【堕騎士】悔恨、碧く洗われる時(後編)(北織 翼 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ここは、ショコランドのとある場所にある教会。
 小人の牧師とその息子が暮らすその教会では、この辺りに古くから伝わる伝説の騎士『碧龍(へきりゅう)』の無念を鎮めようと、毎年『代理結婚式』なる行事が行われてきました。

 碧龍はその昔、この教会で愛する女性と婚礼の最中に無情にもその魂を封印されてしまった哀れな騎士です。
 挙式を遂げられなかったばかりか、慈愛に満ちた別れの挨拶もその別れを受け止める事も叶わなかった2人の代わりに結婚式を行い、その無念を鎮める――この教会では昔からずっと行われてきた事でした。

 そして、今回この代理結婚式で碧龍と恋人の代役に選ばれたのはあなたたち……そう、ウィンクルムでした。
 代理結婚式初のウィンクルム参加に、小人の子供は大興奮し関係者たちも歓喜に沸き、代理結婚式は見事に成功しました。

 しかし……愛に溢れたウィンクルムの代理結婚式は、その後思わぬ展開を呼ぶ事になるのです。

 * * * * *

「素敵な結婚式だったなぁ! 僕も大きくなったら碧龍様みたいな立派な騎士になって、お嫁さんにあのドレスを着せたいなぁ……」
 牧師の子供はニマニマと可愛らしい笑みを浮かべながら、庭で木の枝を剣代わりにして振るっていました。
 すっかり元の格好に着替えたあなたとパートナーは、代理結婚式の余韻に浸りながら幸せな気持ちで子供を見つめています。
 その子の父親である多忙な牧師様には悪いですが、その光景はまるでひと組の家族のようにも見えました。

 その時……
「ガシャン……」
 庭の木の陰から、全身を鎧に包んだ者が突如姿を現したのです。
 あなたのパートナーである精霊は反射的に小人の子供を背に庇いました。

「……その子は、汝の子か」
 鎧が低い声を発します。
 頭のてっぺんからつま先まで鎧で覆われ、その顔も何も全く分かりませんが、声からして若い男性である事が窺えました。
 あなたの精霊は、鎧男を警戒しながらも小人の子供とは知り合ったばかりである事を伝えます。
 すると、鎧男は数歩あなたたちに近付くと、腰に携えた剣の柄に手を添えながら、静かにゆっくりと語り始めました……。

「我が名は、碧龍。その昔、この教会で愛する者を不幸にした、罪深い男だ……」

「へっ、碧龍様!? 初めてだよ、碧龍様の魂が来てくれるなんて、初めてだ!」
 小人の子供は精霊の背中からひょこっと顔を出し、またも興奮した面持ちで鎧男を食い入るように見つめます。
「ウィンクルムが代理結婚式をしてくれたからだよ! お姉さんたち、すごいや!」

「……汝、ウィンクルムならばさぞ強かろう。我の話を、聞いてはくれぬか……?」
 あなたと精霊が頷くと、碧龍は言葉を続けました。
「……我が愛した女性は、我の子を宿していた。我は、夫として、父として、彼女と……彼女が宿した我が子を護りたかった。戦って武功を立て、我が子に父の背中というものを……見せたかった……」

 伝説の騎士がまさかのショットガン・ウエディングだったとは……という事はこの際どうでも良い事です。

「我は戦いたかったのだ、愛する家族のために……そして、父に……なりたかった……」
 顔面を覆う碧龍の兜の隙間から、涙が零れ落ちました……。
「父として、戦う男の生き様を見せたかった……我が子が、強く生きていけるように……」

 ……あなたと精霊は、言葉を失いました。
 心から愛する女性と、彼女との間に生まれた我が子に囲まれ、幸せな家族になる筈だった……
 その幸せを、婚礼の最中に奪われた彼の無念は如何程のものか……
 碧龍の思いに触れ、あなたは勿論ですが、そのあなた以上に精霊は胸が押し潰されるような心地です。
 どうしたら、碧龍の無念を晴らし、彼を成仏させられるのでしょうか……?

