【愛慕】音と花と愛の契り(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「こんにちわ、ウィンクルムの皆様! 花と音楽の街、イベリン・ウェディング事業部です!」

 ウェディングプランナーの女性が声高々に、歌い上げるように、大きく言葉を紡いだ。
 彼女の後ろに建つのは、由緒正しく歴史ある教会。
 今もモデルの新郎新婦が、手と手を取り合い幸せそうに微笑んで、多くの観客からフラワーシャワーを浴びている。

「日頃から、苛烈な戦いに身を投じ我々を守ってくださっているウィンクルム様に特別なキャンペーン! 当事業部イチオシのプラン『擬似挙式』を、今回だけの特別価格でご提供いたしますっ!」

 イベリン・ウェディング事業部の所有するこの大聖堂で行われる『擬似挙式』は、以前からデートスポットの一つとして賑わっている。
 男女、または同性同士、関わらず『擬似挙式』が行える。
 要するに子供同士のごっこ遊びのようなものだが、プランナーが指揮を取るというだけあって、内容は本格的な結婚式そのものだ。

「花畑での愛の契り、大聖堂を使った本格的な結婚式、更にはハルモニアホールを使った音楽に祝福され愛を交わす挙式など、形はお客様次第! お二人の愛を育むお手伝いができるよう、スタッフ一同尽力いたしますっ!」

 今だけの特別なキャンペーン、是非ともお見逃しなく!
 プランナーの女性は満面の笑顔でそう締めくくった。

解説

▼概要
イベリン・ウェディング事業部主催の擬似結婚式を楽しんでください。
形式は基本的に自由ですが、幾つかプラン例として。

1.芝桜に囲まれた花畑での挙式
・タキシードと、花をあしらったウェディングドレスを着用し、中央の台座で神父に愛を誓い合う
・観光地を利用するので、大勢の観客に見守られての挙式となります

2.ハルモニアホールで音楽に祝福される挙式
・タキシードとウェディングドレスを着用し、レッドカーペットを通り舞台上の台座で神父に愛を誓い合う
・入場や指輪交換などの際のBGMを、事業部所有の楽団がその場で奏で、盛り上げてくれます

3.大聖堂での本格的な挙式
・同じくタキシードとウェディングドレスを着用した、ベーシックな結婚式です
・愛の誓いから指輪交換などの流れを事業部のスタッフがサポートします

サポート対象は挙式のみなので披露宴は行いませんが、式中の流れで手紙を読むだとか、家族や兄弟など見て欲しい人が居る場合は招待しても構いません
ドレスやタキシード、式の流れに関しても希望があれば添えますので、プランへどうぞ

式の流れは入場→台座で誓いの言葉→指輪交換→キスになりますが、キスまではちょっと…とか、誓いの言葉だけで…という場合も沿います。足りない部分はアドリブになることご了承くださいませ
指輪は、お客様側でご用意いただいても、こちらで貸し出しても構いません

▼参加費用として500jrいただきますが、指輪やドレスなどの追加徴収はありません
個別エピソードです

ゲームマスターより

男性側の焼き直しのようなシナリオですが、女性側でのプランも楽しみにお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)

  曖昧な態度のまま疑似結婚式をする事に
仕事というならこなせる
でも彼が本気?
私どうしたら

式場
バージンロードを前にして足が動かない
彼が待っているのに
声が聞こえ顔を上げたら白いタキシード姿の美しい佇まいの彼が私を見てる

彼が信じられない言葉を言う
過去の記憶がフラッシュバック
一緒にこなした依頼の数々や紅茶を褒めて下さる優しい眼差しや悪戯な少年の様な笑顔や
私…私は

バージンロードを小走りに
彼の胸に飛び込む
「わ…私もずっとお慕いして…でも…でも」
声を絞り出す
「許されるなら愛を尽くす方はあなただけと…私もお誓い致します」
強い抱擁に震えてしまう
心の中は激しい葛藤だけど今はこのまま身を委ねていたい
(夢なら醒めないで)


