さかさまのふたり(紺一詠 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 パートナーとの親愛を深める。パートナーを理解する。それには、相手の立場になって考えることが必要だ。
「そこで、どうだろう。1日だけ神人と精霊のポジションを入れ替えてみるのは?」
 A.R.O.A.の職員の唐突な提案の意味が呑み込めず、ウィンクルム達はきょとんとする。
「要するに、だな。神人は精霊に、精霊は神人に、1日だけなりきってみるんだよ。神人諸君、考えたことはないか? トランスの際キスを送るだけではなく、送られてみたいと。精霊諸君、考えたことはないか? 自分たちが前線に出ているあいだ、神人たちはどんな思いを抱いているのだろうかと」
 そうと決まれば――誰もまだ承諾してないのだが――模擬訓練という体裁で、委細が決められる。
 郊外の農村にオーガが出没したので、さあ、みんなでまったりのったり倒しましょう。いつもとは逆の立場から。
「農村つっても体験型ってゆうか、農産物の収入よりも、農村を見に来た観光客の収入で成り立ってるような、そういうところだから。自家製ソフトクリームと手作りパンと粗挽きソーセージが評判らしいぞ」
 これをオーガに見立てて、と、何故かどでかいアルパカのぬいぐるみを渡される。件の農村のマスコットらしい。つまり、アルパカ農場まであるわけだ。
「で、おまえらがデートじゃなかった模擬訓練に行く日だけど、そこの農村ではイベントが開催されている。おまえらの模擬訓練は、イベントの目玉だ。観客に最高のパフォーマンスをお見せしてさしあげなさい」
 はなしの雲行きがなんだかすこし怪しい……、
「その日のイベントは『さかさまday』、ゲストもスタッフも揃って、女は男の恰好を、男は女の恰好をして……ひらたくいえば男装・女装だな……いつもとは逆の性別を演じようって趣旨だ。どうだ楽しそうだろう? というわけで、その日はウィンクルム達も気合いを入れて、男装や女装を決めてこい」
 ポジションの入れ替えってそういうことかよっ。

解説

そのとおりです。男装と女装をやりたかっただけです。

・模擬訓練をしない、男装女装をしない、という選択肢もありますが、その場合ふつうの農村観光とみなされます。入場料おひとり80ジェールかかります。食べ物はどれも一律、おひとつ30ジェール。

・模擬訓練をする(パフォーマンスする)場合、入場料はかかりません。あと、お一人おひとつまで、無料でなにか食べていいそうです。半日程度は観光する時間もあるはずです。

・プロローグのメニューの他に、普通の農村観光で食べられそうなものは大体用意してある模様です。ってここまで食べ物のことしか書いてない。

・アルパカは乗ることはできませんが、触れ合うことはできます。ぱかぱかあるぱかーー。こちらにお金はかかりません。

・パフォーマンスはちょっとした観客席のある広場でおこなわれます。みんなで協力してもいいですし、お一組ずつでもいいですし。

・どんな男装をするか、女装をするか、指定があると私が嬉しいです。なかった場合、わたくしのインスピレーションが暴走します(基本パートナーを参考にします)。相手の性格をまねっこしてなりきるのもいいと思うんですよ。

ゲームマスターより

御拝読ありがとうございます。紺一詠です。

ようやく自覚がでてきましたが、私、やっぱりお笑い大好きです。
プランで「お笑いしていいよ」と許可をくださったら、がんがんそうなってしまうことと思います。逆に、お笑い入れて欲しくない場合は「お笑いダメ絶対」とか書いてくださったほうが、確実です。
お手数おかけしますが、よろしくおねがいいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(レント)

