プロローグ
「ちょっとそこのあなたたちっ!」
イベリンの大きなフラワーパーク前を歩いていたあなたたちは、不意に、公園の中で写生をしていた男に呼び止められた。
「あなたたちよあなたたちっ、ちょっと協力してちょうだい!」
男は結構いい身なりだったが、妙に女っぽい喋りをしている。
「はい……俺達ですか?」
精霊は怪訝そうに男に答えた。
「そうよ。私はメイヤー! あなたたち、是非、私のモデルになって欲しいのよっ!」
メイヤーは現在、イベリンでも有名な画家である。
フラワーパーク近くの広大な邸宅に招かれて、ウィンクルムは説明を受けた。
メイヤーは、今度、大聖堂の大ホールに「結婚式」をイメージさせる絵を描く事になった。
そのため、公園や各地に出かけていいイメージが降りてくるのを待っていたのだが、なかなかうまくいかない。
「そこにあなたたちが現れたのよ。これだ! って思ったわね。是非、モデルになってちょうだい。結婚式の衣装や小物だったら何でもそろえてあるし、注文があったら出来る限り受けてあげるから!!」
そう言ってメイヤーはウィンクルムの前に数々の結婚衣装を引き出して来た。
オーソドックスな教会式の衣装に小物、ブーケ。
神前式用の白無垢や袴、それに三三九度の杯。
それらは勿論、アラビア風だったり東南アジア風だったり……メイヤーも画家としてのプライドもあり、大聖堂に飾る絵だと言うこともあり、あらゆる衣装をそろえてイメージをひねり出そうとしていたのだろう。
「この邸宅の中にも小さいな聖堂や庭はあるわ。今が時期の薔薇園はちょっと自慢よ。そこでモデルになってくれても構わないわ」
メイヤーがそう言って窓を開けると、色とりどりの薔薇が咲き乱れるちょっとした庭が見る事が出来た。その隣には屋敷の人間が使うのだろう、こじんまりとした聖堂。
人前で恥ずかしいと思ったらこちらがいいかもしれない。
「あと、近所のフラワーパークもいいわね。あそこでは、よく結婚式のパーティが開かれているのよ。花と音楽のイベリンだもの。フラワーパークの広々とした花畑には季節の花がいっぱいよ。そこで、我が家の楽隊の音楽を流しながら、疑似結婚式をしたり、愛を語ったりして私にイメージを授けて欲しいの」
メイヤーは真剣な表情でそう言った。
「それでも無理だったら、何なら大聖堂の関係者に私が話すわ。大聖堂の一部を実際に貸し切って、そこでポーズを取ったり結婚式の真似をしたりして、ウィンクルムの愛を見せて欲しいの! 私だってプロよ、仕事の鬼って言われたっていい、素晴らしい絵を描くためならなんだってやるわ!!」
メイヤーは芸術家魂を燃え上がらせている。
「は、はあ……。衣装やら準備は嬉しいんですが……。それで私達は、具体的に何をすれば」
あなたはメイヤーの勢いに押されながらそれを尋ねた。
「結婚式を思わせるポーズを取ったり、愛を語って見つめ合ったりして欲しいのよ! 結婚式の真似をしたいって言うなら、出来る限り準備してあげる。あるいはプロポーズがしたいなら、何でもサポートしてあげる。それだけじゃない、結婚、愛の絆、永遠の愛……それらを感じさせる言動を取って、私のモデルとして、イメージを授けて欲しいのよ! 私だって大聖堂に飾る絵だもの、本気なのよ!!」
「はあ……それじゃ、例えば花畑の真ん中でキスとか……?」
「それが結婚と言う永遠の愛の絆を感じさせる事ならOKよ! 是非やって!! あなたたちの思う結婚って、結婚式って、どんな感じか全力で表現して!! 私は芸術家だから既存のやり方に縛られないわよ!!」
目を血走らせながらメイヤーは叫んだ。
さて、結婚式ならば、ウェディングドレスでも白無垢でも、アラビア風でも中華風でも何でもそろえられるらしい。金持ち画家メイヤーは自分の芸術のために全力でサポートするようだ。
あなたたちは、メイヤーに協力するだろうか!?