アデリア・ルーツ(シギ)
  「自分の結婚式できるかわかんないし。ね、お願い」(両手を合わせておねだり
「ウィンクルムだもの、疑似でもするならパートナーとよ」
「やった、ありがとう!」

ハルモニアホールで音楽と!素敵よね。
キスはちょっと……って思ったけど。額にならいいかな。疑似だものね。全部本番と同じじゃなくてもいいはず。

すごい。(音楽に圧倒される
本当に式を挙げるなら、ここでするのもいいな。相手がいないけど。
シギには無理言って付き合わせちゃったし。今度埋め合わせしないと。

「誓います」たった一言なのに、言うのに勇気がいる。
全部本当じゃないけど。(填められた指輪に笑みを零す
体験できてよかったかな。

シギ、お願い聞いてくれてありがとう。



 神人、マーベリィ・ハートベルは、今なお心を決めかねていた。
 尽くすべき従者であり、パートナーである彼女の精霊、ユリシアン・クロスタッドと赴く、この擬似結婚式に。
「イベリンを愛で満たすために、ウィンクルムの仕事として。擬似結婚式を、共におこなって欲しいんだ」
 ぼくと一緒に。
 この話を受ける時に、彼はそう言った。仕事だと言われれば、ウィンクルムの義務だと言うのなら、当然マーベリィに断る理由はない。
 ……断れるはずがない。だってユリシアンは、彼女の仕える館の主人であって、同時に、弱い神人である彼女を守ってくれる騎士でもあって。
 運命の精霊。契約時に聞いたあの言葉を、改めて思い返す。
「マリィ」
 まっすぐに伸びたバージンロードの先を見れば、美しく、タキシードに身を包んだユリシアンが、マーベリィを誘うように、手を差し伸べていた。

(……ユリアン様は、もしかして)
 本気、なのだろうか。
 先日、あの雨の日に。お互いずぶ濡れになりながら、彼に告げられた言葉。
『ぼくは本気だよ。この意味、考えておいて』
 もちろん、考えた。けれどもいくら思考したって行き着く答えはおなじ。従者と主人が、そのような関係にあっていいはずがない。
 彼に尽くせることを、マーベリィは誇りに思う。施しとは、必要とされる者に与えられた福音である。
 優しくて、かっこうよくて、とても真摯なひと。毎朝の紅茶を美味しいと言ってくれる、少しの変化にも気付いてくれる。これ以上を望むなんて、考えたことはなかった。
(……私は、どうしたら)
 彼の申し出をひとたび受けたら、一体、自分と彼の関係はどうなってしまうのだろうか。

