ゴンドラに揺られて(ねこの珠水 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「お疲れさまでしたー」
 初夏の川辺で、安在泉は集まっていた皆に頭を下げた。
 定例の川掃除会は、この季節にはもう汗ばむほど。
 けれど、きれいになった川を見ると疲れも忘れる。
「イズミ、お疲れー」
 守る会の仲間の1人、美穂が走り寄ってくる。
「ミホもお疲れー。今日は参加者たくさんいたね」
 泉も美穂も、『きれいな水辺を守る会』のメンバーで、啓蒙のチラシを配ったり、掃除会に参加したりしている。
 なかなかゴミの投棄は減らないが、活動を始めたころと比べると、かなり川はきれいになってきている。
 その上。
「いよいよ始まるんだよね」
「うん、楽しみすぎる!」
 泉は折りたたんであったチラシを開いた。
 そこには。

 ――きれいになった川でゴンドラに乗ろう――

 という題字が書かれている。
 定期的にゴンドラ運航イベントを行い、川の浄化を訴えてゆこうという企画が、いよいよ始まるのだ。
「オープニングイベントで、ウィンクルムの人たちに協力してもらえることになったんだよねー」
 泉はチラシのその箇所を指さした。
 オープニングイベントの目玉は、ウィンクルムのカップルを乗せたゴンドラの運航だ。橋の下をくぐるとき、何かパフォーマンスをしてくれるよう頼んであって、それにあわせて橋の上から観客が、花をゴンドラに投げ入れることになっている。
「きっと盛り上がるよ。そしたら町のみんなも、川をきれいに保とうって気になってくれるよね」
「そうだね。それに実は私も、ゴンドラパフォーマンス、すっごく楽しみなんだ」
 泉はまた大事そうにチラシを折りたたんだ。

解説

 川をきれいにする活動の一環として、ゴンドラ運航イベントが始まることになり、
ウィンクルムのみなさまにオープニングイベントへの協力依頼がありました。

 していただくことは、ゴンドラに乗っての川下り。途中、橋のある個所では、
なにかパフォーマンスをお願いいたします。

 といってもゴンドラの上は揺れますので、大きな動作は危険です。
 座ったまま歌ったり、立ち上がって手を振ったり。
 ……まあ、ちょっと動きすぎてぐらっとしたところを支えられたりするのも、
良いものですよねっ。

 今後の水辺を守る会の活動にはずみがつくよう、みなさまの力でイベントを盛り上げて
くださいね。

※現地までの交通費として、300Jrかかります。


ゲームマスターより

 プロローグをお読みいただきありがとうございました。

 今回のエピソードは、ゴンドラでの川下り、パフォーマンス添え。
 パフォーマンスといっても、橋の上から見ている人に何かちょっとした動作を
していただくだけでも大丈夫ですので、難しく考えずに気軽にご参加くださいませ。

 気温もあがってきて、水辺が恋しくなるこの季節。
 会のメンバーがきれいにしようとがんばっている川へ、ぜひお越しくださいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)

  綺麗な川…まずは景色を楽しもうか
そんな大袈裟だよアスカ君
パフォーマンスといってもそんなに動くわけじゃないし

橋に来たら、立ち上がって手を振る
バランスを崩さないよう、気を付けて…えっ!?
ちょっ、アスカ君危な…!
喜ぶかもしれないけど、びっくりしたよ
あ、花が…!
花がぶつかりそうになり、避けようとしたらよろけてしまう

その場で尻餅をつき、落ちるのは免れるけど
何か胸に当たって…
あ、あ…アスカ君のラッキースケベ!
真っ赤になり胸を隠して座り込む

橋が遠ざかり
フォローしてくれてありがとう
アスカ君といると、何故かよくこうなる気がする
嫌じゃない…いえ、恥ずかしいし嫌じゃないわけないけど
本人がこうだから憎めないんだよね…


シルキア・スー(クラウス)
  関係者さんや船頭さんにご挨拶 よろしくお願いします

…張り切り過ぎかな と彼に衣装見せて照れ笑い
※衣装
水の妖精を思わせる衣装(露出控え目
小道具に長いリボン付き装飾ステッキ(新体操リボン的

乗る際のアクシデントに
「ありがと てへ ひらひらは慣れなくて」
「じゃよろしく ふふ」

川下中
観光客に手を振られ衣装に見合う優雅な振り返し
写真リクエストに身を寄せステッキ構えポーズ
「衣装効果かな…?」
抱きしめられ照れ隠しに ふ、舟のバランスは学習できた

