プロローグ
「夏だ! 太陽だー! 海だー!!」
季節は夏、真っ盛り。
ビーチには海の家が立ち並び、ライフセイバーが鍛え抜かれた腹筋を黄金色に焼き、市民の安全を見守っている。
しかし近年増え続けるオーガの被害。
それはこういった楽しい場も――今年も、例外ではなかった。
「うわあああ! 化物だ!」
客の一人が砂浜を指差して悲鳴を上げた。
砂浜に現れたその生き物は「モブー!」と歓喜の雄叫びを上げた。
「なんだあれは……! 巨大な、クラゲ!?」
「わからんが角はあるしきっとデミ・オーガに違いない! ウィンクルムを呼べー!」
観客達が一斉に逃げ遂せる。ここまでは、例年どおりの流れ。
海辺に現れたデミ・オーガを倒して事後対策をしてそれで終わり。
訓練されたA.R.O.A.の戦士達なら何ら問題はないだろう。
だが今回のデミ・オーガも、やはり例年通り一筋縄ではいかないようだった。
「たっ、助けてくれえぇ!」
一人のライフセイバーの男性が、クラゲオーガの持つ触手に捕われた。
通常、海の中でしか生きられないはずのクラゲだが、透けた胴体をぬたぬたと浜辺に這いずらせ、どう見ても地上に上がっている。
大きさは胴体だけでおおよそ3メートルほどある。
クラゲは、触手を巻きつけたライフセイバーの男性を、とぷん! と透ける胴体に取り込んでしまった。
「うぐっ……ぶはっ!」
かろうじて頭だけ胴体からは出せたものの、日焼け防止にと羽織っていたパーカーが一瞬にして粘液で溶ける。やっぱり水着も。
「ひっ……! くそ、はなせぇっ……!」
捕われた男は衣類を剥がれたまま必死でもがくが、すっぽり胴体を包み込まれているため抜け出せない。
連れ添いの男が一人、その様子に顔を覆い、指の隙間からガン見している。
「アッーーーーーー!!」
――……あとのことは、今回も、ご想像にお任せする。
「――と、いうわけだ、諸君」
職員の男性がうんざりといった顔で、資料を雑多に広げた卓上へ両手を突き項垂れた。
「……どういう訳なんでしょうか」
「そういう訳だ。去年も出ただろう。あれの、クラゲ版だ」
「そんなに頻繁にこの類が出てこられても、俺たちほんっとに困るんですけど……!!」
「文句は邪念の根源たちに言ってくれ」
概要はつまり、この目的がよくわからないクラゲをなんとかしてくれ、という依頼だ。
デミ・オーガ化を専攻とする職員が言うには、大勢の観客でひしめく自然の海に、なんらかの負の力が働いてうんたらかんたら――とにかく、根源は人の思いだとか思念では――いわゆる『好きなコの脱いでるところすっごい見たい』的な邪念ではないか、と推測された。
現に、クラゲは捉えた人間の服を溶かし、その後ちょっとばかしアレコレする以外の事は何もしてこない。
生死に関わる問題ではないが、これも立派なオーガ退治である。
「基本的な生態は、自然界のクラゲとなんら変わり無い。服を溶かされた以外の報告も幸い聞いていないが、攻撃した場合刺される危険はあるかもしれない。犠牲に……じゃない、我こそはと言う者には、どうか頼む」
解説
▼全体描写になります。
▼敵NPC概要
・デミ・クラゲ(参加者×1体・最低2体~最高5体)の討伐。モブー! って鳴いたりカタコトでしゃべったりします。
・巨大化及び異形化している。全長おおよそ15m(触手の長さ含む)長い角がてっぺんに一つ。触手は10本。
・攻撃というほどの事はしてこないが、一度捕われると解放されてもその後しばらく戦えなくなる。5分~10分くらい。
・誰かを取り込み中に邪魔されると刺してくる。
・レベル自体はそこまで高くありません。デミ・ボアなんかと同じぐらい。
・白い粘液には衣類だけを溶かし、気持ちをムラムラさせる効果がある。
▼プランにいるもの
・触手に捕まって欲しいPCさんのプランには【餌】って入れてください。捕われない選択肢も勿論ありです。
・どっちか捕まる場合はパートナー側の反応だとかも
・クラゲの倒し方
・事後のやりとりがあれば
ゲームマスターより
この前海行った時ライフセイバーを眺めてて「やらなきゃ…」と思いつきました。
夏恒例、全年齢対象のドスケベイベントです。去年の夏のイカと、冬に出たスライムをいいとこ取りしてる感じです。
過度な物はカットしざるを得ませんが基本的にはぼんやり伏せます。