解説
※まずはイベリンまでの移動費で、一律300Jrちょうだいします。
※個別エピソードになります。
イベリンの高名な金持ち画家メイヤーが、大聖堂に飾る「結婚」の絵を依頼されています。しかし、うまくイメージが湧かずに四苦八苦していたところ、通りがかりのあなた達に声をかけ、モデルになってくれるように頼みました。
※結婚衣装や小物はウェディングドレスから白無垢、中華、アラビア、なんでもそろえます。
※場所は、
・メイヤー宅の薔薇園か小さな聖堂(人目を避けるのに有効)
・近所のフラワーパーク(メイヤー家楽隊つき)、
・大聖堂一部貸し切り(牧師や神職が協力してくれます)
これらのうちで好きな場所を選んでください。
※そこで、メイヤーのインスピレーションが湧くような、「結婚」「永遠の愛」「愛の絆」を感じさせる行動を取ってください。キスする、愛を語る、プロポーズを行う、ハグ、あるいは自分なりの幸せな結婚や結婚式のイメージなどなど……。
※必要であれば、料理やケーキなどもメイヤーが準備してくれます。
ゲームマスターより
ウィンクルムの数だけ、「二人の結婚」の形があり「理想の結婚式」があると思います。それを芸術家のサポートを受けて思い切って表現してください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
小さな聖堂 白のウェディングドレス トレーンやベールは長く 裾に花の刺繍やレース 淡いピンクの薔薇で 自分でブーケを 大好きな人と一緒に結婚式の真似事となんて 何だか照れる シリウスを見て赤く ブーケと同じ薔薇で作ったコサージュを そっと彼の胸に 理想の結婚式? …その、絵本みたいな、ステンドグラスの綺麗な教会で 段々頬が赤く 声が小さく シリウスは? 答えに下を向くが 綺麗な翡翠の目に 見慣れない不安気な色を見つけて 健やかなる時も病める時も 喜びの時も悲しみの時も あなたを愛し助け その命ある限り真心を尽くすことを誓います ぽかんとしたシリウスに真っ赤になりながら …だって 理想の結婚式だもの 大好きなひとと幸せになるのが 理想でしょう? |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
場所:メイヤーさん宅の小さな聖堂。 ドレスはマーメイドタイプでシンプルなイメージのもの。 聖堂で、フェルンさんと寄りそってお互いをどう思っているのかを語り合いたいです。小さめの声で、こっそりと。 私、危険な任務の時フェルンさんをいつも危ない目に遭わせていると、心苦しく思うの。私自身よりフェルンさんの方がいつも危ない目に遭ってるもの。 フェルンさんは心がとても強いですね。 間近で彼に囁くように話してもらって、手を握って貰ってとてもドキドキ。 私もずっとフェルンさんと一緒に居たいです。一緒だととても安心します。 あなたのおかげで色々な事を知りました。 これからも一緒に過ごしたいです。一緒に思い出を重ねてゆきたい。 |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
これは人助け、人助け…(言い聞かせ 衣装 ウェディングドレス他お任せ 綺麗なドレスに大きな邸宅 夢みたい…でもこれ、私だけ浮いてる…よね…? 薔薇園 薔薇に見惚れながら歩き 聖堂の前に立つ精霊の姿が美しい絵画のようで …これ、私いなくてもよくないかな…(落ち込む 不意に精霊が近付いてきて あ… あの…その… 言葉に戸惑う ド、ドレスが…だよね?(自惚れたくない 言い直された…(逃げ道無い 私は…一生一緒に幸せに生きていけるのが一番…と思う その… 私、ガルヴァンさんの事っずっと好きだからねっ 待ってるからでは返事の催促のようで咄嗟に言い変えたら色々と墓穴で恥ずかし 雰囲気を出す為だとしても嬉しくて照れ笑う 今だけ夢見ても…いいよね? |
西島 紫織(新藤 恭一郎)
えっ このウェディングドレスを着ろと!? 私は白無垢じゃないと嫌です! スレンダーなんて体の良い誤魔化し用語 要はヤセギス 凹凸も残念なんです! 露出はダメです ダメェ! 抵抗虚しく恭一郎さんの睨みに負けドレス姿に テンションだだ下がり でも聖堂で向き合うとやけに優しくて…どうしちゃったの? 白無垢に拘るのは体型のせいだけじゃない 親を早くに亡くし祖母が母代わりだった 古風な祖母に見せるなら白無垢しかないと思っていたから でも その祖母も数年前に他界 誰に見せるものでもないなら 彼の希望に添ってあげたい 私も本当はドレスが好き ただ 好きな人を貧相な姿で幻滅させたくなくて… 彼の言葉で気持ちも上向く (よく見ると 恭一郎さんかっこ良過ぎ) |
●アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)編
今日、アラノアと精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドは、イベリンで結婚式の真似をすることになりました。
高名な画家のメイヤーに、是非、モデルになってくれと頼まれたのです。
(これは人助け、人助け…)
アラノアは自分に言い聞かせながら、純白のウェディングドレスに着替えました。裾とヴェールを長く垂らすオーソドックスなものです。
清楚でありながら華美なドレスに身を包みながら、アラノアはメイヤーの広々とした邸宅を見回します。画家であるメイヤーはインテリアやエクステリアも大変品がよく、さながら王侯貴族のような空間に暮らしているのでした。そこで美しいドレスに着替えると、アラノアも不思議な気分になってくるのです。
(夢みたい…でもこれ、私だけ浮いてる…よね…?)
自分に自信のないアラノアはためらいがちに俯いてしまいます。
一方、ガルヴァンはアラノアに合わせたタキシードに着替えながらメイヤーに共感していました。
(ふとした時に降りてくるのは分かるぞ…)
ガルヴァンはジュエルデザイナーなので、メイヤーと同じく閃きが大切な職業なのです。それもあって彼に協力しようと思ったのかもしれませんでした。
着替えをすませたアラノアは邸宅の薔薇園に向かいました。
そこでガルヴァンと待ち合わせているのです。
「綺麗……」
アラノアは思わず薔薇の美しさに見とれてため息をつきました。
薔薇園の向こう、聖堂の前では先に来たガルヴァンがアラノアを待っています。その間、見事に咲き誇る薔薇を眺めていました。
(自慢するだけはあるな……)
クールなガルヴァンも感心してしまうほど、薔薇たちは美しく整えられ馥郁たる香りを放っていました。
ガルヴァンはアラノアの気配に気がつき、振り返りました。
「……!」
たちまち、純白のウェディングドレスを纏うアラノアに心を奪われてしまいます。薔薇園の中に佇む彼女の姿は、なんだか非現実的な幻想の姫君のように見えてしまいました。
ガルヴァンは確かめるように近づいて行きます。
一方、アラノアの方も、ガルヴァンの姿に息を飲んでいました。聖堂の前に凛と立つ、正装の精霊の姿は、美しい絵画にしか見えなかったのです。
(……これ、私いなくてもよくないかな……)
アラノアは自信のなさ故にたちまち落ち込んでしまいました。
そこに、ガルヴァンが進み出、アラノアへと近づいてきました。
「あ……あの、その……」
アラノアは思わず目を泳がせながらわずかに後ずさりをします。
「アラノア……」
不意に、ガルヴァンは手を伸ばし、アラノアを抱き締めました。
「……綺麗だ」
深く彼女を胸に抱き取りながら、ガルヴァンは感動を殺した声で囁いたのです。
アラノアはその言葉に戸惑いました。
「ド、ドレスが……だよね?」
ガルヴァンの前でうぬぼれた子と思われたくなかったのです。
ガルヴァンはアラノアの手を取り、彼女を真っ直ぐに見つめます。
「……お前が、綺麗だ」
薔薇が彼女の恥じらう姿を引き立てて、やはり磨けば光るタイプだったとガルヴァンは確信します。
(言い直された……)
アラノアは逃げ道を失って、ますます狼狽えて沈黙しました。
「結婚とはなんだろうな……」
そんなアラノアを見据えながらガルヴァンが言います。
「私は……一生、一緒に幸せに生きていけるのが一番……と思う」
「幸せ……か……」
「その……私、ガルヴァンさんの事っ、ずっと好きだからねっ」
ガルヴァンはアラノアの宣言に顔を綻ばせます。
「ああ……これからも、この先も、俺はお前を守ると誓う」
アラノアはほのかに赤くなります。待ってるからでは、返事の催促のようで、咄嗟に言い換えたら色々と墓穴で恥ずかしく、雰囲気を出すためだとしても、嬉しくて照れて笑いました。
ガルヴァンは彼女との将来を想像しながら、互いの顔を見合わせました。
自然と幸福感が心に満ちていきます。それがずっと、ずっと、続くのが、結婚なのでしょうか。
(一生、一緒に生きていく……か。待っていてくれ)
ガルヴァンは未来の花嫁に願いました。
(今だけ、夢見ても……いいよね?)