 その答えは、碧龍自らが明かしてくれました。
「……強きウィンクルムよ、我と戦え。我も汝も、そこに居る子を我が子と思い、戦うのだ」
「えっ、ええっ、僕を!?」
 小人の子供は素っ頓狂な声を上げます。
 碧龍は、柄を握っていた剣を腰から鞘ごと外すと、精霊に投げ渡しました。
 そして、背負っていた剣を抜き、その切っ先をあなたの精霊に向け構えます。
「騎士道に則り、1対1で正々堂々全力を以て勝負せよ。さすれば、我は長年の呪縛から解き放たれん」

 碧龍を救うべく、あなたの精霊は受け取った剣を抜きました……。

解説

 今回のメインテーマは、『伝説の騎士の亡霊と全力勝負をして騎士を成仏させる』です。

 アドベンチャーエピソードですが各ウィンクルム個別描写となります。

 以下、補足情報をご提示致しますので、プラン作成の参考になさって下さい。

■碧龍の相手
 あなたの精霊のみです。
 騎士道を重んじる碧龍は、決して女性には手を上げません。
 精霊ではなく、どうしても自分が戦うという神人さんは、碧龍を納得させる事情を示して下さい。

■碧龍の戦闘力
 碧龍は精霊と剣で戦いたいようです。
 彼の希望を尊重し、彼に渡された剣で応じて下さい。
 碧龍は、魔法のような技を使ったり、瞬間移動したり姿を消したり等という通常の生きた人間に出来ないような事は絶対にしません。
 純粋に剣技のみであなたの精霊に挑んできます。
 その他の詳細な戦闘力などはあえて伏せさせて頂きます。
 なぜならば、碧龍が真に望んでいる事は『互いに全力で戦い、戦う男の背中を子供に見せる事』であり、勝敗は二の次だからです。

■精霊のジョブについて
 『プレストガンナーは不利じゃないか!』
 『ライフビショップはどう戦えと言うんだ!』
 と思われる精霊さんもいらっしゃる事でしょう。
 今回はジョブに関わりなく皆様剣での戦闘ですので、こうした心配はごもっともですが、ご安心下さい。
 なりふり構わぬ剣の振りでも、剣を捨てての白羽取りでも、『全力本気』であれば碧龍の魂に響きます。
 逆に、近接戦闘がどんなに得意なジョブでも、少しでも手心を加えたり手抜きをしようものなら碧龍は激怒、成仏は出来ません。
 『有利になるジョブはあっても、不利になるジョブはない』とお考え下さい。

■トランス・上位トランスについて
 こちらは、考え方次第で『卑怯』とも『全力本気を出すには必須』ともどちらにも取れます。
 発動させるかどうかは各ウィンクルムさんの個性や主義次第、2人で出した答えが『正解』であり、『不正解』はありませんのでご安心を。

ゲームマスターより

 マスターの北織です。
 本作は、『【堕騎士】悔恨、碧く洗われる時(前編)』のその後となるエピソードではございますが、前編をご存知ない方も、前編にご参加されていない方も何の支障もございませんので、お気軽にご参加下さい。
 小人の牧師の子は、前編ご参加の有無に関わらず皆様を『代理結婚式を成功させた素敵なウィンクルム』という認識で見ておりますが、今回のエピソードのテーマは純粋にタイマンバトルでございますので、プラン及びリザルトには影響を及ぼしません。
 どうぞご安心下さい。
 もし、戦闘の合間に碧龍の心に響く踏み込んだ発言をしたい、等のご希望がございましたら、前編に目をお通し頂けると参考にはなるかと思います。
 今回はアドベンチャーエピソードではございますが、連携の必要がないもので個別描写となりますこと、ご了承下さい。
 それでは、全力タイマン勝負で、是非とも碧龍を成仏させてあげて下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  戦うって…その剣で?
大丈夫?シリウス
返ってきた答えに にこりと笑顔
ーうん わかった
がんばって!

剣戟に体を震わせるも 目を逸らさずふたりを見守る
「わかった」というのは半分嘘
本物の剣を使っての戦いは やっぱり心配
でも 強い光を湛えた翡翠の眼差しに拳を握りしめる
側で見守るのが わたしの役目
小さく自分に言い聞かせて
相手の剣の下に飛び込んでいく彼の動きを じっと見つめ

戦闘が終わればほっと息を吐いて シリウスに駆け寄る
怪我は?
確認した後 碧龍様を見て
あの わたしも父を亡くしたんです
だけど きっと天国で見守ってくれていると思って
だからわたしたちも頑張らなくちゃって…
碧龍様の子どもも きっとそう思ったはず
だから安心して 眠ってください


かのん(天藍)
  天藍から
「ウィンクルムの精霊」を相手に希望して本気の真剣勝負というのなら、こちらもトランスするのが筋だろう
と請われ、屈む彼の頬に少し背伸びしてトランス
ハイトランスをどうするか天藍に尋ねると、1対1の戦いだからかのんの力を分けてもらうのは違う気がするとの返事に使用を見送る

あくまでも1対1とのことですから、応援に徹しますけれど…無茶しないでくださいね
2人から少し離れたところで牧師の子供と一緒に戦いを見守る

牧師の子供に提案
2人の戦いが終わったら碧龍さんに、大きくなったら碧龍さんのような騎士になりたいと思っていることや貴方にとって永遠の英雄だということを伝えてみたらどうでしょうか?

