プロローグ
春だろうが夏だろうが秋だろうが冬だろうが。
暑かろうが寒かろうが。
雨だろうが雪だろうが晴れだろうがなんだろうが、天候にも気温にも関係なく、オーガは確固たる決意を持って攻撃を仕掛けてくる。
そしてその度、迅速にA.R.O.A.が動き、平和を取り戻すべくウィンクルムはひた走る。
しかし。
しかしである。
角を生やす凶悪な彼らの魂を滅ぼし、はいこれですべて解決――というわけではなかった。
建物や自然のほうは、今もまだ、オーガの残した爪痕に苦しめられていた。
これまでの雨模様が嘘だったかのように青空が広がっている。
街の集会所の掲示板や、ネットの世界での掲示板には、オーガ襲来の後片付けの協力を乞うもので溢れていた。
久々の晴天。
溜まりに溜まった雑用を片付けたあなたは、帰路に就く途中、街灯に貼られた一枚の紙にふと目を遣った。
そこには、海開きを前にゴミのポイ捨てなどにより汚れてしまった浜辺の清掃作業を手伝ってくれる人手を探す旨が、太いペンで切実に書いてある。
そしてついでとばかりに――運悪くオーガに襲われ破壊された海の家の補修作業を、どうか誰か手伝ってくれないか、と。
報酬は出ないが、とびきり腕を揮って昼食は出す、と。
海辺が好きな者、力が有り余っている者、暇をしている者、誰でもいい、と。
ふむ、と顎に手をやり、あなたは――ここぞと言うときは――頼りになる精霊の姿を脳裏に浮かべる。
清掃日は偶然にも明日、だった。
『ボランティアに参加してくれる聖人のような方は、朝10時に現地集合』
『住所はこちら、連絡先はこちら』
『勇者の参加を心よりお待ちしております』
聖人でも勇者でもないが、まあ、僭越ながら行ってみるかと、あなたはその広告を端末機器で撮影し、今朝テレビで見かけた向こう一週間の天気予報を思い出す。
明日も、降水確率はゼロパーセントだったはずである。
海辺での善行というのも、なかなかに乙なものではないだろうか。
A.R.O.A.に連絡を入れれば、更に集まりは良くなるかもしれない。
日射病には気をつけないとなあ、と思いながら、目的地へと歩き出す。
解説
※現地への交通費として300Jrを消費
・様々なものが飛んできた浜辺を、みんなで協力して清掃しましょう。
・ゴミ拾いの道具は海の家のオーナーが貸してくれます(軍手、ゴミ袋、ゴミバサミ)。
・大工仕事に興味、経験がある方は海の家(バンガロー風の木造建築)の修繕を手伝いましょう。
・昼食や飲料は出ますが、もちろん持参も可。
・日射病対策は万全に!
・作業の進行に問わず、16時解散。
・海にはまだクラゲが多いので、泳いだりは出来ません。
・ウィンクルムだけでなく、近所の元気な若者たちも参加します。
以下、海の家のオーナーの愚痴を一部抜粋。
「ざっと見た限り、例年通り缶だの瓶だのお菓子の袋だのが多いな。今年はなんでか知らねえが、丸太だのカカシだの壊れた三輪車だのまで浜に刺さってやがった。どっから来たんだ、あいつら。他にも変わったもんが落ちてるかもなあ。店に至っちゃ古かったせいか屋根は一部なくなったわ壁に穴は開いたわでもう大惨事よ。オーガの野郎、今すぐ転生してせめて店直してけ!」
ゲームマスターより
毎日暑いですね。
太陽の下、漢だけで汗を流して海辺で……健全にボランティアなどは如何でしょうか。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
