愛は金で買える!嘘です花買ってください(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「場所によっては、そろそろ母の日というイベントがあるらしいですよ」
「母の日?」
「ええ、年に一度、母親に赤いカーネーションを贈って、感謝を伝える日です」
「それは……別にその日限定にしなくてもいいのでは?」
「まあ、そうなんですけどね」

 タブロス市内某所で、そんな会話を聞いた花屋の主は、はたとひらめいた。
 この所、売り上げの低迷が続いている。
 ぶっちゃけ、このままでは二・三ヶ月のうちにも失業しそうだ。
 しかしこの『母の日』なるものに便乗すれば、我が店の危機が乗り越えられるかもしれない。

 だが、イベントそのままパクリは、いかがなものか。
 過去オーガに襲われた町や村は数知れず、母のない人も多かろう。
 っていうか、母限定なんてぬるいことやってられない。
 もうさ、赤なら何でもいいんじゃね? いいよね?
 はい、いいに決定!
 と、いうことで。

「赤い花フェスティバルやりますっ!」
 翌日、花屋の主はそう言いながら、大きな旗を店の前に設置した。
 そこには、
『赤い花は愛の証! 大切なあの人に、愛をアピールしよう!』

 わりとど直球かつ強引なのは、店主がなんとしてもこれを機に、廃業の危機を乗り越えたいからだろう。
 さあ、そこ行くあなた。
 赤い花を使って、大事な誰かに自分の気持ちを伝えてみないか。

解説

そのままです。
廃業寸前の花屋は今、赤い花のみが置かれていますので、それを購入してあげてください。
そして、大事な人に想いをアピールしましょう。

花は1本30jr。
参加する方は必ず10本セットの花束(300jr)を購入することとします。
その後、1本追加ごとに+30jrとなる計算です。

花の種類はご自由に選択どうぞ。不思議な能力がつくとかじゃなければ、創作でも大丈夫です。
また、今回花をそのまま贈るパターンには限定していません。
料理に使うも、ベッドに散らすも服をつくるも、なんでも自由です。

気持ちを伝える相手も、ウィンクルムに限定しておりません。

【プランに書いてね】
プランのトップに、最初購入決定の花より『ほかに』何本購入するか、記載をお願いします。

例)全部で30本の花を使いたい
→30-10(最初購入分10本を除くので)=20
→プランのトップに 20本 と書く
これで、最初の分(300jr)にプラスして20本分(600jr)、合計で900jrの消費とします。

最初の分だけで十分、という方は何も書かなくて大丈夫です。


ゲームマスターより

ご覧いただき、ありがとうございます。
時期なので、たまにはこういうのもいいかなと。
シリアスにもギャグにもなるんじゃないかな。

基本的にはウィンクルムごとのリザルトとなります。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  庭の手入れ中聞こえてきた門扉が開く音
そろそろ天藍が帰ってくる頃ですよね、手袋外しつつ表に回る
おかえりなさい、天藍
笑顔で出迎え

わ、ありがとうございます
綺麗な薔薇ですね
…もう少し小綺麗な格好でいればよかったです…
(庭仕事の途中なので、汚れてもいい帽子にシャツとワークパンツ、土のついた手袋がポケットからはみ出るエプロンに長靴)
折角花束をくれた天藍と貰ったお花に申し訳ない気持ち
あの、えっと…ありがとうございます
さらりと言われた言葉に頬が染まる

家に入り薔薇を花瓶に
本数に気づき改めて笑みを浮かべる
薔薇には色々な花言葉があると話したのはいつだったでしょうか?
何気なく話した事を天藍が覚えていてくれた事が嬉しい


シルキア・スー(クラウス)
  41本

去年ノースガルドのアピアチューレ・ホールでウィンクルム達がパフォーマンスをしテレビ中継された
そこで歌を披露したのを見た医療施設から慰問コンサートの依頼をされた
そこへ向う途中で花屋を見かけ
閃いて先方に電話し打合せ 人助けついでね と花を購入