  レント君っぽく
軽くて薄い模造鎧と厚手のズボンにブーツ
いかにも本格的な仮装といった感じで
髪は無理やり一つ結びに


模擬訓練以外では危なそうなので
歩き回る時は鎧は脱いでダブレット姿で


「ほら、レンちゃん、危ないですよ」
照れるレント君を悪戯心でからかい
緊張を解そうと手を引き



ショーでは
「さ、レンちゃん、格好良い所だから、ね?」と
ヒーローショーの登場のノリでキスを求めたり
努めて勇ましく朗々と
「レンは僕が守って見せる!」とか
「レンには指一本触れさせない!」とか
ノリノリで見栄を切ったりからかったり



ショー後は鎧を脱いで休憩
レント君の持ってきてくれる飲み物を待ちます

「やっぱり私じゃダメですね、全然格好良くできないや」


クロス(オルクス)
  アドリブお笑いOK

この日の為に俺用の軍服用意して貰ったんだ!
完璧に演じきってやるぜ♪
ルク、迷子になるんじゃねぇぞ?
てかルク似合い過ぎ!
今日は俺がしっかり守ってやる!

模擬訓練
(インスパイアスペルを唱え薄い桜吹雪が舞うかの様に淡い水色のオーラを放ち目が紅い瞳となる)
キスするのもされるのも結局はどっちも恥ずかしいな(照笑)
さぁてさっさと終わらせて観光しに行くぞ!

観光
何か食いもん買って来るから少し待ってろ
(急いで戻ると…)
やぁお兄さん達、俺のルクに何か用?
悪いけどルクは俺の、他あたれ(黒笑)

衣装 オルクスみたいな軍服 高さの有るブーツ
髪型 短髪の様に見せる為にバレッタでまとめ帽子被る
武器 2丁拳銃



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  《心情》
たまにはこんな息抜きも必要だろう。
人々を楽しませる事も大事だからな。
コホン・・・別にソフトクリームやアルパカが気になった訳じゃないぞ?

《行動》
・パフォーマンスに参加。
・男装時は執事風な格好で、髪を一つに縛っている。
・お客様にご挨拶、「お集まりの皆様、本日はお越しいただきありがとうございました。どうぞ心行くまでお楽しみ下さい(イケメンオーラ)」。
・模擬訓練時はみんなと連係をとる。
・アモンからのキスに、思わず照れたり。
・観光時はアルパカと戯れる。
・平静を装うとするが内心はしゃぎまくり、「見ろ、アモン・・・フワフワのモコモコだぞ・・・!(キラキラ)」
・自家製ソフトクリームを食べて幸せ気分。



楓乃(ウォルフ)
  すごくのどかでいいところ。あ!ソフトクリーム…。ウォルフと一緒に食べたいな。
そういえば例の”あるぱか”というものが見当たらないわ。きっとおいしい食べ物だと思うんだけど。

あ、今日の目的はパフォーマンスよね。浮かれすぎちゃダメね。私が水、ウォルフが火の魔法で蝶と鳥をステージいっぱいに飛ばす予定なんだけどうまくいくかしら。
練習の時は魔法がくっついて、辺りが霧で覆われちゃったのよね。失敗しないといいんだけど。

【希望】
アルパカを食べ物と勘違い。(ぬいぐるみは羊の変種と勘違い)
ひらひらの服でサイズがあっていないので、振り返る際に袖をウォルフの顔にクリティカルヒット。無自覚のトラブルメーカー。


ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  ※お笑いOK

農村での模擬訓練じゃなかったのっ!?
…聞いてたわよ
初任務で緊張して、頭に入ってなかったというか…

男装でのパフォーマンス?
トランス、わ、私に口づけ…

な、何でもないわ…やるわ、やるわよ
ウィンクルムとして立派に依頼をこなすわっ!
(恥ずかしさで羞恥通りこし開き直り)

■舞台
トランスは硬直
女装しているので変な気分
「民を脅かすオーガよ、刀の錆となれ」(棒読み)
模擬刀の大剣を使いアルパカに切りかかる
盛大に転ぶ

■観光
ちょ、勝手に食べないでよっ!信じられない
(あ、これはまさかの…。か、間接キス!!?