レーゲンも髪暑いでしょ、後ろ(三つ編みに)結んであげるね ゴミ回収: ある程度範囲を決めてざっとゴミを拾った後、ガラスの欠片など小さい物を注意して拾う。ゴミがなくなったら次の場所へ 回収したゴミはみんなと協力してバケツリレーで運ぶ 大きなゴミは声をかけて一緒に運んで貰おう 水分と塩分補給もかねて クーラーボックスに氷と一緒にスイカを入れて、お昼にみんなで食べよう ゴミ色々あるなぁ… カカシ!?服とかも洗って綺麗にしたら使えないかな 丸太を板に切って看板代わりにして、店頭でカカシに持って貰おう 大きな貝殻でネックレスとか、漂流物で使えそうな物も持たせたりしてみる はい、頑張ったレーゲンにご褒美(綺麗な貝殻を手渡す) |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
交流歓迎 僕もボランティアに興味があったんだ。一緒にいこう あ、酷い(微笑 無理はしないし対策していくよ。やれることは多そうだし ゴミ拾い■髪にピン。麦藁帽子に半袖、水筒。他、現地の道具 初めてでドキドキ。見よう見まねでトングを使い頑張る 皆と協力 危ないから!わかったからタイガこそ抜かりなくね! …もう。作業に集中集中(恥ずかしさに帽子を目深に被り (それでも張り切ってるタイガや心配してくれるのは嬉しいな) ●写真は快く。撮ってるとわかるとぎこちない。ホース水浴びにはびっくり ★昼は料理の手伝いにいきたい(学んで活かしたい お疲れ様。順調だよ。皆はもっと頑張ってるから、僕もたくさん貢献したいな 午後も頑張っていこうね |
ユズリノ(シャーマイン)
AROAで聞き参加しました 浜辺のゴミを見てひあ~ こんなのあった とマネキンの首見せ 彼の反応見て こういうの少し苦手だったよね 1年前に行ったお化け屋敷を思い出し くすっ シャミィと2度目の夏なんだなぁ(感慨深い 気合の掛け声僕も おー! 僕は修繕班のサポート 板押えたり手の足りない所の手伝いするよ 水分の差入れや怪我の手当も(医療1 午後は一層暑くなるからね 若者さん達も途中休憩して貰い 熱中症対策にホースで水吹き上げて水浴びして貰う シャミィがキラキラしてセクシー…(見惚れ 終了1時間前にラストスパートの声掛け 解散後 綺麗になった浜辺が誇らしい …人の中で働けたの嬉しかった 頬染め寄添い お疲れ シャミィ 絡み 巻き込まれ 精霊共歓迎 |
歩隆 翠雨(王生 那音)
交流歓迎 浜辺と海の家のビフォーアフターを写真に撮り、作業している皆の雄姿を写真に収めつつ、那音とゴミ拾いだ 事前に海の家のオーナーに写真撮影の許可を取る こんな状態になっても、皆の力で綺麗になったぜという所を収めたい、頑張る皆の姿も残したい 写真を海の家にちょこっとでいいから飾らせて欲しい旨もお願いする 許可を貰えたら撮影 …って、しまった…俺は人を撮るのが苦手なんだった…! 極度に緊張、手ぶれやピンぼけに…那音は平気なんだがな 那音の言葉に目から鱗 景色の一部と思って… 撮れた …那音、ありがとな あくまでメインはゴミ拾い、撮影はそこそこにし集中 那音と力を合わせ大型のゴミを回収 ゴミをバケツリレーで運ぶのを皆に提案 |
ミッチェル・オスマンサス(蛇遣座)
とりあえず、目に付いた大きなゴミから片付けていこうかと思ってる。粗方終わったら、翠雨さんの提案していたバケツリレーを手伝おうかな。それなら近所の人とも一緒に出来るし、セラさんからも一緒に頑張ろうと言ってもらえたしな。修繕の方は...力になれるとしたら資材運びくらいか。 炎天下での作業になるから、まずは暑さで参らないよう気をつけないと。初めからとばすんじゃなくて、適度に休憩しながら進めていくよ。 せっかく大人数での作業なんだし、他の参加者の方とも交流できたら嬉しいな。アドリブもどんどんお願いしたい。その場のノリや流れを楽しむのも、醍醐味の一つだろう? |
●はじまりの合図
「自慢の店と海だ、遠慮なく撮ってくれよ!」
日に焼けたオーナーは豪快に笑って、反対に色素の薄い歩隆 翠雨の背中をばしばしと叩く。
海水浴を楽しみにしてくれる人々の為、こうして皆で協力して清掃する様子を、前後の変化も含めて写真におさめたい、と。
