プロローグ
『桜の下には、死体が埋まっている』
古くから伝え聞く御伽話。
その昔、悲恋を遂げた男女が共に首を吊っただとか、殺した人を埋めただとか。
根も葉も根拠もないばかげた怪談は、例に漏れずここ、タブロス近郊の丘に咲く一本の桜にも、伝承として残されてきた。
『あの【くれないざくら】の下には良くないものが埋まってる。だから絶対に近付いたり、掘り起こしたりしてはならないよ』
そう最初に子供達へ告げたのは、丘から程なくした場所に位置する幼稚園の園長だった。
【くれないざくら】と呼ばれるそれは、春が終わりに近付いた頃、他の桜が散った頃に、紅色に近い桜の花を咲かせる。
それは大層妖艶で美しく、観光地として整備しては、と話が持ち上がった事もある。
けれど、園長は頑なにそれを拒否した。
『観光地などもってのほかだ。心無い人々に桜を荒らされでもしたらどうする。あそこへは柵を作り、誰も近付けさせないべきだ』
これが桜の花開く季節だけであったと言うならいい。だが彼は年中一日たりとも、桜の木に人を近付けようとしない。
しまいには桜の木に宣言どおり柵を作り、その近くへ小屋を立て住み始めてしまった。彼の身内もさすがに桜への執着を気味悪がって、次第に疎遠となっていった。
そのうちに、人々の間ではこんな噂がまことしやかに流れ始めた。
『――あの園長が言う『よくないもの』は、彼が何かをひた隠しているのでは』
園長――メイソンには、婚約を約束した恋人が居た。しかしその恋人は、数年前に行方知れずとなっている。
恋人に身寄りはなく、また事件性もなかった事から当時は大きく取り上げられる事もなかった。
彼女が失踪したあと、彼はひどく落ち込んだ――しかし【くれないざくら】を頑なに守り始めたのも、同時期のことだ。
だから人々は言ったのだ。恋人は彼に殺されて、あの桜の下に埋められているのでは、と。
* * *
「桜の木が、デミ・オーガ化した?」
職員の説明を受けて、一人のウィンクルムが概要を問うた。
「ああ、トレントのオーガ化と似ているな。禍々しく枝葉を変形させ、近付く者に襲い掛かる。元々立入を禁止されていた区画のようだから、被害は出ていないが……なにぶん、丘を下りてすぐの場所には幼稚園があるし、街も広がっている。早急に対処すべきだろう」
ウィンクルムの派遣を要請したのは街の人々だが、同時に一人の男――園長であるメイソンは派遣の中止を懇願してきた。
あの桜を荒らせばきっと被害が広がる、自分が見ているから、そっとしておいてくれないか、と。
「……っていうか普通その立場なら、子供を心配して駆除を願うものじゃないか?」
「ああ。だから、今はもう園を辞職しているようだ」
「辞めた?」
「周囲の意向だ。子供を危険に晒す様な人間に園を任せられない、とな。あの男には妙な点があると噂されているようだが……そのあたりを詮索するのは別の役職だ。我々の仕事は、桜の駆除のみ。もっともその元園長が邪魔をするようなら、街の人々に協力してもらうか、説得しなければならないだろうが」
ふむ、とウィンクルム達は考える。
デミ・オーガ化には何某かの要因があるはずなのだ。例えば草木なら人間に荒らされただとか、心無い扱いを受けただとか。
しかも今回は自生する桜の木。森の主トレントとは違い、生きてはいても明確な意志はない――はずだ。
加えて、必死に桜へ人を近付けまいとする男――。
「……わかりました。とりあえず、現地へ行ってみます」
「ああ。よろしく頼む」
職員に一言告げて、各々準備に取り掛かった。
解説
▼目的
・凶暴化した桜の駆除
▼デミ・くれないざくら(紅桜、でも可)
トレントと同じようなステータス
とはいえ永く生きた大きな桜なので、幹も太く硬いため切り倒すには厄介
▼元園長・メイソン
桜に近付くなと必死で頼み込んできます
街の人に力ずくで止めてもらっても、皆で説得してもいいです
※以下PL情報(プレイヤーのみ知っていてキャラクターは現地で聞くまで知らない情報)
