【愛慕】お手伝い、しちゃいなYO!(北織 翼 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「毎度どうもー、ベルネ生花店でーっす!」

 ここはイベリン王家直轄領内の、とある結婚式場。
 多様化する顧客ニーズに柔軟に対応してくれるとの口コミで、連日挙式や披露宴の予約が入るそこそこ人気の式場です。
 結婚式といえばブーケやフラワーシャワーに式場内の装飾やら何やら……とまあ、花は何かと要り用です。
 ベルネ生花店は小さな個人経営の店ではありますが、丁寧な仕事ぶりと店主ヴォルフ・ベルネの爽やかイケメンぶりが評判で、この式場の得意先のひとつでした。

「それじゃオーナー、こちらが納品書です」
 商品をすべて式場に運び込んだヴォルフは、式場のオーナーに納品書を手渡します。
「うむ、今日もご苦労さん」
 笑顔で受取書にサインするオーナーでしたが、この後その顔からは一切の余裕が失われる事になります……。

「オーナー、大変です!」
 ヴォルフとオーナーの元に、式場の職員が血相を変えて駆け寄ってきました。
「何事だい?」
「生花装飾担当のクァーリーさんが出勤途中で事故に遭ったと連絡が……!」
「何だって!? クァーリーさんの安否はっ?」
「幸い命に別状は……ですが腕を骨折したとかで、仕事にならないそうです」
「参ったな、今日は夜まで目一杯予約が入っているのに……」

 しかし、アクシデントというものは続く時には続くものです。

「オーナーッ!」
 そこに別の職員が慌てて駆けつけます。
「た、大変です……ブーケの発注にミスが……今日使用予定のブーケが何かの手違いで明後日納品に……」
「明後日だと!? 制作を急いでもらえないか確認したまえ!」
「何とかしてもらえないか頼み込んだんですが、駄目でした……」
 オーナーは頭を抱えました。
「何という事だ……」
 そんなオーナーに別の職員が顔面蒼白でやってきて、とどめを刺します。
「生花を納品予定の業者から緊急連絡が……仕入れ先の農家で虫害が大量発生して花の手配が付かなくなったと……」
「も、もうお終いだ……」
 オーナーは足元をふらつかせました。

 しかし、そこは商魂逞しいオーナーです、彼はすぐ傍で心配そうに見つめているヴォルフを見てピコーン!と思い付きます。
「ヴォルフ君! 確かキミは華道を嗜んでいたね!?」
「えっ、いや、子供の頃に母の見様見真似で遊んだ程度で、そこまででは……」
「生花店なら、ブーケの飛び込み注文だって受けてるよね!?」
「確かにブーケは即興で作らなきゃいけない時はありますけど、お見舞い用とかお土産用程度ですし……」
「今日こうして生花を納品出来てるって事は、キミが契約してる農家さんとこは虫害ないよね!?」
「い、今のところは、はい……」
「キミのお店、小さいしヒマだよね!?」
「そりゃ個人経営の花屋なんてそんなに需要は……ってオーナー、何気に失礼じゃないですか!?」
「頼むよヴォルフ君! この危機を乗り切るために力を貸してくれ! 何ならキミがここで挙式をする時私が費用を全額負担するから!」
「いや、俺そういう相手まだいませんし……参ったなぁ……」

 得意先のピンチに力を貸したい気持ちは山々でしたが、ヴォルフには早く店に帰らなければならない事情もありました。
(テレジアをひとりにはしておけないんだけどなぁ……)
 実は、彼にはテレジアという名の病弱な妹がおり、両親を早くに亡くした彼は彼女を育てるため花屋を継ぎ、2人で暮らしているのです。
 テレジアは心臓が悪くあまり出歩く事は出来ませんし、年もまだ8歳と幼く店番をさせるには不安があります。
 そして何より、時折発作も起こすのでヴォルフは長時間店を空けられないのです。

 困り果てているヴォルフと彼を拝み倒す勢いのオーナー、あなたと精霊は偶然この2人の近くを通りかかりました。
 いつもなら『大人2人が何か言い合ってるな』くらいにしか思わない状況ですが、あなたたちはヴォルフの特徴的な容姿に釘付けとなり、ついつい首を突っ込んでしまいました。
 ヴォルフの頭上には優美な狐を思わせる黄金色の耳、腰には毛艶の良い尻尾――そう、彼はテイルスの精霊だったのです。
 ウィンクルムとしてひとりの精霊の危機を黙って見ていられず、あなたたちは手伝いを申し出る事にしたのでした……。