■感想
あんなに美人だなんて…不公平だわ(ぶつぶつ

■男装
三銃士やベルばらのようなフリルのある服
羽根つき帽子



●みんなで模擬訓練、の、筈
 ふぇぇぇぇぇと間延びした嘶き、アルパカの、それが号令だ。男の恰好の女性、女の恰好の男性などで、大入り満員の村のイベント広場にて。片辺の仮設舞台、その上からの、燕尾服を着用し執事に扮したリオ・クラインによる名調子。
「皆様、本日はお越しいただきありがとうございました」
 彼女、いや今この瞬間は……彼か。膨れっ面のアモン・イシュタールを隣にして、リオ、客席に向かって片目をつぶり、差し招くかの如く、継ぎ目なき仕草で右腕をさしだす。
「とりわけ親愛なる淑女の方々におかれましては、咲き誇る薔薇の花さえ恥じらいをおぼえるほどに見目麗しいこと、なによりでございます」
「きゃぁぁぁぁああああ」黄色い歓声、
「うぉぉぉぉぉおおおお」野太い悲鳴、
「ふぇぇぇぇぇええええ」アルパカ参戦。
 リオ、深深と腰を折って一礼する。
「どうぞ心行くまでお楽しみください(イケメてる)」
「おたのしみくださーい(イジケてる)」
(これも立派な使命だ。しゃんとしろ、最敬礼は90度だ)
(使命って言えば何でも済むと思うなよ?! つか、なんでそんだけ身体を曲げられるんだよ。お嬢様ってやつぁ海老の親類か?)
 滞りなく――たぶん、おそらく、きっと、開幕の挨拶を済ませた彼等の背面。客席からの死角では、アモンとリオ、熾烈な争いを小声で繰り広げていたりする。
「農村での模擬訓練じゃなかったのっ!?」
 模擬訓練とは実戦のシミュレートであるべきで、張り詰めた糸の如し、切迫した状況でおこなわれるべきであり――袖から舞台を見守るミオン・キャロル、それ以上の抗議をぐっと堪える。A.R.O.A.から初めて紹介されたのだから、と、張り切って着用した衣装、百合の紋を中央に染め抜いた、襟元をたっぷりのフリルで覆った、軽装の近衞騎士というべき勇ましき恰好が震えている。
 たじろぐミオンを、アルヴィン・ブラッドロー、物珍しそうに眺めやった。
「ん、説明受けただろ。男女入れ替わっての舞台やるって」
「……聞いてたわよ。初任務で緊張して、頭に入ってなかったというか」
「食い物がタダになるらしいぞ」
「ソフトクリームがあるのよね。いったいどんな味があるのかしら」
「成る程。そっちで忙しかったか」
「ち、違うわよ。情報収拾だって、ウィンクルムの大事な基本でしょう?!」
「はい、はい」
 アルヴィン、ミオンのてっぺんに掌をやり、彼女の帽子の羽根飾りを上手にいなしながら、ぽんぽん、とする。
 ミオンとアルヴィンのやりとりを微笑ましく見守りつつ、楓乃、ふふ、と、口をつぼめた。
 今日はほんとうに来て良かった。世界が『見える』とは、なんてすばらしいのか。そりゃあ彼等の会話は『聴く』だけでも愉しめたろうが、真っ赤になってパートナーに食って掛かるミオンや、優しい角度でパートナーを見下ろすアルヴィンや、彼等の様子を間近で享受できるのだから。
 そんな楓乃を、楓乃のパートナーのウォルフもまた愉快そうに見守っているとは、彼女自身は露知らず。
「そういえば例の『あるぱか』というものが見当たらないわ。どこにあるのかしら」
「さっき鳴いてたじゃねえか」
「まぁ、ウォルフなにを言ってるの。あれは開演のブザーよ」
 これだよ、と、ウォルフはヘアバンド(楓乃からの借り物の、レース編みのそれ。いつもはターバンでざっくりと髪をまとめているウォルフにとっては、むず痒くて仕方ない。けれど楓乃に似せた、純白のファーの多めの、ふんわりした女物に合わせるにはそれしかなかった)から零れた、短い前髪を払うよう、手をやる。