怪我していたら手当を


シルキア・スー(クラウス)
  LBでも刃を振う事もあるので修練はよく家の庭でしてるし止める理由はない
何より彼がやる気だ
1対1で正々堂々全力を以て勝負…性格的に滾るよね
頷き「頑張って!」と送り出す

子供を安全圏に下がらせ(他にも人がいればそちらも)
彼に応答「大丈夫!

観戦中子供が興奮で前へ出ないよう安全に配慮する
子供がプレッシャー感じてる様なら
「二人の生き様がぶつかり合っているのね 見たまま感じるままでいいのよ」
観戦中彼と1度視線が合った(しっかり…!

対戦後
「あなたの生き様そのものって印象だった お疲れ様!」
彼の変調には特に気付かずにっこり
騎士様が成仏へ至る為一切の瘴気が払えるよう
生まれ変わったなら幸せを全う出来るよう
浄化の祈りを


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  ウィンクルムは2人でひとつです。
オーガへの脅威に立ち向かう力を、私達は2人とも揃う事で、発揮できる。
全力を出して戦うにはトランスは必須。だからトランスします。

フェルンさんが戦っている間、小人の子を自分の背中に庇います。
戦闘中、非戦闘員であるこの子を護らなくては。
スポーツの試合ではないのですから、戦闘中何が起きるか判りません。
万が一にでも、私はこの子を傷つけたくない。
2人が戦っている姿を良く見ます。
スキルの余波が気そうなら男の子と一緒に避け、無理なら庇って防御。

ここの人達は碧龍さん達をずっと忘れず、毎年貴方達の無念を鎮めるために行事をとりおこなっています。この人達の想いも酌んであげて欲しいです。




アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  …ガルヴァンさん
トランスは必要?

ご、ごめんなさい…(すごすご

少し離れた箇所に座って観戦
子供が興奮して前に出ないようすぐ掴める位置をキープ
子供に名前聞いて君付けで呼び
どっちを応援したい?

素振りする精霊を見
あ…ガルヴァンさ…
さっきみたいに余計なお世話かなと思い
結局決闘へ

決闘
ガルヴァンさん頑張れーっ
精一杯応援

やっぱり居ても立っても居られず
ガルヴァンさん!肩に力入りすぎてるよ!
力任せに振るんじゃなくて腕と体を使って振るの!

すぐに動きが改善された姿を見
流石だなぁと思いつつ子供と一緒に両方応援
どちらが勝っても惜しみない拍手を

終了後
お疲れ様
助かったと言う精霊に
経験からの技術もどきだったけど役に立てて良かった


●ガルヴァンvs碧龍
「神人や子供には手を出さないんだな?」
 ガルヴァン・ヴァールンガルドは碧龍を訝しげに睨んだ。
「無論。女子供に手を上げるなど、騎士道に背くあるまじき事」
「……いいだろう。その挑戦、受けて立つ」
 ガルヴァンは碧龍から受け取った剣を鞘から抜いた。
「ガルヴァンさん……トランスは必要?」
「いらん。これは1対1の決闘だ、水を差すな」
「ご、ごめんなさい……」
 彼の眼光に漲る気迫に、アラノアは引き下がるより他なかった。

 ガルヴァンは剣の柄を両手で握り構えると、軽く素振りしてその感触を確かめるが……。
(やはり片手剣は慣れんな……普段の得物とはリーチも重量も全く違う。果たして全力が出せるのか……?)
 ガルヴァンの眉間には隠しきれない皺が刻まれていた。
(そういう使い方するよりは……)
 アラノアは矢も楯もたまらず
「あ、ガルヴァンさ……」
 と呼び止めようとするが、先程の『水を差すな』を思い出し口を噤む。
(余計なお世話かな……)
「向こうで応援してよっか」
 アラノアは気を取り直し、小人の子供を連れて芝生の敷かれた庭の隅に腰を下ろした。

「名前、何て言うの?」
「リエル!」
 アラノアの問いに、牧師の子供はパッと笑顔を咲かせて名乗った。
「リエル君は、どっちを応援したい?」
「碧龍様!!」
(そ、即答……)
 リエルの半端ない碧龍へのリスペクトぶりに苦笑しつつ、アラノアはガルヴァンを精一杯応援しようと大きく息を吸い込む。
「ガルヴァンさん……」
「碧龍様……」
「「頑張れーっ!」」
 2人の声援を合図に、漢たちによる魂のぶつかり合いが幕を開けた。