解説

 皆様にヴォルフ君のお手伝いをして頂きます。
 プランでは次の1~3の選択肢(数字のみ)を冒頭に明記して下さい。
 リザルトノベルは各ウィンクルム個別描写となりますので、選択肢が偏っても問題はございません。
 ちなみに、皆様ここまでの交通費として300jr消費しております。

 1 会場装飾・ブーケ作りを手伝う
 2 ヴォルフの代わりにベルネ生花店の店番をする
 3 突撃・どこかの農家さん

 これより先、各パートの諸注意についてご説明いたします。
 ヴォルフ君は皆様と分担して必然的に別ルートに行ってしまいますので残念ながら絡む暇はございません……ごめんなさい。

【1 会場装飾・ブーケ作りを手伝う】
 式場にてあれこれやって頂きます。
 ブーケ作り、フラワーシャワーの用意、会場の装飾等々……やる事は様々ですが、何か1つだけのお手伝いでもあれこれ全部でも、何でもオッケーです。
 お手伝いの傍ら新郎新婦を遠巻きに眺めつつ将来を語り合うも良し。
 お二人でワイワイキャッキャ言いながら楽しんで下さい。
 ついでにオーナーを弄ってもいいですよ。

【2 ヴォルフの代わりにベルネ生花店の店番をする】
 結婚式の見学や体験なら何度もしてるし……という方にオススメのパートです。
 結婚通り越して、夫婦体験しちゃいなYO!
 愛する彼とこぢんまりしたお店の切り盛り……キャア!
 しかも疑似娘(テレジア)付き!
 ちなみにテレジアは人間です。(ヴォルフ君の父は精霊、母は人間でした)
 もしテレジアに発作が起きたら店とひと続きの居間にある戸棚からお薬を出して飲ませてあげて下さいね。

【3 突撃・どこかの農家さん】
 ベルネ生花店の車を借りて、農家さんからお花を仕入れてきて下さい。
 2人でイベリンをドライブデートしたい方にオススメのパートです。
 2人きりの車内、車窓から眺めるお花畑……いやん!
 でも、デートに夢中になってないでちゃんとお花も仕入れてきてね。
 どんなお花を仕入れるかは皆様のセンスにお任せします!

ゲームマスターより

 マスターの北織です。
 お前のハピエピとか、不安しかねーよ! とお思いになるかもしれませんが……出しました、ええ、出させて頂きました!
 今回は北織にしてはなかなか自由度の高いエピソードとなっておりますので(ていうかお前いつも自由度低いアドエピばっかじゃねーか)、皆様お気軽にご参加頂ければと思います。
 確かに普段はアドエピばっかですが……が、頑張ります!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

 
フラワーシャワー用に花弁を花から外しながらおしゃべり
花弁は使いやすいように花の種類毎・色合い毎に分けておく

ガーデンウェディング会場のお手伝いですか?
…とてもやってみたい気持ちはあるのですけど、お仕事として契約交わして正規の報酬を頂かないと…
私がガーデナーとしてお庭の管理を請け負っている皆さんに申し訳ないと思うんです
…融通が利かないと思います?

結婚式ですか?
ブーケやブートニアは私が育てた花で作れたらって思っています
最近咲きはじめた薔薇が淡く青みがかっているので、あの花を使いたいのですよね

ヴォルフさんより、オーナーさんに伝えた方が良いかも
こんな急な頼み事を請け負ってくれる方そうはいないんですから


シルキア・スー(クラウス)
 
運転手 初心者レベルで久し振り
ハンドル握り 大丈夫!その内カン戻るから
景色見る余裕も無く安全かつ迅速に目的地へ

農家着
こんにちはー ベルネ生花店ですー
綺麗ーと感激つつも仕事は迅速
ありがとうございましたー
さあ次よ!
数件農家回る

花は
ガーベラ
カスミソウ
イベリン特有の花等
薔薇は必要数が多く収穫の手伝いも
パステルカラーの優しい色合いだね 可愛い
後はブルースターね
綺麗な花ね…(ちょっと物思いの表情
さ! 式場戻ろう