写真好きな翠雨らしい思いつきに、オーナーはもちろんのこと他のウィンクルムや地元の若者たちも乗り気だった。
近所の八百屋に数台のリヤカーを借りに行っていた王生 那音も、ちょうど戻って来た。
「那音。八百屋にリヤカーがあって良かったな」
「ああ、これにきゅうりやトマトやスイカをめいっぱい詰め込んで売りに歩くらしい」
「――スイカ?」
信城 いつきが、砂浜に座らせたレーゲンの青く長い髪に指を絡ませ、一本の三つ編みにしていきながら反応した。
当のレーゲンといえば、先程いつきの肌に丹念に塗り込んだ日焼け止めを、今度は自分の四肢にも馴染ませている。
「スイカ持ってきたんだ。冷やしてもらってるから、昼になったらみんなで食べよ」
「「楽しみだ」」
容赦のない日差しの下。
良く冷えたみずみずしいスイカを想って、異口同音に翠雨と那音は賛成した。
三つ編みも完成し、立ち上がりがてらレーゲンはいつきの頭にしっかりと帽子を被せる。
「今回は確かに君の嫌いな屋外での単純作業です。知的好奇心を満たせるような発見もないかと思います。それは謝ります。しかし! 地域環境、ひいては文化とはこのような泥臭く地道な活動によって支えられるものであり――」
「お前の体力を馬鹿にしてるわけじゃなくて……真夏の野外活動したことねぇだろうし、熱中症とか色々心配なんだよっ。それに俺は店の修繕作業だろ? でもお前はゴミ拾いだろ? 離れるのがちょっと――」
「うわあ!」
ミッチェル・オスマンサスが己の精霊に、火山 タイガが己の神人へと向けて滔々と重ねていた言葉は、ユズリノの素っ頓狂な叫び声によって中断された。
「見てこれ。こんなのまであった!」
ユズリノが掲げているのは。
元は綺麗なロングヘアだったであろう髪もぼさぼさに乱れ、ところどころ塗装が剥げている、
マネキン人形の首だった。
ユズリノの精霊であるシャーマインでさえ、叫びこそしなかったものの、大きく肩を揺らして慄く。
麦わら帽子で頭部を守るセラフィム・ロイスは小さく息を飲んでタイガの背中に隠れる。
ミッチェル・オスマンサスと蛇遣座は、おお、と何やら興味深そうにマネキンの虚ろな顔を見詰める。
「ごめんごめん。シャミィとセラフィムは、こういうの少し苦手だったよね」
「リノもだろ。ったくよお……驚かせて悪かったな」
「俺はセラがくっついてくれてむしろラッキーっつーか。あ、嘘だって。睨むなよセラ!」
「実家のカラス除けに使えそうだ」
和やかな空気に戻ると同時に、オーナーが開始時刻になったことを大声で告げた。
誰彼ともなくあがった気合の掛け声に、生首以外の全員が片手を挙げてそれに応えた。
●燃えるゴミは月曜と木曜
目につくゴミを片っ端から拾っていったおかげで、ざっと見渡しただけでも浜辺の変化は目覚ましいものがあった。
手の甲で額の汗を拭ったセラフィムは、ずっと屈めていた腰を伸ばし、店のほうから聞こえる作業音を心地好く捉えつつ、木陰へと移動する。
あまり無茶を続けては、今まさに真剣に屋根を直しているタイガに要らぬ心配をかけさせてしまう。
そこには先客――ミッチェルが先に休んでいた。
「セラさんも休憩? 大丈夫か?」
「少し疲れちゃって……無理をすると、タイガに怒られちゃうしね」
拾ったゴミをバケツに小分けにしながら、何やら那音と難解な蔵書について語っている蛇遣座の後ろ姿を眺め、ミッチェルは頷く。
こうして交代でまめに休憩を取るようにしている為、今のところ熱中症にやられた者はいない。
頃合いを見て立ち上がったふたりは、いつきが何やら腕を振って人手を募集しているのに気付き、顔を見合わせて共に歩き出す。
「今からみんなで取り敢えず大型のゴミをリヤカーまで運ぼうかって話になってさ。リヤカーまで運ぶ組と、リヤカーでゴミ捨て場まで運ぶ組に分かれてね。残りのゴミはバケツリレーで運んで行こうって、翠雨さんが」
ナイスアイディア!
さすがウィンクルム!