 入村前から、楓乃、何故か『あるぱか』は食べ物だといってゆずらないのだ。そりゃ(※自主規制)なことをすれば、食べられないこともないが――……、
「ブザーを聞き違えるなんて、ヘアバンドの位置がいけないのかしら」
 ぎくり、と。ウォルフはまごつく。彼は舞台袖に投げ置かれた大道具のひとつに腰掛け、対して、ウォルフの服に袖を通した楓乃は立ち詰めで、結果、今現在、上背が高いのは楓乃のほうだ。
 そんな楓乃がウォルフのヘアバンドを直そうとしたのだから――ウォルフの目下、男性は持たざる胸の豊かな膨らみが、白く(楓乃ってほんとうに色が白いんだなあ。ウォルフはしみじみ実感する)、白く(ってぇ胸も肩も空きすぎだ、見える!)波立つ。
「い、いけっ、全然いけなくない!」
「じっとしててね、ウォルフ」
 ウォルフの科白が聞こえなかったのか聞いていないのか、楓乃は更に無防備に近づき、今にもウォルフの膝に乗り上げそうで――続きはウェブで! 嘘、もうすこし後です。
「ほら、レンちゃん、危ないですよ」
 お手をどうぞ、レイディ。模造鎧、厚手のブーツとトラウザーズ、手練れの重騎兵の如く装った葵は、悪戯めいて相好を崩し、レントに繊手をさしだす。レント、些少の躊躇の末、普段とは逆、彼女の掌に自身の掌を置くように。
「あ、葵さん。これ、だ、大丈夫ですか……?」
 キャスケット帽、ギンガムチェックのタイ、同じ柄のプリーツスカートは膝丈まで、純白のドレスシャツ、と、アクティブな印象の一揃え。レント、どんなふうに仕上がったのか怖くて鏡も見られていないのだが。
「うん。レンちゃん、すっごくかわいい」
 レントは訝しむ。「Q:大丈夫?」⇒「A:かわいい」? もしや葵さん、すっごく乗り気……?
 今更気付いたレント、あれよあれよというまに舞台に引っ張り出されている。我に返れば、
「レンは僕が守って見せる!」
 葵、華々しく両腕をひろげて見得を決めている。レント、自身に似た恰好の葵、肩に届かぬ髪まで一括りにした気合いの入れよう、に見蕩れる。きりっとして、かっこいいなあ。葵さんからの僕は、こんなふうに格好良く見えるのでしょうか。
 その時に至る、トランス、といっても真似事だけど。でも、レントから葵に口付けするのは確かで――……武者震いのようななにかが背を抜ける。
(さ、レンちゃん。格好良い所だから、ね?)
(は、はい)
 レント、覚悟を決めた。頬に刷かれた朱を濃くしながら、始まりの第一歩を。
 と、葵のほうに踏みだした足首が、進行方向を外れて、捻れて、
 転ぶ。
 スカートに尻尾用の穴を開けておかなかったことも、驚くと尾が立ち上がるレントの習性も、葵がレントに抜かりなく施した下準備も、全てが悪い方向に向かった。レントの足から下の、ギンガムチェックが大仰に捲り上がる。
 葵は、完璧だった。アンダーウェアまで女物に仕立てたのだから。
 ( ̄人 ̄)パンッ ( ̄o ̄)vツー (p_q)マル (「・・)ミエ なかんじで。
 元々朱かったレント、熟すよう真っ赤になり、わっと両手で顔を覆う。
「僕もうお嫁に行けません!」
 行くつもりだったのか。
 その場の総勢の心中を、ただ一人、葵のみは共有しなかった。葵、心底申し訳なさげに、レントの両手を取り上げる。
「ごめんなさい、レント君。私のせいで」
「葵さん……」
「私、ちゃんと責任は取ります」
 レント、心臓が止まる思い。それまでの葵も凛々しかったが、こうしてレントの真っ向に立ち、レントだけを見る葵は、なんと崇高なことか。
 責任を取る、というのは、ひょっとして未来の保障をするということで、葵とレントの将来が重なり合うかもしれぬということで――……。
 葵、高らかに宣告する。
「私が責任を持って、レント君の、お見合いの仲人を務めます!」