罪無きカップル達が服を溶かされてアレコレされちゃう前に助けてあげてください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
今年もうらやまけしからんヤツが出現か! よし、即トランスししてあのクラゲをぶっ飛ばそう。 15mなクラゲが5匹も居たんじゃ画面圧迫して暑苦しいじゃん? 素っ裸になるのは全く動じない。 風呂だと思えば問題ない。一般客は遠くに逃げてるからダイジョブじゃね? 羞恥心?気になるなら視線外しとけはいいじゃん? いいかラキア、言及が無ければ見えてないのと同じだ。 オレは敵の攻撃を引きうけつつ、捕まらないようにして調率剣で敵を仕留めるぜ。 自分に近いヤツから順に1体ずつ仕留めよう。 他の人が囮になってるのを巧く利用して死角から攻撃、敵の数を減らすぜ。 オレの運動能力なら敵に捕まらずにいける! ディスペンサでラキアのMPを回復。 |
クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
【餌】 な、なんだあのデカいクラゲ…! ロベルト、アレに捕まるんじゃねえぞ…捕まったらヤバそう 先にCD使っとくぜ あとは俺、囮になるから お前も上手く避けろよ、ロベルト …って捕まってるじゃねえか!短剣で触手を切って助け出そうとする 相手が解放されたら「ほら、水」って口を濯がせるぜ 落ち着いたらまた攻撃してもらう しかし捕まってからあいつの様子がおかしいな… くそっ…捕まった…! 服が溶けっ…めちゃくちゃ恥ずかしい ロベルト、じろじろ見てんじゃねーよ! なんで歓声上げて触手応援してんだよ!早く助けろバカ! またキス?キスぐらいならもういいけど… もっと?この先も?…それは…だめだ 先に服買いに行こうぜ。高いのはムリだけどよ |
柳 大樹(クラウディオ)
事前:パーカー2着用意 海パン借りれても、帰りに半裸で移動とかちょっとなあ。 現場に着いたらトランスからのー、HTG。 捕まった人何人? 全員解放された? なら、「クロちゃん、GO」(近くのクラゲを指差す 今回の触手は斬れるといいな。再生も無しで頼みたいところ。 近くのクラゲに注意して。捕まらないようになるべく皆と同じ奴を攻撃、と。 俺が剥かれたくないから押し付けたけど……。 「あー」やっぱ男の癖にエロいわ。(色気に当てられ、一瞬視線を下げる 俺の為にも早めに倒そ。(メンタルヘルスで意識切り替え 討伐後: 海パン借りれたら、パーカーと一緒にクラウディオに投げ渡す。 「俺よりあんたのがやばいっての」 シャワー借りて帰るよ。 |
テオドア・バークリー(ハルト)
俺はハルが「どうしても海の家の焼きそば食べたい」って言うからついて来たんだけど。 二度あることは三度あるっていうけどさ…何これ、何か凄いのいるんだけど、ねえ。 …来ちゃった以上仕方がないか。 泳ぐ気なかったし日焼けしたくなかったからのパーカーなんだけど結果オーライだった気がする… 相手の注意を引いて逃げ回ればいいんだろ、 途中斬れそうな触手は相手の手数を減らすためなるべく斬っていく。 敵への応援が聞こえるのはきっと気のせいだ。 相手が何言ってるか全然分からないけど何故かハルと会話が成立してる気がする… 放ってお…けないよな、助けないと。 …焼きそばはないけど、終わったらハルにアイスでも持って行ってやろうかな。 |
ルゥ・ラーン(コーディ)
【餌】 邪念霊視 鎌が軽くなった事に気付き撫でる 邪なるおいたは滅しましょうね 申請の備品のバスタオルと海パンを近場に置き 皆さん万一には使って下さいねと声掛けします 一般の方の救助を手伝い後早速お渡ししますよ 戦闘では 触手を薙いで排除し本体狙う方のサポートを心掛け動きたいですが狙える時はサクッと爽快に斬りたいですね 大鎌ですから味方の位置に気をつけ取り回します 取り込まれたらつい邪念に感応 そうですね 分ります ふふ 抵抗はします 頑張って鎌振いますよ 救助されましたら備品使います 彼に熱っぽいDIをし暫く休み火照りを冷まします 皆さんの戦ぶり眺め 彼の雄姿(半裸?)目に焼き付けたい 叶うなら戦闘に復帰したいですね 楽しそう |
●
