プロローグ
「レクリエーションだ」
職員の男性が一言告げた。
いつぞやもレクリエーションと称して模擬戦を行った事がある。
また同じような事だろうか……と頬杖など突いて聞いていると「今回はそう物騒なものでもない」と付け足された。
「大神祭『フェスタ・ラ・ジェンマ』に乗じ、山間にあるレクリエーション施設が、ウィンクルム向けのキャンペーンを行っているところだ」
ばさりと卓上に置かれた資料にはとある宿泊施設の情報が載っている。
豊かな自然に囲まれた温泉宿、離れにはバーベキューの出来る施設。
少し足を運ぶと広い芝の公園や牧場が有り、小池には水鳥が集まり、木製の簡易な小屋には牧場で飼われる動物達が暮らしている。
温泉宿はそれぞれに完全個室が設けられており、二人きりで自然を眺めながらゆったりと落ち着いて話をする事も出来る。
また、大神祭と併せて、夜には小規模だが花火が打ち上がるとのことだ。
よくある自然を利用して作られた娯楽施設の様なものだが、遊び方やプランは人それぞれといったところだろうが。
「施設側の意向による、ウィンクルムへの一日貸切だ。テーマパークや市内の賑わしさとはまた違うが、自然に囲まれた温泉宿は疲れを癒すには丁度いいだろう」
存分に息抜きしてくるといい、と微笑んで告げ、参加表明を募った。
解説
▼終始完全にレクリエーション施設での交流や遊びメインのシナリオになります。
▼こちらで用意する流れ
・施設到着~昼に皆でバーベキュー
・自由時間~夕方集合、花火を見て宿へ
・温泉宿に宿泊~宴会場で夕食→入浴→就寝の流れ
翌朝自動的に帰路へ着くので上記一日の流れがあればいいです。
描写は全体と個別が入り混じる感じになるかなぁと。
▼自由時間の遊び場一覧
・ミニ動物園
・大きな滝
・小鳥の森
ぶっちゃけ自然しかない訳ですけど、動物と戯れたりマイナスイオン浴びたり鳥の声に心を落ち着かせてみたりしてください。
森歩きながらゆっくりお話とかでもいいです。
▼温泉宿で出来る事
・宴会場でどんちゃん騒ぎ…カラオケしたりごはんたべたり呑んだり。未成年にはジュースが出ます。
・露天、屋内型の入浴…お風呂は個室にもあります。二人だけでゆっくり入ってもいいです。表現行き過ぎてたらぼかします。
・就寝時のアクション…寝室はそれぞれ別室になるのであとは若い二人でごゆっくり。和室に二組のお布団です。ナニかあってもぼかすので、お好きにそれぞれの夜を過ごしてください。
*プランにいるもの
・どこで何をしたいか。以上です。一日の流れに沿って書くと書きやすいかなぁと。やりたい事だけ重点的に書いてもらってもいいです。
*みんなで遊ぶ系のアクションは会議室で~しようぜ!みたいにお誘いあわせておくのもいいかと思います。
▼お土産を購入したため300jr消費しました。
ゲームマスターより
男性側に出した『たまにはみんなで休日を』をイベント用に焼き直したものになります。
修学旅行なんかで決められたプランに従いつつも夜先生にナイショで集まったりとわくわくした宿泊体験を思い出しつつ書き起こしました。怖い話したりね、枕投げしたりね。
誰かの部屋に遊びにいって寝る前に少し遊ぶとかいうのもありです。就寝時には冒頭の職員男性がちゃんと戻るようせっつきに行きます。
自由度が高い事と一日が長いのでEX、ほとんど交流メインになるかと思います。
あやういプランは問題ないようにこっちで書き起こすので、どうぞお気軽にご参加ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
皆でたくさんお話します バーベキューではお喋りしながら準備 あのね マシュマロを焼いてクッキーに挟むのをやってみたいんです 本で見てすごく美味しそうで ぱくりと食べて幸せ笑顔 乗馬体験にも興味津々 乗ったことない、けど 乗れるかしら? 最初はどきどき 慣れてきたらいつもと違う視線の高さに歓声 初心者コースでも 走ったり跳んだり楽しくて ふと上級者コースに視線 うわぁ、クラウスさん上手 …シリウス、乗馬できるんでしょう? ああいうのも跳べる?え、見たい ーっ、すごい!上手!満面の笑みで拍手 楽しいご飯の後 一日の疲れもあってすぐ眠く …シリウス、今日も眠れない? 手をつなぎましょ 一緒にいたら、こわいゆめ、なんて 帰る前に皆で記念写真 |
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
お茶、ここに置いておきますね! パンも用意してみたのでお肉とか挟んで食べられますよっ グレン、ちゃんとお野菜も食べてますか? 牧場ですか…村の養父母の家に動物がいっぱいいたので懐かしいです 乗馬は久しぶりで緊張します…グレンは乗らないんですか? えへへー、今回は他の皆さんと一緒にお酒が飲めますねぇ グレンからちゃんとお許しが出てますしっ このあとの温泉もとっても楽しみです! …あらら、気がついたら外に。 馬に乗ったり、お話したり、すごく楽しかったです! でも、皆と一緒もいいですけど…グレンと二人の時間がなくて少し寂しかったかもしれません。 …もしかして拗ねてます? あの、今日一緒にいなかった分ぎゅーってしてください! |
シルキア・スー(クラウス)
絡み歓迎 ドジ不運OK てへ いい空気!遊ぶぞー 伸び BBQ 料理音痴気味なので準備中教わりたい 何でも美味し~ マシュマロは別腹♪ 動物園で障害物馬術競技で遊ぶ 参加しませんかー?と誘い掛けてみる 初級レベルで挑戦 結果お任せ その後 滝が見れる道を通り森へ 木陰に座り小鳥の憩いを邪魔しない様ゆったり歌います 小鳥の囀りがコーラスに? 癒しサイコー! 花火 自然に彼と指絡め寄添い また一緒に見れたね 宴会 楽しい休日にかんぱーい 注いで注がれてほろ酔い 飲み過ぎらめなの~ヒック あなたって奇跡みたいに出来た人よね…奇跡に乾杯エヘヘ 女湯露店風呂眠そうにまったり 布団直行 来て良かったね…スヤ 帰り際 宿を背に携帯で皆と集合記念写真撮る 皆とデータ共有 |