パフォーマンス
片膝立ちで上半身使った舞を披露
リボンを泳がせ川の流れ演出 ※新体操のようなリボン捌き
リボンに文字『水は廻るもの 清らかであれ』

終了
「今日のあなたの演奏 凄い勇気づけられた」


かのん(朽葉)
  こんにちは、朽葉おじ様
おじ様何度かお誘いしても忙しいってお返事ばかりで…
今日はご一緒できて嬉しいです

天藍がパフォーマンスを頼まれているのならおじ様の出番だろうって

パフォーマンス
朽葉からシルクハット受け取り、中をのぞく、内側を観客に向ける
振って中から何も出てこないことを示して朽葉にかえす
出てきた兎の縫いぐるみにびっくり
(帽子の確認は言われていたものの、手品の内容は教えて貰えていなかった)
兎のダンス後、朽葉達と一緒に手を振る

おじ様の手品はいつもびっくりしますね
(縫いぐるみ抱えながら)本当にどこに入っていたんです?
皆さんに楽しんで頂けたみたいで面白かったですね
今日は来てくださってありがとうございます


●ゴンドラハプニング

 よく晴れた空から、初夏の日差しが降り注いでいる。
 イベントの前日、水辺を守る会のメンバーがかなり力を入れて掃除をしたということで、川べりはきれいに保たれている。
「どうかよろしくお願いしますね」
 頭を下げる守る会のメンバーに見送られて、八神 伊万里とアスカ・ベルウィレッジはゴンドラに乗り込んだ。

 ゆっくりとゴンドラは岸を離れた。
 橋に行くまではパフォーマンスは必要ない。
 まずは景色を楽しむことにしようと、伊万里は視線を巡らせた。
「綺麗な川……」
「ああ。水面がキラキラしてるな」
 ゆるやかな流れが日を反射し、光を躍らせる。
 ゴンドラの上から見る風景は、新鮮に目に映った。
「この川をきれいにしようと、守る会の人たちは活動してるんだね。私たちもパフォーマンスで、がんばってお手伝いしないと」
 伊万里が言うと、アスカはせっかくだからと提案する。
「パフォーマンスは立ってやろうぜ。そのほうが観客からも良く見えるだろうしな」
「ゴンドラの上で立つのは不安定そうだけど……やってみようか」
 そのほうがパフォーマンスらしく見えそうだと頷く伊万里に、アスカは面白がっているように赤い瞳をきらめかせる。
「もしふらついても、俺が支えてやるから安心しろ」
「え?」
 ふと不安になった伊万里だが、
「そんな大袈裟だよアスカ君。パフォーマンスといってもそんなに動くわけじゃないし」
 ちょっと手を振るだけだからと、何でもないように笑うのだった。


 橋の上には人々が集まり、ゴンドラが来るのを待ち構えていた。
 離れていても感じる多くの視線に緊張しながらも、伊万里はゴンドラを揺らさないようにそっと立ち上がった。
(うん、これくらいならいけそう)
 バランスを崩さないように注意しながら、伊万里は橋の上にいる人々に手を振った。
 わぁ、とどよめきがあがる。
 できるだけ広い範囲に顔を向けるように心がけながら、伊万里は手を振り続け……。
「えっ!?」
 不意に肩に回された手に、伊万里は息が止まりそうに驚いた。
 伊万里がパフォーマンスを開始してもゴンドラに座ったままでいたアスカが、おもむろに立ち上がり伊万里の肩を抱いたのだ。
「ちょっ、アスカ君……!」
「しっ。大きな声を出すと橋の上に聞こえる。――このくらいした方が皆喜ぶと思って」
 アスカは伊万里に回しているのと逆側の手を、観客に向けて振った。
 観客は大喜びで2人の乗るゴンドラに花を降らせてくる。
「そうかもしれないけど、びっくりしたよ」
「べ、別にこれ以上は何もしないって。皆見てるし……」
 ちらっと投げかけられた伊万里の視線に、アスカがうろたえて言いかけたそのとき。
「あ!」
 誰かが手を滑らせたのか、束のままの花が伊万里の目の前に落ちてきた。
 反射的に避けようとして伊万里は身を逸らせたが、不安定なゴンドラの上でするにはその動作は大きすぎた。
 1つに結んでいたココアブラウンの髪が跳ねる。
 ぐらっとよろけた伊万里の身体が、ゴンドラの縁を超える。
 このままでは川に落ちてしまう。伊万里はひやりとしたが、揺れるゴンドラの上では体勢を立て直すこともままならず。
「うわっ、危な……!」
 アスカは咄嗟に、伊万里の肩に回していた手に力をこめた。同時にそれまで振っていたもう一方の手も出して、川に落ちかけている伊万里を支えようとした。