花嫁衣装で、ガルヴァンの胸の中、アラノアは幸せな夢を見ていると思いました。その夢はいつかきっとかなうのです。
●西島 紫織(新藤 恭一郎)編
イベリンの高名な画家メイヤーの依頼に対して、西島 紫織の精霊新藤 恭一郎はこう思いました。
(成程。告白もプロポーズも親に殴られる心配もなく紫織と結婚式ごっことは、ノーリスクハイリターン万歳だな)
そうと決めたら善は急げです。恭一郎は紫織の意志も確かめずにさっさと話を進めてしまったのでした。
「メイヤーさんの聖堂をお借りしよう。俺はグレーのタキシードで紫織はプリンセスラインのウエディングドレス…」
そこで普段は大人しい紫織が叫びました。
「私は白無垢じゃないと嫌です! スレンダーなんて体の良い誤魔化し用語! 要はヤセギス! 凹凸も残念なんです! 露出はダメです ダメェ!」
紫織、本気の抵抗です。
「何!? 露出のない白無垢がいいだと!?」
恭一郎はたちまち顔色を変えました。
(俺は君のドレス姿が見たいんだ!)
言えばいいのにその本音が言えません。
「ならば強制執行だ」
そう宣言する恭一郎の睥睨の恐ろしい事。
抵抗虚しく、紫織は負けて、メイヤーの邸宅でウェディングドレスに着替えました。もうテンションだだ下がりです。
恭一郎は恭一郎で白のタキシードに着替え、げんなりしている紫織を小さな聖堂に連れて行きました。
(だが……こう項垂れている紫織では、メイヤーさんの創作意欲が削がれそうだな。ここはひとつ俺も男を見せなければ)
恭一郎としては、高名な画家のメイヤーがイベリンの大聖堂に捧げる絵が、自分と紫織の結婚式であるという事にも強い意義があるのでした。
俺達の愛を見ろ! 俺の紫織の美しさを見ろ! ……という感じです。しかしそのとき肝心の紫織が泣きそうな顔でうつむいていたら残念な事になってしまいます。
恭一郎は小さな聖堂で彼女に向き合うと、問いかけました。
「何故、白無垢にこだわる?」
優しく尋ねてくる恭一郎に、紫織は驚きました。
(……どうしちゃったの?)