八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
まずはお昼ご飯 肉を持参 肉のないBBQはBBQじゃないですから ミニ動物園で乗馬に挑戦 経験者の方に色々教えてほしいです 障害物競技には参加せず、まずは馬に慣れることを目標に 慣れてきたら少しスピードを出し そーちゃん、一緒に並走しない? 私も滝を見てると何だか不思議な気持ちになるの 縁かぁ…前世にでも何かあったのかも? じっと見ていると引き込まれるように前へ (引き留められ)…え? あ、ありがとうそーちゃん…落ちる所だった 皆で夕食後部屋へ 温泉は個室風呂、交代で入る そういえば遊んでいる時のそーちゃん、確かに焼き餅やいてたかも 風呂上がりに冷たいお茶を用意して …今日はちょっとだけ夜更かししようか? 最後に皆で記念写真 |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
BBQ 調理使用 下処理が必要な物の処理や焼いたり配膳したりの手伝い中心 あらかた配り終えたら食べる ミニ動物園 動物学使用 小さい動物と触れ合いたいな 出来れば抱っこして撫でたい 一緒に動物に触れる人がいたら動物について話したい 鳴き真似して反応してくれたら嬉しい え、ガルヴァンさん馬に乗った事あるの? へー…(故郷がどんな場所なのか想像 馬に乗る精霊の姿が格好良すぎて惚れ直し見惚れる その他時間の許す限り別所も回りたい交流したい 花火を見 横目で花火に映える精霊を見 …こんな綺麗な人に惚れちゃった私って… 温泉宿 夕食美味しい 露天風呂も最高 就寝時あの時の事思い出し赤面(EP62 少し離して寝る 皆さんとの記念写真もご一緒したいな |
●
「いい空気ー! 今日はめいっぱい遊ぶぞー!」
目的地に到着し、山の澄んだ匂いを全身で吸い込んで、う~ん! とめいっぱい伸び上がるのは神人、シルキア・スー。
どこまでも続いていそうな空と高原に、テンションが上がった彼女は、猫のように草原を駆け回る。
「あまり走るな。転んでしま――」
精霊、クラウスが心配するそばから、どしん! と何もない所でけっつまずいて、むくっ! と間髪いれず顔をあげた。
「……てへ。転んじゃった」
ぺろりと舌を出してごまかし笑いを浮かべる彼女に、ほ、とクラウスは安堵の息を吐いた。
「今日は、みんなとたくさん思い出作って帰りましょうね」
ね、シリウス。
シルキアたちに続き、送迎バスを降りた神人リチェルカーレの言葉に、そうだな、と気持ちほどけた表情で頷く精霊、シリウス。
騒々しい場所は向かないけれど、静かな風が吹く高原は心地いい。
何より、パートナーのまとう穏やかな空気に、澄んだにおいと青空の色がとても似合うと思った。
「折角貸切なんだから、めーいっぱい、遊びましょうっ!」
ぴょこんと跳ねる様にバスを降り立った神人ニーナ・ルアルディに、精霊グレン・カーヴェルも続いて。
今回のツアーに参加した後の二組――アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルド。
八神 伊万里と、蒼龍・シンフェーアもバスを降り立ち、夏の残り香にそよぐ風を浴びた。
●
「まずはお昼ご飯ですね」
どさどさっ! と、袋一杯の肉を持参し、組み立て式のテーブルに並べたのは伊万里だ。
野菜も気持ち程度には入っているが、やけに大きいクーラーバッグ背負ってると思ったら、と蒼龍が苦笑した。
「イマちゃんは見かけによらず肉食女子だよねぇ」
「肉のないバーベキューは、バーベキューじゃないからね」
にこ、と穏やかに微笑んで当然のように言ってのけるものだから、つい微笑ましくなって一つ頭を撫でたら「な、なに?」と照れた様にはにかんだ。
「わっ、切るの上手ー! 私にもお料理教えて!」
我先にと包丁を手に取り野菜を手早くさばいていくアラノアに、感嘆の声のままシルキアが飛びついた。
「……そ、そうかな。普通だよ」
「そんな事ないわ。料理やお菓子作りも上手そう」
「え、えへへ……」
リチェルカーレも手元を見遣り、素直に賛辞を口にすればアラノアは照れた様に頬を掻く。
褒められるという行為にはどうにも慣れないけれど、他と変わらない程度にと覚えた家事が役立っているのかもしれない。
「いいなぁ、私は料理音痴だから。お米ですらべちゃべちゃになったり……」
「水加減、じゃないかな……本にも載ってる」
「その加減、っていうのがわからないんだよねー!」
こんなんじゃいい花嫁さんになれないなぁ、なんてぼやきつつ、談笑交じりに下ごしらえを終えた頃になり、炭やコンロを準備していた男性陣から「準備オッケーだよー!」と声がかかり、各自協力して材料を運んだ。
「お肉焼けましたよー! みんなどんどん食べましょう!」
お茶もここに置いておきますね! と、世話役に徹するニーナから、ありがとう、と皆ドリンクや小皿を受け取り、焼けた順に食材を取っていく。
こういった集まりは自然と【焼き担当】と【食べる担当】が別れてしまうもので、あっちこっち駆け回るニーナに続いて、アラノアとクラウス、シリウスが場所を分担し、それぞれの皿に焼けた具材を運んでいく。
「わ、焼けたホタテめちゃくちゃいい匂いして美味しそう。持ってきてくれたの?」
「ああ。魚は美容にもいいのだ」
蒼龍が感心するそばから、ホタテ、サザエ、イカ、エビなどの海鮮類を手早く焼いて行くクラウス。
肉の焼ける匂いとは違った香ばしさがあり、じゅうじゅうと反りあがるエビをシルキアの皿に取ってやれば、おいしそー! と目を輝かせてかぶりついた。
「あつっ! あっつい! はふ、はふっ……!」
「火傷するなよと、言おうとしたのに……」
まったく、とさして困った風でもなく笑いながら、クラウスもイカ焼きにかじり付く。
「はい、イマちゃんも」
バランスよく食べようね。パートナーから皿に盛られた野菜と海鮮を見て、いつのまにか肉でいっぱいになっていた紙皿にえへへ、と伊万里は照れ笑いを浮かべ「お野菜もおいしーね、そーちゃん」と、焼けた旬の野菜を口に運ぶ。
「……ガルヴァンさん、食べないの?」
