雨音響かす幸せの傘(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●雨の町とハッピー・アンブレラ
「えっと……なになに? 『雨降り止まぬ町ポルティカで、大切な人と相合傘デートはいかがですか?』」
ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、メモを読み読み言葉を紡ぐ。顔を上げれば、青年の顔には、話題に似合わない晴れ空のような笑顔。
「ポルティカはね、どういう気流の影響か、ほとんど一年中雨が降り続いている町なんだって。それから、ポルティカには傘の町って呼び名もあってさ。丁寧な造りの傘で有名なんだ。職人さん手作りの傘は、ちょっと手が出しにくいお値段な上に常に予約待ちみたいな状態らしくて手に入らないんだけど。でも、町には傘を貸してくれるお店があるよ」
何故わざわざ、雨の降り続ける町に出かけて傘を借りなくてはいけないのか。ウィンクルムたちの疑問を感じ取ったように、青年は言葉を次ぐ。
「ポルティカにはある言い伝えがあってね。ハッピー・アンブレラで相合傘をして雨の小道を行けば、その2人に幸せが降り注ぐって、言われてるんだ」
ハッピー・アンブレラとは、傘の中に入った人が明るい気持ちになるようにと、趣向を凝らして作られた傘。傘の内側にささやかな魔法が施されていて、傘の外は雨模様でも、頭上を見上げれば、そこには気持ちのいい青空が広がり小鳥が囀りながら空を飛んでいたり、或いは、澄み切った夜空に、数え切れないほどの星が宝石のように瞬いていたり。空だけではない。見上げればそこには美しい花畑が広がっていて、幻の花びらがふわりと散り、手のひらの上で雪のように溶けたりも。
そして雨の小道とは、様々な青色の煉瓦を敷き詰めた美しい煉瓦道。道の端には色とりどりの紫陽花が花開いているそうだ。雨の小道は町をぐるりと一周していて、そこをハッピー・アンブレラで相合傘をした状態で廻り切れば、2人に幸せが訪れるのだとか。
「どう? ちょっと面白そうじゃない? たくさんのハッピー・アンブレラの中から特別な一本を探すのも、雨の小道を散策するのも」
だから、雨を楽しみにいきませんか? と青年ツアーコンダクターは笑った。

解説

●今回のツアーについて
雨の町ポルティカを満喫していただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(ハッピー・アンブレラのレンタル料は別料金となります)
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に村へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。
夕方にはバスが出ますので、夜の描写は致しかねます。ご注意ください。

●ハッピー・アンブレラについて
詳細につきましては、プロローグをご参照願えればと思います。
ハッピー・アンブレラを貸し出してくれるお店の名前は『雨のワルツ』。
雨の小道の入り口付近にあるお店で、傘のレンタル料は1本50ジェールです。
選んだハッピー・アンブレラがどのようなものかをプランにご記入いただきますと、リザルトノベルに可能な限り反映させていただきます。
ご指定のない場合は、こちらで傘を選ばせていただく場合がございますのでご注意くださいませ。

●雨の小道について
概要はプロローグをご参照願えればと思います。
町の周りをぐるりと一周する青の煉瓦道は入り口から出口まで一方通行となっており、人とすれ違うことはありません。
雨音も手伝って、傘の中は完全に二人きりの空間。
小道を回り終わるまで、幻想的な傘の世界ととりどりの紫陽花を楽しみながら、二人だけの時間を満喫していただければ幸いです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなります。お気をつけくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

そろそろ雨の季節ですね。素敵な傘を見つけると嬉しくなります。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  雨のワルツ店内、様々な種類に目移り
同行者さん達がどんなのにしたか会話したり
その中、吸い寄せられるように一本を手に
「うん……これ、にしよう…」

雨の小道
精霊に何故この傘を選んだか聞かれれば突如駆け出し
紫陽花の前で天を仰ぎ雨に打たれながら
「あの日も…そんな、お天気雨、だった気がする…んだ…」
あまり覚えていない、けど… 向き合わなきゃ、と思って
大丈夫、泣いてはいない、よ