・桜の下には恋人の遺骨が実際に土葬されているが、殺したわけではなく病で亡くなっており、生前の彼女の『大好きだったくれないざくらの下に埋めて欲しい』という遺言通りに彼は埋めただけ
・デミ化したくれないざくらはたどたどしくですが喋れます。人を襲うほどの強い意思は、亡くなった恋人と桜本体両方によるもの
▼全体描写になります
ゲームマスターより
桜関連のシナリオをもっと出したかったのに、今年の春はあっという間でした…もう暑い。
ビギナーに設定していますがどなたでもお気軽に。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
デミ・紅桜は討伐するより沈静化したい。 住民の訴えが本当なのか、の部分からオレ達は調査に来たとメイソンさんに事情を説明し協力を要請しよう。 近くにオーガ出現の話も無い→桜凶暴化の原因は他にある。沈静化して危険が無くなれば討伐の必要はないとオレ達は判断する。 その調査に協力してくれるよな? 彼女の病死にはお悔やみ申し上げよう。 本来事件性無いのに、彼女が居なくなり他人の憶測→良くない噂が流れ 皆の疑心暗鬼→瘴気の一因となり桜凶暴化か? 桜(彼女)はメイソンさんが孤立化するのを恐れたのかもしれないな。 もし皆の意識が凶暴化を生んだなら皆に説明して、改めようぜ。 駆逐以外の解決方法があると住民に説明し納得してもらう。 |
真(新)
・神人の心情 人を襲うのは困りますけど観光地に出来るほどの桜を切るのはもったいないですよね。 元とは言え幼稚園の園長をしていた人が子供嫌いってことはないだろうから何か理由があるんでしょう。 ・神人がしたい行動 わざわざ派遣の中止を懇願してきたってことは確実に邪魔しに来そうですし先手を打って説得ですかね。 どうも、桜の近くにいるみたいですし。駆除をするかどうか判断するためと言ったら情報を教えてもらえないでしょうか。 ・神人が使いたいスキルやアイテム 戦闘になったら取りあえずコンフェイト・ドライブですかね。 |
ユズリノ(シャーマイン)
メイソンに人を桜に近づかせない理由聞く その答えに 「オーガ化は怒りや憎しみの感情で起こります 桜が怒る心当たりありませんか?」 心当たりがあるなら話してほしい 解決に協力してほしいとお願い メイソンが現場に同行希望なら僕等は許可 現場 紅桜へ「人が来なくなって寂しかったの? 会話可能なら望みは何かを聞く 恋人の言葉が出たらメイソンにしっかり向き合うよう促す 殺気や攻撃の兆しにトランス r5内でメイソン守り飛び出し警戒 MP不足DI 状況に矛盾しなければ提案 紅桜の見える場所へお墓を移し 紅桜の枝を貰い接ぎ木でそばに植樹してみてはどうか 観光地の話があるし 街の方達とも話し合ってはどうか 差し出がましいかな… 瘴気払う為浄化の祈りを |
「ここが『くれないざくら』の咲く丘……」
一行が訪れた任務地。
空は晴天、風向きは北北東。暖かな陽気の中、くれないざくらはただ静かに、丘の先へ佇んでいた。
「おかしなところは、何もないように見えますけど……」
神人、真が、周囲を見渡しながら言う。
隣に控える彼の精霊、新も、物言わぬ桜を遠目に見つめている。
至って普通の丘――ただ、桜の周辺には樹木や花木は一つも植えられていない。
綺麗に整備はされているのに、人気もなく静かに初夏の風が吹くそこは。
「……なんだか、寂しい場所だね」
精霊、ラキア・ジェイドバインが、風に揺れる髪を押さえながら、悲しげにひとつ呟きを落とした。
* * *
「――なんだ、また文句を言いに来たのか……」
丘の入り口に、ぽつんと建っていた小さな小屋に、その男性は住んでいた。
元・保育園長、メイソン。異常な程くれないざくらに固執する、初老の男性。
そこまで歳もいっていないのに、その顔は精神的な疲労からか、痩せこけているように見えた。
「住民達の訴えが本当なのか、の部分から、オレ達は調査に来た」
神人、セイリュー・グラシアが真剣な眼差しで告げる。