調理と盛り付けに専念していたアラノアが、ふと隣で焼き作業に徹するパートナーの、からっぽの皿を見つけて問いかける。
「俺が焼けば、アラノアも食べられるだろう」
ほら、と、すっかり忘れかけていた、自分の皿に次々乗せられていく肉と野菜を見て、早く食べられるよう気遣ってくれたのだと気付く。
「あ……ありがとう。うん、おいしいね」
「うむ」
あらかた配り終えたのを確認して、二人肩を並べ和やかに焼けた肉を頬張った。
「パン欲しい人いませんかっ? バイト先で分けていただいたんですー!」
ニーナが鞄から袋を取り出し、封をあけると、バーベキューのそれとはまた違う香ばしいパンの香りがふわりと広がった。
「お店のパンだ、おいしそうー!」
「こーやってお肉を挟むと……ほらっ。違った楽しみ方ができますよ~」
「ハンバーガーみたいですね」
なんでもおいしそうに食べるシルキアが瞳を輝かせ、伊万里もいただきます、とありがたく受け取る。
皆に配り終え満足したところで席に戻り、隣で他の精霊達と話しつつ肉を頬張るグレンの肩をつついた。
「グレン、ちゃんとお野菜食べてますか?」
「食ってるよ。むしろお前が食うの忘れてるだろ」
示唆されて、自分の皿に盛られたまま冷めかけの具材に、てへへ、と頭を掻いた。
「皆さんがおいしそうなのを見てると、つい……」
「そうだろうと思った。ほら、お前も食え」
あーん。
いたって普通に、なんでもない感覚でつい、可愛がっている小型犬に餌付けするように口元へ持っていくと、最早反射のようにぱくっ! とニーナが食材にかぶりついた。
「おいひーれふ!」
「そいつはよかった。質がいいんだろうなぁ、冷めても美味い……」
また一つ運ぼうとしたところで、周囲がにこにこと――にやにやと笑いながら見ていることに気付いて、ごほん! と一つグレンが咳払いをする。
「いーなぁ、ああいうの自然に出来るカップルって……ねぇ?」
「ええ。見てるこっちまでにこにこしてしまって……」
シルキアとリチェルカーレの二人が頷きあい、ちら、とそれぞれのパートナーを見遣る。
クラウスは何だ? とマイペースに肉を食べながら、シリウスは黙々と肉を焼きながら。
アラノアも少しだけ隣の相方を見上げてみたが、やはりこちらもよく分かっていないようで、きょとんと小首を傾げていた。
「イマちゃんも、あーんしてほしい?」
「い、いいよ、私はっ」
ニコニコと上機嫌に問いかける蒼龍に、伊万里はぶんぶんと赤い顔を横に振った。
「ひひうふはん、へんへんはへふぇらいひゃらいふぇふかっ!」
「お前は食いきってから喋れニーナ」
終始焼き作業に徹しているシリウスの存在に気付いたニーナが、口いっぱいに肉を頬張りつつ指摘すれば、それに気付いた周囲がやいのやいのと彼の皿に食材を盛り始めて、シリウスはぎょっと瞳を丸くする。
「い、いや、俺は……」
「肉が冷めるぞ」
「そーそー。魚も食べようねぇ」
「こっちはニーナ特製のハンバーガーだ」
「うむ。流石店のものというだけあってパンも美味い」
「……」
あれよあれよという間に、他精霊達から具材を山盛りにされてしまい――もうなんだかバーベキューというより何でも盛りみたいになってしまった自分のぎゅうぎゅうの紙皿を前にして言葉を失っていると、リチェルカーレが声を堪えて笑っていた。
「私たちも食べないとですよ。お茶どうぞ」
アラノアの言葉を受けて、僅かに戸惑った後、ありがとう……と照れたように、シリウスは小さく告げた。
「そろそろデザートにしましょうか」
「デザート? バーベキューで?」
満を持してとばかりにリチェルカーレが取り出したのは、大きなマシュマロがごろごろと入った菓子袋とクッキーの箱だ。
「マシュマロを焼いて、クッキーに挟むのをやってみたかったんです。本で読んですごくおいしそうで……」
「あ、それ私も見た事あります。作るのは初めてだなぁ……」
どんな風になるんだろう? と、アラノアもそわそわしながら、串の先に刺したマシュマロを炙り、待つこと数十秒。
ふーふーと軽く冷まして、柔らかくなったそれをクッキーに挟み、勢いよく口の中にぱくん! と頬張れば。
「……!」
言葉もなくもぐもぐと口を動かすが、リチェルカーレの幸せそうな笑顔が全てを物語っている。今にも花が舞ってきそうな絵面だ。
「うーん、おいしいっ! マシュマロはやっぱり別腹だよねぇ~」
シルキアも同じように頬張り、口の中でとろける雲色のお菓子に表情を綻ばせて。
「イマちゃんもどうぞ。美味しいよ?」
蒼龍に手渡された焼きマシュマロを伊万里もありがとう、と受け取り、青空の下で甘味に舌鼓をうった。
●
「動物さんが、いっぱい居ますねぇー!」
バーベキューの片付けを終え、自由時間となり。
ひとまずは順路となってるミニ動物園に足を運んで、真っ先にニーナが牧場へ飛びついた。
「可愛い……抱っこしてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
飼育員にアラノアが声をかけると、にこりと笑って快諾してくれた。
動物の抱き方、と書かれたボードをさほど読み込まなくとも、手慣れた様子でぷるぷると震えるモルモットを抱き上げるアラノアに、慣れてるんですね、と飼育員の女性が微笑む。
「動物学を学んでいるので……少しくらいは」
端っこで怯えた様に縮こまっている小さな生き物にも、器用な鳴き声を聞かせれば、耳をぴこぴこと揺らしながら近寄ってきた。
「アラノアさんすごいですねっ。私も、村の養父母の家に動物がいっぱい居たので……なんだか懐かしいです」
「そうなんだ。……うん、動物はかわいいよね」
和やかな雰囲気のまま、うさぎやモルモットを撫でていると、いつの間にかアラノアの周りを動物たちが囲んでいて。
嬉しそうにはにかみ、鳴き真似したり頭を撫でたりと、ふれあいタイムを満喫しているアラノアをじっ……と隣で見つめていたガルヴァンが、不意にぽん、と大きな手の平をアラノアの頭に置いた。
「……」
「……な、なに?」
「いや……撫でたくなって……」
「動物はこっちだよ?」
「ああ……」
小動物を撫でるアラノアの頭を更にガルヴァンが撫でる。