 先手を打ったのはガルヴァンだ。
 彼はいつもの感覚で間合いを測り剣を振り下ろす……が、その剣閃は碧龍の眼前で空を切る。
 更にガルヴァンは振り下ろした剣を逆袈裟に切り上げるが、それも虚しく空振る。
 そこに碧龍が一気に間合いを詰め、ガルヴァンの脇腹を容赦なく剣の柄で突いた。
 ガルヴァンの苦悶の表情に、いよいよアラノアの我慢は限界を迎える。
「ガルヴァンさん! 肩に力入り過ぎ! 力任せに振るんじゃなくて腕と体を使って振るの!」
 張り上げられたアラノアの声に、ガルヴァンは軽く目を見開いた。
 深呼吸してアラノアのアドバイスを胸の内で反芻すると、それまで感じられなかった剣の重みが柄を握る手に伝わってくる。
「成程……」
 ガルヴァンの双眸から迷いの色が消えると、碧龍も重心を下げて構える。
「……いざ!」
 碧龍はガルヴァンの脇下を切り上げに掛かった。
 ガルヴァンは体を撓らせ回避するとくるりと回転し、その回転に更に腕の遠心力を加え碧龍に横一閃を食らわせる。
(先程よりも戦いやすくなったな)
 アラノアの一言で要領を得てすぐに実践出来る……ガルヴァンの戦闘センスでこそ為せるものだ。
 これにはアラノアも感嘆の息を漏らす。
(流石だなぁ……)
「2人とも頑張れーっ!」
 アラノアは一層声高らかに応援した。

 互角の戦いを見せていた2人だったが、ここに来て経験の差が出始めてきた。
 慣れない武器であるが故にどうしても攻撃の型が限られるガルヴァンと、多彩な攻撃を仕掛けてくる碧龍……。
「碧龍様ーっ!」
 リエルの声援に後押しされた碧龍の『全てを懸けた剣』が、ガルヴァンの剣を空高く弾き上げた……。

「汝、強敵であった」
 碧龍がガルヴァンに手を差し出す。
「さすが『伝説の騎士』だな」
 2人は固く握手を交わし互いの肩を叩いた。
 アラノアとリエルも惜しみなく拍手を送る。
「碧龍様カッコ良かった! 僕も碧龍様みたいな立派な騎士になりたいっ!」
「何と……」
 リエルの言葉に、碧龍は兜の隙間から涙を零した。
「汝らのお陰だ……心から礼を言う……」

 天高く昇っていく碧龍の魂を見送り、アラノアがガルヴァンを労う。
「お疲れ様」
「戦いきれたのはアラノアの言葉のお陰だ。助かった」
「経験からの技術もどきだったけど、役に立てて良かった」
 アラノアははにかみながらそう返すのだった。

●クラウスvs碧龍
「俺はこの申し出を受けたいと思う」
 クラウスはシルキア・スーに向き直った。
「頑張って!」
 シルキアに彼を止める理由はない。
(『1対1で正々堂々全力を以て勝負』……クラウスの性格的に滾るよね、うん!)
 実際、クラウスの目には闘志が漲っている。
 普段の戦闘では仲間の防御や回復をメインに力を発揮するクラウスだが、刀剣類を使用する事もあるので日々の鍛錬は欠かしていない。
 家の庭で稽古に励む彼を幾度となく見ているシルキアは、迷わずその決断を後押しした。

 シルキアに送り出されたクラウスは剣を鞘から抜き構える。
「碧龍殿、お相手仕りましょう」
 クラウスの迸る気迫に、シルキアは牧師の子供を連れ安全圏まで下がった。
「シルキア!」
「大丈夫!」
 クラウスが皆まで言わずとも、シルキアは子供を守りながら距離を取っている。
 決闘の舞台は、整った……。

 開始早々、クラウスは碧龍の間合いに積極的に踏み込み斬り掛かった。
(相手はデミオーガの能力を有している。引いてはならぬ!)
「汝、良い剣閃をしておる!」
 碧龍もまたクラウスの攻撃を巧みにいなしては体重を乗せた剣撃を返す。
 クラウスは、まるでシャイニングアローを発動させるかの如き気迫で碧龍の攻撃を受け止めた。
(だが防具を破壊してはならぬ!)
 防具を破壊すれば堕騎士の戦意は喪失、その魂は強制的に離脱してしまう。
 クラウスは碧龍の無念を晴らし成仏させてやりたいのだ。
 だが、それと等しく彼自身もまた……
(勝敗決するその時まで、この一時を全うしたい……!)
 という、彼らしい欲求に似た願望を抱いていた。