「……俺はハルが『どうしても海の家の焼きそば食べたい!』って言うからついて来たんだけど」
呆然と上を見上げて呟いたのはテオドア・バークリー。
「なにこれ。なんかすごいのがいるんだけど。ねぇ」
目の前で繰り広げられる惨状に、二度あることは三度ある、というありがたいことわざを胸の内でだけ噛みしめ隣の相方を見遣れば。
まだ何も言ってはいないのに、精霊ハルトはぶんぶんと首を横に振った。
「嘘は言ってないですー! 終わったら焼きそば食べるし!?」
「……売り切れみたいだけど」
「えっ嘘!?」
振り向いた先で、海の家どころではなくなったらしい店主が『売り切れ』の札を張り出していて、がっくりとハルトは肩を落とした。
「……ひどい有様だな。さっさと片付けよう」
目の前で繰り広げられる惨状――触手にさらわれては好き放題されているビーチ客らを見やり、背筋に走った悪寒に身震いする精霊、コーディ。
彼の神人であるルゥ・ラーンもまた、煩悩に支配され暴れ狂う巨体に、邪念を霊視する。
「邪なるおいたは滅しましょうね」
不意に、武器である大鎌が軽くなったのを感じ取り、妖艶に微笑んで一つ撫でた。
(……ルゥの顔色が変わった)
普段は温和な瞳に鋭い光が射し込んだのを目にして、コーディの頬を冷や汗が伝った。
「海だー! 終わったら海水浴したいなあ」
「遊びに来た訳じゃねーんだぞ」
まんまるの瞳をキラキラと輝かせるロベルト・エメリッヒに対し、呆れた様に突っ込み返すのはクルーク・オープストだ。
「いいじゃん折角の海なんだし。ま、でも、とりあえずは厄介なのを倒さないとね!」
一度は唇を尖らせたものの、すぐさま気を取り直し、武器を構えた。
「今年もうらやまけしからん奴が出現か!」
いつもとまったく変わらない調子で、熱い砂浜へと一歩強く踏み出たのはセイリュー・グラシア。
「それ、去年も聞いたよ……」
呆れた様に、相方であるラキア・ジェイドバインが、穏やかな表情をげんなりと曇らせ、頭を抱える。
楽しい海水浴をぶち壊しにする不届き者は成敗すべきだとラキアとて志は同じだが、セイリューほど勇ましく立ち向かいたい気概は正直まったくない。
「まあ、来ちゃった以上仕方ないか……」
頭をひとつかいたテオドアが、諦めの境地で巨大クラゲを見上げた。
泳ぐ気もなく、日焼け防止にと羽織ってきたパーカーが幸いだった。粘液に触れてもすぐどうにかなるような事はなさそうだ。
(テオ君め……せっかくの海だっつーのに、何故そんな重装備を…くそっ絶対に脱がす!)
相変わらずガードの固い相方の姿を今一度確認し、忌々しげにハルトがひとつ舌打ちした。
彼にとって打ち倒すべき壁は、クラゲを差し置いてでも他にあるのかもしれない。
謎のやる気に燃えるハルトを横目に、ルゥがビーチから離れた場所へ備品を置いた。
「皆さん、万が一の時は使ってくださいね」
バスタオルと海パンを多めに用意していたルゥに、テオドアが「ありがとうございます」と礼を告げる。
「海パン借りれても、帰りに半裸じゃちょっとなあ」
自前で用意したパーカーニ着も、備品の山に隣り合わせて置いたのは柳 大樹である。
特別動じた様子もなく、でかいねえ、と敵を見上げる大樹の隣へ、精霊クラウディオが物言わずそっと並び合う。
「そうそう、クロちゃん」
「なんだ?」
「剥かれた後の『陽炎Ⅱ』は禁止ね」
少しだけ考え込んで、砂浜で今尚繰り広げられる惨状を見ていると「裸体が増えてモチベ下げたくないから」と付け足されて、合点が行った。
「十五メートルなクラゲが五匹も居たんじゃ、画面圧迫して暑苦しいじゃん。さっさとトランスしてぶっ倒そうぜ!」
セイリューの言葉に、皆即座に体制を整え、トランスを行使した。
●
「な、なんだあのでかさ……!?」
クルークがいざ目の前にしたクラゲの大きさに戦慄し一歩後ずさる。
「ロベルト、あれに捕まるんじゃねぇぞ。捕まったらやばそう」
浜辺のすみで打ちひしがれている、ほぼ全裸の被害者たちを見て背筋を冷やし、ロベルトの頭をぽんぽんとなでる。
『コンフェイト・ドライブ』による恩恵を受けつつ、ロベルトが肩を竦めた。
「クルークってば心配性だなぁ。大丈夫、皆と連携して上手くやるから、さっ!」
砂浜を蹴り駆け出したロベルトが、先攻して二丁拳銃を構える。