そんな姿を遠目に見ていたグレンの所へ、ニーナがトコトコと歩み寄った。
「グレン何見てるんですか?」
「いや、あそこ面白いなと思って……お前はもういいのか?」
「はい! ふわふわを堪能してきました! あ、そういえばシルキアさんが馬に乗りたいって言ってた様な――」
ニーナの声を受けて、アラノアとガルヴァンも連れ立ち、馬術体験、と書かれた札の方へ移動した。
「私たちと一緒に馬術競技、参加しませんかー?」
開口一番、皆を誘いあわせたのはシルキアだ。
「私も乗ってみたいな。経験者の方に、色々教えてほしいです」
「乗った事はないけど、乗れるかしら……興味はとてもあるのだけれど」
伊万里とリチェルカーレがおずおずと挙手し、懐かしげに牧場を眺めていたニーナも。
「始めてじゃないけど、乗馬は久しぶりなので、すごく緊張しますね……グレンは乗らないんですか?」
と問いかければ、離れた位置の木陰にもたれたグレンが首を横に振った。
「どっかの誰かさんがドジ踏んで事故った時、助けるのは俺の役目だしな」
「そんなに抜けてないですよぉー!」
「はは。まぁ、楽しんでこいよ」
ふくれっつらのニーナを笑って送り出し、付き添い用のベンチに腰掛けた。
「……とりあえず、手綱だけは離すなよ。落ち着いていれば振り落とされる様な事はないから」
リチェルカーレに手を貸しながら、鞍に足を掛ける手助けをするシリウス。
最初はおっかなびっくりしながらも、なんとか馬の背に体を預ける事に成功する。
「怪我をしない様に――と、そちらは俺が指導するまでもなさそうだ」
ニーナや伊万里に乗り方や心得を説いていたクラウスが、シリウスの仕草や所作を見て微笑む。
「俺は教えるのは苦手なんだ。あんたが指導してやってくれ」
「そう言うな。彼女の瞳を見ても?」
「……」
横目でちら、とリチェルカーレの顔を見やれば、クラウスさんと一緒に教えてくれないの? と言葉にこそしないものの、その表情から言いたい事はひしひしと伝わってきたので。
「……あんまり教えられることないぞ」
「シリウスっ!」
やむなく彼女と馬のそばで足を止めれば、リチェルカーレの表情がぱあっと華やいだ。
「まずは、馬に慣れないとですね……」
鳶色の毛並みを見上げて、緊張から体を固くする伊万里に、クラウスがそっと声をかける。
「怪我をしない事が第一だ。緊張していると馬にも伝わるからな」
「そうなんですね。意識して肩の力を抜くのって、結構難しいなぁ……」
「大丈夫、要領がいい。すぐに慣れるさ」
伊万里がクラウスに教わっているのを内心複雑な気持ちで蒼龍が見遣るが、愛しい神人が落馬でもして怪我を負うよりはずっといい。
「乗るのは初めてだけど、イマちゃんに教えられるくらいに上達したいな」
謙虚に構えて、クラウスに乗り方を問えば快く教えてくれた。
「すごいわ、いつもと視線の高さが全然違う……!」
練習がてら草原を軽く走っているうちに、徐々に騎乗に慣れ始めたリチェルカーレが歓声をあげる。
「そーちゃん! 一緒に並走しない?」
「イマちゃん慣れるの早いね。よし、一緒に走ってみようか」
「うん、気持ちいいねーっ!」
競技には参加せず、こちらもお散歩コースをゆったりと駆ける伊万里と蒼龍。
「久々に乗ってみるか……」
ガルヴァンの一言を受けて、意外そうに見上げたのはアラノア。
「ガルヴァンさん、馬に乗った事があるの?」
「故郷では山道を通る事が多かったからな。文明の利器よりも、馬の方が馴染み深かったんだ」
邪魔にならないよう長い髪を後ろで結って。小慣れた動作で軽々と馬の背に乗り込むガルヴァンを見ながら、へー、と感心げに精霊の故郷へ思いを馳せる。
競技の初級レベルに挑戦したのは、シルキア、リチェルカーレ、ニーナ、それにガルヴァンだ。
蒼龍と伊万里も散歩コースから、遠目に四人を見遣る。
「初級、という腕でもないだろうに」
「癖や性格を把握したい、と思ってな」
「なるほど。では、お手並み拝見といこうか。彼女達にも怪我がないよう、余裕があれば気を配ってやってくれ」
クラウスの言葉にガルヴァンが頷き、ぐるりと牧場の柵内を一周する初級コースへ、スタートの合図で駆け出した。
「わあ、すごいすごーいっ!」
「おーい、はしゃぎ過ぎるなよニーナ!」
「はーい!」
ベンチから声を掛けるグレンにニーナが満面の笑みを返す。
本当にわかってんだか、と苦笑しつつ腰を下ろし、隣で同じようにパートナーを見るシリウスの視線に気付いた。
「ははっ。楽しそうだな、みんな」
「……ああ、そうだな」
走ったり跳んだり、小さく簡単な動作でも、全部が新鮮なリチェルカーレには楽しくて仕方が無いらしい。
そんな彼女を見つめるシリウスの瞳の色も、彼女と並びあう時より随分穏やかに見えた。
「やったぁ、いっちばーん!」
最初にゴールへ到着したのはシルキアだ。
馬術競技を誘い合わせた時からノリノリだったこともあり、乗馬のコツを掴むのも早く、ぐんぐんとスピードを上げて、女性陣の動きに気を配っていたガルヴァンまで追い抜いてしまった。
「早かったなシルキア。もしや、乗馬の経験でも?」
「ふふっ。先生の教える腕が良かっただけだよ」
「言うじゃないか」
パートナーと言葉を交わし、全員ゴールした所で乗り手と馬をチェンジする。
「こっちの子達は上級者コースに慣れてる馬になります。腕に自信のある方のみ、お任せできたらなと」
飼育員に手綱を引かれるまま、馬小屋から姿を見せた黒馬、白馬、サラブレッド――等々。
毛並みも、がっしりとした体つきも立派な馬達に、リチェルカーレがほう、と見惚れていると。
その中の、大人しそうな一匹が、シリウスに顔を寄せている姿が目に止まって。
睫毛の長い優しい獣の目に、シリウスの表情も儚げにほどけて、とてもきれいだと思った。
「……シリウスも、乗馬できるんでしょう?」
そっと近づき、小首を傾げて問いかける。
「一応、乗る事は乗れるが……」
「ああいうのも跳べる?」
上級コースを示唆されて、ああ、と頷きかけたところでハッとする。
それ以上を言われずとも、彼女の問いかけの意図するところに気付いて、ちら、と淡い紺碧色をおそるおそる見遣れば。