「どの訴えだ。私がここを退かない事か、それとも――」
「全部ひっくるめてだ。住民たちは桜の存在を恐れてる。デミ化したなら、オレ達は駆除しなきゃならない」
セイリューの言葉を受けて、メイソンは剣呑に目を細めた。
「……。街からここは離れている。桜は私が管理しているんだ、何も問題ないだろう」
「デミ化した樹木が、大人しく一般人の言う事を聞いたりはしません。そもそも桜……彼女に最初、意思はなかったはず」
彼女、と言う言葉に、メイソンがハッとラキアを見た。
「……君たちは、くれないざくらの声を聞く事ができるのか?」
メイソンの言葉に、精霊シャーマインが静かに答えた。
「ただの樹木がデミ・オーガ化したということは、そこに何らかの意思が宿ったとも考えられる。本部からは、トレントの様なステータスがあると聞いた。意思の疎通が出来るかもしれない」
――俺たちや、あなたとも。
真摯な眼差しを向ける精霊の言葉に、メイソンは考え込む。
彼は長いこと、愛する桜の側に付き添っていた。けれど凶暴化してからは、彼ですら近付く事を許してくれない。硬い枝が伸び根が隆起し、やんわりと彼を遠ざけてしまう。
「オーガ化は、怒りや憎しみの感情で起こります。桜が怒る心当たりはありませんか?」
思い当たる節があるならば、話して、解決に協力してほしい、と神人ユズリノが語りかける。
シャーマインも、彼の隣に並び説得を続けた。
「俺たちとしては、瘴気を浄化して、オーガ化を解き元の状態に戻したいと思ってる」
「だが、君たちは武器を持っているじゃないか。穏便に話し合う態度だとは思えない」
メイソンが一行の装備をぐるりと伺い、怪訝な表情で一歩引いた。
「……浄化が無理なら、最終手段として討伐する事になる。一般市民や――あなたがかつて守ってきた子供達を、危険に晒す訳にはいかないからな」
「それなら……!」
「そう、ならない為にも。桜には誠実に、向き合ってあげないと」
曇らせていた表情を上げて、シャーマインがメイソンをなだめるように、柔らかく微笑んだ。
「沈静化して危険が無くなれば、討伐の必要はないとオレ達は判断する。本部が認めれば、あなたから住民達への桜を守る口実にもなるだろ」
「……それは、そうだ。だが正直、私にも訳が分からないんだ。何故突然、桜が暴れ出したのか……君たちの言う通りだよ。管理するどころか、今は近付く事さえままならん」
セイリューの言葉に、メイソンは肩を落としてうなだれた。
疲労しきった表情からは、困惑と失意がうかがえる。
一人で桜を守るのにも、限界を感じ始めていたのだろう。
「近くにオーガ出現の話も聞かないなら、凶暴化の原因は他にあるはずだ」
「可能性は色々考えられるけど……桜の様子を確認しないことには話にならない。俺は『樹医』です、メイソンさん」
「樹医……?」
「はい。貴方の体調も、診せて下さいね。顔色があまり、よくありませんから」
ラキアの穏やかな――それでいて、説得力を伴った言葉に。
メイソンは、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
* * *
「住民達の訴えに、私の亡き恋人の話も入っていただろうか」
メイソンの問いかけに、セイリューがこくりと頷いた。
「住民達は、貴方が殺して埋めた、と――」
「……確かに亡骸は埋めた。私が子供達に、おかしな話し振りをしてしまったのも一因なのだろう」
彼女は、病死だった。
メイソンの発した抑揚ない重い言葉に、お悔やみを、と一言セイリューが添える。申し訳なさそうに、メイソンはひとつ相槌を打った。
「医師に長くはないと言われ、私に出来る事と言えば、彼女の最期の望みを聞いてやる事くらいだった」
メイソンがずっと昔――保育園に就任して間もない頃、親元のない孤児として、園の皆で面倒を見ていたのが彼女、サクラだった。
歳は離れていたけれど、彼女が大きくなる頃には、よく面倒を見てくれたメイソンとの間に恋心が芽生えていたのだという。