躊躇いつつ視線まだ下げたまま再び傘の中へ
顔を上げるとお天気雨の空に虹が
「わ、ぁ…。うん…今は、『あの時』じゃ無い…ヒューリ、ありがとう」

今だけ、この小道が終わるまでだけ…いい、かな
この温もりから、向き合う勇気を忘れない為に…


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●ミッドランド知識使用
ポルティカか…素敵な町だったからもう一度行きたいと思っていたんだよね
…降矢さんを誘ってみようかな
きっと、穏やかで素敵な一日になると思うんだ

●傘の希望
大きな金の満月が昇り
小さく星が煌めく
優しい夜の風景


ハッピーアンブレラは折角だから借りよう?
幾つか手に取って…
あ、これ…
降矢さん、どんな反応を見せてくれるかな

お待たせ、降矢さん
…歩こっか?
早速傘を開いて…
わあ…やっぱり素敵だね…!

夜空と雨音に包まれて紫陽花の小道を歩く

実はね、あの満月…降矢さんの瞳に似ていると思ったんだ
他の傘も素敵だったけれどこれしかないって思っちゃったんだ
あはは、柄にもなかったかな?
でも、本当にそう感じたんだよ



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:
【傘選び】
ロジェ様が、ハッピーアンブレラをひとつ、借りてくださるそうです。
嬉しい…で、では、この『満天の星空が浮かぶ傘』でも良いですか…?

【散策】
ふふ、私、雨が好きです。雨は景色を彩ってくれるから…
星も好きです。星は夜を優しく包み込んでくれるから…
ど、どうしよう…ロジェ様と私は身長差があるから、大き目の傘を
選ばなければならなかったのに、間違えて小さい傘を選んでしまいました…。
ごめんなさい、ロジェ様…傘にはロジェ様が入ってくださ…えっ、えっ?
ロジェ様、それではロジェ様の肩が濡れてしまいます…!
そ、そんな…うぅ、胸の鼓動が、このままではロジェ様に聞こえてしまうわ…



Elly Schwarz(Curt)
  【心情】
最近気付いたんですが
僕達って、他のウィンクルムの方より仲悪い気がするんです。
この前も結局邪険にしてしまいましたし、神人として絆を深めたいですね。

【行動】
花が好きなので
クルトさんも嫌がらなそうな、花の傘をレンタルしたいです。
例の噂がある雨の小道を歩きましょう。って、あ、あの……?

い、いくら傘が差しづらいとは言え、これは……っ
(ハッ!これではいつもと同じです。仲がこじれるような反応はダメ、ですよね。
今は彼に慣れる為にも耐えましょう!)

な、何でもないですよ?行きましょうか!
それにしてもやはりクルトさんと距離が近いです……。

【ハッピーアンブレラ】
大きめの紫の傘。裏側には月下美人が描かれている。



イフェーネ・サヴァリー(レイノル)
  一年中雨だなんて不思議な街もあるのですね
素敵な傘もあるようですし満喫しましょうね

傘はどれにしましょうか
色々な種類があって迷ってしまいますね
レイノルは何か気になったものはありましたか?
まあ、それは素敵ですね!ではそれにいたしましょう

相合傘は恥ずかしいですが豪に入っては豪に従えとあります
そういうものだと割り切っていきましょう
トランスするのと傍に寄るのとどちらが恥ずかしいですか?
勿論前者ですね
分かりましたら詰めますよ
このままでは風邪を引いてしまいます