施設
観客は老若男女の患者さん
民謡調の歌や子供向けの歌を歌い
歌の間奏の間に皆さんにガーベラを一輪ずつ渡す
「赤いガーベラは愛と勇気の花です」
花言葉を使った歌を歌い闘病へのエール
交流会を経て終了

控室
はぁ~
「ちゃんとできたかな…」
「そう? あなたの尻尾人気のおかげかもね」くすくす
薔薇にぱちくり いつの間に…
「赤い薔薇一輪ってなんか意味深 ふふ」

頬染め受け取り
「ありがと」


水田 茉莉花(聖)
  必要経費はjr消費をして下さい

あのねひーくん
そういうことは店員さんに気づかない所で言いましょう
(そっと口を押さえつつ)
全くもう、大人になる前にこの癖直さないとまずいわね

そうだ!
これからひーくんが育った施設に行くんだし
お土産でお花を持っていってもいいんじゃないかな?

玄関に飾ってくださいって言えば、改心したと思ってくれるかもね、先生
おこづかい足りなかったら言ってね

結局これだけになっちゃったね
…あれっ?カーネーションが9本しかないわね
確か店員さんは10本って言ってたような?

このコサージュ、ジャスミン?
これ、ピンクのジャスミンに色素で色付けしてあるんだ
もしかして、あたしの名前にちなんで贈ってくれたの?


●ガーベラと、一輪の薔薇 ~シルキア・スーとクラウス
 赤い花ばかりが並んだ花屋の前で、シルキア・スーは立ち止まった。
「これ……」
 大きなプラスチック製の容器に入れられた、たくさんの花を指しながら、傍らに立つクラウスを見上げる。
「ガーベラが、どうかしたか?」
 クラウスはシルキアとガーベラを、順に見下ろした。
 紅玉のように鮮やかな花弁は、確かに美しく目を引く。だが、自分達はこれから、招かれた病院へと向かわねばならない。
 シルキアはその場に座り込み、鮮やかなガーベラの花にそっと顔を寄せた。
 すうっと息を吸い込むと、ほのかに甘い香りがするような気がする。
(なんて綺麗なんだろう)
 赤は元気を生んでくれる色、それに、赤いガーベラの花言葉は……と考えてすぐ、シルキアは立ち上がった。
「ねえ、クラウス。私ちょっと思いついたんだけど……」
 新緑の瞳をきらきらと輝かせたシルキアの言葉に、クラウスは眼鏡の奥の瞳を細める。
「ああ、いいと思う。ぜひそうしよう」
 言えばシルキアは、嬉しそうに笑った。