若者たちからあたたかなヤジをもらい、カメラを首から提げて作業していた翠雨が照れ臭そうに肩を竦める。
ゴミ捨て場までの道に詳しい若者が、浜辺からリヤカーを牽く役割を担ってくれることになった。
空気の抜けたバナナボートから、三輪車から、冷蔵庫まで。
浜辺に生息する大型のゴミは多種多様に及ぶ。
「ゴミ、色々あるなぁ。……あ」
いつきの青い瞳が捉えたのは、
「カカシだ」
斜めに突き刺さっているカカシだった。
おっかなびっくり近づいて、状態を確認する。
身に纏う着物や帽子こそぼろぼろだが、へのへのもへじの顔は然して汚れてはいない。
脇の下に両手を差し込み、えいやっと引っ張り上げる。
呆気なく抜けたカカシは予想よりも重く、いつきはそのまま後ろに転――
「大丈夫?」
ばなかった。
己の精霊とはまた違った美しさを持つ青い髪のセラフィムにしっかりと背中を支えられたまま、いつきは安堵して息を吐き出す。
「ありがとう。助かったよ」
「ううん、怪我がなくて良かった。それにしてもカカシとはね……僕も運ぶの手伝うよ」
リヤカーまで、と歩き出すセラフィムの裾を掴んで引き留め、いつきは悪戯っぽく口角を上げた。
「ねえ。これ、綺麗にしたら海の家で使えないかな。看板持ちっていうか、マスコットキャラっていうか」
「……。ナイスアイディア再び、だね」
短く笑い合い、ふたりはカカシを目下修繕中の海の家へと運ぶ。
オーナーに事情を話せば、朝一番に翠雨が喰らった情愛のパンチを同じく背中に浴びせられ、セラフィムは苦笑し、いつきは大袈裟に痛がった。
さあ作業に戻ろう、と一歩踏み出しかけたいつきの視界の端に、風に揺れる三つ編みが映る。
ちょっとごめん、と一言置いて店へと小走りに駆ける背中を微笑ましく見送るセラフィムの帽子に、上からことん、と何かが降って来た。
足元に落下したそれは、塩キャンディ。
摘まみ上げて上を仰ぐと、屋根の上で手を振るタイガと目が合った。
「セラー! 水分きちんと取って体調悪くなったら休めよー!」
「危ないから! わかったからタイガこそ抜かりなくね!」
「了解!」
危険な場所だというのにぶんぶんと手を振るタイガに慌てて注意を促し、先程よりも格段に熱くなった顔を帽子の鍔で誤魔化す。
誰もに聞こえる声で心配されるのはたいそう恥ずかしいが――しかし、悪い気はしなかった。
大型のゴミも消えると、浜辺は格段に綺麗になった。
集めた小さなゴミもバケツリレーで運び出し、途中ユズリノに頼まれ道路に停めてあるトラックから海の家へと真新しい資材をも運び、蛇遣座はさすがに疲労の色の濃い溜息をついた。
ゴミを拾いながら何かを拾ってはポケットに詰めていたいつきが投げて寄こしてくれた冷たいペットボトルを片手に、再度木陰に避難する。
「オーフィ。今日はやけに頑張るじゃないか」
それに、とても楽しそうだ。
その声は、蛇遣座の耳に既に良く馴染んでいる近しい音だ。
閉じかけていた瞼を上げ、音もなく隣に座ったミッチェルの精悍な顔を見遣る。
「ああ、いい人たちばっかりだからかな」
「確かに。それにみんな、働き者だし」
「バケツを運んでいるときに教えてもらったが、翠雨さんは骨董店を営んでいるらしい」
「うん。機会があれば、那音さんの農園の知識を分けてもらいたいよ。妹に、いい手紙が書けそうだ」
「それは何より」
会話はそこで途切れ、ふたりの肌を爽やかな風が撫でていく。
(今日のオーフィはいつもより顔が怖くないな)
(今日のミッチェルはいつもより眩しく見える)
互いにそんなことを思い、そしてそれをどこか喜ばしく感じて、黙ってスポーツ飲料で喉を潤す。
昼を少し過ぎた頃。
大方の運搬作業を終え、あとは瓶の欠片などの細かいゴミを浚っていく最終作業に取り掛かる。
セラフィムを始めとした幾人かには、オーナーと共に昼食の準備に取り掛かってもらうことにした。
軍手からゴム手袋へと装備を変えた翠雨は、躊躇なく砂の中へと右手を差し入れた。
その華奢な手首をすぐさま掴み、慎重に手を抜かせるのは、呆れを滲ませた那音である。
「何故、何でも手掴みにしようと……ゴム手袋でも防げないものもある。好奇心は結構だが、怪我は未然に防いでこそだ」
「確かにそうだ」
素直に聞き入れる翠雨に熊手とゴミバサミを手渡す。
「まず、こう……熊手で砂をかき分けて、ゴミがあるようならこれで掴むんだ。手掴みは厳禁。怪我でもして写真が撮れなくなったら困るだろう」
