嫌良さそうですが、まだぼうっとして受け答えが頓珍漢です。
「キッチンを借りるぞ」
 食欲が落ちているという話を考えて、那音は彼の為にピリ辛の豚生姜焼きを作りました。
 テーブルに座っている翠雨の前に生姜焼きランチを持っていきます。
 翠雨は那音の作ってくれた料理を実に美味しそうにがつがつといただきました。
「ふー美味しかった! 生き返ったぜ…!」
 食べ終わると満面の笑みです。
 那音はいつもの翠雨に戻ってほっと安堵の息をつきました。
「どういたしまして」
「那音、突然電話寄越して、何かあったのか」
 食べて元気になった翠雨はそのことに気がつきました。
「ああ、勿論用事があって電話をした。一緒に昼食と……夜祭りに行かないかと」
 那音はやっと用事を告げる事が出来ました。
「夜祭り? 勿論行くぜ! そうだ、じーさんの浴衣がある。那音も浴衣着ようぜ」
 那音の申し出に翠雨は大喜びで乗り気です。
 しかも、浴衣を着て行こうと言い出しました。
「浴衣? 生憎と着た事がないんだが……翠雨さん、着付けが出来るのか? 着てみよう」
 那音は胸の中に引っかかりを覚えながら、その申し出を受けました。
「んでもって、写真を撮ろう」
 わくわくとした笑顔で翠雨は言います。
「俺と写真を?」
 那音は驚いて目を見開きました。
「那音と一緒に映る為に三脚を買ったんだ。現像したら那音にも渡すな」
 弾む声で翠雨は計画を告げます。実に楽しそうな様子でした。
「なら、写真立てを買わないといけないな」
 那音は嬉しそうに笑って言います。
 楽しそうな翠雨の笑顔を見て那音は拒む事など出来ませんでした。彼の喜ぶ顔を見ていたいのです。
 二人は浴衣を着て夜祭りに出かけました。夏の夜空の下、ライトアップされた公園の櫓の影、人々がジェンマを讃えて踊り、昔ながらの屋台に子供が群がり--。
 そんな夜、浴衣を着た翠雨が、お面を片手にこちらへ微笑んでいます。
(翠雨さん)
 那音は過去の記憶を呼び起こします。

――俺は翠雨。ここでそう呼んでくれる人は居ないけど

 かつて女物の着物を纏い、そう悲しげに呟いていた少年。彼は今、自分の前で男物の浴衣を着て楽しそうに笑っています。
 彼は今、彼らしく生きているのでしょうか。那音はその手助けになっているのでしょうか。
 そう考えると何だか胸が締め付けられるような気がして、那音は翠雨に駆け寄り手を伸ばしますが、翠雨はまるで流れるような動きでそれを避けます。
 笑っているけれど、決して手の届かない距離を保つ翠雨。
(でも、いつか)
 那音は振った手を握りしめます。
 いつかきっと、彼に正面から手を触れる日を――。

●ルゥ・ラーン(コーディ)編

 その日の午前中、炎天下にも構わず、ルゥ・ラーンは精霊のコーディを置いて一人でA.R.O.A.に出かけました。
 余りに激烈な日射しにふらふらしながら帰って来ると、帰宅途中でばったりとコーディに出くわしました。
「おや、迎えに来て下さったんですか?」
 きょとんとするルゥ。
「僕も一緒に行くって言ったよね! 何で一人で行くかな~」
 コーディは何だか怒っている模様です。
「心配して頂いて、嬉しいです」
「どうして僕を放置した訳」
「よく眠っていたので起こしませんでした」
 そう言ってルゥはのんきに笑っています。
「起こしていいから! 神人が一人で何かあったらどうするんだい」
「はい。今度からは。ふふ」
 コーディは怒っているのですが、何を言ってもルゥは笑いながら腕を絡めてくるだけでした。
「やれやれ……」
 しまいにはコーディは怒る気が失せてしまいました。
「それにしても暑いな。もう夏も終わりだって言うのに」
 二人は長屋に戻ると一緒にシャワーを浴びました。
「これを過ぎれば一気に秋めいていくでしょうから、最後の夏と思えば 楽しみたいですね」
 コーディに冷水をかけられて目を伏せながらルゥが言います。
「じゃ少し楽しむ?」
 洗いっこをしていたら彼がそんな事を言い出しましたので、ルゥは目を見開きます。
 コーディはいたずらっぽく、ルゥの首筋から肩にキスを落とします。
 ルゥは目を閉じてびくりと体を震わせました。彼はこういう事には初心でその様子が可愛いのです。
 ルゥは吐息をこぼしました。
「ここで体力使います?」
「――また今度ね」
 コーディは満足げでした。彼は悪戯な笑みでルゥを解放してくれましたが、今度はルゥの方が名残惜しく感じます。
「また今度お願いします」
 ルゥはなんだかもじもじした様子です。
 さっぱりしたところで、コーディが茹でたそうめんにルゥが切ったトマトを載せて、漬け物とともに昼食を取る事にします。
「そうめん美味しいです」
 ルゥは満足そうな表情です。
 コーディはそうめんをすする彼の指に、貼ってやった絆創膏があり、薬指には指輪がはめられている事に気がつきました。
「そういえば一年経ったかな僕等~」
「一年……経ちましたね。早いですね」
 コーディが神妙な面持ちである事にルゥは気がつきました。その視線が指輪の方へと向いています。
 そう、彼と出会ったのは去年の八月の事でした。
 一年の間の様々な出来事をルゥは思い返します。
 コーディの方はじっとルゥの顔と薬指の指輪を見つめているようです。
「何か現状に思う所が?」
 ルゥは淡い笑みを浮かべてそう尋ねました。
「さあね。君には振り回された気がするけど首を突っ込んだのは僕だ。気付けば揃いの指輪してる。何だろうこれって」
 どこか不服げな様子でコーディは言います。実際に、ルゥが現れてから彼の生活は一変したと言っていいでしょう。全く見知らぬ彼を怪現象から守るために――疑似結婚式で指輪の交換までやって。
「ふふ。それを相性というのではないですか?」
 ルゥはそう答えました。
 コーディは目を丸くしてから、納得したように微笑みました。