「おい、今、テイルスの女の子が『青春のばかやろーっ』って叫びながら、ものすごい速さでダッシュしていかなかったか?」
「テイルスって精霊だろ、なら、男じゃねえか」



「レント君……。私じゃあ、レント君の力になれませんか……?」
 むしろ止めを刺してたろ。
 会場全員の無言のツッコミを悟ることなく、葵、髪を搖らしてレントの去った方角を見澄ます。
「なあ、すげえことになってきたぞ」
 舞台袖から出番のタイミングを計っていたクロス、オルクスの方角に振り返る。オルクス、彼はスタッフと思しき人材に声を掛け、打ち合わせらしいが、どんな断りを入れているのだろう。クロスの疑問は、しかし、顧みるオルクスの裾捌きの見事さに儚くなる。
 てかルクってば、似合いすぎ。
 秋海棠散らした藍白の和装、かもじを添えた銀髪をゆるりと一つに纏め、傾城の美女とはこのようなものかもしれぬ。もしかして俺よか美人じゃね? クロス、妙に引け目を感じた。
 そういうクロスとて、緋色の十字も鮮やかな軍服すっきりと着こなし、踵高めの編み上げブーツ、平常は後ろに垂らした一つ結びの長い髪を制帽の下に隠して、なんとも垢抜けた男ぶりなわけだが。
「そのようだ」
 クロスの報告に、オルクス、ニコリというよりはニヤリと、唇の端を釣り上げる。
「こうなれば、クロス。二人で鎮めるしかあるまい」
「だな」
「第一声はこんなかんじでよかろう。『皆様、本日はわたくしたちの結婚記者会見に御足労頂き、感謝の念に堪えません』」
「おい、どさくさまぎれに趣旨すりかえんな」
 どちらが花嫁でどちらが花婿になるのだろう。そんな関心が、ちらりと掠めたので、歯切れの悪いクロスである。オルクス、クロスの困惑を見透かしたが如く、楚々とした仕草で、不敵な口許を抑える。
「クー様、わたくし迷子になりそうなので手をお繋ぎしても宜しいでしょうか?」
「……よし! 今日は俺がしっかり守ってやる!」
 そして、二人、いまだざわめく舞台へ出た。なにはともあれトランスだ。期待されているのはそれ、馴染みの順送りを、今日だけは交換する。オルクスの唇は、冷たい。
『集え奇跡の絆、インフィニティレガルジーア!』
 眩え、舞え、二人のオーラよ。桜吹雪が舞うかのよう、花色の瑞気が二人の周りをかけめぐる。
 ――……あれ、
「ただのトランスごっこだったよな」
 だのに、妙に明るい一帯、なにが起きたのだ? いつものトランスとは異なる、瑞々しさが薄れたというか……。
 くるりと身体を回して、クロス、把握する。これは人工のトランスだ。ドライアイスの蒸気に青いライトを当て、それらしく仕立てただけ。仕掛けは上々、仕上げも上々、オルクス、満足そうに呟いた。
「オレとクーとの大舞台を、みみっちい演出で誤魔化されては、オレとクーとの子孫の恥だからな」
 スタッフに袖の下を掴ませておいた等、しれっと言い退ける。幾分出費が必要だったが仕方ない、とも。
「はあ?! つーか子孫ってなんだ!」
 さっきの打ち合わせはそれか、と、愈々、クロスは知ってしまう。でもちょっと、小指の爪の先よりまだ小さいぐらいだけ、オルクスの気遣いが嬉しいかもしれない。絶対に教えてなんかやらないけど。