「見たいなぁ……」
「…………」
キラキラと光の粒まで飛んできそうな期待の瞳に根負けし「……跳べばいいのか?」と答えてやれば、ぱあっ! と嬉しそうに微笑んだリチェルカーレが、大きく頷いた。
「ガルヴァンさん、すごい……かっこいい」
騎乗スキルを持ち合わせている三者――クラウス、ガルヴァン、シリウスの三人が、上級者コースを駆ける姿に、一同の視線が釘付けになる。
アラノアも、普段目にすることのない精霊の光景に、ただただ呆けて見とれてしまう。
惚れ直してしまいそう、なんて思った。
「――はっ!」
リチェルカーレの要望どおり、一箇所だけ大きく、派手に飛んで見せたシリウスに。
「……っ! すごい、上手!」
花開いたような満面の笑みで手をぱちぱちと叩くリチェルカーレの姿が柵の外に見えて、シリウスは困ったように、照れた様に苦笑した。
「ああ、やはり馬と走るのは楽しいな……!」
風に赤髪をなびかせながら、いつになく上機嫌なガルヴァンの隣へ、同じスピードのままクラウスが並びあう。
「同感だ。俺たちも、ゴールまで競争しないか?」
「そうだな。ああ、シリウスもどうだ?」
「俺は……いや」
普段なら馴れ合うような行動は拒否していたと思うけれど、気分が昂揚してしまったのは、きっと相性の良いこの運び手のせいだ。
誘い合わせる二人の精霊に、小さく微笑み、頷き返した。
●
「実は気になってたんだよね、ここ」
乗馬を終え、皆と離れて、森の外側へ位置する滝へと足を運んだ伊万里と蒼龍。
蒼龍の呟きに、伊万里がつられるようにして滝に目を向ける。
「最近、滝を見るとなんだかざわざわするんだ」
「……わかる。私も、滝を見てると何だか不思議な気持ちになるの」
伊万里の言葉を受け、意外そうに目を見開いて、蒼龍が視線を寄越した。
「イマちゃんも?」
「うん」
神妙に頷いた伊万里に、そっか、と納得し、滝の上を見上げた。
「僕達、滝に何か縁があるのかもしれないね」
「縁かぁ……前世に何かあったのかも?」
「どうかなぁ。今度、そういう占いの出来る人に見てもらってもいいかも――」
蒼龍の言葉を聞きながら、流れ落ちる水の流れをじっと見ていると、だんだんと、彼の声が遠くなる。
引き込まれるように――伊万里の足が、一歩前へ踏み出た。
「危ない!」
ぐいっ! と、強く腕を引かれ、伊万里は我に返る。
「……え?」
ふと目下を見下ろせば、流れ落ちる滝の水しぶきが遥か下方に見えた。
「あ、ありがとう、そーちゃん……」
落ちる、ところだった。
ほ、と安堵するが、あまりの出来事に心臓の音がうるさく、落ち着かない。
「……急にどうしたの?」
蒼龍の訝しげな顔に、慌てて笑いかける。
自分にもよく、この感覚の正体はわからなかった。
シルキアはクラウスと並びあい、滝が見える道を通って、小鳥の森へ足を運んだ。
木陰に座り、小鳥達の憩いを邪魔しないよう、ゆったりと歌を口ずさむ。
シルキアが歌っていると、クラウスも笛で伴奏を吹き鳴らし――そのうち、小鳥達も応えるようにさえずり始めて。
コーラスを奏でる笛の音と鳥達の声に、ますますシルキアの機嫌は上々だ。
「うーんっ、癒しサイコー!」
そよぐ風と深緑から差し込む日差しを全身に浴びて、快活に歌い上げた。
●
やがて夕刻を迎え、一行が広場の中心へ集合したところで、夜空に花火が上がり始めた。
夏の終わりを告げるような、夕闇に咲く華明かりが、ひとつ、またひとつと花開くたびに、ウィンクルム達の頬を照らす。
「また、一緒に見れたね」
「ああ、見れたな」
自然な動きで、指を絡め寄り添うシルキアの横顔を、クラウスが見遣るも――切ない想いがぐっとこみ上げる。
以前より格段に距離が縮まったはずなのに、彼女の真の想いを知り、自覚しては尚のこと、燻る熱を持て余している。
(……どうしてやるべき、なのだろうか)
答えのない自問を振り払う様に、彼女の視線の先を追い、夜空を彩る華を見上げた。
「綺麗だね、ガルヴァンさん」
「そうだな……綺麗だ」
アラノアの言葉を受けて、店で扱う宝石とはまた違った輝きだ、と胸中で思いつつ。
夜空を見上げたまま視線を外そうとしない精霊の横顔を、アラノアがちら、と見遣って。
(……こんな綺麗な人に惚れちゃった私って……)
一人、肩を落とす。
花火は確かに綺麗だけれど、ガルヴァンの事も同じくらい……もしかしたらそれ以上に、美しい人だと思っている。
平凡を絵に描いたような自分が並ぶには、到底つりあわない、と思うには充分なほど。
(……何故落ち込んでいるんだ?)
目に見えてわかりやすく、しょんぼりと項垂れているアラノアを、こっそり横目で観察していたガルヴァンが、不意に手を取り肩が触れ合う距離まで引き寄せた。
「が、ガルヴァンさん……っ?」
「少し、冷える」
「……あったかいの?」
「そうだな」
「……」
それ以上を問いかける事はせず、ただ触れ合う箇所のぬくもりに、アラノアは少しだけ、硬い表情筋をほどかせた。
●
花火を見終えて、各々旅館へと戻り、宴の席となった。
全員がそれぞれ席へつくと、最初に人数分の飲み物が運ばれて。
お疲れ様の乾杯をし終えたら、豪勢な夕食が続々と運ばれてきた。
「もう少しいくか?」
シルキアの杯に継ぎ足そうとするクラウスには、本人から控え目にストップがかかった。
「以前、お酒で迷惑かけたから、今日はもうやめておこうかなって……」
「梅の夜か? 気にしていたのか」
シルキアがこくんと頷く。
「なんの、俺がいるのだ。お前は酔っていい」
お前の介抱も俺には本望なのだがな、と微笑まれてしまえば、シルキアに断る道理もなく。
じゃあ、お言葉に甘えようかな……と、甘んじてパートナーからの酌を受けた。
「えへへー、今回は他の皆さんと一緒にお酒が飲めますねぇ」
一方、既にほろ酔いで上機嫌なニーナと、そんな彼女を離れた場所から見守るグレン。
「俺が同伴の時限定とは言ったものの……本当に大丈夫かアレ」
以前、酒は同伴時の時だけ、と言葉にした手前、好きにさせてやってはいるものの。
あちらこちら、ちょこまかと駆け回っては積極的に会話を交わしているニーナを、内心ハラハラしつつグレンは見守る。