何だか改めて状況を考えると恥ずかしくなってきましたね
まるで世界に2人だけしかいないようです
距離は近いですが雨の音が鼓動を隠してくれるといいのですけど…



●夜闇に咲く月下美人
「最近気付いたんですが、僕たちって他のウィンクルムの方より仲悪い気がするんです」
『雨のワルツ』店内で魔法の傘を吟味しながら、Elly Schwarzはごく淡々と言った。
「この前も結局邪険にしてしまいましたし、僕も神人として絆を深める努力をしようと……って、聞いてますか、クルトさん?」
名を呼ばれて、初めてCurtが「あ?」と気だるげにエリーの声に応じる。
「何か言ったか? つーか、そんなことはどうでもいいから早く傘選べ。ここの傘、やたらに絵が動くから目がチカチカして仕方ない」
「な、何と情緒のないことを……!」
がく然とするエリーを尻目にクルトは退屈だと言わんばかりに欠伸を一つ。
「いいから、とにかく早く選べ」
「はぁ。わかりましたよ……」
応えて、花が好きなエリーは、花柄の傘のコーナーで1本の傘を手に取る。大きめサイズの紫色の傘の内側には、夜闇の中咲き誇る純白の月下美人。華やかながら品のある一品だ。
(これならクルトさんも文句を言わないでしょう)
うんうんとひとり頷いて、エリーは店の奥にいる店主を呼んだ。

「それでは、例の噂がある雨の小道を歩きましょう」
店の庇の下でエリーが意気揚々と言えば、クルトは呆れたようなため息を零す。
「今更だが……解ってるか、俺たちの身長差。56センチだぞ?」
「うっ……」
そこまで考えていなかったと黙り込むエリーに、クルトは黒い笑みを向けて。
「まぁ、俺が傘持って、くっついてれば大丈夫だろうが」
言ってクルトはエリーの手から奪った傘を広げると、中に入るようエリーに目で指図した。エリーが素直にそれに従えば、クルトはごく自然な動作で彼女の肩を抱き寄せて。
「って、あ、あの、いくら傘が差しづらいとはいえ、これは……」
そこまで言ってしまった後、エリーははっと気づく。
(これではいつもと同じです! 仲がこじれるような反応はダメ、ですよね。今は彼に慣れるためにも耐えましょう!)
胸の内に固く誓うエリー。そんな彼女へと、クルトが怪訝な顔を向ける。
「? 何か言ったか?」
「な、何でもないですよ?」
何でもないとは言うものの、エリーは明らかに挙動不審だ。元々クルトだって、エリーは全力で拒んでくるだろうと思っていたのだが。
(今回はやけに大人しいな。まあ、また真面目なこと考えているんだろうが)
ならばそれはそれで好都合だと、クルトは人の悪い笑みをそのかんばせに乗せる。
(じゃあお言葉に甘えて、この体勢で街を巡るとしようか)
そうして、2人は雨の小道を歩き始めた。が、俯いて歩くエリーの視界に入るのは青煉瓦の散歩道だけ。
(それにしても、やはりクルトさんと距離が近いです……)
照れと緊張とで、エリーには周りを見る余裕はないのだった。一方のクルトは、雨の小道の特別な時間を満喫する。色とりどりの紫陽花や魔法の傘に目を輝かせるような性質ではないが、今日はすこぶる気分が良かった。
「幸せが降り注ぐ……か。まぁ、2人きりの空間は悪くない。この距離感も、な」
だからつい、柄でもないような台詞も口をつく。驚きに、エリーがやっとクルトの顔を見上げた。
「クルトさん……?」
「いつもは意地悪ばかりだが、俺はいつでもお前を振り向かせたいと思ってるぞ?」
それは、雨音に囲まれた2人きりの空間だからこそ生まれた言葉かもしれなかった。エリーが目を見開き、2人の間に寸の間の沈黙が落ちる。と。
「急に妙なことを言い出さないでください。熱でもあるんじゃないですか?」
日頃の悪行が祟ってか、本気にされないどころか風邪の心配までされるクルト。
「……お前なぁ。疑っているのか?」
「疑うというか……性質の悪い冗談だなぁと」
やっぱり疑っているんじゃないか。クルトはため息をついた。
「これだから鈍感は……」
「? 何か言いましたか?」
「……何でもない」
疲れたように呟くクルトと、不思議そうに首を傾げるエリー。
2人のことを、満開の月下美人が見守っていた。