ルゥとコーディもロベルトと同時に、一般人の救助へと駆け出し、クルークとテオドアはサポート兼、囮として敵の目を翻弄する作戦だ。
「クラゲは触手が厄介だから、スキルは有効だと思うけど」
ラキアがセイリューへと『シャイニングスピア』の効果を付与しつつ、
「今回敵の対処はセイリューに任せるから」
と、良い笑顔で言い放った。
「ええっ、ラキアも一緒に剥かれ……じゃない、戦わねーの?」
「裸にされるなんてとんでもない。そういう担当はセイリュー、君だよ」
いってらっしゃい、と手を振るラキアに、名残惜しげな顔をしつつ、セイリューも砂を蹴り駆け出した。
「――こっちだよ、エロクラゲ!」
コーディがクラゲを囲うようにして広げたのはイケメン絵柄のタロットカード――テンペストダンサーのスキル『タロットダンス』だ。
『モブゥ、イケメン……ッッ!?』
一匹のクラゲはカードに気を取られ捉えてた一般人男性をぽいっと放り出し、その隙にルゥが救助した男性を後衛まで下がらせる。
備品のバスタオルと海パンを渡して、あとはラキアが回復を引き継いだ。
「囲まれると厄介だから、俺たちプレストガンナーは――」
「そう、遠くから安全に、確実にね!」
ロベルトとハルトの二人が、左右に割れてクラゲたちを囲い込むように『ダブルシューターⅡ』を撃ち込んでいく。
囮につられ、ガードの弱い部分を重点的に狙う銃撃に、囚われて居た男性の一人ごと触手が撃ち落とされた。
「ひ、ひぃっ!」
「大丈夫ですか?こっちへ!」
「あ、ありがとう……!」
ラキアに誘導され安全圏まで逃げ出す事に成功した。
「捕まらないよう、逃げ回ればいいんだろ!」
テオドアとクルークは、敵の目を翻弄しつつ斬れる触手は鎌と短剣でその都度切り落としていく。
セイリューは持ち前の運動能力で駆け回りつつ、光輪のカウンターで弾き調律剣で死角を狙い、一人また一人とビーチ客らを助け出した。
「捕まってたひと何人? 全員解放された?」
大樹が冷静に、ラキアのもとで休むビーチ客らとクラゲの手元を確認し、一般人達が解放された事をしっかり確認してから「なら」と最寄りのクラゲを指差した。
「クロちゃん、GO」
『ハイトランス・ジェミニ』までを行使済みのクラウディオが、大樹の合図を皮切りにスキル『陽炎Ⅱ』を発動させた。
「今回の触手は斬れるといいな。再生もなしで頼みたいとこ」
増殖する忍の影に意識を翻弄されるクラゲへ、大樹とクラウディオも攻撃を繰り出していく。
実体があるとはいえ相手は邪念である。影の攻撃が通るか、どの程度与えられるのか。
分析も兼ねつつ、捕まらない事には留意し、味方達と同じ個体を狙っていると――。
『オマエラ、ジャマヲ、スルモブッッ!?』
欲望の前に立ちはだかるウィンクルム達に気付き、クラゲ達がギョロリと瞳をそちらへ向けた――のと同時にハルトも二度目の舌打ちをした。
「触手ちょい左、いや右! ああまたテオ君に逃げられた!」
最早恒例となった、敵との意思疎通を果たすハルトにツッコむ気力も失ったテオドアが、呆れ顔で触手をまた一本切り落とした。
しかし、今年の触手の性癖は少しばかり事情が違った。声援に気を取られるハルトの背中へと忍び寄った先っちょが、ちょいちょいと肩をつっついた。
「ああもう何? 今取り込み中なんだけど……ってちょっ、ええええぇ!?」
最初の餌食となったのはテオドアではなくハルトだった!
手中に取り込んだ触手が高い位置までハルトを持ち上げ、何やら語りかけている。
「捕まえるほう間違えてるって!……え、細いだけなのは好みじゃない?分かってねぇなテオ君はそこが……じゃねえ、離せーっ!」
俺にメリット何一つないから! と喚き立てる相方を、地上では半眼のハルトが特別困った風でもなく見上げている。
「放っておく……訳にはいかないよな、助けないと……」
助ける気、失せるなぁ……やる気なくぼやきつつも忍び寄る触手は容赦なく切り落とした。
仲間が捕われた事に気付き、一番近くで戦闘していたクラウディオが手裏剣を飛ばす。
バシュッ! と数本音を立てて切り落とされ、ギョロ、と大きな瞳でクラウディオを見た。
『ムキムキを、ムキムキシタイ……!』
一般人を捉えていた先ほどまでとは違い、五匹のクラゲのターゲットは、今や全てウィンクルム達に定められている。
前衛で戦っていた戦士達を、次々に触手が狙った!