実演を交えて説明してやると、写真、の言葉に翠雨の額が少々翳る。
「相変わらず、俺は人を撮るのが苦手でな……」
どうした、と尋ねるより先に、歯痒そうにそう打ち明けられ、那音は押し黙る。
景色であれば。
いつ眺めてもその瞬間の思い出が蘇るような写真にすることは得意だが、翠雨は昔から人物にカメラを向けることを不得手としていた。
今日撮った何枚かの人物写真も、現像せずとも酷いピンボケになっているのが分かる、と。
俯いて熊手を動かす翠雨の肩に、那音はそっと手を置いた。
「人も、景色の一つと見立てて撮ってみたらどうだ? どちらが欠けても未完成になる、広い景色の内の一部だと」
静かに瞠目し、胸中で那音の言葉を反芻したあと。
拾ったガラスを太陽に透かして眺めているいつきの後ろ姿に、レンズを向ける。
撮る。
「撮れた」
呆気なく。
何枚も、何度もシャッターを押してきた翠雨は、今の一枚は手ぶれもピンボケも起こしてないことなど手に取るように実感出来た。
撮れた、ともう一度呟き、たっぷりと幸福に満ちた笑みを微かに浮かべる翠雨につられて頬を緩ませれば、
パシャリ。
「あ」
「前から、那音なら単独でも撮れてたんだ。……ありがとう」
笑みと共に送られた言葉の真意が読めず、いきなり撮影されたことに対する小言を口にすることも叶わずに、那音は内心で嘆息する。
●日曜限定大工さん
作業に入る前にレーゲンが主となって計画と方向性を定めたおかげで、修繕は順調に進んでいた。
大工見習いでもあるタイガは、危険な屋根での作業を率先して引き受け、愛用の道具と共にひたすら仕事に打ち込んだ。
一度、何故かいつきと共にカカシを運んできた大切な神人と短く言葉を交わしてからは更にやる気が漲り、水分補給をする以外はほとんど休まずに働き――ユズリノにしっかり休憩しろと叱られたりもしつつ、派手に穴の開いた屋根を、元よりも数倍耐久性のあるものへと進化させた。
(大工と言った以上、生半可な仕事は出来ねぇ。やるぞ!)
真面目に金槌を振るう姿を見上げたセラフィムが密かに応援していたことを、タイガ本人は知らない。
「うん。順調だ」
中から外から、こまめに作業を確認し、乞われれば的確に指示を出すレーゲンは、タオルで汗を拭って一息ついた。
店だけでなく、傷んでいる内装や家具をも丁寧に直していく。
直すだけではなく、二度と壊れないように全体の強度を増す、というのが目標である。
ひとつのゴールに向かって突き進む面々のコミュニケーションも円満で、今もシャーマインは地元の若者と協力して天井に近い壁に備え付けられた棚を直している。
「さて」
取り掛かっていた椅子の脚部分の補強を終え、レーゲンは半端に余っている木材を一枚、手に取る。
『レーゲン。頼みがあるんだけど』
一時間ほど前に、カカシを連れてやって来たいつき。
どんな内容であれ、パートナーから頼られることの充足感といったら。
カカシに見守られながら、レーゲンは電動ノコギリの電源を入れた。
ユズリノは主に、資材や道具を運んだり、ペンキを塗り直したりといった軽作業をこなしていた。
釘で怪我をした若者がいれば手当してやり、時計を見ては水分を配り、最初から全力なタイガを叱り、野外での作業に慣れていなさそうなセラフィムやミッチェルを気にかけたり。
旺盛な好奇心で以て、たいそうな働き者となっていた。
一方のシャーマインはその体格を活かし、重量のあるものを主に運んだあとは、脚立に乗って天井付近の修繕を請け負っている。
一見別々の場所で別々の作業をしているふたりだが、シャーマインは脚立の上からそっとユズリノの動向を気にしていた。
ほんの数回だが、ふたりの視線がかち合うこともあった。
その度に、はにかむように笑ったり、親指を立てたりと、会話こそないものの、ユズリノとシャーマインはそうして気力を充填させて実に良く働いている。
そんな折、作業に入って初めて、ユズリノがシャーマインに声をかけてきた。
「今、レーゲンが笑顔で電動ノコギリ持ってたんだけど。何かいいことあったのかな」
メジャーを首に掛け、シャーマインは数秒考え込む。
「……水着の美人に話しかけられたんじゃないのか?」
「違います」
「「!」」
大真面目に嘯いたシャーマインも、そしてユズリノも、突然背後から否定されて飛び上がらんばかりに驚いた。
勢い良く振り返れば、そこには依然電源が入ったままのノコギリを持つ笑顔のレーゲンが。
((こわっ!))