●満月の色夜の色
「ポルティカ。素敵な町だったから、もう一度行きたいと思っていたんだよね」
折角だから傘を借りようと訪れた『雨のワルツ』の庇の下にて、様々な場所を旅していた過去のある日向 悠夜は懐かしいような気持ちで雨の匂いを嗅ぐ。傍らでは、降矢 弓弦が町の景色を見やり口元を綻ばせて。
「雨降り止まぬ町、か。良い響きだね。それに、悠夜さんの言う通り素敵な町だ」
目を細める弓弦を見て、悠夜はやはり彼に声をかけてみてよかったと思う。このツアーの話を聞いた時、悠夜の頭には弓弦の顔が浮かんだ。誘ってみようとそう思った。きっと、穏やかで素敵な一日になると思ったから。
「……そうだ、悠夜さん」
弓弦がおっとりと言った。
「傘は悠夜さんが選んでくれないかい? 僕は外で待っているからさ」
「わかった。降矢さんがそう言うなら」
笑み返して、悠夜は店内へと入る。とりどりの傘の中から幾つか手に取り見定めて――悠夜はやっと、その1本に出会った。
「あ、これ……」
開いた傘の内側を見て、悠夜の顔には自然と笑みが浮かぶ。
「降矢さん、どんな反応を見せてくれるかな」

「お待たせ、降矢さん」
声をかければ、振り返った弓弦が笑った。
「おかえりなさい。悠夜さんどんな傘を選ぶのかなって、わくわくしてたんだ」
傘は僕が持とうかと、悠夜の手から傘を受け取る弓弦。雨の町へ向けて傘を開けば、広がるのは優しい夜の景色。大きな金の満月が昇り星たちが煌めく晴れの夜空は、吸い込まれそうになるほど美しい。
「わあ、やっぱり素敵だね……!」
微笑み呟く悠夜の隣で、弓弦も感嘆のため息を漏らして。
「あぁ……とても、綺麗だね。暖かみのある濃紺の月夜……凄く、幻想的で美しい……」
こんな魔法に包まれると話も弾んでしまいそうだと、悪戯っぽく弓弦は笑み零した。その反応に、悠夜は嬉しくなる。
「それじゃ、歩こっか?」
「うん。行こう、悠夜さん」
そうして2人は、紫陽花咲き乱れる雨の小道を歩き出した。雨音と柔らかな夜空が2人を優しく包む。
「悠夜さん、雨は好きかい?」
細かく降る雨を手に受けて、弓弦が言う。
「僕は好きだよ。雨音に耳を傾けながら本を読んでいると、頁を捲る指も軽やかになるんだ」
楽しそうな弓弦の言葉に耳を澄ませていると、悠夜の目元も自然柔らかくなって。
「そういえば」
弾むお喋りの合間に、ふと弓弦がその顔を悠夜へと向けた。
「悠夜さんは何故この傘を選んだんだい? もっと色彩豊かな物を選ぶんじゃないかなって思っていたんだけれど」
不思議そうに首を傾げる弓弦に、悠夜はそっと笑いかける。
「実はね、この満月が……降矢さんの瞳に似ていると、思ったんだ。他の傘も素敵だったけれどこれしかないって思っちゃってね」
悠夜の言葉に弓弦は目を見開き――落ち着かない様子で口元を抑えた。その耳が、仄か朱に染まっている。そんな弓弦を見て、悠夜はころころと笑い声を漏らした。
「あはは、柄にもなかったかな? でも、本当にそう感じたんだよ」
ほんとだよ、と相棒の満月の瞳を見つめて言えば、彼はそっとその双眸を細めて。
「……僕は、この夜の色に悠夜さんを見出したんだけどな」
雨音にかき消されそうな小さな呟きは、それでも確かに悠夜の耳に届いた。けれど、悠夜はその言葉に気づかなかったふりをする。ありがとうだなんて言おうものなら、弓弦はきっと真っ赤になってしまうだろうから。
「今日はいい日だね」
代わりにそう零して、悠夜は頭上に広がる夜の空を見上げる。そこには相変わらず、全てを見守り包み込むような柔らかな満月が浮かんでいて。
(私の直感も、なかなかあてになるね)
2人で過ごす雨の町の一日は、彼女が思った通りに穏やかで素敵なものになったのだった。