ですが、紫織は素直に答えました。
紫織が白無垢にこだわるのは体型のせいだけではありません。親を早くになくして祖母が母代わりだったのです。古風な祖母に見せるのならば、白無垢しかないと思っていたのでした。その祖母も数年前に他界しています。
恭一郎はその答えを聞いて納得しました。
「そうか…俺たちはまだ互いを知らな過ぎたな」
紫織は心の中で密かに思います。
(誰に見せるものでもないなら 彼の希望に添ってあげたい。私も本当はドレスが好き。ただ、好きな人を貧相な姿で幻滅させたくなくて…)
そう考えると思わずうつむいてしまいました。
「結婚など意識する必要は無い 今日は互いを知る決意記念日にしよう」
恭一郎は聖堂でそう宣言しました。
これが今言える誓いの言葉でした。
彼女の事を知りたい、彼女の事を分かってあげたい、そういう欲求は恭一郎の中にもあるのです。
(綺麗だ。俺は今日また君に恋をした)
恭一郎は紫織を見つめながらそうした強い感情に襲われました。
紫織の方も、恭一郎の言葉で心が上向いてきます。
そうすると自然と顔が上がって恭一郎を見つめました。
(よく見ると、恭一郎さんかっこ良過ぎ……!)
元がそつのないイケメンである恭一郎がタキシードの正装に着替えて聖堂に立つ姿はそれこそ一枚の絵のようでした。
彼の造型の良さは知っていましたが、彼からの言葉を受けた上で、その花婿の姿を見ると全く別格の衝撃があったのです。
(そういえば、私は恭一郎さんの何を知っているんだろう。ドSで、意地悪で……イケメンで外面は紳士で。他に何を?)
恭一郎は自分の事を知りたいと言ってくれています。それに対して紫織も、彼の事、彼の内面を知りたいとそんな素直な気持ちが湧いてきました。
ですがそれをまだ口にすることは出来ません。今まで、彼に受けたドS行為の記憶の数々が、躊躇させてしまうのです。
「紫織?」
恭一郎が問いかけると、紫織はちょっと視線を下の方にさまよわせてしまいました。
「は、はい……」
自信のなさそうな弱い声音で恐る恐る紫織は返事をします。
(彼の事を知りたいと思うけど――でも)
そんな躊躇や気後れから一歩を踏み出せる日は、そう遠くないかもしれません。
●リチェルカーレ(シリウス)編
その日、リチェルカーレと精霊のシリウスは、イベリンの高名な画家メイヤーの絵画のモデルになりました。
リチェルカーレは早速、彼の邸宅でウェディングドレスに着替えます。
真っ白なウェディングドレスで、トレーンやベールは長く、裾に花の刺繍やレースのある清楚ながら華やかな装いでした。
そして淡いピンクの薔薇で自分でブーケを作ります。
一方、シリウスの方は、白のタキシードに濃紺のベストです。
二人は聖堂で向かい合って立ちました。
(大好きな人と一緒に結婚式のまねごとなんて……)
リチェルカーレはなんだか照れてしまいます。
そしてシリウスを見て赤くなりました。赤面しつつもブーケと同じ薔薇で作ったコサージュを、そっと彼の胸に添えます。
シリウスは、白いドレスを着た彼女は素直に綺麗だと思えました。はにかんだ笑顔に、わずかに笑顔を返します。
「ありがとう」
小声で彼女に囁きました。
かつては花なんて自分に決して似合わないと、顔を背けていたかもしれません。ですが、今のシリウスは、リチェルカーレから送られる花や、彼女が見せてくれる優しい気遣いは全て素直に受け取れるようになっていました。
光の中の彼女は、本当に天使のようでした。シリウスは少しぼうっとしていたかもしれません。
「理想の式は?」
メイヤーが問いかけました。
「理想の結婚式? …その、絵本みたいな、ステンドグラスの綺麗な教会で」
そう答えながら、リチェルカーレは、だんだん頬が赤く、声が小さくなっていきました。
女の子なら誰でも夢見るような、神聖で美しくて女神ジェンマ様に祝福された結婚式。それがリチェルカーレの理想でした。
もしも相手を選ぶのならば、それはやはりシリウスと。
「シリウスは?」
リチェルカーレは上目遣いで彼に尋ねます。
「……結婚なんて想像がつかない」
シリウスは不用意にもそう答えてしまいました。
リチェルカーレは瞬間的に、その答えに対して顔を伏せてしまいました。
……もしも相手を選んでいいのならば、それはやはり彼で。
シリウス以外は考えられかったのです。