「そろそろ昼食にしよう」
一貫して優しげなレーゲンの言葉に、ふたりはぎくしゃくと頷くことしか出来なかった。
●海辺の醍醐味
焼きそばだったり、アメリカンドッグだったり、色とりどりのかき氷だったり。
海水浴に来て海の家で買う食べ物は、文句なしに思い出に華を添えてくれる。
だが残念ながら、本日お集りの皆さんは海水浴に来ているわけではない。
海の家も、八割方修理が終わったとはいえ、まだまだ開店出来るレベルではない。
けれども、浜には香ばしいソースの香りが漂っている。
無事だった鉄板で、オーナーが焼きそばを作ってくれたのだ。
八百屋の主人はきんと冷やしたトマトときゅうりを差し入れてくれた。
テーブルもレジャーシートもないが、割り箸と皿を持ち、皆は胃袋も心も満ち足りた気持ちになっていた。
「セラ、あちぃのにあんなに楽しそうに焼きそば作って……参加して正解だったなあ」
「見ろよ、あそこで甲斐甲斐しく水を配るリノをよ。うちの嫁は働き者だ」
お互いいいパートナーを持てたな……と、麦茶が入った紙コップで乾杯するのは、タイガとシャーマインの両名である。
「これほど立派なきゅうりを作るには、やはり……」
「まず土だ。収穫期を遅らせて様子を見たり……」
差し入れの野菜に舌鼓を打ちながら、那音とミッチェルは真剣に話し合っている。
なるべく全員に行きわたるよう、一口サイズにカットしたスイカを食べるいつきの腕に、レーゲンが日焼け止めを塗り直していた。
人物を撮ることへの苦手意識を克服した翠雨の、カメラを構える顔はどこか晴れやかだ。
午後になり、暑さはいっそう強くなるばかり。
「はーい! みんなもう少し頑張ろうね」
ユズリノが、蛇口からひいてきたホースから冷水を振り撒いた。
タイガとシャーマインが、いの一番に水浴びに参加する。
翠雨は慌ててカメラを庇い、水をかけられた蛇遣座は咄嗟に状況が把握出来ず、濡れた髪できょとんとする。
●お疲れサマー
夕方になっても、夏場の日は長い。
何事もなく、無事に、ボランティアは大成功に終わった。
「お疲れ。どうだった?」
今日一日でずいぶんと日に焼けたように見えるタイガを一瞥し、セラフィムは帽子を取った。
「お疲れ様。なにもかも新鮮だったよ。こうして綺麗になった砂浜を見ていると、僕も何かしら貢献出来たかなって、」
「出来たに決まってんだろ!」
大きな声で断言され、数回瞬いたセラフィムは堪えきれずに噴き出した。
「うん、ありがとう。タイガも悔いのない仕事が出来たみたいだね」
こんなにも焼けちゃって。
腕を撫でるセラフィムの指の細さに、熱中症よりもたちの悪い熱を感じたタイガは、目の前の海に飛び込みたくなるのを必死に抑えるばかりだった。
そこから少々離れた浜辺を、手を繋いで歩く人影が、ふたつ。
「人の中で働けて、嬉しかった」
「これからも、いろんなことを一緒に経験していこうな」
ユズリノはシャーマインの肩に頭を預けて寄り添う。
横顔の輪郭にさえ愛しさが募り、シャーマインも、こつん、と頭を倒して距離を埋めた。
どちらからともなく、お疲れ、と相手の働きを讃える。
大切な時間を過ごすウィンクルムに、翠雨は決してカメラを向けたりはしなかった。
あれは、彼らだけの思い出とすべきだ。
「カメラを貸してくれないか」
並んで砂浜に座っていた那音から思いがけない頼み事をされ、首を傾げながらも素直に渡す。
「翠雨さんは、今日たくさんの写真を撮った。だが、どの一枚にも翠雨さんが映ってないだろう?」
翠雨自身が写っている写真が果たしてこの広い世界に存在するのか。
記憶を持たない翠雨には答えられない。
「私に――俺に、撮らせてくれないか。上手く撮ってやれないかもしれないが」
記憶はないが、翠雨には寄る辺がある。那音がいる。
「……。男前に撮ってくれよ」
三脚を買おう、と翠雨は思いついた。
近い内に、那音とふたりで写る写真を残そう、と。
顔いっぱいに、不器用に笑顔を刻んで。
簡単に挨拶を済ませ、ミッチェルと蛇遣座は一足先に浜辺をあとにした。
「夕方になっても涼しくはならないな」
そう呟く蛇遣座は、くたびれながらもどこか満足そうだ。
その背中を、労うように叩く。
「いい経験になっただろう?」
「それは否定できない」
前を見据えたまま即答する様子に目を細め、腕を下ろしかけ――ミッチェルはそのまま、袖から除く白い手首を掴んだ。
「ひんやりしてる」
蛇遣座の腕、手首、甲、と順に指の腹で撫でたミッチェルはそれだけ言って、すたすたと歩く。
屋敷で飼育しているペットの鱗を思い出し、蛇遣座も足を止めずについていく。
蛇は、変温動物だ。体温は外部の温度によって変動する。
――誰かの熱に引き摺られる。
(まあ、私には関係のない話だが)
「ご褒美にトマトを買ってあげようか?」
ぶんぶんと頷くミッチェルと、それぞれの帰るべき家へ。
真新しいTシャツと麦わら帽子を与えられたカカシは、なんとなく誇らしそうに見えた。