●兎が跳ねる花畑
「一年中雨だなんて不思議な街もあるのですね」
『雨のワルツ』にて。折角の機会ですから満喫しましょうねとにこやかに言うイフェーネ・サヴァリーに、レイノルは曖昧な生返事で返した。
「傘はどれにしましょうか……色々な種類があって迷ってしまいますね」
イフェーネは花に止まる蝶のように、ふわふわと楽しげに店中の傘を見て回る。
(女ってこういうの好きだよなあ……)
欠伸を噛み殺しながらレイノルはそんなことを思った。雨の町の情緒も魔法の傘の良さもレイノルにはよくわからない。観光で来る分にはいいが住みたくはない地域だな、というのがレイノルがこの町に抱いた感想だった。
(あー、暇だ……)
ぼんやりとしていたら、急にお声がかかった。
「レイノルは何か気になったものはありましたか?」
「え」
「『え』じゃわかりません。さあ、どの傘が気に入ったのですか?」
急かされて、レイノルは焦る。傘なんて、雨が防げれば何でもいいじゃないか。
(でも、特にないとか言うと機嫌が悪くなるのは知ってる)
改めて周囲を見渡すと、傘の種類は色々だ。イフェーネにじーっと見つめられているせいか、どれがいいのか益々わからない。追いつめられたレイノルは、目についた傘を適当に指さした。
「あれ!」
レイノルの指の先に視線をやったイフェーネが「まあ」と弾んだ声を出す。
「素敵ですね! では、あれにいたしましょう」
いそいそとイフェーネが傘を手に取る。一緒に内側を覗き込めば、そこに広がるのはカラフルなお花畑。蝶が飛び、兎が跳ね、甘い香りが漂っている。
(しまった……)
とレイノルは頭を抱えるが、今さら撤回できるはずもなく。ファンシーな傘と一緒に、2人は店の外へと繰り出した。

「傘、俺が持つから」
店の庇の下でレイノルが言えば、イフェーネは目を丸くした。
「レイノルが自分からそんなことを言ってくれるだなんて! 紳士的ですね、花丸です!」
身長差を考えたらそれしかないだろとか、何でお前はこんな小さいんだとかは敢えて口にしない大人なレイノルである。
レイノルが広げた傘の中にイフェーネもとび込んで、2人は雨の小道を歩き出した。
「相合傘となると相当近づかないと濡れるな……」
しかし照れから自ら身を寄せることのできないレイノルに、イフェーネは真面目な顔で言う。
「相合傘は恥ずかしいですが豪に入っては豪に従えとあります。そういうものだと割り切っていきましょう!」
「……そういうもん?」
「そういうものです。トランスするのと傍に寄るのとどちらが恥ずかしいですか? 勿論前者ですね?」
「お、おう……?」
「分かりましたら詰めますよ。このままでは風邪を引いてしまいます」
そして2人は、傘の中で身を寄せた。しばしのタイムラグ。
「ちょっと待て両方恥ずかしいことに変わりないだろっ?!」
レイノルの叫びは雨音にかき消された。屁理屈だと分かってるのに口では勝てない。そんなレイノルのふてくされたような顔を見て、イフェーネはころりと笑う。が、見つめた彼の顔は思っていた以上に近くて。イフェーネは思わず視線を逸らした。
(な、何だか改めて状況を考えると恥ずかしくなってきました……)
まるで世界に2人だけしかいないようだと思う。
(雨の音が鼓動を隠してくれるといいのですけど……)
俯き胸を抑えるイフェーネに、レイノルが言った。
「おい」
「は、はいっ?!」
「急に静かになるな。黙られると緊張するというか調子が狂うというか……いつも通りにしてろ」
不器用すぎる心遣いに、イフェーネは寸の間目を見開いた後ふんわりと笑みを零す。
「はいっ!」
真っ直ぐに笑みを向けられて、レイノルはその頬を仄か赤く染め、ぷいと顔を背けた。
「……急ぐと濡れるし、少しゆっくりめに歩くか。濡れるからな、うん」
自身に言い聞かせるように呟かれたレイノルの言葉に、イフェーネはまた頬を緩めて。
甘い花の香と幻の花弁が、初々しい2人の上に降り注いだ。