 どさり。
 アスカに引き寄せられ、伊万里はゴンドラの外ではなく内側にしりもちをつく形で倒れこんだ。
(助かった……)
 ほっとすると同時に、胸元に違和感をおぼえて伊万里はそちらに視線をやった。
「あ、あ……」
 アスカの片腕、肩に回していたほうの手は伊万里の背に回って身体を受け止めている。だがもう片方の手は。
「アスカ君のラッキースケベ!」
「うわーっ!? ご、ごめん! わざとじゃない!」
 アスカは伊万里の胸から手を放し、大慌てで首を振った。
 伊万里の顔がかぁっと熱くなる。
「……」
 パフォーマンスどころでなくなり、伊万里は胸を抱きかかえるようにして、ゴンドラに座り込んだ。
 橋から投げかけられる心配そうなざわめきに、アスカはさっとゴンドラの上で再び立ち上がった。
 パフォーマンスを途切れさせないように、伊万里の分もあわせて2人分、ということで両手を大きく橋のほうへ向けて大きく振る。
 橋の上の観客たちは、安心したようにまた花をゴンドラへと降らせ始めた。


 橋が遠ざかり、やっと落ち着いた伊万里は顔をあげた。
「フォローしてくれてありがとう」
「いや……俺も悪かったし、そのお詫びってことで」
 アスカは照れたように背を向けた。
 その背を見ながら、アスカといるとなぜかよくこうなる気がする、と伊万里は思う。
(嫌じゃない……いえ、恥ずかしいし嫌じゃないわけないけど。本人がこうだから憎めないんだよね……)
 悪気がないのは分かるし、それをフォローもしてくれる。そんな風に考えている伊万里は知らない。
(片手で少し余る……柔らかい……理想過ぎる)
 背を向けているアスカが、何を思い起こし、心の中で何を呟いているのかを。





●ゴンドラマジック

 待ち合わせの街角。
 昨日が雨だったから、今日のイベントがどうなるかと心配していたが、幸い空はすっきり晴れている。
 近づいてくる人影に気づくと、かのんは空から視線を戻し、燕尾服にシルクハットといういでたちの老紳士に頭を下げた。
「こんにちは、朽葉おじ様」
「おおかのん、久しいの」
 朽葉は皺深い目元を緩めてかのんを見た。
 普段は着物を着ていることが多い朽葉だが、しゃれた燕尾服も似合う。白くふさふさした仙人のような眉も良い味を出しており、ひとつ間違えばコスプレに間違われそうな衣装を、見事にしっくりと着こなしている。
「おじ様、最近はお誘いしても忙しいってお返事ばかりで……」
 かのんがそういうのにはわけがある。
 実は昨年の末から、かのんともう1人の精霊である天藍が一緒に暮らしはじめたので、朽葉は一応遠慮して足を遠のかせていたのだ。
(流石にそこまで空気読めぬお邪魔虫はいかんじゃろうて)
 2人の時間に割り込むのも、そうしないために距離を置いていることを悟られるのも、どちらも野暮というものだから、
「ふぉふぉふぉ、そうじゃったかの」
 朽葉は柔らかく笑ってはぐらかした。それに対してかのんは素直に、
「みんなに親しまれるおじ様ですからお忙しいのは仕方ないことですね。今日はご一緒できて嬉しいです」
 と笑顔を見せた。


 そこからは2人でイベント会場へと向かい、水辺を守る会のメンバーに挨拶をしてからゴンドラへと乗り込んだ。
 ゴンドラが川を進む。
 初夏の川は光を受けて輝き、水音は耳に心地よい。
 川辺の緑の中に咲く鮮やかな黄の花群。
「おじ様、あそこにキショウブの群生が。野生化したものが川辺に根付いたんですね」
 指さすかのんに、朽葉は尋ねた。
「川遊びなら天藍と来れば良かったのではないかの?」
 邪魔してしまったのではないかと気になったのだが、かのんは屈託なく答える。
「天藍が、パフォーマンスを頼まれているのならおじ様の出番だろうって」
 その返事に、朽葉はなる程と腹落ちした様子で頷く。
 手品の準備を整えて、衣装も手品にふさわしいもので、とかのんが頼んできたのもゴンドラでのパフォーマンスのため。
 それならばここは自分の出番というべきだろう。