終了
ありがと(びっくり
奇遇ね とカスミソウ添えたブルースターを差出す
あなたの色だなーって気になってたの
花言葉は 幸福な愛 信じあう心 だって
えーと どうぞ?(照れ
困らせた?
声にほっと

彼の提案で一つのブーケに


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
 
フェルンさんと生花を仕入れに行きます。
式場側で今日予定してたブーケの希望を先に聞いて、花の種類・色を絞り込みます。先にプランナーが顧客の希望を聞いてるはずです。
薔薇とトルコキキョウ、ガーベラ、ラナンキュラスがあればラウンドブーケ出来ますね。キャスケードタイプにはカサブランカ、カラーに薔薇を。色は白、ピンクから紅や赤色、オレンジ。緑はアイビーで。
ヴォルフさんと契約の農家さんへ、先に形態電話で連絡。
必要な花があるかを尋ね、準備をお願いします。
早く持ってくればヴォルフさんがブーケを作る時間に余裕出来ますし。

フェルンさんの運転はとても安心です。
そして何だかワクワクします。
時間制限あるの緊迫感のせい?



水田 茉莉花(聖)
  お店の掃除完了、鉢植えにお水もあげたし、後はゆっくりお店番かな?
テレジアちゃん、壊れている所とか繕い物があったら言ってね
あ、それともお兄ちゃんに何か作ってあげようか?
(指編みのヘアバンドを教える)

ひーくんお帰りー、お勉強の邪魔はしちゃダメだからね!

いけない、薬を…大丈夫大丈夫、あたし達がついてるからね
そうだ、おやつはホットケーキにしようか?
発作が収まったら、一緒に作りましょ
ひーくんもお手伝いして…余計なことは言わないの!

ふふ、お腹いっぱいになったら寝ちゃったか
風邪引かないようにタオルケット掛けて…

ええと…『パパと相談』ってことは、もう一人の精霊の彼と相談ってことよね?
それって…!!(顔真っ赤)


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
 
会場の装飾とか諸々の準備を手伝います
他にも掃除とか、手伝える事があれば任せて下さいっ(家事

幸せな結婚式になりますように…
結婚した二人が末永く寄り添い添い遂げられますように…
と願いを込めながら装飾
用意が必要な物は大事に扱いつつせっせと準備
あ、大丈夫だよ。こういう雑事は慣れてるから

精霊が作ったブーケを見
わあ…綺麗……いいなぁ(ぼそ
そ、そういうわけじゃ…あ、も、戻るねっ(そそくさ

よいしょっ
ちょっと重い…けど、頑張らないと
えっ(取られてぽかん
結局この後軽いのしか持たせてくれず…

終了後
お疲れ様ガルヴァンさん

え、これ…
気…遣わせたのかな…でも
ありがとう…凄く嬉しい…

幸せな花嫁…結婚…
やっぱり…いいなぁ…


●千秋を経る思い
「うーむ……」
 ガルヴァン・ヴァールンガルドはブーケカタログを捲りながら唸る。
 花嫁の希望は『唯一無二のブーケ』なのだとか。
「実際の花嫁を見るに限るな」
 ガルヴァンは小さなスケッチブックを手に、花嫁の控え室に向かった。

 一方、アラノアは会場の装飾を手伝っていた。
 骨折した腕を三角巾で吊した痛々しい姿のクァーリーが会場内でビシバシ指示を飛ばす。
「リリーは入り口に左右対称! 胡蝶蘭は受付! その花瓶、角度NG! もう少し右に回す!」
 従業員たちが辟易する中、アラノアは嫌な顔ひとつせずせっせとその指示をこなす。
 会場から離れた控え室のドアが開閉する度に花嫁のドレスの裾がチラチラ。
 時折それに目を奪われつつも、アラノアは花を飾る指先に想いを込めた。
(幸せな結婚式になりますように……結婚した二人が、末永く寄り添い、添い遂げられますように……)

 デザインを固め制作室に戻るガルヴァンが会場の脇を通ると、アラノアがくるくると動き回っていた。
(随分忙しそうだな)
「手伝うか?」
「あ、大丈夫だよ。こういう雑事は慣れてるから」
「……そう、か」
 アラノアはガルヴァンの手伝いを颯爽と断り、次の仕事に向かってしまう。
 一通りの家事ならこなせるアラノアは、
「掃除でも何でも、手伝える事があれば任せて下さいっ!」
 と次々と雑用を請け負い、駆け回った。