●お天気雨の空にかかるは
「え、と……どれがいい、かな」
色も大きさもかけられた魔法もまちまちの沢山の傘に囲まれて、篠宮潤は思案顔だ。『雨のワルツ』店内は、傘の内側で踊る様々の景色のおかげで賑やかしい。店の外、庇の下で雨をしのいで自分を待つヒュリアスのためにも早くこれという傘を見つけたいけれど、とりどりの傘につい目移りをしてしまう潤である。と、その時。
「! あの傘……」
ふと目に留まった1本に、潤の心は強く惹きつけられる。吸い寄せられるようにして、潤はその傘を手に取った。
「うん……これ、にしよう」
心を決めたように呟いたその表情は、決して晴れやかなものではなかった。

「お待たせ、ヒューリ」
店の外に出て声をかければ、ヒュリアスは退屈したような顔をして潤の方を振り返った。
「随分待ったのだよ。ウル、その分良い傘を選んでくれたのだろうね?」
やれやれと首を振り、潤から受け取った傘をやや気だるげな動作で広げるヒュリアス。開けば、傘の内に広がるのは晴れ空と――静かに降りしきる細い涙雨。
「……ウルよ。外も雨なのに、何故傘の中でも雨に打たれねばならんのかね?」
呆れ顔のヒュリアスの言葉に、潤は曖昧な表情を浮かべるだけで。ため息を零し、ヒュリアスは潤を傘の中へ入るよう促した。傘の中並んだ2人の頭上に、幻の雨が降る。そして2人は、雨の小道をゆっくりと歩き出した。
「ウル。何故この傘を選んだのだ?」
しばし無言の時間が続いた後、ヒュリアスが問いを発した。傘の中には、相変わらず幻の雨が降り続いている。と、答える代わりに、潤は唐突に雨の中へと駆け出して。
「ウル? おい!」
ヒュリアスが後を追えば、潤は咲き乱れる紫陽花の前。冷たい雨に打たれながら泣き止まない空を仰いで、口を開いた。
「あの日も……そんな、お天気雨、だった気がする……んだ……」
呟きは、雨音を破ってヒュリアスの耳に届く。
「あまり覚えていない、けど……向き合わなきゃ、と思って」
大丈夫、泣いてはいない、よ。潤はそう言うが、その声は痛々しいような響きを帯びていた。
ばさり。
不意に、潤の視界が一面の黒に覆われる。かけられた何かに触れて視界を確保して後、潤はそれがヒュリアスのジャケットだと気づいた。無造作に自らのジャケットを脱いだヒュリアスが、それを潤の頭へと被せたのだった。
「ヒューリ……?」
「何のことか分からん、が。ここへは風邪をひきに来たのではないのだろう?」
ぽかんとしている潤にヒュリアスは言った。
本当は分かっている。ヒュリアスは、潤の言葉の意味を知っている。
(だが、まだ今は――)
打ち明ける決心は、まだついていないから。
「……中へ入れ。俺のジャケットを、雨でずぶ濡れにするつもりがないのならな」
促せば、潤は躊躇いつつも傘の中へと戻る。その表情はやはり明るいものではなく、彼女は俯き項垂れていて。
どうしたものかとヒュリアスは何とはなしに頭上に目を遣り――そして、そこに見えた景色に僅か目元を柔らかくした。
「ウル。顔を上げてみれば、違う景色も見えるのではないかね」
言われて、潤はゆるゆると顔を上げる。お天気雨の空を見る。その瞳が、大きく見開かれた。
お天気雨の空には、いつの間にか大きな虹がかかっていた。傘の中の世界を彩る、ため息が出るほど美しい虹の色彩。
「わ、ぁ……。うん……今は、『あの時』じゃ無い……ヒューリ、ありがとう」
潤の笑みを見て、ヒュリアスも密か表情を優しくする。そして、思う。
(……俺も大概ウルのことを言えんな……いつか必ず)
胸の内に誓うヒュリアスに、潤が言った。
「ねぇ、ヒューリ。ジャケット……借りてもいい、かな? 今だけ。この小道が終わるまで、だけ」
「暑くないのかね? まあ、好きにするがいい」
ありがとうを言って、潤はジャケットをそっと肩にかけ直した。この温もりから、向き合う勇気を忘れないためにと、そう胸に思う。
そして潤は――無意識にだろうか――先ほどまでよりも僅かゆっくりと歩き出すヒュリアスの隣に並んだ。