 橋が近くなると、朽葉はかのんと打ち合わせをした。
 といっても、シルクハットを渡したら、中を確認し、観客にも中が空であることを示してほしい、という程度の簡単なものだ。
「そろそろ参ろうか」
 朽葉はおもむろに立ち上がると、シルクハットを手に一礼した。
 そのままシルクハットをかのんに手渡す。
 受け取ったかのんはシルクハットの中をのぞき、一旦頭にかぶると膝を折って会釈した。その後両手で取ったシルクハットの中身が空なのがよく分かるよう、橋の上の人々にいろいろな角度をつけて見せる。
 最後にくるっとシルクハットを裏返して振り、何も出てこないことを示してから朽葉に返した。
 朽葉はステッキでシルクハットの縁を軽く叩きながら、1、2、3とカウントする。
 次の瞬間。
 シルクハットの中からピンクの兎の縫いぐるみが飛び出した。
 観客はどよめいたが、かのんもびっくりして目を見張る。中身を確かめるように言われていたから何か出てくるのだろうとは思っていたけれど。
 こんな大きなぬいぐるみを隠しておく場所なんて、どこにあったのだろう。
 それに。
(手品の兎……)
 何もないところから現れる兎のぬいぐるみ。それが魔法のように笑顔を呼び起こすことを……かのんは知っている。
 シルクハットから登場した兎は、朽葉が指揮者のように振る手に合わせて、ゴンドラの縁でダンスする。
 その動きに合わせて、橋の上から手拍子がわき起こった。
 不意にぴょん、とぬいぐるみの兎が高く跳ねた。
 くるっと空中で一回転すると、兎はシルクハットをかぶった朽葉の頭に着地する。
 手拍子が割れんばかりの拍手に変わる中、かのん、朽葉、うさぎは橋の上のギャラリーに向けて手を振った。

 橋から十分離れると、朽葉はやれやれとゴンドラに腰を下ろした。
「ふむ、足場が悪いのは難点じゃがこれはなかなか面白いのう」
 手品は正面から見られることが多い出し物だから、上に観客がいるというのは珍しい。自然、タネの隠しどころも変わってくるから、その工夫を考えるのも興味深いことだった。
「お疲れさまでした」
 かのんは朽葉のシルクハットの上からぬいぐるみの兎を抱き上げた。
「おじ様の手品にはいつもびっくりします。本当にどこに入っていたんです?」
 兎の手を振ってみるが、さっき動いていたのが嘘のように、普通のぬいぐるみでしかない。
「それを明かしてしまうのは、無粋と言うものじゃろう」
 それもそうですね、とかのんは朽葉に向き直った。
「おじ様、今日は来てくださってありがとうございます。皆さんにも楽しんでいただけたみたいで、よかったですね」
「なんの、我も楽しませてもらったでの」
 笑みを交わすと、かのんは膝の上に抱いた兎の頭を撫でた。
「――兎さんもお疲れさま」
 手品の兎は今日も誰かの笑みを引き出したのだろうか。
 そんなことを考えながら。




●水の妖精 水の龍

 間を空けながら、ゴンドラは運航される。
 水辺を守る会のメンバーは今後の活動への期待をこめて、それを嬉しそうに送り出していた。
「これがラストの運航です。乗って下さるのは、シルキア・スー様とクラウス様ですね」
 リストを見て確認する守る会のメンバー、そしてゴンドラを操る船頭に、シルキアは頭を下げる。
「よろしくお願いします」
 クラウスも合わせて挨拶すると、メンバーたちはいえいえこちらこそと、何度もお辞儀を返した。

 岸につけられたゴンドラに先に乗り込むと、クラウスはシルキアの手を取って誘導した。
 不安定なゴンドラに、シルキアは恐る恐る足を踏み入れたが、長い衣装の裾が絡まり躓いてしまう。
 けれどそれをクラウスの手が危なげなく支えた。
「ありがと。てへ、ひらひらは慣れなくて」
 張り切り過ぎかな、とシルキアは衣装の端をつまんだ。
 白いワンピースの上に、光沢のある薄青のサテンシフォンを重ねた衣装は、水の妖精を思わせる。手にした装飾ステッキには、水の流れのような銀と水色の長いリボンがつけられている。
 明るい金髪はいつものようにアップにしているが、それを留めるバレッタも睡蓮を模した飾りがついていて、水のイメージだ。
 そのシルキアの衣装を申し分なしと見遣るクラウスのほうは、水龍を思わせる布製の鎧衣装をまとっていた。狼の耳を隠すように頭に巻いた布地の端が、川面を渡る風をうけて靡いている。
「確かに常とは異なる衣装だが、よく似合っている。俺がいるのだ、安心して躓いてくれ」
「じゃよろしく」
 クラウスと笑みをかわすと、シルキアは衣装の裾をさばいてゴンドラに座った。