「グレンからちゃんとお許しが出てますしっ。この後の温泉もとっても楽しみです!」
女性陣に混じり満面で告げるニーナに、ひとつ息を吐き出す。
精霊に悪絡みされてはたまったものではないが、神人に限っては滅多にない機会だし、好きにさせてやろう、と思い直して、自身の赤い杯を煽った。
「シリウス、ちゃんと食べてる?」
「ああ、食べてる」
ジュースを飲みつつ、隣のパートナーを見遣るリチェルカーレ。
昼のバーベキューでも終始焼き作業や片付けに徹していたシリウスだが、他精霊からの酌もしっかりと受けながら、黙々と食事に手をつけているようだ。
「シリウス殿は飲めるんだろう?」
「いや、俺はそこまで……」
何度目かの酌をすすめにきたクラウスに、そろそろ……と手の平を前に出せば、シルキアが「クラウスー! 無理に飲ませちゃらめだよぉ~」とろれつの怪しい口振りで制止してきた。
「飲める時に飲んでおいた方がいいぞー」
「そーそー。折角みんなでお話出来る機会なんだから」
「……」
グレンや蒼龍、ガルヴァンの物言わぬ視線に、うっ、とたじろいで。
「もう一杯、だけだからな……」
諦め半分に杯を差し出せば「そう来なくてはな」とクラウスが微笑んだ。
「アラノアさん、もうお腹いっぱいなの?」
向かいの席で、早々に箸を置いたアラノアに問いかけるのは伊万里。
「ちょっと、お酒の匂いに当てられちゃったかな……。伊万里さんは、よく食べるね」
「うん。お肉美味しいよ。お作りもつけ合せも」
にこにことおいしそうに、豪勢な和食を頬張る伊万里を、隣に座る蒼龍も微笑ましく見ていた。
「……いいなぁ、伊万里さんのところ、友達みたいに話せてて」
「ん?」
「あ、いや、なんでもないっ……」
えへへ、と。つい、口をついた言葉を誤魔化すアラノア。
そんな彼女の隣で、寡黙に食事をとるガルヴァンをちら、と伊万里が見る。
「……心配しなくても、いいんじゃない?」
「え?」
「ふふ。なんでもないよ」
当人達が気づいていないだけで――アラノアをたまに横目で見守るガルヴァンの視線が、精霊たちと話す時より幾分解けているのは目に見えてわかることだ。
かわいい二人だなぁ、とほっこり微笑んでまた箸を取れば、イマちゃん、と蒼龍が肩を突いて来て。
なに? と見遣れば、
「イマちゃんの好きなお肉、あーん」
「……」
バーベキューの時は、思わず断ってしまったものだったけれど。
差し出された食材を、少しだけ躊躇った後、ぱくん! と口に含んだ。
「おいしい?」
「……うん、おいしい」
「それはよかった」
まだ食べる? と言う問いかけには流石に羞恥心が勝って、首を振っておいた。
「楽しい休日にかんぱーいっ!」
最初こそ失敗しないようにと遠慮していたシルキアだったが、注いで注がれて、すっかり酔いが回ってしまったらしい彼女が陽気にはしゃぐ。
「呑みすぎらめなの~……ヒック」
「ああ、そうだな。そろそろ止めておこうか」
それ以上の杯を止めつつも、介抱をまんざらにも思ってないクラウスは、にこにこと上機嫌にシルキアの頭をなでた。
「あなたって、奇跡みたいに出来た人よね……奇跡にかんぱぁい」
エヘヘ、と、ろれつの怪しい口振りで笑うシルキアを、クラウスもまた楽しげに見つめた。
●
やがて宴もたけなわというころ、旅館の外ではっと我に返ったニーナの姿があった。
「あらら……気がついたらお外に」
部屋に戻る前、酔いさましついでにと、外へ彼女を連れ出したのはグレンだ。
「ご機嫌だな。今日は楽しかったか?」
ふ、と笑って問いかけるグレンに、満面の笑みで大きく頷く。
「はい! 馬に乗ったり、お話したり、すごく楽しかったです!」
「そりゃあよかった」
「……あ、でも」
「ん?」
テラスの柵にもたれたグレンが、ニーナの反応に首を傾げた。
「皆と一緒もいいですけど。グレンと二人の時間がなくて、少し寂しかったかもしれません」
考え込むような仕草でそう言った彼女が、ちら、とグレンの顔を見上げる。
視線がなんとなく居た堪れなくて、ふい、と目のやり場を逸らせば、ニーナの目線がそのまま追いかけてきた。
「……もしかして拗ねてます?」
「拗ねてない、気のせいだ」
「こっち見てくださいよぉ!」
「いやだ。お前絶対にやにやしてるから」
なかなか顔を見せてくれないグレンに、慌てたような素振りのニーナが不意に腕を大きく広げた。
「あの! 今日一緒にいなかった分、ぎゅーってしてください! いっぱい、いっぱいしてください!」
どうぞ! 期待に満ちたキラキラの眼差しに、肩の力をどっと抜かれる。
彼女なりの気遣いというか、無邪気さというか――正直な気持ちも勿論あるのだろうが。
察しきれないあれやこれや、暖かい気持ちがじんわりと胸の内に沁みて。
「……嬉しそうにしてんじゃねぇよ、うりゃっ」
「ひえ!? グレン、苦しいですぅーっ!」
「一緒にいなかった分まで『ぎゅー』していいんだろ~?」
「きゃーっ! あははっ! くすぐったい~!」
終始保護者に回っていた時間の分まで、抱き締めてしこたまじゃれあったのだった。
その後の女湯露天風呂では、シルキアとアラノア、ニーナの三人がまったりと湯に浸かった。
一日遊びつくしたおかげでまぶたが重く、うつらうつらと眠そうなシルキアが溺れかけて、慌てて引き上げられた一幕もあった。
「きゃーっ! 大丈夫ですかシルキアさーん!?」
「め、目を回してない……っ?」
男湯露天で月見風呂を満喫していたクラウスとガルヴァン、グレンの三人が、隣から聞こえてきた女性陣の声に気付いて変な汗をかいた。
「シルキアに何か……!?」
ざばっ! と体を引き上げたクラウスにグレンが乾いた笑いを漏らす。
「いや、たぶん、のぼせただけだろ……」
「……うむ……」
「あんたものぼせてないか!?」
ぶくぶくと角の五割まで沈んでいったガルヴァンを今度はこちらの二人が慌てて引き上げた。
リチェルカーレとシリウス、伊万里と蒼龍は個室風呂へ交代で入浴したようだった。
風呂上りには全員に旅館からアイスクリームの支給もあって、皆が満足そうに頬張った。
●