『去年の冬、あなた達の歌を聞きました。あれは素晴らしかった。どうか、我が病院で、披露してくれませんか』
 そんな依頼に応え、シルキアとクラウスは、タブロス市内某所の総合病院を訪れた。
 とはいっても、そこにいつかのホールのような、大きな舞台があるわけではない。
 二人が通されたのは、談話室の中に、数十脚の椅子が並んだだけの場所だった。
 それでも、シルキアの心は、あのホールで歌ったときのように高揚していた。
 緊張ではない、あくまで「楽しくなるだろう」という予感だ。
 そこに、患者が、続々と入ってくる。
 犬のぬいぐるみを抱いた子供に、パジャマ姿のおばあさん。
 ニット帽をかぶった若い男性に、車いすに座ったおじいさん。
 そのほか、看護師に医師までもが、集まってくれている。
 シルキアとクラウスは、彼らの前に立ち深く礼をした。
 シルキアがすっと手を前に差し伸べると、クラウスが横笛を吹き始める。
 二人が歌い、奏でるのは、童謡と、民族調の歌。
 あとはちょっとしたリクエストも応えた。
 これは、一番前で聞いてくれていた女の子が、小さな口を大きく開いて、お願いしてきたからだ。
 部屋いっぱいの人達は、シルキアが高い声で歌ったこの歌が、実は初めて人前で歌ったものなのだとは、わからなかっただろう。
 ただ、クラウスはそれを知っていた。
 美しく伸びる声に迷いは感じとれなくとも、時折ちらりと自分を見やる、緑の眼差しにかすかな不安が混じっている。
 そうわかったからこそ、クラウスは彼女と目が合うたびに、小さく頷いて見せたのだ。
 そんなシルキアがワンコーラスを歌い終え、多くの笑顔溢れる中、赤いガーベラを取り出したときはどれほど誇らしかったことか。
 彼女は人でいっぱいの部屋の中を、苦労して歩き周り、患者のひとりひとりに、ここに来る前に買ったガーベラの花を渡していった。
「赤いガーベラは愛と勇気の花です」
 そう言うシルキアの顔を、クラウスは、横笛を吹きながら、見つめていた。
(愛も勇気も、ガーベラではなく、シルキアが皆に与えているのだ)
 そう思えば、自然と演奏にも力が入るというもの。
 最後はガーベラの花言葉を使った歌を歌い、患者たちへの闘病のエールとした。

 その後、交流会という名の細やかな談話の最中。
 先ほどリクエストをしてきた少女が、二人のもとへとやって来た。
「おねえちゃん、お歌がとてもじょうずね」
 少女はガーベラを右手に持ち、くりくりとした目を瞬かせて、シルキアを見上げた。
「このかっこいいおにいちゃんは、おねえちゃんのこいびと?」
「えっ……」
 おませな少女の問いかけに、シルキアは一瞬にして頬を染める。
 しかし傍らのクラウスは、至極真面目な顔で小さなレディの前にしゃがみ込み、視線を合わせてはっきり言った。
「俺の、かけがえなき人だ」
「そ、そんな小さな子に!」
「子供相手だろうと、事実は伝えねばならぬだろう?」
 真っ赤なシルキアと微笑むクラウスのやり取りは、当然周囲の大人にも聞こえている。
 すてきね、と笑う少女にシルキアは「うん」とはにかみ、すぐに「あっ」と叫んだ。
 クラウスの尻尾に、別の子供が飛びついたからだ。
「すごい! もしゃもしゃだっ」
 こうして、和やかな交流会はしばし続き――。

 後。
 シルキアは、控室ではあ~とため息をついていた。
「全部、ちゃんとできたかな……」
 ぼんやり独り言を呟けば、当たり前のように聞き慣れた声が戻る。
「皆喜びに満ちた顔であったように思うが?」
「そう? あなたの尻尾人気のおかげかもね」
 シルキアは、くすくすと笑った。
 その笑顔にクラウスの息が、一瞬止まる。
(歌うシルキアも、素晴らしかった。でも今の、自然な笑顔はもっと……)
 それでも彼は平静を装って、背に隠していた赤い薔薇を、シルキアの前へと差し出した。
 見事に活躍した彼女の前、こちらも敬意を払わねば。
「俺からも、これを贈ろう」
 シルキアが、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「赤い薔薇一輪ってなんか意味深。ふふ」
「今日のお前は、あ……愛に満ち美しかった……という意味と思ってほしい」
 思っても、実際口にするのは、やはり照れる。
 クラウスの戸惑いながらの笑顔に、シルキアは頬を染めて、微笑んだ。
「ありがと。クラウスも、素敵だった」