首から提げているのは、いつきが頼み、レーゲンが作った看板である。
店の入り口付近が、カカシの就職先だった。
カカシは、貝殻で作ったイヤリングだのボタンだの、流れ着いていたアクセサリーだので綺麗に飾り立てられていた。
ゴミ拾いをしながら、目ぼしいお宝をしっかりと集めておいたいつきの仕業である。
「このカカシ、お洒落にしてもらって照れてるね」
「でしょ。はい、頑張ったレーゲンにご褒美」
いつきがそっと渡してきたのは、どこも欠けていない綺麗な綺麗な貝殻だった。
レーゲンの親指の爪ほどの大きさのそれは、濁りのない白色をしている。
「それ、今日見つけた貝殻の中で一番綺麗だったんだよ」
レーゲンは、大切にするよ、と呟くのが精々だった。
(ボランティアのつもりだったけど、いいご褒美がもらえたな)
貝殻自体も嬉しいが、何よりもレーゲンを幸福の海に沈める要因は、どんな場合でも自分を喜ばそうとしてくれるいつきのその存在だ。
大切にするよ、と再び言い重ねると、いつきはにっこりと笑った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:信城いつき 呼び名:いつき |
名前:レーゲン 呼び名:レーゲン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | ナオキ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月09日 |
出発日 | 07月17日 00:00 |
予定納品日 | 07月27日 |
参加者
- 信城いつき(レーゲン)
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- ユズリノ(シャーマイン)
- 歩隆 翠雨(王生 那音)
- ミッチェル・オスマンサス(蛇遣座)
会議室
-
2017/07/16-23:56
-
2017/07/16-11:39
:タイガ
>カカシ
おおお!!やるならどんな風になるか楽しみにしてるぜー!呟いてよかった
本番プランも送信っと。大工見習いの腕が鳴るな。当日は皆がんばろうぜ!
セラ「どうぞよろしくお願いいたします」 -
2017/07/16-11:32
:タイガ
>ユズリノ
>レーゲン
二人ともサンキュ!!すっげ安心した!
まあ大工といってるし気持ちは行動にでるもんだしなくても大丈夫かとは思ったが、
言葉をもらえると違うな♪
レーゲンは確認もありがと!「修理」スキルは興味あったから違いもわかって今後とりてぇと思った
>ホース水浴び
夏らしくて好きだ(笑)やるなら歓迎
>ミッチェル
初めては誰もが通る道ー!と。セラが「僕もゴミ拾いは始めてだから一緒に頑張ろう」ってさ
>バケツリレー
文字数がアウト……でも交流歓迎してっからもしかしたらできるかも -
2017/07/16-01:03
皆、ありがとな!
遠慮なく写真を撮らせて貰うぜ。
皆の雄姿、格好良く撮るからな♪
拾ったゴミを効率的に運ぶため、バケツリレーを提案してみるつもりだ。
もしよかったら手伝ってくれる人が居たら、嬉しいぜ。
よーし、頑張ろうか! -
2017/07/15-22:13
すまない、遅くなってしまった。
俺達はゴミ拾いの方をやらせてもらうよ。一緒の人はよろしく頼む。こちらに何か不手際があったら突っ込んでもらえるとありがたい。
…というか、実はこれが初仕事で勝手がわからないんだ。だから指示や意見があったらどんどん言ってほしい。絡みも大歓迎、と言うかこちらからお願いしたいくらいだよ。
とにかく精一杯やってみる。当日は暑くなると思うけど、みんな体調には気を付けてな。
-
2017/07/15-11:33
レーゲン:
>タイガ
日曜大工はレベル3の時点で「修繕がプロレベル」らしいから
そのままで全然問題ないと思うよ
私もスキル確認し直したら(女性用掲示板)
修理は、家財も対象だけど どちらかというと車や武器とかの特殊なものに対してのスキルみたいだ
(私は時計修理で精密機械修理の仕事があるから取ってた)
それに屋根の高い所の作業はタイガ慣れてそうだって思ってたから、頼りにしてるよ
>カカシ
なるほど店先に立たせるのいいかも。
それなら海で拾ったものでできそうだしね
直すだけじゃ無くてプラスアルファを付けたかったから、
それで考えてみようかな -
2017/07/15-02:12
シャーマイン:
>火山さん
いや、この場合修理スキルより日曜大工スキルの方が有効なスキルだと思う。
両方あれば尚いいだろうが、「日曜大工4」もあれば文句ないと俺は思うんだが。
ぶっちゃけスキルなくても何とかなるだろうしな。 -
2017/07/15-01:44
:タイガ
>写真
俺らも大歓迎!バンバン撮ってくれえ!ビフォーアフター楽しみだな!