「なんで僕までええぇっ!?」
「おや、捕まってしまいました」
空高く引き上げられたロベルトとルゥを、それぞれの相方が見上げた。
「ロベルトーっ! あーもう言わんこっちゃねぇ!」
「ルゥ! 今助け……って何ニヤニヤしてんの!?」
コーディが見遣る先で、ルゥは何やら目を閉じ――どうも、邪念に感応しているらしい。
「ふふ、そうですね。わかりますよ、好きな人の裸は誰だって見たいですよね……」
優雅に会話する間にも、服がドロドロと溶かされていく。
「この服高かったのにぃ! もう、ばかっ! お前なんか捌いて……んぐっ!?」
じたばたと暴れ喚き立てるロベルトの口に、一本の触手がずぼっ! と突き刺さった。
反射で噛み付くとすぐさま触手は逃げたが、口内に残された液体がどうにも厄介だった。
「おえっ! なにこれ、口の中どろっとしてる……っ!」
「ロベルト! 今助けてやるからな!」
クルークが懸命に短剣を触手へと振るうが、服を完全に溶かすまでは離すまいという謎の執念のもと、クラゲは必死に耐えた。
駆けつけたクラウディオが、味方達を捕らえているクラゲへ手裏剣をまた一つ飛ばすと、ギョロリと大きな瞳がそちらを捉えた。
『オマエ、サッキカラ、ジャマモブ……!!』
「!」
びゅるるっ! と数本の触手が一斉にクラウディオへ伸びた!
避けきれない、と判断した彼は咄嗟に『忍法霞龍』を発動する――幻影の竜がクラウディオを覆い、まとまった触手の数本には大きなダメージを与え消滅させたが、一度の攻撃で竜が消滅したあと第二波とばかりに絡みついた!
「くっ、これは!」
一通りスキルの発動などを試してみるが、クラゲ本体へ取り込まれては攻撃も通らない……!
色黒の肌が徐々に露になり、普段無骨な顔色が僅かに朱色がかっている。クラゲの息も上がって来た。
「ぐぅ……ッ、っ……!」
『ナカセガイノアル、エサモブ……!』
何を言っているのかよくわからないが、精神まで折れないよう声をぐっと押し殺し、乱れる吐息をふーふーと漏らす厳粛な忍の姿に煽られているのは何もクラゲだけではなかった。
「あー……やっぱ」
男のクセにえっろいわ。ぽつりと漏らした大樹が、視線を下げた。
すっかり色気に当てられてつい見惚れてしまったが、持ち前のスキル『メンタルヘルス』で気持ちを切り替える。
「早く倒そ。……俺の為にも」
強く砂を蹴り、パートナーを捕らえているクラゲへと駆け出し剣を振り上げた。
「人のモンに、何さらすんじゃああああっ!!」
すっかり頭に血が上ってしまったコーディによるクマパペットが、主の怒りに呼応するように怒筋を走らせてクラゲを攻撃した。
『モブー!!』
煩わしいぬいぐるみたちを引っぺがそうと触手の意識はそちらへ向かう。
パペットが敵の行動を防ぐ間に、コーディ自ら服が溶けるのも構わずルゥを捕らえている触手へ掴みかかった!
「コーディ! あなたまでっ……」
「構ってられるか!」
引きずり出すのもまどろっこしく、しまいにはルゥの大鎌を先に引っ張り出し、刃先を利用して触手を切り落とした。
助け出したルゥをラキアへ預け、バスタオルを羽織らせる。
戦闘復帰する間際、待って、とルゥが熱っぽくコーディに顔を寄せた。
「ありがとうございます。……気をつけて」
そっと額に吐息交じりの口付けを落とし『ディスペンサ』の効果を付与すれば「……後で覚えておいてよ」と照れ臭そうな顔をして、コーディは再び殺気全開でクラゲへ向かった。
「ロベルト! 大丈夫か!?」
「ゲホッ、ゴホッ! うえっ……」
同じ頃、助け出されたロベルトにクルークが水を持ち寄り、急いで口を濯がせる。
それでも静まらない体の火照りに、ロベルトは蕩けた瞳のままクルークの体に縋りつく。
「お、終わったら、ねぇ……っ?」
「何言ってんだよこんな時に!」
いーからさっさと倒すぞ! 無理矢理ひっぺがして戦闘に復帰するも、捕まって以降様子がおかしいロベルトを気にかけていた事が仇になり――!