●それぞれのアルパカ
「今、帰りたい。すぐ帰りたい。はやくおうちに帰りたい」
「帰りのバスは夕方まで出ないぞ」
 非情な現実に、ミオン、うぅと低く唸る。出来うることなら今すぐにでも、布団のなかに引き篭りたかった。穴を掘るのでもいい、地下深くに100年ほど封印されたい。だが、くりかえす、現実は非情である。農村の片隅のベンチに腰を下ろし、ミオンはソフトクリームを、アルヴィンは手作りソーセージを、のんびり頬張るしかないのだから。
「あんなところで転ぶなんて!」
 舞台での出来事を思い返すだに、七転八倒したくなる、ミオン。
 ――……第一の関門、トランスは硬直しながらも辛うじて乗り切り、第二の関門は演武だった。アルヴィンが用いるような幅広の模造刀片手に、彼女はオーガ、といっても正体はアルパカのぬいぐるみ、に対峙する。
『民を脅かすオーガよ、刀の錆となれ』
 多少棒読みになってしまったけれども、忘れよう、ただの模擬訓練なのだから。人前だからといって、何も恐れることはない。ちょっと搗ち合わせてやれば、それでいいのだ。
 だが、顔を上げてオーガなアルパカに見入ったとき、彼女は分かってしまった。
(…………)
 もしかして、このぬいぐるみ、つぶらな瞳がべりきゅーと?
 そして、ミオン、レントに引き続き、転んだ。業界用語で「天丼」と称される現象である。記憶が蘇ったのだろう、アルヴィン、呵々と朗笑する。
「しかも、レントのほうがかわいかったもんな」
「ねえ、殴っていい?」
「良くない。ソフトクリームがこぼれるだろ」
 指さされて、ミオン、自分のソフトクリームが溶けかけていることを知る。慌てて舌で掬いながら、ちらと横目で、無造作にソーセージに食らい付くアルヴィンを見遣る。
 女装を解かず、アルヴィン、未だそのままでいる。前身頃のみ裾を切り詰めた朱い和装から、大胆に生足綻ばせて、小道具に使った煙管は膝の上、艶っぽく、いかにも粋事に通じた雰囲気。実際に会話をしなければ、彼の世間知らずを知ることは難しいだろう。食事のマナーを気にするふうでないところまで、彼のなまめかしさを弥増すばかりだ。
「……不公平よ」
 皮膚呼吸できねえ・胸の詰め物が邪魔・すーすーするとかぼやいてたけれども……。結局は似合ってしまうのだから。
 ミオン、自棄っぱちにソフトクリームを齧る。きん、と、蟀谷が痛むのは、急に冷たいものを食べたせい。アルヴィンに見られているからではない。
「ミオン、美味そうだな。一口くれよ」
 出し抜けに首を伸ばしたアルヴィンが、ミオンのソフトクリームに、無断で食い付いたからではない。それが間接キスだと気付いてしまったからではないのだ、たぶん。
 心臓がきゅうっと縮まったのは、ソフトクリームが絶品だったから。その証しに、ミオン、今度こそ遠慮なくアルヴィンの後頭部をはたいた。