●11本の赤い薔薇 ~かのんと天藍
 春は、庭がいっきに華やかになる。
 空の青と新緑をベースに、青、ピンク、黄色に白色。
 ネモフィラ、シャクヤク、デルフィニウム。
 もちろん他にも、いろいろ、たくさん!
 両手では数えきれない種類の花が咲いている庭で、かのんははっと息を吐いた。
 長時間かがんで曲げていた腰を伸ばすと、筋がぴんと張って心地良い。
(今日は結構、頑張りましたね)
 自らが手をかけ整えた庭に、満足の笑みを向けたところで、ぎい、と門扉が開く音がする。
 きっと、天藍が帰ってきたのだ。
 かのんは、作業のためにはめていた手袋を外しつつ、庭から玄関の方へと向かった。
 ――と、そこには案の定。
 黒髪長身の、見慣れた、でも何度でも見惚れる人が立っている。
 扉を開けて家に入ろうとするところに、声をかけた。
「おかえりなさい、天藍。今日もお疲れ様でした」
「ただいま、かのん」
 振り返っての返事と同時、差し出されたのは真っ赤な薔薇の花束だ。

 仕事からの帰り道、通りがかった花屋の前で、天藍は大きな旗を見つけたのだった。
 その旗に書かれた文言は、花の売り文句。
『赤い花は愛の証! 大切なあの人に、愛をアピールしよう!』
「愛のアピールか……」
 ぽつりと呟き、店頭に並んでいる花を見る。
 かのんが花を育てる事を仕事にしているのもあって、天藍から彼女に花を贈る事は、あまりない。
 しかし、渡せばきっと喜んでくれるだろう。
 天藍はもう一度、店主手製らしい旗を見やった。
「愛の証……」
 そこではたと、気付くことがある。
(ああ、こういう機会なら、渡しやすいだろうか)
 天藍は引き寄せられるように、花屋の中へと進んでいった。

「花屋で、赤い花を贈ろうという企画があったんだ」
 それだけ言って、天藍は赤い薔薇ばかり、11本の花束を、かのんに手渡した。
「わ、ありがとうございます」
 両手で抱きしめるように受けとって、かのんは愛おしげに、たくさんの花弁に視線を下ろす。
「綺麗な薔薇ですね……もう少し、小綺麗な格好でいればよかったです……」
 彼女は、薔薇から視線を外して、自身の姿を見やった。
 着古したシャツに、ワークパンツ。
 その上にかけたエプロンのポケットからは、土がついた手袋がはみ出している。
 足元は汚れた長靴で、帽子だって、日よけの大きな作業用のものだ。
 しかも途中で何度かかぶり直したから、もしかしたら泥がついているかもしれない。
 これらは動きやすく、汚れてもいい格好というなら最適の品。
 でもどうしたって、薔薇には似合わないだろう。
 かのんはしゅんと頭垂れた。
(折角こんな綺麗な花束をくれたのに、天藍にもお花にも、申し訳ない気がします……)
 しかしその頭上で、天藍の低く小さい声が響く。
「俺は、特別着飾らなくても、素のかのんが好きだけどな」
「えっ……!」
 かのんは、勢いよく顔を上げた。
 そこには、いつも通りの穏やかな表情をした、天藍がいる。
 その大地色の瞳と目が合って、かのんは頬が、いっきに熱くなるのを感じた。
「あの、えっと……ありがとう、ございます……」
(ああ、もうずいぶん長いこと一緒にいるのに、なんでこんなに、恥ずかしいんでしょう……)
 視線をそらし、語尾を小さく消したかのんに、天藍はひっそりと微笑む。
(思っている事をそのまま言っただけだったのだが……これでは、薔薇の本数に気付いたら、かのんはどうなってしまうんだろう)
 きっと、言わなくてもわかるはず。
 そう確信できるのは、相手がかのんだからと言うよりほかはないのだけれど。

 家に入り、お気に入りの花瓶に貰った薔薇をいけていく。
 かのんは何気なくその本数を数え、唇に笑みを浮かべた。
(薔薇にはいろいろな花言葉があると話したのは、いつだったでしょうか?)