「おわあああっ!?」
「クルークもぉ!?」
――こちらも、あっけなく捕まってしまった。
「なんだこれ服が溶けっ……めちゃくちゃ恥ずかしい!」
「ちょっとだけ見てていいよね!? ひゅーひゅー! もっとやって!」
「歓声あげてんじゃねええ!」
最早戦闘どころではない二人とクラゲのもとへ、颯爽と一つの影が飛び出した!
「大丈夫か!? 加勢するぜ!」
持ち前の身体能力で担当していた一体を一人でぶっ倒してしまったセイリューだったが、その姿にラキアがひっと声をあげた。
「なんでセイリューもう素っ裸なの!? 君捕まってないよね!?」
「いやー突っ込んでったら溶ける溶ける。なんかポカポカするけど、風呂だと思えば問題ないし」
一般人は遠くに逃げてるし、ダイジョブじゃね? なんて言うがあまりに男らしい出で立ちに遠くから双眼鏡を構えている女性客もちらほら見受けられた。
「いや、見られてるから!」
「気になるなら視線外しとけばいいじゃん」
「そうじゃなっ……き、君はもう少し、羞恥心ってものをさぁ……!」
はーっ、と頭を抱えるラキアに、セイリューはビシッ! と今日イチの決め顔をして言い放った!
「いいかラキア。言及がなければ見えてないのと同じだ!」
なんとも名言である。恥ずかしいのはこっちなんだけど……という、パートナーとして至極まっとうな言葉を飲み込んだラキアとしては詰め寄りたい点が山ほどあるが、とにもかくにも未だ捕まっている仲間の救出が先決だ。
調律剣で仲間を捕らえる触手を切り落とし、ロベルトと共に死角から攻撃を繰り出し、二匹目を排除のち、無事クルークを救出した。
「そんなに欲しけりゃ、これでも食らってろ!」
水着のイケメンクマパペットを放ち、歓喜するクラゲが触手を伸ばすとクマは呆気なく自爆した。
『モブウウウ!』
目の前のイケメンが突如消滅したショックとダメージは大きく、コーディ達が担当していたクラゲも無事打ち倒した。
「……ふふ、なんだか」
「え?」
『キュア・テラⅡ』で、ルゥの回復をしていたラキアが、彼の視線の先に気付いて戦場を見遣る。
ほぼ半裸になっても、白い砂浜を駆け回る仲間達は、勇敢で頼もしく――何より。
「楽しそう、ですね」
「……はは」
乾いた笑いを浮かべはしたが、その一点だけは同意だよ、とラキアも表情を解かせた。
●
程なくして、全てのクラゲを掃討し終わり。
一刻も早く邪な汚れを綺麗に洗い流してしまいたかったコーディは、適当に見繕ったホテルで、気がすむまでルゥの体を洗ってやった。
「……まだ怒ってます?」
「……別に、悪いのは君じゃないし」
それでも釈然としない理由は、ルゥがにこにこと上機嫌でいることだ。
粘液を浴びただけの自分とは違い、人様の邪念にこうまでパートナーを好きにされて、コーディの性格上易々と許せるものでもなかったのだけれど。
「半裸で戦うあなたの勇姿、格好良かったですよ」
相変わらずマイペースを崩さない相方の上機嫌な一言に、まあいいか、とその場は絆されておいてやることに決めた。
我慢が効かず、物陰でキスをせがむロベルトに根負けしたクルークが応えてやっていると、相方の手が体を弄り始めたので流石に制止した。
「……この先も、だめ?」
「だめ」
「ちえ」
残念。と、唇を尖らせるロベルトの顔色はやっぱりまだ色香を帯びていて。
気づかれないよう視線を逸らし、そういえば、とあたりを見回した。
「お前、着替えは?」
「あー。使用人に持って来させるつもりだったけど……」
別にこのままでもいいや、と、さして気にもしない風で。
「なら、先に服買いに行こうぜ。高いのは無理だけどよ」
流石に半裸で帰られたくはなかったし、気分転換に、と気を利かせた一言に、ロベルトの瞳がぱっと輝いた。
「ショッピング? それいいね! 大丈夫、値段は気にしないよ!」
「いや俺が気にするんだって……」
クルークの言葉がもう聞こえて居ないように、手を引いて先行しつつ「行こっか!」とご機嫌なロベルトを見れば、そう悪い気もしなかった。
「……今日は流石に、ちょっと疲れたなぁ」
うーん、と伸び上がるラキアに、やっと海パンを着用してくれたセイリューがお疲れ様、と声を掛けた。
なにぶん、ダメージを――主に心に傷を負った犠牲者が多かったため、戦闘が終わってもラキアは回復を続けた。
雑魚相手にはよほど必要にならないディスペンサを行使したくらいだ。
「セイリューは元気だね……なんか一周回って羨ましくなってきた」
「ん? 脱ぐ?」
「言ってない」
「あはは! まあ、平和になって良かったじゃん。海の家も、ちょっとずつ営業再開してってるみたいだし」
かき氷くって帰ろうぜ! とペースを乱さないパートナーにはいはい、と笑って、共に平和な海水浴場を満喫した。