「2人とも何だか怖い……」
 シルキアの背後から決闘の様子を覗きながら、小人の子供が震える声で呟く。
 シルキアは子供をその場に座るよう促すと、隣に腰掛け優しく子供の肩を抱いた。
「2人の『生き様』がぶつかり合っているのね……」
「生き様?」
「うん。だから、その心のままに感じて。怖いと思ってもいいの。見たまま、感じたままで」
「……うん!」
(クラウス、この子も見てるからしっかり!)
 シルキアの祈るような視線を感じたクラウスは、一瞬だけ彼女と目を合わせると改めて碧龍を見据え突撃する。
「単調だが……何という気迫!」
 クラウスの愚直な剣筋は百戦錬磨の碧龍には悉く見切られ防御されたが、それでも力で押すクラウスに碧龍は興奮を禁じ得ない。
「これが汝の『生き様』か!」
「左様! 私の剣は『信頼に応える』その一心の剣! この生き様、この剣が貴殿の闇を晴らすなら、私はどこまでもお付き合い致しましょう!」

 ……どれ程の時が経ったであろうか。
 2人の肩は激しく上下し、構える剣先は小刻みに震えている。
 互いに体力はとうに尽き、残された気力でその剣をぶつけ合い鍔迫り合いに持ち込んだ。
 そして……
「くっ!」
 碧龍の一押しにクラウスの剣は弾き落とされた、が……
「ぐあっ!」
 碧龍もまた、同時にクラウスに力負けしてその場に倒れた。

「我は、戦う男の生き様を示せたであろうか……?」
 倒れたまま、碧龍はクラウスに問う。
「尊敬に値する立派な生き様でした」
「左様か……汝よ、この勝負来世で付けようぞ……」
 碧龍の最期の一言は、どこか少年のような純粋さと清々しさを含んでいた。
「お疲れ様!」
 碧龍が昇天した空を仰ぐクラウスに、シルキアが駆け寄ってくる。
「あなたの戦いぶり、あなたの生き様そのものって印象だった」
「俺の生き様か。その中心は……あ、いや……。う、うむ、そうであったか」
(参ったな……これまでなら『その中心はお前だ』と普通に言えたものを……)
 シルキアへの愛情を自覚してしまったばっかりに変に意識してしまうクラウスの困惑など知る由もなく、シルキアはにっこりと微笑んでいる。
 そして、その微笑みは天空に向けられた。
(騎士様の成仏の為、どうか一切の瘴気をお払い下さい。そして、生まれ変わったらその時こそは幸せを全うされますよう……)

●天藍vs碧龍
「『ウィンクルムの精霊』と真剣勝負、って事で良いんだな?」
 受け取った剣を手に、天藍が碧龍に問う。
「左様。我は今、人ならざる者故……」
「分かった。ならばこちらも全力で応えよう」
 碧龍の答えを聞き、天藍はかのんを振り向いた。
「碧龍は、自分の心が無念の闇に呑まれている事を自覚しているのだろうな。だから『ウィンクルムの精霊』を相手に希望した……ならばこちらもトランスして本気で勝負をするのが筋だろう」
「……そうですね」
 身を屈ませトランスを請う天藍に、かのんは
「共に最善を尽くしましょう」
 と、少し背伸びして彼の頬に口づける。
「天藍、全力と言うならハイトランスにしますか?」
「いや……1対1である以上、俺がかのんの力を分けてもらって相手をするのは少し違う気がするのだ」
「確かに……分かりました」
 天藍の出した答えに、かのんは逡巡なく頷いた。
「でも、無茶はしないで下さいね。あくまでも1対1との事ですから私は応援に徹しますけど……」
「ああ、大丈夫だ」
 かのんが牧師の子供を連れて離れていくのを見届けると、天藍は剣を抜き碧龍の前に立つ。
「さあ、始めようか」