>修繕
!!ごめん……今気づくとか俺もびっくりなんだけど、「修理」てスキルあったんだな(汗)俺とってない
代わりに「日曜大工4」はある。大工の言葉が出てるしこれが関係すると思ってた
なるほど修理か
……だ、大丈夫だろ!だめなら木材運びとか頑張るし!
俺もレーゲンの指示に従っとく!助かる!現場責任者がいるならそっちの意見も聞こうとはおもってるぞ
>カカシ
使うって面白ぇアイディアだな♪
浮き輪を装備させて「リニューアルオープン海の家」ってプレート持たせて店先に立たせるのが、パッと浮かんだ(笑)
写真とかけて店ん中にインテリアとして置くのもありかもな~。やりようによっちゃ
兎にも角にもプラン大幅に見直さないとな…… -
2017/07/14-22:21
シャーマイン:
>レーゲンさん
お! ありがたい。
こっちも教示受けるってしとくな。 -
2017/07/14-07:25
レーゲン:
>シャーマイン
修繕の件は了解。
最初に建物の状況を確認して、どういう風に修理したらいいかみんなに教える形にするよ
>那音
写真撮ってもらうのもかまわないよ(私もいつきも)
よろしくお願いするね -
2017/07/13-12:37
シャーマイン:
>写真
俺達は特にNGはないから問題ない。
他の方の行動にも加われるようにプランに「巻き込まれ歓迎」って入れとく。
>信城さん
もしお願いできるならレーゲンさんに、俺達(と近所の若者達)に修繕の仕方についてご教示願えるとありがたい。
俺のスキルは修理2だから少々知識も技術も心許なくてな。
ユズリノは修繕補助しつつ熱中症対策を何か考えてる。
近所の若者達の事もフォローしたいから、ホースで水浴びとか? -
2017/07/13-01:18
那音:
私から翠雨さんの発言の補足を。
ゴミ拾いがメインなので、写真の件は不採用も視野に入れています。
諸事情で写真に写りたくない方もいらっしゃると思うので、その場合はここで発言いただけましたら、
映さないよう、こちらでプランにその旨を入れさせて頂きます。
どうぞ、お気軽に仰って頂けますと助かります。
作業は大変だと思いますが、無事に乗り切りましょう。 -
2017/07/13-01:14
-
2017/07/13-01:13
歩隆翠雨だ。相棒は那音。
皆、よろしくな!
俺達はひたすら浜辺をゴミ拾いするつもりだ。
んでもって、ビフォーアフターを写真に撮ろうと思ってる。
出来れば、皆が作業している様子も写真に撮りたいなと…人を撮るのはちょっと苦手なんだが、頑張ってる姿、収めておきたいなと。
それでその写真を海の家に飾って貰えたら素敵じゃないかと思う次第だ。
うーん、文字数が敵になりそうだぜ…!
がんばろうな! -
2017/07/13-00:36
信城いつきと相棒のレーゲンだよ。よろしくね
レーゲンもスキル持ちなので、修繕の方へ行くって。
屋根や壁の修理にシャーマインやタイガが行ってくれるなら、机や椅子とか細々としたものを直そうかなって言ってる。もちろん手が必要な必要な時は協力するよ
俺はゴミ拾いの方へ。カカシまで流れてきてるんだね、これ何かにつかえないかなぁ…
暑くて大変そうだけど、みんな頑張ろうね。 -
2017/07/12-23:29
:タイガ
俺タイガと神人のセラだ。よろしくなー!ひっさびさな気分~♪
俺は修繕にいってる。大工見習いだからたぶん屋根に上ってトンテンカンかな?
セラはゴミ拾い。初めてだから手際悪いかもしれねー。「でも頑張る」とよ
俺らも交流大歓迎だから当日あったらよろしくなー!とりあえず仮プランは送信完了っと☆ -
2017/07/12-19:36
シャーマイン:
ユズリノとシャーマインだ。
よろしく。
俺が修理スキル持ってるから俺達は海の家の修繕をしようかと思ってる。
多分壁修理。
一緒の人がいればよろしくな。
絡みは歓迎だ。 -
2017/07/12-16:45
よろしくお願いします。
-
2017/07/12-07:05