 司会進行とその助手をやりきったリオとアモン、ソフトクリームの甘さを堪能しつつ、二人は農村を散策している。司会業による疲れのせいで始めのうち言葉少なな二人だったが、ソフトクリームの嵩を減らすにつれ、軽口が増えてきた。
「いい息抜きになったろう?」
「ふっざけんな。オレが女装なんて完全に嫌がらせじゃねーか……!」
 リオの執事風の装束に合わせて、細身ながらも筋肉質の体をゴシックロリータテイストのドレスに押し込め、お嬢様らしく誂えたアモン。だが、どうみたって、ヤクザがまちがって仮装に挑んだといおうか……。ぼさぼさの銀髪は殆ど無理矢理といった体でツインテールに結われている、リオの愛用するリボンが溌剌と揺れた。
 リオ、ころころと笑い声をあげる。アモン、形振り構わぬふうにソフトクリームてっぺんから食らいつき、しかし、なにか思い付いたらしい、紫の瞳に幾分剣呑な光が浮かぶ。
「『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に』」
 インスパイアスペル。そのとき、を思い出した、リオの笑いがぴたりと止む。
 ――……まあ、やりすぎちまったかもなあ。
 騙されるように舞台にあげられ納得行かなかったアモン、トランスの模倣をするとき、ちょっとした復讐を試みた。アモンからのキス、リオの頬にあてるとき、噛み付くように、すこし余計な力を入れてやった。
 そして、リオという、3人目の転倒が生まれた。ウィンクルムとはどんだけバランス感覚に問題があるのだ、今日の観客、そのような感想を抱いたにちがいない。
 二人の会話は再び途切れる。ソフトクリームもほぼ食べ尽くしてしまった、慣れぬ二人はぎくしゃくと、新たなきっかけをつかめないでいる。
 だが、救いは外からやってくる、音で、ふぇぇぇぇぇと長く鳴く。アルパカの首は、同じく長い。
「見ろ、アモン。フワフワのモコモコだぞ……!」
 散歩の時間だろうか? 農場から引き出されたアルパカがスタッフと一緒に、農村の道を、二人の向こう側からこちらにやってくる。紅玉に似たリオの瞳に、宝石より麗しい光がさあっと差す。
「遊びたいのか」
「い、いや、そういうわけではなく……」
「じゃあ、遊びたくねえんだな」
「そんなことは言っていない!」
 アモン、リオの言葉をおしまいまで聞いちゃいなかった。そこから駆け出し、スタッフと何事か交渉する。
「話を付けた。手綱にぎらせてくれるってよ」
「本当か?」
 リオの瞳のキラキラが二倍、三倍に増える。お嬢様ってマジでわかりやすいんだな、さすが、海老。アモンの口許、彼自身も気付かぬくらいの素直な笑みが兆す。



「何か食いもん買って来るから少し待ってろ」
 オルクスの空費をひとしきり叱ってから、クロスは離れる。おやつ抜き、とならないところが彼女のいいところだ、とっくに承知だが。オルクス、丁字の立ち木に背を預け、閑暇を潰す。
 と、
「お嬢さん、お暇?」
 こんな日、さかさまdayにすら、この手の族は現れるらしい。冷たくあしらうのは容易いが――さて――……、
「やぁお兄さん達、俺のルクに何か用?」
 オルクス、腿に忍ばせたクナイに指を掛けたその時、
「悪いけどルクは俺の。他あたれ」
 二挺拳銃のトリガーをきっちり握るクロス、銃口を押し付ければ、逃げて行く。
 独占欲はいいものだ、独占されるのもまた良きかな。
 だから、「惚れ直したましたわクー様」装束の袂で隠した唇を、オルクス、悪辣に歪ませる。もっともっと奪い奪われていこう、心身を。