『私が死んだら、くれないざくらの下に埋めてほしいの。最初にあなたと出会った場所を見下ろせる、あの丘で眠りたい……』
わがままよね、と彼女は苦笑した。大きく育っていく街のシンボルを思えば、非現実的な願いだとわかっていた。
それでも、メイソンは彼女の願いを叶える事を望んだ。
「それならそうで、事情を住民達に説明しても良かっただろうに」
「既にその頃には観光地の案が浮上していた。そんな場所に人の亡骸を埋めようなどと、一体誰が賛成するだろうか。私の意思一つで、そんな事はとても……」
首を振り俯くメイソンの背中を、ラキアが優しくさすった。
「本来事件性はなかったのに、他人の勝手な憶測から良くない噂が流れて、皆の疑心暗鬼が瘴気の一因となり凶暴化――か?」
腕を組み、セイリューが考えを口にする。
段々と、解決の糸口が見えてきた。
「もし皆の意識が凶暴化を生んだなら、説明して改めればいい。駆逐以外の方法があると住民達に説明し、納得してもらおう」
「そうだね。観光地案も合わせて話し合えば、うまく説得出来るかもしれない」
セイリューの言葉にユズリノが賛同した。
そうと決まれば、と支度を始める一行に、メイソンは不安そうな顔を向けた。
「だが、君たちは桜に近づけるのか? 長くあれを擁護してきた私ですら、拒絶されているというのに」
「……それにだって、きっと何か理由があっての事だと思います。俺は」
答えたのはラキアだった。
遠巻きに見ただけでも、くれないざくらは何かを想い、孤独を憂いているように見えた。
「植物とは心を通わせられる。その理由も直接、聞いて見ましょう」
彼女自身に。
揺らぐ心を落ち着けてくれるようなラキアの微笑みに、メイソンは重い腰を上げ、一歩外へ踏み出した。
* * *
小屋から桜までの距離は、数十メートルほど。
メイソンを後ろへ庇う様に後退させ、用心しつつ、一行はくれないざくらへと近付いた。
「っ! あぶないっ」
幹の木目が目視出来そうな程の距離で、突然鋭く尖った枝が伸び、一行を――否、メイソンを狙った。
あらかじめトランスを済ませ、発動可能にしていたシャーマインのフォトンサークルが、すかさず彼を守った。
真と新は、戦闘に備えコンフェイト・ドライブを素早く行使した。
「今の攻撃は、メイソンさんを狙ってた……!?」
「何故……どうしてなんだ……」
光の結界の中で、メイソンは悲壮に表情を歪めた。
「戦うためじゃないっ、話を聞きに来た! 何を怒ってるんだ!」
「お願い、話を聞いて。くれないざくら――いいえ」
サクラさん……!
シャーマインと、ユズリノの必死な呼びかけに、鋭く伸びた枝葉たちがびたりと動きを止めた。
ざわざわと、桃色の花びらが一斉にざわめいた。
『――……私ノ名前、知っているノ?』
響いた声に、ハッとメイソンは目を見開いた。
サクラ、と、信じられないというような声で、恋人の名を搾り出す。
「俺達は、あなたと会話をして、駆除せず守りたいと思ってる。――メイソンさんも」
ラキアが一歩踏み出し桜を見上げる。戦う姿勢は、一切見せなかった。
太い幹をした、長くの年月を生きた事がわかる立派な桜だと感心した。
その心が通じたかのように、くれないざくらは攻撃の手を緩めていく。
「……人が来なくなって、寂しかったの?」
望みを話してほしい、とユズリノが言う。
『……こんなことニなるなんテ、思ってなかっタ……』
「サクラ……っ!」
『来なイで!!』
結界から出て、くれないざくらへ近付こうとするメイソンの足を、地面が隆起し根が壁を作り、阻んだ。
「何故……どうしてなんだ、私はずっと、お前のそばにいたじゃないか」
『いいの、もウ……これ以上、ワタシはあなたを――』
花たちはざわめくばかりで、泣いているかのような彼女の言葉は、いつまでも要領を得ない。
ラキアの隣に並び立ったセイリューがしゃがみこんで、落ちた花びらを一つすくい上げ、静かに問いかけた。
「……あなたは、メイソンさんが孤立化するのを、恐れたんじゃないか?」
『!』