 川の両側にある道路には、橋の観覧場所から溢れたのか、それともたまたま通りかかったのか、興味津々にゴンドラを眺める人々がいた。
 人々に手を振られ、シルキアは優雅に手を振り返した。
「写真撮らせてくださいー」
 上からかけられた声に、シルキアはクラウスに身を寄せると、ステッキを構えてポーズを取る。
 不意に距離を詰めてきたシルキアにクラウスはどきりとしたが、すぐにその意図を察し、自分も身を寄せて写真にふさわしいポーズを取ってみせた。
「ありがとうございましたー」
 届いたお礼の声に手を掲げて応えると、シルキアはふふっと笑う。
「衣装効果かな…?」
「うむ かもしれん」
 なりきる、というほど役に入り込んではいないけれど、普段ならしないような動作が、自然と取れる。それは衣装をつけて、周囲の人々からそう見られている、というこの状況からきているのだろうか。
「写真撮る人も、やっぱりそれらし……あっ」
 話している途中で、がつんという衝撃が走り、ゴンドラが揺れる。
 息を詰めたシルキアを、クラウスは咄嗟に抱きしめた。
 腕の中ですくんでいるシルキアは本物の妖精のようで、その感触にクラウスの平常心が崩れかかる。けれどシルキアはすぐに動揺から立ち直り、恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「ふ、舟のバランスは学習できた。結構衝撃がくるんだね」
 元の位置に戻るシルキアから、クラウスは名残惜しく手を放した。
「あ……」
 顔をあげたシルキアは道路を見上げて小さく声をあげる。
 何かあったのかとそちらを見たクラウスは、その理由をすぐ察した。
 シルキアが声をあげたわけは、両側の道路にいる見物客たちがこぞってこちらに向けているカメラだ。
 ……絶対に撮られた、今の瞬間を。
 それもきっと、思いっきりバシバシと。


 橋が近づくと、シルキアはバランスに気を払いながらゴンドラの上で片膝立ちになった。
 シルキアの準備ができたのを見て取り、クラウスは手にしていた杖のような形状の横笛を口に当てた。
 息を吹き込むと、清浄な音が流れ出す。
 しばし横笛の音に耳を傾けたあと、シルキアは軽く身を逸らせ、装飾ステッキを円を描くように振った。
 新体操のリボン競技のように、くるくるとステッキにつけられたリボンが踊る。銀と水色が絡むように泳ぐ様子は、まるで澄んだ川の流れのよう。
 流れと戯れる水の妖精を演じるシルキアを、水龍に扮したクラウスの笛の演奏が盛り上げる。
 大勢の人々の視線にさらされて、本来なら緊張する場面なのだろうけれど、シルキアはのびのびと舞を披露できた。
 それはクラウスの笛の音色が、シルキアの舞を支え、励ましてくれるのが感じられるから。演技中だから視線をかわすことはできないけれど、クラウスのまなざしが優しく自分に向けられているのがシルキアには分かった。
 初夏の日差しを受け、シルキアのまとったサテンシフォンが輝く。川の照り返しも手伝って、シルキア自身が光を帯びているように見える。
 橋の上からは惜しげもなく花が投げられ、2人の上に降り注ぐ。それもまた演出のように美しい光景だ。
 川辺を守る会の人々がよみがえらせようとしているきれいな川の流れを、一足早くシルキアのリボンは描き出した。

 長く余韻を引く笛の音で舞は締めとなった。
 舞終えたシルキアは両手を開いてリボンを捧げ持つ。
 そこに記されていた文字は――。
『水は廻るもの 清らかであれ』
 降る花と拍手の中、船は橋をゆっくりと通り過ぎていった。

 拍手の音が遠ざかると、シルキアはクラウスに向き直る。
「今日のあなたの演奏、凄い勇気づけられた」
 その言葉をクラウスは、そうかと笑みを浮かべて受け止めたのだった。





依頼結果:大成功
MVP
名前:シルキア・スー
呼び名:シルキア
  名前:クラウス
呼び名:クラウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター ねこの珠水
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月07日
出発日 05月13日 00:00
予定納品日 05月23日

参加者

会議室


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