 剣を構える天藍の呼吸の色が変わった。
「それが汝の……ウィンクルムだけの特殊な力か」
「まぁ、そんな所だ」
 と答えるや否や、天藍は怒濤の速さで碧龍に突進する。
(まずはあのフルアーマーの防御力を崩さないとな)
「くっ!」
 あまりの速さに碧龍は剣で防御するのが精一杯だ。
 碧龍は重量を乗せた剣で天藍を押し戻し、天藍の胴の中心に剣先を向け反撃に出る。
 碧龍はその間合いの取り方も絶妙で、天藍になかなか反撃の隙を与えない。
 しかし、天藍も碧龍からの連続攻撃を美しい円の動きで優美に舞うように躱した。
(本来ならもっと反撃出来るんだが……そう上手くはいかないか)
 敵の攻撃に悪意があれば防御して即座にカウンターを仕掛けられる術を天藍は持っているのだが、碧龍の攻撃にはその『悪意』がない。
 それでも、天藍は合間にフェイントを入れ、緩急をつけた多彩な動きで攻撃を避けながら剣をぶつける。
「汝は疲れを知らぬのか!?」
 相手の攻撃を巧みに回避しながら手数の多さで削る――天藍の普段の戦闘スタイルに碧龍は翻弄されていた。
「ウィンクルムの俺が戦う時は、必ずかのんが傍らにいる。だからこそ、俺は動けなくなる訳にはいかないのだ!」

 激闘を続ける2人。
 普段双剣使いの天藍にとって左手が空いている今の状況は違和感の拭えないものだが、素早さと手数で圧倒する天藍の動きに合わせ続けた碧龍の体力は限界に近い。
 頃合いと見た天藍は、振り下ろされた碧龍の剣を右手に持つ剣で受け止めると、刀身を滑らせ鍔迫り合いのような体勢に持ち込む。
 そうして一気に間合いを詰めると、空いている左手で碧龍の喉元を鷲掴みにし、渾身の力を込めて碧龍を押し倒した。
「がはっ……!」
 急所を掴まれた碧龍は芝生の上に仰向けに倒れる。
 勝敗は、決した……。

 倒れたままの碧龍と隣に腰を下ろす天藍の元に、かのんが子供を連れ歩み寄ってきた。
 壮絶な戦いを目の当たりにし言葉の出ない子供に、かのんが優しく耳打ちする。
「碧龍さんへのあなたの思い、伝えてみたらどうですか?」
「えっ……」
 円らな瞳をぱちくりさせる子供だったが、かのんの微笑みに促されるとおずおずと碧龍の隣に座った。
「ええと……僕にとって碧龍様は憧れで、永遠の英雄なんだ。だからね、大きくなったら碧龍様みたいな騎士になるのが僕の夢なんだ!」
 純粋な子供の言葉に、碧龍は上体を起こすと自らその兜を脱ぎ、子供を抱きしめる。
 銀髪碧眼で精悍とした顔つきの騎士が、頬を涙に濡らしていた。
「我はようやく示せたのだな……戦う父の背中を……」
 碧龍は天藍とかのんに深々と頭を下げる。
「汝らのお陰だ……汝らが墓の下まで添い遂げられるよう、我はあの世で見守ろう……」
 そう言い残すと、碧龍は光となって天空に吸い込まれていった……。

●フェルンvs碧龍
 フェルン・ミュラーと瀬谷 瑞希はトランスを済ませ、碧龍に対峙した。
「汝、ウィンクルムの力を使うか」
 碧龍の淡々とした問いに、瑞希が凜とした表情を見せる。
「ウィンクルムは2人でひとつ、オーガへの脅威に立ち向かう力は2人揃って発揮出来るものです。碧龍さんは全力での勝負をお望みなのですよね? ウィンクルムが全力を出して戦うにはトランスは必須です」
「左様か……汝らの思い、しかと受け取った。では神人よ、その子を頼む。我は堕ちても騎士、女子供を巻き込むは騎士の恥」
「分かりました」
(非戦闘員であるこの子を守るのは私の役目。これはスポーツの試合ではなく戦闘、何が起こるか分かりません……。万が一にでも、私はこの子を傷つけたくはありません)
「危ないから、向こうで見ていましょうね」
 瑞希は小人の子供を連れてフェルンと碧龍から離れた。