「どうして守ってくれてる筈のメイソンさんまで遠ざけようとするのかが分からなかった。でも、住民達に辟易されているのが、サクラさんだけじゃなくメイソンさんの二人だって言うなら話は一致するんだ」
「サクラ……そうなのか? お前は、私の事を守ろうとして……」
がくりと膝をついて、メイソンは桜を見上げた。
『……私を守るほど、あなたが嫌われていくノを、もう見たくはなかったノ……私はあの保育園で、私を見守ってくれたあなたも、街のみんなも、本当は大好きだったのニ……私がわがままヲ言ったから』
サクラは悲しそうな声で言った。
ざわざわと、花びらが風に揺らいで散っていく。
桜の見ごろはもうとっくに過ぎてしまった。くれないざくら自身も、初夏の風に季節が過ぎゆくのを切々と感じている。
周囲の人たちに迷惑をかけてまで、ずっと、ここには居られない。
「……お墓の場所を、移せないかな」
ぽつりと呟いたのはユズリノだった。
「保育園も、街並みも見下ろせる、もっと別な場所に。くれないざくらの枝を貰って、接ぎ木でそばに植樹してみて……観光地の話があるなら、危険さえなくなれば桜は丘に残せる。街の方達とも、話し合えないだろうか、って……」
差し出がましいかな、とユズリノが苦笑すればセイリューがそんな事はないだろ、と肩を叩いた。
「必要ならオレたちも立ち会う。住民達に説明して、駆除以外の方法で皆が納得出来る方法を探そう」
『……あなたタチ……』
「君たちは……この桜を見ても、私たちに味方してくれるのか……?」
デミ・オーガ化を遂げた桜は、常時は普通の桜と変わらないが、ひとたび荒れ始めると枝葉が禍々しく変形し、奇怪な姿のモンスターとなり果てる。
当然、住民達は奇形の桜を恐れた。そんな景色を見ても尚、浄化して残そうと言ってくれる人間が居るなんて、二人とも思わなかった。
「――デミ・オーガは沈静化出来たのかね?」
話がまとまり始めた頃合になり、街の長が丘へ姿を現した。
桜を駆除しろ、と言って止まなかった住民達や、子を抱く親も背後に控えている。
「町長……彼らは、桜と共存する道を提示してくれました。どうかここへ、残させてはくれないだろうか」
住民達がざわつく。オーガ化のなんたるかを知るウィンクルム達や桜と意思を交わしたメイソンと違い、彼らにとって今のくれないざくらは恐ろしい魔物でしかない。
「こんな状態の桜を残してどうするの? またこんな風にならないって、確証もないのに」
「メイソンさん、貴方は何を隠していたんだ? やはりあの噂は本当だったのか」
「子供達にも悪影響だわ。時間が掛かっても、こんな禍々しい木は切り倒すべきよ!」
次々に声が上がる。メイソンも、人々の強い意思に気圧されて言葉が出ない。
だから、代わりに。デミ・オーガをよく知り、植物と意思を交わす事の出来るウィンクルム達が、彼らの問いかけにひとつひとつ、丁寧に答えた。
「デミ・オーガ化は、浄化すれば元通りになる事が先の戦闘で証明されています。必要なら資料もお持ちします」
「そして、俺達は浄化の方法を知っている。そもそも、くれないざくらがこんな風になってしまったのは、皆さんとメイソンさん、そしてくれないざくら――サクラさんの意思が、上手く疎通できなかったからだ」
オーガ化の概要と、浄化法を解いたのはユズリノとラキアだ。
サクラ、と言う名前に、一人の住民が反応した。保育園に長く勤める、メイソンと歳の変わらない女性だった。
「サクラ……まさか、あの子が此処にいるの?」
「ではやはり、メイソンさん、貴方が殺して……!」
『チガウわ!』
サクラがついに声を上げた。
これまで、住民達に迷惑をかけている罪悪感と、メイソンを遠ざければいつか解決するだなんて思い込んで、頑なに孤立を続けていた彼女が。
『……ワタシが、ここが好きだっただけ。病気の事は、町外れのお医者様に聞いテください』
「サクラは……病死だった。埋まっているのは本当だ。観光地案のある中、ここに墓地を、とは言い出せなかったんだ」
すまなかった。メイソンが、地に両手をついて土下座した。