(……相当に心労をかけてしまっているらしい)
 ユリシアンが先導して牧師の前に立ち、いざ挙式を始めると言う段階になり。
 バージンロードを前にして、マーベリィの足は石のように固まってしまった。
 どうしよう、彼が待っているのに――震える体は、いっこうに言うことを聞いてくれない。
 ユリシアンにも、彼女の心痛は理解出来ているつもりだ。あまりに奥手で、遠回しな伝え方ではきっとずっと、二人の関係は今のまま変わらない。
 変わりたい、と願ったのはたぶん二度目だ。一度目はあの契約の日に、彼女を守る存在になりたいと言った。
 しかして主人と従者であることを彼女は頑なに望んだ。気高く美しいその精神をユリシアンも尊重したからこそ、これまでの彼女との思い出がある。
 二度目の今は、あの時とはすっかり想いの形が変わってしまった。もしかしたらこれは、彼女の清廉な志を、違えてしまうわがままなのかもしれない。主人と従者である事を望む彼女に、それ以上をと己が望むのことは、ユリシアンが彼女の主人ではなく、一人の精霊として願う純粋な気持ちだ。
 出会い方や形がどうであったとして、自分は彼女を好きになっていたと、今なら誓えるはずだから。
「……牧師様、式の進行を」
 お願い致します。
 ユリシアンの言葉に、牧師は神妙な面持ちのまま、ひとつ頷く。
 バージンロードの向こう側で、マーベリィも目を見張った。隣に新婦が並び立たないまま、結婚式は進み始めた。
「マリィ。そのままでもいいから、ぼくの言葉を聞いて欲しい」
「……ゆ、ユリアン、さま」
「仕事だから、擬似結婚式を行ってほしい、とぼくが言ったのはただの口実でね。本当は、擬似だとしても、こうしてちゃんとした形で、ぼくの告白を受けて欲しかったんだ」
 マリィは、もう気付いていたのかもしれないけれど。
 そう言って、彼は。いつもの自信に満ちた主人の顔でなく――少しだけ照れたように、揺れる眼差しで、小さく笑った。
 二人の間にはバージンロードそのままの距離がある。ユリシアンはマーベリィの方を向いたまま、言葉を続けた。
「かわいい所作で、いつもぼくを和ませてくれるきみ。共に居たいと願った、こんな無茶なお願いも、頑張って聞いてくれようとするきみ。ぼくのために毎朝おいしい紅茶をいれてくれるきみ。こんなにも、ぼくを癒してくれるひとは、マリィ以外に考えられない」
「……っ!」
 ユリシアンの言葉が、大切そうに紡がれる、その一言一言が。
 マーベリィの脳裏へと、走馬灯の様に思い出を駆け巡らせていく。
(私……私は)
 もう、心はとっくに決まっているのかもしれない。
 ある時は共にオーガを倒し、ある時は隣に寄り添い、マーベリィはずっと、彼に尽くしてきた。
 マーベリィよりもずっと大人に見えて、けれどもその余裕に溢れた端正な顔立ちが、悪戯っ子な少年の様に解けることを知っている。
 毎朝の紅茶選びはマーベリィの日課だ。『ぼくのためにありがとう』優しい眼差しで、心地いい音を言葉に乗せて、ユリシアンがマーベリィを褒めてくれる。たったそれだけで心の中はぬくもりで満たされる。
 マーベリィに困ったことがあれば、彼は安心させるように笑ってくれる。大丈夫だよ、信じていい。どこまでも紳士で、美しく優しい人。
 その笑顔が、他の誰かに向けられた事にやきもきした日だってあった。思えばその頃から、自分はとっくに、彼に惹かれていたのかもしれない。
「ぼくが生涯、愛する人は――」
 ユリシアンは一度、視線をレッドカーペットへ落として。
 意を決したように、毅然と顔を上げ、まっすぐにマーベリィを見据えて。
 もう一度、手を差し出して、大聖堂に響き渡るほど大きな声で、力強く告げた。

「マーベリィ・ハートベルだけだと、誓います!」

 気付けば、マーベリィの足は地を蹴り駆け出していた。
 最初はためらいがちだったつま先が、急かす心に押されて次第に早くなる。
 慣れないヒールで、ドレスがもつれて転げそうになっても、少しでも早く、彼の元にたどりつきたい――バージンロードを小走りに駆けるマーベリィを、スタッフと牧師も見守る。
 そして――ついに。