「今日は、来てよかったねぇ……」
風呂からあがるなり、もう足もとがふらふらで、クラウスの肩を借りつつ布団に直行したシルキアが、ギリギリまで一日を楽しみたいと懸命に瞼を持ち上げるが。
「そうだな。シルキアがずっと楽しそうで、俺も楽しかった」
「ふふっ、そんなこといって……ほんと、羨ましいくらいよく出来た人、なんだから……」
ようやっと眠りに落ちたシルキアに、掛け布団を整えてやりつつ、クラウスも一日を思い起こす。
神人達とはしゃぐ快活な笑顔、歌を口ずさむ朗らかな横顔――全部が、愛おしいと思う。
「……眠れないな、これは」
純粋な寝顔に。込みあげるような疼く衝動を押さえ込んで、窓辺で夜空を眺め悶々としつつ、至福の一夜を過ごした。
「皆でわいわいも楽しかったけど、やっぱり二人きりが落ち着くなあ」
冷えたお茶を伊万里から受け取りつつ、夜風に風を揺らし、蒼龍がほう、と息を吐き出す。
「ふふ。皆、今頃同じ事思ってるのかな。私は、そーちゃんが他の精霊さんと楽しそうなのを見てるのも楽しかったよ」
滅多にないことだし、と伊万里が付け足す。
「まあ、そうなんだけど……」
蒼龍だって、伊万里が神人たちと過ごすのを見られる事は純粋に嬉しい。けれど今日の牧場の時みたく、精霊と触れ合うシーンを目にして、平気でいられるかと言われれば嘘になる。
他の精霊にも、それぞれにパートナーが居る事は知っているのだけれど。
「……それでも、精霊さんがイマちゃんと喋ってたりすると、ほんの少し、妬いちゃうね」
ひとつ頬をかき苦笑する蒼龍に、伊万里は少しだけ考え込んで。
「……今日はちょっとだけ、夜更かししようか?」
思い返してみれば確かに、自分が他の精霊と会話している時の彼は、分かりやすくヤキモチを焼いていたような気がする。
かわいいひとだなぁ、という気持ちがこみ上げて、ふ、と表情を解かせると、蒼龍もつられたように微笑んで「うん、もう少しお喋りしてたい」と素直な気持ちを伝えた。
一日分の疲れもあり、布団に入るとすぐ睡魔に誘われ始めたリチェルカーレだったが、ふと。
隣で、まだ寝心地悪そうに、もそもそと寝返りを打ち天井を眺めるシリウスに気付き、声をかけた。
「……今日も眠れない?」
彼女に心配をかけていることに気付き、シリウスが苦笑する。
性分だからどうしようもないのだけれど、優しいリチェルカーレに心労をかける事は決して本意ではないのだ。
「……気にしないで寝ろ」
俺もすぐ寝るから、と言うと、少しして。
布団の裾からそろ、と出されたリチェルカーレの指先が、おずおずとシリウスのそれをつなぎとめた。
「手を繋ぎましょ」
「……また、子供達は、か?」
「ううん。私が、そうしたいの」
一緒に居たら、こわいゆめ……なんて……。
繋いだ手のぬくもりに安堵し、先に眠りに落ちてしまったのはリチェルカーレの方だった。
すうすうと聞こえてくる安らかな寝息に、無性にシリウスも安堵する。
「……おやすみ。良い夢を」
そっと繋いだ指を引き寄せて――誘う睡魔に、やがて意識を委ねた。
「おやすみ、ガルヴァンさん」
「ああ、おやすみ」
ぱちん、と電気を消して。
二人そろって、行儀よく布団に体を横たわらせたアラノアとガルヴァン。
(……なんか、思い出しちゃうな……)
ガルヴァンの横顔に、ふと、かの『特別な誕生日』の一夜を思い出す。
部屋が暗くてよかった、と思う。きっと頬が赤く染まっているから。
もそ、と体を起こして、少しだけ布団と布団の間を離すアラノア。
ガルヴァンを起こさないように、再びそっと布団に体をもぐりこませて、意識しないように目を閉じた。
(…………何故)
一方、そんなアラノアの動きを、当然察せていないガルヴァンではない。
(何故、離すのだ……)
やや不満げに、瞳を閉じたまま、眉をひそめる。
別に、彼女がそれで寝心地がいいと言うのであれば、構わないのだけれど。
すー、すー、と、規則的な寝息が聞こえてきた頃合を見計らって、こっそり自分の布団を――初期位置よりも割と近めに寄せてから、一人満足げに小さく口角をあげて、眠りに着いた。
――翌朝、何故か部屋の端っこまで二人分の布団がぎゅうぎゅうに寄っていた事には、起こしに来た他の面々がおかしそうに笑っていた。
●
「みなさん、揃いましたかーっ?」
翌朝、帰りのバスが待つ旅館のエントランスで。
施設の看板を前に、カメラを構えたシルキアがメンバーを確認する。
記念撮影を、という誘いには満場一致で皆が快諾した。
旅館のスタッフが好意で、写しますよ、とカメラマンをすすんで担当してくれた。
リチェルカーレ、ニーナ、シルキアが前列でしゃがみピースサインではにかみ、それぞれ後ろに精霊が立つ。
ガルヴァンはアラノアの隣で、カメラマンから「寄ってください、角が見切れちゃいます」と指示され、ぎゅっ!と肩を詰めてアラノアをどぎまぎさせた。
蒼龍はシャッターが降りる直前に、伊万里の後ろから首に手を回して抱きしめ、慌てさせた。
「はい、チーズっ!」
掛け声と共に、パシャッ! と音を立てて、楽しい休日の一幕を、フレームに収めたのだった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:アラノア 呼び名:アラノア |
名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド 呼び名:ガルヴァンさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | EX |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,500ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月16日 |
出発日 | 08月27日 00:00 |
予定納品日 | 09月06日 |
参加者
会議室
-
2017/08/26-22:29
飲み物の他に、焼いたもの色々挟めるようにパンも持っていってみますね。
文字数に完全敗北したのでプラン外のことは色々とお任せになる感じです!