●星は夜空を照らし夜空は星を包み込んで
「どの傘も素敵で、迷ってしまいます」
傘の花が咲く『雨のワルツ』店内を、リヴィエラは弾むような足取りで見て回る。彼女の心をふわふわとさせているのは、雨の町のどこか幻想的な佇まいや不思議な魔法の傘だけではない。他の客の邪魔にならないところで自分が傘を選び終えるのを待っているロジェが、好きな傘を選べと言ってくれたのが嬉しくて。
「ロジェ様!」
明るい声で呼べば、ロジェが顔を上げてリヴィエラを見る。
「決まったのか?」
「はい。この『満天の星空が浮かぶ傘』でも良いですか……?」
手にした畳まれた傘を示してみせれば、「リヴィーがそれがいいのならそうするといい」とのお返事。ますます嬉しくなって、リヴィエラはロジェの元へと急ぐ。
「外で広げるのが楽しみです……! 行きましょう、ロジェ様」
「待て、リヴィー」
「はい?」
「……会計。まだ済ませてないだろう」
「あ……」
傘を受け取り、やれやれとレジへ向かうロジェの後ろで、頬を朱に染めるリヴィエラだった。

『雨のワルツ』の庇の下、雨の町を見やってリヴィエラは歌うように言葉を零す。
「ふふ、私、雨が好きです。雨は景色を彩ってくれるから……」
「雨は仕事に支障が出るから苦手だ」
ため息混じりのロジェの言葉に、リヴィエラは目に見えてしゅんとしてしまう。
「そ、そうでしたか……」
「ああ。だが、星は俺も好きだ」
言って、ロジェはレンタルした濃紺の傘に視線をやる。その表情が優しかったので、この傘を選んで良かったとリヴィエラは笑顔を取り戻した。
「いいですよね、星って。夜を優しく包み込んでくれて」
「そうだな。星が瞬いてると、リヴィーが俺を見守ってくれてるかのような気分に……」
「? ロジェ様?」
「い、いや、何でもないっ!」
首を傾げるリヴィエラに今の台詞が聞こえていなかったことに、心の底から安堵するロジェである。雨は苦手だと言いながらも、パートナーと2人、雨の町まで足を伸ばしたロジェ。その心に思うことは。
(このところ激戦が続いたからな。こいつの気分転換になれば良いんだが……)
ちらと見やれば、当のリヴィエラはにこにことしている。その様子に密か目元を柔らかくして、ロジェは魔法の傘を開いた。濃紺の夜空に煌めくのは、眩い星の群れ。その美しさに思わず見惚れ――しかしロジェは、すぐに大変なことに思い当たった。
「この傘のサイズ……リヴィー、またドジを……」
傘は、2人が一緒に入るには随分と小ぶりだった。指摘されて初めて自分のミスに気づいたリヴィエラが、あわあわとする。
「ど、どうしよう……間違えて小さい傘を選んでしまいました……!」
傘は、一つの柄につき数種類のサイズがあった。手に取る時に、誤ったサイズの物を選び取ってしまったのだ。
「ごめんなさい、ロジェ様……傘にはロジェ様が入ってくださ……」
「リヴィー、もっと俺の近くへ来い」
「えっ?」
自分の言葉を遮るようにして紡がれたロジェの台詞に、思わず声を漏らすリヴィエラ。次いでロジェに力強く肩を引き寄せられて、リヴィエラは混乱のあまりまた「えっ、えっ?」と動揺しきりの言葉を零した。
「行くぞ」
言って雨の小道を歩き出すロジェに、半ば反射的にリヴィエラは従う。肩は少しも冷たくない。小さな傘は、リヴィエラの方へと向けられていた。
「ロジェ様、それではロジェ様の肩が濡れてしまいます……!」
訴えるも、ロジェは一切動じない。
「俺の肩が濡れる? リヴィーが濡れなければそれで良い」
そう、敢えて今口には出さないけれど、ロジェはリヴィエラを護りたいのだ。雨などに濡らせて冷たい思いをさせたくないし、それに。
(この先どんな戦いが待っていようとも、俺が護るから心配ない。君が死ななければ、それで……)
胸の内に静かに灯るのは、熱い想い。
「ほら。小道を回りきるんだろう?」
近すぎる距離に、胸の鼓動がロジェにまで聞こえてしまうのではないかと赤くなるリヴィエラをさりげなくリードしつつ、ロジェは大切な人と2人、青煉瓦の道を行くのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月24日
出発日 05月31日 00:00
予定納品日 06月10日