「少々、打算的な考え方ではありますけど……観光地に出来るほどの桜を切り倒すのは、やはり勿体無いと俺は思う」
一歩前に出て、桜を残す事のメリットを解いたのは真。
「桜が何を話しているのかわかった今、無理に切り倒す事はないんじゃないでしょうか……きっとこの桜自身も、多くの人に見てもらいたいはずです」
彼の精霊である新も、意見に賛同する理由を続け、膝を着くメイソンにそっと手を差し出した。
「サクラさんだって、元園長であるメイソンさんと子供達に、仲良くあって欲しいと願っています」
差し伸べられた手をメイソンは取る。住民達は、ウィンクルム達の説得力ある説明に次第、考えを改め始めた。
そうして、町長を交え、その場で話し合った結果。
浄化が完全に出来ること、墓地は別の場所に作り変え亡骸も移すこと、くれないざくらを次の春には観光の目玉とする案をメイソンが許可することで、譲歩するという結果に落ち着いた。
* * *
やがて住民達が引き上げ、ラキアとセイリューがトランスを行使する。
くれないざくらを浄化するのだ。縛られた魂を、昇華してやるために。
「サクラ……もう一度お前と、話せて良かった」
『ええ。ワタシも……街の人たちと、仲良クしてね。メイソン、愛してるわ』
どうか、しあわせに。
『キュア・テラⅡ』の光に包まれた桜が、ぶわりと大量の花びらを舞い上がらせた。
一瞬だけ、花嵐の中心に女性の姿が浮かんで、メイソンとウィンクルム達を見届けるように、やがて天へと吸い込まれて消えた。
残った木から赤い花はすっかり散って、葉桜同然の様相となり、今や妖艶な『くれないざくら』は見る影もないけれど。
「さっきよりも、ずっと良い色をしてる。桜自身も、ちょっと元気になったみたいだ」
「そっか。メイソンさんも、随分顔色良くなったしな」
「うん……来年の春も、きっと綺麗な桜を見せてくれるよ」
セイリューと二人、空を見上げ続けるメイソンを見て、切なげに笑ったラキアが、木の幹にそっと白い手で触れた。
「桜と戦闘にならなくて良かった。足引っ張らないか、不安だったのもあるけど……」
「……うん。両者が納得出来る方向にまとまってよかったと、僕も思う」
真と新も、風にそよぐ桜の若い葉に、最良の結果を称えあった。
「植樹は――桜が見える事は当然として。街も保育園も、全て見下ろせるような場所がいいな」
「うん……そうだね。サクラさんの魂が、いつまでも安らかであるように」
シャーマインがユズリノの肩を抱き、空へ舞い散る花びらのすべてが見えなくなるまで、共に祈りを捧げた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 3 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 04月28日 |
出発日 | 05月09日 00:00 |
予定納品日 | 05月19日 |
参加者
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 真(新)
- ユズリノ(シャーマイン)
会議室
-
2017/05/08-23:36
全然顔出しできなくて済まない。
プランは提出した。
デミ紅桜は討伐よりも沈静化の方向でプランは書いた。
が、文字数全然足りないぜ…ふう。
戦闘しない方向でプラン書いたので、もし荒事になったら、何も出来ないかも…ゴメン。
後は巧くいきますようにと天に向かって祈るしか!
万一の時はラキアが回復してくれると思うけど!
-
2017/05/08-20:34
シャーマイン:
プランは提出した。
出来る事は詰め込んだ。
紅桜への説得が文字数足りなくてあっさり気味なんだが
そこは皆との相乗効果に期待させて貰ってる。
うまくいくといいな、じゃよろしく頼む。
何かあれば調整はできると思う。
(投稿し直したすまん) -
2017/05/05-14:24
シャーマイン:
意見サンキュ!