 1本ならば『一目惚れ』
 3本なら『愛しています』
 6本ならば『あなたに夢中』
 11本は……『最愛』

(何気なく話した事を、覚えていてくれたんですね)
 花を見つめたまま動きを止めたかのんの背後に立ち、天藍はゆったりとかのんを抱きしめる。
「花屋で見ていて、かのんの話を思いだしたんだ」

 11本の赤い薔薇。
 ――最愛の人に、愛を込めて。

 言わずに伝わった想いが嬉しい。
 天藍は、愛しい彼女を抱く腕に力を込めた。
 かのんは、胸の前に重なる天藍の両手を、そっと握る。
 温かい。この手がいつも、当たり前に傍にあるように。
「……もしこの家を薔薇で埋めるには、何本いるでしょうか」
「この家を?」
 返す天藍の声に、笑みがこもっている。
 かのんも微笑を含んだ声で、「はい」と頷いた。

 たとえば、99本なら『永遠の愛』
 101本なら『これ以上ないほど、あなたを愛している』
 999本ならば、『何度生まれ変わっても、あなたを愛する』

 彼への愛を示すには、何本の薔薇が必要だろう。
 そんなかのんの想いを知ってか知らずか、天藍はくすりと笑う。
「薔薇もいいが、俺はここに、かのんがいてくれるほうがいい」
「……天藍。あなたは今日、私を喜ばせすぎです……」
 かのんは自らの体から天藍の手を外すと、花瓶から薔薇を1本、抜き取った。
 そしてくるりと振り返り、そのたった1本を、天藍に差し出す。

 赤い薔薇、1本の花言葉は『一目惚れ』
 ほかには『あなたしかいない』

(私は何度だって、あなたに……あなただけに、恋をします)
 天藍が気付くかは、わからない。
 でも、彼はきっともう、知っている。

●たったひとつの、特別なコサージュ ~水田 茉莉花と聖
「赤い花、ここにあるものどれでも10本で、300jrですよ。どうですか?」
 にこにこと話しかけてきた花屋の主人の前で、聖は誘われるままに、店先を見やり……一言。
「バラとかカーネーションとか、色いろ赤い花ばっかりならんでますけど、ママこれ……母の日のパクリですよね?」
 水田 茉莉花はため息とともに、そっと聖の口を押さえた。
「あのねひーくん、そういうことは店員さんが気づかない所で言いましょう」
 背中を丸めてこっそり耳打ちすると、聖がこくりと頷く。
 とはいっても、茉莉花にはこの子が、『どうしてですか? ぼくは本当のことを言っただけですよ』と思っていることは、わかっている。
 正直というか、正直すぎるというか。
(全くもう、大人になる前にこの癖直さないとまずいわね)
 苦笑しつつも黙って茉莉花と聖を見る店主に、小さく頭を下げて、茉莉花は聖から手を離した。
 そしてまたこの子が何か言う前にと、あえて大きめの声を出す。
「そうだ! これからひーくんが育った施設に行くんだし、お土産でお花を持っていってもいいんじゃないかな?」
「しせつへのおみやげですか?」
 聖はぐるりと周囲を見回した。
 店内は、隅から隅まで本当に赤い花だらけ。
 なぜか店員まで、赤いエプロンをつけている。
(花をおみやげに持っていくのはいいけれど……)
「正直しせつの先生にはいい思い出がないんだよな」
 ぼそりと呟き、一番近くにあった花をじいと見る。
(そういえばしせつにいたときは、こんな感じの花が花だんに咲いていて、それを折ってしまったことが、何回かありましたね)
 でも、折ろうとして折ったわけではない。
 皆でお遊戯だのなんだの、イベントに参加するのに気がのらなくて、隠れて本を読んでいたら見つかって、先生が追いかけてきたから、逃げただけ。
 そんなことを思いだしていると、頭の上で、茉莉花の声がした。
「玄関に飾ってくださいって言えば、改心したと思ってくれるかもね、先生」
「い、今の聞いてたんですか、ママ?」
 驚きのあまり、ちょっと変な声が出た。
 でも茉莉花は「おこづかい足りなかったら言ってね」と笑うだけ。
「お金はかりませんよう、ぼくの分で何とかします!」
 聖はきっぱり言ってから、ぐっと背筋を伸ばして、赤いエプロンの店員を呼んだ。
「えっと、店いんさん、この花とあと……いいにおいのこの花ください!」
 細い指が『この』と指す花を、店員が集めて花束にしてくれようとする。
「あ、あの、それでですねっ」
 聖は茉莉花がこちらを向いていないことを確認してから、店員に小さな声で、希望を告げた。
(だって、しせつにおみやげを持って行くのに、ママに何もわたさないなんて……)
 そんなの、おかしいと思ったから。だから。
 店員は、感じの良い笑顔で、聖の話をふんふんと聞いてくれた。
 それを茉莉花は、遠くから見つめている。
(別の花に気をとられている間にあんな熱心に……何話してるんだろう)
 施設の先生はあまり好きじゃないみたいだったけれど、花を選んでいるうちに、懐かしくなったのかしら、なんて思ったりもした。