 制作室ではガルヴァンのデザインを見たオーナーが感嘆の息を漏らしていた。
「ブーケと言うよりは大きなコサージュか宝飾品に近いが、斬新で花嫁のニーズにぴったりだ! それじゃ精霊さん、デザインに合わせてその花とその葉っぱを組んで、そこにリボンを……そう、そんな感じで」
 ガルヴァンもまた、時折オーナーにブーケ作りのコツを聞きながら、アラノア同様にその器用な指先に想いを込める。
(花嫁に似合い、その魅力をより引き立てるブーケを……)
 ブーケが仕上がった頃、アラノアが制作室に入ってきた。
 彼女の視線はガルヴァンの作ったブーケに注がれる。
(わぁ、綺麗……あれを持って結婚式かぁ……)
「いいなぁ……」
 無意識に出たアラノアの本音を、ガルヴァンは聞き逃さなかった。
「欲しいのか?」
「そ、そういう訳じゃ……あ、も、戻らなきゃ! オーナー、向こうに運ぶ箱、これですよね!」
 アラノアはそそくさと箱を抱え退室しようとするが、思いのほか箱が重い。
(お、重い……けど頑張らないと)
 よたよたと歩き出したアラノアだったが、不意に伸びてきたガルヴァンの手にその箱を奪われる。
「手伝おう」
「え?」
「お前は休め。オーナー、この箱は会場に運べばいいのか?」
「ああ、よろしくね」
 ぽかんとするアラノアをよそに、ガルヴァンは箱を持ち会場に向かった。
 それ以降、アラノアが持つ荷物は全てガルヴァンに検量され、彼女には軽い荷物だけが任されるのだった……。

 手伝いの甲斐あって結婚式は無事に行われた。
 ガルヴァンの作ったブーケは、花嫁の手元で陽の光を浴び宝石のように輝いている。
「お疲れ様。ブーケ、凄く素敵だね」
 会場の外から挙式を眺めながら、アラノアがガルヴァンを労った。
 すると、ガルヴァンはアラノアの手を取り、そっと小さなブーケを握らせる。
「アラノア、これ」
「えっ、これって……いいの?」
「材料が余ったから、ついでにな」
(気を遣わせちゃった……? でも、嬉しい……)
「ありがとう、凄く嬉しい……!」
 ブーケと共に笑みを湛えて見上げてくるアラノアに、ガルヴァンは胸の内でウェディングドレスをあてがう。
 だが、その時までに為すべき大事もある訳で……。
(我ながら早計か)
 苦笑しつつ、ガルヴァンは幸せそうな新郎新婦に再び目を移す。
 だが、待つは千秋、待たせるは一日である。
(幸せそうだなぁ……結婚かぁ、やっぱりいいなぁ……)
 アラノアは千秋を経るような思いで、贈られたブーケをそっと胸に抱きしめた。

●私たちらしい挙式を
「ガーデンウェディング会場のお手伝い、ですか?」
 かのんは花弁を外す手先を見つめたまま、天藍に問う。
「俺はてっきり、庭の作業を手伝うのかと……なぁ、これ使えるか?」
 天藍は四苦八苦しながら外したヨレヨレの花弁を恐る恐るかのんに差し出した。
 視線を上げたかのんは、思わず小さく吹き出す。
「ふふっ、プロならアウトでしょうが、天藍の真剣な気持ちが込められてる花びらですから、きっと大丈夫ですよ」