「……お姉さん、なかなか始まらないね」
「そうですね……」
 碧龍とフェルンが互いに構えてから数分。
 しかし、2人は動かない。
(相手は英雄として永遠の守護を願い封印される程の実力の持ち主……俺と同じロイヤルナイトに似た能力を有していてもおかしくないし、俺より強いだろう。長引けば、離れて待つミズキやあの子の無事も保証出来なくなる。その時が来たら、一気に畳み掛ける!)
 碧龍の僅かな隙も見逃すまいと、フェルンは闘志を漲らせ眼光鋭く碧龍を睨む。
 その凄まじい気迫に、英雄である碧龍でさえも攻めあぐねていたが、その声は揚々と弾んでいた。
「子供よ、見て居れ! 相手が如何に強き者でも、決して逃げず立ち向かう……それが我の生き様だ!」
 碧龍が声を張り上げると同時に、フェルンは持参していた盾を青白く光らせ防御力を上げる。
 そして、一直線に碧龍に突進し、間合いを詰めた。
 フェルンが狙うのは碧龍が手にしている剣――つまり、武器破壊を目論んでいるのだ。
「甘いっ!」
 碧龍はフェルンの剣が当たるタイミングで巧みに重心をずらし、衝撃を抑える。
「汝も騎士と見た。汝の思惑など手に取るように分かる!」
 だがそれはフェルンも同じで、彼にも碧龍の手の内は大体想像出来た。
 剣と剣が激しくぶつかり合う金属音、振るわれる度に発せられる風を切る音……。
 その迫力に、瑞希も小人の子供も言葉を失っている。

「はぁっ!」
 碧龍はフェルンの正面に剣を軽くスピンさせながら繰り出した。
 フェルンの剣を絡め取り、弾き落とそうとしているのだ。
 だが……その一手が、碧龍の運の尽きだった。
 今だとばかりにフェルンが前方にバリアを突進させると、碧龍は強力なバリアによって数メートル後方に弾き飛ばされる。
「うっ……ぐぅっ!」
 すぐに立ち上がろうとする碧龍だったが、フェルンの技の影響で体が麻痺し、動く事が出来ない。
 フェルンは倒れる碧龍に駆け寄ると、容赦なくその剣先を碧龍の兜に突きつける。
「……チェックメイトだ」

 決闘が終わり、瑞希は子供と共に碧龍とフェルンの元に駆け寄った。
「神人よ、そして牧師の子よ、我の戦いを見届けてくれた事、感謝する」
 碧龍は項垂れてはいるが、その声色はひどく穏やかだ。
「精霊よ、汝誠に強かった……全身全霊で我を倒してくれたこの恩、決して忘れまい」
 無念を晴らした碧龍の全身が淡く光り出した。
「待って下さい!」
 今にも昇天する碧龍の前に、瑞希が跪く。
「これだけは言わせて下さい。ここの人たちは、貴方たちの事をずっと忘れず、その無念を鎮めるために毎年行事を執り行ってきました。そんな人たちの想いも、どうか汲んであげて下さい!」
「そうであったな……この感謝、忘れはすまい。昇天しようとも、この魂燃え果つるその時まで、我はこの村を、人々を見守り続けよう」
 碧龍が昇っていった空を見上げながら、フェルンがふっと息を吐いた。
「疲れたなぁ……帰ったらミズキのコーヒーが飲みたい」
「お兄さんとお姉さん、まるで夫婦だね!」
 大仕事を終えた3人は、仲睦まじい家族のようにその場を後にするのだった。

●シリウスvs碧龍
「……家族」
 シリウスの口から無意識のうちに零された『家族』。
 碧龍に投げ渡された剣をじっと見つめる彼の脳裏に、無残に喪われた両親の姿が甦る。
 『父を喪った者』と、『父になれなかった者』――シリウスとは立場も事情も異なるが、碧龍もまた家族を喪った孤独に苛まれていた。
「精霊よ、我と戦え」
 碧龍に切っ先を向けられ、シリウスは剣を抜く。
 その様子に狼狽したのは他でもないリチェルカーレだ。
「戦うって……その剣で? 大丈夫? シリウス……」
 彼女の心配も無理はない。
 渡された剣は紛れもない『本物』。
 シリウスが使い慣れた双剣とは全くの別物だ。
「っ、ああ……一通りの武器は使える」
 リチェルカーレの声ではっと我に返り、シリウスは軽く頷いて答えた。
「……うん、分かった。頑張って!」
(リチェの笑顔はどんな時でも変わらない……なら俺も、やるべき事は変わらない)
 自分の戦い方を貫くと決めたシリウスは、リチェルカーレの笑顔と声援に小さく頷くと碧龍の前に立った。