そのショックを受けた顔に、シリウスは『結婚は考えていない』と誤解させた事に気づきました。
慌てて彼女の手をつかみます。
「違う。そうじゃなくて。そんな幸せになる権利があると思えなくて」
リチェルカーレは彼の綺麗な翡翠の目に、見慣れない不安げな色を見つけました。クールな彼がそこまで感情を表して、動揺を見せるのは滅多にないことです。
その動揺が本物ならば――リチェルカーレは、そっと口を開きました。
「健やかなる時も病める時も 喜びの時も悲しみの時も あなたを愛し助け その命ある限り真心を尽くすことを誓います」
シリウスは誓いの言葉に目を見開きました。
誰よりもいとおしいと想うリチェルカーレ。
ぽかんとしたシリウスに真っ赤になりながら、リチェルカーレは言いました。
「…だって。理想の結婚式だもの。大好きなひとと幸せになるのが理想でしょう?」
誰よりも、誰よりも、いとおしいリチェルカーレ。
一拍おいてから、シリウスは柔らかい笑顔を彼女に向けます。
シリウスは彼女を引き寄せて抱き締めました。
大好きな人と幸せになりたいと彼女は言います。
大好きな人とは自分の事。幸せになりたい相手も自分の事。
それが、彼女の本心であることが、シリウスには分かります。
これはたかだか結婚式のまねごとであるにしても、彼女が理想だというのならば――それはきっと本当の事。
シリウスは胸にずっと凝っていた闇が消えて行くのを感じました。彼女の存在で。彼女の言葉で。
そしてリチェルカーレにだけ聞こえる声で誓いの言葉を囁きます。
「健やかなる時も病める時も 喜びの時も悲しみの時も あなたを愛し助け その命ある限り真心を尽くすことを誓います」
そしてシリウスはそっと優しくリチェルカーレの唇に唇を重ね、ひそやかで厳正なキスを行いました。
幸せで、とても神聖な空間がそこに生まれます。
ああ、確かに、自分は何かにゆるされて、幸せになっていいのだと。彼女の手を取って、ずっとずっと幸せでいていいのだと、シリウスが心から思えた瞬間なのでした。
●瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)編
その日、瀬谷 瑞希は、精霊のフェルン・ミュラーと、イベリンの高名な画家メイヤーの結婚式の絵画のモデルになることになりました。
瑞希とフェルンが場所に選んだのは彼の邸宅の小さな聖堂です。
瑞希は衣装はマーメイドタイプでシンプルなイメージのものを選びました。
フェルンも白のタキシードに着替えて、二人で小さな聖堂へと向かいます。
(良い機会なので、お互いの事をどう思っているかをゆっくり話そう)
フェルンはそう思いました。
奇遇にも、瑞希も同じ事を考えていました。
(聖堂で、フェルンさんと寄りそってお互いをどう思っているのかを語り合いたいです。小さめの声で、こっそりと)
二人は聖堂に着きました。
「ミズキ、少し話そう」
「フェルンさん、同じ事を考えていました」
なんだか嬉しくて二人は笑顔をかわします。
それから二人は、祭壇の前に並んでいる木の椅子に並んで腰掛けて話し始めました。
「私、危険な任務の時フェルンさんをいつも危ない目に遭わせていると、心苦しく思うの。私自身よりフェルンさんの方がいつも危ない目に遭ってるもの」
瑞希は以前から気にしていた事を話しました。
フェルンは少し驚いたようでした。
「俺は親友やそのパートナーを、ミズキと出会う前に亡くしてしまったから。君の事は何があっても絶対に護りたいと考えているんだよ。後に残される辛さを良く解っているから、君を護るだけじゃなく、自分も絶対に生き残る事をいつも考えているよ」
「そうなんですか?」
瑞希は彼の事を見上げました。
かつて水鏡を通して教えてくれた彼の過去。
瑞希と同じ「ミズキ」という名前だった彼の親友。
失った過去があるからこそ、フェルンは今を大切に強く生きたいと願っているのかもしれません。
「だって何かあったらミズキがとても悲しい想いをするし、その罪悪感を一生持ち続ける事にもなるだろう。そんな想いはさせないよ。
だから、君が気にすることはないんだよ」
「フェルンさん……」
ただ自分が強くありたいと願うだけではなく、彼は神人である瑞希の事もしっかりと気づいていました。
微かに感動してしまい、瑞希は尊敬の眼差しを精霊へと向けます。