 かのんと天藍は会場裏の制作室に籠もり、挙式で使用するフラワーシャワー用の花弁を用意していた。
 かのんの本業はガーデナー、ウエディング用に庭をセッティングするのは得意だ。
 かのんがその腕を振るうものと思っていた天藍は、彼女が花弁を用意するだけの作業に甘んじている事が些か疑問でもあった。
「そうですね……」
 天藍の疑問に、かのんは言葉を選びながら答える。
「とてもやってみたい気持ちはあるのですけど、それならお仕事として契約を交わして正規の報酬を頂かないと……そうでないと、私がガーデナーとしてお庭の管理を請け負っている皆さんに申し訳ないと思うんです」
「確かにな……」
 天藍はふと、ヴォルフに対するオーナーの言動を思い出し、眉間に皺を寄せ頷いた。
(ヴォルフに対してでさえあの様子だったからな、かのんの生業を知ったらそれこそタダ働きさせられかねない……)
「……融通が利かないと思います?」
 眉間の皺の理由を少し勘違いしたかのんが不安げに天藍を見つめるが、天藍はふっと微笑み首を横に振った。
「そんな事はない。仕事と手伝いの線は引いた方が良いだろう。ところで……」
 天藍は花弁を扱う手を止める。
「かのんは、結婚式にしたい事……あるか?」
「え……?」
 突然の質問に、かのんの手も止まった。
「ええと……お天気の良い日にこぢんまりと……って、それは前からですね。すみません、新鮮味がなくて」
「いや」
(かのんらしい答えだ……)
「……強いて挙げるなら、ブーケやブートニアは私が育てた花で作れたら……って思ってます。最近咲き始めた薔薇が淡く青みがかっているので、あの花を使いたいのですよね……」
「ああ、あの花か……かのんがいつも大事に世話してるし、花の方もきっと喜ぶだろうな」

 外からはオーナーの忙しそうな声が聞こえてくる。
「それにしても、オーナーもいくら全額とはいえいつになるか分からない挙式の費用負担ってのはけちくさいよな。ヴォルフも相場より高めにふっかければ良いだろうに」
「でも天藍、ヴォルフさんは日頃のお付き合いもありますし、ご自身からは言いにくいんじゃないですか?」
「……それもそうか」
「ヴォルフさんより、オーナーに伝えた方が良いかもしれませんね……」
 というかのんの言葉に、天藍はニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。
(よし、オーナーにちくりと言ってやろう)
 その時、ちょうどオーナーが制作室のドアを開けた。
「作業は順調かい?」
 オーナーは、かのんが花の種類や色合い毎に几帳面に仕分けた花弁を見てパッと顔を輝かせる。
「素晴らしい!」
「ところでオーナー、ここで挙式をするとなると予算はどれ程用意したら良いだろうか?」
 天藍がわざとらしくオーナーに訊いた。
「ちなみに、人気のオプションを全部付けて披露宴もここで行って最高グレードの料理と引き出物を300人分……」
「ええっ!?」
 オーナーは天藍の言葉に狂喜乱舞しながら金額を提示する、が……。
「……というのがヴォルフの希望だ」
「……へ?」
「いやぁ、これ程高額の結婚式をオーナーに全額負担して貰えるとはヴォルフも果報者だな。盛大に頼むよ、オーナー」
「えっ、あの……」
 かのんと天藍という証人がいる以上、オーナーに逃げ場はない。
(天藍、容赦ないですね……)
 オーナーには同情するが、かのんも一職人として譲れない。
「こんな急な頼み事を請け負ってくれる方はそうはいないんですから……盛大にお願いします」

 かのん、天藍、グッジョブ!

●彼の欲しいもの
 オーナーに拘束されたヴォルフの代わりにベルネ生花店の店番を引き受けた水田 茉莉花は、
「掃除、完了! 鉢植えにお水、良し!」
 と、ヴォルフに言付かった業務を最終確認し、レジカウンターの椅子に腰を下ろす。
(さて、後はゆっくりお店番かな?)

 店とひと続きの居間からは、ヴォルフの妹・テレジアが茉莉花の様子を窺っていた。
 視線に気付いた茉莉花は、明るい笑みでテレジアに話しかける。
「テレジアちゃん、壊れている物とか繕い物があったら言ってね。あ、それともお兄ちゃんに何か作ってあげようか?」
「……うん」
 テレジアはカウンターまで来ると、茉莉花の隣の椅子に座った。
 茉莉花は指編みの材料をバッグから取り出すと、テレジアの指に掛け、一緒に動かし始める。
「ここをこうやって、こっちに通して……そうそう、出来たね!」
 テレジアの小さな手には、完成したヘアバンドが行儀良く乗っかっている。
「お兄ちゃん喜ぶかな……」
「もちろん!」
 テレジアはようやく茉莉花に笑顔を見せた。