「クロちゃん、これ」
一つだけ余って居た海パンを、自前で用意したパーカーと共にクラウディオへ投げ渡す大樹。
ぱし、と受け取り羽織るが、クラゲが消えてもなくならない体の違和感に、眉をひそめる。
「……報告にあった粘液の効果か」
気分が妙だ。眉間に皺を寄せ、はあ、とまた一つ熱い息を吐き出す。
本人に全くその意思はないが、傍目には目に毒だ、と大樹は視線を泳がせつつ考えた。
「大樹、体に異変は無いか」
「……俺よりあんたのがやばいっての」
「確かに……私に付いた粘液が大樹に触れては問題だ」
どこかずれているのはいっそ天然なのだろうか。
苦笑しつつ、浜辺に見つけた更衣室を指差し「シャワー借りて帰るよ」と先導して声を掛けた。
「これでも食って元気出せよ」
岩陰に腰掛け、傷心に沈みきっているハルトの元へ、アイスキャンディーを二本手にしたテオドアが戻った。
結局、最後まで触手に解放してもらえなかったハルトはもうなんというかめちゃくちゃに骨抜きにされてしまって、ラキアの回復を受けても、気持ちまで癒されるには時間を要しそうだった。
「うう、折角のチャンスだったのに……テオ君、ハグして慰めて!」
しゅばっ! と抱きついてきた相方を慣れた動きで避けて、
「調子にのるな」
と言い放てば肩を落としたままショボくれた。
「ちぇー。……じゃあ、ハグはいいからそばに居て」
今日は疲れちゃった、と眉尻を下げるハルトが流石に哀れだったので、すとんと隣に腰を下ろして、背中を叩いてやった。
「はいはい。お疲れ様、よく頑張りました」
「テオくんがやさしい……」
ぐすぐすと鼻を鳴らしつつアイスを頬張る二人の視線の先で、平和になった海水浴場ではしゃぐ人たちの姿が輝いていた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
名前:柳 大樹 呼び名:大樹 |
名前:クラウディオ 呼び名:クラウ、クロちゃん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月11日 |
出発日 | 08月18日 00:00 |
予定納品日 | 08月28日 |
参加者
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
- 柳 大樹(クラウディオ)
- テオドア・バークリー(ハルト)
- ルゥ・ラーン(コーディ)
会議室
-
2017/08/17-23:55
プラン提出できたー。
あとは諸々を天の采配に任せるだけだ。
相談やらアレコレ、お疲れさまでした。
-
2017/08/17-19:45
プラン提出致しました。
備品は「バスタオル」「海パン」を私の方で申請させて頂いております。
セルフでお使いください。
楽しくなりそうな予感がします、ふふ…
がんばりましょうね。
コーディ:
ちょっ楽しくって…君はホントお気楽だね(溜息 -
2017/08/17-01:48
やったー味方増えたー!よろしくおなしゃーっす!
回復のプロが来たっぽいんで、
応急処置的な海水用ペットボトルは置いていくことにしました。
追加の申請品については俺も特に思い浮かばねぇなー
出発前に思いついたらとりあえず申請でいいんじゃね?
囮の皆が頑張ってくれてる間にPDS2で敵減らしてくなー!
触手は切っても回復するとかないよな、多分。
テオ君、被害に遭う確立を減らそうと、逃げ回るついでに
近くの触手を何本か切り落とそうとしてくれる気がする。
うまくいけば10本元気でいる時よりも捕まる確立が減らせるかもー?
いやしかしひん剥いてくる敵が5体とかホント恐ろしいっすわ(棒)
みんな気をつけてなー
(背中の「餌」と書かれた張り紙には気付いていない様子) -
2017/08/16-22:43
挨拶が遅れてすまねえ。
クルーク・オープストと…こっちはロベルト・エメリッヒ。PGだ。
よろしくな。
PDS2で1体ずつ確実に倒させる。
俺は…まだ戦力になんねぇからロベルトのステータスアップしたら囮になる予定。
申請品は今出てるもんでいいんじゃねえかな。あとなんかあるか…? -
2017/08/16-22:32
お、これでフルメンバーだね。
改めてよろしく。
俺はHTGからのクロちゃん差し出してー、の前衛かな。
まあ、自分が捕まらないように気をつけながらになるんだけど。
セイリューさんと同じで調律剣持ってく予定。 -
2017/08/16-21:36
セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
ギリギリ最後の枠へこんな時間に滑り込みゴメンよー!