「それより、一緒に過ごせて、君が色々な表情を俺に見せてくれるのがとても嬉しい。一緒に楽しい時を過ごしていきたいよ」
フェルンはそっと瑞希の手を握ってそう言いました。
瑞希はふと笑って顔を綻ばせました。
「フェルンさんは心がとても強いですね」
瑞希は間近で彼に囁くように話してもらい、手を握ってもらって何だか心がとても高揚してきました。鼓動が高鳴っているのが自分で分かります。
「私もずっとフェルンさんと一緒に居たいです。一緒だととても安心します。あなたのおかげで色々な事を知りました。これからも一緒に過ごしたいです。一緒に思い出を重ねてゆきたい」
聖堂で微かに頬を紅潮させながら瑞希が言いました。
フェルンはなんとなく錯覚を覚えました。
古代の森で天体観測をした冬の事――。
そう、この小さな聖堂は、あの広大な古代の森の聖夜と同じ厳粛さと神聖さを持っているのだと。
一瞬、フェルンはあの聖夜で、瑞希から不意打ちの告白を受けた刹那に、時空が戻ったような心地に駆られました。
それは錯覚に過ぎなかったのですが。
(星々と同じぐらい、ずっとフェルンさんと一緒に居たいです)
百年、千年、一万年を超えて、あの瞬間に心が通じ合った真実が変わらないのだとするのならば。
あの瞬間にキスをした事が変わらないのならば。
フェルンはそっと瑞希の頬に手を伸ばしました。
もしもあのときの願いが変わっていないのならば、この小さな聖堂で、互いに花嫁と花婿の衣装を着たまま、誓いをかわしたとしても、許されるはずなのですから。
フェルンは一瞬息を止めて、目を伏せながら瑞希へ顔を近づけていきました。
瑞希は彼の表情を見て取り、そっと目を閉じました。
小さな聖堂、女神ジェンマの像に見守られながらの柔らかなキス。
フェルンは、ゆっくりとキスを終えて瑞希から離れると照れて笑いました。
「これも一つの思い出になるのかな。ミズキ。星と同じぐらい一緒にいるのなら、俺達はあと何回キスをするんだろうね」
「数えていて欲しいんですか、フェルンさん」
瑞希は彼女らしい冷静さを見せて、目を見開きました。
「手帳に印をつけて数えましょうか。決して忘れないように。何回目のキスなのか、あなたに教えてあげられるように」
依頼結果:大成功
MVP:
名前:リチェルカーレ 呼び名:リチェ |
名前:シリウス 呼び名:シリウス |
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 森静流 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月06日 |
出発日 | 06月14日 00:00 |
予定納品日 | 06月24日 |
参加者
会議室
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2017/06/12-00:23
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのフェルンさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
結婚式、具体的なイメージは固まっていないのですが。
皆さまの「人助け」の言葉に勇気をもらって、来てしまいました。
でも恥ずかしいので、こっそり・ひっそりが良いかも…。
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2017/06/10-15:59
西島紫織です。
パートナーは恭一郎さんです。
よろしくお願いします。
お二人のお名前見て、き、来ちゃいました!
私は、私は、私は……何をしたらいいか全然イメージ出来ませんが、そうですよね、これは人助け!なりきります、花嫁に! -
2017/06/10-14:20
リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
皆さん、よろしくお願いします。
結婚式かぁ。まだイメージはないけれど…(顔赤らめ)。うん、今回は人助けですものね。 -
2017/06/10-13:29
アラノアとガルヴァンさんです…
よろしくお願いします…
えと…こちらは少し気まずい状況にありますが、これは人助けなので。
…人助けなのでっ(二度言った)頑張りたいと思いますっ。