 お待たせしました、再開!
「ウォルフごめんなさい、本当に平気?」
「平気だから近寄んなって」
 転倒者続出のウィンクルム達であるが、そもそものいの一番はウォルフ、しかも舞台に出る直前、頭を打ち付けていたのだ。楓乃の危機意識に欠けた接近を避けようとした結果である。で、己が原因だとは気付かぬ楓乃、ウォルフの隙間だらけの服装のまま、またもウォルフの傍に寄ろうとする。
「ごめんなさい……。舞台も上手くいかなかったし……駄目ね、私」
「別に、ただの模擬訓練だろ。オーガ相手に本領発揮できりゃあ問題ねえって」
「そうね!」
 いや、きちんと反省してくれ。ウォルフの願いは届かない、というより、ぶちのめされる。楓乃が両腕振り上げて心持ちを立て直そうとした瞬間、楓乃の、詰まるところは元はウォルフの、だぶつく衣装の袖が、ウォルフの顎にクリーンヒットを決めたからだ。立ち眩む。さすがのウォルフも一言返そうとしたが、
「『あるぱか』が見付からないわねえ。香りを辿ったほうがいいのかしら?」
 まだ拘っていたのか。目で探れないなら鼻で、という、楓乃の発想の飛び具合が、もはやウォルフの常識の場外ホームランであるから、ウォルフ、もうだんまりを決め込むしかない。
「そうね、あるぱかっていうくらいだから……」
 んんー、と悩む楓乃。
「るぱーって香りね。それとも、ぱるー?」
 にぱー、と笑う楓乃。
 何故真ん中二文字で切り取った、ひっくりかえした。ツッコミどころしかない科白に、ウォルフ、楓乃とは途方もない難題そのものだ、と、ほとほと痛感する。
「あ、あれよ。きっと。るぱーってするもの」
「ソフトクリームじゃねえか。そんなのもわかんねえのかよ」
「ええ。ソフトクリームの『あるぱか味』でしょう? ウォルフ、一緒に食べましょう」
 だから、どうすればいいのだ。顎をさすりながら、ウォルフ、『あるぱか味』を知る人間を訪ね歩く旅に出る決意をする。嘘。



 帰りのバスの時間まで、あと少し、という頃、葵とレント、漸く再会した。レントの購入した飲み物を煽りつつ、喉を潤し、気持ちを冷やす。
「やっぱり私じゃダメですね、全然格好良くできないや」
「ち、違います。僕の方こそ……。その、もっと、頑張りますから」
「レント君なら絶対に、いいお嫁さんになれますよ」
「あの、そういう意味でがんばるわけじゃなくて……僕……」
『まもなくバスが発車いたします。お乗り遅れのないよう御注意ください』
 レントの訂正は、バスの到着を告げる村内放送により、無残に散らされる。夕方の太陽、泣き出しそうに赤い。レント、再び太陽のバカヤロウを叫びたい気分を味わう。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 紺一詠
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月25日
出発日 05月31日 00:00
予定納品日 06月10日

参加者

会議室

  • [5]葵

    2014/05/29-22:13 

    だ、だいぶご挨拶遅れてごめんなさい
    葵って言います、よろしくお願いしますね。
    パフォーマンスは参加予定です、盛り上がるように頑張りますよーっ

  • [4]楓乃

    2014/05/29-16:28 

    はじめまして。楓乃と申します。
    パートナーはテイルスのウォルフです。
    どうぞよろしくお願いいたしますね。(ぺこっ)

    顕現してまだ日は浅いのですが、
    今回のパフォーマンスも精一杯頑張りますっ!(ぐっ)

    ウォルフ(…そのやる気が空回りしねーといーけど…。嫌な予感しかしねぇ…。)

  • [3]クロス

    2014/05/28-23:02 

    初めまして!
    俺はクロス、パートナーはプレストガンナーのオルクスだ
    宜しくな(微笑)

    俺達もパフォーマンスに参加しようかと思っている
    因みにオルクの女装が見たいから参加した訳…じゃないぞ(遠目)

  • [2]リオ・クライン

    2014/05/28-21:18 

    リオ・クラインという。
    私も精霊と契約してまだ日は浅い、よろしく頼む。

    模擬訓練には参加予定だ。
    たまには息抜きも必要だからな。
    ・・・別に自家製ソフトクリームやアルパカにつられた訳じゃないからな?

  • [1]ミオン・キャロル

    2014/05/28-20:14 

    はじめまして、精霊と契約したばかりのミオンと言います。
    皆様、宜しくお願いします。

    パフォーマンス参加予定です。


PAGE TOP