デミ・クラゲもこれで最大数5体だな。
皆、ヨロシク!
見た所前衛が少なそうなので、攻撃力の賑やかしと、
誰かが動けなくなった時に
ラキアのl10で動けるようにならないかな
なんて考えから参加してみた。
ほら、難易度「普通」だし?
なのでオレのスキルはディスペンサ。ラキアのMP確保用だ。
調律剣+ラキアからのl11のカウンターで敵を斬るぜ。
敵からの攻撃は出来る限り引き受けるが【餌】な人がクラゲと戯れる邪魔はしないつもり。
ラキアはクラゲ触手の麻痺や毒からの回復やら負傷の回復を担当予定。
なので皆はHPの心配をせずに思い切りクラゲと戯れてOKだ(え?
がんばろーぜ。 -
2017/08/16-21:33
コーディ:
人が埋まったね、よろしく。
僕等は集中攻撃組で動く事にするよ。
フリーになったクラゲがいても狙われた時の対応を用意してるからなんとかなるかなって。 -
2017/08/16-00:43
コーディ:
一体ずつ倒すでいいと思うよ。
集中攻撃掛けるクラゲにt3使ったら惑わされてる間は触手の狙いが定まらないかも、ていうのを期待して使ってみようかなと思った。
(敵は等身大タロットカードに囲まれた様に見えるまやかし技で2R持続)
もしくは僕が囮2人目になってこのスキルで一体押えとく事もできるんじゃないかと思う。
囮希望の人が他にいなければするよ。 -
2017/08/15-12:02
はーい、柳大樹でーす。
んで、こっちがSIのクラウディオ。
戦闘系の依頼では皆さんとはお初かな? よろしくー。(右手をひらひら振る
去年も同じようなのがいたんだねえ。
ここのビーチは邪念が溜まりやすいのかな。まあ、夏だし海だし。
そういうこともあるある。(てけとう
全長15mとかでけぇな。まあ、的としては当て易そうでなにより。
んじゃ、囮役にこっちはクロちゃん出しとくね。
>1体ずつ倒す
いいんじゃないかな。
まあ、倒すまで他のを野放しにしとく訳にいかないだろうから。
囮になった人が他の2体をそれぞれ引き付けて、その間に1体ずつ集中攻撃のパターン?
クロちゃんには分身でも使って貰って、数秒だろうと時間稼いで貰うとして。
俺は武器何持ってこうかな。
捕まったら服溶かされるみたいだし、着替えも必要かねえ。 -
2017/08/15-02:15
神人のテオ君とPGのハルトでっす、よろしくー!
うん、きっと今年もその手の輩が出ると思って俺待ってたよホントだよ。
…邪念の根源?違う、俺は無実だ!…多分。
クラゲに刺されたら海水で流せばいいんだっけ?
効果あるかは分かんねーけど一応事前に
空のペットボトルとかに海水汲んでおこうかね。
うん、タオル持ってくのは大賛成、見た目的に
見せられないよ!なことになるかもしんねーし!
今のところクラゲ三体くらいは出そうな予感?
全長15mのやつに囲まれるとえらいことになりそうだし
一体づつ仕留めて行くのが安全かね。
俺はテオ君を前線に送り出して色々と堪の…
げふん、囮になってもらって倒そうかなって思ったけど、
もうちょっと他の人の意見も聞いてみたいかなー
(流石に三度目ともなるとテオ君前に出てくれそうにないなぁと思いつつ) -
2017/08/14-20:20
コーディ:
神人のルゥと僕はTSのコーディ。
よろしく。
と、とんでもないヤツが現れたな…依頼選べよルゥ…(溜息
(後でルゥが「これも貴重な経験ですよ」とにっこり)
僕はそうだな
まずは捕まってる人助けてから
パペットで妨害や取り込まれそうな人のガードを優先で動きたいかな。
ルゥは
接近戦するみたい、捕まらなきゃいいけど…(餌予定です)
(後ろで物騒な大鎌を素振りしている)
申請品は犠牲者用にバスタオルと海パンでいいかな?
近くの安全圏に置いておくから好きに使って、てつもりだけど。
申請したい人いたら任せるけど。
こんな感じで考えてる。
作戦とかは特に思いつかないけどあれば手伝うよ。