「ユリアン様っ……!」
「マリィ!」

 待ち侘びたその人が、ユリシアンの胸の中へと飛び込んだ。
 見守って居たスタッフ達からも、わっと拍手がわき起こった。
 力強く、ユリシアンはマーベリィを抱きしめる。純白のドレスに包まれた体は、見た目よりずっと細く、頼りなく思えて。
 同時に、彼女がようやく。自らの意思で駆け寄ってきてくれたことが、嬉しくて。
「マリィ、……っよかった」
 鳶色の柔らかな髪に頰を寄せる。セットが乱れるのも構わず、かき抱くようにだきしめる。
 締め付けるコルセットがきついとか、彼の抱擁がちょっとだけ苦しいだとか、そんなことがどうでもよくなるくらい、マーベリィの胸の中はいっぱいだ。
「ユリアンさま、ごめんなさい、私、遅くなって、しまってっ……」
「いいよ。いいんだ、構わない、うれしい」
「わた、私もずっと、お慕いしてっ……でも、決められなくて、あなたは私の、仕えるべきお人であるのに……っ!」
 それなのに、こんなに。
 これほどに幸せで――幸せになっても、いいのだろうか。
 上手に言葉をまとめられず、それでも、溢れる想いがすこしでも多く届くようにと、声を必死で絞り出す。
「許されるなら、愛を尽くす方はあなただけと……私も、お誓い致します」
 抱きしめられたまま、顔を上げたら、ユリシアンの顔が驚いたように破顔した。
 子供のような顔。マーベリィだけが知っている、素直で、かっこいいのに愛らしくて、愛おしいと思える、その表情。
「ありがとう……受け入れてくれるか、どこかで不安だった。全部、報われた気持ちだ」
「ユリアンさま……」
「ぼくは今、とても幸せだ。愛してる、マリィ」
 マーベリィの震える肩に気付いて、怯えさせてしまわないよう、ユリシアンはそっと、彼女の白い額に口づけを落とす。
 触れて、すぐに離れただけの口づけは、あの雨の日のものとはあまりに違って居たけれど、ユリシアンの思いの丈を伝えるには十分で。
 強い抱擁に震えながら、マーベリィの心の中はまだ葛藤でいっぱいだった。
 これから二人はどうなってしまうのかとか、従者としての身分だとか。
 その全部を差し置いてでも、今はこのぬくもりに身を委ねていたかった。
(夢なら、どうか醒めないで――)
「……夢みたいだ」
「っ!」
 マーベリィの胸中を読んだかのようなユリシアンの言葉に、はっと目を見開く。
 誇り高き純白のタキシードに身を包んだ主人は、それはもう幸せそうな顔をしていた。
「夢で、終わらせない。……これからも、よろしく」
 愛するひと、マーベリィ・ハートベル。
 以前とは形を変えた二人の関係の、これからを思って。
 マーベリィも、ぎこちなく、それでも笑って「よろしくお願いします、旦那さま」と、はっきり告げてみせた。


「ね! いいでしょ? シギってば」
「…………気乗りしない」
「そう言わないで。ね? 私、自分の結婚式だってこの先出来るかわかんないし」
 ねぇ、お願い!
 両手をぱちんと合わせて、猫なで声でおねだりするのは神人、アデリア・ルーツだ。
 それに対し、剣呑に目を細めてしっぽをぱったんぱったんと左右に揺らして、いかにも「やりたくないです」オーラを醸し出しているのが、精霊であり彼女のパートナーである、黒猫のテイルス、シギである。
 卓上には擬似結婚式の知らせを告げる広告。
 参加したいと言い出したのはもちろんアデリアの方だ。結婚式は女性の夢だし、ウィンクルムの仕事を手助けする特別なキャンペーンという名を冠し、何より任務だと言うならシギに断る道理はそこまでないのだけれど。
「結婚式なら、この前代理でやっただろ……」
 ため息まじりに、細めた半眼をアデリアに寄越す。
 救われぬ魂を昇華させるために、代理で請け負った婚姻の儀式。つい先日のことだ。
 そう何度もやるような事でもない気がする。かたっ苦しいし、順序やルールがあったりして面倒だし、典型的な猫属性であるシギが億劫に思うのは当然のことだった。
「あれはあくまで代理だったでしょう?さっきも言ったけれど、わたしはこの先数十年間、自分の結婚式すら出来るかあやしいの!」
「いや、自信持って言うなよ……」
「何よ。シギが結婚してくれるの?」
「はあ?」
「とにかく。私は自分の結婚式がやっておきたいの。予行演習に付き合ってくれるとでも思って!」
「……」
 はーっ、と。またひとつ深いため息をシギが吐き出す。
 押し負けた。大人の独身女性が必死になって結婚式がやりたい! と言うのを、あんまり無下にし続けるのもちょっと良心が痛む。
「……他のヤツじゃなくていいのか?」
「え?」
「相手が俺でいいのかって聞いてるんだ」
 問いかけを肯定だと悟り、アデリアの表情がぱっと華やいだ。
「もちろん! じゃなきゃ、こんなに頼みこまないわ」
「んん……そう、か?」
「愛を力に変えるウィンクルムだもの。擬似だとしても、するならパートナーとよ」
 アデリアの力強い言葉に、根負けしたように最後の溜息をついて「……好きにしろ」と頭を抱えれば、彼女は飛び上がって喜んだ。
「やったぁ! ありがとう、シギっ!」
 やむなく了承した頼み事ではあるけれど、自分の回答一つでこんなにも嬉しそうに笑ってくれる彼女の反応には、そこまで嫌な気はしなかった。