 互いに一礼し剣を構えると、シリウスは碧龍に間合いを取る暇も与えず先に踏み込んだ。
 全身鎧姿の碧龍に対し身軽なシリウスは、一気に距離を詰めスピードを生かした攻撃を展開する。
「速い……だが、個々の打撃は軽い」
 碧龍はシリウスの攻撃を剣で受け止めると、目にも止まらぬ速さで刀身を捻りシリウスを突いた。
 攻撃を食らったかのように見えたシリウスだったが、紙一重で後方に跳び躱し、間髪を入れず碧龍の体勢が整う前に再度踏み込む。
 熾烈な剣戟にリチェルカーレは思わず肩をびくりと震わせるが、その目は決して2人から逸らさなかった。
(『分かった』なんて半分嘘。止めたい気持ちが半分。でも……)
 強い光を湛え、碧龍を射貫くように見据えて戦うシリウスの翡翠色の眼差しに、リチェルカーレは静かに拳を握りしめる。
「……側で見守るのが、私の役目」
 リチェルカーレは自身に言い聞かせるかのように呟いた。
 シリウスは碧龍の懐に潜り込み、脚を軸に回転し遠心力を乗せて剣を打ち込む。
 碧龍はそれをいなすと、下から上に斜めにシリウスを切り払おうとした。
 だが、シリウスも無駄なく受け流し、碧龍の重い剣撃の勢いを利用したカウンター攻撃を仕掛ける。

 古の騎士と現代の兵士のぶつかり合いは、互いに一歩も譲らぬまま最終局面を迎える。
 剣を振りかぶり一撃を放とうとする碧龍と、その振りかぶりに乗じて空いた胴を狙うシリウス。
 しかし、ここで碧龍は素早く一歩踏み込みシリウスの間合いを崩す。
 シリウスはそれを補正しようと咄嗟に後退しながら剣を振ったが……
「……勝負、あったな」
 シリウスの刃は碧龍の鎧に固められた胴部分で、碧龍の刃はシリウスの首元で、それぞれ寸止めされている。
 どちらに軍配が上がったかは、明白だった……。

 シリウスは軽く息を吐き碧龍に一礼した。
 碧龍がシリウスに礼を返すと、リチェルカーレが駆け寄ってくる。
「シリウス、怪我は?」
「大丈夫だ」
 僅かに微笑むシリウスにリチェルカーレが安堵の息を漏らしていると、碧龍が跪いた。
「数多の戦を経験してきたが、ここまで緊迫した戦いは初めてであった。神人よ、心配を掛けすまなかった」
「いいえ……あの、碧龍様」
 リチェルカーレも膝を折り、碧龍と視線を合わせる。
「私も父を亡くしてます。だけど、父はきっと天国で私たちを見守ってくれていると思います。だから、私たちも頑張らなくちゃって……。碧龍様の子供もそう思った筈です」
「……そうであろうか?」
「はい、きっと。だから安心して眠って下さい」
「おおっ……」
 リチェルカーレの言葉に男泣きする碧龍の体が光に包まれた。
「……少しは、心残りが晴れたか?」
 シリウスの問いに、碧龍は力強く頷く。
「汝のお陰だ……感謝する」
 美しい光を放ちながら天に召される碧龍の魂を見上げながら、シリウスは思った。
(無念はあっただろうが、それでも見守ってくれているのだろうか……父は、今の俺を)



依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

名前:アラノア
呼び名:アラノア
  名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド
呼び名:ガルヴァンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北織 翼
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 05月02日
出発日 05月09日 00:00
予定納品日 05月19日

参加者

会議室

  • [5]瀬谷 瑞希

    2017/05/08-00:04 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはRKのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いします。

    全力となると、色々と考えなくてはいけませんね。
    RKは防衛が中心ですのでどう攻めて行くか…。

  • [4]かのん

    2017/05/07-17:03 

    こんにちは、かのんと天藍です
    よろしくお願いします

    天藍が、やるからには本気で対応しないとなって言っていますけど、片手が少し手持ち無沙汰でしょうか?
    ……あんまり無茶しないでくださいね

  • [3]リチェルカーレ

    2017/05/06-13:31 

    リチェルカーレです。パートナーはTDのシリウス。
    皆さん、よろしくお願いします。

    スキルはあまり考えなくても大丈夫そうですね。
    戦うのは精霊さん…神人は小人さんと見守る感じになるのでしょうか。
    ええと、シリウス。がんばって。

  • [2]アラノア

    2017/05/05-20:28 

    アラノアとSSのガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

    …うーんこちらは一応近接ジョブではありますが、普段重い両手武器を扱っているので軽い片手剣は相性悪めなんですよね。
    まあ今回は勝ち負け問わない真剣勝負なので、不利な中でも全力で戦えるよう頑張りたいと思います。

  • [1]シルキア・スー

    2017/05/05-15:39 

    シルキアとクラウスです。
    よろしくお願いします。

    片手剣ならライフビショップでも相性悪くないんですよね。
    スキルは一切使えないですけど、そういう勝負じゃないようですし。


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