集合写真もありがとうございます、いっぱい楽しみましょうねー -
2017/08/26-21:34
もうすぐ出発ですね。楽しみでわくわくしています。
乗馬体験、折角なので挑戦しますね。馬も優しい目をしてるし、触るのも大好き。いつもと違う視線の高さだから、見える世界も違いそうですね。ふふ、シリウスもあれで案外、動物は好きなんですよ。
わたしは初心者コース、シリウスもそこでいいと言っていますが…難しいコース、行ってもいいのよ(こてり首をかしげ)。
集合写真、ありがとうございます。楽しみです。 -
2017/08/26-18:01
八神さん、ありがとうございます。
交流できるの嬉しいです。
えーと、集合写真は今の所反対意見が無いみたいなのでプランに入れさせて貰ってます。
クラウスも乗馬指導入れさせて貰ってます。
宿では飲んで楽しんで(カラオケは触れられなかった)すぐ寝ちゃいます。
お風呂は露天で別々に入るので、ご一緒になる方いましたらよろしくお願いします。
まったり入ってるだけなんですが。
プランは提出しました。
修正はできると思いますので、ここチェックしていますね。
楽しむぞー! -
2017/08/26-11:27
>乗馬
私達は馬に乗ったことがないのですが、この機会にやってみたいと思います。
障害物は難しそうだから、まずは馬に慣れるところからかな…
クラウスさんにご指導いただけるならぜひお願いしたいです。
ただモジスウの関係で小鳥の森については触れることができそうにないです。
>記念写真
いいですね!私達もぜひ参加させてください。
タイミングは帰り際で問題ないと思います。 -
2017/08/23-16:13
クラウス:
>怪我をしたりしないような配慮
成程、大切だな。
乗馬の前に指導時間を設けても良いのかもしれぬ。
俺のスキルはアマチュアの騎手程度となる。及ばずながらも指導は可能だろうと思う。
良ければ行動をプランに入れておこう。
騎乗の心得の無い者でも乗馬を楽しむ事はできるのではと思う。
係りの者もいるであろうしな。
障害物については、GM殿にお任せと考えている。
本格的なコースは無いであろうが、例えば丸太を組んだ障害物等は用意して貰えるのではないかと期待している。
>集合記念写真
良ければシルキアが帰り際に宿を背に携帯電話で撮りたいと言っている。
問題は無いであろうか?
写真は困る、別なタイミング(到着時、花火の時等)がいいならば添う様にしよう。 -
2017/08/22-21:40
>自由行動
いろいろ楽しそうですね!
乗馬かあ…シリウスは乗れるんですけど、わたしはさっぱりなんです。競争は無理だけれど、乗るだけなら一緒に乗せてもらえるかしら。
ふれあい動物園、どんな生き物がいるんでしょうね。
ひよことかウサギとか、触れるなら抱っこしたいです。
記念写真も素敵だと思います。皆で出かける機会って、あるようで少ないですから思い出に。 -
2017/08/22-00:59
>障害物馬術競技
成程、面白そうだな…。だが挑戦するにもこちらが無茶をして馬に負担が掛かったり怪我をしたりしないような配慮と障害物が必要だな…(その辺はGM任せになるが)
それに速く駆けるのが得意でも高く跳ぶのが苦手な馬もいるだろうしな…。(素人でも触れ合えるように育てられたなら穏やかな性格の個体が大体だろうな、とふと思った) -
2017/08/21-21:00
わ、皆さんとご一緒できて嬉しいです!
改めてよろしくお願いします。
>BBQ
焼きマシュマロ、面白そうですね。
私はやっぱりお肉をがっつり食べたいので用意してきますね。
肉、海鮮、野菜、デザートとバランスよく取り揃えましょう。
>自由行動
確かにどこも楽しそう…
モジスウの許す範囲で目一杯遊び尽くしたいですね!
個人的には、ミニチュア動物園が気になってます。
小動物と触れ合ったりしたいなーと。
そーちゃんは、滝に行きたいみたい。
記念写真いいですね。
きっといい思い出になると思います。 -
2017/08/21-18:35
あっ
もちろん競う方が良ければそれもいいと思います。
順位はサイコロ振って決めればいいかな。 -
2017/08/21-17:56
障害物馬術競技についてはこんな感じです↓
障害物を馬と飛び越える遊びですね。競争の形にはしないつもりです。
どんな障害物があるかはGM様にお任せしようかと(モジスウ的に)
初級、中級、上級レベルの障害物どれかに挑戦する感じかな。
私の方で「参加しませんかー」と声掛けしますのでどなたでもどうぞ
私は初級、クラウスは上級挑戦です。 -
2017/08/21-03:02
マシュマロ焼くの楽しそうですね、私もやってみたいです!
メインのお肉とかはこの人数なので結構必要になりそうですよね…
そうだ、お茶とかジュースとか色々持って行きますね!
一番の敵ですよねモ=ジスウ。
一日じゃ足りないのでもっといられればよかったですねぇ…
頑張って全部の場所回ってみます?
あ!私も一緒に馬乗ってみたいです!
久しぶりなのでちゃんと競争に着いていけるかどうかが
ちょっと心配ですけど頑張ります(ぐっ) -
2017/08/21-00:14
私達も皆さんと交流できたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
>BBQ
マシュマロ! 美味しそうですね。
持込みかぁ(悩)、では私達は海鮮を用意しようかと思います!
貝類(ホタテ、サザエ)、イカ、エビ辺りを。
>自由時間
(モジスウに勝てれば)全部行ってもいいんですよね?
馬がいるなら障害物競技してみたいですね。
私もクラウスも騎乗スキルがあるので使えるチャンスは生かしたい!
一緒にどなたかどうですか?
その後滝が見れるルート通って小鳥の森でまったり歌でも歌いたいです。
クラウスが笛で伴奏するのでこちらもどなたか一緒に歌でもどうでしょうか?
あと、
どこかで皆さんと全員で記念写真撮れたらいいなと思います。 -
2017/08/20-13:09
BBQは私、マシュマロが焼きたいな。テレビで焼いたマシュマロをクッキーに挟むのをしていたんです。
とっても美味しそうだったので、やってみたい。
シリウスは焼く担当でと言っています。…あなたも食べてね?
自由時間はどうしようかな。ミニ動物園も小鳥の森も迷ってしまいます。
アラノアさんの言うように、モジスウがたいへん! -
2017/08/19-23:48
遅れまして、アラノアとガルヴァンさんです。
よろしくお願いします。
折角なので皆さんとお話してみたいですね。
あ、ガルヴァンさんはミニ動物園に行きたいそうです。馬がいたら乗ってみたいそうで…曰く牧場で飼われているものなら馬もいるだろうとの事です。(いるのかな…?)
…えっと、私は…小さい動物とか、触ってみたい、かな、と思ってます。
自由時間で行きたい場所が分かれるのなら、皆さんと交流できるのは皆でBBQする時とか宴会場での夕食時とか就寝時ですね。(ただ全部に会話したい内容詰めるとモ=ジスウとの戦いになるのが悩みの種…) -
2017/08/19-12:47
ニーナとグレンです、よろしくお願いしまーすっ!
色々と皆さんと一緒に遊べたらなーって思います。 -
2017/08/19-11:17
リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
皆さん、よろしくお願いします。
せっかくの機会ですので、わたしもいろんな方とお話したいな。
伊万里さん、ご一緒してもいいですか? -
2017/08/19-10:41
八神伊万里と、パートナーの蒼龍さんです。
よろしくお願いします。
私達は、温泉のみ個別に入りたいと思っていますが、
それ以外の部分、昼食、自由時間、夕食は絡み大歓迎です。
どなたかご一緒しませんか? -
2017/08/19-00:17
シルキアとパートナーのクラウスです。
どうぞよろしくお願いします。