「わあ、すごい……!」
 舞台へ足を踏み入れた瞬間に、アデリアからは感嘆の声が漏れ出た。
 音楽に彩られての結婚式なんて素敵じゃない? と、こちらもアデリアの一存で、選択したプランはハルモニアホールでの挙式だった。
 専属の楽団が、挙式を上げる二人だけのために愛のメロディを奏でてくれるという贅沢なもの。
 ずらりと並んだ奏者たちが、それぞれ得意の楽器を手に、アデリアとシギに向けて「今日はよろしく」と微笑みかけた。
「ホールが広いから、音が大きくてもあまり気にならないな……」
 続けてホールへ入ったシギも、ぐるりと内装を見渡して感想を呟く。
 思ったよりも騒々しい挙式にならずには済みそうだけれど、やはり気乗りしない事には変わらない。タキシードは二度目だがやっぱり動きにくくてかたっくるしい。
 着付けの際「タキシードからしっぽが出てるの、すごく可愛らしいですね」と微笑ましげに言われたのも、シギとしてはちょっと気に入らない。
 なんだってこんなことを――と、不意に。
 今日、初めて。ウェディングドレスを着用したアデリアを見た。
「ふふ。どうかな、似合ってる?」
 シギの視線に気付いた彼女が、照れたように頬を掻いて、スカートを舞い上がらせるようにくるりと回ってみせた。
 着飾れば綺麗な女性なのだという事は、前回、代理でおこなった結婚式の時に知っていた。
 けれども――先入観と言うのか。純白色のウェディングドレスを身にまとった姿はあまりに衝撃的で、思わず感情が表に出ていないか、しっぽを確認してしまった。
 普段の垢抜けない姿とはまったく違う。無垢な微笑みも女神のよう。大袈裟なようだが、一瞬本気で別人かと勘違いした。メイク係の女性も「お化粧のし甲斐がありましたよ」と耳打ちしてきた。
「本当に式を挙げるならここでもいいな。相手がいないけど……シギ?」
 隣に立つシギを見上げたアデリアが、呆けたように動きを止めている精霊に小首を傾げる。
「……えっ」
「どうかした? 調子でも悪いの?」
「い、いやっ! なんでも、ない……」
「そう? ならいいけど……シギには、無理言って付き合わせちゃったし」
 今度埋め合わせしないとね、と笑いかけてくる彼女が、なんだか真正面から見られない。
(……くそ、どうにも落ち着かない)
 照れ臭さを隠し切れない尻尾も耳の動きも、傍から見ているスタッフには伝わっているけれど、挙式を上げる当人のアデリアだけがよくわかっていないまま、ちぐはぐな二人の擬似結婚式がスタートした。

「汝、健やかなる時も病めるときも、可能な時も困難なときも、これを愛し敬い慰め遣えて、永久の愛を誓いますか」
 神父の言葉に、粛々と式が進行していく。
 擬似とは言え、式の流れも誓いの言葉も、何ら本物と変わらない。
「……誓います」
 たった一言なのに、アデリアが絞り出した言葉には勇気を要した。
 シギも同じように「誓います」と告げる。互い顔が見えていないことが幸いだと心中で思った。
 正直、自分でもどんな表情を浮かべているのかわからなかったから。