「ただいまーママ、おねえちゃん!」
 そこに聖が学校から帰ってきた。
「ひーくんお帰りー」
 聖は帰るなり鞄を居間に放り投げ、
「おねえちゃん、いっしょにおり紙やろうよー!」
 と折り紙ケースを取り出す。
「私、お勉強が……」
 戸惑うテレジアの背後から、茉莉花が聖をぬっと見下ろした。
「ひーくん、お勉強の邪魔はしちゃダメだからね!」
「ぶーぶー、しかたないなー。おべんきょ先にやろ」
 聖はフグのように頬を膨らませながら鞄から教科書とノートを取り出す。
「ぼくもしゅくだいあるんですよ! おねえちゃん、いっしょにやろう!」
 一緒に問題を解いたり、僅かに年上のテレジアが聖に解き方を教えたりと、2人はキャッキャと楽しげに勉強を進め……
「やったー!」
 と、聖がノートと鉛筆を高く掲げた。
「しゅくだい早く終わっちゃった! おねえちゃんのおかげだ、ありがとー! それじゃおり紙やろう!」
 宿題の後は2人で折り紙遊びに興じる。
「おねえちゃん、これぱくぱくカエルだよー!」
「聖くん上手、ね……ううっ……」
 笑っていたテレジアが突然胸を押さえてうずくまりだした。
「あれっ、ママ、おねえちゃんが!」
 聖の声に、茉莉花はカウンターから颯爽と居間に駆け込む。
「いけない、薬を……!」
 茉莉花は予めヴォルフに言われていた通り、戸棚から発作の薬を出しテレジアに飲ませた。
「大丈夫大丈夫、あたしたちが付いてるからね」
 茉莉花は優しくテレジアの背中をさすりながら、気持ちを上向かせようとおやつの話題を出す。
「そうだ、おやつはホットケーキにしようか? 発作が収まったら、一緒に作りましょ。ひーくんもお手伝いしてね」
「はい! おねえちゃん、ママのホットケーキはときどきこげるけどおいしいんだよ」
「ひーくん! 余計な事は言わないの!」

 体調の落ち着いたテレジアと共に3人で作ったホットケーキは……やっぱり少し焦げていた。
「ママー、ぼくはシロップいっぱいで三だん重ね、おねえちゃんは?」
「私はバターとホイップクリーム」
「うわー、それもおいしそう!」
「はいはい、それじゃ向こうで待っててね!」

 おやつの後、洗い物を終えて茉莉花が居間に戻ると、聖とテレジアは寄り添うように畳に転がり寝息を立てていた。
(ふふ、お腹いっぱいになったら寝ちゃったか)
 茉莉花は2人が風邪を引かないよう、タオルケットを探してきてそっと掛ける。
 その直後、突如聖が起き上がり、寝ぼけ眼のまま衝撃の台詞を口にした。
「ママ、パパとそうだんしてください……ぼくもきょうだいがほしいです……」
「えっ……」
 聖は再び畳に転がった。
 どうやら本当に寝ぼけていたようだが、茉莉花の顔は一気に紅潮する。
(ええと……『パパと相談』ってことは、ほづみさんと相談って事よね? それって……!!)
 今の茉莉花にも、発作の薬が必要かもしれない……。

●ワクワクなおつかい
「はい、トルコキキョウとガーベラ、ラナンキュラスを……。それと、カサブランカとカラーとバラ、出来ればアイビーも……えっ、はい、それで構いません。それではこれから向かいます」
 瀬谷 瑞希は『ベルネ生花店』の車の助手席に座り、プランナーから借りた顧客ファイルを素早く捲りながら花農家に電話を掛けていた。
 その間に、運転席のフェルン・ミュラーは地図で農家の場所を確認しながら、そのルートを頭の中でシミュレートする。
「最初の挙式まであまり時間もないだろうし、そろそろ出発するよ」
 フェルンは瑞希が電話を切る前にエンジンを掛け、運転を始めた。