メイソンに先に会うでも反対は無い。
関係者であるメイソンに話を聞く必要はあるからな。
こちらの考えを話して解決に協力を求めたいとは思う。
頑なそうだな…、考えよう、むむむ。
桜と会話したいという根拠は、
ただの樹木がデミオーガ化した、ならそこに何かの意思が宿ったのかも、
トレントの様なステータスも認められるなら会話が出来るかもしれない。
と考えての事なんだ。
メイソンにはこの予想を話して協力を取り付けたいかな。
桜の元に行く時は、メイソンも同行して貰う方がよさそうかな、置いていくと後から乱入される可能性もありそうだし、
PL情報も考えれば二人の話し合いがないと解決は難しいだろうし。
現場ではもちろん怪我の無いように守る。
戦闘が発生した場合、r5で味方の防御上げと万一の遠距離攻撃に覚えたてのr8を使う予定だ。
攻撃はしないが説得失敗で止むおえない場合は討伐する。
あと、事後フォローで考えている事だが
観光地の話が持ち上がってる事について、人が埋まってるとわかったらそれも難しい。
だから紅桜の見える別な場所に墓を移してそこに接ぎ木なんかで桜を植樹してやってはどうかとメイソンに提案してみようかと思う。
無事に和解ができたらの話だが。 -
2017/05/04-15:37
新:
はい、改めて宜しくお願い致します。
あ、僕のことはさん付けじゃなくても大丈夫です。
目標は同感なんですけど
ウィンクルム達は生きてはいても明確な意志はないはずだと考える、と書いてあるので最初から桜の木に話を聞きに行くのは少し不自然なのではないでしょうか?
まあ、戦闘のつもりで行ったら話せそうだったから会話を試みる、だったら不自然じゃないかな。
そうですね。最初にメイソンさんと話をしたほうがいいのでは?と言う点以外は大体同意です。
駆除をしないといけないかどうかの確認のためにも先ずは桜の情報が必要だという方向で話を持っていったら少しは聞く耳持ってもらえないですかね。
強い意志のほうは、恋人としてはメイソンさんが子供と一緒に楽しそうにしているところが見たい、桜の木としては色んな人に見てほしいあたりかなと思いますけど。
-
2017/05/04-10:40
シャーマイン:
出発成立だな、改めてよろしく。
真さんと新さんは初めまして、お、ご同業か!
>PL情報
この部分だが、メイソンに聞いても答えてくれ無さそうな印象だ。
だから桜の木に直接聞きたいと思う。
トレントと同じような状態になってるというのは分っている事だから
「話をする」という考えは普通に発想できると思うから。
それで、こんな流れにならないかと思う。
先に桜の木に事情聞いて、その情報を元にメイソンに洗いざらい吐露させる。
軽く戦闘は発生するかもしれないが、そこは抑えながら解決に持っていく。
デミオーガは、浄化でオーガ化を解く事ができるらしいから(フェスイベ★1の結果受けて)
桜の木とメイソンを説得して和解に持っていって桜の木も健在、
そんな終わり方を目指したいが、どうだろうか?
なんとなく事情は想像できるな。
桜の下に埋めて欲しい、てのは人が訪れてくれる事も期待してのもので
それをメイソンが阻んで、さらに孤立状態にまでなってそれを怒っているとかだろうか?
というのが現在の考えだ。
皆はどう考えているんだ? -
2017/05/04-00:13
セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
真さん達は初めましてだな。
ユズリノさん達は今回もヨロシク。
デミ・紅桜を何とかしなきゃならないんだけど
今回も色々と考えなきゃならないことがあるよな。
単純に討伐して事件解決、と言えない事情がありそうだ。
どうしようか、いま、ちょっと考え中。 -
2017/05/02-17:20
初めまして、俺は真です。パートナーはマキナでロイヤルナイトの新です。
戦闘経験はまだないので足を引っ張ってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。 -
2017/05/01-15:22
ユズリノとRKのシャーマインです。
どうぞよろしくお願いします。
人、待ちましょうかね。