 落ち着かなさを引きずったまま、指輪交換の運びとなり。
 向き合い、アデリアの左手を取って。震えそうな指先をなんとか落ち着けて、そっと薬指に指輪をはめる。
(……全部、本当じゃないけど)
 サイズぴったり、自分の薬指にはめられた誓いの証。
 伴侶と繋がっている、という、永遠のしるし。
 心から愛する人とこれを交換できるというのは、きっとすごく幸せな事なのだろう。
 自分はまだ、その段階にはないけれど――キラキラと輝くシルバーリングを見遣って、儚げな微笑を浮かべたアデリアに、シギは思わず息を呑んだ。
(……そんな笑顔、反則だ)
 ぐっと眉間に皺を寄せ、揺れる胸中を誤魔化した。

「――では、誓いのキスを」
 神父の言葉に、シギの手がヴェールをそっとすくい上げて、はっきりと彼女の表情を捉える。
 見上げる鮮やかな新緑色に、終始心音が騒ぎっぱなしなのは、きっといつもと違う雰囲気のせいだ。
 内心の動揺を悟られぬよう、ポーカーフェイスを取り繕った。
 キスは流石に……と、事前に二人で話し合って、額に受けると決めていた。
 擬似なんだから、全部本番と同じじゃなくてもいいわよね、というアデリアの言葉を汲んだけれど、こんなに至近距離で彼女の顔を見る事は滅多になく。
 誰かの代理ではない形で誓いを交わす、という挙式の形には、また違った緊張感が芽生える。
 羽が触れるほどの軽い口付けを、アデリアの白い額に落として、すぐに顔を離した。
 全神経を集中した尻尾が、予期せぬ動きをしなくて良かった、と心から安堵した。

「体験できて、良かったかな」
 挙式を終えての帰り道。
 アデリアが後ろに手を組みながら、上機嫌にシギを振り返った。
「シギ、お願い聞いてくれてありがとう。あなたが相手でよかったわ」
「? なんでだ」
「メイクさんも進行のスタッフさんも、みーんなずっと、あなたのことイケメンだって褒めてたもの」
 鼻が高かったわよ、なんて。
 シギを弟のように思うアデリアは、誇らしげにふふん、と鼻を鳴らした。
「タキシード、すっごく似合ってた。また今度、埋め合わせするわね」
 食べたいものはない? とか、どこかへ行こうか、とあれこれ思案する彼女を横目で見遣る。
 衣装は全て着替えたけれど、メイクと髪型のセットはまだいくらか残ったままだ。
(……人の事ばかり、一方的に言いやがって)
 胸の内が、何故だか無性にこそばゆいような、おかしな気持ちに。
 今度こそ尻尾がぱたぱたと左右に揺れた。
「? シギ、私なにか気に触ること言った?」
「……っなんでも、ない」
「いつもそれじゃない。ねえちゃんと言ってよ」
「本当になんでも……も、もう帰るぞ、疲れた!」
「あ、もうっ。待ってシギー!」
 追いかけてくるアデリアから、気持ちまで逃げるように、足早にシギは帰路を突き進む。
 見惚れた悔しさから、八つ当たりといわんばかりに、胸中で大きく叫んでいた。

 ――神人だって、見目がいい奴ばかりだろ!



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月23日
出発日 07月01日 00:00
予定納品日 07月11日

参加者

会議室

  • [2]アデリア・ルーツ

    2017/06/30-21:10 

    挨拶が遅くなっちゃた。
    アデリア・ルーツとシギよ。
    よろしくね。


  • ユリシアン:
    滑り込みで済まない。
    マーベリィとユリシアンだ。
    よろしく。
    プランは提出してあるよ。


PAGE TOP