「最初の花嫁さんはラウンドブーケを希望、ピンクのトルコキキョウ15本にガーベラとラナンキュラスを各8本、あとの花嫁さんは全員キャスケードブーケですが、紅ベースと白ベースとオレンジベースで……」
 瑞希とフェルンは必要な花の種類や色、本数を車内で再確認しながら農家へと急ぐ。
 スピードメーターは法定速度ギリギリだが、フェルンの運転は急停止も急加速もなく実に快適だ。
「フェルンさんの運転は安心出来ます」
 一通りの確認作業を終えた瑞希の顔に笑顔が浮かんだ。
「運転には自信があるしね」
「それに……」
「それに、何だい?」
 運転中のフェルンが瑞希に言葉の続きを促すと、彼女は
「何だかワクワクします……じ、時間制限のせいで緊張感があるからでしょうか……っ」
 と答え窓の外の方を向いてしまう。
 だが、窓ガラスに映る彼女がほんの少し頬を赤らめて微笑んでいるのを、フェルンはちらりとだが見逃さなかった。
「理由は何でも構わないさ。ミズキが幸せそうに笑ってくれるなら何でも、ね」
「フェルンさん……」
 フェルンの直球に瑞希の頬はパッと桃色に染まる。

 『外じゃこんなにお花畑が広がってるんだ! 君たちもお花畑モードになっちゃいなYO!』(天の声)

「それにしても、それだけ多くの花を一軒の農家で用立てられるのかい?」
 フェルンはふと心配になり、瑞希に確認する。
「はい、何とかなるそうです。ただ、ひとつ条件があるそうで……」
「条件?」

 提示された『条件』が何か聞く前に、車は農家に到着してしまった。
「こんにちはー」
 瑞希がビニールハウスに入ると、農家の主人が汗を拭きつつ迎えてくれる。
「やあ、君たちがヴォルフ君の代理のウィンクルムさんだね」
「急な事とはいえ、無理をお願いして申し訳ない」
 フェルンが丁寧に頭を下げると、主人は慌てて手を振った。
「何を謝るのさ! 神人さんから事前に発注内容を聞いていたからね、大抵の花は今し方用意出来た所さ。ただ……」
 主人は困った様子で頭を掻く。
「バラの収穫だけがまだ終わらなくてな。それだけ手伝ってもらえれば全部揃うんだが……」
 フェルンはミズキに耳打ちした。
「『条件』って、収穫の手伝い?」
「はい……」
 申し訳なさげに目を伏せる瑞希がどうにも可憐で、フェルンはニコリと微笑む。
「いいじゃないか。人手が多い方が早く終わる」

「ミズキ、そこ持って」
「フェルンさん、慎重にですよ」
「うん、任せて……」
 2人は息を合わせ1本ずつ丁寧にバラを収穫すると、本数を確認し他の花と共に車に積み込んだ。
「うん、どれもいい花だ。結婚式に相応しいね」
「そう言って貰えると農家冥利に尽きるねぇ。お二人さんの結婚式では、是非俺が育てた花を使ってくれよ!」
 そう、主人はちゃっかり遠目に愛でていたのだ。
 2人が仲睦まじくバラをチョッキンしている所を。
 そして確信したのだ……この2人、ゴールインは射程内だと!

「迅速且つ慎重に運ばなければいけないせいでしょうか……帰りの方がよりワクワクします」
 車窓を流れる景色を澄んだ瞳に映しながら、瑞希はこっそり甘い溜め息を吐いた。
「いつかまたここに来たら、その時はミズキのためのブーケに使う花を仕入れよう。想像しただけで俺もワクワクするよ」
「えっ……!」
 瑞希のワクワクが急上昇したのは、言うまでもない……。

●あなた色の花
「大丈夫か?」
 助手席から心配そうに尋ねるクラウスに、運転席のシルキア・スーは
「大丈夫! 運転してるうちにカンも戻るから!」
 と力強く宣言する……
 が、ハンドルを握るその手はガッチガチだ。
 何せ彼女が車を運転するのは久し振りの事で、しかも初心者レベル。
 緊張するのも無理はない。
「う、うむ……よろしく頼む」
(出来る限りのサポートをせねば……)
 ヴォルフが農家までの道筋を赤ペンで記してくれた地図を手に、運転免許を持たないクラウスはそう決意するのだった。