 そのうちに、聖が花束を抱えて、茉莉花の元へやって来た。
 おこづかいで何とかすると言った通り、花束にしてはちょっと小さめ……かもしれない。
「結局、これだけになっちゃったね」
 小さな花束に何気なく目を向け、茉莉花は気付く。
「……あれっ? カーネーションが9本しかないわね。確か店員さんは10本って言ってたような?」
 間違ったのかな? と首を傾げれば、聖がくいと、茉莉花の服の裾を引く。
「ママちょっとかがんでください。1本はここです」
「ここ?」
「はい。店いんさんに教えてもらって、コサージュにしたんです。べつりょう金かかっちゃいましたけど」
 言われるままにその場にかがみ、茉莉花は聖の手が持つものを見る。
 それは彼が言う通り、生花のコサージュだった。
 しかも。
「この花、ジャスミン?」
 ジャスミンといえば、白が一般的だ。
 その他はあっても、黄色やピンク。真っ赤なジャスミンなんてどうして……と思ってよく見ると、どうやら根元は色が違う。
 ピンクのジャスミンに、色素で色付けしてあるのだ。
 聖は茉莉花が花の種類に気付いても、正しい答えはくれなかった。
 その代り。
「こう水をつけないママににあうと思って買いました!」
 と、茉莉花の服にコサージュをつけてくれる。
 小さな手では、ピンをさすのがちょっと大変そうだったが、それはなんとか、茉莉花の胸元を飾ることができた。
「もしかして、あたしの名前にちなんで贈ってくれたの?」
 茉莉花がジャスミンを意味するなんて、7歳児の多くは知らないかもしれないけれど、本が好きな聖なら、知っていても不思議はない。
 でも聖は答えず、つん、と顔を背けてしまう。
「さぁ知りません」
 その態度が、いかにもすっとぼけているふうで、茉莉花はくすくすと笑った。
「ママ、どうして笑うんですか!」
 まるで子犬が吠えるように声を上げた聖の背を、茉莉花はぽんと叩く。
「あはは、ありがとう。これ帰ったら、ほづみさんに自慢しましょう。さあその前に、施設に行かなくちゃ」
 9本のカーネーションの花束を持った聖と、赤いジャスミンのコサージュを付けた茉莉花は、揃って道を歩き始めた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:シルキア・スー
呼び名:シルキア
  名前:クラウス
呼び名:クラウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月05日
出発日 05月11日 00:00
予定納品日 05月21日

参加者

会議室

  • [3]水田 茉莉花

    2017/05/09-23:58 

    ひじりです。
    ママといっしょにお花を買いますけど…これ、母の日のパクりですよね?

  • [2]かのん

    2017/05/09-20:35 

  • [1]シルキア・スー

    2017/05/09-09:42 

    シルキアとクラウスです。
    よろしくお願いします。


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