参加者

会議室

  • こんばんは、イフェーネ・サヴァリーと申します。
    エリーさんと悠夜さんは先日ぶりですね、その節はお世話になりました。
    潤さんとリヴィエラさんは初めましてですね。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    雨が降り続けるだなんて不思議な町ですね。
    どんな事が起きるのかわくわくしてしまいます。
    折角ですし私達もハッピーアンブレラを借りてみるつもりです。

    今から出発が楽しみです。それぞれ楽しい時間が過ごせるといいですね。

  • [4]日向 悠夜

    2014/05/28-23:48 

    こんばんは!日向 悠夜って言います。
    潤さんとリヴィエラさん、Ellyさんとは依頼でご一緒するのは初めまして…だね。ふふ、よろしくお願いするね?
    イフェーネさんとは以前ご一緒したね。改めてよろしくお願いするね。

    雨の降り注ぐ町に、ハッピーアンブレラ…とても素敵だね。
    私たちもハッピーアンブレラを借りようかなって思っているよ。

    皆が素敵な1日を過ごせる事を過ごせます様に、祈っているよ。

  • [3]リヴィエラ

    2014/05/27-09:18 

    皆さまこんにちは。は、初めましての方はどうぞ宜しくお願い致します(お辞儀)
    わ、私はリヴィエラと申します。パートナーはロジェ様といいます。
    潤様とはまたお会いできて、嬉しいです(にこっと微笑みつつ)

    雨降り止まぬ町だなんて幻想的で素敵…!
    私達もハッピーアンブレラを、お借りしたいと思っています。
    ふふ、傘の中に夜空が広がるものなんて、素敵かな、って…
    私とロジェ様に身長差があるので、間違って小さい傘を選ばないように
    気をつけなきゃ…っ(焦りつつ俯く)

    皆さまとのんびりお出かけできるのがとても楽しみです。

  • [2]篠宮潤

    2014/05/27-08:09 

    うん、僕も初めまして、の人が多いかな。
    初めまして、篠宮 潤というよ。どうぞよろしく、だ。
    リヴィエラさんは何回かご一緒してる、ね。こんにちは(小さく笑みを向け)

    ハッピーアンブレラ、どんな種類があるのか気になる…かな。
    お店の中見て回って、気に入ったの見つけたら買ってる、かもしれない。

    ここのところ…激しい任務が多い、から。みんな、のんびり楽しもう、ね。

  • イフェーネさん以外の方とは初めましてとなるのでしょうか?認識違いがありましたら申し訳ないです。
    改めまして僕はElly Schwarz、エリーと言います。精霊はディアボロのCurt、クルトさんです。
    イフェーネさんは先日ぶりですよね。今回も楽しみましょう!
    皆さん宜しくお願いします!

    お金がかかる案件は初めてなのでドキドキですね。
    ウィンクルムらしく、絆を深める為にもハッピー・アンブレラと言うものをレンタルしてみたいです。
    しかしいろいろと課題が多いようです。(2人の容姿設定を見て察して下さい((


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