 ガッチガチではあるが、シルキアは安全且つ迅速に目的地を目指す。
「こんにちはー、ベルネ生花店でーす」
 最初の農家ではガーベラとカスミソウを仕入れる。
「わぁ、綺麗ー!」
 運転中はまともに花畑の風景を見られなかったシルキアが、ハウス内を埋め尽くすように咲くガーベラとカスミソウを前にパッと笑顔を咲かせた。
「ガーベラか……確か、愛と勇気の花だったな」
 収穫を終えた花をせっせと車に積み込みながら、2人は会話を弾ませる。
「うん。花言葉もそういうのが多いかな。『元気』とか『思いやり』とか……」
 そう言って微笑むシルキアとガーベラをクラウスは交互に見やる。
(シルキアのような花だ……)
「さあ次よ!」
 ガーベラを見つめ物思いに耽っていたクラウスは、シルキアの元気な声で我に返り慌てて助手席に乗り込んだ。

 次の農家ではイベリン特有の花を仕入れ、最後の農家では広大なバラ園で収穫作業まで手伝う事となった。
「悪いねぇ……」
「いいえ、こちらもバラは沢山必要ですし、手伝わせて下さい。あのバラ、パステルカラーで優しい色合い……可愛いっ!」
 シルキアは満面の笑みを浮かべながらバラ園に飛び込み収穫を手伝う。
 そんな彼女をクラウスは半ば恍惚気味に眺めた。
 花嫁を飾る代表的な花『バラ』の中で幸せそうに笑うシルキアが、クラウスの中で瞬く間に純白のドレスを纏う。
 彼女の隣には清廉で厳かなタキシードに身を包むクラウス自身……
「は……はっ!」
 クラウスはぶんぶんと首を振り甘美な幻を振り払った。
(……イベリンの空気のせいか?)
 そこに農家の主人が収穫したブルースターを運んできた。
「綺麗な花ね……」
 手伝いを終えたシルキアも青く澄んだ花の色にうっとりする。
(まるでクラウスみたい……)
「シルキア?」
 沈黙するシルキアにクラウスが声を掛けた。
「っ! さ、式場に戻ろう! ご主人、ありがとうございましたー」
 そそくさと車に戻るシルキアに首を傾げつつ、クラウスも後に続いた。
 帰りの車内では、やっと景色を楽しむ余裕の出来たシルキアが上機嫌でハンドルを捌く。
「思いがけない事になったが楽しかったな」
「うん!」

 仕入れた花を全て運び込んだ2人は、式場を出る前に互いを呼び止める。
「さっきヴォルフに少し分けて貰った」
 クラウスが先にシルキアに何かを手渡す。
 驚く彼女の手の中には、黄色とオレンジのガーベラ。
「お前を象徴する花だと思ってな……お疲れ様」
「っ、ありがと! 実は私も……」
 と、シルキアはカスミソウを添えたブルースターを差し出した。
「奇遇ね、私も彼に分けて貰ったの。あなたの色だなーって気になって……花言葉は『幸福な愛』『信じ合う心』だって。えーと、どうぞ……?」
 照れ隠しに語尾を上げながら花を渡されクラウスは目を見開く。
「……困らせた?」
「いや、その……受け取ってもいいのか? 『幸福な愛』を」
 クラウスの穏やかな声色に短く安堵の息を吐き、シルキアは笑顔で頷いた。
 その笑顔の破壊力たるや……!
 クラウスは思わずシルキアを抱き寄せる。
 まだ僅かに踏ん張る理性がその抱擁を控え目にさせるが、溢れる思いは止められない。
「ありがとう……」
 クラウスはシルキアの耳元で優しく囁いた。

 後にこの時互いに捧げた花は1つのブーケとなり、シルキアの部屋に大事に飾られたのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北織 翼
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月10日
出発日 06月16日 00:00
予定納品日 06月26日

参加者

会議室

  • [5]かのん

    2017/06/14-20:14 

    こんにちは、かのんとパートナーの天藍です
    よろしくお願いします
    私達は1でお手伝いを予定しています

  • [4]アラノア

    2017/06/14-18:36 

    アラノアとガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

    私達は1で式場のお手伝いをしようかなと思っています。

  • [3]瀬谷 瑞希

    2017/06/14-00:12 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    私達は1と3どちらにしようか、迷っているところです。
    もう少し考えてみます。

  • [2]水田 茉莉花

    2017/06/13-16:06 

    ひじりです、ママといっしょに『2』のお店番に行こうと思います。
    みなさん、よろしくおねがいします。

  • [1]シルキア・スー

    2017/06/13-14:26 

    シルキアとクラウスです。
    よろしくお願いします。


PAGE TOP