「君は、僕の神人だ」
「……ええ。私は、あなたのモノです」

 イベリンでのあのときの会話を二人は思い出しました。
 ルゥには、コーディのフン! という高らかな鼻の音まで聞こえてきたようでした。彼の精霊は気が荒くて乱暴なようで、世話焼きで優しくて、素直じゃないのにとても素直で、なんと可愛らしいのでしょう。
 彼はルゥ・ラーンの導きの星。
 彼を信じて委ねていくのです。
 コーディはルゥの愛情を信じ始めています。ずっと冗談にしか思えなかった彼の愛は本気だと。彼に対して、自分のディアボロとしての執着が生まれて来た事を自覚しています。それが悲劇にならないように――依存に変わらないようにと自制しながらも、愛しいと思う気持ちは止められません。

 やがて日が暮れて、二人は夜祭りに出かけました。
 手を繋いで。
「夏の夜祭りなんかだと瘴気が出たりするの? 君は感じられる訳」
「霊力は復活していますから分かるでしょうね。だけど、何も心配することはありませんよ。あなたと一緒ならば」
 ルゥの言葉にコーディは複雑な表情になります。
 公園に着くと幻想的な和風の光景の中、ライトアップされた櫓の上で浴衣の女性が踊っていました。
 綿飴、金魚すくい――二人は順番に屋台を巡っていきます。
「ねえ、何かいる? 僕は何も……」
「ああ、コーディ」
 そのとき、ルゥが夏の夜空を示しました。そこには二つ目の月がゆっくりと昇る光景が見られました。
 テネブラ。
 ウィンクルムだけが見える月。ルーメンと並んで、夏の星空に神秘の輝きを放ちながら昇っていくのです。
「……君に見せてもらって嬉しいものの一つかな」
 微笑んで、コーディはルゥの指を強く握り締めました。指と指を絡めて手を繋ぎながら、二人は二つの月の輝きを見つめ、一年を振り返りました。
 彼に会うまでは、二人だから見る事が出来る月など、知らなかったのです。
 彼と会えたから、こうしてテネブラが見る事が出来る――二人だから見られる世界がある、二人だから知る事が出来る感情がある――それを噛みしめたのでした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月23日
出発日 08月31日 00:00
予定納品日 09月10日

参加者

会議室

  • [5]歩隆 翠雨

    2017/08/30-23:10 

  • [4]セラフィム・ロイス

    2017/08/29-00:28 

    どうも。僕セラフィムと相棒のタイガだよ。よろしく。
    夏が続くけど皆、元気にしてる?タイガは相変わらず。僕は…ちょっぴりバテてるかな?
    まあ今日という一日を楽しむため頑張るよ

  • [3]歩隆 翠雨

    2017/08/28-00:25 

  • [2]歩隆 翠雨

    2017/08/28-00:25 

    歩隆翠雨だ。相棒は那音。
    よろしくな!

    夏の一日か…どんな時を過ごせるのか、楽しみだぜ!

  • [1]ルゥ・ラーン

    2017/08/26-00:58 

    ルゥ・ラーンです。
    パートナーのコーディと参加させて頂きます。
    よろしくお願いしますね。


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